エネルギー需給及び
代替エネルギーのフィージビリティー
に関する検討報告書

 

 

平成12年6月


目  次

はじめに

1.エネルギーの長期にわたる需給調査
 1−1.エネルギーの長期にわたる需給に影響する因子
 1−2.需給シナリオのレビュー
 1−3.化石燃料資源
 1−4.地球環境問題
 1−5.エネルギー利用形態と変換技術
 1−6.まとめ

2.代替エネルギーのフィージビリティースタディー
 2−1.原子力エネルギー(核分裂エネルギー)
 2−2.再生可能エネルギー
 2−3.核融合
 2−4.まとめ

結論


はじめに
 ITER計画懇談会は原子力委員会の下で、「我が国の国際熱核融合実験炉(ITER)計画の進め方について、社会的・経済的側面を考慮し、長期的展望にたった国際社会のなかでの役割りも見通した幅広い調査審議を進める」ことを目的として設置され、科学技術的側面だけでなく、さまざまな社会的な意義について検討を行い、平成10年はじめに中間報告をとりまとめた。中間報告は、「当懇談会は、我が国がITER計画に置ける設置国になることの意義が非常に大きいことを理解した」とする一方、「...しかし問題の検討を通じて、我が国が設置国になることを決断するために明らかにしなければならない課題が示された。」として、
(1)エネルギーの長期にわたる需給調査
(2)代替エネルギーのフィージビリティースタディ
をはじめとする6項目について検討課題を提示している。本報告書は、上記の2課題について検討を行った結果である。
 検討に際しては、エネルギー需給について、現在世界で広く用いられているエネルギー需給・環境モデルや温暖化問題の分析のために利用されている統合モデル(IAM:Integrated Assessment Model)による分析のサーベイを行い、21世紀におけるエネルギーのあり方を資源および環境制約のもとで検討し、核融合を含む現在開発中のエネルギー源についての位置づけを試みた。新たに核融合エネルギーの位置づけを含む需給モデルを作成することはせず、むしろ、検討にあたっては、ITER計画懇談会で指摘しているように、「特定産業分野や特定の価値観に基づく生活様式に偏らず、可能な状況をできるだけ広く設定」することに配慮し、特定の世界観に基づくシナリオの提示ではなく、社会構造やライフスタイル等を考慮に入れ、広い範囲での政策オプションを提示するべく留意した。
 検討の結果は、21世紀の100年間において、幅広い社会のシナリオを視野に入れた場合、必ずしも再生可能エネルギーや核融合が重要となるオプションばかりではなく、さまざまなシナリオがありうることが示されている。また、再生可能エネルギーや核融合など代替エネルギーについても、実用化に至る道のりは決して平坦ではないことも明らかにしている。
 本報告が、核融合の位置づけのみならず、将来のエネルギー源について考えるときの一つの視点を提供できるようであれば幸いである。

 

1.エネルギーの長期にわたる需給調査
1−1.長期エネルギー需給に影響する因子
 現在、広く発表されている21世紀後半を視野に入れた長期のエネルギー需給シナリオでは、人口、経済成長、省エネルギー、技術進歩、資源制約、環境制約、グローバリズム・リージョナリズム、国際協力、社会制度(福祉・教育など)、産業構造、ライフスタイルなどが主に考慮されており、これらは相互に関連するとしている。
 人口については、現在の約60億人が、2100年には、70億人とするシナリオから、150億人といったシナリオまで幅広くあるが、中間的なものは100億人である。
 経済成長については、現在の約30兆ドル(実質GDP1990年価格)が、2100年には、200兆ドル程度とする堅実成長シナリオから、300兆ドルを越える高成長シナリオまである。これを地域別に見た場合、途上国を中心とした高成長シナリオでは南北格差が縮小し、低成長シナリオでは、拡大する場合が多い。また、経済成長は人口とも関連し、南北格差が縮小した場合、出生率の低下を通じて、人口の伸びは鈍化する。
 省エネルギーについては、年平均の一次エネルギー原単位改善率が年平均0.8%程度とする控え目な見方から、1.4%程度に達するとする積極的な見方まである。また、省エネルギーは、技術進歩、環境制約、産業構造およびライフスタイルとも密接に関連する。
 技術進歩については、高めの見方から堅実な見方まであるが、技術進歩の力点がどのエネルギーに置かれるかによって、将来どのエネルギーが主力となるかに大きな影響を与える。また、地球温暖化の観点からは、特に、CO2を排出しない革新技術とCO2回収技術が重要である。
 資源制約については、石炭、非在来型の石油(オイルサンド、ヘビーオイルなど)、非在来型の天然ガス(コールベッドメタン、タイトサンドガスなど)も含めれば、2100年までを視野に入れても、化石燃料にある程度余裕があるとする見方が一般的である。
 環境制約については、環境税を想定したシナリオ、CO2排出量規制・濃度規制を想定したシナリオ、環境に高い関心を有する社会を想定したシナリオなどがある。環境制約を課せば、化石燃料から非化石燃料へのシフトがおこることになる。
 社会制度(福祉・教育など)については、福祉・教育の向上が死亡率・出生率を下げる方向に人口に影響を与え、教育の向上が環境への関心を高めるといったシナリオがある。
 産業構造については、例えば、情報技術の進展とその技術の先進国から途上国への積極的な移転が、省エネルギーにつながるといった側面がある。このようにして、発展途上国が早期の経済成長に成功し、現在の先進国に近い産業構造、エネルギー利用、ライフスタイルに近づけば、人口増加に歯止めをかけると同時に、エネルギー需要の安定化に資することになる。
 ライフスタイルについては大別すると、従来通り物質的豊かさの追求と経済成長を重視する方向と、従来からの転換を図り地球規模・地域規模での環境保全を志向する方向とがある。前者は現在先進国が享受している物質的豊かさ・ライフスタイルを今後も先進国・途上国とも志向するイメージである。後者はこまめに電気を消すなどの省エネやリサイクル活動が社会的に発展し、ゼロエミッション・循環型社会、あるいは大気汚染・温暖化防止装置の積極利用を志向する社会のイメージである。
 グローバリズム・リージョナリズムについては、現在の経済のグローバル化、文化の均質化がさらに進んで行くグローバリズムの方向と、逆に地域固有の文化を重視し、経済のブロック化により地域経済を保護するリージョナリズムの方向がある。前者では経済活動や資源利用が効率化し、技術開発が進展する。後者では地域の公平性・独自性・主体性を重視した地域共存型の世界となる。なお、前者のアプローチが、高い経済成長と技術進歩をもたらす傾向にある。
 国際協力については、先進国から途上国への活発な技術と所得の移転を想定し、途上国においても省エネルギー及び環境対策が進展するシナリオなどがある。

