1.最近の動向
(1)経済・エネルギーと原子力開発利用
1980年代に入って以来、近隣アジア地域は著しい経済発展を遂げている。それには世界経済のグローバリゼーションの進展とともに、域内での自立的発展が大きく寄与している。この地域には、勤勉さと教育の重視、それに貯蓄率の高さなどの文化的な伝統ともいえる特性がある。近隣アジア地域においては、最近の経済事情の悪化、混乱があり、この状態が当面継続するという見方もされているが、中長期的には依然として高い成長ポテンシャルを維持しており、世界経済の持続的成長に対する牽引車の役割を果たして行くものと期待される。
この経済発展を支え、生活向上を図る上でのエネルギー・電力需要の伸びは著しく、今後も中・長期的に高い伸びを示すものと予想されている1。この需要を満たすためには、域内の石油、天然ガス資源が僅少であるため、域外への依存度が高まって行くことになる。このため、エネルギー源の多様化とエネルギー安全保障、また地球環境保全の観点から、原子力開発利用を導入拡大していく機運はいずれの国においても存在する。一方、最近のアジア諸国の経済事情の悪化、エネルギーをめぐる状況の変化、ウラン資源自体も有限であること等から、アジア地域における今後の原子力開発利用について不透明であることも事実であり、引き続き今後のアジア地域を取り巻く状況を注視し、地域の原子力開発利用の動向を見極めるように努めることが肝要である。
原子力発電は、既に韓国、台湾では電力供給の30〜40%程度を占めるまでになっており、昨年来の経済困難等の影響により今後の開発に遅れは出るとしても、計画は継続的に推進されていくものと予想されている。また、中国では現在3基が運転中で、その電力供給全体に占める割合は未だ1%に満たないが、計画によれば原子力発電の規模は2010年には20GW(2,000万kW)に達する予定である。
東南アジア諸国の多くも将来のエネルギー源としての原子力利用を視野に入れ、国によってその段階は異なるが計画の検討が進められている。インドネシアでは、ムリア地区でのフィージビリテイ調査に続き、サイトデータ収集及び環境影響調査を行っている。またタイ、フィリピン及びヴェトナムでは、関連する政策及び安全性などの研究を進めており、2010年以降には電力システムへの導入も具体化する国が出てくるものとみられる。現在、マレーシアを含め各国とも研究炉等を有し、原子力関連技術の研究及びその体制整備を進めるとともに、放射線の医療、農業、工業の分野への有効利用を図っている。また、放射線源として、電子加速器も利用、開発されるようになっている。
このように、近隣アジア地域では、すでに発電所を運転している国・地域と現在は発電以外の多岐の分野への利用を行って、将来の導入を考えている国等があり、その開発段階もまた考え方も多様である。したがって国際協力を考えるときも、これらの取り組みと開発・利用レベルなど地域の状況の違いを考慮した協力が重要となってくる。
なお、アジア地域全体の原子力発電の見通しとしては、中国など北東アジアを中心としてアジア地域の原子力発電の伸びは著しく、2010年における発電規模は日本を除いて50GW(5,000万kW)を超えるものと予想されている2。この場合、日本を含めたアジア地域の原子力発電規模は、北米、欧州地域と並び、世界の3極を構成することになる。また、この期間の新規原子力発電所の建設をみると、世界全体の約1/3は、日本を除くアジア地域での立地になるものと考えられる。
(2)我が国の原子力協力
我が国は地理的、経済的、歴史的に近隣アジア諸国とは強い結びつきがあり、互いに大きな影響を及ぼしあっている。原子力分野においても、放射線利用、研究炉利用、原子力発電導入等の多くの面で共通の課題を有しており、これらの課題に対し、我が国の技術的蓄積や経験を活用し、地域内各国の相互協力のために取り組んでいくことが重要である。
