- 資源的には地域的な偏在がなく量的にも制約は予想されていない。
- 核融合反応は核分裂と比べて安全対策が比較的容易である。
- 低レベル放射性廃棄物は発生するが、高レベル放射性廃棄物の処理処 分の必要がない。
- 国際的な緊張を引き起こさず、エネルギーの逼迫を防ぐ。
等の特徴があり、将来のエネルギー源の一つとして有望な選択肢である。
核融合の実用化に向けて、我が国をはじめ世界各国において、多様な方式で多くの研究開発が進められてきている。この核融合の研究開発において、今後取り組むべき重要課題は、核融合反応により燃焼するプラズマを制御する技術を確立することであり、このため、国際協力により多額の経費を分担して行う「国際熱核融合実験炉(ITER)」の建設が計画されている。
当懇談会としては、研究者の自発性の中で進む科学の進展と科学技術による人類への貢献との幸福な一致を保ちながら、核融合に関する研究開発を推進することは有意義と考えており、国際協調の下、我が国がITER計画に主体的に参加していくことを期待する。
(我が国としてのITER計画の進め方)
我が国のITER計画への取り組み方を検討するに当たっては、我が国の現状を認識するとともに、今後のあるべき姿を展望する必要がある。
@国際的役割
21世紀の我が国は、世界に誇れるような研究のインフラとなる施設を持ち、世界の研究者にそれを公開して我が国の存在意義を高めるとともに、相互依存の関係を維持していくべきである。
A科学技術的潜在力
我が国の核融合に関する研究開発力は、その人的な研究開発能力や産業力から国際社会でも高く評価されており、我が国は十分な科学技術的潜在力を有している。我が国が世界で唯一のITERを主導的に建設することにより、この分野の科学技術力及び産業技術において我が国の科学技術的潜在力を長期間維持できる可能性がある。
B日本社会の倫理性からの評価
核融合エネルギー開発は、現世代の人々に直接的な利益をもたらすのではないが、未来の人類を思う公共的意識を社会的に顕出させるものとなりうる。また、これまでの我が国の原子力平和利用の実績は国際的に高く評価されており、我が国が核融合エネルギー開発を主導することを諸外国から受容される条件が整っている。
C安全面での配慮
トリチウムの輸送が必要である。また、核融合反応により中性子が発生するため金属が放射化する。更に、放射化金属等の廃棄物を処理処分することが必要となる。安全性の問題に対しては、国民の理解を得つつ、適切に対処していくことが求められる。今後の課題としては、放射化金属等の発生の低減化を図るために低放射化材料の開発が必要である。
D投資面からの評価
研究開発に対する国の資源配分を考えた場合、国民全体という見地からの広義の安全保障、国家という規模で行われる国際的機能は、プライオリティの高いものと考えられ、ITER計画はこの範疇に入っている。また、核融合炉実現までに必要な費用の推定を正確に行うことは困難であるとともに、それ以上に核融合炉実現によって得られる利益の大きさについてはほとんど推定不可能である。当懇談会としては、核融合エネルギーに対して行う投資は、あたかも人類の将来の自由度を保障する保険料と見做すべきと受け止めている。
このような観点から、当懇談会は、我が国がITER計画に主体的に参加するだけでなく、設置国になることの意義が大きいと結論した。
大規模な科学技術計画の進め方について判断をするためには、@科学者による科学技術的な助言、A有識者による幅広い観点からの提言、B科学技術におけるプライオリティの判断、C科学技術に限らない我が国の活動全体というより広い視野による判断という、各段階毎のそれぞれの責任による判断が行われるべきである。当懇談会においては、Aの有識者により幅広い観点から検討を行った。検討を通じ、今後ITER計画を進めるにあって留意すべき点が指摘された。
ITER計画を進めるに当たっては、技術目標と開発リスクとコストのバランスをとりつつ計画の費用を最小化することが不可欠の条件であるとともに、意義や利益を最大化するよう努力することが最重要な条件である。
また、国民に対して安全性を含めた正確な情報の提供を十分行う等国民の理解を得るための不断の努力や、ITER計画を牽引していく指導的な役割を果たす人材が必要であるとともに、安全規制体系の整備等については、行政において着実な実施がなされることを望む。
更に、今後関係者によって、誘致の適地の有無、財源の確保の問題などについて検討を行った上で、総合的に判断を行うことが必要と考える。
当懇談会は、我が国として今後の国際熱核融合実験炉(ITER)計画の進め方について、社会的・経済的側面を考慮し、長期的展望に立った国際社会の中での役割も見通した幅広い調査審議を進めるために設置された。
当懇談会は、ITER計画について、1992年から進められてきている工学設計活動(EDA)が終了する予定であった1998年7月頃に建設段階への進展があるとの見通しの下に、1997年2月から調査審議を開始した。しかしながら、当時、国際的に工学設計活動をさらに3年間延長する方向で話し合いが進んだこと、また、国内的には財政構造改革を背景として、1997年6月に、今世紀(20世紀)中の集中改革期間内はITERの国内誘致を行わないことが政府の方針として決定されたことなどの諸情勢の変化により、建設段階への進展は、従来想定された時期より遅くなる見通しとなった。こうした状況を考慮し、ITER計画に対して我が国のとるべき対応についての結論のとりまとめは、今後の適切な時期に行うことが適当であるとの判断に至った。このため、当懇談会としては、それまでに議論してきた事項について論点の整理を行い、1998年3月に報告書「懇談会における論点の整理と今後の課題について」をとりまとめた。
同報告書においては、いずれ人類を襲うであろうエネルギー問題を前提とし、現在生きている世代はこれから生まれてくる世代の歩む道に対する制限を最小化する義務を負っているとの理念のもとでの技術、社会等の考察を通じて、我が国がITERの設置国となることの意義の大きいことを理解した。同時に、エネルギー問題の持つ本質的不確実性やITERを取り巻く諸情勢などにより、我が国がITERの建設への移行も含め、設置国になることに名乗りを挙げるか挙げないかを決断するために明らかにしなければならない6つの課題(@エネルギーの長期に亘る需給調査、A代替エネルギーのフィージビリティスタディ、B核融合エネルギーの技術的実現性、C計画の拡がりあるいは裾野としての基礎研究、D研究の資源配分、E国際関係)を示した。
その後、ITER計画については、近年の核融合研究の進展を踏まえながら設計の合理化を図るために、1998年7月から3年間延長して国際共同で工学設計活動が行われている。この結果、2001年2月には最終設計報告書(案)がとりまとめられ、それまでのITERの設計よりコンパクトになったITERの設計が公表されるとともに、本年7月には工学設計活動は所期の目的を達して終了する見通しとなっている。一方、2000年4月からはITERの建設、運転、利用、廃止措置に関する共同実施に向けた非公式政府間協議が開始され、同年12月には共同実施協定に盛り込まれ得る事項について基本的考え方がとりまとめられた。これに基づいて、現在のEDA参加極及び他の関心を持つ国による公式政府間協議が開始され、2001年中頃には誘致を希望する極からサイトの提案がなされる見通しである。
当懇談会は、2000年7月以降、このような状況の変化を考慮し、報告書「懇談会における論点の整理と今後の課題について」において示した懇談会としての結論のとりまとめに向けた議論の方向性と道筋とを踏まえ、更に、今後議論すべきとした6つの課題を中心として、審議を行い、我が国がITER計画に対する対応を決定するに当たっての提言をとりまとめた。
