4 ITERの運転シナリオと性能
4.1 運転シナリオ
プラズマ運転シナリオ
4.1.1 ITERのプラズマ放電シナリオは、現在のトカマク型装置の通常のシナリオに
準じている。放電はプレークダウンと電流初期化(ECHによる補助を伴う)に始
まり、誘導方式による150秒間の電流立ち上げが続く。プラズマ電流が約16M
Aのところでダイバータ配位が形成される。電流立ち上げ時には、必要に応じ電流
分布とプラズマ回転を制御するために外部加熱(リミター配位の間は20MW,ダ
イバータ配位では50−100MW)を用いることが出来る。電流フラットトップ
での電子密度は0.2−05×1020m−3,ジュール加熱のみによる温度は2−
4keVとなる。電流がフラットトップに達した時点で、Hモードに入るために1
00MWまでの全加熱パワーが加えられ、プラズマが点火し所定の核融合出力が得
られるまで燃料供給によってプラズマ密度を上昇させる。燃焼(核融合出力)制御、
ダイバータ熱流制御及び300秒以上を要する通常の停止等は、燃料補給、不純物
供給、外部加熱、ポロイダル磁場制御等を組み合わせて行われる。
点火/高Qプラズマ運転モード
4.1.2 鋸歯状振動、ELMyHモードを伴ったプラズマの運転が、自己点火あるいは外
部加熱起動の高Qモードで用いられる(このモードでは鋸歯状振動とELMは自然
に発生し、不純物がプラズマ中心に集積するのを防ぐのに有効な働きをする)。こ
の運転モードは現在の実験において十分に研究されており、ITERの閉じ込め時
間や他の基本的なパラメータを予測するのに十分なデータベースが利用可能と成っ
ている。このモードでは適当な閉じ込め時間、定常的な低い不純物比率、制御され
た密度、十分に高いプラズマのベータ値及びプラズマ境界へのヘリウム輸送を実現
することができる。ITERで目指しているプラズマ形状及びパラメータでの長時
間ELMyHモード放電は、主要なダイバータ付きトカマク装置で実現されている。
ITERパラメータへ外挿するに当たっての重要な物理事項は、エネルギー閉じ込
め時間とHモードへの遷移パワーである。
100MWの外部加熱駆動による燃焼運転では、放電時間の延長及び高照射実験が
可能な壁への高中性子束を持続できる。21MA、1.5GW、1000秒の標準
放電を、約16MAのプラズマ電流では1GWで8000秒まで放電時間を延長で
きる。
定常運転は、12−15MAのプラズマ電流の範囲において、ブートストラップ電
流の割合が大きく(>70%)なることにより得られる。このシナリオでは、プラ
ズマ電流密度の半径方向分布により(安定係数qがプラズマの中心からはずれた所
に最小値を持つ)「負磁気シア」が形成される。最近のトカマク装置の実験におい
て、この分布で極めて良好な閉じ込め性能が実証されている。
ダイバータ運転と熱及び粒子排気
4.1.3 ITERの粒子と熱の制御は、狭い隙間で覆われて真空容器外のクライオ・ポン
プで排気されるシングル・ヌル・ダイバータによって実現される。プラズマ中への
燃料補給はガス・パフとペレット入射により行われる。アルファ粒子加熱と外部加
熱合わせて300〜400MWの熱は第1壁とダイバータ板、炉心プラズマからの
制動輻射とシンクロトロン輻射、周辺プラズマとスクレイプ・オフ・プラズマとダ
イバータ・チャンネルからの不純物輻射及び、ダイバータ板への熱伝導で放出され
る。輻射損失による、ダイバータ板の受ける熱負荷を受容できる程度まで低減する。
輻射損失は少量の不純物(ネオン,アルゴン等)の入射により増加させることがで
きる。
ITERのダイバータ・プラズマは、最近のダイバータ付トカマク装置で実施され
ている”デタッチ”あるいは”部分デタッチ”方式で実現可能であろう。この方式
では、ダイバータ板への熱負荷の低減化と適当なヘリウム排気が実現される。
4.2 プラズマ性能
4.2.1 確定された設計に対するITER物理性能の評価が全体的に実施された。評価作
業はITER物理専門家グループによって行われ、EDAの活動が核融合研究実験
並びに関連する物理実験の最新の知見に基づいていることが確認された。
4.2.2 評価は2つの分野に集中した、即ち、ITERプラズマが達成可能なパワー出力
と燃焼時間に関係する事項と、プラズマ運転の信頼性並びに炉内機器の寿命といっ
た工学設計に関する事項である。
第一の分野に含まれる事項としては、以下のものがある:
4.2.3 炉心プラズマのエネルギー閉じ込めの予測は、基本的に現在の実験で観測され、
十分に吟味された広範囲なデータベースが構築されているELMyHモードの閉じ
込め比例則に依っている。この手法は、概念上、トカマクの閉じ込め物理がいくつ
かの無次元パラメータで支配されており、無次元パラメータの単純なベキ乗則によ
りITERへの外挿に必要なエネルギー閉じ込め時間が十分に表現出来る、という
仮定に基づいている。従って、”ITERを模擬する放電”に焦点を当てて、ジャ
イロ半径以外についてはITERを見込める範囲において、無次元量での実験が既
