資料第8−4号

議論の整理と今後の課題について(中間とりまとめ骨格案)

平成9年12月1日

            
1.中間とりまとめの位置づけ
(懇談会設置当初の見通し)
・国際熱核融合実験炉(ITER)計画については、平成4年から進められてきている工学設計活動(EDA)が終了する予定であった平成10年7月頃に建設段階への進展があるとの見通しの下に、調査審議を開始。

(情勢変化)
・国際的に工学設計活動をさらに3年間延長する方向で話し合いが進められている。
・国内的には財政構造改革を背景として、今世紀中の集中改革期間内はITERの国内誘致を行わないことが政府の方針として決定された。

・建設段階への進展は、従来想定された時期より遅くなる見通し。

(懇談会の議論の進め方と中間とりまとめ)
・当懇談会の目的である、ITER計画に対する我が国のとるべき対応についての結論のとりまとめは、延長される予定のEDAの進捗、財政構造改革等との関係をも勘案して、今後の適切な時期に行うことが適当。
・しかしながら、来年7月に現行の工学設計活動がひとつの節目を迎えることを踏まえ、現段階において、当懇談会として、これまでに議論してきた事項及び今後議論すべき課題等についてのとりまとめを行うことが適当。

2.将来のエネルギーについて
(エネルギーの将来見通し)
・今後、少なくとも21世紀中は人口の増加が続くとの予想。
・近年の中国、東南アジア諸国などにおける急激な経済成長にともなって、エネルギー需要も同様な急激な増加傾向。
・世界のエネルギー需要は、今後とも増大を続けるとの予測。
・今後、先進国を中心に省エネルギー努力が相当に行われたとしても、将来、世界全体のエネルギー需要はひっ迫するとの見方が大方の予測。

(資源・環境的制約)
・化石燃料の使用量の増加を抑制していかない限り、二酸化炭素の増加問題等の地球環境問題がますます深刻化。
・我が国は石油に関して極めて中東依存度が高いという構造を有していることから、世界全体のエネルギー需要がひっ迫というような事態に直面した場合には、真っ先に影響を受けることが予想。

(エネルギー問題への対処の基本的方向)
・以上のような資源的、環境的制約を考慮すれば、エネルギーを大量に消費する我が国をはじめとする先進国は、今後とも、水力など従来の非化石エネルギーの有効活用や利用の促進、省エネルギーの技術開発に一層の努力を払うとともに、太陽光発電、風力発電、廃棄物発電などの新エネルギー、原子力などといった非化石エネルギー技術を開発利用し、さらに、核融合の研究開発を進めてこれをエネルギーとして実用化していくことなどによって、エネルギー構成を変えていくことが、人類全体の視点からも重要かつ、先進国としての責務。

・基本的には、化石燃料の節約及び使用の抑制につながり、地球環境の悪化を少しでも食い止める効果があり、しかも十分な量を安定して供給することが可能なエネルギーの実用化を目指すことが重要ではないか。

(様々な視点等)
しかしながら、エネルギー問題については、以下のような様々な視点あり。

・エネルギー需要の伸びの予測を前提にして、これに応じるためにあらゆるエネルギー供給手段を尽くしてひたすらその供給量を増強することのみにまい進するという考え方が適当であるのか。
・エネルギーの効率的利用や省エネルギーを実現できるライフスタイルの追求と、今後、太陽光発電等の新エネルギーなどの開発・利用を積極的に行っていくことで問題は解決されるのではないか。
・我々としては、何より将来世代のために、将来のエネルギー源となりうる有力な選択肢を可能な限り維持し、確保する努力を続けることが我々の世代の責任ではないか。
・我が国としては、豊かなエネルギー源獲得という人類全体に貢献する課題に対し、例えそれがリスクが大きく、多大な努力を必要とするものであるとしても積極的に取り組んでいくべきではないか。

・将来の人類社会におけるエネルギーの在り方について、可能な限り多様な視点からの検討を行い、我が国の今後のエネルギー研究開発への取り組みの方向を明確にしていくことが必要。

3.核融合のエネルギーとしての開発について
(核融合エネルギーの特長)
・主たる燃料(重水素)が、海水中にほぼ無尽蔵に採取可能な量が存在する「豊富な資源」という大きな特長を持っていることから、それが実用化されれば、人類の安定的で恒久的なエネルギー源となる大きな可能性。

・主たる燃料が海水中に存在することから地球上に偏在しない。
・少量の燃料から膨大なエネルギーを取り出すことが可能なことから、大規模なエネルギー源として安定的に利用可能。
・核融合反応からは二酸化炭素の放出が無く、地球温暖化問題の原因とならない。

エネルギー源としての観点からみて、以上のような優れた特長を有することから、核融合のエネルギーとしての実用化は極めて重要な課題。

(安全性等に対する見方)
・原理的に反応が暴走しないこと、いわゆる高レベル放射性廃棄物が発生しないこと、核拡散の懸念がないことといった特長を有する一方、放射性物質であるトリチウムを利用すること、施設解体時等には比較的多量の放射化金属が発生することなど、慎重な対応が必要な点もあることに十分な考慮を払うことが必要。

(経済・社会面の問題解決への期待)
・人類にとって豊かなエネルギー源の獲得は、経済・社会が抱える多くの問題解決にも大きな進展をもたらすことが期待される。例えば、今後の世界の不安定要因と考えられる、人口、エネルギー、環境破壊、貧富の格差といった問題をめぐる対立がもたらす緊張関係に、緩和作用を与えるものと期待。

