資料第127―5号

ITER最終設計報告書に関する国内評価

平成10年4月24日
核 融 合 会 議
ITER/EDA技術部会

1. はじめに
1.1 これまでの審議経過
1992年7月より核融合炉の科学的・工学的実証を目指して、日本、米国、欧州連合及びロシアの四極によって国際熱核融合実験炉(ITER)の工学設計活動(EDA)が進められている。当技術部会では、中間設計報告書の国内評価に引き続き、1996年12月にITER所長より提出された詳細設計報告書に関する技術評価も実施した。評価に際しては、ITERの技術目標の実現を前提としたときの、設計全体の整合性や、安全性確保に必要な設計上の配慮、最新の知見の設計・解析への反映状況、ならびに建設・運転段階における柔軟性への配慮等に特段の注意を払った。その結果、詳細設計報告書は概ね妥当との判断を下したところである。詳細設計報告書は、その後、各極の評価結果を踏まえ、1997年7月に開催された第12回理事会において受理されている。
   このたび第13回ITER理事会において、ITER所長より最終設計報告書案が提出され、各極のレビューに供された。当技術部会は、当該報告書案が6年間のITER/EDAの集大成となることを踏まえて、以下に示す評価結果を取りまとめた。

1.2 検討の視点
  ITER最終設計報告書案の評価を行うにあたり、これまでの経緯等を考慮して、
1)詳細設計報告書から進展があった部分
2) 詳細設計報告書の評価の際に、我が国が指摘した事項
の2点に焦点を絞った。さらに、今後の活動において明確にすべき項目についても検討した。

 なお、当技術部会は、現在のITER/EDAが立地国、立地地点を特定しない基本設計を提示するものであり、実際の建設に際しては、立地国(あるいは立地地点)に対応して措置すべき設計上の項目が存在することを認識している。なかでも、運転領域の拡張可能性や安全性に関する事項は、基本的には実際の製作(建設)開始、あるいは、安全審査の時点までに設定されることであり、本国内評価では言及しない。

2. 評価
2.1 総合評価
 当技術部会は、提出された最終設計報告書案は、現時点におけるITER/EDAの最終成果として適切なものであると判断する。なお、今後のITER/EDA延長期間以降にさらなる明確化が期待される検討項目については、後に指摘している。
 この最終設計報告案は、ITER所長をリーダーとするITER共同中央チームならびにホームチーム構成員の昼夜を分かたぬ作業を通して得られた偉大な成果である。また、物理専門家グループは、物理R&Dを積極的に推進し炉心プラズマ設計の基礎となるプラズマ物理データベースの充実に大きく貢献した。当技術部会はこれらの成果を挙げるために払われた多大の努力に敬意を表する次第である。

2.2 設計の進展に関する評価
 当技術部会は、最終設計報告書において、以下に示す設計の進展が得られたことを高く評価するものである。

物理分野
・エネルギー閉じ込め時間の予測やダイバータープラズマ物理等について、物理R&Dの顕著な進展によりデータベースが格段に充実し、性能予測の確度が著しく向上した。
・核融合出力の、プラズマ閉じ込め改善率の指標であるHファクター、密度限界の指標であるグリーンワルド規格化密度、及び磁場利用効率の指標である規格化ベータ値に対する依存性を示し、運転パラメーター領域ならびに裕度を明らかにした。
・アルファ粒子物理、および関連する高エネルギー粒子の挙動に関する実験的、ならびに理論検討が進展した。
・既存の実験装置によるダイバータープラズマ物理が進展し、放射冷却によるターゲット板への熱負荷の低減と、高効率ヘリウム排気が実現されつつある。ITERのダイバーター設計は、これらの実験結果に照らし合わせて構築された妥当なモデルによりサポートされている。
・ロックドモードに起因するディスラプションを抑制するため、プラズマ回転分布制御の手段として、実績の豊富な中性粒子入射(Neutral Beam Injection)が適用された。また、物理R&Dによるデータベースが拡充し、ディスラプションによるハロー電流の強度と空間分布予測の精度が向上した。
・磁気計測について、計測機器とプラズマ制御系との統合のとれた設計が進展した。 ・プラズマ停止の具体的シナリオが示された。
・リップル損失の許容範囲が明確にされ、この範囲内に損失を押さえるため磁性体の使用によるリップルの低減が図られた。更に磁性体によるプラズマ運転への影響が評価された。
・ 運転制御及びプラズマ性能確保のために計測に対する要求項目が示された。

