参考資料2
核融合エネルギーの研究状況

文部科学省研究開発局
核融合開発室

 1932年、英国のコッククロフト、ウォールトンによるリチウム-水素の核反応実験によって初めて核融合反応に伴い膨大なエネルギー(核融合エネルギー)が放出されることが発見された。その後、ワイゼッカーとベーテにより太陽(星)の中で生まれるエネルギーは水素の核融合反応によるものであることが理論的に示され、第2次大戦以降、人工太陽を地上に作ろうという核融合反応を用いたエネルギー源の開発研究が米国、旧ソ連、英国で開始され、その後先進各国で行われるに至った。
 我が国においても、日本原子力研究所、国立試験研究機関、大学、核融合科学研究所(大学共同利用機関)などにおいて各種研究が行われてきている。
 核融合研究は、磁場閉じ込め核融合研究(以下、磁場核融合という。)と慣性核融合研究とに大きく分類される(別紙1参照)。磁場核融合は、磁場を利用して高温プラズマを安定に閉じ込め、そのプラズマに核融合反応を起こさせようとするものである。一方、慣性核融合は、強力なパルスレーザーを照射して、球殻状の燃料を超高密度に圧縮加熱し、瞬間的に核融合を起こさせるものである。以下に、それぞれの研究の現状と課題を簡単に紹介する。

1.磁場核融合研究の状況
 磁場を用いてプラズマを閉じ込めるにあたり、閉じ込め磁場の形状は別紙1に示すようにドーナツ状の磁場を用いるトーラス磁場方式とミラー磁場方式とに分類される。トーラス磁場では、ドーナツ状に沿った磁力線を捻ることが必要となるがその捻りの作り方によってさらにトカマク方式、ヘリカル方式、逆磁場ピンチ方式等に分類される。

(1)トカマク方式
 トカマクは、1950年頃に旧ソ連で考案された方式であり、トーラスに沿ったトロイダル磁場とプラズマ中をトーラス方向に流れる電流が作る磁場で軸対称のプラズマを閉じ込める方式である。当初は、専ら旧ソ連で研究されていたが、1968年にT-3トカマクが他の方式の成果を大幅に上回る性能を有することが英国の研究チームによって確認されるに至って世界的に注目され、米国、欧州、日本などでも研究されることとなった。
 我が国においては、プラズマの安定な閉じ込めを目標として、原子力委員会の策定した第一段階核融合研究開発基本計画の遂行にあたり、中核装置としてトカマク型装置が選択され、JFT-2が設置された。JFT-2では、当時世界最高の閉じ込め時間の達成や世界初の高周波による電流駆動等の成果をあげた。
 その結果を踏まえ、臨界プラズマ条件の達成を目標とした第二段階の核融合研究開発基本計画の遂行においても、トカマク型装置による臨界プラズマ条件の達成を目指すことを中核の計画とした。米、欧、露においてもトカマク型装置を建設し、臨界プラズマ条件の実現を目指す計画がほぼ並行して進められるようになった。
 特に、三大トカマク装置と呼ばれる我が国のJT-60(1985年完成)、EUのJET(1983年完成)、米国のTFTR(1982年完成)が建設され、実験が進められ、閉じ込め性能の向上、電流駆動やダイバータ研究、各種のプラズマ現象の解明などが進み、炉心プラズマ物理の研究が飛躍的に進展した。これらトカマク装置で得られた主な成果としては、イオン温度5.2億度、閉じ込め時間1.2秒、数多くの改善閉じ込めモードの発見、高周波による駆動電流360万アンペア、高自発電流率(70~80%)高性能完全電流駆動プラズマの実証、負イオンNBIによる加熱・電流駆動の実証、ダイバータによる熱・粒子制御の実証などがある。また、定常化については九州大学の超伝導装置TRIAM-1Mにて、高周波による2時間の定常電流駆動が実現されている。これらの結果、核融合炉の運転に必要なデータベース及びプラズマの制御方法が確立された。また加熱技術の耐高熱負荷材料等の工学技術開発も大きく進展し、第二段階基本計画の目標であった臨界プラズマ条件*1) をJT-60とJETで達成した。また、TFTRやJETでは、実際の核融合炉用燃料となる重水素-トリチウム(三重水素)を使った実験が行われ、1600万ワットというエネルギーの発生を実証するなど、他の閉じ込め方式による研究に比べ飛躍的に進展した成果をあげることとなった(別紙2及び別紙3参照)。
 これらの物理研究を通じて蓄積された炉心プラズマ研究成果、炉心プラズマデータなどを基に比例則が導かれ、また、大型装置の建設を通じて蓄積された技術的知見を踏まえ、物理的にも工学的にも臨界プラズマ条件の次段階である自己点火条件*2) の達成を見通せる段階に至った。
 我が国においても、第三段階の核融合研究開発基本計画が策定され、自己点火条件(エネルギー増倍率が20程度)の達成及び長時間燃焼の実現などを目指して、良好な成果と豊富なデータを有するトカマク方式による実験炉開発の推進が決定した。また、その時点で、その他の核融合炉研究については、トカマク方式を相補する役割を果たすとともに、引き続きそれぞれの方式の優位性の可能性を探る研究開発を行うこととなった。
 こうした状況を背景として、日、EU、米、ロシアの4極の国際協力の下に、核融合エネルギーの科学的・技術的な実現可能性を実証するためにトカマク方式による国際熱核融合実験炉(ITER)計画が進められることとなった。
 ITER計画は、①実際の核融合燃料を用いた制御された点火と、最終的には定常状態を目標とする長時間燃焼の実証、②核融合炉に必要な技術を総合システムで実証、③核融合エネルギーの実用化のために必要な機器の総合試験、を通じて核融合エネルギーの技術的可能性を実証することを計画的な目的として定めた。概念設計活動(CDA)に引き続いて、1992年からは機器の詳細な設計や工学技術に係る研究開発を行い、建設に必要な主要な技術情報を整えることを目的とした工学設計活動(EDA)を実施している。EDAは当初6年間の予定で実施されたが、参加極が建設の判断を行うには至らず3年間の延長を行い設計の見直しを行っている。そこではトカマク研究の進展を踏まえて、計画目標を保ったまま技術目標の見直しを行い、無限大から有限値のエネルギー増倍率の実現を目指す選択に重点を移すことによって大幅なコスト低減を図っている。2001年2月には当初設計に対してコストを約50%まで低減した最終設計報告書案がとりまとめられた。ITER計画では、建設に約10年、運転に約20年を見込んでいる。ITER以降の計画としては、ITERの建設、運転結果を踏まえて核融合によるプラント規模での定常発電を実証する段階(原型炉)に進むことになる。
 なお、ITERに関しては、比較的中性子の積算発生量が少ないため、実験炉容器等の材料としては十分な実績を有し、中性子照射データが他に比べて十分蓄積されているオーステナイトステンレス鋼が選定されている。ITER以降の核融合発電プラント等では、さらに中性子の積算発生量が多くなることから、1000~1500万ワット年/平方メートル*3) の中性子照射に耐え、かつ放射化の少ない新材料の利用が必要である。このような低放射化材料の開発には長い期間が必要となるため、ITERの開発と並行した開発が急務となっている。

