参考資料22

ITER施設の
安全確保の基本的な考え方について

平成12年7月


1.はじめに

 科学技術庁では、国際熱核融合実験炉(ITER)の安全規制に関して、ITERの基本的特性を踏まえた安全確保の考え方及び当面設計に反映すべき事項の策定を目的として原子炉安全技術顧問の会合を開催した。
 同顧問の会合では、ITERの概要設計報告書に基づいて、ITER施設に特有な安全上の特徴、安全上の要件、事故の評価等について検討し、ITER施設の安全を確保する上での基本的な考え方について議論され、本報告書はその結果について取りまとめたものである。
 本報告書では、検討の対象としたITER施設の概要及び安全確保の目標、安全確保の原則、安全設計の基本的な方針、免震構造により耐震安全性の確保を図る考え方を示した。これらは、いずれもITER施設に特有な放射線安全に関する検討に基づくものであり、労働安全衛生法、消防法等の放射線安全以外の事項については、別途既存の法令、基準等で対応を図ることとする。
 また、ITER施設は、プラズマを閉じ込めるため強力な磁場を発生することから、磁場の影響についても、電磁場の安全性に係る国際的な勧告等を踏まえ、適切に対応することとする。
 なお、本顧問会で議論がなされたもののうち今後の対応が必要とされた項目を「今後の課題」として整理し、報告書中に取りまとめた。

2.ITER施設の概要
2.1 ITER施設の目的と主たる構成機器
 ITER施設は、平和利用を目的とした核融合エネルギーの科学的・技術的実現性を実証する試験装置であり、重水素とトリチウムのプラズマによる高出力長時間燃焼(最終的には定常運転)の実現を目指すとともに、ブランケット及びダイバータ等の炉工学試験を実施することとしている。
 このため、約500MWの核融合出力を約400秒間持続する運転を標準(運転モードを参考として別図?1に示す)として、種々の性能試験を計画している。
 炉工学試験では、最初にしゃへい用のブランケットを装着し、その後トリチウムの増殖を行うブランケットに変更する段階的な試験を計画している。
 上記の目的及びトリチウム等の放射性物質に対する安全性を考慮したITER施設は、トカマク施設、トカマク付帯施設、燃料処理貯蔵施設、放射性気体、固体及び液体の廃棄物処理施設、冷却系統施設、計測制御系統施設、放射線管理施設、電気系統施設、建物・構築物等で構成する。これらのうち、安全確保の考え方を検討する上で主要な施設は、以下の通りである。

(1) トカマク施設(プラズマの形成・維持)
真空容器:トーラス形状の容器で、プラズマの形成・維持のため高真空の維持等を行い、内部にトリチウム及び放射化生成物等を内蔵する。
ブランケット及びダイバータ:真空容器の内部に配置されるモジュール式の機器であり、しゃへい及び不純物の制御等の機能を有する試験機器として交換を計画している。
超伝導コイル:真空容器の周囲に配置され、プラズマの閉じ込め磁場を形成するトロイダル磁場(TF)コイル、プラズマ電流の立ち上げ・維持を行う中心ソレノイド(CS)コイル、及びプラズマの位置・形状を制御するポロイダル磁場(PF)コイルがある。
トーラス真空排気系:真空容器のポートに取り付けられる真空排気ポンプで、不純物ガス及び未燃焼の燃料ガス(重水素、トリチウム)を排気し、プラズマの純度を維持する。
燃料注入設備:真空容器のポートを介してプラズマに燃料ガスを供給する。
追加熱設備:真空容器のポートを介してプラズマの加熱及びプラズマ電流の駆動を行う。

(2) 燃料処理貯蔵施設(水素同位体の精製・回収、分離・貯蔵及び分配)
精製回収系:トーラス真空排気系の排気ガスから水素同位体ガスを精製・回収する。
水素同位体分離系:精製・回収した水素同位体ガスから燃料ガスを濃縮・分離する。
燃料貯蔵分配系:燃料ガスを貯蔵し、燃料注入設備に分配する。