近年、ITER計画のような極めて規模の大きな計画については、国内の幅広い賛同の下に進めていくことが必要条件になっている。まず、@科学者による科学技術的な助言が必要である。これにより、当該計画の科学的意義や将来研究成果が得られる見通しが、科学技術的観点から明らかにされる。次に、A有識者による幅広い観点からの提言が必要である。これは、大型の科学技術計画の実施は、国民社会に対し大きな影響を与えることによるものである。更に、B当該計画について、我が国の科学技術の推進という全体的な視野の中で、プライオリティを判断する必要がある。最後に、C科学技術に限らない我が国の活動全体というより広い視野における判断が必要となる。
当懇談会は、このような本格的な合意形成を目指すプロセスの指針を示す役割を担っていると考えられ、このような認識の下に、上述のAの有識者による幅広い観点からの提言として、懇談会におけるこれまでの議論の経過を可能な限り幅広く含めて、それらを論理的・客観的な流れの中に構築することに力を注いだ。我が国がITERの建設への移行も含め、設置国になることに名乗りを挙げるか挙げないかについては、当懇談会の提言を踏まえ、関係者により今後検討すべき事項について更に検討を行った上で、総合的に判断を行うことが必要と考える。
全ての問題を地球の問題として考えることが必要となった。このことは現代を特徴付ける最大の課題である。間違いなく増加する地球人口のもとで、すべての人類が安全で豊かに生活できること、そのためにすべての国家や地域は、固有の文化や制度、生活習慣を護りながら、一方で地球の維持という人類全体としての目標を達成するために協調することが不可欠である。
地球環境問題は、このような協調が必要なものとして急速に浮上した代表的な課題である。各国固有の環境政策や環境問題への対処を通じ、また世界的な討議の場としてのリオデジャネイロでの地球サミット(1992年6月、環境と開発に関する国連会議)や、地球温暖化防止京都会議(1997年12月、気候変動枠組み条約第3回締約国会議(COP3))などを経験することによって、この意味での協調が、従来の民間交流や政府間協定に基づく交流などの国際的協調とも、また経済の地球化と呼ばれる企業の国際化とも、全く異なる新しい国際的な協調でなければならないことを、私たちは理解し始めたのである。
第一にそれは、基本的に、対処すべき問題が地球的な拡がりを持つものであり、対処行動の効果は局地的なものに止まり得ず全地球的なものとなり、したがって各国、各地域が自らの利益を目標として立案する政策や、企業が自由競争市場で利益追求する方策によっては解決できない内容を持っている。
第二に、進行する変化が地球全域に亘るだけでなく、進行は漸進的であり、しかもほとんど不可逆的であることである。したがって、即効的、あるいは対症療法的な政策や手段によっては解決できない。
第三に、その内容が人類にとって未経験のものであり、現有の科学的知識のみでは解決できない場合が多いことが挙げられる。したがって問題への対応は科学上の基礎研究を伴うことを不可欠とすることになる。
第四に、その問題は人類が豊かになるために行動したことが、長年の蓄積を経て現出するという性格を持つことである。したがって、その解決には新技術の開発によって一気に解決されるというものでなく、人類の行動の広範囲な軌道修正が必要であると考えなければならない。
これらの特徴についての理解を背景としながら、問題の解決は企業の自由競争による市場原理のみに頼ることは出来ず、また公費負担による基礎研究の研究者間競争のみに頼ることもできず、またそれらにおける協調の適用によっても解決できず、問題の理解の共有と、全地球的な協力による有効な手段の共同開発とその実施という、新しい協調が必要であるという認識に、私たちは今到達した。そしてそれは、前述の地球環境関連の国際会議などに見られるように、次第に行動に移され始めたと言ってよいであろう。そして行動がまた新しい理解を生む。このように、理解と行動とが連動する段階へと、環境問題が前進したのは明らかである。
冒頭に、全ての問題は地球の問題であると述べた。地球環境問題がその典型であり、代表的なものであることは言うまでもないが、今や、国家の政策、企業の活動、そして個人の行動さえも、地球の問題と独立に考察することが許されない例が急増していることに注意する必要がある。そしてそれらの幾つかは、地球環境問題と同じ水準の、新しい考えに基づく協調が必要になってきたと考えるべきである。それらは資源問題であり、食糧問題であり、そしてエネルギー問題である。
むしろ、ここで問題とするエネルギー問題は、地球環境問題と同等の水準の人類の協調課題であると言ってよいであろう。しかし、エネルギー問題は、政治的には極めて過敏な性格を持ちながら、現実には自由市場経済に委ねられているという、矛盾した状況に置かれ、地球的な展望を世界的に共有するには程遠いのであって、その共有の方法すら明らかにされていないと言うべきであろう。しかしエネルギー問題は前述したような、新しい協調を必要とする課題が持つ根拠を全て持っているのであって、問題の理解を共有し、協調の方法を開発する努力を怠ってはならない課題である。
このような課題の解決に取り組む上で、科学技術の果たす役割は大きい。また、科学技術の人類への寄与については、緊要性と根本性の観点から見ると、情報技術や生命科学・技術とエネルギー技術では全く性格が異なる。エネルギー問題は、短期的な優先順位の議論では、情報技術や生命科学・技術に比べ軽視されがちであるが、人類の生存や持続的安定的発展という意味において根本的な重要性がある。たとえまだ問題が現実的に表出していないとしても、エネルギー問題が持つ後戻りできないという性質からいって、その努力の開始は早ければ早い程よいと言うべきである。
当懇談会が議論するITERは核融合エネルギーの利用を目指すものであるが、核融合エネルギーが未来における実用化を期待するエネルギーである以上、我が国の政策を考察する場合、前節に述べたような、未来に亘る地球的課題としてのエネルギー問題の文脈の中で論じるべきものである。エネルギー問題に関する世界的な理解の共有化についての展望を描きつつ、同時にその中で我が国の取るべき道を探究することが必要となる。
長期的なエネルギー需給の見通しは、技術、政策、社会構造、ライフスタイル等の選択に依存して変化する。石油、天然ガス、石炭などの化石燃料が有限であるとの認識は共通であるが、ここ100年程度の範囲ではこれら化石燃料資源の枯渇は予想されていない。一方、化石燃料の消費に伴う地球温暖化に代表される環境制約はより深刻な問題と認識されており、人類にとって資源制約よりも切迫した制約要因になると考えられる。
このため、将来のエネルギーは燃料の炭素依存から脱却して、なんらかの形で大気中に放出する二酸化炭素を低減し、地球規模でその濃度を安定化させる方向へ向かう必要がある。今後、経済発展とエネルギーの安定供給、地球環境保全の要求を同時に満たすために、相対的に資源的な制約が少なく、経済性、環境保全性や供給安定性に優れ、供給容量も十分なエネルギー源の開発と普及が求められる。
環境的な制約が資源的な制約よりも切迫した状況では、21世紀末には省エネルギー化が進展する一方、エネルギー供給の主要な部分は、今後開発を進める再生可能エネルギーや原子力などの革新的な代替エネルギーで占められ、化石燃料からの脱却が図られることとなる。従って、各種の代替エネルギー源の開発を広範に進め、それらの中から、環境への配慮と経済性、ライフスタイルや社会的価値観により、それぞれ最適なエネルギー供給構成を「ベストミックス」として選んでいくことになる。核融合エネルギーは実現すればこの革新的な代替エネルギーのカテゴリーに含められる。
