国際熱核融合実験炉(ITER)の推進について

平成10年11月25日
核融合会議

 

 我が国は、人類の恒久的なエネルギ-源の確保を目指し、「第三段階核融合研究開発基本計画」(平成4年6月、原子力委員会決定)(以下「基本計画」)に基づき、核融合の研究開発を推進しているところである。「基本計画」においては、第三段階における研究開発の目標を達成するための中核装置として、トカマク型実験炉(以下「実験炉」)を開発するとされており、我が国は、国際熱核融合実験炉(ITER)を「実験炉」として位置付け、その工学設計活動を日本、米国、EU及びロシアの4極の協力により進めてきたところである。
 今般、米国議会の状況から、米国の来年7月以降のITER工学設計活動への参加が困難となったことを踏まえ、我が国として今後ITER計画にどう取り組んでいくのかについて検討を行った。
 その結果は以下のとおりである。

1.「基本計画」を見直す必要性
 今般の米国のITER計画に関する政策変更は、核融合エネルギ-に係る研究開発の意義やトカマク方式の否定によるものではなく、これまでのトカマク方式への集中の是正、米国のエネルギ-事情等米国固有の事情によるものと考えられること、また、トカマク方式について米国が提示している目標を分割した複数装置による開発路線は、より多くのコストと長い時間を要するものであり、現状では十分な説得力を有していないと判断されること等から、我が国としては「基本計画」を見直す必要がないことを確認した。

2.ITERの「実験炉」としての位置付け
 ITERの設計については、これまで6年間の工学設計活動により得られた物理・工学の進展を基礎とした新たな技術ガイドラインが示されているところである。同ガイドラインに沿って建設コストが低減される装置については、「基本計画」の研究開発の目標を達成し、第四段階以降の研究開発に十分な見通しを得ていく上で中核を担うべきものとなり得ることから、「実験炉」と位置付けることが適当であることを確認した。

3.今後のITER工学設計活動に対する米国撤退の影響
 今後のITER工学設計活動については、米国が撤退し、日本、EU及びロシアの3極により実施した場合でも継続・完了は可能であり、その目的は達成できると判断した。その理由は以下のとおりである。
①これまで6年間の工学設計活動の成果は自由に入手できる。
②これまで米国が果たしてきた技術的な役割については、3極による補完が基本的に可能である。また、大量トリチウム工学技術については、米国を含めた諸外国との技術協力や我が国における技術開発による対応が可能である。
③3極による工学設計活動の実施計画は、1極あたりの負担を増やすものではなく、必要な資源の提供・確保が可能である。

4.ITER計画に対する我が国の取り組み
 ITER計画については、国を挙げて推進すべき我が国の核融合研究開発における最も重要なプロジェクトとしての意義に変わりがなく、かつ、日本、EU及びロシアの3極により工学設計活動を継続・完了することが可能であり、「基本計画」の目的を達成していくための有効な手段と判断されることから、我が国として引き続き同計画を積極的に推進していくべきことを確認した。併せて、今後ITER計画については、以下の事項を十分認識しつつ推進していくことが重要であることも確認した。
 今後、建設段階への見通しを確実に得ていくため、関係極間において、コスト分担、協力の法的枠組み、建設・運営主体のあり方等建設に向けての要件を明らかにしていくことが必要であり、このためこれらについて我が国としての考え方を早急に取りまとめる必要がある。
 また、今般の米国撤退が示すように、ITER計画には、国際協力プロジェクトという性格上、各極における突然の政策変更や予算の削減等潜在的な問題が存在していることを常に認識し、EU、ロシア等関係極との間において意志疎通の緊密化を図る必要がある。またITER計画を着実に推進するにあたっては、国内の幅広い協力体制を構築していくとともに、同計画の効率化・活性化を図り、その魅力を一層高めていくため、プロジェクト評価の一層の厳正化を図る等事業運営についても十分配慮する必要がある。
 さらにITERをその後の段階である原型炉に確実につなげていくにあたり、長期の開発期間を要する低放射化材料の開発、超伝導コイルの高性能化のための研究開発、トカマク型装置及びトカマク型以外の装置による炉心プラズマ技術の研究開発等についてもITER計画と並行して積極的に推進し、原型炉の開発に必要となる広範な技術基盤を形成していく必要がある。

 以上が日本、EU及びロシアの3極によりITER工学設計活動を進めるか否かについての当会議の結論である。今後、当会議としては、「基本計画」の目標を達成していくため工学設計活動の進捗についての状況を十分把握し、適切に対応していくとともに、その後の建設に向けて明らかにすべき要件について適時的確に検討を行っていくこととする。