資料第12−1号

第11回ITER計画懇談会議事要旨(案)

 

1.日  時: 平成12年7月24日(月) 16:15〜18:40

2.場  所: 虎ノ門パストラル 本館8階 けやきの間

3.出席者:

(原子力委員)藤家原子力委員長代理、遠藤委員
(委   員)吉川(弘)座長、荒木委員、飯田委員、井上委員、猪口委員、今村委員、大河原委員、木田委員、草間委員、クラーク委員、伊達委員、藤原委員、宮委員、村上委員、吉川(允)委員
(説 明 者)茅 慶応大学教授

4.議  題
(1)ITER計画懇談会の審議再開について
(2)エネルギー需給及び代替エネルギーのフィージビリティーに関する検討報告書について
(3)核融合エネルギーの技術的実現性 計画の拡がりと裾野としての基礎研究に関する報告書について
(4)その他

5.配付資料
資料第11−1号 第31回原子力バックエンド対策専門部会議事要旨(案)
資料第11−2号 ITERに関する最近の動向について
資料第11−3号 エネルギー需給及び代替エネルギーのフィージビリテイーに関する検討報告書
資料第11−4号 核融合エネルギーの技術的実現性 計画の拡がりと裾野としての基礎研究に関する報告書
資料第11−5号 核融合エネルギーの実現に向けた総合的な開発戦略について
参考資料1 ITER計画懇談会構成員
参考資料2 懇談会における論点の整理と今後の課題について(平成10年3月 原子力委員会ITER計画懇談会)

6.概  要:
(1)事務局より、ITER計画懇談会の審議再開に至った経過及びITERに関する動向について、報告があった。

(2)エネルギー需給及び代替エネルギーのフィージビリティーに関する検討報告書について報告書を纏めた検討委員会座長の茅先生から報告があり、質疑・応答及び意見があった。

独は原子力から脱退を表明し、その代替エネルギーとして風力、太陽が有力としている。しかし、エネルギーとして必要な要素は、コスト、安定性、ロットであり、これらを満たさないエネルギーは、現実的なエネルギーとして扱えないと考えている。風力、太陽光等はこれを満たすことが難しく、その原因はエネルギー密度が低いためであり、エネルギー転換技術がいかに進んだとしても基幹エネルギーとしての利用は難しい。離島等での利用は考えられても、基幹エネルギー源にはならないと見ている。また、これは現段階の技術の問題ではなく、将来的にも難しいと思っている。

報告書では原子力は必要となっているが、独のエネルギー政策をどう捉えているかとの質問があった。
 これに対し、独の専門家は、今の政権下では、撤退のスタンスをとるしかなかったが、将来的に政権交代があれば、見直しがあると見ている旨説明があった。

独の原子力反対運動は感情的なところがある。80%を原子力で賄なっている仏から電気を買うことになればどうなるか等矛盾を含む。未だチェルノブイリ事故の影響もあるだろうが、将来もう一度原子力ブームになる可能性もあるのではないか。

核融合のまとめに「核融合は、・・、場合により、核融合の導入が起こらないこともありうる。」(報告書p19)と記述されており、核融合をやる必要はないという議論になると思われる。「地球環境を重視したエネルギー需給シナリオにおいては、核融合は2050年以降に合理的コストでエネルギー供給源となる可能性がある」となると、ITERより他のオプションへ研究開発費をまわせとならないかとの質問があった。
 これに対し、たしかに「核融合は、・・、場合により、核融合の導入が起こらないこともありうる。」との1文を記述したが、その後には、「核融合は、2050年以降に合理的コストでエネルギー供給源となる可能性がある」との文章を入れた。検討会委員の中で、全面的に核融合をやるべきとの総意にはならなかった。その理由の第1は、FBRとの技術・コスト面での比較において現段階で核融合が優れていると言い切れないこと、第2の理由は、核融合の技術がまだ実証されておらず、それを需給シナリオに入れられないことが挙げられる。そのための表現を記述した。しかし、将来性をまったく無視できないとの評価から、後段に前向きな表現をした旨説明があった。

座長より、科学的な面でどう考えるか政策的決断を下すための材料を用意して頂いたと考えており、その決断のための議論を進めていきたいとの発言があった。

報告書にある「他分野を圧迫しない程度に」という記述は納得できるが、先端技術開発と同時に、汎用技術の立て直しに関する視点も必要ではないか。日本においては、技術が総崩れになってきているとの印象を持っているが、日本の技術水準をあげ、新しい科学立国をめざす上でITERへの参画は重要と考えているとの意見が出された。
 これに対し、エネルギーに関しては、国際的に負けないよう総合的に進める必要がある。幸い、エネルギー分野は、日本が世界に先駆けて進んでいる分野の一つである。しかし、原子力が、世界、日本でマーケットが伸びなくなっており、産業界のシュリンク、技術者の士気低下が心配である旨説明があった。

