資料第132−2号

核融合開発に関する欧州調査結果概要

平成11年6月30日
欧州調査団長 宮 健三

1.日程、訪問先

 1月31日から2月11日の期間、欧州委員会、独、仏、英及び伊各国の行政機関、研究機関、民間企業等を訪問。
(別紙1:調査団の構成、別紙2:日程、訪問先)

2.欧州における一般的考え方

現時点においてITER低コスト・オプション(RCO)の設計の詳細は明らかになっていないが、その建設は進めていくべきものと認識。

ITERを欧州域内に建設することについては、資金負担の問題、原子力を巡る複雑な状況等を総合的に勘案すると難かしい状況。但し、イタリア等低開発地域の振興、産業基盤整備の問題と絡めてITERの自国内の建設について検討を進めている国もある等欧州としてはITERの域内建設の可能性を残している。

かかる状況下、欧州としては日本がイニシャチブを発揮しITERを日本国内に建設することを期待。この場合、欧州の資金的貢献には限界があり、日本に相当程度の資金的貢献を期待。一方、ITERの日本における建設については、情報入手や文化・生活面の違い等を懸念。

今後、ITERの建設に向け、その要件の明確化等について関係極間における国際協議を進めていく必要がある。なお、欧州が建設に関する国際約束への調印が可能となるのは2003年から開始される第6次フレ−ムワ−ク・プログラム(FP6)の承認後。

欧州産業界は、欧州域内にITERが建設されることを希望。また、ITER建設にむけた体制整備等について、関係極の産業界の間において意見交換を進めたい意向。

3.各国等における考え方

(1)欧州委員会

 基本的にITERの建設に前向きであるが、資金的な問題もあり欧州域内における建設の可能性は低いと認識しており、日本のイニシャチブを期待。

RCOは技術的にはベストに近いものと認識。これを建設に移すには、研究者の間における合意形成及び資金的な問題の解決が課題であるが、後者がメイン・イシュ−。

ITERの建設については、日本がイニシャチブを発揮し国内に建設することを期待しており、この場合、日本に相当程度の資金的貢献を期待。しかし、ITERを日本に建設する場合、文化・生活面の違い、科学技術国際協力において主導的役割を果たした経験の少なさ等を懸念。

欧州域内の建設については、構造改革資金の活用を検討している伊、原子力利用の経験の積み重ねのある仏等に可能性が無いわけではない。しかし、この場合、欧州には原子力利用に懐疑的な国もあり、高いレベルでの資金的貢献は不可能。

今後、ITERの建設に向け、本年3月のITER理事会で関係極による協議体を立ち上げるのは有益。なお、欧州が建設に関する国際約束への調印が可能となるのは2003年から開始されるFP6の承認後。

(2)独

 原子力利用について懐疑的な新政権下、ITER計画を含む核融合開発については推進していきたいと考えているが、大きな政策判断は難かしい状況であり、独におけるITER建設は不可能。

昨年の新政権発足以降種々の分野で政府としてのポジションが決まっていない状態が続いており、核融合開発もそのうちの一つ。

今後の独における核融合開発の行方については、原子力全体の動向とリンクする可能性がある。

ITERの建設場所については、総コストや資金分担の面も含め、日欧の提案を十分比較検討する必要があるが、独における建設の可能性はない。

今後、ITERの建設に向け、本年3月のITER理事会で関係極による協議体を立ち上げるのは有益。

(3)仏

 財政的制約や原子力を巡る複雑な状況(独等の原子力政策の影響や仏内における核分裂推進派との綱引き等)もあり、仏におけるITER建設は現状では困難であり、日本のイニシャチブを期待。また、RCOの技術面に若干の懸念。

RCOについては、これまでプラズマ物理のデ−タの蓄積が十分とは言えず、当初目標の達成に不安がある等技術面で確信を持っている訳ではない。

日本においてITERを建設するのであれば支持し、資金面及び技術面で協力する考え。この場合、情報入手や文化・生活面の違い等を懸念。

欧州域内においてITERを建設するためには、RCOの一層のコスト低減が必要であるが、この場合でも技術面における関係者の理解や欧州における原子力を巡る複雑な状況等建設に必要な環境が十分整っているとは言えない。

仏内における建設の可能性については、カダラッシュが考えられなくもないが、この場合、仏からの追加的貢献はない。

(4)英

 独特のエネルギ−事情もあり、核融合エネルギ−の実現についての切迫感がなく、産業界のITERに関する関心も相対的に低い。なお、英にITERを建設しないことについては、政府として決定済み。

英においては、1970年代までは核融合を将来のエネルギ−源として、その開発に積極的に取り組んできたが、厳しい財政事情や北海油田の開発等もあり、その後熱は徐々に冷めつつある。

英政府はITERの自国内建設を行わないことを既に決定。また、産業界のITERに関する関心も相対的に低い。

ITERを建設するのであれば、設計が最適化されコストの最小化が図られたものとすべきであり、この場合は英としても支持。

(5)伊

 原子力分野における経験は相対的に乏しいが、ITERを自国内に建設した際にEUからの交付が期待される構造改革資金を活用して低開発地域の振興、産業基盤整備等を図りたい考え。

伊政府内においては、構造改革資金を活用してITERを自国内において建設したいという従来の考え方については、基本的に変わっていない。なお、スペインやポルトガルも同様の考えを持っていると承知。