(3) 放射性気体廃棄物処理施設(建家内の雰囲気中の放射性物質の除去・低減)
通常換気系:平常時の建家内雰囲気温度の調整及び給排気による空気流を調整することで清浄区域への汚染の拡がりを防止する。
通常雰囲気浄化系:主に保守時にグローブボックス等の内部の漏洩トリチウム等を循環運転により除去・低減する。処理した雰囲気の一部を排出ガス処理系に送ることによりグローブボックス内を負圧に維持し、グローブボックス外側の部屋等への汚染の拡がりを防止する。
非常用雰囲気浄化系:事故時に区画等に放出される放射性物質を循環運転により除去・低減する。処理した雰囲気の一部を排出ガス処理系に送ることにより区画内を負圧に維持する。
排出ガス処理系:平常時においては通常雰囲気浄化系からの排出ガスを受け入れ、また、事故時においては非常用雰囲気浄化系からの排出ガスを受け入れ、これらの排出ガス中の放射性物質を除去・低減し、区画等の負圧を維持する。

(4) 建物・構築物
トカマク建家:トカマク施設、燃料処理貯蔵施設等を収納する建家で、事故時に放出される放射性物質を隔離するトカマクピット区画、トリチウム区画等を備える。
排気筒:区画等の内部の雰囲気を排出する。

2.2 安全上の特徴
(1) 内蔵する放射性物質とその影響
 通常運転時のITER施設における可動性放射性物質としては、トリチウム及び放射化ダストが主たるものである。ITER概要設計報告書によれば、施設内のトリチウム保有量は約2.8 kg(約1018Bq)と評価され、そのうち、約1.2 kgが真空容器内(主に、ブランケット、ダイバータ等の機器に吸着)に、また残りは燃料処理貯蔵施設の各機器に分散して存在する(施設内のトリチウム保有量を参考として別図?2に示すが、これらの値は、今後の設計の進捗により増減されることが想定される)。
 また、放射化ダストについては、プラズマに対向する壁面での浸食作用により生成するが、これまでの実験結果等を踏まえ、管理上、タングステンダストが100 kg、ベリリウムダストが100 kg、炭素繊維複合材のダストが200 kgを上限として存在するとしている。これらのうち、タングステンダストは、体外被ばくのソースタームとして、約1016MeV・Bq(タングステンダスト100 kg中の核種の実効エネルギーと放射能の積の合計)と評価される。
 100m高さの排気筒からの全量放出を仮定して、これらの可動性放射性物質がもたらす内部及び外部被ばくによる実効線量当量を評価すると、内部被ばく主体のトリチウム1.2kg(4x1017Bq)は数十mSvに、被ばく形態が内部及び外部被ばくとなるタングステンダスト100kgは例えば事故後1週間までのグランドシャインによる線量当量も考慮した場合にトリチウムと同レベルの線量となる(これ以外のダストの影響は、タングステンダストに比べて十分に小さい)。
 これより、ITER施設は、放射性物質を内蔵する機器等から放射性物質が異常に放出される事故時の公衆の放射線被ばくを十分に低く抑えるために、放出放射性物質を除去・低減する施設(影響緩和施設)を備える必要がある。

(2) 影響緩和施設(コンファイメント施設)
 コンファインメント施設は、以下の機能を有する非常用雰囲気浄化系、コンファインメント区画、排出ガス処理系、排気筒等で構成され、想定する事故時に公衆の放射線被ばくを十分低く抑え、事故の影響緩和を図るものとしている。
非常用雰囲気浄化系:放射性物質を内蔵する機器等からコンファインメント区画内に放出された放射性物質を除去・低減する。
コンファイメント区画:放出放射性物質による汚染を限定された領域内に留めるために、建家内に設定する区画である。
排出ガス処理系:コンファインメント区画内に放出された放射性物質を除去・低減するとともに、通常の建家の漏洩率を考慮し、コンファインメント区画の内部雰囲気を負圧に維持し、放射性物質の放出経路を排気筒に限定する。
排気筒:コンファインメント区画内の雰囲気を排出する。

