資料第129-7号

IAEA主催第17回核融合エネルギー会議の開催結果

(10月24日 プレス発表資料)

平成10年10月29日
核融合エネルギー会議事務局

トカマク実験
今回の会議においては、プラズマ閉じ込め性能の向上、先進トカマク研究、ダイバータ最適化、および球状トカマク研究において大きな進歩があった。

トカマク以外の磁気閉じ込め装置の実験
世界最大のステラレータの一つであるLHD(日)が1998年3月に実験を開始し、中性粒子加熱プラズマにおいてエネルギー閉じ込め時間0.17秒を達成した。この閉じ込め時間は、これまでのヘリカルスケーリング則の1.5 倍であり、ステラレータにより明るい見通しを与えるものである。もう一つの大型スレラレータであるベンデルスタイン7-X(独)は建設が進んでいる。

慣性核融合
高速点火に関する研究及び高繰り返しレーザーの開発が進展し、この結果、慣性核融合の展望が開けつつある。米国の国立点火実験施設(NIF)の建設は順調に進展しており、レーザー出力1 MJによりエネルギー増倍率10が達成される見通しが強まりつつある。また、Zピンチで6ナノ秒の間2MJのX線を得ることに成功し、慣性核融合研究に重要なホールラム物理とターゲットの燃焼研究をZピンチを利用して経済的に進める可能性がでてきた。

炉工学とITER
現在の物理データベース及びその外挿によれば、ITERは目標である自己点火と長時間運転を実現できると結論している。ITERの工学設計については、全系統の設計が完成した。また、安全評価の結果、ITERの高い安全性が示された。工学R&Dでは、超伝導コイル、170GHzジャイロトロン、実物大の真空容器セクタなどの要素機器の開発が順調に進展し、設計の妥当性が確証され、ITER実現の技術的見通しが得られた。

理論関連
理論、シミュレーション研究で、熱核融合プラズマの物理の理解が大幅に進歩した。特に、最新の大規模シミュレーション手法は、実験と理論にとって新しい強力な道具であり、現代計算機技術の画期的な進歩により、核融合研究の物理機構の解明と新発見に寄与することが期待される。

 

 

ー英文ー
Topics of the 17th IAEA Fusion Energy Conference

Tokamak Experiments
In this conference, significant progress was reported regarding tokamak performance, advanced tokamak research, divertor optimization and the spherical tokamak program. A fusion power production of 16.1MW was demonstrated in JET with QDT=0.9 which approaches the break-even condition with actual DT fuel. The highest equivalent QDT of 1.25 was reported from JT-60U. Advanced tokamak experiments were reported in many tokamaks showing good progress towards steady-state operation of tokamaks. Improved power and particle controls were reported from JT-60, JET, DIII-D and ASDEX-U with divertor optimization which is quite encouraging for ITER. Achievement of 40% plasma beta in the spherical tokamak START is also very encouraging. The physics understanding required for ITER has also progressed under world wide collaborative efforts.

Other Concepts
The Large Helical Device (LHD) started operation in March 1998. The energy confinement time of 0.17 sec was obtained in a neutral beam heated plasma. This value is 1.5 times larger than expected from a helical empirical scaling law in the energy confinement time, which indicates good prospect for stellarators. Another large stellarator, Wendelstein 7-X, is under construction.

Inertial Fusion
Significant progress has been made in fast ignition research of inertial fusion in Japan, EU and USA. High-repetition lasers are being developed, improving the prospect of inertial fusion. The National Ignition Facility (NIF), now under construction in USA, is expecting a fusion gain of 10 with a 1 MJ laser. The new results on Z-pinches (2 MJ X-ray yield, 6 ns pulse duration) will open new cost effective way to hohlraum physics and target burning relevant to demands of inertial fusion.

Fusion Technology and ITER
According to the present physics database and its extrapolation, it is concluded that ITER can achieve its objectives of ignition and long burn. The overall design of the ITER plant has been completed. The results of safety evaluations demonstrates a high level of safety assurance for ITER. The technology R&D results, such as superconducting magnets, 170 GHz gyrotron and fabrication of a full-scale vacuum vessel sector, demonstrates the validation of the design and technological feasibility of ITER.

Theory
Theory and simulation results from this conference give clear evidence of significant prospects in understanding the physics of thermonuclear plasmas. There is increased recognition that Advanced Scientific Computing is a powerful new tool for discovery-strongly coupled to Experiment and Theory. Plasma Science is now ready to take advantage of the exciting advances in modern computer technology that promises to accelerate scientific understanding and innovation in fusion research.

