資料第3−5号
ITER計画に関する主な論点について(案)
I 核融合開発の意義
−核融合開発が人類にとって有する意義
−現時点で核融合開発を更に進めることの是非
II ITERの実現可能性
−ITERの技術的実現可能性
−ITER計画の科学技術上の意義
−ITER計画の核融合開発上の意義
−ITER計画を国際協力プロジェクトとして進める上で配慮するべき事項
III 我が国の対応方針を検討するための基本的視点
−ITERを立地する場合のプラス面とマイナス面
−ITERの誘致を進めることの是非
−人材の育成及び確保の方策
−現在進展中の国際的話し合いとの関連
−ITERの安全性
−国民の理解の取得
I 核融合開発の意義
−核融合開発が人類にとって有する意義
(論点)
1)新しいエネルギー源を創出することにより核融合開発が人類の文明の営み、科学史上に与える意義
2)核融合開発の実現により可能となるエネルギー問題の解決がアジア地域を始めとする国際社会が抱える緊張感の緩和、人類社会の底辺の問題の解決に果たす役割
3)現在の各種発電方式との比較におけるエネルギー源としての魅力
(現在の核分裂炉と同じ原子力の体系のなかで議論していくことは適当であるのか。)
4)世界が抱える問題に対する解決の可能性を参加国が団結して探求しようとする国際協力の努力が有する政治的な意義
5)長期的なエネルギー需給の見通し及び人類社会のあり方の議論における核融合の貢献
−現時点で核融合開発を更に進めることの是非
(論点)
1)核融合開発のプラス面、マイナス面についての誠実な議論に基づく、核融合の必要性と将来のエネルギー選択肢の幅の提示
核融合の主な特徴 資源の豊富さ
原理的な安全性
環境保全性
2)長期に亘る研究開発への対応
考え方の例 1
長期間の研究開発を要するものであるからこそ、今から着実に技術の蓄積を図っていくことが必要であり、実用化が21世紀後半であるからと言って技術開発を止めたり、遅らせたりすると、いつまでたっても実用化の見通しが得られないのではないか。
考え方の例 2
限られた人的、財政的資源であるから、技術開発の優先度の判定が重要であり、現実に直面している課題の解決を最優先するべきではないのか。
3)技術開発の開始時点、計画決定時点においては心配な点、不確かな点が存在する技術開発課題についての対応方針
考え方の例
技術開発の進展については必ずしも楽観的な面ばかりではないと思われるが、解決できる見通しがあれば勇気を持って開始するべきではないか。但し、解決できないことが判明した場合には、速やかに中止する決断ができることが重要である。技術開発の健全性はこのような計画管理が実現できるか否かではないか。
4)核融合技術開発の段階についての見極め(基礎的研究を継続するべき段階であるのか、開発研究に進むべき段階であるのか)
II ITERの実現可能性
−ITERの技術的実現可能性
(論点)
1)想定されないリスクが生じる可能性及びその対応策
2)核融合分野におけるこれまでの経験則のITERへの外挿性
3)計画開始当初における予想と現時点における技術開発の困難さへの認識の差とその対応策
4)各要素の技術開発から、一つのシステムに統合する際の困難さへの認識とその対応策
5)必要な技術開発課題と想定する開発期間の妥当性
−ITER計画の科学技術上の意義
(論点)
1)ITER計画による一般科学技術への影響あるいは新規科学技術分野の創出の可能性
考え方の例 1
ITER計画のみならず核融合分野は、学問的にも学術・文化的にも興味ある大事な分野であり、どのような新しい学問が構築されうるのかといった点について議論を深めることが重要
考え方の例 2
ITER計画については、人類に対して無尽蔵のエネルギー源となり得る核融合技術の科学的原理の実証を確実にすることのみをもっても開発を進める意義は十分
2)科学技術分野における新たな国際共同プロジェクトのモデルとしての可能性
3)ITERが利用され得る科学技術活動の範囲
4)ITERによって得られる技術成果の波及効果
(参考)
−核融合は人類がこれまでに実現できなかった高温のプラズマ状態を作り出し、そのふるまいを研究することにより、新しい学問の分野を開きつつある。例えば、磁場閉じ込め研究開発においては、核融合プラズマは非線形物理学の研究対象の宝庫とされ、磁場とプラズマの相互作用の研究は、宇宙プラズマの挙動の理解にも貢献している。
(核融合会議「核融合研究開発の推進について」(平成4年5月))
−ITER計画の核融合開発上の意義
(論点)
1)ITERによる将来の核融合炉の基礎的な技術及び要素の実証可能性
2)核融合炉実用化の実現可能性とITERとの関連
3)ITERから核融合炉の実用化までを視野に入れたシナリオの策定
4)他の方式(プラズマ閉じ込め方式)との関連、資源の適切なバランスの確保
5)「炉本体」のみならず周辺の技術開発全体を見通した計画の提示
6)ITERにかかるコストと生じる利益との関係
−ITER計画を国際協力プロジェクトとして進める上で配慮するべき事項
1)国際組織としての適切な運営形態の実現
2)安全文化(Safty Culture)、設計思想が異なる国々が集まって共同作業を進めることによる新たな困難さへの認識と対応