(3) 放射性物質を内蔵する機器等に作用するエネルギーと考慮すべき荷重
 ITER施設において、放射性物質を内蔵する機器等のうち、真空容器、燃料処理貯蔵施設、並びにブランケット及びダイバータ一次冷却系には、核融合反応等に伴う熱及び磁気エネルギー、並びに冷却水及び液体水素同位体の内部エネルギー等が作用する。これらの機器に作用するエネルギー及び考慮すべき荷重は、表1のように整理される。

表1 放射性物質を内蔵する機器に作用するエネルギーと考慮すべき荷重
放射性物質を内蔵する
主要な機器等
作用するエネルギー 考慮すべき荷重
真空容器 ・核融合出力(約500MW)
・プラズマが保有する熱エネルギー(約400MJ)
・プラズマに入射するエネルギー(約50MW)
核融合出力の増大(熱源異常)による熱負荷
通常熱除去機能の喪失による熱負荷及び電磁力
放射化に伴う崩壊熱
(最大0.5MW/m3)
通常熱除去機能の喪失による崩壊熱による熱負荷
冷却水の内部エネルギー 真空容器内での試験機器損傷に伴う冷却水放出等による過圧
プラズマの保有する磁気エネルギー(約300MJ) ディスラプションによる熱負荷及び電磁力
超伝導コイル系中の磁気エネルギー(約50GJ) 超伝導コイルの短絡等による超伝導コイルの変形
燃料処理貯蔵施設 液体水素同位体の内部エネルギー 冷凍機能の低下による過圧
ブランケット及びダイバータ一次冷却系 冷却水の内部エネルギー 冷却系の圧力制御の故障等による過圧

(4) ITER施設の安全上の特徴
 ITER施設の安全上の特徴は、表2に要約される。これらの特徴を踏まえれば、放射性物質を内蔵する機器等の健全性を確保するために、表1に示した考慮すべき荷重のうち過圧荷重による機器破損の発生を防止する対策を講じることが必要となる(別図?3に、圧力逃がし機構を備えた場合の代表的な事象のシーケンスを示す)。

核融合反応に備わる固有の特徴 ・核的暴走がない
・プラズマの圧力限界、密度限界による反応終息性
・不純物等の混入に対する反応終息性
ITER装置条件下で固有の特徴 ・崩壊熱密度が小さい
ITERの本来機能確保により得られる特徴 ・真空容器等の気密性が高い
・電磁力に対する真空容器の構造強度の確保
・電磁力に対する超伝導コイルの構造強度の確保
安全機能を確保するために設計対応を要する特徴 ・放射性物質を内蔵する特定の機器が過圧される可能性がある

3.安全確保の基本的な考え方

 第2章のITER施設の概要に基づき、安全確保のための基本的な考え方を以下に定める。
 なお、今回検討対象とした範囲がITER概要設計報告書であること、また、ITER施設が核融合の研究・開発のための試験装置であることに鑑み、今後、研究開発の進捗及び技術的な改良により設計が本報告書の内容と合致しなくなっても、この考え方により本報告書の内容と同等又は同等以上の安全性が確保されると判断される場合には、この考え方を適用してさしつかえない。

3.1 安全確保の目標
 ITER施設は、トリチウム等の放射性物質を取り扱うことから、「公衆及び放射線業務従事者(以下、従事者)にこれらによる放射線障害を及ぼすおそれがないように措置を講ずる(施設を設計、製作し、維持)」ことを安全確保の目標とする。