代替エネルギーのうち核分裂反応を利用した原子力は、資源制約、環境制約がともに少なく、安定供給が可能である。今後、高速増殖炉などの技術開発も進むと思われる。社会的な受容性を更に向上し、立地と使用済燃料の再処理や高レベル放射性廃棄物の処理処分を円滑に進めることが求められている。
水力、地熱、太陽光、風力、バイオマス等の再生可能エネルギーについては、程度の差こそあれ、ほとんどがその技術的な実現性と供給可能性がほぼ確認できている。水力については、建設を含めた寿命期間中の二酸化炭素発生量が非常に少なく負荷追従性にも優れているが、開発地点が限られており今後の立地に多くを期待できない。地熱は潜在的供給量やコスト面で良好であるが、開発地点が限定される。太陽光、風力については、資源、環境制約条件が少なく、分散電源としても将来の有望な代替エネルギーとして期待が大きい。しかし、安定供給が困難であるため、利用拡大には電力貯蔵等の新たな技術課題の克服が必要と考えられている。バイオマスも潜在的資源量、環境適合性に優れ、技術的困難も少なく、代替エネルギーの主力としての期待があるが、エネルギー作物を栽培してこれを資源化するという方式は土地の有効利用やエネルギー効率の観点から現実的でないとの見方がある。
核融合エネルギーは、資源的には地域的な偏在がなく量的にも制約は予想されていない。核融合反応の原理的な性質により、核分裂と比べ安全対策が比較的容易である。低レベル放射性廃棄物は発生するが、高レベル放射性廃棄物の処理処分の必要がなく、燃料サイクルが簡便である。また、国際的な緊張を引き起こさず、国際協力の下で研究開発を進めることによりエネルギー逼迫を防ぐこととなる。しかし、その実用化の時期が各種代替エネルギーと比較しても十分見極められていないこと、現時点ではその技術的実現性が実証されていないことから、他の代替エネルギーと同列に論じることは必ずしも適当でない。
核融合を含め、実用化の可能性が今後の研究開発の進展に大きく依存するような新しいエネルギー源の開発については、最新の情報に基づいた実用化の時期や規模、安全性、社会的受容性、経済性等の評価を厳正に行い、将来のエネルギー需要や地球環境対策といった観点からその意義を確認しつつ、様々な可能性を幅広く模索しつつ弾力的に開発を進めていくことが重要である。
前節に述べたように、代替エネルギーを探る努力を払うことが不可欠である。しかし、代替エネルギーのあるものは実現可能性は確実であっても供給量が十分ではないと推定され、またあるものは潜在的供給量は大きいと推定されるものの実現可能性が未知であるなど、決定的に将来のエネルギー源を定めることが出来ない。従って、各種の代替エネルギー源の開発を広範に進め、時代に応じて最適なエネルギー供給構成を「ベストミックス」として選んでいくというのが現在許される将来の見通しに関する考察の限界である。
このような状況から言えば、基本的にひとつのエネルギーに人類が頼らなければならないという論理的帰結は本質的に導出し得ないのであって、核融合エネルギーについてもその例外ではなく、将来のエネルギー源の一つの選択肢(オプション)である。しかしながら、核融合エネルギーは有力な選択肢としての特長を有していると考えられることから、その実現可能性等を十分検討しておくことが、今後の我が国の政策を決定する上で必要不可欠なことである。
(1) 核融合エネルギーの特徴
核融合エネルギーの燃料となる重水素とトリチウムを生成するためのリチウム(リチウムは核融合炉内で核融合燃料のトリチウムに転換される)は、海水中にほぼ無尽蔵に採取可能な量が存在する「地球上に偏在しない豊富な資源」という大きな特長を持っている。それゆえ、それが実用化されるならば、人類の安定的で恒久的なエネルギー源となる大きな可能性を有している。
また、核融合そのものの特質として、原理的に反応が暴走しないうえ、少量の燃料から膨大なエネルギーを取り出せることから大規模なエネルギー源として安定的に利用することが期待できること、核融合反応の過程で二酸化炭素の発生がなく地球温暖化等の原因にならないことなど、優れた特長を有している。
(2) 核融合の安全性
核融合エネルギーの優れた特長については前述のとおりであるが、それでは実際に核融合エネルギーを取り出す装置の安全性がどうなっているかということは極めて重要な点であり、この核融合の安全性の問題に関する取り組みの現状、今後の課題等を明らかにすることが必要である。
核融合の研究開発にあたっては、必要な要素技術開発とならんで、一般公衆や作業従事者の安全を確保するとともに環境に影響を及ぼさないことに配慮して設計することが最重要課題である。一般に核分裂の場合は、「止める」、「冷やす」、「閉じ込める」が安全の原則と言われているが、核融合の場合には、このうち、「止める」、「冷やす」については、核融合炉に備わっている原理的な安全上の特長により容易に達成可能であるといえる。「閉じ込める」については、燃料のトリチウム(三重水素)を外部に出さぬようにすることで達成できる。また、高レベル放射性廃棄物は発生しない。しかしながら、低レベル放射性廃棄物は発生するので、その処理処分が必要である。
現在、設計が進められているITERにおいては、反応が暴走しないという原理的な安全上の特長を踏まえつつ、機器は本質的には故障するものであるとの前提に立って、これまでの原子力施設で培われた深層防護の考え方を取り入れるとともに、施設の耐震性についてもその設計の妥当性を評価することが必要であり、鋭意検討が行われている。特に、放射性物質であるトリチウム(三重水素)を燃料として利用することから、適切な「閉じ込め」を実現できる設計となるよう考慮されている。
(3) ITERの技術と状況・今後の計画
1960年代から世界的に行われ始めた核融合炉の研究開発は、磁場を利用してプラズマを閉じ込めるトカマク方式の発明により、プラズマ制御技術が飛躍的に向上した。これまでは、核融合出力が外部からの加熱入力に等しくなるようなプラズマの発生・閉じ込め技術を確立することが主な目標であった。この目標は、欧州のJET(Joint EuropeanTorus)と日本原子力研究所の臨界プラズマ試験装置(JT−60)によって達成された。
ITERについては、自己点火条件の達成と長時間燃焼の実現を目指して、1992年から、我が国、米国、欧州連合(EU)及びロシアの四極の国際協力により、工学設計活動(EDA)が実施されてきた。均等貢献の原則に基づいて、我が国、米国及びEUの3ケ所に設置された共同中央チームによる設計作業並びに各極のホームチームによる工学的な研究開発(工学R&D)が順調に進められてきた。「はじめに」で述べたとおり、1998年の段階でとりまとめられたITERの設計は建設費が約1兆円であったこと等から建設段階への移行を判断できないとの各国の状況を踏まえ、工学設計活動の期間を3年間延長し活動が続けられている。
核融合の研究開発においては、世界的な共同作業によりプラズマ物理の知識基盤、データベースも充実し、ITERの目標とする長時間の核燃焼あるいは定常燃焼の実現を見通せる状況にある。また、これらの研究と並行して、国内外の大型トカマク装置や大型ヘリカル装置の製作等で培われた技術蓄積や、国際共同で進められた工学設計活動によって、大型超伝導コイル技術、遠隔保守技術、高熱負荷プラズマ対向機器・材料、ブランケット技術、大量トリチウム取り扱い技術、加熱・電流駆動技術等が大きく進展し、ITER建設の技術的な基盤が確立した。ITERの建設は、これらの技術成果の統合化を図ろうとするものでもある。