我が国は、国際原子力機関(IAEA)を通じた原子力平和利用に関する技術協力を支援しているほか、多国間協力として、1970年代に締結されたアジア・太平洋地域の開発途上国を対象とする「原子力科学技術に関する研究、開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)」の下、放射線利用及び放射線防護の分野で協力を進めてきた。近隣アジア地域との二国間の協力は1980年代半ばから本格的に始まり、これまで、基礎科学・技術の向上、原子力に携わる人材の養成、原子力の研究・技術基盤の整備、原子力安全規制体制の整備、原子力安全文化の醸成など、長期的展望に立ち、技術向上等に係る自助努力を支援する協力を制度、技術の両面から進めてきている。こうした二国間の協力の進展と平行して、近隣アジア地域としての協力の重要性の認識も高まり、1987年の原子力開発利用長期計画においても言及された。これを受け1990年には原子力委員会の主催で第1回「アジア地域原子力協力国際会議」が開催された。本会議は、現在まで毎年開催され、IAEAやRCAの活動を補完し、地域協力の具体化に向けた意見交換・情報交換を行い、地域協力に関する関係各国のコンセンサスを得ることを目的としている。また、1996年には「アジア原子力安全東京会議」が開かれ、原子力の利用にあたって安全が他のすべての考慮に優先しなければならないという「原子力安全モスクワ・サミット」(1996年)において確認された原子力安全の基本原則に留意しつつ、アジア地域において、原子力安全を向上するために取られるべき具体的な措置及びこのための国際協力のあり方について意見交換を行った。この会議は今後とも継続して行われることとされており、1997年には韓国で第2回会議が開催されている。
これらの協力は、各国・地域の原子力開発利用の健全な基盤を確立する上で重要な役割を担ってきているものと考えられる。今後さらに、21世紀中葉を視野に入れた原子力開発を目指している各国・地域が、教育と人材育成を進め、自立的な研究開発を展開することのできる基盤を形成するための、地域のニーズを反映した施策を実施することが重要である。一方、我が国自身の研究開発分野の諸活動の質や魅力を高めることにより、アジア諸国から優秀な人材が集まり、ひいてはアジア諸国全体の技術水準が高まるという効果も重要である。
2.目的と意義
我が国の原子力開発利用においては、原子力基本法第2条の「進んで国際協力に資する」との基本方針に基づいて国際協力が進められており、新しい技術や知識、経験を世界の原子力平和利用のために提供していくこと等により、人類社会の福祉に貢献することを目的の一つとしている。原子力開発利用は、歴史的にみても、1953年の国連における米国の「平和のための原子力」演説以来、あまねく国際協力を基盤として発展してきたものである。今日の我が国における発展も欧米の先発国からの技術、情報及び資機材の移転などの国際協力なしには達せられなかったものである。このような恩恵を、過去において受けてきた我が国は、主体性を持って積極的に国際協力を進めていく必要があるものと考えられる。また、協力を進めるにあたっては、我が国の限られた資金と人材を最大限に有効活用する観点に立ち、合理的、効率的な協力方策、施策の検討が必要である。そのためには、長期的な展望の下、協力の目的と意義を明確にし、国民の理解を得ることが重要である。
(1)先進国としての役割
原子力の平和利用を推進するいずれの国も、安全の確保と国際的な核不拡散体制の維持・強化に貢献していくことが求められる。我が国は平和利用目的に限定した原子力の研究、開発、利用の政策を堅持しており、その経験と知識の蓄積は今後の地域発展のために大いに貢献し得るものである。地球的視野で「技術集約型エネルギー」である原子力の開発利用とその発展に取り組み、共通の理解を形成することは、後世代に対する責務であり、人類社会への貢献につながるものである。
(2)国際依存度の高い国としての国際公共財の蓄積と貢献
我が国は、豊かな経済力と高度の科学技術を持つ一方、原材料、食料等の資源の多くを近隣アジア地域を含む海外から輸入するとともにこれらの国へ製品輸出を行う貿易国であり、相対的な国際依存度が非常に高く、地域の発展は我が国の発展にも直結する。したがって、今日まで蓄積してきた原子力における経験と知識を、この地域の原子力開発利用の健全な発展に資する国際公共財として位置づけ、地域協力を通じて近隣アジア諸国に還元することが重要である。また、地域協力への取組みは、我が国の原子力開発利用政策に対する国際的な理解を得ていく上でも重要と考えられる。
(3)安全性の確保
原子力の安全に関する責任は原子力施設を所轄する国が負うという原則は、国際的に広く認められているものであるが、この原則が近隣アジア地域に定着されていくことが重要である。また、同時に一カ国の安全確保、安全性向上は地域全体の課題でもあり、我が国を含む地域の安全確保の状況は、各国の原子力開発利用にも影響することを十分認識することが重要である。これらの意味において近隣アジア地域との協力を進める意義は大きい。
