資料第124-2号



ITER詳細設計報告の評価について
(案)


平成9年6月25日
核融合会議




 ITERは、「定常状態を究極の目標とする重水素-三重水素プラズマの制御された点火及び長時間燃焼を実証し、統合されたシステムにおいて核融合炉に不可欠の技術を実証」(EDA協定)するための実験炉として、国際的共同設計作業が進められてきており、平成8年12月に、概要設計報告(平成6年1月)、中間設計報告(平成7年7月)に続く、同活動の三番目のマイルストーンとしてITER/EDA所長から詳細設計報告が各締約極に対して提出された。

 当会議としては、平成8年8月「国際熱核融合実験炉(ITER)と第三段階核融合研究開発基本計画上の「実験炉」について」をまとめ、ITER計画の工学設計活動及び試験研究の進捗状況についてもこれまで適宜把握してきたところである。詳細設計報告は、現段階までのITER計画の活動の集大成であり、また、今後のITER計画の成否に関する見通しを与える重要な基礎資料であることから、当会議ITER/EDA技術部会において、外部専門家の参加をも得、かつ、できる限りの資料の公開等を通して幅広い観点から技術的評価を進めてきたところ、この程、別添の通り報告があった。検討の結果、当会議としては、同技術部会からの報告書の内容は妥当なものと判断するとともに、以下の通り見解を取りまとめた。

1、工学及び物理面に関しては、詳細設計報告は、中間設計段階に比し設計全体の整合性が改善され、また設計を支持する物理的基礎等も格段に充実している。幾つかの点については、今後一層具体的あるいは定量的な記述が必要であり、設計上の選択肢が残されている箇所については、今後の絞り込みが必要である。また、個々の系を全体として統合していくシステム面からの検討についても、今後の進展が必要である。これらについては、工学設計活動の目的である「一つの詳細かつ完全な、統合された工学設計」(EDA協定)を目指し、今後適切な対応が望まれる。

2、安全解析に関しては、詳細設計報告は、安全性及び環境適合性の包括的な解析の進展があり、現時点における設計内容としては妥当なものと認められる。ITERの設計は、最終的には立地国の安全規制の考え方に適応することが必要であるが、現時点においては、既存の原子力施設に適用されている国際的基準等を満足するよう設計がなされており、十分な安全確保が図られるものと考えられる。今後、詳細設計報告には記載されていない高性能運転段階(後半10年の主として定常化を目指した運転期間)の安全解析を含めた計画全体を通した安全評価について一層の解析が進められる必要がある。

3、コストに関しては、設計が進展し、個別機器等に関しても詳細な解析が進められている中、コスト増加が抑えられ詳細設計報告には中間設計段階と同レベルである旨記述されていることは評価できる。但し、現時点におけるITER計画の課題の一つはコストの大きさであり、今後、一層コストを意識した設計が進められ、計画全体としてのコストの低減化が図られることが必要である。

4、なお、今後の試験研究の成果、全体としての安全解析、コスト解析等を踏まえた、建設(製作)及び運転段階における設計裕度の適正化等に関しては、建設に向けての取り組みの進展に従い、より詳細かつ具体的な記述が望まれる。

5、以上により、当会議としては、設計活動として進展している過程にある詳細設計報告について、中間設計報告に対する各極の評価結果が十分考慮され、全体としての設計の整合性が十分改善されているなど適切な段階にあるものと考える。また、これまでの各種データベースの充実により自己点火と長時間燃焼というITERの技術目標が達成できる見通しが得られつつあること、今回の評価内容が適切に反映され工学設計活動が順調に進展する上で大きな障害になる事項が想定されず、現在の工学設計活動における最終設計報告が提出されるまで(平成10年2月に予定)にはさらに充実したデータが得られる見込みであること、実験炉としての性格を踏まえて設計上の十分な柔軟性が配慮されていることなどから、ITERの技術目標が達成されることに十分な確信を有する。