 

1−2.需給シナリオのレビュー
 超長期の世界エネルギー需給シナリオの代表的なものとして、IIASA(International Institute for Applied System Analysis)/WEC(World Energy Council,世界エネルギー会議)の"GlobalEnergyPerspectives"、IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change,気候変動に関する政府間パネル)のシナリオ、地球環境産業技術研究機構(RITE)で実施している「地球再生計画」の技術シナリオなどがある。

(1)IIASA/WECの"Global Energy Perspectives"
 IIASA/WECの"Global Energy Perspectives"は、経済成長、技術進歩、環境制約、国際協力に関する見方によって、高成長、中成長、環境重視の3つのシナリオによる分析を行っている。
 高い経済成長と技術進歩を想定する高成長ケースでは、現在約90億トン(石油換算)である一次エネルギー需要は、2100年には450億トンに達することになる。このケースはさらに、技術進歩の力点がどのエネルギー源に置かれるかによって、将来どのエネルギー源が主力となるかが決まるとの考え方に立ち、石油・ガスが主力であり続けるシナリオ、石炭に回帰するシナリオ、原子力・再生可能エネルギーが大きく伸びるシナリオの分析を行っており、現在約60億トン(炭素換算)であるCO2排出量は、2100年には、石油・ガス主力シナリオでは約140億トン、石炭回帰シナリオでは約200億トンに達するが、原子力・再生可能エネルギー重視シナリオでは、約60億トンと現状程度となる。
 環境重視ケースでは、省エネルギーが進展するため、2100年における一次エネルギー需要は高成長ケースの半分以下の210億トンとなる。これに加え、環境税・CO2排出規制により非化石燃料へのシフトがおこるため、2100年におけるCO2排出量は現状の3分の1以下の20億トン以下となる。しかし、このケースについては、多くの専門家から非現実的だとの指摘もされている。
 最も現実的とされる中成長ケースでは、2100年における一次エネルギー需要は約350億トンであり、CO2排出量は約110億トンであるか、特定のエネルギーへの極端なシフトは起こらず、化石燃料が引き続き中心となる。
原子力については、社会的受容性の要請あるいはエネルギーシステムのダウンサイジィング・分散化の圧力に対応しきれずにフェーズアウトしてしまうケース(環境重視ケースの1つのシナリオ)を除き、2100年でおおむね16−25%のシェアである。
 このように、一次エネルギーについては、様々なバリエーションがあるが、最終エネルギー消費については、より使いやすくクリーンなエネルギーが普及する一方、固体の比率が低下することではすべてのシナリオが共通である。具体的には、電力、ガスなどのネットワークによる供給形態、ガス、メタノール、水素などの燃料の比率が高まっていく。

(2)IPCCのシナリオ
 IPCCでは多くのシナリオをレビューした上で、4つの代表的なシナリオ群を提示している。
主として、環境・社会制度(教育・福祉など)などへの関心の高さ(AシナリオとBシナリオ)とグローバリズムかリージョナリズムか(第1シナリオと第2シナリオ)という観点から4つのシナリオ群(A1、A2、B1、B2)による分析を行っている。

A1「高成長社会シナリオ」群
 グローバルな対応が途上国を中心とした高めの経済成長と大きな技術革新をもたらす。過去100年間の平均経済成長率(年約3%)が今後100年間も続くとし、2050年の一人当たり所得は世界平均で2万米ドルを超える。とくに発展途上国の成長がめざましく、南北の格差が急速に縮まる。これにより途上国の出生率は下がり、世界人口は2050年の90億人から2100年には70億人に下がる。急速な経済の拡大は、大量のエネルギー資源を必要とし、資源開発や新エネルギー開発への投資が加速する。途上国の食生活が肉食嗜好に急速にシフトし、集約的農業に移行する。先進国から途上国への技術移転も進み、途上国の技術革新や自動車保有が早まる。環境問題の解決はマーケットによって大きく影響を受け、環境保全というよりも環境管理や創造の観点から解決が図られる。
 このシナリオ群は、エネルギー・システムにおける技術革新の選択肢が異なる3つのグループ、即ち、石炭のクリーン利用技術や石油と天然ガス関連の技術革新が顕著なシナリオ群(A1FI)、新エネルギーの大幅な技術革新を見込んだシナリオ群(A1T)、そしてこれらの技術革新がバランスして生じるシナリオ群(A1B)に分かれる。

A2「多元化社会シナリオ」群
 世界の各地域が固有の文化を重んじ、多様な社会構造や政治構造を構築していくことが、政治・経済のブロック化につながることを想定している。このような社会では、国や地域の間に常に緊張関係が生じ、国際的な貿易や人の移動、技術の移転が制限される。このため、経済成長も技術進歩も低めで推移する。一人あたり所得も2050年で7000ドル程度と伸び悩む。地域間の自然資源や資産格差が南北格差をますます拡大する。このため出生率は低下しないため、人口の伸びは高めとなり、来世紀末の人口は150億人に達する。また、資源の少ない地域では技術開発への投資が加速されるが、経済成長が低めであるため一般的に技術革新は遅れ気味となる。地域主義に起因するグローバルな環境への関心が低いエネルギー需給は石炭回帰となり、CO2排出量は最も大きくなる。

B1「持続発展社会シナリオ」群
 資源利用の効率化(脱物質化)、社会制度、環境保護に集中的に投資が起こる。また、廃棄物の減量化やリサイクルが進み、資源利用の効率化やリサイクルの活性化によって環境産業の市場が急速に拡大し、これが経済成長の持続に大きく貢献する。経済成長率は高成長シナリオ群よりは低くはなるが、2050年の一人当たり平均所得は1万3千ドルに達する。発展途上国では、先進国からの先端技術の移転が進み、これに伴い教育やキャパシティビルディングも大きく進展する。このため、いわゆるショートカットと呼ばれる発展パターンに乗って、途上国の公害対策が著しく進展する。公共交通システムが整備され、都市構造はコンパクト化し、低投入・低負荷型農業が普及する。自然保護を推進することにより農産物価格は相対的に高いが、肉食への食生活へのシフトは抑えられる。