特に、ITERの設計については、JT−60をはじめとする最新の研究成果に基づいて我が国が提案したコンパクトな装置概念が国際的に認められ、本体建設費は従来の半分の約5,000億円と見込まれている。この他にサイト整備費等の費用も見込まれている。新しい設計の考え方は、従来のエネルギーをできるだけ多く取り出すことを標準的な運転状態とする設計から、将来の実用炉を念頭に、エネルギーの取り出しは抑えるものの制御性と定常運転性の高い状態を標準的な運転状態とする設計としたものである。これにより、核融合反応に必要なプラズマの体積が減少し、装置全体の小型化が可能となり、結果としてコストの低減に貢献するとともに、将来の定常発電プラントにより直接的につながる概念の装置となっている。
ITERでは本格的な発電は行えない。しかし、ITERによって得られる科学的知見や技術の大部分が発電炉に応用可能である。ITERや併行する先進方式の研究開発と適切な材料開発が順調に進展した場合には、本格的な核融合発電の実証を目的とする原型炉の建設が可能になると見られている。但し、その実現時期については、今後の研究開発の進捗に依存する。
科学技術により安定的なエネルギーの確保を目指すという人類の挑戦において、核融合エネルギーのもつ大きな可能性とその実現性を考えた場合、核融合研究開発は着実に進めるべき価値がある。また、核融合研究開発の基礎となっている幅広い学術分野においては、プラズマ燃焼の長時間の実現や定常なプラズマの制御や強く非線形、非平衡なプラズマの研究が現在の最先端の研究課題であり、新たな知の地平を拓くことが見込まれている。科学技術による人類への貢献と学術の本来的な進展の方向が、核融合分野においては他の学術研究のみならずITER計画においても幸福にも一致している。このため、我が国としてITER計画に主体的に参加していくことには十分な意義があると考える。なお、国際協力の観点からは、現在のITER工学設計活動への参加が先進的な核融合技術を有することを前提にしているのに対し、必ずしもこのような国に限定した閉じた枠組みをとすべきではなく、将来、エネルギー消費量の大幅な増大が見込まれるアジア諸国を積極的に取り込んでいくというような考え方や、アジア地域の先進国として核融合の分野で我が国の果たすべき役割などについても十分検討しておくことが必要であろう。その際、負担と受益の関係を明確化することが重要である。
(4) 核融合炉開発研究と計画の拡がり、今後必要となる投入努力・予算 と技術
核融合炉の実用化にあたっては、核融合炉発電システムとしての技術を確立するとともに、実用システムとして他の実用エネルギーシステムと市場で競合できるような経済性を有する必要がある。
ITERの目標のひとつは、核融合炉システムとして工学的に実現可能であることを実証することであり、核融合炉実現に向けての大変重要なステップであるが、一方、核融合炉への開発ステップにおけるひとつのステップでしかない。ITER以降において、核融合炉の発電プラントとしての工学的実証を目的とする原型炉の開発を経て経済実証の段階に進む必要が生じることに留意する必要がある。
核融合炉について、ITERは、発電システムの有無を除き炉に直接活用できる知識を与える。更に技術的、経済的性能を高めたり、環境整合性を高めるなどの努力も重要である。原型炉等の開発に向けて、以下のような課題がある。炉心プラズマ技術に関しては、ITERを用いて定常的な燃焼プラズマの長時間維持に関する知見を蓄積するとともに、併行してITER以外の装置を用いて先進的方式の研究を積極的に進めることが重要である。工学技術に関しては、トリチウム増殖及び発電に用いる高温の熱の取り出しを行うブランケットモジュールの開発が重要である。また、運転・保守作業を容易にするとともに、部品交換や施設解体時の廃棄物処理を容易にするため、中性子照射に伴う放射化が少ない材料の開発が必要である。このような材料としては、低放射化フェライト鋼やバナジウム合金及び SiC/SiC複合材等の先進的な材料が有力な候補として研究開発が進められている。また、建設費の低減につながるような、新しい高温超伝導材料の開発が重要である。この他、プラズマ加熱、電流駆動等の様々な関連装置の経済性向上も今後の技術課題である。
核融合研究開発を推進するためには、長期的視野に立って幅広い核融合研究の体系化された学理を構築することが、研究成果を確実なものとするとともに、広く社会・学界に理解してもらうためにも重要である。
ITER計画を含む核融合の研究開発については、これまでに多くの検討が行われてきた。第三段階核融合研究開発基本計画(平成4年 原子力委員会決定)では、核融合研究開発の目標として、「第三段階の研究開発は、自己点火条件の達成及び長時間燃焼の実現並びに原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎の形成を主要な目標として実施する。これを実施するための研究開発の中核を担う装置として、トカマク型の実験炉を開発する。」としている。また、原子力委員会核融合会議では、「ITER計画を「実験炉」として位置付け、開発することが適当であるものと考える。」(平成8年)と結論づけている。更に、現在進められているITERの設計が第三段階の研究開発目標を達成できるものとなっているかどうかに関し、核融合会議において随時検討が行われている。最新の検討としては、平成13年2月にとりまとめられた最終設計報告書案に対して検討が行われ、3月には「設定された技術目標を満たしうるものである。」との評価が得られている。
また、実験炉による研究開発以外の研究開発に関しては、第三段階核融合研究開発基本計画において、@実験炉による研究開発だけでは十分解明できない課題を解明するための補完的な研究開発及び実験炉を含む各段階の中核装置に新技術を取り入れる前に確認・実証等を行うための先進的研究開発をトカマク型装置で行う、A今後の研究開発の成果によってはトカマク型を上回る閉じ込めを実現する可能性を有していること、トカマク型装置による研究開発への貢献が期待されること等から、トカマク型以外の装置の研究開発を進める、としている。これを受け、大学、研究機関等において研究開発が進められてきている。
このため、ITER計画を推進すると同時に、核融合炉の先進方式、関連する炉工学やプラズマ物理学を併行して体系的に研究することが必要である。我が国の核融合研究開発については、大学、研究機関等において、トカマク、ヘリカル、ミラー、逆磁場ピンチ、慣性閉じ込め等の幅広い方式の研究や多方面の核融合工学技術開発が展開されている。その成果は、数多くの論文として発表されるなど、プラズマ物理の理解、物理と工学の両面での学問的な体系化、あるいは基礎基盤研究の形成において、国際社会でも高く評価されている。また、核融合を支えることとなる幅広い学問分野、例えば、超伝導工学、核安全工学、機械工学、システム工学、品質工学などをみてもその研究水準は高い。
更に、人材の育成を継続的に重視するべきであり、それは基礎・基盤・開発・システム・技術等、若人の教育から熟達した技能の伝達まで行う必要がある。ITER計画を含む核融合研究開発の全体的な構想については、これまでも原子力委員会及び学術審議会において審議が行われてきた。その結果、大学や核融合科学研究所、日本原子力研究所等において、科学・技術・開発にわたり、様々な成果を上げ現在に至っている。今後更に、こうした研究開発について戦略的に重点化を図りながら推進していくことが求められる。
