資料 第13−5号

平成12年11月6日

 

これまでの議論を整理したメモ

下線部:中間取りまとめ以降の議論

◆地球環境問題とエネルギー問題の位置づけ

全ての問題を地球の問題として考えることが必要になった。このことは現代を特徴づける最大の課題である。
 地球環境問題がその典型であり、代表的なものである。その解決には、問題の理解の共有と、全地球的な協力による有効な手段の共同開発という、新しい国際的な協調が必要である。
 エネルギー問題は、地球環境問題と同等の水準の人類の協調課題と言うべきであり、問題の理解を共有し、協調の方法を開発する努力を怠ってはならない課題である。
 緊要性と根本性の観点から見ると、生命科学技術、情報科学技術とエネルギー技術では性格が全く異なる。エネルギー問題は、人類の持続的安定的発展という意味において根本的な重要性がある。
 たとえまだ問題が現実的に表出していないとしても、エネルギー問題が持つ決定的な不可逆性からいって、その努力の開始は早ければ早い程よい。

◆核融合エネルギーの位置づけ

 エネルギーの長期需要予測は、幅広い政策的・社会的オプションに対応したものとなる。
 化石燃料は100年程度の範囲では枯渇は予想されないが、有限という認識は一般的である。また、化石燃料消費に伴う温室効果ガスの排出による環境問題が大きな課題。資源環境の両面から考えて、将来のエネルギーは、燃料の炭素依存から脱却し、大気中に放出する二酸化炭素を低減させる方向へ向かうことが必要。
 これを達成するためには、21世紀末には、省エネルギーが進展する一方、エネルギー供給の主要な部分は、今後開発を進める再生可能エネルギーや原子力などの代替エネルギーで占められることとなる。
 代替エネルギーは、資源的な制約が少なく、経済性、環境保全性や供給安定性に優れ、供給容量の十分であるといった特長を具備している必要がある。核融合エネルギーは、人類にとって無視することのできない一つの有望な選択肢である。
 現在に生きる我々が、これから生まれてくる人類のために果たすべき一つの責任を考えるとき、核融合エネルギー開発を推進することは十分な意義がある。

◆核融合エネルギーの技術的見通し

 核融合エネルギーは、その燃料資源が豊富に存在する。また、核分裂と異なり臨界があり得ない、停止後の残留熱のレベルが低いといった特長がある。このため、一般に核分裂の場合の安全原則といわれている「止める」、「冷やす」、「閉じ込める」のうち、「止める」、「冷やす」については、容易に達成可能である。また、高レベル放射性廃棄物は発生しない。
 核融合炉の研究開発については、プラズマ制御技術が飛躍的に向上し、欧州のJET(Joint European Torus)と日本原子力研究所の臨界プラズマ試験装置(JT-60)がともに入力と同規模の出力を得る臨界プラズマ条件を達成するまでに至っている。この結果、核融合炉を実現させるための最も重要な要件である自己点火条件の達成及び長時間燃焼の実現が十分見通せる状況となっている。
 自己点火条件の達成及び長時間燃焼の実現を行おうとしているのが、国際熱核融合実験炉(ITER)である。ITERの設計では、JT−60による研究成果が国際的に認められ、3年程前の設計と比べてコンパクトとなり、建設費も半分の約5000億円となっている。
 ITERでは本格的な発電を行えない。しかし、ITERにおいては、核融合発電炉の概念を構成する科学的知見や技術の大部分が発電炉に近い規模で実現されることから、大きなステップを超える。ITERによる研究開発が順調に進展した場合、本格的な核融合発電の実証を目的とする原型炉の建設は2030年頃に可能になると見られている。

◆我が国が設置国に名乗りを挙げるか挙げないかに関する検討

(1) 国際的役割

 我が国が今日目指すべき国際的役割とは、単なる経済的な貢献というものであってはならず、知識・知見の創造、国際的な問題解決のための積極的な技術の提供といった、新しい姿への脱皮である。この観点が科学技術基本法の制定などの背景の一つとなったことは高く評価される。
 日本の研究の多くが、従来は他国の建設した施設や装置を使い、様々な業績を上げてきた。今後は、世界の研究者が研究に献身できるような環境を我が国に持ち、研究においてもリーダーシップを発揮することにより人類の知的資産の蓄積に寄与し、国際社会に大きく貢献するべきである。

(2) 科学技術的潜在力

 我が国においては、核融合に関する研究開発が大学等において広く行われており、得られた成果は国際社会でも高く評価されている。ここで培われた研究者、技術者の存在は、ITER計画を支える基礎となるものである。裾野の広さがITER計画を実現たらしめる原動力であり、我が国は十分なポテンシャルを有している。
 経済成長を成し遂げる上で重要であった高い水準の産業技術を活かすことができる。我が国が世界で唯一のITERを主導的に建設することは、この分野の科学技術力及び産業技術において世界のトップの地位を長期間維持できることとなる。

(3) 日本社会の倫理性からの評価

 核融合エネルギー開発は、私的利益を離れて未来の人類を思う公共的計画である。従って、公共的意識を発現する場を国家が国民に対し提供する有効な一つの例になりうる。(国内的条件)
 我が国の憲法が国際緊張を引き起こさないことを基本的な条件としていることや、原子力の平和利用の推進の実績、製造技術等の分野における先端技術・科学の拡散、普及、支援努力といった経験の積み重ねにより、我が国は国際的な信頼感を得ている。(国際的条件)
 国内、国際の両側面から、我が国が核融合エネルギー開発を主導することが、受容される条件は整っている。

(4) 投資の必然性

 研究開発に対する国の資源配分を考えた場合、国民全体という見地からの広義の安全保障、国家という規模で行われる国際的機能は、プライオリティの高いものとと考えられる。ITERはこのような範疇に入っている。
 核融合炉実現までに必要な費用の推定を正確に行うことは困難であるとともに、それ以上に核融合炉実現によって得られる利益についてはほとんど推定不可能のため、ITER計画への投資額の妥当性について明確な定量的判断を下すことは現時点では無理である。
 現時点で経済効果を論じるのは無意味であり、核融合エネルギーに対して行う投資は、あたかも人類の将来の自由度を保障する保険料であると見なすべきことになろう。
 ITERの建設費は約5000億円でありこれを国際的に分担することとなる。仮に、その多くを我が国が負担するとして、その妥当性について現時点で厳密な判断はできないものの、未来の人類のための保険料という意味で、価値がありかつ意義がある投資である。

 ITERの設置国になる場合には多くの責任を伴う。設置国になる場合には、その責任を全うする強い意志を継続することが不可欠である。その責任は設置する国にあるとともに、設置する国内においては設置する自治体にとっても重要な意味を持つ。
 国際協力で進められることから、各国の利益のぶつかり合いのなかで責任を分担しあうことが要求される。
 研究開発の過程においては、多くの技術的困難に遭遇する可能性もなしとは言えず、その場合には、打開に主導的な役割を果たすことが求められる。
 ITERを設置する場合には、これまで我が国が経験したことのない貴重な機会となる。
 核融合は何十年もの歳月をかけて世界各国が国家的に取り組み、今後も取り組みを続けようとするものであり、投下される資源や費やす年月が大きくなる。国民の十分な理解を得なければその推進は不可能。十分な理解を得られるよう不断の努力が必要。

 

○その他の留意点

 設置国に名乗りを挙げるか挙げないかを判断するに必要な、他の事項はあるか。
 これまでの検討内容は、国内の研究者更には国民に対して十分説得力を有するものとなっているか。