B2「地域共存型社会シナリオ」群
 環境や社会への高い関心に基づくが、地域の問題と公平性を重視してボトムアップの方向で発展を図るシナリオ群である。マーケットにまかさずローカルな政府の政策が発展を牽引する。教育と福祉向上政策により、発展途上国の死亡率、出生率の双方が下がるため、人口は来世紀末で100億人程度となる。国際マーケットよりも地域の共存を重視する分、経済成長はやや低めとなり、2050年で一人当たり所得が1万2千ドルとなる。個人間及び南北間の所得格差は縮小する。技術移転などの途上国支援は、国際的な統一ルールではなく2国間で別々に進められる。地域的な独立性が高まり、地域毎の経済圏や政治システムが発達していく。これにより、エネルギー、食糧、環境などの問題は、各地域の中で主体的に解決が図られる。

 以上の4つのシナリオ群を前提にして温室効果ガスを予測した結果、「高成長社会シナリオ」群(A1)の中の新エネルギーの大幅な技術革新を見込んだシナリオ群(A1T)のCO2排出量が最も小さくなり、現在のレベルをかなり下回る。また、「持続発展社会シナリオ」群(B1)においても、CO2排出量は現在のレベルをわずかに下回る。なお、最も温暖化対策にやっかいな社会はA1シナリオ群ではなく、意外にも「多元化社会」を指向したA2シナリオ群である。

(3)地球環境産業技術研究機構の「地球再生計画」の技術シナリオ
 「地球再生計画」の技術シナリオにおいては、CO2排出量・濃度規制とCO2処分技術及びCO2を排出しない革新技術の組み合わせによりシナリオ設定を行っている。
 環境制約の度合いと、CO2処分や革新技術の有無に従って10のケースについて、外生で与えられた最終エネルギー需要を満たすコスト最小のエネルギー供給構造を提示するというものである。
 まず、環境制約をかけないケースでは、2100年におけるシェアは、石炭約85%、他の化石燃料を含めると約9割となり、かなり極端な石炭回帰となる。原子力はフェーズアウトし、再生可能エネルギーは1割程度である。
 先進国(COP3のAnnex1)のみCOP3対応による排出量規制(1990年の排出量と比較して5.2%削減)を行ったケースでも、2100年において、石炭が約8割、他の化石燃料を含めると約9割、原子力2.5%、再生可能エネルギー約1割強と環境制約をかけないケースとほとんど変わらない。
 途上国を含めてCO2排出量規制(1990年の排出量の200%以下)を行ったケースでも、2100年で石炭約6割、他に化石燃料を含めると7割弱、原子力8%、再生可能エネルギーは約2割強とマグニチュードこそ変化するものの、基本構造は通常ケースとあまり変わらない。
 これに対し、COP3対応標準ケースに加えて、濃度規制(2100年におけるCO2濃度を550ppmに)を行ったケースでは、2100年において、再生可能エネルギーが約5割強とエネルギーの主力となり、化石燃料約4割のうちガスが2割強をしめる、原子力は1割弱である。
 上記のケースに加え、CO2を排出しない革新技術(具体的に技術を想定した訳でない)が導入されたケースでは、2100年で再生可能エネルギーと革新技術で約6割を占めることになる。これに対し、上記のケースに加え、CO2回収技術が導入されたケースでは、2100年で化石燃料が約6割、そのほとんどが石炭という石炭回帰となる。

 ここまで(1−1.1−2.)、シナリオ設定にあたって考慮される因子及びそれらを考慮した主要なシナリオについて概説したが、以下(1−3.1−4.1−5)において、このうち特に、重要な因子である化石燃料資源、地球環境問題等につき述べる。

 

1−3.化石燃料資源
 IIASA/WECの"Global Energy Perspectives"によると、世界の化石エネルギー資源の1997年初における確認埋蔵量は石油約1兆バレル、天然ガス約5千兆立方フィート、石炭約1兆トンである。

 埋蔵量を当該年の生産量で除した値(可採年数R/P比)を見ると石油は40年、天然ガスは50年程度で枯渇するとも考えられる。ただ、液体需要、ガス需要、固体需要を満たすこれら化石エネルギー資源には、天然ガスからの合成燃料(GTL(Gas to Liquid))、石炭の液化、ガス化等相互に利用形態を補完する技術が開発されており、とりわけ資源量が最も多い石炭からの転換利用技術の発達は石油、天然ガス資源の不足を補い得るものとして注目される。更に、ガス化複合発電、燃料電池など化石エネルギーを燃焼利用するに際しての熱効率向上、省エネルギー技術も発展が著しく、これらは資源が枯渇に向かう速度を抑制する方向に働くことが期待される。
 加えて在来型と呼ばれるこれらの石油、天然ガス資源に対しオイルサンド、オイルシェール、コールベッドメタンなど非在来型と呼ばれる資源が在来型と同量あるいはそれ以上に存在する。非在来型の化石エネルギー資源は採掘ならびに利用に際しコストの上昇が避けられないが、既にカナダのオイルサンドなど一部の非在来型化石エネルギー資源は商業生産が行なわれている。

 表は前述のIIASA/WECによる長期エネルギー需給見通し(Global Energy Perspectives)で想定している化石エネルギーの資源量を示したもので、利用可能な資源量として用いているのは資源ベースまでの領域で追加発見量は資源量の全体を示すための参考値としている。従って膨大な資源量が存在すると見られるメタンハイドレートについては利用可能な資源量の範疇に含まれていないが、見通しで描かれたいずれのシナリオにおいても、化石エネルギーについて基本的に量的な制約がないという判断に立っている。
 以上のように石油、天然ガス、石炭の各化石エネルギー資源は非在来型の資源量を含めると量的には豊富にあり、これらの資源をどの程度採掘し利用するかはむしろ資源制約以外のファクターにより決定されるものと見られる。とりわけ最も大きな影響を与えるのは燃焼利用に際して発生する二酸化炭素の量であり、他の化石エネルギーと比較して発生量の少ない天然ガスの利用が増加傾向にある。化石エネルギーはいずれも炭化水素を主体とするため利用の際に二酸化炭素の発生が避けられないことから、発生量を低減する意味からも熱効率向上技術の開発が欠かせない。また、発生する二酸化炭素を回収し再利用あるいは地中、深海に投棄する技術の開発も行なわれており今後の進展が期待される。

 