なお、これら諸段階において必要とされる経費については、今後の諸技術の開発・実用化の進展とも深く関わることであるが、今後、中長期的かつ継続的に相当な投資を必要とするものであると考えられるが、効率的、効果的な資源配分が重要である。また、核融合炉の建設から運転段階を経て、廃棄物処分も含めた廃止に至るまでのライフサイクルコストも視野に入れておくことも重要である。
先に述べたように、各種エネルギー源の将来性と、核融合エネルギーの持つ実現可能性の程度とを勘案すると、核融合エネルギーは、人類にとって無視することのできない、一つの有望な選択肢であることが確実である。すなわち、現在に生きる我々が、これから生まれてくる人類のために果たすべき一つの責任として考えるとき、核融合エネルギー開発を推進することに十分な意義があり、また、我が国の核融合エネルギー開発を推進するためにITER計画に参加することを期待する。
このことを前提としつつ、更に、我が国がITERの設置国として名乗りを挙げるべきかを判断するには、そのための根拠を別に検討することが必要となる。検討の結果を以下に列記する。
(1) 国際的役割
我が国が国際貢献により大きな努力を投入すべきであることが指摘されてからかなりの時が経過した。しかし、貢献の理念的検討は必ずしも十分に行われてこなかったことから、実績は醵金などの経済的なものに止まっているという意見がある。
そのような意見は、我が国の経済的成長が、欧米諸国が先陣をきって多大な投資と研究開発努力を行ってきたことによる恩恵を受けつつ、高品質低価格の工業製品の製造能力を半ば保護経済の中で育成し、タイミングよく経済を開放して輸出を開始し、その後も市場における競争力を向上しつつ長期に亘って工業製品の市場を拡大して来たことを中心的な根拠としている。
現在、世界が国際的に抱える問題を自ら発掘し、日本固有の潜在力と方策とをもって寄与するという能動的指向の道を見出すことは、国際社会に対する我が国の責務とでもいうべきものであり、また、それは、恐らく大多数の日本人が支持、と言うより期待していることでもある。
すなわち、我が国が今日目指すべき国際的役割とは、単なる経済的な貢献というものであってはならず、知識・知見の創造、国際的な問題解決のための積極的な技術の提供といった、新しい姿に脱皮していくことが求められている。
この観点が、科学技術基本法の制定や、科学技術研究費の増加の背景の一つともなっていることは、当然のことであり、また高く評価されるべきことである。
すでに、米国は宇宙開発で、また欧州は大型加速器を用いた素粒子研究で中心的役割を果たしつつ、世界をリードしてきている。我が国では国立天文台がハワイにすばる望遠鏡を設置し、各国の研究者の利用に供している。今後、多くの分野で国際協力が進み、我が国の研究者が他国の施設を活用して研究開発を進めるケースも多くでてこようが、我が国も世界に誇れるような研究のインフラとなる施設を設置し、世界の研究者にそれらを公開して我が国の存在意義を高めるとともに、相互依存の関係を維持していくべきである。世界の研究者が研究に献身できるような環境を我が国に持ち、研究においてもリーダーシップを発揮することにより人類の知的資産の蓄積に寄与し、国際社会に大きく貢献するべきである。
核融合エネルギー研究開発をこの観点から見るとき、資源小国の我が国がその中で主要な役割を果たすことの意義は十分に大きい、と理解されるのである。
(2) 科学技術的潜在力
前項に述べたように、広い意味での国際貢献は我が国にとって固有の意義を持っている。その中で科学技術的貢献は単なる経済的醵金を超える大きな重要性を持ち、したがって、そのような考え方の延長線上において核融合エネルギー研究開発への積極的参加が、日本にとって大きな意義を持つ可能性が十分にある、と言える。
しかし、それが可能性を超えて現実のものとなるためには、条件がある。それは、この技術が、科学的にも未知のものを含み、しかも多くの未開拓技術の集合体であることから言って、我が国がそれを推進する主役として相応しいかどうか、という点である。
我が国の核融合エネルギー研究開発については、3.(4)で述べたように、大学、研究機関等において研究水準は高く、またそれに応じた教育も行われている。ここで培われた研究者、技術者の存在、あるいは裾野の広さは、システム統合としてのITER計画を実現たらしめる原動力であり、我が国は、十分なポテンシャルを有している。
さらに重要なことは、これら研究及び教育の水準のみならず、それらに支えられた産業技術が高い水準にあることである。この点については二重の意味で意義がある。
第一は、核融合エネルギー技術は、数々の装置産業が提供するシステムによる電力供給産業を構成するのであるが、それが安全で低価格で可能になるためには、我が国が経済成長を成し遂げる上で重要であった製造業の高水準化と類似の技術体系および産業経営が必要なのである。したがって我が国の製造業における実績は、核融合エネルギーを実用化するための貴重な財産であると言うことができる。
我が国が経済成長を遂げたことの根拠としての技術を活かすことによって国際的に役割を果たすことができるとすれば、そのこと自体が第二の意義となる。
核融合エネルギーの実現が将来のものであることを考えたとき、研究者及び技術者の存在、裾野の広さ、さらには産業技術の高い水準の維持もまた、長期的な視野で捉えておく必要がある。現在の我が国は、十分なポテンシャルを有しており、近い将来にそのポテンシャルが失われITER計画を支えられなくなると疑う根拠は見あたらない。むしろ、世界で唯一のITERを主導的に建設することにより、国際プロジェクトの取りまとめに主導的役割を果たすという貴重な経験の機会が得られるとともに、システム統合技術の習得や、最先端技術の成立過程の観察、重要な技術情報の蓄積等を通じて、この分野で世界をリードするまでに至った我が国の科学技術力及び産業技術がより一層進展し、更に、そこで得られた有形、無形の成果、ノウハウが標準的な事例として将来に継承されていくことから、我が国のポテンシャルの高さを長期間維持できる可能性があることの意義が大きい。
核融合研究開発は、1955年当時、制御核融合の見通しが20年以内に得られるであろうと予言されてから、既におよそ半世紀という年月を必要としてきている。核融合反応を行うプラズマの理解と制御に当初の予測を超える多くの努力が必要とされてきたからである。このため、核融合研究開発は段階的に進められている。この段階的開発戦略は、各段階において明確な目標を定めつつ進むものであり、一つの段階から次の段階へは、まず次の目標が適切かについて吟味し、改めて設定した目標の達成に必要な科学技術的見通しが十分に得られていることを確認して進もうとするものである。段階的開発戦略は、核融合のような大規模システム開発を着実に進め、かつリスクを最小化する目的で適用されてきているが、他の研究開発に比し格段に長い年月と大規模な開発コストを必要としていることに留意する必要がある。
(3) 日本社会の倫理性からの評価
核融合エネルギーのような巨大技術の研究開発の主役に、ある国がなるためには、国としての倫理性が問われるのは当然である。宇宙開発にしても、原子力開発にしても、我々は国家の倫理性と切り放せないことを経験的に知っている。そして、この倫理性は二つの側面を持つ。ひとつは、国の内部に関わることであり、もう一方は国際的なものである。