3.2 安全確保の原則
 安全確保の目標を満足するよう、平常時にあってはALARAの精神に則り放射線障害の防止に努めること。また、事故の発生を防止する措置を講じるとともに、深層防護の原則に従い事故の発生を仮定し、その影響を緩和できる措置を講じること。
 この措置を講じるにあたっては、固有の反応終息性やハザードポテンシャル等のITER施設の安全上の特徴を考慮し、以下の考え方によること。
平常時において、環境中への放出放射性物質及び施設から直接放出される放射線による公衆の実効線量当量が、国の定める法的限度を超えないように施策することはもとより、ALARAの精神に従い、これらに起因する公衆の実効線量当量を合理的に達成できる限り低減すること。
 また、従事者の実効線量当量については、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に従い、年間20mSvを超えないよう施策すること。
事故の発生を防止するため、放射性物質を内蔵する機器等については、十分な構造強度を確保、維持するとともに、必要に応じて圧力逃がし機構を設けること。
 また、放射性物質の異常な放出を伴うような事故時においても、公衆に過度の放射線被ばくを及ぼすおそれがないよう、コンファインメント施設を設けて放出放射性物質の環境への異常な放出を防止すること。

3.3 安全設計の基本的な方針
 安全確保の原則に従い、以下を安全設計の基本的な方針とする。

(1) 平常時における放射線防護
 平常時における公衆及び従事者に対する放射線防護のため、施設には放射線しゃへい、換気、並びに適切な浄化・希釈性能を有する排気設備及び排水設備を備えるとともに、トリチウム等の放射性物質を内蔵する機器等の使用・環境上の条件を考慮して、それらからの漏洩を制限する。
 また、放射線管理及び防護活動のための適切な施設並びに器材を備えること。

 この基本方針に基づき、安全設計において以下を考慮すること。

施設で発生する放射線に対して、適切な放射線しゃへいを備え、作業区域及び敷地周辺での放射線量率を適切に低減する設計であること。
放射性物質を内蔵する機器等からの放射性物質の漏洩防止、放射性物質による汚染の拡大の防止、作業雰囲気中の放射性物質濃度、周辺環境への放射性物質の放出量及び周辺環境での放射性物質濃度の低減を図る設計であること。
従事者に対して適切な放射線管理を実施するため、被ばく線量、汚染状況等の監視、除染等のための放射線管理施設を備えること。これらは、必要に応じ遠隔での操作が可能な設計であること。なお、トリチウムに対する放射線管理は、トリチウムプロセス研究棟等の既存の施設における実績を参考にすること。

 ITER施設で講じた施策により、公衆に放射線障害を及ぼすおそれがないことを確認するために、以下の評価を行うこと。
 公衆への放射線被ばくを合理的に達成できる限り低く維持する設備の性能の妥当性を確認するため、排気・排水に伴う放射性物質の放出に起因する年間実効線量当量及び施設から放出される放射線(直接放射線及びスカイシャイン放射線)による年間の線量がALARAの精神に基づき設定した目標(年100 μSv)を満たすことを評価すること。
 なお、排気・排水に伴う放射性物質の放出に起因する年間実効線量当量の評価に際しては、通常運転時及び保守・補修に伴い放出する全ての放射性核種及び放出経路を考慮すること。

(2) 事故の発生防止
 放射性物質を内蔵する機器等にあっては、2.2節に示したエネルギー、使用・環境上の条件及び真空容器内の試験機器の試験条件を考慮して、その構造的健全性を確保するとともに、内蔵される放射性物質が機器等の外部に異常に放出することを防止すること。
 また、ディスラプションによる荷重は、その発生頻度に応じ設計条件として考慮すること。
 なお、放射性物質を内蔵する機器等の設計、製作及び検査については、それらの構造強度を確保する上で適切と認められる規格・基準等によること。

 この基本方針に基づき、安全設計において以下を考慮すること。

放射性物質を内蔵する機器等の材料の選定、設計、製作及び検査は、適切と認められる規格・基準等に従い行うこと。
放射性物質を内蔵する機器等は、適切な耐震性を確保するとともに、試験機器の使用条件等を考慮し、想定される荷重に対してもその構造健全性を維持できる設計であること。
 なお、構造健全性を維持するために、必要に応じて圧力逃がし機構を設けること。圧力逃がし機構は、放射性物質を内蔵する機器等の過圧時に確実に動作し、異常な過圧を適切に防止できること。このため、動的機器については多重性を有する設計であること。
プラズマに面する壁(対向壁)の温度上昇に伴う放射性物質の放出を低減する観点から、必要に応じて対向壁の温度を制限できる設計とすること。
放射性物質を内蔵する機器等を構成する機器の構造健全性維持を確認できるよう、試験・検査が可能な設計であること。