1−4.地球環境問題
 現在、世界の商用エネルギーの9割を占める化石燃料資源は全体として見ればある程度余裕があると言えるが、問題は化石燃料消費に伴う環境への影響である。地球環境問題としては、熱帯林、酸性雨等の問題があるが、特に深刻なのは、温暖化の問題である。
 地球温暖化は、海面上昇、海流への影響、自然植生の変化、農業への影響、水資源への影響、自然災害の増加、熱帯病による健康影響等をもたらす可能性があると見られている。
 しかし、地球温暖化問題への取り組みを難しくしている最大の要因は科学的な不確実性である。近年のIPCCの活動により科学的知見が深まったとはいえ、温暖化のメカニズムや炭素の放出・滞留・吸収には科学的な因果関係が不明確な点がある。また、気温上昇幅や環境や経済への影響も不明確である。さらに地球環境問題への取り組みを難しくしている点は、各国の国益に絡む経済成長・開発と南北間の公平性を両立することで、持続可能な成長を達成することとも関係していることである。また将来世代との公平性も議論となり、将来への影響を如何に評価するかも難問である。いずれにせよ、温室効果ガスの放出をこのまま放置すれば、今後100年程度のうちに急速な温度上昇が起こるということは確かとみられている。そのため何らかの方法で温室効果ガスの放出を抑制する必要がある。
 したがって、温室効果ガスの濃度の安定化が重要であるが、これは人類のエネルギー消費の大きな足かせとなる。IPCCはCO2の大気中濃度安定化に向け世界のCO2排出曲線を作っているが、それによると産業革命以前の2倍の数字としてよくあげられる大気中CO2濃度550ppm安定化の場合、世界のCO2排出を百年の範囲で現在レベル以下に押さえる必要がある。CO2排出は、燃料転換、省エネルギー、経済成長の3因子に分けて考えることができるが、550ppmを仮に目標とした場合、それを達成するためには、省エネルギー、燃料転換ともに相当の努力が必要であり、その達成は容易ではない。そして、最終的には化石燃料からの脱却を考えなければならない。今後の発展途上国の経済成長とそれに伴うエネルギー消費の大きな伸びが予想されるなかで、2100年には現状のCO2排出よりも下げるのであるから、550ppm安定化目標の達成は容易ではないとの見方が多い。

 

1−5.エネルギー利用形態と変換技術
 長期のエネルギー利用形態については電力、ガス等のネットワークによる供給形態の比率が高まり、燃料としても、ガス、メタノール、水素など炭素原単位の低いものが志向されていくこととなろう。具体的には原子力、天然ガス、化石燃料と二酸化炭素回収技術の組み合わせ、バイオマスなどからの組み合わせが検討されている。短中期的には、省エネや植林を進めるとともに、天然ガスや原子力の導入や、化石燃料を利用するもののそこから排出されるCO2を回収する手段をとるのが現実的であり、これらの観点からも当面は、既存技術の利用が重要となろう。また多くの発展途上国では、現在、非商業用のバイオマスに依存しており、エネルギー利用が先進国とは異なる面も多い。この観点から、少なくとも当面は、途上国においては、非商業用のバイオマスをどのようにクリーンに利用していくかが1つの課題となろう。
 エネルギー変換技術の将来を考えた場合、短中期的には電気と熱を合計した総合的なエネルギー利用効率の向上が大規模機器/分散電源両面で大きな可能性を持つといえる。
 例えば、最近のコンバインドサイクルの変換効率の向上はめざましく、1985年に43%程度であったものが、最近では50%程度となっており、さらなる向上が見込まれている。また、コジェネレーションの総合効率は70−80%に達することが可能であると言われている。さらに、リパワリングによっても、ガスを利用して蒸気を高温化することにより総合効率を向上できる。なお、1995年から2004年の間に世界で新たに建設される発電プラントのうち、コンバインドサイクルとコジェネレーションは、それぞれ21%、4%のシェアを有する。
 また、今後のエネルギー需給形態が従来の大規模集中形から分散形へ向かう傾向も考慮におく必要がある。先進国においては、熱と電力の複合利用が進む傾向にあり、中小規模の需要家の要求に密着した形での電力供給が分散電源を生んでいる。経済開発が一定レベルに達して急速な需要の拡大が見込まれないこと、大規模立地の可能な地点が減少すること、産業構造の変化や、電力自由化に伴う中小発電事業の発生も分散化に向かわせる方向である。
 このような分散型電源への対応として、様々な新しい発電方法が開発されている。代表的な技術はマイクロガスタービンと燃料電池である。これらはいずれも流体燃料を利用し、コジェネレーションにも対応が可能であり、様々な規模、方式で開発が進められている。燃料電池は、使用温度領域により発電方式が異なるが、中小規模の発電に適し、モジュール化してかなりの大型化も可能である。室温近傍で使用される燃料電池は、最近自動車への搭載を目的として目覚ましい開発が進んでいる。
 一方途上国でも中小規模の独立電源の必要性が指摘されている。これは、経済開発段階では大規模集中電源が必要であるものの、比較的初期の段階では巨大電源が市場規模にあわないこと、送配電網等社会的なインフラが十分でないこと、孤立した中小コミュニティの電力需要への対応が必要であること、などのためであり、需要地の実情に即した技術が必要となる。
 流体燃料の脱炭素化も予想される。従来の化石燃料が採掘された物質の化学組成を大きく変えずに使用しているのに対し、炭素およびその化合物の持つ化学エネルギーを利用しつつ、炭素含有量を減らした合成燃料を製造し、供給するのがこの技術である。過渡的にはメタノールなど炭素含有量の低い低級炭化水素を現在使われている燃料技術へ代替することが容易であり、普及が予想されているが、最終的には炭素を全く含まない水素への移行が考えられている。これらの燃料は、原動機での使用の他、燃料電池等上記分散電源での使用も考えられる。いずれにしても、これら合成燃料は製造にエネルギー源を必要とする2次エネルギーであり、化石燃料や先進型を含む原子力による一次エネルギーを用いて、燃料改質や、水の電気分解などによって作られる。原子力による電力や数100℃以上を発生する先進型の原子力からの熱源もこのためのエネルギーになりうる。
 今後のエネルギー技術の開発においては、エネルギー源それ自体の開発においてエネルギー需給形態の変化に対応すべく、大規模集中型の電源のみならず、分散型の電源の開発、燃料転換も併せて進めて、また変化への対応を行っていく必要がある。なお、これらの技術についても経済性や環境保全性が要求されるのは当然のことである。

 