6、さらに、詳細設計報告は、具体的な立地地点の条件を考慮した設計の修正が行われることによりITERがいずれの締約国においても安全に立地され得ることも示している。当会議としては、詳細設計報告が示す方向に沿って設計活動が現在の工学設計活動のとりまとめ段階へ進展していくことが適当と考えるとともに、ITER計画の健全な進展を確認するために、来年2月に予定される同段階の成果について、当該時点で改めて評価を行うことが重要であると考える。



(別添)



ITER詳細設計報告に関する国内評価


平成9年6月2日
核融合会議
ITER/EDA技術部会



1. はじめに

1.1 審議経過
 日本、米国、欧州連合及びロシアの四極によって1992年7月より進められている国際熱核融合実験炉(ITER)の工学設計活動(EDA)は、その活動中にいくつかのマイルストーンが制定されており、平成7年12月に開催された第9回理事会においてその設計のベースとなる中間設計書が確定された。これを受けて設計が進展した結果、平成8年12月に開催された第11回理事会では、次のマイルストーンである「詳細設計報告書」すなわち、詳細設計報告書本文(所長提案;約30頁)及び詳細設計報告書技術文書(約700頁)が理事会に報告されたところである。両文書については、各極がそれぞれ国内評価を行うこととされており、本年7月の第12回理事会において評価結果の報告を行う予定である。核融合会議ITER/EDA技術部会では、中間設計段階においても技術的評価を行ったところであるが、詳細設計はITERのその後1年半余りの設計活動等の進展を踏まえて作成された今後のITER設計のベースとして重要な位置付けを有するものであるため、物理、炉工学、安全の3つのワーキンググループを設置して評価・検討作業を重ねてきた。これらの結果を踏まえて、ITER/EDA技術部会では全体的な評価・検討を行い、以下の報告書をまとめた。

1.2 検討の視点
 詳細設計報告書及び技術文書については、まず、全体として以下に示す視点から検討を行った。
 1)EDA協定第一条(目的)、第二条(適用範囲)(a)~(d)項において規定されている業務が、適切に行われているか、或は、期間中に行われる見通しがあるか
 2)設計全体として、整合性がとれているか
 3)ITER技術目標の実現可能性が具体的に記述されているか
 4)安全性確保に対する設計上の配慮が十分なされているか
 5)コストに対する設計上の配慮が十分なされているか
 6)最新の知見が十分設計・解析に反映されているか
 7)建設・運転段階での柔軟性が配慮されているか
 8)最終設計に向けての基礎として妥当か、また、課題が明確にされているか
 9)我が国への立地可能性が十分配慮されているか
10)中間設計書に対する我が国評価が十分考慮されているか

2. 詳細設計報告書の位置付け
 詳細設計報告書は、中間設計報告書に引き続く工学設計活動の3番目のマイルストーンであり、最終設計報告書に向けて設計が進展していく基礎を提供するものである。  工学設計活動に関する現行協定は、「詳細な、完全なかつ十分に統合されたITERの工学設計及びITERの建設に関する将来の決定のために必要なすべての技術的データを作成する(第1条)」ことを目的としており、詳細設計報告書は、今後の設計活動が計画通りに進捗することにより、当該目標が適切に達成されることを確保する上で重要な指標となるものである。  現在のITER工学設計活動が必ずしも立地国、立地地点を特定しない設計のベースを提示するものであることから、最終設計報告書の後においても、実際の建設に向けては、立地国あるいは立地地点を想定した設計上の対応措置が必要である。また、運転範囲の柔軟性や安全性に関わる事項についても、基本的には実際の製作(建設)開始、あるいは、安全審査上必要とされる時点までに整えることが妥当であると考えられる事項もある。