(4)エネルギー安全保障及び環境問題への貢献
地域が持続的、安定的な成長、発展をするためには、各国がエネルギー資源を経済的に、また安定的に確保して行くことが必要である。それは一カ国のみで解決できる問題ではなく、地域的もしくはグローバルな観点からの対応を必要とする課題である。その選択肢としての原子力エネルギーの開発、導入は、使い勝手のよい石油、天然ガスの資源制約を中・長期的に緩和する有力な手段であり、エネルギー源の多様化に大いに貢献することができる。また、地球環境保全の観点からは、原子力エネルギーの利用は、二酸化炭素排出量が僅少であることから温暖化防止に最も有効な方策の一つである。更にSOx、NOx等の大気汚染の原因となる物質も排出しないため、酸性雨防止等の観点からも有利である。
3.協力を進める上で配慮すべき基本的事項
近隣アジア地域との協力について、現行の原子力長期計画(平成6年)において、核不拡散への配慮とともに、「各国の自助努力支援につながる基盤整備、安全確保に重点を置いた協力を、我が国の技術的蓄積、経験を踏まえて、各国の要請、国情に応じた形で長期的継続的に進める」としている。この考え方を踏まえ、協力を進める上で配慮すべき基本的事項は以下の通りである。なお、核不拡散に係る事項は第V章で述べる。
(1)国情に応じた協力
近隣アジア諸国においては、原子力科学技術のレベル、原子力開発利用の段階等が様々であり、同時に原子力の開発利用は、長期間の取り組みを必要とすることから、各国の原子力開発利用の段階等に応じ、適切な計画の下、技術、制度等の面から国情にあった長期的な協力が重要である。
原子力開発利用を進めるにあたっては、その基盤となる科学技術レベルの向上、法規制の整備に加え、長期的に開発利用を進めるための政治的、経済的な安定、核不拡散へのコミット等が不可欠であり、このような視点から、協力にあたっては各国の政治的、経済的環境の違いにも十分配慮することが必要である。
(2)協力の枠組
原子力開発利用にあたっては、国際社会に共通する課題として、核不拡散と平和利用の両立や安全を確保するために、様々の国際条約が整備されてきている。また、核燃料物質や資機材の移転又は研究協力等を二国間で継続的に行う場合には二国間協定が結ばれている。さらに、原子力開発利用や安全問題に係る地域の共通課題に関し、地域的な対話や協力に関する意見交換を行う場が存在しており、今後これらの有効活用が期待される。
国際条約としては、「核兵器の不拡散に関する条約」、「原子力の安全に関する条約」、「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」、「原子力事故の早期通報に関する条約」、「原子力事故又は放射線緊急事態の場合における援助に関する条約」等の国際的枠組みがあり、これら国際約束の義務を各国が着実に実施することが求められる。また、「原子力損害の民事責任に関するウィーン条約」、「原子力の分野における第三者損害賠償責任に関するパリ条約」といったかたちで原子力損害賠償にかかる国際的取り組みが進んでいる。一方、国際的課題に対しては、IAEA、経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)等の国際機関を活用することが重要である。
アジア地域における協力を進めるにあたっては、各国の国情、特徴に配慮し二国間協力もしくは地域協力として実施していくことが重要である。その実施にあたっては、国際条約や国際機関等の既存の枠組みの活用を図り、両者の整合性を保ちつつ協力を進めることが重要である。なお、序章で述べた原子力発電をめぐる国際的な動きや、研究開発との性格の違いを反映し、原子力発電に関する運転経験などの情報交換やピアレビューでは民間の協力が進展している。二国間協力においては、協力が進展し、国際的に規制対象となっている資機材の移転等の長期的に安定した形での具体化に応じ、核不拡散の確保を考慮しつつ、二国間の原子力協力協定の締結等についても検討を行うことが望ましい。また原子力開発・利用の特徴を踏まえると、アジア諸国に対する原子力協力においても、官民がそれぞれの経験、役割を活かした協力が必要と考えられる。なお、近隣アジア地域各国相互間における協力もむろん望ましい。
(3)原子力の開発、利用のための基盤整備への重点