我が国が抱える困難な問題の多くは、我が国の国家としての目標が曖昧になったことと関係があると言われる。恐らく国家としての経済的成長は、いわばどの開発途上国においても合意された目標になり得るのであって、その意味で途上国に目標喪失の悩みはない。しかし、ある程度経済成長を達成すれば、人々が持つ本来の多様性が、生活様式や思想に現れることとなり、その中で公共的なものとしての国家のアイデンティティあるいは目標を創出することは、その国の文化に根差した固有の政策的配慮を必要とすることになる。とくに東西の対立が解消した以上、その配慮は各国の固有な責任である。とくに私的利益を中心とする経済活動のみを社会の中心に据えたとき、私的関心の肥大化と公共的意識の衰退とが進行すること等により社会的問題を引き起こす例を私達は歴史的に知っているし、また現在の我が国の諸問題が、このことと関連することが既に指摘されている。
したがって、現在の我が国にとって、経済活動の活力を殺ぐことなしに、公共的意識を社会的に顕出させることは必要なことである。巨大技術の研究開発は、多くの場合現世代の人々に直接的な利益をもたらすものではない。核融合エネルギー開発は、既に述べたようにその代表的な例である。したがって、その実施が政策として支持されるためには、私的利益を離れて未来の人類を想う公共的な理解が必要なのである。
そこには、このような計画が社会的に受容されるか否かによって、その社会に属する人々の公共的意識が測られるという面がある。勿論、その場合支持は強制されたものであってはならず、十分に民主的な手続きを経て、人々が自発的に支持するものでなければならないのは当然である。しかもその支持と実行とは、公共的意識の計量だけでなく、その行為を通じて人々が公共的意識を社会的に発現して行く過程になることも重要である。
このような観点からは、核融合エネルギー開発が前項に述べた国際的役割を積極的に果たすという国家的倫理感にもとづく行為であることと重なって、一人一人が有意義な公共的計画であるとの理解を示しつつその支持を判断する課題となり得ると考えられる。
一方、国際的な見地からすれば、このような巨大技術に関して一国が先導することについての倫理的条件が当然問われることとなる。既に、エネルギーは、国際的には政治的過敏性を持つ技術であって、国際的セキュリティと深く関係している。その意味から言って、先導する国の倫理性は、国際社会において重大な関心事である。
この点において、我が国は、国際的に一定の信頼感を得ているのではないかと考えられる。第一に、我が国の憲法は、国際的に見て我が国のどんな行動も国際緊張を引き起こさないことが基本的な条件となっている。第二に、我が国が製造技術や生命科学等の分野で、実際の活動として世界への先端技術・科学の拡散・普及・支援努力という経験を積み重ねてきている。第三に、原子力エネルギーの開発と利用に関わる原子力平和利用の原則を立て、それを確実に守って来た実績によって、国際的に大きな信頼感を勝ち得る結果となった。その他、我が国の民生主体の産業展開なども、国家的倫理性という見地から高く評価されるのである。これらの観点から言って、国家の倫理性に関し、国内的には必要条件として、国際的には十分条件として、我が国が核融合エネルギー研究開発を主導することには矛盾なく受容される条件が整っていると考えられるのである。
(4) 安全面での配慮
ITERでは、トリチウムはカナダから輸送する必要がある。また、核融合反応により高いエネルギーの中性子等が発生することから、その遮蔽のための炉構造材が脆化したり放射化したりする。その結果として発生する放射化金属等の廃棄物は、運転中と運転停止後の廃止措置に当たって処理処分が必要である。このように安全性の問題は、我が国においては特に国民の理解を得つつ、適切に対処していくことが求められる。今後の課題としては、その発生の低減化を図る低放射化材料の開発が必要であり、国際エネルギー機関で検討が進められている高エネルギー中性子照射施設計画などの着実な実施が重要である。ITER計画においても、ITER以降の原型炉等に必要な材料開発を目指して中性子照射試験等の必要性が認識されている。
(5) 投資面からの評価
我が国にとって前述のように、国際的役割や国家的アイデンティティという点で積極的な意義があり、しかも科学技術の水準や国際的信頼感からいって条件を満たしているとしても、ITERの設置国になるためには、現在のITER工学設計活動によりとりまとめられている最終設計報告書(案)(2001年2月)において約5,000億円と推計されている本体建設費の相応分とその他に見込まれているサイト整備費用への投資が必要となることについて十分な考察を欠くことは許されない。
まず我が国が設置国になることとは別に、絶対確実とは言えない、しかも一つの選択肢としての核融合エネルギー開発にかなりの額の投資を当てることの意義は何かを明確にしておく必要がある。結論的に言えば、その金額の妥当性について明確な定量的判断を下すことは現時点では無理である。確かに、核融合エネルギーの実験炉ITERのコストは見積もられている。さらにそれに続く原型炉、実用炉のコストの定量的推定がなされており、他のエネルギー源と競争力を持ちうる範囲にあると見積もられている。しかしながら、現在実現されていない科学技術が本質的に持つ不確実さとして、そこには多くの技術開発の必要性があり、そのような推定を正確に行うことは困難である。それ以上に核融合炉の実現によって得られる利益についてはほとんど推定不可能だからである。例えば、仮に核融合炉が技術的に実用化して電力生産を開始したとき、化石燃料、原子力などによる電力がどの位の価格になっているか推定を正確に行うことは困難である。また仮に、化石燃料が尽き、核分裂エネルギーが使用できなくなったときや環境問題等により社会的必要性が高まった時に核融合エネルギーが使えるものであるとすれば、それはコストが高くても使わざるを得ないことになるであろう。先に述べたように、各種の代替エネルギー源の開発を広範に進め、それらの中から、環境への配慮と経済性、ライフスタイルや社会的価値観により、それぞれ最適なエネルギー供給構成を「ベストミックス」として選んでいくことが、選択の問題として求められているのである。
結局、核融合エネルギーが、エネルギー市場で競争力を持つかどうかを、現時点で議論するのは困難と言うことである。それは、この投資が、経済的時間軸で言えばかなり未来のことであり、現在の経済的枠組みの存続すら言及できない時期に効果が表れることを期待するものだからである。しかしエネルギーの供給という時間軸で言えば、例えば現在の化石燃料や軽水炉などが使用不可能になったときに直ちに期待される技術なのである。
このような観点に立てば、幅広い意味での環境負荷や大規模エネルギーとしての供給安定性、原理的な安全性の面などで優れる核融合エネルギー研究開発に対して行う投資は、あたかも人類の将来の自由度を保証するためのものであり、例えれば保険料のようなものであると見做すべきことになろう。
すなわち、人類存続のために、未来に起こる可能性としての現有エネルギー源の枯渇を考えるとき、そこに生じる混乱の回復に必要であると予想される巨大な費用を緩和することを目的として、現代の人々が負担すべき保険料が、現時点でITERの本体建設費と推計されている約5,000億円ということであり、ITERが国際的な資金分担で建設されることを考えれば、我が国がこの中のどの程度を負担するかということである。
したがってこの投資は、未来の人類社会をエネルギー多消費型に誘導するという意味を全く持つものではないと解釈されるのであって、他方で、人類社会は、少資源型のライフスタイルを誠意をもって希求すべきなのである。そして仮に、新たなエネルギーを必要としなくなったら、核融合エネルギーは技術的に完成していたとしても実用化されることはないであろう。その時人類は、この投資を無駄な投資で損をしたとは思わない。何故ならそれは保険料だからである。生命保険を掛けて、死ななかったから損をしたと思わないのと同様に、それは正当な投資である。言い換えれば、核融合エネルギー開発とエネルギー少消費型社会とは全く異なる選択肢であるが、それらは同時併行して追及されてよいものなのである。