3. 総合評価(結論)
 詳細設計報告書においては、中間設計段階に比べ設計全体の整合性が改善され、また物理R&Dの進展によるデータベースが格段に充実してきた。これにより、ELMを伴うHモード閉じ込めによるプラズマの運転を、ダイバータによるヘリウム灰の排出及び熱と粒子の制御を行いながら実現するというシナリオにより、自己点火と1.5GWの核融合出力を1000秒以上維持するという目標が達成できる見通しが得られつつある。ITERが要求する十分な閉じ込め性能、ダイバータ機能、あるいは密度やベータ値は、個別にはほとんどすべて既存のトカマク実験によって実現されるに至っており、今後は、これらが同時に実現し、維持できることを実証する十分なデータベースを整備していくことが、ITER計画の着実な進展にとって重要である。
 ITERの物理的基礎は、各極の物理R&Dによって著しく充実してきた。しかし、ITERの実現に向けて設計の妥当性を一層向上し、確固としたものとするためには、エネルギー閉じ込め比例則、LH遷移入力、ハロー電流の強度と分布、ダイバータプラズマ等について、さらに広範なデータを蓄積することが期待される。計測器については、プラズマ制御系との統合性に配慮した検討が必要である。また、将来の核融合炉の実現に向けての技術を進展させていく観点からは、負磁気シアの利点を最大限に生かした運転シナリオをITERへ導入するためのデータベースの充実が望まれる。
 ITERの炉工学の観点からの評価は、1)構造の妥当性及び2)機能の実現性並びに3)システム全体としての統合性、の三つの側面から行った。評価を行うにあたり、詳細設計報告書だけでなく、その技術的成立性を判断するための基礎となる工学R&Dも評価の対象とした。
 構造(設計)の妥当性については、個々の機器が置かれる環境(応力、温度、放射線レベル等)の評価に基づき、従来の各種規格・基準が適用される範囲では、これを満足するよう設計が進められており、工学設計活動における構造設計の基礎として妥当なものと認められる。今後、ITER固有の環境を踏まえ、これらの規格・基準が適用し得ない範囲における構造の妥当性を確認することが望まれる。
 また、機能の実現性については、製作、運転段階での裕度を確認するためのデータベースについて今後の工学R&D及び機能試験の成果が期待されるものもあるが、全体としては、期待される機能は実現し得るものと認められる。
 システムの統合性については、装置全体の組立・保守やプラント総体としての相互調整に関し、概念的設計の記述がされる段階に至っており、今後最終設計報告書に向けては一層設計が成熟し、より具体的な記述がなされることが期待される。
 ITERの安全性評価については、中間設計段階以降「深層防護」及び「ALARA( as low as reasonably achievable )の原則に立って展開された詳細設計に係るITERの安全性及び環境適合性の包括的な解析について大きな進展があったことを示しており、工学設計活動における最終設計を進めるための基礎として妥当なものと判断される。
 今回の安全性解析の詳細な情報は、非サイト依存安全解析書NSSR-1(Non-site Specific Safety Report 1)に示されており、事故時及び平常時の影響評価並びに放射性廃棄物の発生量及び従事者の安全確保策を体系的に網羅されているなど、中間設計段階における評価から、定性的及び定量的検討の面で著しい進展があり、それぞれの評価の考え方も含め、概ね妥当であると認められる。今後ともITER計画全体を見通し、最新の知見に基づくとともに、各極の安全規制上の考え方にも十分対応可能な安全性評価のためのデータベースの充実、並びに解析モデルの改良を図ることを期待する。
 建設コストに関しては中間設計段階以降大きな変更がなされた機器、システムについてのみ検討されているが、基本的には中間設計段階と同じレベルであるとのことから現時点では妥当と考えられるが、今後一層のコストの低減化に向けた努力が必要である。また、製作工程は、15,000項目にわたるスケジュールを立案できるまでに計画が明確になったことは評価できる。他方、建設スケジュールは、基本的にはサイト国の安全審査等のスケジュールに大きく依存するものであり、最短で建設するスケジュールの例示であると理解される。このため、最終設計報告書については、今後建設に向けての取り組みとの関連で一層具体的な検討が進められることが必要である。

4. 物理分野の評価

4.1 自己点火及び1.5GWの長時間(1000秒以上)核燃焼
 中型の装置だけでなく、よりITERの条件に近い大型のトカマクであるJET及びJT-60の実験において、グリーンワルド限界に近づいても、良好な閉じ込め性能を有するELM ( Edge Localized Mode )を伴うHモードが実現できること、さらに放射冷却ダイバータの機能が維持できることを確認することが望まれる。

