資料132−7号

ITER計画に対する慎重な意見への対応について

平成11年6月30日
開発戦略検討分科会

 現在、ITER計画に対して、各種著書、学会誌等において慎重な意見が示されており(参考参照)、ITER計画を推進することについて一部の専門家から疑問が投げかけられている状況にある。

 このような状況下、開発戦略検討分科会では、核融合エネルギ−の実現に向けての総合的な開発戦略の検討にあたり、これらの慎重な意見に対し、当分科会としての考え方を整理すべく検討を行っている。

 一方、我が国は、ITER計画を「第三段階核融合研究開発基本計画」(平成4年6月、原子力委員会決定)の研究開発の目標を達成するための中核装置と位置付け、核融合の実用化に向けての重要なステップとしてこれを推進していることから、このような意見に対しては、核融合会議としても何らかの対応が求められるのではないかと考えている。

 従って、当分科会としては、ITER計画に慎重な意見を示している専門家の参加を得て議論を行い、専門家の間で意見集約を行うための場を設けることについて核融合会議が検討を行うことを期待する。

 また、核融合研究開発については、国民の幅広い理解と協力の下に推進すべきものであることから、このような議論は、一般に公開し、国民に広く知って頂くことが重要と考えている。


(参考)

ITER計画に対する慎重な意見の概要

1. 技術的実現性

プラズマの振る舞いを詳細に調べる科学的基礎実験が重要であって、ITERへスケールアップすべきではない。

核融合反応によって発生するエネルギーはブランケットで回収するといわれているが、プラズマにさわれないため、プラズマの表面より二次元的にしか除熱ができない。分裂炉は3次元的に除熱できる。効率的なエネルギー回収方式を確立することが必要ではないか。

トカマク方式ではプラズマ電流をトランスの原理で流しており、そのままでは連続運転は難しいと聞いている。仮に連続運転ができないとすると、電力系統に連結する発電設備としては価値が低いのではないか。

核融合は密度・温度・閉じ込め時間が相互に絡み合っているために出力レベルの変更は難しいのではないか。

2. 材料

DT核融合炉でプラズマに面する第一壁は、DT反応で発生する14MeV中性子による強い中性子照射にさらされる。この中性子が第一壁材料に与える照射損傷に耐える核融合炉第一壁構造材料の開発の見通しはあるのか?この照射損傷による材料の劣化は大きくて1年程度しかもたない。

3. 事故・故障

プラズマに流す電流の制御不能(ディスラプション)や冷却装置の故障による炉壁破壊・溶融などの可能性があり核融合炉の安全性に懸念がある。

4. トリチウム安全

DT核融合炉プラントのトリチウムインベントリーは数kgと言われている。このうち500gのトリチウムがトリチウム水として万一流出した場合、人間に対して数十レムの放射線障害を引き起こし得る。これでは、核融合炉の安全性は核分裂炉のそれに比べて優れていると言えない。

5. 資源

核融合炉で必要となる資源のうちトリチウム増殖に使うLiや中性子増倍材として使用するBeなどは可採年数が数百年で資源的には制約があると聞いている。

仮に核融合炉に必要な資源が十分に存在し「実質的に無尽蔵なエネルギー源」だとしても、最近海水中に含まれるウラン(海水中のウラン溶存量は約46億トン)の回収技術が進歩したと聞いている。そうすると、もはや「無尽蔵のエネルギー源」は核融合炉だけのキャッチフレーズではないのではないか。

6. 放射性廃棄物

核融合炉では、14MeV中性子照射にさらされた構造物に大量の誘導放射能が発生する。この構造物は使用後には放射性廃棄物となりその量は分裂炉をはるかに上回る。これでは核融合はクリーンエネルギーとは言えない。ITERで発生する放射化廃棄物の量は数万トンにもおよび、厳重な管理を必要とするでのはないか。

7. 核融合のメリットと経済性

核融合炉にもLiやBeの資源制約があり、また大量の放射化物を発生する。無尽蔵でクリーンという核融合炉開発のキャッチフレーズはもう通用しないのではないか?その場合、核融合炉を特別視することはできなくなり、他のエネルギー源との比較は経済性見通しとならないか?そうだとすると、経済性の見通しが得られてない段階で、ITERをプロジェクト化して大量の資金投入をする必要はない

8. 開発期間

いまから約25年ぐらい前には「あと25年かかる」ときいた。最近では、50年、100年ときいている。30年経ったのだから、少しは短くなるべきなのに逆に長くなっている。これでは、21世紀半ばに核融合炉を実現するといわれても信用するのは難しい。

以上