存の装置で行われている。これらの模擬実験は閉じ込め比例則の確立に対し最も信
頼性ある手法を提供するはずである。現在進行中の一連の実験から、高い信頼性を
持ってITERへの外挿が可能となることが期待される。JET及びDV−Dから
の最初の結果により、ITERの閉じ込めが現在の想定よりも幾分良い方向にある
ことが予測される。
4.2.4 ダイバータ運転とヘリウム排気を含むITERの燃焼維持に関する記述と解析を
詳細にするためには、発生する核融合出力を整合性のある方法で計算するのに、エ
ネルギー閉じ込め時間が1.5次元輸送評価コードから得られた温度と密度の分布
及び他の物理量に基づいて予測されなければならない。これらのコードのモデルは、
経験的あるいは第1原理から導かれた局所的な熱輸送コードを採用している。局所
的な係数は、必ずしも一義的なものではなく幾分の幅をのこしているため、全体とし
てのエネルギー閉じ込め時間を明らかにするためにそれらの係数が規格化される。
さらに、(適切な規格化の後に)この方法で得られた温度分布の予測は、現在のJ
ET及びDV−Dで得られるITER模擬実験で観測された温度分布と十分に一致
することを確認するための検証が行われている。規格化をしない場合は、現在専門
家グループによって検討されている9つの輸送モデルは、専門家御ループがエネル
ギー閉じ込め時間を予測するために信頼できると推奨したITER分布データベー
スのデータと比較すると、いづれもまだ成功の域に達していない。
4.2.5 ITERダイバータのターゲット材は、全アルファ粒子パワーがターゲットの特
定領域に集中した場合(約300MWが約10m2に集中した場合)、耐久を期待
できない。工学設計の進展によれば、ピーク熱流速は5−10MW/m2まで低減
されなければならない。これの解決のために、原子・分子の素過程を利用してパワ
ーを第一壁とダイバータ空間の壁(ITERでは各々が1200m2と400m2
の広さである)に分散させる方策が、現在の実験で不純物(ネオンやアルゴン)と
燃料ガス入射を組み合わせることで有効に成功してきていることが報告されている。
複雑な物理現象のモデル化が十分に進展したことにより、現在の実験を検証するこ
と及びITERにおいても不純物入射により同じ運転領域が達成できることの予測
が可能となっている。
4.2.6 現在の実験に制約があるために、ITERへの外挿とITERプラズマ性能の様々
な側面の統合に不確実さが残ることはやむを得ない。不確実な領域において重要な
ことは、Hモード遷移のパワー、Hモードにおける密度限界並びにプラズマ周辺の
閉じ込めにたいする影響、プラズマディスラプション中の逃走電子の発生、それにハ
ロー電流の非対称性及びその大きさである。これらの事項は、これまでと同様に今
後もITER関連の物理R&D検討されるであろう。
4.2.7 色々なトカマク実験における(いわゆる”先進的閉じ込めモード”と呼ばれる)
”負磁気シア”放電の最近の良好な閉じ込め性能が、現在、ITERの(1GW以
上での)フルパワー定常運転に必要であると予測されている。これには標準的運転
よりも約50%高いベータ値と閉じ込め時間の達成が、プラズマ電流値を下げた状
態で必要となる。但し、核融合出力及び閉じ込め比例則、並びに本シナリオでの運
転限界に関する現時点における理解と実験によって得られた知見は、標準的なパル
ス運転シナリオに比べて少なく、一層の研究が必要である。
4.2.8 これらの事項に関する課題が残るものの、”負磁気シア”運転領域は、ITER
の定常運転上の柔軟性及び能力を研究する上で利用されることとなろう。
4.3 全体評価
ITER物理専門家グループを通じて寄せられた世界の核融合界からの貢献に
より、ITERの性能及び運転シナリオの様々な側面の統合において極めて大き
な進展が見られた。ITERの物理面での評価は、現時点での核融合実験によっ
て得られた成果を相互に照合された結果及び研究チームメンバーとの継続的な接
触による成果に基づいている。最近のIAEA核融合エネルギー会議(モントリ
オール、1996年10月)で発表された新しい実験成果は、全般にわたり、I
TER設計の物理基盤を確認するとともに、強化した。これらの基盤があっても、
現状のプラズマからITERの規模とパラメータを持ったプラズマを完全な確度
で予測することはできないが、広範囲なレビューによれば、原理的にITERの
性能と目標の達成を否定する制限は何ら見つかっていない。
ITERプラズマ性能を予測する最も確かな方法によれば、標準的なプラズマ
パラメータと閉じ込めの値でのITERの自己点火達成は確実と考えられる。ま
た、100MWまでの加熱の採用により、ダイバータ熱負荷とHモード遷移パワ
ーを同時に満足しての、1〜1.5GWの核融合出力での燃焼維持は、広い範囲
の実現可能な条件及び閉じ込めが標準状態から約30%劣化した場合でも、達成
されるであう。
ITER設計が有する柔軟さにより、最低1000秒の誘導方式パルス運転
から負磁気シア運転による定常運転までの幅広い運転シナリオが実現可能である。