4.2 コアプラズマとダイバータプラズマの整合性
 長時間運転におけるダイバータプラズマとコアプラズマの整合性にとってコアプラズマへの燃料供給法とダイバータにおける粒子制御のシナリオを明確にすることが重要である。また、中性粒子の主プラズマへの流入防止に対し垂直ダイバータが提案されているが、ダイバータ部からの中性粒子の流れ出しが制御され、コアプラズマの良好な閉じ込めが維持できることを実験またはシミュレーションで確認することが望まれる。

4.3 運転領域の裕度/ベータ限界値/鋸歯状振動
 目標を達成するためのプラズマパラメータが、具体的に示されていることは評価されるが、いくつかの決まった例に限られているために、運転領域の裕度がわかりにくい。最終設計報告書では、プラズマパラメータの取り得る運転領域を示すことが必要である。
 ベータ値限界については、新古典テアリングモードに依存するのかどうかを確認すべきである。もし、このモードを制御する必要がある場合には、ECCD(Electron Cyclotron Current Drive)により可能であることを確認する実験が望まれる。さらに、鋸歯状振動(sawtooth oscillation)が許容される範囲の定量的検討が重要である。

4.4 エネルギー閉じ込め比例則
 同一実験装置におけるエネルギー閉じ込め時間のばらつきの原因を解明しておくことが望まれる。
 ITERで想定しているエネルギー閉じ込め時間の値を保証する高密度プラズマに対するデータベースはまだ十分に確立していないので、そのための一層の努力が必要である。また、プラズマ壁相互作用とエネルギー閉じ込め時間の相関にも留意しておくことが必要である。

4.5 L-H遷移/H-L遷移
 L-H遷移に必要な加熱入力の評価は進展しているが、加熱入力値の幅を縮小するためにより一層の努力が必要である。
 ELMを伴うHモードの長時間運転にとってH-L遷移の実験データベースを確立しておくことが望まれる。

4. 6 ELM制御と三角形度
 ITERの三角形度はデータベースに従ってELM制御が可能な値を選ぶことが重要である。採用された値の妥当性は、理論と実験の両面から示すことが必要である。

4.7 ロックドモード制御
 補正コイルによる不安定性制御、ロックドモード抑制は、実験的な裏付けが不十分であり、実績の豊富なNBI ( Neutral Beam Injection ) 入射によるプラズマ回転を用いる方法を採用すべきと考えられる。

4.8 ディスラプション/ハロー電流/逃走電子
 プラズマの垂直移動現象に対しては、中立平衡点制御技術がJT-60で開発されているので、ITERにおいても同技術の採用は検討に値する。
 ディスラプション時のハロー電流の挙動及び逃走電子の発生と抑制については、データベースの一層の集積が必要である。

4.9 リップル損失/アルファ粒子物理
 アルファ粒子を含めて高エネルギー粒子のリップル損失の定量的評価を行い、リップルの許容範囲を明確にする必要がある。
 アルファ粒子物理はITERにおける重要な研究課題であり、特にTAEモードはアルファ加熱効率の低下をもたらす可能性があるので、さらに理論的に検討することを期待する。

4.10 ヘリウム排気
 ダイバータプラズマが、デタッチ状態または部分デタッチ状態にある場合にヘリウムの効率的な排気が可能であることを実験またはシミュレーションで示すことが必要である。

4.11 プラズマの起動・停止モデル
 ITERのプラズマ停止のシナリオは今後具体的に検討を進める必要がある。プラズマ生成から平衡状態形成に至るまでの起動過程の解析及びプラズマ停止モデルは、現在のトカマクによって実証することが望まれる。

4.12 運転シナリオ
 高い密度、ベータ値のもとで高い閉じ込め性能を保持するためのプラズマ形状、分布制御に関する物理R&Dを促進し、その成果を踏まえたITERの長時間運転シナリオの検討が望まれる。

4.13 定常運転
 トカマクの定常燃焼運転には、ブートストラップ電流と非誘導電流駆動が不可欠であり、負磁気シアーモードは閉じ込め改善と併せて、定常化に適している。そのため、負磁気シアモードによるエネルギー閉じ込め時間の比例則や高ベータディスラプションの回避等の課題を解決するためのデータベースの充実が望まれる。