また、エネルギー資源の大半を外国に、しかも、石油についてはほとんどを中東地域に依存している我が国にとって、この保険料は、他国とは異なり、経済安全保障という観点においても重要な意味合いをもつと考えられる。
以上で述べたような、ある研究開発投資を未来への保険として捉えるという考え方は、これまでには見られなかったものかもしれない。しかしながら、今や、資源を始めとする地球環境による制約を念頭に置いて未来を考えなければ、人類の存続すら危ぶまれることが認識される時代、いわば地球環境時代が到来している。このような時代にあっては、こうした新しい考え方が必要とされるのであり、その重要性は今後ますます強まっていくものと考えられる。
従って、未来への保険としての可能性を有する研究開発投資に関して、その意義や具体的な推進のための手法、定量的最適化等を検討し深めていくことに対して、社会全体で取り組んでいく姿勢が不可欠となろう。
ITER計画に対して我が国のとるべき対応について検討を行ってきた当懇談会としての議論を以下に述べる。
国民全体という見地からの広義の安全保障、国家という規模で行われる国際的機能は、プライオリティの高いものと考える。ITER計画はこのような範疇に入っている。
国際協調で行われる科学技術的計画の形態は、ヒトゲノム計画のように一つの大きな設備を要しない分散型のものから宇宙ステーション計画のように一つの大きな設備を作り上げようとする一極集中型のものまである。その責任分担も、科学・技術的なもの、資金的なもの、プロジェクトマネージメント的なものなどがある。参加している国々の貢献の方法や程度については、当該計画に対する熱意、経済力、政治的判断など様々な要因が働く。
ITER計画は、国際協調で行われる一極集中型の計画であり、その責任分担は、今後行われる国際協議の中で交渉により定まっていくこととなる。また、責任分担には、経済的な利益・不利益のみでは測り切れない重要なものもある。すなわち、成果を人類全体が享受する場合、我が国が科学技術の先進国として、その地位に相応しい責任を果たしていくという、倫理的な動機も働く余地がある。
従って当懇談会としては、例えばITERの本体建設費が約5,000億円であるとして、それが適当であるかどうかを現時点で厳密に判断することはできないというしかない。しかし未来の人類のための保険料という意味で、当懇談会としては、価値がありかつ意義のある投資であると受け止めている。
さて、以上に述べてきたように、エネルギー問題の特徴、その中での核融合エネルギーの意義、そしてITER計画の実現可能性などの技術的側面と、日本の国際的役割、国家的アイデンティティ、日本社会の倫理性・公共的意識などの社会的側面とを勘案して、日本がITER計画の実験炉の設置国として名乗りを上げることの妥当性が認められたとしても、私たちはこの計画が成功したときと失敗したときに起きるであろう影響について、ここで言及しておく必要があるであろう。
まず考えるべきことは、成功と失敗とのカテゴリーである。考えられる概括的な分類は以下のようになるであろう。
(1) 技術的に完成し、エネルギー源として競争力があり実用化する。この場合、研究開発に主役を演じた日本は尊敬され、経済的には計り知れない利益を生むことになるであろう。
(2) 技術的には完成するが、競争力がなく実用化しない。この場合は投資の回収ができないという打撃はあるが、人類がエネルギーの将来について高いセキュリティを獲得したという意味で決して無駄ではない。
(3) エネルギー需要が縮小し、新エネルギーは不要となり、計画の目的が消失して、技術的に完成しても意味を失う。このような状況は突然生じるものではなく、むしろ新エネルギー開発の実現との相互関係として社会のエネルギー消費傾向が決められるとすれば、やはり開発過程には意義がある。
(4) 技術的に失敗する。現在のところ、本質的に困難な問題は指摘されていないが、どんな技術でもその実現可能性が100%であることは有り得ず、その意味で実現できない場合も考えておくべきである。これは、確かに失敗であるが、単なる失敗とは言えない。むしろ人類のあり方についての制約が、失敗の事実から導出されるという意味では、極めて大きな意義を持つ成果であると考えるべきかもしれない。
上述のような起こり得る事例は、より詳細な検討によってもっと多くの場合に分類される可能性があり、その各々についての影響をより細部に亘って明らかにしておく必要があろう。しかし既に述べたように、現行エネルギーが枯渇する時期の、環境、経済、国際関係などを今から予測することが困難である以上、どの分類に行き着くかを議論することにはあまり意味はない。そうではなく、起こり得るどの場合においても、それが保険料として決して高価でないと認識することのできる内容を計画は持つべきなのである。おそらくそのような内容を持つとき、そしてその時に限り、このような利益の予測が本質的に不可能である計画に肯定的な判断を与えることが許されるのだと考えた方がよい。
その意味で、保険料であるとは言っても、計画の費用は最大関心事の一つであることになる。したがって計画の成功、失敗に拘わらず、プラスの評価が与えられるかどうかが重要である。それは、核融合エネルギー開発過程において行われる基礎研究や要素技術開発が、より広く基礎科学一般の深化と広範な産業分野の技術進展とに寄与するという波及効果や、高度な技術開発の国際協力を通じて得られるより一般的な協力方法についての学習効果等が重要である。更に世代間を通じる協力は、人類社会にかけがえのない信頼感を生むことになろう。これらのプラスの評価を最大化する可能性を計画に内在させることは不可欠の条件である。
一方同じ意味で、計画の費用を最小化することも最重要な条件である。ITER計画のように、目標と基本手法とが明確に定まっている場合には、計画の経営、研究開発管理などは他の一般の研究開発の経営管理とは異なる独自のものであるべきで、そのための手法開発の努力を怠ることは許されない。その点からすれば、計画は核融合エネルギーを専門とする科学技術者を中心としながらも、費用低減を使命とする経営管理の専門家も計画に参加して重要な役割を果たし、技術目標と開発リスクとコストのバランスがとれた計画として構成されることが必要である。
核融合エネルギーの実現を目指し、我が国がITER計画の建設段階に参加する場合にも、計画の出発を決断する際には、成功か失敗かのリスクは本質的に回避できない。しかし、計画の費用を最小化することとともに、その結果に依存しない意義と利益とを投入費用に対して最大化することの努力が重要である。
当懇談会は、我が国がITER計画に主体的に参加するだけでなく、設置国となることの意義が大きいと結論した。それはいずれ人類を襲うであろうエネルギー問題を前提とし、現在生きている世代はこれから生まれてくる世代の歩む道に対する制限を最小化する義務を負っているという理念のもとでの技術、社会等の考察を通じた理解である。
当懇談会は、「はじめに」に述べたとおり、ITER計画のような極めて規模の大きな計画に関し、国内の幅広い賛同の下に進めていくことが必要条件となっていると認識し、我が国がITER計画に対する対応を決定するに当たっての提言を示した。しかしながら、ITER計画の実現にあたっては、今後判断していかなければならない事項が残されている。具体的には、ITERを立地する地元との関係や財源確保など我が国がITERの設置国として名乗りを挙げるにあたり国にとして総合的に判断すべき事項、あるいは、研究者の参加・協力体制の確立、安全規制法令の整備、国際交渉における利害の調整などITER計画を進めるにあたって考慮すべき事項が挙げられる。このような事項に関する判断は、当懇談会が行うべきことではない。しかしながら、国として判断を行うにあたり、このような問題に対する留意事項を提示しておくことも十分に意味があると考えられることから、以下に述べる。