(3) 事故の影響の緩和(コンファインメント施設)
 放射性物質の異常な放出を伴うような事故を仮定しても、放出放射性物質の環境への異常な放出を防止できるよう、コンファインメント施設を設けること。コンファインメント施設は、放射性物質を内蔵する機器等の破損等により放射性物質が機器等の外部に放出した場合に、当該機器を取り囲む区画(コンファインメント区画)を周囲から適切に隔離し、この区画内を負圧に維持するとともに、区画内の雰囲気を浄化し、環境への放出経路を排気筒に限定することにより、公衆に過度な放射線被ばくをもたらすおそれを十分小さくできる設計であること。

 この基本方針に基づき、安全設計において以下を考慮すること。

コンファインメント施設は、放射性物質の放出に伴い流出する流体等の条件を考慮し、必要な放射性物質の除去機能を確保できる設計であること。
コンファインメント施設は、事故時において、商用電源の利用を期待しえない場合においても、その機能及び性能が損なわれないよう、非常用電源設備からの給電が可能な設計であること。
コンファインメント施設は、事故時において、コンファインメント区画内の負圧を可能な限り確保し、放射性物質の放出経路を制限できる設計であること。
コンファインメント施設は、想定すべき地震力と事故の組み合わせに対しても放射性物質の除去機能が損なわれないよう、十分な耐震性を確保した設計であること。
コンファインメント施設は、動的機器の多重化を図り、起動失敗等の故障を仮定しても、放射性物質の除去機能が損なわれない設計であること。
コンファインメント施設は、事故の状況を把握するために必要な情報を監視できる事故時監視計装設備を有する設計であること。

 ITER施設で講じた施策の妥当性を確認するために、以下の評価を行うこと。
 技術的見地からみて放射性物質の放出が最大となる事故を放出経路毎に想定し、深層防護の観点から事故時の影響緩和機能を担うコンファインメント施設の性能の妥当性を確認すること。判断基準としては、公衆の実効線量当量として5mSv(ICRPの補助的線量限度に準拠)を用いること。
 事故の代表的な事象については、内蔵する放射性物質の量及びその放出の駆動力を考慮して選定すること。
 影響評価に当たっては、試験機器の使用条件、化学反応、放出放射性物質の形態・性状、放出経路・移行率、除去系の性能、拡散条件等を十分に検討し、妥当な保守性を加味した解析条件とするとともに、動的機器の故障の仮定、商用電源が利用できない場合等も考慮すること。
 また、漏洩トリチウム等による火災・爆発の可能性についても併せて評価すること。
 なお、公衆の放射線被ばくの評価にあたっては、必要に応じ直接放射線及びスカイシャイン放射線による線量を加算すること。

 想定する事故及びその影響評価にあたっては、以下に留意すること。

ブランケット及びダイバータ等のプラズマに対向する機器では、温度上昇に伴う水蒸気等との化学反応或いは放射化した対向材料の昇華等の影響について、局所的な温度上昇に伴う影響も含めて十分に考慮すること。
影響評価に用いるトリチウム、放射化ダスト等の放射性物質の量は、試験装置としての運転上の柔軟性を確保するため保守的な値とすること。
影響評価にあたっては、ITER施設の安全上の特徴を踏まえ、安全確保を目的に設置する施設以外の施設であっても、その施設の信頼性等を考慮した上で、安全機能として取り扱うことも妥当とする。