4.14 計測系
 運転および研究計画から必要とされる計測系が十分に検討されていない。特に、計測系と装置およびプラズマの制御系との統合性についての検討が必要である。

5.炉工学分野の評価

5.1 真空容器
 真空容器の設計は、中間設計に比べて進捗が認められるが、今後は、温度、応力、中性子環境などを考慮したポート等外部構造物との接続部の設計の進展を期待するとともに、ベロー等の真空容器周りの機器の健全性についても評価を行うことが必要である。真空容器のセクターモデルR&Dは、製作性及び精度の確保を実証する目的で予定通り進捗しており、製作段階での精度は満足できると判断される。
 真空容器の冷却水循環系停止時において、自然循環による冷却水流量が強制循環時の15%になり得るかについては、解析及びR&D等によって慎重にその妥当性を見極めることが必要である。

5.2 ブランケット
 中性子照射効果と水環境効果を考慮に入れたブランケットの設計解析を進めることが必要である。同時に、それらの効果を考慮した構造解析手法の確立が必要である。さらに、核融合炉と中性子のエネルギースペクトルが異なる分裂炉での中性子照射試験結果の設計への適用や、小型試験片での試験結果の大型構造物への適用についての設計の考え方を示すべきである。
 プラズマ対向材料として考えられているBeのトリチウムインベントリーは、まだ正確な評価ができていない。炉内のトリチウムインベントリーの内、この部分が占める割合は大きく、安全性の観点から、今後より精度の高いインベントリー評価が必要である。
 ブランケットモジュールに関するR&Dは、冷却性能を有するモジュール筐体の製作性に関するR&Dが進展し、HIP( Hot Isostatic Pressing )加工法の適用性についての見通しが得られた。今後Beを含めた接合法の早期開発が望まれる。
 EPP段階の増殖ブランケットの概念について検討し記載すべきである。

5.3 ダイバータ
 ダイバータ部に関する遮蔽能力については定量的評価を行うことが必要である。
 ダイバータカセットに関する電磁力解析等は進捗しているが、高熱流束受熱機器とカセットボディ間の冷却パイプの接合部や冷却パイプについても、プラズマ垂直移動現象やディスラプション時における耐電磁力評価が必要である。
 ダイバータのドーム部やバッフル部に使用することになっているタングステンに関し、X点からコアプラズマへ入る不純物量の定量的評価が必要である。 ダイバータの各種受熱機器に関するR&Dは、ITER条件を満たすレベルに達しつつあると評価される。今後、カセットボディとの組合わせ試験により、組立精度を含めた成立性の検証が望まれる。

5.4 磁場コイル
 磁場コイルと真空容器は、連結構造で一体となっているので、統合的な構造の検討を今後行っていく必要がある。その中で、一連の構造物に対する支持構造・機構、機器設置精度、組み立て性、断熱性、ブランケットモジュールのバックプレートへの固定方式等の観点から、全体の支持構造設計を最適化し詳細化することを期待する。
 エラー磁場を打ち消すための補正コイルの必要性に関しては、クライオスタット内にさらに多くの超 伝導コイルを設置することのメリットとデメリットを考慮し、慎重に検討することが必要である。
ELMやディスラプション等のプラズマの高速変動に対する速い制御磁場が引き起こす超伝導コイルでのAC損失の評価は、十分に行っておくことが望まれる。
 超伝導コイルに関する2つのR&Dについては、ともに超伝導素線の開発及び製造はほぼ完了し、導体製造が順次進められつつある。他方、導体のAC損失や接続部などの主要な要素R&Dが並行して進められており、基本性能に関する設計との整合性は確認されるものと期待される。これらの性能をモデルコイルで実証するシステム試験は、98年7月以降に実施される予定であるが、出来るだけ早期に所定の性能が確証されることを期待する。