 

 

(添付資料)

IAEA主催第17回核融合エネルギー会議におけるプレス発表の概要

(核融合エネルギー会議事務局メモより)

 

1. 日 時:平成10年10月24日(土)17:20〜18:15
2. 場 所:パシフィコ横浜会議センター311号室
3. 発表者:岸本 浩(日本;原研理事)、F. Wagner(独)、W. Tang(米)、
      V. Smirnov(露)、C. Baker(米)、T. Dolan(IAEA)

4. 概要: (以下、敬称省略)
 冒頭、岸本より会議の概要を、また、トカマク装置について岸本より、非トカマク磁気閉じ込め装置に関してWagnerより、慣性核融合に関してSmirnovより、ITER工学に関してBakerより、さらに理論研究に関してTangより今回の成果について、資料(IAEA主催第17回核融合エネルギー会議の開催結果)に基づき説明をおこない、その後以下のような質疑があった。

  Q: JETがよい成果を出しているが、D-T燃料での臨界プラズマ条件達成への見通しはどうか。
  A: (岸本) JETでは、エネルギー増倍率はほぼ1、正確には0.94に達しており、殆ど臨界プラズマ条件を達成したと言ってよい。 D-D実験においては、JT-60でも等価エネルギー増倍率で1.25を達成しており、JETでもJT-60でも既に臨界プラズマ条件の達成という目標はクリアーされている。
  Q: JETでの次の目標は何になるか。
  A: (岸本) 高性能の状態を長時間維持することが目標である。JET及びJT-60では、先進トカマクシナリオに従って様々な試みを行い、この目標を達成しようとしている。
  Q: 現在のところそのそのようなハイパフォーマンスの状態を維持できた時間は短いということか。
  A: (岸本) 数秒である。JETもJT-60も常伝導コイルを用いているので、装置運転上の制約から10秒を大きく超えることは難しい。
  Q: ITERからの米国の撤退について、この会議の直前に新聞報道があったが、これについて、特に米国のBaker氏にコメントをお願いしたい。
  A: (Baker) 自分は米国政府を代表して見解を述べる立場にないので、私個人の理解として答えたい。
米国はITERから完全に撤退したわけではないと理解している。例えば、日本で行われる超伝導コイルの試験等のR&Dには継続して参加していくことになる。ただし、米国議会は、残念ながら、次期会計年度においてITERの予算を削減したため、ITERの設計に関する協力は継続できない。
 また、純粋に個人的な意見であるが、私自身や、ITERに参加している米国人はこの状況を残念に思っている。
  Q: サンディエゴの共同作業場(JWS)が閉鎖になると、個人的な研究活動にも影響が有るのではないか。
  A: (Baker) 私はカリフォルニア大学サンディエゴ校の人間であり、JCTのメンバーではない。サンディエゴJWSの将来については米国政府は正式にはまだ決定していないと認識している。おそらく、JWSの米国人は自分の職に戻り、他国のメンバーは日本とドイツのJWSに移動することになると考えている。
  Q: 慣性、ヘリカルの関係者は、トカマクの研究開発であるITERのこのような状況について、トカマクの予算が減りその分自分たちの研究が予算を拡大するチャンスと考えているのか、或いは、核融合全体にとって望ましくない状況と考えているのか。
  A: (Wagner) (非トカマク磁気閉じ込め装置、特にヘリカル装置を代表して) ITERの研究の進展は我々にとっても望ましいことである。全ての核融合研究は一体となって進めるべきものであり、その中でトカマク、ヘリカル装置それぞれの役割もある。トカマクの役割の一つは燃焼するプラズマの現象を解明することにあり、ヘリカル装置では現在のところまだそこまではできない。トカマク研究で得られた知識の殆どはヘリカル装置研究にも応用し、生かすことができる。今回の米国の決定で熱核融合研究が全部がストップしてまったら、春に種を蒔いて作物を育て、ようやく秋の収穫の時期を迎ようというところで埋めてしまうようなものである。米国以外の国は、この協力関係に留まることが必要であり、また、米国が将来この協力に戻れるようにドアを空けておくべきである。
(Smirnov) (慣性核融合を代表して) 慣性核融合の研究者にとって、今回の動きは一見チャンスであるかのように見えるが、そのように考えるのは大きな間違いである。エネルギーに開発に対し核融合というアプローチで進もうとしている我々にとって、今回の米国の決定は大きな痛手である。全ての核融合研究に共通するプラズマ物理研究における成果を基礎として、核融合全体が協力して研究を推し進めていくべきである。そうすることによって慣性核融合研究も一緒に成功を収めることができると考えられる。
  Q: 同様に米国のITERからの撤退について理論のTang氏からもコメントをお願いしたい。
  A: (Tang) (理論研究を代表して) Baker氏の指摘したとおり、ITERの活動は原型炉の開発に向けて最も慎重に研究が進められている。これからもこの協力を推し進めて行くべきである。我々には政治的な動きはどうすることもできないが、将来米国がまた参加できるよう、協力が継続して進められることを望んでいる。