1−6.まとめ
 エネルギーの長期にわたる需給といった場合、一般には20年先(2020年)程度までが経済的なモデルによる予測可能な範囲内であり、それ以降のエネルギー需給は、技術、政策、社会構造、ライフスタイルの選択が、大きな影響を与えるため変化の幅が大きくなる。特段の環境制約を課さないシナリオでは、化石燃料消費とCO2排出が増大し、環境対策が進まないが、CO2濃度の安定化を目標に環境制約を課すシナリオでは、省エネルギー、非化石燃料(再生可能エネルギー、核エネルギー)への転換が進むことになる。シナリオには様々なバリエーションがあるが、図1から図3は特段の環境制約を課さないシナリオとCO2濃度の安定化を目標とするシナリオの一例である(図1−図3)。
 主要なシナリオにおいては、化石燃料が有限であるという認識は共通であるものの、石炭、非在来型の石油・天然ガスまで含めれば、ここ100年程度の範囲では、全体としての化石燃料の枯渇は予想されていない。
 一方、化石燃料消費に伴う環境への影響、とりわけ、地球温暖化はより深刻な問題であり、大気中の地球温暖化ガス、なかでもCO2の濃度安定化が重要な課題となっている。
 CO2の排出は、CO2原単位、エネルギー原単位、一人あたりGDP、および人口に振り分けて考えることが出来る。削減対策技術としては省エネルギー(エネルギー節約と効率向上)、低炭素放出エネルギー(バイオマスや天然ガス等への燃料転換)、非炭素排出エネルギー(新エネルギー、原子力)、植林やCO2回収・有効利用・処分が挙げられる。
 550ppm安定化を目標とした場合、それを達成するためには、比較的近い未来には,化石燃料消費が中心である一方、省エネルギー、燃料転換、植林、CO2回収などの技術によってCO2の発生を抑制することが必要となる。長期将来には、化石燃料からの脱却を図っていくために、更なるCO2回収処分や再生可能エネルギー、核エネルギー等の技術も重要となってくる。
 このようなシナリオを実現するためには、特に先進国が自国において環境に留意した政策オプションを実行し、エネルギーR&Dを進める一方、発展途上国の環境対応(特に、二酸化炭素排出の抑制)に留意した経済開発支援を実現していくことが重要である。

図1 環境制約を課さないシナリオの例

図2 CO2制約を課したシナリオの例

図3 CO2排出量

 

2.代替エネルギーのフィジビリティスタディ
 将来のエネルギー源は地球温暖化に伴う温室効果ガス排出制約等の環境制約と、最終的には資源制約により化石燃料からの脱却を図る必要がある。狭義には代替エネルギーは石油を代替するエネルギーを意味することもあるが、ここでは化石燃料と、それを代替し将来的にはエネルギー供給に大きな役割を果たす可能性のある各種のエネルギーについて、技術的フィジビリティだけでなく、以下の点について、検討し、評価を行った。
 ◯エネルギー資源の限界と供給力
   資源量、技術開発の現状、将来像
 ◯エネルギー源の制約要因と社会的適合性
   環境、廃棄物、コスト、社会的受容性、他
 ◯代替エネルギー開発の政策的ストラテジー
   各エネルギー源の現状と今後の利用開発計画
 このようにすることによって、各種エネルギー源について、それぞれの観点から長所や欠点が分析できると共に、適応するエネルギー源の選択基準について考察することができる。

 

2−1.原子力エネルギー(核分裂エネルギー)
 原子力は、他の発電技術と比較した時、以下のような特徴がある。

 原子力は、先進国を中心に、電力供給において重要な役割を果たしている。発電コストについては、化石燃料より高い試算が出ている国と低い試算が出ている国がある。燃料費の割合いは低い。また、核燃料物質や放射性物質の取扱いに関連して技術的、社会的な面から追加的なコストを要する面もある。
 原子力の燃料資源は、現在ウランのみであり、陸上の鉱山からの資源では21世紀中に供給不足になる可能性がある。一方、海水中には極めて大きな量のウランが存在し、この回収技術が開発されるとほぼ無尽蔵となる。回収技術は、まだ市場競争力を持つ程ではないが、実用レベルに近づいている。
 技術開発については、現在の主流である軽水炉の高度化や低コスト化、また次世代軽水炉と呼ばれる小型化、単純化炉や、さらに先進的な小型の高温ガス炉などの開発が進められている。ウラン資源を有効利用する高速増殖炉の開発にも大きな努力が払われており、技術的には実用化の可能性がある。高速増殖炉の開発は上述のウランの供給不足への対策となりうる。一方、核燃料サイクルについては、特に使用済み燃料や、その再処理に伴う高レベル廃棄物の最終処分については検討課題が残されており、開発が進まない場合、導入量の制約となる可能性がある。
 環境制約については、原子力では発電に伴って温室効果ガスを発生しないため、地球環境問題に対しての大きな寄与が期待される。シナリオにおける位置づけについては、温暖化問題への寄与等を考慮してエネルギー需給において重要な役割を果たすと見るものから、社会的受容性の困難さを想定して、フェードアウトするという見方もある。
 エネルギー需給シナリオでは、再生可能エネルギーと同一のカテゴリーに入れて細分化しない、あるいは供給量の上限を外生的に与えてケーススタディを行う、などの取扱いがなされている。将来供給の主力となる形式でも、軽水炉、高速増殖炉や、小型の超安全炉など様々な見方がある。IIASA/WECは、小型で安全対策が十分な原子炉の導入を社会的受容性のファクターと考えている。

 

2−2.再生可能エネルギー
 再生可能エネルギーは、IPCCやIIASA/WECのいくつかのシナリオでは、21世紀末には、化石燃料に代わって、エネルギー供給の主力となるシナリオも検討されている。再生可能エネルギーのカテゴリーには非常に多くのエネルギーが含まれ、水力、太陽光、太陽熱、バイオマス、風力,地熱、海洋(波力など)などが含まれる。

(1)水力
 水力資源については、先進国を中心にかなり開発が進んでおり、温室効果ガスを発生しない電源として重要な地位を占めている。負荷追従性も良好である。電力貯蔵の意味の揚水発電も使用されている。ダムの建設に好適な地点はほとんど開発されており、これ以上の立地はあまり期待されないとする見方が多い。また、大規模ダムの開発は地域環境に大きな影響を与える恐れがある。