5.5 燃料サイクル
 各プロセス機器のトリチウムインベントリーの経時変化の評価と、トリチウムインベントリーの低減方法について検討することが必要である。また、燃料注入系及び排気系、並びに精製・分離系を接続した系一体としての挙動、操作性等について、今後各要素機器についての動作データを蓄積し、それらに基づいたシステムの統合的な検討が望まれる。

5.6 プラズマ診断システム
 計測系機器のR&Dの結果を踏まえ、光学系の劣化や中性子照射効果による寿命予測と交換に関する具体的方法及び計測機器の支持構造の具体化が検討されるべきである。
 計測系の据付と、ポート、プラズマ対向機器等との空間的整合性について、今後詳細な検討を期待する。

5.7 トカマク保守
 点検修理に関しては、種々の場合を想定して検討されているが、ITERの運転に支障をきたす恐れのある場合に備え、小さな部品レベルまでの細部に亘る遠隔操作による点検修理のシナリオの検討が必要である。
 遠隔保守機器の信頼性向上を図るために、使用環境に対するR&Dによる検証やデータベースの構築を期待する。
 “Hands-on”作業を実施する上で作業領域を確定するためには、対象とする機器の放射化量の評価も含め、どのような放射線環境にあるかについて更なる検討を行うことが必要である。

5. 8 プラント/レイアウト
 冷却系、冷凍系、電源系、真空排気系などのITERプラント系の系統設計やトカマク周囲の機器や配管等の配置設計は、中間設計に比べて進展が認められる。今後、最終設計報告書の作成に向けて、プラント総体としての相互調整や最適化を進め、各系統のより具体的な記述と配置図等の一層の整備が望まれる。

5.9 その他(FDR迄に所長が判断するとしたCS分割案等のオプションについて)
 CS ( Central Solenoid )コイルの分割は、三角形度の上昇による制御性の観点などで利点も考えられたものの、その後進められた技術的検討の結果、現実的に取りうる設計の中においては現在の一体型と差異はなく、有意な利点が想定されない。また、コイルの接合部のR&D計画との整合性などを考えると、技術的には多くの課題が残されており、最終設計報告書に向けて分割方式を採用する方向での作業をこれ以上進めることは現実的ではない。最終報告書に向けては、現在のレイヤー巻CSコイルの設計で完結させるべきである。
 ブランケット・モジュールの接続方法については、溶接接続方式と機械接続方式が考えられている。このうち溶接接続方式については、溶接の厚み等の技術的課題が指摘されるものの、基本的に確立されている既存技術により対応が可能と考えられる。他方、機械接続方式については、組立の容易性等の利点は期待されるものの、報告書中に記載されている電気絶縁等の問題点及び組立性についての技術課題が残る。最終設計報告書に向けて、選択肢を絞り込むに当たっては、これらの点が十分検討される必要がある。
 トロイダル磁場のリップル低減の為にフェライト鋼を挿入することについては、詳細設計報告書では、その構造概念が明確には記載されておらず今後の検討を待つ必要がある。本オプションは概念検討段階であるが、その導入による効果と影響(例えばプラズマ制御への影響の問題等)について、定量的な評価が必要である。

6.安全分野の評価

6.1 高性能段階(EPP)に関する評価
 ITER計画の目的が達成される見通しを得るために、EPPについてもプラント設計の概要を示し、事故解析を含む安全性評価を示すべきである。
 平常時の放射性物質放出量(気体、液体)については、基本性能段階(BPP)からEPPへの移行期間及びEPP期間に関する評価結果も最終設計報告書の技術文書に示すべきである。
 また、放射性廃棄物については、EPP運転期間中の発生量に関する評価結果も最終設計報告書の技術文書に示すべきである。

6.2 安全性評価手法等
 安全性評価に用いられる種々の仮定や技術的データは、その採用の理由及び妥当性が示されるべきである。技術的データ取得のためにR&Dを必要とする場合には、その計画が示されるべきである。 解析コードや解析モデルに関しては、ITERへの適用の妥当性についての検証が必要であるが、それらの検証状況とともに、未検証の場合にはその検証のための計画が示されるべきである。
 詳細設計報告書に記載されている Reference Accidents の選定は、現時点では妥当と評価される。事象の包絡性について、さらに評価の対象とすべき事象がないか、設計の進捗等を踏まえ今後も十分に検討すべきである。
 水素火災については、更なる検討が重要である。