原子力開発利用は、物理、化学、機械、材料、建築、土木、放射線医学等裾野の広い科学技術によって支えられている。このため、以下のような項目に配慮して協力を行うことが必要である。
@基礎から実用までの一貫性協力
ラジオアイソトープ、放射線、研究炉の利用といった原子力開発利用の基礎段階から、原子力発電施設の運転、維持管理という発展段階、及び放射性廃棄物の管理まで、相手国の原子力開発利用体制を整えるため、一貫した視点に基づく人材育成、体制の整備、技術移転等に関する協力を行う。
A人材育成
原子力開発利用は長期にわたるものであり、また、効果的な協力のためには相互の信頼関係を深めることが重要であることから、長期的継続的な人材育成をはかることが不可欠である。また、開発利用の段階に応じて、研究者の能力向上、発電所の運転者訓練等、必要なレベルに応じた適切な育成プログラムを進める必要がある。
B研究基盤・技術基盤
各国が自立的に原子力開発利用での実績を積んでいくことができるようになるためには、その国の技術向上に係る自助努力を支援し、中長期的に研究開発能力の向上を図ることが重要であり、そのための研究基盤、技術基盤の整備に取り組むことが重要である。
(4)安全確保に重点を置いた協力
各国に共通する課題である安全確保に重点を置き、以下のような事項に配慮して協力を進める。
@自己責任原則
原子力活動を実施する者とこれを所轄する国は、安全に関する一義的な責任を持つことを相互に十分認識するとともに、原子力施設における事故は国境を越えて影響を及ぼすおそれがあることから、原子力の安全確保を大前提として協力していく。
A安全文化の醸成及び安全確保のための基盤整備等
我が国の原子力開発利用の豊富な経験に基づき、原子力導入の初期段階にある国、および今後導入を進めようとしている国に対して積極的に安全確保のための技術や人材協力を進めるが、各国が自国で原子力安全の向上に主体的に取り組めるようにモチベーションを高めていく方向で安全文化の醸成を図るための協力を行う。また、各国には安全確保のための基盤整備、及び原子力損害賠償制度の確立等を促す。
B安全のワンセット供給(ソフトウェアとハードウェア)
近隣アジア地域の諸国・地域からの引き合いに応えて我が国から原子力発電関連資機材等の輸出を行うに当たっては、資機材の輸出に併せて、運転管理技術、定期検査制度等の安全に係るシステム等のソフトウェアの移転を行うことにより、地域の原子力施設の安全水準を高めていくことに配慮する。
(5)信頼感の醸成と透明性の向上への配慮
地域協力の実施にあたっては、各国間の相互理解に基づく信頼感の醸成が不可欠である。また、各国の原子力活動の透明性の向上も重要である。
@我が国からの情報発信と相互理解の促進
我が国の平和利用に限定した原子力政策の理解の促進を図るためには、我が国の原子力政策及び開発利用の状況に関する情報を積極的に地域に対して発信していくことが必要である。また、円滑かつ効率的な地域協力を図るため、相互に相手国の国情、ニーズを適切に把握していくことが重要である。
A各国におけるパブリック・アクセプタンス及び透明性の向上
パブリック・アクセプタンスを得ることは地域共通の課題となっており、我が国の様々な経験の提供も含め、各国において原子力に対する信頼感を醸成するために、原子力活動の透明性を向上し関連する情報等を相互に提供することが重要である。
4.今後の施策
4. 1 協力の新しい展開
近隣アジア地域とのこれまでの協力の成果、地域の原子力開発利用の進展、序章に示したような国際情勢の大きな変化及び協力分野に応じた適切かつ柔軟な対応の必要性等を踏まえ、以下のような21世紀に向けた新しい協力の展開をはかっていく。
(1)政策対話のフレームワーク
アジア各国・地域は、地理的には隣接しているものの、政治的、経済的、歴史的、社会的、文化的にはそれぞれ多様な特徴を有しており、各国の原子力開発利用の開発段階も多様である。したがって、原子力分野における協力を進めるにあたっては、地域各国が相互に理解を深め、各国の要請や実状を相互に的確に把握するとともに、官民の役割を踏まえ、協力に係る政策的視点を明確にした上で地域共通の課題に取り組むことが重要である。そのためには政策対話が不可欠であり、政府関係者間の対話の場として、「アジア地域原子力協力国際会議」、「アジア原子力安全会議」等の地域的な枠組みを活用するとともに、二国間の政策対話を行っていく。