炉工学分野
・安全確保の上で重要な機器である真空容器のみならず、交換機器である炉内機器について、規格、基準の準備が進められ、支援技術文書である構造設計基準書としてまとめられた。
・真空容器ポート部及びポート周辺部の設計について、異なるポート内の各機器を考慮しつつ、遮へい構造の一体化と機器取り合いの統一化が図られ、保守性の向上が図られた。また、真空容器を含む炉内機器の構造設計について、全体の一周抵抗を下げることなく真空容器の構造強度を増加するなど、設計の進捗が認められる。
・ブランケット後壁の設計について、想定される各種ディスラプション条件においてもそれらの電磁力に耐え得る構造とされ、また、増殖ブランケットについて、内部の構造が決定され、設計検討が進められた。さらに、補修頻度の高いリミタ・モジュールについて、水平ポートに取り付けるように設計変更され、プラズマ制御を容易にするとともに保守性の向上が図られた。
・ダイバーターカセットなどの主要部分について、3次元解析を実施して要求性能を満たす遮蔽設計がなされた。また、各種ディスラプション条件における電磁力解析を進め、受熱機器構造を簡素化するなど保守性の向上が図られるとともに柔軟性のある設計とされた。
・トロイダル磁場コイルの形状がダブルパンケーキ型に設計変更されるとともに、ポロイダル磁場コイルも形状及び材質の検討が進められるなど、より実現性の高い設計となった。
・中心ソレノイドコイルについて、バッキング方式による支持構造が採用されていることと、現状の非円形度の範囲を維持することから、分割を行わない設計とされた。
・支援技術文書であるプラントシステム統合設計書の整備が進められた。

安全性分野
・ITERの安全性及び環境面の特性について、最終設計報告書案の技術文書及びその支援技術文書である「非サイト依存安全性検討書(Non-site Specific Safety Report 2: NSSR-2)」において詳細かつ包括的な解析に基づく評価がなされ、検討が深められた。
・事象シーケンスの定量的解析の対象とした代表的異常事象は、多数の考えられる異常の系統的検討に基づき、包絡性を確保するよう選定されている。
・解析のための放射性物質ソースタームを含むデータベースについて、最近のR&Dの成果が採り入れられている。また、従事者安全及び廃棄物特性についても、広範な解析が実施されている。
・ITERの最終設計に係る安全性評価について、基本性能段階を中心とするものの、全運転期間から解体期間にわたる評価が包含されている。

2.3 ITER/EDA延長期間以降における検討項目
今後のITER/EDA延長期間以降において、以下に示す項目が明確になることを期待する。

物理分野
・大型装置におけるグリーンワルド限界密度付近での良好な閉じ込め性能を有するELM (Edge Localized Mode)を伴うHモード(ELMy Hモード)について、更なる物理データベースを充実し、燃料供給法を含めて、高密度、ELMy Hモードの長時間運転の物理R&Dを行い、その結果を用いた運転シナリオが確立されること。
・放射冷却の長時間運転の見通しを得ることを望む。すなわち、ダイバーター領域において、中性粒子の主プラズマへの流入防止に対し、よりタイトなバッフルを有する垂直ダイバーターが提案されているが、ダイバーター部からの中性粒子の流れ出しが制御され、コアプラズマの良好な閉じ込めが維持できることを、実験またはシミュレーションで確認することが重要である。
・鋸歯状振動に伴う粒子束及びエネルギー束の輸送を評価し、ELMy Hモードが維持できる鋸歯状振動の許容範囲を定量的に検討することを期待する。
・同一装置におけるエネルギー閉じ込め時間のばらつきについて、その原因が壁の状態等の再現性に起因するものか、ELMの特性によるものかの解明を望む。
・高密度領域において、ITERで想定しているエネルギー閉じ込め時間を保証するデータベースはまだ十分に確立していないので、そのための一層の究明を望む。
・アルファ粒子物理はITERにおける重要な研究課題であり、トロイダル効果により引き起こされるアルヴェン固有モード(TAEモード)等のアルファ粒子加熱効率の低下をもたらす不安定性について、さらなる理論的検討を期待する。
・プラズマの燃焼制御に必要な診断システムについて、より詳細な検討と具体的な構造設計を期待する。
・ディスラプションについて、その抑制シナリオを確立するとともに逃走電子の発生原因を究明し、その抑制方法を確立するために、関連するデータベースが一層集積されることが望まれる。
・リップル低減のために採用するフェライト鋼について、既存の実験装置による実験的確証を期待する。

