資料1−3号

国際熱核融合実験炉(ITER)と第三段階核融合研究開発基本計画上の「実験炉」につ
いて

                             平成8年8月26日
                             核 融 合 会 議


 現在我が国核融合研究開発に関しては、「第三段階核融合研究開発基本計画」(平成4
年6月、原子力委員会決定)に従って進められているところであり、同計画において、第
三段階における研究開発の目標を達成するための中核装置として、トカマク型実験炉(以
下「実験炉」)を開発するとされている。また、日本、米国、EU、ロシアの協力によっ
て進められている国際熱核融合実験炉(ITER)計画の工学設計活動も、順調に作業が
進捗しており、本年7月には、ITERの建設、運転、利用等の段階に向けての取り組み
に関する国際的協議も開始されたところである。


 ITER計画に関して、我が国としては、「実験炉」の開発を目指して工学設計活動が
進められてきているとの認識の下に参加してきているところであるが、ITERの建設に
向けての計画が動きつつある現在、当会議が「実験炉」とITERとの関係を含め、今後
のITER計画の取り進め方についての考え方を整理することは、我が国が国内外の理解
を得て同計画に対応していく上で重要であると認識される。
 かかる認識に立ち、当会議の構成員を中心とする専門家に対し、所要の検討を依頼した
ところ、このほど、別添の通り報告があった。検討の結果、同報告の内容は妥当なものと
判断され、報告に指摘されている諸点が満たされることをもって、ITER計画を「実験
炉」として位置付け、開発することが適当であるものと考える。


 ITERに要する資金等の規模あるいは社会的意味等を鑑みると、今後の取り組みに関
しては、核融合分野のみならず、科学技術全体、国際関係、新エネルギー開発、社会・経
済等の各分野からの検討を経ることが、各方面の理解と支持を得る上で重要であり、原子
力委員会がそのための適切な場を設けることが望まれる。




国際熱核融合実験炉(ITER)と第三段階核融合研究開発基本計画上の「実験炉」との関係
について
                               平成8年8月23日

1、国際熱核融合実験炉(ITER)に関しては、中間設計段階を経て詳細設計段階に移行し、
 現在順調な設計活動が進められている。他方、工学設計活動以降の段階、すなわち、ITER
 の建設、運転、利用等の段階に関しては、立地、コスト負担等に対する取り組み方に関する提
 案を記述した特別作業グループの報告書がITER理事会を経由して各極に提示されている。
 かかる状況下、現行ITER協定参加極は建設等の段階における取り組みに関する準備協議を
 開始することに合意し、本年7月第1回会合が開催されたところである。

2、ITERを巡る状況が大きく動きだそうとしている現在、ITERに対する我が国の取り組
 み方を検討していくに当たり、まずは我が国核融合研究開発の方針を示した第三段階核融合研
 究開発基本計画(以下「第三段階計画」)(平成4年 原子力委員会決定)において中核装置
 として開発することとされている「実験炉」とITERとの関係を整理をすることが適当であ
 る旨の指摘が核融合会議において行われた。かかる指摘を受け、核融合会議座長からの指名を
 受けた別紙の参加者がこれまで検討を重ねてきたところである。

3、検討に当たっては、これまで核融合会議ITER/EDA技術部会が適宜ITER工学設計
 内容の適切さに関して技術面からの検討を実施してきていること、昨今ITER計画の具体化
 の動きにともない種々の意見が出されていること等を配慮し、主として以下の事項を検討した。
     ・ITERと「実験炉」の技術目標の比較
     ・ITERと原型炉以降の炉型との関連
     ・ITERと「実験炉」において達成すべき技術課題との整合性
     ・ITER計画の柔軟性
     ・ITER計画の技術的実現性
     ・ITERの立地地点に関する配慮
     ・ITER計画に対する各層からの理解
    その際、「第三段階計画」上の「実験炉」に関しては、炉の仕様等の適切さのみならず、我
  が国核融合研究開発上の重要なステップとして、原型炉以降に向けての技術基盤・経験を蓄積
 していくことが必要であるため、ITER計画によってかかる蓄積が実現されるか否かについ
 て、特に留意したところである。

4、その検討の概要は以下の通りである。

 (1)技術目標の比較

      ITERは、核融合エネルギーの実現を見通すための高エネルギー増倍率(Q値)の実
     現とかかる条件下でのプラズマ電流分布の定常化等のプラズマ挙動を解明するために、
     「第三段階計画」にいう自己点火条件(Q値20程度以上)及び長時間燃焼(1000秒
     程度の燃焼)を同時に達成することを目標としている。この技術目標は、現時点において
     我が国が原型炉段階以降にむけて必要な技術基盤を蓄積していくための「実験炉」の技術
     目標として適切である。また、1000秒間の燃焼において、ITER計画が誘導電流駆
     動方式による自己点火条件の達成を経て、非誘導電流駆動方式による自己点火条件の達成
     を目指していることは、技術目標達成のための運転形態として現実的である。