3)計画開始時点においては予想し得ない他極の動き、変更に対する柔軟性の維持
4)文化的背景・基盤、ものの見方・考え方が異なる国際パートナーの中での立地国の責務
5)計画段階から他極と伍して議論を進めていくことへの準備と能力
6)国際協力によって生じる意志決定に要する時間の長さ、計画の硬直性に対する対応
III 我が国の対応方針を検討するための基本的視点
−ITERを立地する場合のプラス面とマイナス面
(論点)
1)ITER立地についてのプラス面とマイナス面の双方への理解
プラス面の例
・立地国に対する信望の高まり(プラス面)
・施設の建設・運転に直接携わることによるノウハウの取得等は立地することによって得られるノウハウ
・原子力産業界のポテンシャル維持
マイナス面の例
・長期にわたり、多額の資金をITERという単一プロジェクトへ投入することによる他分野の研究開発への圧迫
(科学技術資源も無制限ではなく、我が国の場合は全体科学技術関係経費の数パーセントを30年以上費やすことになる点について十分な議論が必要)
2)立地しない場合における協力への参加の形態
−大規模プロジェクト−
<米国・技術評価局(OTA)報告書(1995.7)>
(例) 立地した場合のプラス面 ・科学技術及び政策的プレステージ高揚
・経済効果(運転経費等)
・地域振興(産業の集積等)
立地した場合のマイナス面 ・ハイテク部分は参加極間で分配
・通信技術によるアクセスの容易さは変わらず
・放射性物質の取り扱い責任
<OECD・メガサイエンスフォーラム(1995.6)>
(例) 立地した場合のプラス面 ・政策的プレステージ、管理運営に有利
・経済効果(地域産業、産業技術の進展)
立地した場合のマイナス面 ・計画からの非撤退、負担増
・国家計画の圧迫
−ITERの誘致を進めることの是非
(論点)
1)我が国が果たすべき国際的役割と責務
ア)原子力平和利用国家としての役割と責務
イ)平和主義国家としての役割と責務
ウ)無資源国である我が国への期待と果たすべき役割
2)我が国の核融合研究能力・技術力の維持及び向上
3)欧米追随型科学研究体質からの脱却可能性
核融合は我が国が欧米と横一線になって議論が進められる数少ない科学技術分野であり、この分野で国際的イニチアチブを取れないとすると我が国がイニチアチブを取れる分野があるのであろうか。
4)我が国の安全規制、立地の考え方に対する諸外国からの理解の見通し
5)我が国に対する国際環境への見極め(対日感情)
6)長期的かつ大規模な計画の遂行に必要な立地国の責任を全うすることへの我が国の能力
7)必要な人的あるいは財政的資源量の規模の見極めと妥当性評価
8)ITER実施体制の確立と適切な産業構造
9)適切な評価の実施と計画への配慮
−人材の育成及び確保の方策
(論点)
1)ITERの建設、運転等の段階に必要な人材の能力及び規模並びに我が国の現状の見極め
2)技術開発段階に携わる専門家と成果物を維持・運営していく段階に携わる専門家との繋ぎ
3)人材の育成の観点から見た基礎研究の役割
4)長期にわたり若い研究者が核融合分野に参入することを確保するだけの研究分野としての魅力
5)人類全体への貢献といった問題意識が育まれるような教育課程における配慮
6)核融合エネルギーの実現の最終的締めくくりの責を負うことになる若い世代の考え方への配慮
−現在進展中の国際的話し合いとの関連
(論点)
1)国際的話し合いの中における我が国の自主的・主体的対応の実現
2)資金問題を含めた他極の取り組み姿勢の見極め
3)財政面、社会経済面等における各極の状況及び計画の進捗を踏まえた現実的な対応
4)立地国または非立地国を選択する判断に必要な環境と適切な時機
(参考) 国際的話し合いのスケジュール
平成9年末まで 準備的協議段階 選択肢の絞り込み等
平成10年早々 国際協議段階 協定締結
( 平成10年7月 現行工学設計活動の期限 )
−ITERの安全性
(論点)
1)「実験炉」という研究開発過程である技術が有する安全性確保上の性格
2)新しい技術を導入する場合の安全性、事故・トラブル発生に関する考え方
3)放射性廃棄物の取り扱い、大量トリチウムの取り扱い、環境影響等を含むITERの安全性に関する的確な情報の提示
−国民の理解の取得
(論点)
1)国民がITER計画の進め方に関して決定できるだけのシナリオの提示
2)「ITERありき」、「核融合ありき」の視点からのみの議論の脱却
3)科学技術の課題であっても、社会的、経済的な支援がなければ実現され得ないことを念頭に置いた計画実施者側の誠実な対応
考え方の例
科学者・計画実施者側からのITERの技術的なリスクと不透明さに関する誠実な説明が必要
4)新しい技術を社会に導入する場合の専門家の独立性と市民社会からの受容性の関連性
5)将来のエネルギー源の選択肢の幅と我が国エネルギー事情に対する誠実かつ正確な情報の提供
6)技術面のみではなくITER計画全体を見通したシナリオの提示
7)長期に亘る技術開発の継続に対する国の意志の明確化
8)検討の多角性
9)科学技術分野以外の分野(Out of Science)での議論の進捗
10)計画の内容や関連資料の公開の程度と、立地問題に関する自由な議論の場の確保