-国民の理解
-平成9年5月26日-
Ⅰ 核融合開発の意義
(論点)
- ①新しいエネルギー源を創出することにより核融合開発が人類の文明の営み、科学史上に与える意義
- ②核融合開発の実現により可能となるエネルギー問題の解決がアジア地域を始めとする国際社会が抱える緊張感の緩和、人類社会の底辺の問題の解決に果たす役割
- ③現在の各種発電方式との比較におけるエネルギー源としての魅力(現在の核分裂炉と同じ原子力の体系のなかで議論していくことは適当であるのか。)
- ④世界が抱える問題に対する解決の可能性を参加国が団結して探求しようとする国際協力の努力が有する政治的な意義
- ⑤長期的なエネルギー需給の見通し及び人類社会のあり方の議論における核融合の貢献
(論点)
- ①核融合開発のプラス面、マイナス面についての誠実な議論に基づく、核融合の必要性と将来のエネルギー選択肢の幅の提示
- 核融合の主な特徴 資源の豊富さ
原理的な安全性
環境保全性
- ②長期に亘る研究開発への対応
- 考え方の例 1
- 長期間の研究開発を要するものであるからこそ、今から着実に技術の蓄積を図っていくことが必要であり、実用化が21世紀後半であるからと言って技術開発を止めたり、遅らせたりすると、いつまでたっても実用化の見通しが得られないのではないか。
- 考え方の例 2
- 限られた人的、財政的資源であるから、技術開発の優先度の判定が重要であり、現実に直面している課題の解決を最優先するべきではないのか。
- 考え方の例 3
- 核融合は燃料問題の解決と、環境問題の対応面で非常に優れた特徴を有しており、現在のエネルギー源によって供給が支えられている間に、核融合発電の実現を図る必要があるのではないか。
- ③技術開発の開始時点、計画決定時点においては心配な点、不確かな点が存在する技術開発課題についての対応方針
- 考え方の例
- 技術開発の進展については必ずしも楽観的な面ばかりではないと思われるが、解決できる見通しがあれば勇気を持って開始するべきではないか。但し、解決できないことが判明した場合には、速やかに中止する決断ができることが重要である。技術開発の健全性はこのような計画管理が実現できるか否かではないか。
- ④核融合技術開発の段階についての見極め(基礎的研究を継続するべき段階であるのか、開発研究に進むべき段階であるのか)
Ⅱ ITERの実現可能性と計画の妥当性
(論点)
- ①技術目標の妥当性
- ②想定されないリスクが生じる可能性及びその対応策
- ③核融合分野におけるこれまでの経験則のITERへの外挿性
- ④計画開始当初における予想と現時点における技術開発の困難さへの認識の差とその対応策
- ⑤各要素の技術開発から、一つのシステムに統合する際の困難さへの認識とその対応策
- ⑥実現までに必要な技術開発課題と想定する開発期間の妥当性
- ⑦計画の規模の妥当性
- 考え方の例
- 膨大な金額が必要とされるプロジェクトについては、スケジュール及び規模などで無理のない仕様にするべきであり、研究開発の面においても コスト意識を持って取り組むべきである。
(論点)
- ①将来の核融合炉の基礎的な技術及び要素の実証可能性
- ②段階的開発計画におけるステップの幅の妥当性
- ③核融合炉実用化の実現可能性とITERとの関連
- ④ITERから核融合炉の実用化までを視野に入れたシナリオの策定
- ⑤他の方式(プラズマ閉じ込め方式)との関連、資源の適切なバランスの確保
- ⑥「炉本体」のみならず周辺の技術開発全体を見通した計画の提示
- ⑦ITERにかかるコストと生じる利益との関係
(論点)
- ①ITER計画による一般科学技術への影響あるいは新規科学技術分野の創出の可能性
- 考え方の例 1
- ITER計画のみならず核融合分野は、学問的にも学術・文化的にも興味ある大事な分野であり、どのような新しい学問が構築されうるのかといった点について議論を深めることが重要