炉工学分野
・規格・基準に関連して、溶接部の検査法の確立が重要である。
・真空容器について、引き続きポート部及びポートの付け根やベロー等を含むポート部周辺の詳細設計を進め、その健全性を評価することを期待する。また、トロイダル磁場のリップルを低減する目的で挿入されるフェライト鋼について、電磁力等の負荷に対する影響を評価することを望む。さらに、真空容器の冷却方法について、冷却流量喪失事故(LOFA)時に期待する自然対流熱伝達が確保できるかどうかについて、解析及びR&D等により慎重にその妥当性を見極めることが重要である。
・ 炉内機器について、中性子照射効果と水環境効果のそれぞれ及び同時作用効果を考慮した設計解析を進めることを望む。また、分裂炉での中性子照射試験結果をふまえた設計や、小型試験片での試験結果の大型構造物への適用について、設計上の根拠となる考え方及び方法論を早急に確立することを望む。
・ブランケットについて、建設に向けて機械接続方式のブランケットモジュールの電気絶縁等の問題点及び組立性をより明確にすることを望む。また、プラズマ対向材料として考えられているベリリウムのトリチウムインベントリー評価を引き続き実施して、試験データの信頼性を含むインベントリー評価の精度を向上させることを期待する。
・ダイバーターについて、不純物評価のためのデータベースを構築することを期待する。すなわち、プラズマ配位の変化に伴う熱負荷(ドーム、バッフル)や、中性粒子との荷電交換によるスパッタリング、ならびに酸素不純物による揮発性ガス(酸化タングステンガス)の発生によるタングステン不純物の評価を望む。
・補正コイルの採否について、プラズマ運転手法による解決策も含め、全体設計において総合的観点から、慎重な検討と判断を期待する。
・トリチウム燃料循環系において、同位体分離系統以外のインベントリーが大きな安全上重要な系統について、トリチウムインベントリーや冷却水へのトリチウム透過量の検討を進めて更に不確定性を少なくすることを望む。また、トリチウム燃料循環系のダイナミックモデルについて、各サブシステムの制御系をも考慮した総合的なモデル開発へと進展することを期待する。
・炉内構造物の保守点検について、引き続き使用環境を考慮した遠隔操作による点検修理のシナリオの策定や、部品レベルに至る詳細な機器設計を期待する。またハンズオン作業環境での線量評価や被ばく低減対策について、検討作業の継続を期待する。
・プラントシステム統合設計書について、今後より一層の充実を図ることを期待する。特に、システム間の取り合いやプラントの運転状態について、統合的な検討が重要である。

安全性分野
・安全性評価に用いられる種々の仮定や技術的データの信頼性向上のためのR&Dをさらに進めることを期待する。
・解析コードやモデルのITERの条件への適用性を検証するためのR&Dをさらに進めることを期待する。
・設計の進展に応じ、廃棄物特性の評価をさらに進めることを期待する。

建設コスト/製作工程/建設工程
・全体コストについて、評価の範囲、特に記述されているコストに含まれないものについて、明確に示すことを望む。
・製作工程/建設工程については、R&Dの成果が明確になり、建設のための事業体が想定された時点で改めて評価する必要がある。


ITER/EDA技術部会   委員構成

【主査】井上 信幸 京都大学 エネルギー理工学研究所 所長

【委員】伊藤 智之   九州大学 炉心理工学研究センター長
    岸本 浩    日本原子力研究所 理事
    庄子 哲雄   東北大学 工学部 教授
    白石 春樹   金属材料技術研究所 極限場センター長
    関  昌弘   日本原子力研究所 ITER開発室 研究主幹
    田中 知    東京大学 工学部 教授
    苫米地 顕   (財) 電力中央研究所 研究顧問
    早瀬 喜代司  電子技術総合研究所 エネルギー基礎部 総括主任研究官
    日野 友明   北海道大学 工学部 教授
    藤原 正巳   核融合科学研究所 大型ヘリカル研究部 研究総主幹
    松田 慎三郎  日本原子力研究所 核融合工学部 部長
    宮  健三   東京大学 工学部 教授
    若谷 誠宏   京都大学 エネルギー科学研究科 教授