(4) 立地に対する考慮
 ITER施設の予備的評価によると、技術的見地から想定し得る放射性物質の放出が最大となる事故(設計基準事故)が発生しても、公衆の実効線量当量の最大値は5mSvを超えないという結果が得られている。
 一方、ITER施設は、本格的な長時間DT燃焼を行う初めての試験装置であること、及び内蔵する放射性物質の全量が地上放出すると周辺公衆に過度の放射線被ばくをもたらし得ることに鑑み、設計基準事故を超える放射性物質の放出を工学的観点から仮想し、規制上の観点から、ITER施設と周辺公衆との間の離隔の適否、並びに、敷地外における緊急時計画(防災対策)の必要性の有無を評価することとする。

今後の課題
 設計基準事故を超える事故の想定及びそれに対する公衆の安全確保に係る評価の基準に関しては、以下を参考に、ITER施設の目的、安全上の特徴等を考慮して検討する必要がある。

設計基準事故を超える事故の想定にあたっては、設計基準事故(技術的見地から放射性物質の放出量が最大となる事故)を対象とし、工学的観点からこの事故を上回る放射性物質の放出を仮想すること。
ITER施設と周辺公衆との離隔の適否の評価にあたっては、「原子炉立地審査指針」及び「原子炉立地審査指針を適用する際に必要な暫定的な判断のめやす」の考え方を参考とすること。
敷地外における緊急時計画の要否の評価にあたっては、「原子力施設の防災対策について(昭和55年6月原子力安全委員会決定、平成12年5月29日一部改正)」の附属資料3「EPZについての技術的側面からの検討」の考え方を参考とすること。

(5) 火災に対する考慮
 ITER施設は、火災発生の防止を設計の基本とするが、万一に備え、火災検知及び消火、並びに火災による影響の軽減の方策を適切に組み合わせて、火災によってもITER施設の安全性が確保できるよう設計すること。

 この基本方針に基づき、安全設計において以下を考慮すること。

火災により放射性物質を内蔵する機器等の健全性が損なわれない設計であること。特に、トリチウムを保管・貯蔵する容器等の耐火性及び当該容器等を収納する部屋等の耐火性・不燃性が確保できる設計であること。
万一の事故発生に備え、放射性物質を内蔵する機器等は、隔離弁等により、トリチウム放出(或いは空気の流入)を制限し、かつ、機器等の周囲は必要に応じ不活性化や真空化を図る設計であること。
事故時において、放出するトリチウムを含む水素同位体による火災が万一発生した場合でも、コンファインメント施設の放射性物質の除去機能が損なわれない設計であること。

今後の課題
 真空容器及び燃料処理貯蔵施設等は、万一の事故の場合でも隔離弁あるいは周囲雰囲気の不活性化等により、水素火災を防止することとしているが、局所的な燃焼については、現在十分な情報が得られていないことから、今後、局所的な燃焼に対する考慮を検討する必要がある。

(6) 品質保証に対する考慮
 放射性物質を内蔵する機器等及びコンファインメント施設の所要の信頼性を確保すること。このため、国際協力で進める設計、製作、据え付け等の各段階において、所要の性能を有していることを適切に確認できるよう考慮するとともに、ISO規格等を参考に適切な品質保証活動を実施すること。
 なお、動的機器を海外調達する場合には、我が国特有の条件である耐震性の要求を適切に反映させる必要がある。

今後の課題
 品質保証については、一義的には事業主体の問題であるが、その内容は、国が行う性能確認の内容によっても変わってくる。特に、施設検査で確認できない安全性能がある場合や、工事認可を課す場合には品質保証計画の是認が必要となる。この場合、品質保証活動自体は事業主体の範囲であるが、その活動が適正に行われる組織であることを行政が確認する方向で検討することになろう。