- 考え方の例 2
- ITER計画については、人類に対して無尽蔵のエネルギー源となり得る核融合技術の科学的原理の実証を確実にすることのみをもっても開発を進める意義は十分
- ②科学技術分野における新たな国際共同プロジェクトのモデルとしての可能性
- ③ITERが利用され得る科学技術活動の範囲
- ④ITERによって得られる技術成果の波及効果
- (参考)
- -核融合は人類がこれまでに実現できなかった高温のプラズマ状態を作り出し、そのふるまいを研究することにより、新しい学問の分野を開きつつある。例えば、磁場閉じ込め研究開発においては、核融合プラズマは非線形物理学の研究対象の宝庫とされ、磁場とプラズマの相互作用の研究は、宇宙プラズマの挙動の理解にも貢献している。(核融合会議「核融合研究開発の推進について」(平成4年5月))
Ⅲ ITER計画に対する国際的観点
- ①国際組織としての適切な運営形態の実現
- ②安全文化(Safety Culture)、設計思想が異なる国々が集まって共同作業を進めることによる新たな困難さへの認識と対応
- ③計画開始時点においては予想し得ない他極の動き、変更に対する柔軟性の維持
- ④文化的背景・基盤、ものの見方・考え方が異なる国際パートナーの中での立地国の責務
- ⑤計画段階から他極と伍して議論を進めていくことへの準備と能力
- ⑥国際協力によって生じる意志決定に要する時間の長さ、計画の硬直性に対する対応
(論点)
- ①ITER計画の推進によってもたらされる新たな国際環境の見通し
- ②エネルギー問題の解決に向けて努力によって実現され得る国際的な協調と和解
- ③開発段階から実用化段階までを見通した国際協調関係の展望
(論点)
- ①国際的話し合いの中における我が国の自主的・主体的対応の実現
- ②財政面、社会経済面等における各極の状況及び計画の進捗を踏まえた現実的な対応
- ③立地または非立地の選択に必要な環境と適切な時機
- 考え方の例
- 立地の判断に当たっては、他の参加極からの相応な資金貢献に対するコミットが不可欠
- (参考)国際的話し合いのスケジュール
- 平成9年末頃まで 準備的協議段階 選択肢の絞り込み等
- 平成10年早々 国際協議段階 協定ベースの検討
- (平成10年7月協力活動内容の合意)
Ⅳ 我が国の対応方針を検討するための基本的視点
(論点)
- ①ITER立地のプラス面とマイナス面の双方についての認識
- プラス面の例
- ・立地国に対する信望の高まり(プラス面)
- ・施設の建設・運転に直接携わることによるノウハウの取得等は立地することによって得られるノウハウ
- ・原子力産業界のポテンシャルの活用及び維持
- マイナス面の例
- ・長期にわたり、多額の資金をITERという単一プロジェクトへ投入することによる他分野の研究開発への圧迫(科学技術資源も無制限ではなく、我が国の場合は全体科学技術関係経費の数パーセントを30年以上費やすことになる点について十分な議論が必要)
- ②立地しない場合における計画への参加の形態
-大規模プロジェクトへの取り組み-
<米国・技術評価局(OTA)報告書(1995.7)>
(例) 立地した場合のプラス面 | ・科学技術及び政策的プレステージ高揚 |
| ・経済効果(運転経費等) |
| ・地域振興(産業の集積等) |
立地した場合のマイナス面 | ・ハイテク部分は参加極間で分配 |
| ・通信技術によるアクセスの容易さは変わらず |
| ・放射性物質の取り扱い責任 |
<OECD・メガサイエンスフォーラム(1995.6)>
(例) 立地した場合のプラス面 | ・政策的プレステージ、管理運営に有利 |
| ・経済効果(地域産業、産業技術の進展) |