米国では再生エネルギーは足踏みになっているが、その要因は何か。再生エネルギーが本格的に採用された場合の環境上の問題点の検討状況について質問があった。
 これに対し、米国で再生可能エネルギーが足踏みとなったのは、80年代にとられていた優遇措置がなくなったのが要因と考えられる。風力については、コストは下がってきているが、相当な騒音が出るのが問題との説明があった。

エネルギーについては政策判断が重要であり、各国の政策上の合意が必要と考えるが、エネルギー予測の分野は多様で、国際的合意を得られるシミュレーションを行うことは難しいと聞いている。近い将来、国際間で合意が得られる予測が出る見込みはあるのか。コストも含めた技術的なフィージビリティは国際的にどこまで合意されているのか。そのような議論の場はあるのかとの質問があった。
 これに対し、エネルギーの需要予測については、大きな意見の相違はなく、国際的にも合意されていると考えている。一方、エネルギー供給のシナリオについては、政策の判断に大きく依存する。また、技術的な合意の例として、例えば、太陽光発電による水の電気分解、水素ガスの製造・輸送ということは、技術的には可能ということで、エネルギー供給のオプションとしてとりあげられているが、コストは高いとされている。核融合については、まだ技術的に可能なオプションとは言えないというのが、エネルギー供給を考える専門家たちの認識である。各国の政策を議論する場としては、APEC等があり、途上国と先進国が共通の土俵を作ろうということが話し合われている旨説明があった。

(3)核融合エネルギーの技術的実現性、計画の拡がりと裾野としての基礎研究に関する報告書について、報告書を纏めた検討委員会座長の井上委員より説明があり、質疑応答及び意見があった。

一兆円(FDR)を5千億円(コンパクトITER)に設計変更した説明を、バナナのたたき売りと誤解されないように、FDRのこの部分は原型炉での開発に送った等スケールダウンしたデメリットを明確に説明した方が良い。
 これに対し、コンパクトITERとなったことのデメリットは、出力の減少により、中性子の発生が減少し発電ブランケットの試験領域が狭くなったことである。また、燃焼時間の減少により、プラズマの制御時間が若干少なくなったことである。エネルギー増倍率については減少しているが、これはアルファ加熱率で見ると大きな差ではない旨説明があった。

原型炉に向けた課題として、定常運転技術に関し、既存のトカマク装置を活用とあるが、日本にITERが建設された場合の既存トカマク装置とは何を指すのかとの質問があった。
 これに対し、JT−60の改修が計画されている。予算的には、従来のJT−60の運転維持費程度内で行うもので、ITERとオーバーラップしない旨説明があった。

ITERの後半に実験する計画であった発電用ブランケットは、コンパクトITERになっても同じ計画なのか、それともスケールダウンするのか。中性子照射試験はコンパクトITERで中性子の発生が減少することから、IFMIFを建設することになったのかとの質問があった。
 これに対し、発電用ブランケットに関する実験はスケール・ダウンする計画である。また、中性子照射試験に関しては、FDRにおいても中性子照射量は十分ではなく、原型炉に向けてはITERとは別に中性子照射施設が必要であることに変わりはない旨説明があった。

環境影響とエネルギー収支の表(報告書p28, 41)はトカマク方式だけ検討したものか、他の閉じ込め方式の場合はどうなのかとの質問があった。
 これに対し、表はトカマク方式を想定している。他の方式については現時点ではデータベースが揃っていないが大幅な違いにはならないと予想している説明があった。

コンパクト化の考え方については国際的に同じ理解なのかとの質問があった。
 これに対し、米国を含めて4極の国際的な共通理解を得て、コンパクト化を決めた旨説明があった。

原型炉を見通して開発すべき事項に先進炉方式の研究が記載されているが、「トカマク型よりも優れた方式が出現する可能性を重視」(報告書p271)とはどういう意味かとの質問があった。
 これに対し、軽水炉は現在でも改良が進められているのと同様であり、万が一トカマク方式の定常運転がうまくいかない場合にステラレーターなどの出番が出てくる可能性や、もし何らかの状況で磁場閉じ込め方式のコストが高過ぎるとなった場合に慣性閉じ込め方式が出てくる可能性があるということである。この場合、スケジュールが延びるが、今進めている研究は方式が違っても適用可能である旨説明があった。