(2)ヘリカル方式
 ヘリカル方式は、トーラス状の容器に沿ってらせん状に巻き付けたコイル(ヘリカルコイル)によってできる非軸対称のらせん磁場によってプラズマを閉じ込める方式である。ヘリカル型装置による研究は、1950年代初頭に米国プリンストン大学でステラレータ研究がはじめられ、我が国においては、1960年代初頭に京都大学で独自のアイデアによるヘリオトロン研究がはじめられ、現在核融合科学研究所等に引き継がれて研究が行われている。
 ヘリカル方式は、プラズマの閉じ込めにプラズマ電流を必要としないため、電流破壊不安定が起こらないこと、外部電流駆動源が不要であること、さらには還流するエネルギーが少なく効率的であること、定常運転が容易であることを特長としており、経済性の高い炉形式になる可能性を有している。
 平成10年より、世界最大の超伝導コイルを有し、日本独自のヘリオトロン方式である大型ヘリカル装置実験が開始され、これにより、イオン温度4100万度、電子温度5000万度、エネルギー閉じ込め時間0.3秒を達成している。閉じ込め性能はトカマクにおける閉じ込め改善(H)モードと同等であることが示された。核融合プラズマの総合性能を示す核融合積は現在2.3億度・秒・兆個/cm3であるが、これらの性能が1分を超える長時間保持においても劣化せず、定常運転への容易な伸張を展望できることを示している。加熱パワー及びダイバータ排気の整備を進めており、まもなく大型トカマクと比肩できる領域に手が届くようになっている。なお、ドイツにおいてもLHDとほぼ同規模かつ超伝導コイルを備えたW7-Xが建設中である。
 また、中規模のヘリカル装置として京都大学にヘリオトロンJが建設され、新しいヘリカル軸配位の実験が始まっている。

(3)逆磁場ピンチ方式
 逆磁場ピンチ方式は、トカマク方式同様にプラズマ電流を発生して閉じ込める方式で、プラズマ電流の立ち上げ時に、トロイダル磁場の向きを反転させることによって、プラズマの中心部と周辺で磁場の向きを反転させ、プラズマ自身に安定な閉じ込め配位を自立的に形成させるところが異なる。
 この方式では、強力なトロイダル磁場を必要としないため、装置の構造を単純化でき、原理的にプラズマ電流を大きくすることが可能であり、その結果として閉じ込め性能の向上、外部からの追加熱装置が不要になるなどの可能性も有する。現在、プラズマの閉じ込めを維持するための技術開発等が課題となっている。
 我が国においては、電子技術総合研究所(4月1日からは産業技術総合研究所)を中心として研究が行われており、これまでに、イオン温度800万度の達成、電子温度1000万度の達成、改良閉じ込めモードの確認、プラズマ-容器壁相互作用を制御するダイバータ配位の最適化などの成果をあげている。しかしながら、現状の逆磁場ピンチ装置は、トカマク装置と比べて規模も小さく、トカマク方式の成果と大きな隔たりがある。なお、臨界プラズマ領域と小型装置の実験領域との中間的なパラメータの実現を目指した次段階高性能装置TPE-RXが1998年末完成している。