6.3 その他
 建設スケジュールの記述(技術文書第Ⅵ章)に関しては、立地国の安全規制のプロセスに依存するものであることを付記しておくべきである。

7.その他の評価(コスト及び製作工程)
 コスト全体については、中間設計段階と同レベルである旨の記述がなされており、設計の進展との関連において評価されるものの、今後一層のコストを意識した設計が進められることを期待する。特に、今回のコスト上昇の主要因はトロイダルコイルの支持構造材の増量に起因しているが、この点についてもどこまで設計を最適化しているのか明確にすべきである。また、試験施設に必要とされるコストの最適化も配慮するべきである。特に、詳細設計報告書ではトロイダルコイルの試験を工場で行うことに変更しているが、全体としての施設、コストを考えて適切な選択か否かの検討が必要である。その際、信頼性確保、品質管理の観点から必要な検査・試験と実施すべき過程、場所の最適化を行い、製作工場でなされるべき試験とサイトにおいてなすべき試験を明確に分類すべきである。また、プラント系のコストは、部品の積み上げだけでなく製作法や検査手順などの期間に依存する部分もあるので、既存のプラントの製作・工事法を参考にして期間短縮も含めた最適化を指向すべきである。
 なお、製作工程と全体のコストとは密接に関係するため、今後具体的な工程を見積る必要があるが、その際の前提として、主要機器製作時の検査・試験の前提、据え付け調整時に仮定した必要検査・試験の前提を整理し、最終報告書に記述することが望まれる。



Appendix (物理、炉工学、安全の各分野における個別事項では、特に以下に示す視点からの検討を行った。)
1.物理
 1)閉じ込め評価
  (採用した比例則、ヘリウム閉じ込め時間、アルファ粒子閉じ込め、乱流輸送等、及びこれらのITERへの適合性等)
 2)運転限界評価
   ベータ値限界、密度限界等
 3)運転モードと運転領域、性能の裕度
  (運転シナリオとの整合性、実現可能性等)
 4)熱・粒子負荷評価
  (ダイバータへの熱負荷、燃料・ヘリウム排気等のダイバータ特性、不純物割合(等価荷電数)等及びこれらのITERへの適合性等)
 5)ディスラプションの影響評価と低減対策
  (プラズマ立ち上げ時の磁束消費シナリオ、ディスラプション頻度、大きさ、ディスラプション発生防止対策、逃走電子影響評価及びこれらのITERへの適合性)
 6)加熱・電流駆動性能評価
  (各方式の比較等及びITERへの採用可能性等)
 7)燃料給排気、トリチウム処理系との整合性
  (密度、温度とダイバータ熱負荷の整合性、中性粒子圧力の予測と必要排気容量の整合性等)
 8)制御系、電源系との整合性
  (運転シナリオ・想定負荷との整合性)


2.炉工学
 1)建屋、サイトレイアウト
  (面積・構造の妥当性、組立て・遠隔保守との整合性、機器配置との整合性、放射線管理区域選定の妥当性)
 2)真空容器系
  (真空容器本体・周辺機器、真空排気系、冷却系等との整合性及び成立性、分解・組立て法、支持方式の妥当性、ディスラプションシナリオとの整合性)
 3)ブランケット系
  (電磁力支持、遠隔保守方式、冷却系(トリチウム除去系を含む)等の成立性、EPPへの移行シナリオの妥当性等)
 4)ダイバータ系
  (電磁力支持、遠隔保守方式、デタッチドダイバータの成立性、冷却系)
 5)超伝導磁石系
  (本体・支持構造系・電源系・保護系・冷凍系の整合性及び成立性、中心ソレノイドコイルの分割・非分割、ジョイント部の健全性)
 6)クライオスタット
  (概念及び構造の妥当性)
 7)真空排気系
  (必要真空度との整合性、ポンプ方式の妥当性等)
 8)燃料給排気系及びトリチウム処理系
  (プラズマ運転シナリオ、燃料の燃焼率、ダイバータの排気シナリオとの整合性、ポンプ方式の妥当性、インベントリー分布及び安全系の妥当性、EPPへの移行シナリオとの妥当性等)
 9)熱遮蔽
  (冷却方式の妥当性等)
10)冷却系
  (冷却材温度及び圧力選択の妥当性、ループ数選択の妥当性、トリチウム浸透量の妥当性等)
11)制御・計測系
  (警報、インターロック等、分散・集中系の区分けの妥当性)
12)加熱・電流駆動系
  (各方式の設計の妥当性、真空容器等との整合性)
13)組立て
  (組立て手順、配置、構成機器の整合性)
14)保守
  (遠隔保守シナリオの妥当性、クラス分けの妥当性等)