国際協力としての意義に関し、「我が国が主導的に実施」と説明された点については、我が国が設置国となるという意味かの質問があった。
これに対し、そのように意図している旨説明があった。

人材の養成及び充足に関し、ITERあるいは核融合を進めると原子力産業技術者の減少の歯止め策に役立つと考えられるのかとの質問があった。
 これに対し、核融合と原子力は共通性が多く、現在でも大学で核融合研究をした学生が原子力分野の技術者として活躍している。そういう意味での養成は現在も行われており、ITERが建設される段階になればITERを通して活性化すると考える旨説明があった。

ITER計画は、米国の参加も含めてと考えて良いか。仮に日本にITERを建設する場合、大半が日本負担ということになる懸念はないか。日本が突出するのではなく、4極が一緒に行っていく事が重要であるとの意見があった。
 これに対し、日本が主導的な役割を果たしたいとの希望が関係者にあるが、ITERは最初から4極共同で行ってきたものであり、協力して行うのが重要である旨説明があった。

核融合の人材養成に関し、女性登用、育成への配慮はなされているのかとの質問があった。
 これに対し、核融合分野では既に女性が進出しており、研究環境としては整っていると考えている旨説明があった。

ビックサイエンスであるITERの様な平和利用のプロジェクトに米国も含めて皆で協力して行うことになれば、米国の安全保障面での役割とトレードオフ関係になりうる可能性がある。また、安全保障上どういう意味を持つかということとトレードオフ関係で協力がなされれば、不要な安全保障面の投資を防ぐことにもなる。ビックサイエンスで米国が参加しているプロジェクトの中において、ITER計画をどのように活かせるかという視点を思慮してもよいのではないか。

(4)その他  

遠藤原子力委員より、今後の議論に資するための参考として以下の補足説明があった。
 民間非営利組織であるITERカナダがオンタリオ州政府のバックアップで積極的に誘致活動を行っている。カナダのセールスポイントは、場所が決まっていること、米国に近く米国が復帰しやすいこと、トリチウムを扱っていること、英・仏語圏であること、研究者のための社会インフラが整っていること、電力・労働賃金が安いことであり、カナダ政府としても来年4月末頃には正式提案するかもしれない。さらに、「ITERカナダ」以上に強力なライバルが出てきそうである。これらの2点を踏まえて、日本としてどのように対処するかを本懇談会で検討して頂き、その結果を踏まえて原子力委員会としても態度を決定していきたい。日本が提案すれば簡単に誘致できるという状況ではなくなりつつある。

座長より、競争相手が出てくることになると、今までのような条件を固める議論から、視点を変えた議論を行う必要が生じてる。次回懇談会では国際的な状況について議論したい。公開である本会議で、どこまで議論できるか含めて議論したいとの発言があった。

また、以下のような意見があった。

核融合が、井上先生の説明の通り技術的実現性について見通しのあるものであり、本当に必要性があれば、何処の国にも設置できるものでなくてはならない。また、どのようにすれば日本にもってこられるかとの議論になる。一方、茅先生の話によると、何処の国に設置しても構わないとの議論になる。その政策判断は本懇談会ではなく、原子力委員会や当局が行うしかない。

政策論の問題として事務局なりが考えるべきとの話の前に、考えるべき点がある。核融合はまだ一度も発電を実証していないから将来の革新的エネルギーの中にカウントできない状況にあるとされている点は、論理の組み立て上理解しにくいので、よくご検討頂きたい。

座長より、懇談会の役割についても、次回以降議論する必要がある。最近のサイエンスに係わる政策判断は難しい状況にある。エネルギー問題も生命科学と同じように、過去における要件の整理、整合性だけで解けるものではもはやない。日本が何をするべきかについて、コモン・センスが大事である。懇談会はそういう意味で重要な意味を持っており、各委員が一般人として発言する場所であると思っている。しかし、科学の進歩にコモン・センスをどう反映させるかという、過去に例がない難しい設問が懇談会に課せられていると認識している。

どこの国にITERを建設しても同じとは思わない。日本は資源の少ない国であるが人材は誇れる資源である。ITERの誘致に関しては、理系の人材の育成・発展をどうするかに関わって来ると考える。他国に比べて、日本は政治的に安定性が高いというのが一番の有力な点だろう。

以上