(4)ミラー方式
 ミラー方式は、他の方式と異なり直線系で、プラズマ閉じ込め領域の両端部の磁場を強くすることにより、端部からのプラズマ粒子の漏れを軽減する方式であり、装置構造が単純、取扱が容易という特徴を有する。
 しかしながら、端からの粒子の漏れが大きく、エネルギー回収効率が極めて悪いため、1970年代末に、ミラー磁場の両端部にコイルを追加して正負の電位を作り、両端において粒子を電気的に跳ね返して閉じ込めるタンデムミラー(複合ミラー)方式が提案されている。
 この方式は、磁力線に垂直な方向の閉じ込めには磁場を用い、磁力線に沿った方向の閉じ込めは電場の効果で行うという、磁場と電場の双方を用いた閉じ込め方式である。
 最近の研究は、タンデムミラー方式が主体で、筑波大学が中心になって行われており、筑波大学のGAMMA10装置は、世界最大のタンデムミラーで、ミラー端部に千ボルトを越える電位を形成し、1億度以上のイオン温度を達成して熱核融合中性子を観測している。また、ほぼ一様な閉じ込め領域の磁場や装置への良好なアクセス性を活かして高温プラズマの物理の解明や計測技術の開発にも貢献している。さらに高い閉じ込め電位の形成とそれによる高密度プラズマの達成及び電子に関するエネルギー閉じ込め性能の改善等が今後の課題となっている。

(5)その他(球状トーラス方式等)
 近年トカマクのアスペクト比を小さくした球状トーラス方式の研究が進展しており、コンパクトな高温プラズマの閉じ込めが期待できることから、基礎的な研究や装置の大型化が進められている。

2.慣性核融合研究の状況
(1)レーザー核融合
 レーザー核融合は、強力なレーザー光を球殻状の燃料ペレット表面に照射し、表面で発生するプラズマの圧力で固体密度の千倍程度にこれを爆縮して、瞬時に核融合反応を起こさせる方式である。
 このレーザー核融合ではプラズマ閉じ込め用の磁場が不要で、また不純物の問題もないので超高真空技術が不要となるため、この観点からは炉を作りやすいといえる。しかし、レーザー効率が炉としての効率に大きく影響するため、レーザー効率の向上を図ること、1秒間に数回の割合で燃料ペレットを炉に供給し、これに高出力レーザーを照射する技術等が技術的開発課題である。
 我が国においては、大阪大学を中心として研究が進められており、激光ⅩⅡ号による炉心プラズマ発生研究では、1億度以上の高温発生と固体密度の600倍以上の超高密度圧縮が実証され、現在自己点火への実証へ向けて点火等価プラズマの発生のための研究が行われるとともに、新しい点火方式として、最近新しく開発された超高強度レーザーで強制的に爆縮プラズマに点火する「高速点火」の研究が進められており、これにより、より小規模の核融合炉が実現されるものと期待され、注目を集めている。また最近、実用炉に必要なレーザー効率を持つ半導体レーザー励起の固体レーザーが発明され、産業応用との連携で研究開発が進められている。
 なお、米国においては、大型の点火施設(National Ignition Facility:NIF)が建設中であり、2010年頃までにレーザー核融合の点火・燃焼を実証する計画となっている。また、ロチェスター大学では出力30kJの紫外レーザーで投入レーザーエネルギーの2%の核融合出力が得られている。さらにフランスでも米国の点火・燃焼実験計画と同様の計画(Laser Mega-Jule:LMJ)が進められている。
 
(2)重イオン核融合
 レーザーの代わりにビスマス等の重イオンビームを利用して燃料ペレットを爆縮する方式も考えられており、米国等ではそのための重イオンビーム発生装置の開発研究等も進められている。我が国では理化学研究所等の加速器を用いた基礎研究が開始されている。

※1)臨界プラズマ条件:核融合反応を起こすために外部から入れたパワーと重水素・三重水素燃料を用いた場合に核融合反応により発生するパワーとが等しくなるプラズマ条件

※2)自己点火条件:外部からのパワーの注入よりも重水素と三重水素とが核融合反応して発生するパワーが十分に大きくなる条件

※3)単位面積当たりのプラズマに面する壁に100万ワットの負荷(中性子壁負荷)が1年間入射し続けた時に相当する中性子の照射量(MWa/m2)