(2)太陽
 太陽エネルギーは現在の消費エネルギーの約1万倍と極めて大きな資源量を持つが、エネルギー密度は希薄である。太陽エネルギーには、熱利用もあるが、ここでは、最近有望視され、各国で盛んに推進されている太陽光発電について述べる。
 太陽光発電は、従来経済性が最大の欠点とみられていたが、技術開発及び政策的支援により、モジュールあたり1974年の2万円/Wから1996年には600円/Wまで大幅に低下してきており、効率も多結晶シリコンでここ10年間で12%から17%に向上している。しかし、太陽電池本体のコストダウンは最近減速しつつある。効率向上には原理的な制約があり、20%が上限と見られている。
 太陽光発電が21世紀後半には、かなりの程度導入されると考えるシナリオは多い。これは地球環境と社会的受容性の問題でそれぞれ化石燃料と原子力の利用が進まない場合を考えたときに最も制約が少なく、価格が高くとも市場に入りうるためと考えられる。
 太陽光発電は昼夜,天候,季節によって出力が大きく変動するため、社会活動を支える大規模電力としては、出力安定性の面で問題がある。この変動性のため、電力系統への連係には追加的なコストが必要であり、実際には数10%を超えての供給は難しいとの見方が多い。
 一方,資源制約,環境制約についてはほとんど問題がなく、経済性を別にすれば技術的に実用段階にあるため、小口の独立電源としてなるべく早期の普及が望ましい。また、地域や状況によっては経済性がある場合もある。将来のエネルギー供給における分散電源化に対する適合性もよいが、この場合安定した電源や電力貯蔵との組み合わせが必要である。
 大規模に利用するためには、需要地から離れて用地が広くとれかつ日照の大きい地点に立地し、得られた電力を水素に転換するなど何らかの方法で安定した供給源に作り替える必要があろう。

(3)風力
 風力発電は、太陽と同様、潜在的な資源量が大きく、技術的にはかなり成熟しており、風況のよい立地点では現在の技術レベルでも発電コストは商用として競合可能であり、今後も導入が進むとみられる。世界的にも、デンマークや米国、ドイツなどかなり大規模な導入をはかっている国もある。小口の電源として、離島や僻地での利用にも適している。しかし我が国では良好な立地が限られており、また需要地に遠いところが多いとの指摘がある。

(4)地熱
 地熱も同様に潜在的供給量、コスト共に良好な資源であるが、立地可能地点が限られるため、大規模な利用は困難とする見方も多い。

(5)バイオマス
 バイオマスは、生物の作用によって回収された温室効果ガスをまた大気中にもどすだけなので、再生可能なカーボンニュートラルのエネルギーオプションである。また資源量は極めて多く、途上国にも広く資源としては分布している。陸上の総バイオマス量は世界のエネルギー消費の100倍近くに相当し、毎年光合成により世界の年間消費量の10倍近くが生産されている。利用形態としては、現状では途上国における燃料としての直接利用は大きな割合を示すが、先進国でも、廃棄物の処理に関して発生するバイオマスは、資源としてはコストはかからず、有望なエネルギー源である。
 木材系統の製材残余やスクラップ、黒液、あるいは食料農産物の穀物やサトウキビの残余などは利用しなくとも環境汚染や二酸化炭素源となるものであり,廃棄物としての処理問題が生じるものであるため、そのエネルギーとしての利用はコスト的にも有利であり、積極的な利用が望まれる。将来的にはバイオマス発電や、生物化学的・熱化学的変換によるメタンやメタノール燃料への転化も可能であり、将来の燃料資源として有望視されている。
 しかし、利用地域とエネルギー供給量はそれぞれの廃棄物を発生する産業構造に関係するため制約を受ける。また、厳密には燃料としてのハンドリング過程での二酸化炭素放出や,利用に伴う森林の伐採などが関連しているため、バイオマスの利用過程全体としては必ずしもカーボンフリーではない。バイオマスは、廃棄物のほかに、プランテーションでエネルギー作物を生産し、利用することも可能ではあるが、この場合は耕地の利用に伴う食糧などの生産との競合、耕地そのものの供給の問題があり、資源量、コスト、効率も不利になるため、ことに新たにエネルギー作物を生産することには大きな利点は見られない。

 

2−3.核融合
 核融合エネルギー源は、資源的には制約条件は現在予想されていない。実際に消費する燃料資源は重水素とリチウム金属であり、これらは海水中に豊富に存在し、利用技術も見とおしがある。また、*核融合反応の本来を持っている性質により、安全対策が比較的容易であり、需要地近接立地の可能性があると期待される。運転に伴い低レベル放射化物の発生があるため、これらは適切な施設で100年かそれ以上の期間、管理する必要がある。材料開発により放射化物の量を軽減できる可能性がある。核融合は、燃料サイクルが簡便であり、再処理、高レベル廃棄物処理処分の必要がなく、核分裂性物質の扱いに伴う国際管理も必要としない点は、多くの国で普及に利点があると考えられる。
 核融合の技術開発は、現在は実験炉の建設を可能とする段階まできている。現時点ではまだ発電を実証できる段階には至っておらず、エネルギー源としての技術的なフィージビリティーを実証できるまでにはあと約30年を要するとみられており、それ以降の時点でバックストップとしての有効な供給技術となる可能性がある。経済性や他のメリットを確立して他エネルギーと競合できるまでには、さらに研究開発が必要である。
 核融合発電所は、基幹電源として100万kw級が設計例として示されており、原子力発電所を建設、運転、維持できるだけの社会的技術的な基盤、たとえば電力供給網のある社会でなければ適合しにくい。定常的運転の特性からベースロードに適する一方、季節、時間変動の大きな需要地、小規模で分散した需要家には必ずしも適さず、この意味で未来の分散電源システムへの適合性を考えた場合に不利な点がある。
 核融合は、現在開発が進められている核分裂炉と同様、高温熱源を取り出すことが可能であるため熱利用が可能であり、多目的工業利用の可能性もある。高温熱源としての利用が可能であれば化学工業への熱供給の形で、あるいは燃料製造を通じた2次エネルギーとして分散電源で有望視されている燃料電池やマイクロガスタービンなどへの燃料供給の形で、将来型のエネルギーシステムには適応できる可能性がある。
(*)核融合では、施設の保有する放射性物質の総量の潜在的な危険性が、現行の同規模の原子力と比較すると約1/1000であり、放射性物質は扱うもののその安全対策ははるかに容易であるとみられている。また、反応の停止も容易である。)

 

2−4.まとめ
 将来のエネルギー源にとっては、これまで見てきたように、資源的制約が少ないこと、環境問題,特に二酸化炭素排出の削減に有効であること、安定供給が可能でエネルギーセキュリティ確保に有効であること、コスト等が重要である。また、既存の社会的インフラ、送配電網に適合することなど社会的な適応性も必要であるが、将来的には、燃料転換や分散電源などの新しいエネルギーシステムに対応できることも要求される。将来のエネルギー源としての条件についての評価は、政策や社会制度についての選択によって異なるものであり、また導入量によってコストも影響を受けるため一概にエネルギー源ごとの優劣をつけることは適当でない。