ITERを日本に建設することについては、情報入手や文化・生活面の違い等を懸念。

4.所感

我が国と若干の温度差があるものの、欧州はITER建設について基本的に前向き。

しかしながら、欧州域内の建設については種々の事情によりためらいがあり、我が国がイニシャチブを発揮し日本国内に建設することを期待。

我が国としてもITER建設の必要性についての認識は欧州と共有しており、今後関係極においてITERの建設に向けて積極的に意見交換・協議を進めていく必要がある。

また、核融合開発を進めるにあたって、各極とも資金的制約に直面している状況にある。したがって核融合開発を効率的に推進し、核融合エネルギ−の実用化を早期に実現するためには、21世紀に向けた核融合開発は構造化されていることが重要と認識する。
 ITER計画を基軸にし、その補完装置、炉工学技術、炉心プラズマ技術やそれらを全て包括する理論研究などを対象にして、一定の役割分担のもと密接な国際共同事業を構築することが強く望まれている。


(別紙1)

調査団の構成

 宮  健三(団長) 東京大学教授
           核融合会議委員
           ITER計画懇談会委員

 浜田 泰司     核融合科学研究所
           大型ヘリカル研究部教授

 鈴木 裕道     科学技術庁
           原子力局核融合開発室補佐

 関  昌弘     日本原子力研究所
           那珂研究所ITER開発室研究主幹

 宮  直之     日本原子力研究所
           那珂研究所主任研究員

 佐々木 崇     三菱核融合開発室
           技術部プロジェクトマネ-ジャ-

(別紙2)

訪問先一覧
ベルギ−(2/1)
 欧州委員会
  フィンチ EU第12総局核融合プログラム部長
  カノビオ EU第12総局顧問

仏(2/2,3)
 原子力庁
  ペラ  原子力最高顧問
  ワトー 原子力最高顧問付き科学アドバイザー
  リネ  国際局東アジア担当官

 国民教育研究技術省
  ジャック エネルギー・輸送・環境・資源課長

 カダラッシュ原子力研究所
  パメラ  制御核融合部長

 フラマトム
  バレー  副社長
  レコンテ 研究開発部門
       先端原子力研究マネージャー
  レバデゼ 研究開発部門
       技術開発戦略マネージャー

英(2/4,5)
 貿易産業省
  ハインズ  ロンドン大学インペリアルカレッジ物理学科 教授
  ドレーパー 原子力局産業第2局部長

   カラム研究所,JET
  ロビンソン   カラム研究所所長
  カイルハッカー JET共同事業体所長

伊(2/8)
 大学科学技術研究省
  フォンティ  研究開発活動強化局第6部長,
         ITER計画委員会委員

   商工省新技術エネルギ−開発公団
 フラスカチ国立研究所
  アンドレア二 フラスカチ国立研究所所長

独(2/9,10)
 教育研究技術省
  シュンク 部長
  ランドル 核融合課長

   マックス・プランク・プラズマ物理研究所
  ピンカウ    研究所長
  ブラッドショウ 次期研究所長
  エマール    ITER所長

          シ−メンス
  ケーラー 事業部長
  ログラー 部長
  ボグシェ マネージャー

別紙3

欧州における核融合開発及び原子力開発について

1.EUの核融合開発について

− 核融合開発政策
 EUの核融合エネルギー開発は、第5次研究開発フレームワーク計画(FP5)(1998-2002年)の方針に従って進められる。

<FP5における開発活動>

核融合研究開発は、欧州原子力共同体(EURATOM)のもと各国と調整しつつ推進される。
− 核融合政策の決定プロセス
EUの核融合計画は、EUの外部諮問委員会である核融合研究評価委員会(FusionEvaluationBoard)や常設の核融合計画調整委員会(CCFP)(CCE−FUに改組)の審議を経て研究相理事会において決定される。

− 原子力及び核融合開発予算
FP5(1998-2002年)にて
EURATOM予算        1260MECU(約1638億円)
                (1ECU=約130円)
JRC(EU直営の研究所予算)  281MECU
                (約365億円)

うち核融合予算は、FP5(1998-2002年)にて、EURATOM予算1260ECUの中、788MECU(約1024億円)

<1996年の予算内訳の状況(核融合研究(EU+各国)総額498MECU)>

2.各国の原子力政策を巡る状況について

〇ドイツ
 将来においても安定し、環境に優しく、かつ経済的なエネルギー供給を保障することとし、再生可能エネルギー及び省エネルギーを優先。原子力については、一次消費のエネルギーの12%を占めているが、昨年の社会民主党と緑の党の連立政権により、原子力発電所の全廃等脱原子力を指向。

〇フランス
 日本と同様小資源国であり、第一次石油危機を契機として省エネルギー、代替エネルギーの開発に重点おいている。原子力についてはエネルギー政策の根幹として精力的に推進しており、1995年において発電電力量の76%を占めている。

〇イギリス
 欧州域内で最も高いエネルギー自給率を誇り、海外にも輸出。エネルギー供給については、民間において各種エネルギー間での競争原理を導入。原子力については1996年の総電力発電量のうち、27%を占めるが、現政権は現在経済性を理由に新規原子力を当面認可しないとの意向を示している。

〇イタリア
EU域内諸国の中で最もエネルギー自給率が低く、エネルギーのほとんどを輸入に依存。原子力は、1987年の国民投票に於いて、原子力発電を否定する決議がなされ、1990年以降原子力による発電は行われておらず、火力発電が80%以上を占める。