立地した場合のマイナス面 | ・計画からの非撤退、負担増 |
| ・国家計画の圧迫 |
(論点)
- ①我が国が果たすべき国際的役割と責務
- ア)原子力平和利用国家としての観点
- イ)平和主義国家としての観点
- ウ)無資源国としての観点
- ②我が国の核融合研究能力・技術力の維持及び向上
- ③欧米追随型科学研究体質からの脱却の可能性
- 考え方の例
- 核融合は我が国が欧米と横一線になって議論が進められる数少ない科学技術分野であり、この分野で国際的イニチアチブを取れないとすると我が国がイニチアチブを取れる分野があるのであろうか
- ④我が国の安全規制、立地の考え方に対する諸外国からの理解の見通し
- ⑤我が国に対する国際環境への見極め(対日感情)
- ⑥長期的かつ大規模な計画の遂行に必要な立地国の責任を全うすることへの我が国の能力
- 考え方の例
- 将来のエネルギーセキュリティーの面から必要な投資であると思われるが経済変動などがあっても国際約束を履行して完遂する覚悟が必要
- ⑦必要な人的あるいは財政的資源量の規模の見極めと妥当性評価
- ⑧ITER実施体制の確立と適切な産業構造
- ⑨適切な評価の実施と計画への配慮
(論点)
- ①ITER事業主体の形態と参加極との関係
- 考え方の例 1
- ITER事業体の形態は、参加極からの人員の派遣、参加の制限等に大きく影響するものであり、色々な場合を想定しつつ検討する必要がある。
- 考え方の例 2
- 実施体制の検討は多くの時間を要し、国と産業界との役割を含め分担の大枠について極力時間的余裕を持って検討を開始する必要がある。
- ②国際事業体の枠組み作りに対する我が国の知的貢献
- ③計画立案段階から実施段階への移行
- 考え方の例 1
- 計画の実施段階においては、もの作りに関して多くの知見と経験を有する産業界が事業体の中枢に参画することが必要
- 考え方の例 2
- 研究開発段階からの移行に当たっては、産業界への円滑な技術移転が重要
(論点)
- ①ITERの建設、運転等の段階に必要な人材の能力及び規模並びに我が国の現状の見極め
- ②技術開発段階に携わる専門家と成果物を維持・運営していく段階に携わる専門家との繋ぎ
- ③人材の育成の観点から見た基礎研究の役割
- ④長期にわたり若い研究者が核融合分野に参入することを確保するだけの研究分野としての魅力
- ⑤人類全体への貢献といった問題意識が育まれるような教育課程への配慮
- ⑥核融合エネルギーの実現の最終的締めくくりの責を負うことになる若い世代の考え方への配慮
(論点)
- ①「実験炉」という研究開発過程である技術が有する安全性確保上の性格
- ②新しい技術を導入する場合の安全性、事故・トラブル発生に関する考え方
- ③放射性廃棄物の取り扱い、大量トリチウムの取り扱い、環境影響等を含むITERの安全性に関する的確な情報の提示
(論点)
- ①国民がITER計画の進め方に関して決定できるだけのシナリオの提示
- ②「ITERありき」、「核融合ありき」の視点による議論からの脱却
- ③科学技術の課題であっても、社会的、経済的な支援がなければ実現され得ないことを念頭に置いた計画実施者側の誠実な対応の必要性
- 考え方の例
- 科学者・計画実施者側からのITERの技術的なリスクと不透明さに関する誠実な説明が必要
- ④新しい技術を社会に導入する場合の専門家の独立性と市民社会からの受容性の関連性
- ⑤将来のエネルギー源の選択肢の幅と我が国エネルギー事情に対する誠実かつ正確な情報の提供
- ⑥技術面のみではなく全体を見通した計画実施シナリオの提示
- ⑦長期に亘る技術開発の継続に対する国の方針の明確化
- ⑧検討の多角性の確保
- ⑨科学技術分野以外の分野(Out of Science)での議論の実施
- ⑩計画の内容や関連資料の公開と、立地問題に関する自由な議論の場の確保