(原子力―核分裂)
 原子力は資源制約,環境制約とも少なく,安定供給が可能である。現在でも軽水炉は価格競争力もあり、当面の二酸化炭素削減に最も有力なエネルギーオプションの一つである。今後はより燃料資源の制約の少ない高速増殖炉や、小型安全炉など社会的に普及しやすい炉型等の技術開発も進むと考えられる。一方現在のところ社会的な受容の面で立地に困難があり、また長期的には使用済み燃料や高レベル廃棄物の処理処分も事業が円滑に進まない場合には制約条件になる恐れがある。
(再生可能エネルギー)
 再生可能エネルギーのうち太陽、風力は、潜在的にはこれらの条件のほとんどを満たしうるものであり、早急な普及が期待されている。現在のところコストが高い問題については、かなり強力な経済的支援策が講じられている。将来的にはエネルギー供給のかなり大きな部分を担う可能性もあると期待されている。安定供給が困難であるため、電力系統においてある一定以上の割合を占めるためには、電力貯蔵や、WE-NET構想等による新たな技術課題の克服が必要と考えられている。
 バイオマスも潜在的な資源量、環境影響では優れている上、技術的困難も少なく、IPCCのシナリオなどでは代替エネルギーの主力として期待されている。廃棄物処理としてのバイオマス利用は有効であり、利用の拡大が期待される。しかしエネルギー作物を作っての資源化は土地の有効利用やエネルギー効率の観点から現実的でないとする見方が有力である。

(核融合)
 核融合は,21世紀前半についてはエネルギー需給を検討する場合には市場参入が想定されないので、検討の対象とはなりにくい。また21世紀後半においては、エネルギー供給の可能性はあるものの、技術的・経済的・社会的なフィジビリティ、すなわちコストや社会への適合性について、十分定量的なデータがないため、主要な長期エネルギーシナリオにおいて、21世紀後半に於いても明示的には位置づけられていない。
 核融合は、原子力発電所の代替に適するとの見方もあるが核分裂と比較して特段に有利な条件があるかは未知数で、場合により、核融合の導入が起こらないこともありうる。核融合発電のコストは、現在技術的に見通せる範囲では、将来さらに合理化されるであろう軽水炉や、化石燃料による火力発電に競合することには困難が予想される。技術的な習熟などによって核融合発電のコストが低下する一方、化石燃料の価格やその環境対策コストが上昇した場合、地球環境を重視したエネルギー需給シナリオにおいては、核融合は2050年以降に合理的コストでエネルギー供給源となる可能性がある。
 核融合が大規模集中電源であることは、利点であるとともに小型電源需要に対応困難であることを示す。いずれにしても,21世紀後半での世界的エネルギー需給への貢献を考えた場合には、その時のエネルギーシステムへの適合性を念頭に、柔軟性を重視して幅広く検討し、その可能性を高める方向に開発を進める必要があろう。
 各種代替エネルギーとの比較において,核融合はポテンシャルとしては、資源制約,環境適合性、供給力において有望なものの一つとしての資質を示している。しかし、一方では他の代替エネルギーと比較した場合、他が規模の大小と経済性の問題はあるものの、エネルギーの発生を実用的に有効なレベルで実証しているのに対し、核融合ではまだエネルギー供給を示せる段階にないという点では、いくつかの実用化段階にある技術と同列に扱うことは適当でない。

 

3.結論
 資源環境の両面から考え、将来のエネルギーは燃料の炭素依存から脱却してなんらかの形で大気中に放出する二酸化炭素を低減し、地球規模で濃度を安定化させる方向へ向かう必要がある。そのためのエネルギー関連技術としては、省エネルギー、再生可能エネルギー(太陽エネルギーの直接間接利用)、核エネルギー、燃料転換、二酸化炭素回収等が考えられるが、現行の利用形態では将来の基幹エネルギーとなるには超えるべき課題が多い。このような技術には様々なレベルがありえ、現在から近い将来の対策として、省エネルギー、燃料転換、効率的エネルギー変換技術、二酸化炭素処理技術の開発が進むと考えられる。一方長期将来での抜本的な解決を目指すものとして、核融合を含め様々な非炭素エネルギーの革新的な利用方式の開発を進め、地球環境の保全とエネルギー供給の確保を図っていくことが重要である。

(1)エネルギーの長期にわたる需給調査
 エネルギーの長期にわたる需給と言った場合、一般には20年先程度までが経済的なモデルによる予測の可能な範囲内である。それ以降のエネルギー需給予測は政策や社会的な選択によって大きく異なり、社会構造やライフスタイル等を考慮に入れると、幅の広い政策的・社会的オプションに対応したものとなる。これらは大別して過去の歴史の外挿として人類の未来を予測する立場から、「人類社会はかくあるべし」という規範的な立場に立つものまである。現実的には、現状を踏まえ、種々の制約の中で理想を求める形で、この2つの立場の間でシナリオが検討されている。
 いずれのケースにおいても、化石燃料が有限という認識は共通であるが、ここ100年程度の範囲では化石燃料資源の枯渇は予想されない。化石燃料の価格と消費については,様々な予測が立てられている。一方、化石燃料の消費に伴う地球の温暖化現象はより深刻な問題として認識されており、環境問題が来世紀の人類のエネルギー消費にとって、資源量よりもより切迫した、主要な制約となると考えられている。
 この共通認識のもとで、社会の選択に応じて多くのシナリオが描かれる。その中には、経済成長を優先した結果、エネルギー消費は大きくなるが技術革新によりクリーン化が急速に進むシナリオ、エネルギー消費を押さえたライフスタイルが普及することによって温暖化ガス排出が抑制されるシナリオ、経済成長を最優先して環境汚染が進むシナリオなどさまざまなシナリオがある。将来における地球環境問題の制約の大きさの観点から、シナリオは二酸化炭素排出に対する考え方やこれに関する具体的対策を軸に考えることで整理することもでき、省エネルギー、エネルギーの二酸化炭素排出低減、経済成長、の側面でエネルギー需給は記述される。当面先進国では省エネルギーが進む一方、多くの発展途上国で経済開発が進展し、エネルギー生産/利用の技術の変化が各所で進む。
 世界的に見れば、比較的近い未来においては化石燃料消費が中心である一方、省エネルギー、化石燃料での燃料転換、二酸化炭素回収など利用可能な技術によって二酸化炭素の発生を抑制することが中心となる。長期将来には、再生可能エネルギー、核エネルギー等の革新的なエネルギー利用方式により、化石燃料からの脱却をはかることになる。
 これが長期的なエネルギー需給の予測の一般的傾向であるが、経済性、技術開発および政策的選択によってバリエーションがある。特段の環境制約を課さないシナリオでは化石燃料の消費と二酸化炭素の排出は増大を続ける。環境対策を重視する立場に立てば、人類が省エネルギーを進める一方で、エネルギーの炭素依存からの脱却をはかりつつ、大気中二酸化炭素濃度の安定化を目指してより二酸化炭素放出の少ないエネルギー源への転換とその供給を確保し、途上国も含めた経済発展を推進して、持続可能な発展をはかることになる。
 このようなシナリオでは21世紀末には、省エネルギーが進展する一方、エネルギー需給の主要な部分は、今後開発を進める再生可能エネルギーや原子力などの非化石エネルギーで占められることが示される。核融合も実現すればこのカテゴリーに入る。この目標の実現にはそれなりの取り組みが必要であり、考え得る対策を総動員する必要があると見られている。特に先進国が自国において環境に留意した政策オプションを実行し、エネルギーR&Dを進める一方、発展途上国の環境対応(特に、二酸化炭素排出の抑制)に留意した経済開発支援を実現していくことが重要である。