 (2)原型炉以降の炉型との関連

      「第三段階計画」上の「実験炉」の開発に当たっては、原型炉以降に向けた技術蓄積が
     重要であるとの認識から、現段階において原型炉以降の将来像を保有しておくことも必要
     である。「第三段階計画」においては、核融合の実用化を目指して段階的に開発する計画
     が想定する時期との関連もあり、次段階としてトカマク型の実験炉を開発する旨決定され
     たと理解される。一方、トカマク型以外の装置に関する研究開発についても、「実験炉」
     への寄与という観点に加えて、「実験炉」の研究成果が活用され、将来トカマク型を上回
     る閉じ込めを有する核融合炉が実現される可能性もある。このため、トカマク型の実験炉
     としてITERの開発のみに特化して我が国核融合開発を進めることは、現時点において
     適切ではなく、ITERにおいては実施されない補完的あるいは先進的研究開発及び他の
     閉じ込め方式による研究開発も着実に推進することが必要である。

 (3)設計と技術課題との整合性

      「第三段階計画」の「実験炉」の技術目標を確実かつ効率的に達成するためには、現在
     の核融合分野の研究開発段階、実際に利用可能な材料等を勘案すると、装置の規模を含め
     ITERの仕様は適切であると考えられる。なお、炉の小型化に向けた研究開発に関して
     は、原型炉以降の将来の炉の実用化に向けて着実に進めることが必要である。

 (4)計画の柔軟性

      最新の知見を可能な限り取り入れて設計することは、ITER計画の科学技術的役割か
     らみて当然であるが、計画を成功に導くためには設計の初期段階において基本仕様を固め
     ることも重要である。現在のITERの設計内容に関しては、現時点で必要と考えられる
     柔軟性は設計上配慮されており適切であると考えられる。今後新たに生じうる改良等に関
     しては、立地地点の特定等計画の具体化に併せ、計画遂行上支障が生じない範囲で、最新
     の知見等が取り入れられることを確保するよう国際協議が進められることが重要である。

 (5)計画の実現性

     ITERの建設及び運転に必要な技術は、多くの新規技術等の結集が予定されているが、
    現時点における国内的・国際的技術レベルから判断して、実現可能であると理解される。
    但し、ITERを想定した実規模相当の製作実証試験等の工学設計活動に関しては、所定
    の期間内に目的の成果・データが得られることが重要である。
     また、ITERの実現に当たっては、経済的側面とともに、人材の確保が重要な課題と
    なっており、広く国内外から優秀な人材が集まるよう配慮することが必要である。なお、
    人材養成の観点から、大学等の役割が大きく期待される。

 (6)立地地点

      技術的意義等の面から判断して、ITERは「実験炉」としての要件を十分備えたもの
     と認められる。ITERの国内立地と国外立地に関しては、我が国が原型炉以降に向けて
     の技術蓄積を如何に図っていくかという観点を含め、ITERを「第三段階計画」上の
     「実験炉」とするためには如何なる環境を整備していくことが必要であるのかといった点
     等を慎重に比較・検討していく必要がある。

5、以上により、ITERは「第三段階計画」における中核装置である「実験炉」の要件を十分
 備えているものと理解される。今後以下の諸点が満たされることをもって、国際的な枠組みの
 中で進められるITER計画を我が国核融合研究開発を段階的に進めていく上での「実験炉」
 として位置付け、開発していくことが適当であると判断される。

 (1)ITERを通し原型炉以降に必要とされる技術基盤の涵養が図られること
 (2)ITERへの参加が国内関連機関と密接な連携の下に進められること
 (3)ITER開発のための期間が「第三段階計画」上の「実験炉」開発に関して想定される期間
    と整合あるものであること
 (4)ITERへの一極集中型研究開発資源の使用ではなく、ITERにおいては実施されない補
    完的及び先進的研究開発並びにトカマク型以外の装置に関する研究についても、着実な推進
    が図られること
 (5)工学設計活動等が所期の目標を達成し、建設等の段階に入るに当たっての必要な資料が整え
    られること

6、また、ITERに要する資金等の規模あるいは社会的意味等を鑑みると、今後の取り組みに
 関しては、核融合分野のみならず、科学技術全体、国際関係、新エネルギー開発、社会・経済
 分野等からの検討を経ることが、各方面の理解と支持を得る上で重要であり、原子力委員会が
 そのための適切な場を設けることが望まれる。




                                      (別紙)

ITER計画の進め方に関する検討への参加者

    東京大学大学院工学系研究科     井上 信幸 教授(核融合会議委員)

    東京大学工学部           宮  健三 教授(核融合会議委員)

    九州大学応用力学研究所
     強磁場プラズマ・材料実験施設長  伊藤 智之 教授(核融合会議ITER/
                               EDA技術部会委員)

    核融合科学研究所
     大型ヘリカル研究部研究総主幹   藤原 正巳 教授(核融合会議ITER/
                             EDA技術部会委員)

    核融合科学研究所
     プラズマ制御研究系研究主幹    本島 修  教授(核融合会議
                                計画推進小委員会委員)

    大阪大学
     レーザー核融合研究センター長   三間 圀興 教授(核融合会議
                                計画推進小委員会委員)

    顧問                 宮島 龍興 核融合会議座長


なお、検討に当たっては、日本原子力研究所の担当者から適宜、説明等を聴取した。