我が国がITERの設置国として名乗りを挙げるか挙げないかについて、国として総合的に判断を行うにあたっては、以下の点に考慮すべきである。
ITERの設置国となることは、後戻りの困難な投資を引き受けることであり、如何なる国内・国際環境変化に関わらず、ITER計画推進に中心的な役割を担い続けることを意味する。また、我が国に対し、長期間に亘り海外から数千億円の投資を受け入れるとともに、家族も含めて多くの研究者や技術者を我が国に受け入れるということであり、より大きな責任を国際社会に対して負うことを意味する。また、資金的にも他国と比較して多くの貢献が期待されている。そのため、設置国として、その責任を全うする強い意志を継続することが不可欠でありその責任は、設置する国にある。
本懇談会は、我が国がITER計画に主体的に参加するだけでなく、設置国となることの意義が大きいと結論した。一方、推進に当たって、我が国の科学技術計画全体を考えた際にどのような位置づけを与えられるかの検討は別途必要である。また、我が国の厳しい財政状況下での巨額な財政負担について、国民の理解を得つつ、国として財源措置を講ずるべきかを判断する必要がある。
ITERを我が国に誘致することは、設置する国の政府のみならず、誘致する自治体にとっても重要な意味を持つ。また、国内の立地候補地の選定に際しては地元の理解が特に重要であり、このため、格段の努力が必要となる。政府がITERを誘致する立地候補地を決めて国際的に誘致を提案する場合には、選定に関する公正かつ速やかな立地候補地選定のための作業を直ちに開始することが必要である。その際、地元の理解については十分調査確認した上で作業を行うべきである。
ITERの設置国として名乗りを挙げる場合、他にも設置国として名乗りを挙げるであろう有力な競争相手の存在を十分に考慮する必要がある。
我が国は、これまで、科学技術分野において本格的な国際共同事業を国内で推進した経験がない。他国から、多数の研究者、家族を受け入れることから、文化、教育、言語等の面で国際社会に適合した研究や生活環境を整備することが重要である。
ITER計画を推進するにあたっては、以下の点にも考慮すべきである。
国際協調で進められる計画においては、各国の利益のぶつかり合いの中で調整を行うことや慣習の違いによる意志疎通の難しさが考えられる。現在進められているITER工学設計活動では米国が途中で撤退するという事態となった経験を有しており、ITER計画に参加する諸外国の政策判断が、ITER計画の推進そのものに大きな影響を与える可能性も忘れてはならない。参加国の撤退などにより、我が国のみが過度の負担を負うような事態に立ち至るようなことがあってはならない。また、研究開発の過程においては多くの技術的困難に遭遇する可能性もなしとはいえない。我が国がITERを建設することとなった場合、このような様々な状況においても主導的な役割が求められることに留意する必要がある。
核融合エネルギーの実現は、既に何十年もの歳月をかけて世界各国が国家的に取り組み、今後も取り組みを続けようとしているものであり、投下される資源や費やす年月が大きくなる。スピード化する今日の経済社会において、何十年もの歳月を要するプロジェクトに対して支持を得続けることは容易なことではない。国民の十分な理解を得られなければその推進は困難であり、安全性を含めた正確な情報の提供を十分行うなうなど、不断の努力が必要である。
国際協調で行われるITER計画に関しては、広く我が国国民に対して果たすべき努力のみならず、立地される地域の住民に対し果たすべき努力を含み、さらにはITER計画へ参加している国の努力や現在ITER計画に参加していない国を参加させる努力をも含むものである。特に、現在ITER計画に参加していない国については、ITER計画をより多くの国が参加する計画に成長させていく観点からも重要である。なお、その場合には負担と受益の関係を明確化することが重要である。
ITER計画の推進に当たっては、当然のことながら安全性の確保が大前提である。我が国に立地される場合には、ITERが、我が国として受け入れられるレベルの安全性を有しているかどうかを確認すべきである。必要に応じ、我が国として受け入れられる安全性の考え方そのものをも検討し、その結果により安全規制法体系の整備が必要となるかもしれない。この安全性の考え方は、ITERが世界で唯一の実験炉として建設されることから、今後の核融合研究開発の先鞭をつけるものであり、国際的にも更には将来にわたって評価を得られるものであることが望まれる。
ITER計画のような国際協調計画においては、計画の運営や科学・技術の面において、組織や関係者を牽引していく指導者的な役割を果たす者が必要である。ITER計画の実施組織は今後の国際交渉の中で選定されていくこととされており、未だ定まっていないが、優秀な人材を選定することが決定的に重要である。仮に我が国がITER計画において主導的な役割を果たしていこうとするのであれば、このような者を今からでも選定、あるいは将来に向けて育成していく必要がある。更に、プラズマについて一定レベルの理解と実験の企画立案能力あるいは解析能力を有する人材が必要である。また、核融合装置を熟知した高い研究開発能力を持つ人材を確保するのみならず、産業界に多く存在している機械、電気、情報、建築、土木等それぞれの専門的経験を有する人材が必要である。この際、女性研究者、技術者の育成や幹部への積極的な登用を推進すべきである。
ITER計画は核融合エネルギーの実用化に向けての一つのステップである。材料開発の課題のほか、核融合研究開発に特有の問題ではないが、放射性廃棄物の処理処分の課題も残されている。先進方式の研究、炉工学研究や基礎研究も含めた包括的な研究が必要である。
また、このような努力を行うに当たっては、長期的な視点に立って計画を支える人材の継続的な育成が不可欠である。核融合研究開発は、多くの学問・技術の分野にまたがることから、他分野の研究者、技術者も含め、広く産学官の協力体制が構築されることに配慮すべきである。特に産業界については、ITER計画においては各国から機器・装置が搬入され、設置国において検査、組立、統合化が図られる必要があることから、研究者との連携の下に大きな役割を担うこととなる。また、ITERに多くの資金を投入する一方で、トカマク以外の方式を含む大学等における幅広い核融合研究への資金投入が減少し、その結果、核融合研究の基盤を損なうようなことになってはならない。なお、核融合研究の推進にあたっては、戦略的に重点化を図りながら推進体制を構築することが重要である。核融合研究の発展に必要な効率的効果的な資源配分が不可欠であり、資源の確保が図られるかが課題である。この資源問題を考えるに当たっては、科学技術全般における核融合研究の位置付けについて判断が必要である。
核融合研究開発に限らないが、研究開発を着実に進めるためには研究評価は重要である。特に、ITER計画のような大型プロジェクト研究に対しては、厳正な研究評価が求められる。政策評価体系における客観的な評価とともに、ITER計画は国際共同プロジェクトとして進められることから、国際協議においてITER計画の実施体制を整備していくにあたり、厳正な研究評価体制が実現されるよう努めることが強く望まれる。