(科学技術面からの意義)
・核融合は、21世紀に残された数少ない未踏の領域を含んだ先進的な科学技術の分野でもあり、その研究開発は、プラズマ科学、核融合科学、核融合炉工学といった核融合分野での新しい学術領域を創出にとどまらず、幅広い科学技術分野の振興に寄与するという側面あり。
・そのような側面が若い人を惹きつける魅力ともなっており、科学技術の人材育成の観点からも、核融合の研究開発に積極的に取り組む意義あり。

(我が国が取り組むことの意義)
・核融合をエネルギーとして実用化に向けていくという課題で、人類全体の問題解決を目指して、あえて科学技術的に困難かつ中長期的にも大きな投資を必要とする科学技術の問題に対してチャレンジしていくことは、少資源国であるとともに科学技術及び経済の先進国でもある我が国が、誇りと自信をもって取り組んでいくにふさわしいものではないか。

(推進に必要な条件)
・核融合は、研究開発によって解決すべき多くの課題を有しており、中長期的かつ継続的に、相当な投資を必要とするもの。

(多様な選択肢の中での位置づけ)
・将来の社会において、核融合エネルギーがどのような役割を果たすことになるのかについては、将来のエネルギー源となりうる有力な選択肢としての他のエネルギーの研究開発との比較も踏まえた専門的な検討を行い、その結果を踏まえての総合的な観点からの判断を行っていくべき。

4.ITER計画の意義と必要性について
(研究開発の現状等)
・現在、我が国の核融合炉研究開発は、原子力委員会が平成4年に決定した第三段階核融合研究開発基本計画にしたがって計画的に推進。
・我が国においては、日本原子力研究所の臨界プラズマ試験装置(JT−60)が、欧州のJET(Joint European Torus)とともに、臨界プラズマ条件を達成するなど、核融合研究開発が着実に進展。

(次の研究開発目標)
・「実験炉」をトカマク型方式で開発。
・その目標は自己点火及び長時間燃焼の達成。
・平成8年8月に核融合会議において、「実験炉」をITERによって実現することが適当であることが決定され、原子力委員会に報告されている。

(明確な戦略の必要性とその確立)
・エネルギーとしての実用化に向けて核融合の研究開発を進めるにあたっては、中長期的かつ継続的に、相当な投資を必要とすることから、明確な見通しの下に、国民の十分な合意を得て進められなければならない。

・まず、技術的な面において、これまでの研究開発の成果に基づいて核融合のエネルギーとしての実現の見通しを示すとともに、その研究開発戦略を明確なものとしておくことが必要。
・また、トカマク型以外の方式の研究開発との関係、核融合炉用材料などの工学的な要素技術開発との関係など、懇談会として、さらなる確認が必要ではないかという意見あり。
・国民の十分な理解を得るという観点で、今後の核融合の研究開発において、核融合研究開発の戦略とシナリを分かり易い形で示すことが重要。
・国民の十分な理解を得ていくためには、正確かつ客観的な情報を幅広く積極的に提供し、国民の関心を獲得していくことが重要。

5.国際協力の下でのITER計画の推進について
(工学設計活動の現状)
・日本、米国、EU、ロシアの4極による国際協力により、工学設計活動を実施中。均等貢献の原則に基づき、日本、米国、EUに置かれた共同中央チームによる設計作業や、各極のホームチームによる工学R&Dが順調に進展。

(工学設計活動の延長)
・現状では建設段階への移行を判断できないとの各国の状況を踏まえ、現行の工学設計活動の期間を、平成10年7月以降3年間延長し、建設段階への円滑な移行を目的として、仮想的なサイトを想定したサイト対応設計等を行うために工学設計活動を引き続き実施することは、我が国の厳しい財政状況という国内状況をも踏まえると適切な対応。

・延長される工学設計活動において実施される予定のサイト対応設計に対しては、建設段階移行に向けての設計の具体化に資するとともに、将来における我が国への立地の是非を判断する際の重要かつ貴重な判断材料を与えることになるため、我が国からも必要な情報を積極的に提供する等の対応をとることが必要。

(コストの課題)
・これまでの当懇談会における議論を通して、ITER計画への我が国の対応の検討を慎重にさせる原因となっているものは、そのプロジェクトコストの大きさである点について、多くの委員からの指摘あり。

 この点については、延長される工学設計活動の期間内において、国際協力のパートナーとも十分な意見調整を図り、その内容の妥当性を吟味しつつコストの低減に最大限努めることが必要。

(主体的な参画)
・ITER計画は今後とも国際協力により推進されることが重要であるが、我が国として主体的に参画していくことが必要。
・そのためには、建設に参加する条件や誘致する場合の条件など、我が国としての基本的条件を明確に示せるよう準備しておくべき。

6.今後の検討課題等について
(今後の検討課題)
・将来の人類社会におけるエネルギーの在り方について、可能な限り多様な視点から、我が国の今後のエネルギー研究開発への取り組みの方向を検討するとともに、様々なエネルギー研究開発の中において、核融合をエネルギーとして実用化に向けていく研究開発がどのような位置づけになるのかを明確にするための、将来のエネルギー源となりうる有力な選択肢としての他のエネルギーの研究開発との比較を専門家を中心とする場での検討が重要。

・様々な方式の研究開発との関係、核融合炉用材料などの工学的な要素技術開発との関係などを総合的に考慮した、核融合研究開発全体の戦略とシナリオを分かり易い形で示すことが重要であると認識しており、この点についても、まずは、専門家を中心とする場での検討が重要。

・そのような検討の結果等を踏まえつつ、当懇談会においては、適切な時期を見計らって、ITERの建設に関し、以下のような課題について調査審議を行うべき。

− ITERを我が国に建設した場合と海外に建設した場合とにおけるメリット・デメリットの比較
− ITERの建設コストの妥当性
− ITER建設費の各極の資金分担のあり方と国内の財政措置についての検討

(以上を踏まえた上での)
− 建設段階への移行の適否
− 我が国への誘致の是非