3.安全
 1)安全確保の考え方の妥当性
  (ALARAの原則との適合性、深層防護、多重障壁の考え方が反映された設計の妥当性)
 2)安全解析の前提、事象選択の妥当性、設計との整合性
  (解析条件の保守性、放射性物質インベントリー設計の妥当性、放射性物質放出シナリオの妥当性、設計基準事象の選定の妥当性)
 3)安全解析結果の妥当性
  (解析手法の妥当性、判断基準の妥当性)
 4)廃棄物処理方法の技術的妥当性
  (廃棄物量、廃棄物レベル選定の妥当性、解析手法の妥当性)


4.その他
 1)コスト見積りにおけるIDRとの相違点
  (IDRと比較しコスト削減部評価の妥当性、増加部の理由の妥当性)
 2)各施設・機器の製作・組立て期間の妥当性
 3)各施設・機器間の相互関連の妥当性



ITER/EDA技術部会   委員構成

【主査】 井上 信幸    京都大学 エネルギー理工学研究所 教授

【委員】 伊藤 智之    九州大学 炉心理工学研究センター長
     鹿園 直基    日本原子力研究所 理事
     庄子 哲雄    東北大学 工学部 教授
     白石 春樹    金属材料技術研究所 極限場センター長
     関  昌弘    日本原子力研究所 ITER開発室 研究主幹
     田中  知    東京大学 工学部 教授
     苫米地 顕    (財) 電力中央研究所 研究顧問
     早瀬 喜代司   電子技術総合研究所 エネルギー基礎部 総括主任研究官
     日野 友明    北海道大学 工学部 教授
     藤原 正巳    核融合科学研究所 大型ヘリカル研究部 研究総主幹
     松田 慎三郎   日本原子力研究所 ITER開発室 室長
     宮  健三    東京大学 工学部 教授
     若谷 誠宏    京都大学 エネルギー科学研究所 教授


ITER/EDA技術部会 ワーキンググループ構成員

【主査】 井上 信幸    京都大学 エネルギー理工学研究所教授

【物理ワーキンググループ】
 (主査)藤原 正巳    核融合科学研究所 大型ヘリカル研究部研究総主幹
 (主査)若谷 誠宏    京都大学 エネルギー科学研究科教授
     伊藤 智之    九州大学 炉心理工学研究センター長
     早瀬 喜代司   電子技術総合研究所 エネルギー基礎部 総括主任研究官
     岸本 浩     日本原子力研究所 那珂研究所長

【炉工学ワーキンググループ】
 (主査)宮  健三    東京大学 工学部教授
     伊藤 智之    九州大学 炉心理工学研究センター長
     白石 春樹    金属材料技術研究所 極限場センター長
     関  昌弘    日本原子力研究所 ITER開発室研究主幹
     日野 友明    北海道大学 工学部教授
     西川 正史    九州大学 工学部教授
     村尾 良夫    日本原子力研究所 国際原子力総合技術センター長

【安全ワーキンググループ】
 (主査)田中 知     東京大学 工学部教授
     庄子 哲雄    東北大学 工学部教授
     苫米地 顕    (財) 電力中央研究所 研究顧問
     斉藤 正樹    東京工業大学 原子炉工学研究所助教授
     平野 雅司    日本原子力研究所 原子炉安全工学部安全データ解析室長