資料第130―8号

メガサイエンスプロジェクトにおける運営について

平成10年11月13日
核融合開発室

 

 国際協力プロジェクトとしての事業運営のあり方の検討に資するため、OECDメガサイエンスフォーラムにおける報告書(1995年)及び宇宙ステーション、LHCという2つのメガサイエンスの先行事例について紹介する。

1.OECD報告書「メガサイエンス政策の課題」における主な指摘

○予測プロセスの必要性
 成功するメガサイエンスプロジェクトは、明確な研究予測作業が行われたプロジェクトであることは明らかである。併せて、プロジェクトの範囲、規模、用地の明確な定義や、代替策・困難の可能性の特定なくしては、プロジェクトの進展は困難となり、決して最大限の成果を得ることはできない。

○主導者(チャンピオン)の役割
 メガサイエンス・プロジェクトの成功は、能力、決意、説得力を併せ持ち、必要な資源と十分な時間の確保、あらゆる障害の克服を成し遂げる、一人の人物に多くを、時には全てを負うところが多い。
 こうした主導者は、個人としての名声、外交能力、個人・職業での人間関係が決定的な役割を果たす状況で、政府との対応に大きな役割を果たす。

○リ−ダ−シップ
 世界的なリ−ダ−シップと、メガサイエンスプロジェクトにおける公正なパ−トナシップによる参加とは相容れないものである。メガサイエンスプロジェクトの協力は、重要決定が既に下されてからではなく、初期の計画段階から開始されるべきである。

○パ−トナ−の決定プロセス
 費用分担だけでは無く、様々な技術的、資金的、地理的、政治的問題に関する決定プロセスが必要。

○実施・管理体制
 メガサイエンスプロジェクトには、大規模な人的・技術的資源の動員が必要であり、そのため、適切な組織機構の創出が必要になる。組織体制が適切でないことが、資金の不足や得心のいかない政治的反対と同様に失敗の原因となる。そのため、新しい国際メガサイエンスプロジェクトには、特に適切な組織機構について、入念な計画が必要である。
 特定機器を単独地域に置く世界唯一のITER計画のためには、組織構造についてまったく新しいアプロ−チが必要となろう。

○実施組織と監督組織の連携
 長期にわたって十分なプロジェクトの管理を行う重要な条件は、プロジェクトを実施する責任を負うチ−ムと監督の責任を負う組織との間の密接な連携の確立である。
 もし、こうした結びつきが無い場合、又は調整が弱体過ぎる場合には、機器の部品の製造に遅れが出るばかりでなく、コストが増加し、プロジェクトの計画と技術的に具体化されたものが違ったものになる危険がある。

○意思決定のシステム
 意思決定システムは、プロジェクトの形態を決定し、できるだけ広範で、できるだけ内容のあるコンセンサスの出現を論理的に推進する調整的な役割を果たす。その主な要素は、提案について検討する方法、関与する委員会及びフォロ−アップに適用される規則である。

○国家計画との整合性
 メガプロジェクトは、施設の建設、閉鎖、改造を含む国家的な長期計画に適合したものでなければならない。

○自国のプロジェクトとの関係
 国際協力を優先させる選択をした場合、特定のグル−プや機関が、便宜主義的な理由で、自国のプロジェクトを優先させようとするような内向きの傾向については、これを阻むことが大切である。

○バランスのとれた計画と継続性
 メガサイエンスプロジェクトの評価にとっては、そのプロジェクトの発展の態様、そして特に、もっと後の段階で必要となる投資についての精確な評価を行うことが必要である。

○技術の現状及び産業との連携
 メガサイエンスプロジェクトを十分に進展させようとするのであれば、複雑な技術を、それに伴うリスクとともに利用する必要があろう。このリスクを減少させるためには、採用される解決策の信頼性をテストするフルスケ−ルの予備的試験を行うことが重要である。
 長期的な経済的波及効果も政府の重要な関心事であるから、予備的な段階によって、産業が取得することになる知識及び経験に関する産業の意見を政府が聞き、これによって、そのプロジェクトに対する政府の見解をはっきりさせることが可能となる。