3.4 免震構造により耐震安全性の確保を図る考え方
 ITER施設は、トリチウム等の放射性物質を内蔵するため、地震時に公衆の放射線障害を防止する必要がある。特に、トカマク施設では、動作温度の異なる複数の機器が柔軟な支持構造で支持されるため、放射性物質を内蔵する機器等の耐震性確保の観点から、免震技術を採用し機器相互間の干渉の防止と付加する加速度の軽減を図ることとしている。なお、ITER施設では、一般建家・建築物で実績が多い積層ゴムによる水平免震を適用することとしている。
 免震技術の適用にあたっては、地震時における放射線障害の防止を図るため、以下の基本方針に基づくことが求められる。
 放射性物質を内蔵する機器等は、地震により閉じ込め障壁が破損し内蔵する放射性物質の放出を防止するため、十分な耐震性を有すること。さらに、万一の事故時に稼働するコンファインメント施設については、本施設の機能が必要な期間中に発生が想定される地震に対しても十分な耐震性を確保すること。  
 この基本方針に基づけば、耐震(免震)設計においては以下を考慮することが必要である。
放射性物質を内蔵する機器等やコンファインメント施設等の重要な安全機能を有する施設は、安定な地盤に支持すること。
重要な安全機能を有する施設については、ITER施設における放射線による環境への影響を考慮し、適切な地震力を定めること。
免震設計を行う施設にあっては、免震装置に支持される上部構造は免震機能が発揮されるよう十分な強度・剛性及び耐力を有する構造とすること。この際、免震装置の特性を考慮して、やや長周期領域における地震力の影響を適切に考慮すること。
また、免震装置は、間接支持構造物とし、上部構造に要求される耐震性に応じ、その健全性を確保できるように設計すること。

今後の課題

コンファインメント施設の機器については、特に、地震時に要求される動的機器の機能の実証に関して、振動試験等の実績を含め、今後検討が必要である。
ITER施設は、安定な地盤に支持することとしているが、安定な地盤に要求される要件については、特にITER施設の立地地点における地盤と免震構造の相互作用と裕度等を適切に考慮し、検討する必要がある。


別図?1


(a)中心ソレノイドコイルを通電し、プラズマ形成のためのエネルギーを蓄積
(b)真空容器に燃料を入れ、外部からの加熱により中性ガスを電離させた後、中心ソレノイドコイルの電流を変化させて放電を起こし、プラズマを形成
(c)中心ソレノイドコイル電流の変化を継続し、トランスの原理でプラズマ電流を増大
(d)外部加熱によりプラズマを1億度程度まで加熱、同時に燃料を注入し核融合反応を発生
(e)プラズマの温度、密度を一定に維持し、核融合反応を維持(標準運転で約400秒)
(f)燃料注入率を減らして、核融合反応を停止(プラズマは維持)
(g)中心ソレノイドコイルの電流を(c)と逆方向に変化させ、プラズマ電流を低減し、プラズマの運転を終了
(h)中心ソレノイドコイル電流の変化による発熱で温度が上昇したコイルを冷却


別図?2



別図-3



検討経過 本報告書は、日本、欧州及び露国の3極協力で進めている国際熱核融合実験炉(ITER)の工学設計活動を通して取り纏められた概要設計報告書を踏まえ、日本原子力研究所那珂研究所が作成した「ITER施設の安全設計について」(平成12年5月)に基づき、ITERの安全規制に係る技術的事項の基礎となる安全確保の考え方について検討した結果を取り纏めたものである。
検討の経過において、平成11年10月から科学技術庁原子炉安全技術顧問の会合を計4回開催し、下記に示す当該技術顧問の専門的意見を求めた。

岡  芳明東京大学大学院工学系研究科教授
香山  晃京都大学エネルギー理工学研究所教授
小佐古敏荘東京大学原子力研究総合センター助教授
近藤 駿介東京大学大学院工学系研究科教授
齊藤 正樹東京工業大学原子炉工学研究所助教授
早田 邦久日本原子力研究所東海研究所副所長
西  好一財団法人電力中央研究所我孫子研究所地盤耐震部長
濱田 泰司核融合科学研究所教授
藤田 隆史東京大学生産技術研究所教授
本間 俊充日本原子力研究所東海研究所副主任研究員
宮本 霧子放射線医学総合研究所第4研究グループ主任研究官
山本 一良名古屋大学大学院工学研究科教授

 ○主査