(2)新しい代替エネルギーのフィジビリティ
 今後、経済発展と安定したエネルギー供給、地球環境保全の要求を同時に満たすためには、21世紀中にエネルギーの二酸化炭素排出低減を図っていく必要がある。そのためのエネルギー源は、資源的な制約が少なく、経済性、環境保全性や供給安定性に優れ、供給容量も十分であるといった特長を具備している必要があり、このような条件を満たしているエネルギー源の開発と普及が必要である。二酸化炭素排出低減のための技術でもいろいろなレベルがあり、二酸化炭素回収から革新的なエネルギー利用技術まで、技術開発の進展とコストの見方にもよるが、考えうる対策をできる限り導入すれば二酸化炭素濃度の安定化は可能であると考えられる。この目標の達成は容易ではないとみられており、広範な技術開発の展開が望まれる。
 代替エネルギーのフィジビリティについては、程度の差こそあれ、ほとんどがその技術的な実現性と潜在的可能性がほぼ確認できている。しかし、社会的、経済的な観点では、いずれの代替エネルギーについても、今後の開発、普及の見通しは必ずしも楽観できるとは言えない要素を持っており、特定の単一のエネルギー源が将来においてに十分な供給力と価格競争力、社会的受容性をもって世界の需要の大半をまかなうと現時点では断言することはできない。
 従って、代替エネルギーについては、広範なオプションについて可能性を最大限生かせるように開発を進めることが必要となる。各種の代替エネルギー源の開発を広範に進め、それらの中から、環境への配慮と経済性、ライフスタイルや社会的価値観により、それぞれ最適なエネルギー供給構成を「ベストミックス」として選んでゆくことになる。将来のエネルギー需給システム、利用技術の進展への対応も考慮に入れる必要がある。
 大気中二酸化炭素濃度の安定化のためには、当面有効な対策である燃料転換や省エネルギー、二酸化炭素抑制に有効な技術の振興と、将来的に有望な革新的エネルギー技術の開発が考えられているが、両者には、異なるアプローチが必要である。具体的には、地球再生計画に示されるように、前者は省エネルギー、化石燃料での燃料転換による炭素低減化、低炭素放出のバイオマス有効利用などが挙げられ、市場化の促進のための機動的な支援策が必要である。一方、後者についてはさらに加えて革新的エネルギー利用技術の開発や二酸化炭素吸収源の拡大がそれに該当し、その時々の経済状況に左右されない長期的視野に基づく、着実な開発の推進が重要である。
 エネルギーの二酸化炭素放出低減のためには、技術レベルによって様々なオプションがあり、広範な代替エネルギーの開発が必要と考えられる中で、核融合は21世紀後半のエネルギー源の一つとしての高いポテンシャルを持つことが理解された。すなわち核融合エネルギーは、実現した場合には、高いレベルの脱炭素化の可能な大規模基幹エネルギーが必要な場合に社会に入りうるものとして、21世紀後半のエネルギー問題を解決する有力な手段となる可能性を持つ、革新的エネルギーの候補の一つと考えられる。核融合の開発にはそのようなエネルギーオプションを可能とするものの実現をめざすものとして意義があると認められる。一方、その実用化が各種代替エネルギーと比較しても遠い将来であること、現時点ではその技術的実現性が実証されていないことから、他の代替エネルギーと同列に論じることは必ずしも適当でないことを銘記する必要がある。そのような性格を踏まえて、核融合については21世紀中盤以降に中核的となりうるエネルギーをめざして、着実な開発の進展が望まれる。

 核融合も含め、実用化の可能性が今後の研究開発の進展に大きく依存するような新しいエネルギー源の開発については、最新の情報に基づいた実用化の時期や規模、及び経済性等の評価を適宜行い、将来のエネルギー需給や地球環境対策といった観点からその意義を確認しつつ、様々な可能性を幅広く模索しつつ弾力的に開発を進めて行くことが重要である。エネルギー技術のR&Dも、限られた予算の制約を受けるものであり、バランスのとれたR&D政策が必要である。ことに大型プロジェクトについては、長期的視野に基づいた柔軟な計画が必要であり、特定の選択に固執することはさけねばならない。
 新しいエネルギー源の開発に関係する政府、研究機関や研究者、技術者においては、エネルギー需給や地球環境対策の動向などを注視して、自らの行っている活動の社会的意義を常に意識の中に置いておくことが重要である。さらに、新しいエネルギー源の開発のこのような意義、目標、開発戦略、開発の進展状況や成果を分かり易い形で発信していくことが、社会の理解と支持を得ていく上で重要であるとの認識を新たにすることを強く望むものである。


エネルギー需給及び代替エネルギーのフィージビリティーに関する検討委員会

構成員(平成11年11月現在)

座長茅 陽一 慶応義塾大学教授
座長代理石谷 久 東京大学教授
 井上信幸 京都大学教授
 内山洋司 電力中央研究所上席研究員
 河本桂一 富士総合研究所主事研究員
 谷口富裕 東京大学客員教授
 本間琢也 筑波大学名誉教授
 巻口守男 電気事業連合会原子力部長
 森田恒幸 国立環境研究所環境経済研究室長
 山地憲治 東京大学教授
 伊藤浩吉 日本エネルギー経済研究所理事・計量分析部長

開催日
   第1回 平成11年11月17日
   第2回 平成11年12月13日
   第3回 平成12年 1月27日
   第4回 平成12年 2月14日
   第5回 平成12年 3月15日