○コストと予算の制約
 経験によれば、ほとんどのメガサイエンスプロジェクトは当初の予算計画を超過している。理由は、機器の新規性とプロジェクト推進者の天性の楽観主義。支出が厳格に管理されるという保証があることが、不可欠な条件である。このため、プロジェクトとその費用を監視する任務を帯びた特別機関を設置することが必要である。

○国際協議の成功にとっての障害
 大型国際プロジェクトの協議、交渉、合意の成功にとっての障害は、作業と責任の分担における協力に経験がなく、過剰な負担を負い、進んでこれにあたる意志が弱いパ−トナ−の政治的立場から生じている。

2.メガサイエンスプロジェクトの先行事例

(1)宇宙ステ−ション計画

○プロジェクト概要

 国際宇宙基地(以後、宇宙基地)の詳細設計、開発、運用及び利用を行う。
 総開発費約4兆円(ロシア分を除く)、大部分を米国が負担。
 日本負担分は約3千億円。2004年に運用開始。

○参加国等

 参加主体は、カナダ政府、欧州諸国政府(欧州宇宙機関加盟国の11ヶ国)、日本国政府、ロシア政府、アメリカ合衆国政府。
 参加主体は、宇宙基地協力の実施について責任を有する協力機関を指定可能(我が国は科学技術庁を指定しており、適宜宇宙開発事業団の援助を得ることができる)。

○協力の枠組み

 参加主体は、協力関係の性格、宇宙基地の計画及び目的実現を達成するための仕組み及び措置について規定した協定(我が国の場合は国会における承認が必要)に基づいて協力活動を実施(ロシアは未承認)。

○資金

 参加主体は、協定に基づいて各々の責任を果たすための経費を自己の予算手続き及び利用可能な予算に従って負担する。

○プロジェクトの運営

 参加主体は、運営組織(各種委員会)を設立し、宇宙基地の設計、開発、安全で効率的な運用、利用に影響を与える活動について、計画・調整を図る。

(主な運営組織)
 多数者間計画調整委員会(MPCC)−設計・開発に関する最高意志決定会合
                   行政レベル、年に1回程度
 多数者間調整委員会(MCB)−利用・運用に関する最高意志決定会合
                行政レベル、数年に1回程度
 全体的な運営及び調整に関する事項は、アメリカが指導的役割を発揮するとともに、その実施に責任を有する。

○具体的な活動内容

(要素の詳細設計・開発について)
 参加主体は、協定に規定されている自己が提供すべき要素を設計・開発する。
各々の要素の設計・開発に関する問題の解決については、参加主体間で調整。

(利用について)
 参加主体は、利用要素、基盤要素を提供することにより、提供した分担に応じた利用権を得ることになる。また、宇宙基地における資源の配分や搭乗員作業時間の配分についても、分担に応じた配分となる。

(運用について)
 参加主体は、自己が提供する要素を運用する責任を有するとともに、自己が提供する要素の機能上の性能を維持する責任を有する(経費負担を含む)。ただし、宇宙基地を全体として運用するための共通経費及び活動については、均等に分担する。

○我が国の評価体制

 宇宙開発委員会の下に、国際宇宙ステーション計画に係る日本のすべての活動を評価し、政策決定プロセス、研究開発活動、計画をより効果的にするための方策を検討するための評価組織を近く設置する予定。

2)大型陽子・陽子衝突型加速器(LHC)

○目的、プロジェクト概要

 LHC(LargeHadronCollider:大型陽子・陽子衝突型加速器)は、周長 27kmにわたる超伝導電磁石を配置した円形加速器であり、未知の粒子を発見し、物質の究極の内部構造を探索することを目的としている。2005年稼動予定。
総プロジェクト費約3700億円。

○参加国、実施機関等

 実施機関は、欧州原子核研究機関(CERN)。
 参加国は、CERN加盟国(欧州19カ国)、日本、米国、カナダ、ロシア等

○協力の枠組み(CERN加盟国以外)

 日本は、高エネ研とCERN間で覚書を締結し、1995年にオブザ−バ−資格を取得。最終的に建設費として150億円を負担の予定。
 米国、カナダ、ロシア等はCERNとの間で協力協定を締結。米国の負担は約5億ドル。

○資金分担

 CERNの予算及び非メンバー国とCERNの主要加盟国からの特別な貢献で建設及び運転。

○計画の運営