また、「アジア地域原子力協力国際会議」の下に、関係国の協力も得て、同会議の下で実施されているワークショップ開催等の協力活動の充実を図るための仕組みを設ける。なお、二国間協力は各国別の開発状況やニーズの差異等に応じて充実を図るものとする。
(2)ネットワークの強化
近隣アジア各国・地域が協調して原子力開発利用を図り、地域の経済社会発展に貢献するためには、共通の目標と問題解決に向けて、政策面での対話、研究交流、人材育成、施設の安全管理等協力に関わる様々な要素について必要に応じた柔軟な調整を行うことが重要である。
このため、研究炉、電子加速器、研修活動、人材、パブリック・アクセプタンス分野等に関し、後述するネットワークの構築を図るとともに、それらの総合的な調整機能を「アジア地域原子力協力国際会議」の活動の中に位置づけていくことによりネットワークの強化を図る。また、協力相手国における協力活動の相互調整機能の強化等を図る。
(3)協力の質的向上のための施策
原子力の研究開発、利用にあたっては長期的、継続的で一貫性のある取り組みが必要であり、協力の実施に当たっては、我が国の限られた資源、人材を有効に活用し、効果的な協力を進めなければならない。また、効率的な協力のためには、協力相手国の主体的な活動を促しつつ、各国のニーズに合わせて我が国の官民がそれぞれの経験、役割を生かし、協力を分担して行うことが重要と考えられる。基本的には基礎的な研究開発、核不拡散や安全確保のための基盤整備等は国が主体的な役割を果たすことが期待されている。一方、原子力発電分野における相手国の事業の実施のための技術や運転経験の移転等は民間によりその役割が果たされるべきである。これらの点を考慮し、我が国の協力の質的な向上をはかるため以下のような施策を実施していく。
@コンサルティング機能の充実
開発利用の進展に応じて、各国は新しい課題への対応をはかる必要に直面することが考えられ、場合によっては、我が国の技術的蓄積や経験が有効に活用が出来るケースも存在すると思われる。このようなケースにおいて各国からの要請に基づく研究開発施設整備及び研究開発計画策定のためのコンサルティング活動の実施方策について検討する。
A協力プロジェクトの評価
協力にあたっては、課題のタイムスパンを考慮し、短期的に期待される成果及び長期的に期待される成果、並びに長期的な取り組みの必要性の有無を考慮した上で、協力のための施策を進めるとともに、その成果に関する評価を実施する必要がある。
B国際協力のための人材確保
協力及び支援を充実するためには、我が国内における様々な分野の人材の育成、発掘が不可欠である。このため、我が国内の研修技術の向上、人材の確保、専門家の養成等のため、研修技術の訓練、シルバー人材を含むエキスパート協力制度等の整備を検討する。
C研修機関の育成と関係機関の連携強化
我が国においては、途上国の人材養成、研修等は、各分野での専門的な機関がそれぞれ分担して実施している。したがって、様々な機関で実施されている各種研修活動、研究協力活動の有機的連携を図ることが重要である。また、より効率的、効果的な研修者の能力向上のため、我が国内において高い研究能力も併せ持つ総合的な研修実施機関の育成を図る。
4.2 主要協力分野
(1)原子力発電の開発状況に応じた協力
近隣アジア諸国において、原子力発電の開発状況等は各々に異なるため、これらに応じた国・地域別の対応を行う必要がある。また、原子力発電に関する協力については総合エネルギー調査会原子力部会中間報告等3を踏まえるとともに、民間レベルの協力内容を十分把握し、その中で安全規制の充実、安全文化の醸成、パブリック・アクセプタンス等政府の果たすべき役割の範囲を明確にし、既存の国際機関の活動も十分考慮した上で、今後さらに充実が期待されている分野を明らかにしていく必要がある。以下、開発段階に応じた協力方策について述べる。
@ すでに原子力発電を導入している国・地域との協力
韓国、中国といったこれまでに原子力発電を導入し、運転・管理の経験を蓄積してきている国・地域とは、さらに対話を促進し、人材の高度化など基盤整備を図り、地域協力を発展させるための連携を強化していくことが望まれる。
i)安全性向上及び安全文化の醸成のための協力
相手国のニーズに応じ、発電所の運転員等を対象とした研修事業等を実施するとともに、今後ますます重要になると思われる放射性廃棄物管理等安全に係る技術的課題について、我が国の経験とノウハウを提供する機会を設けると同時にこれらの課題について国際協力の可能性を検討する。
ii)既存の国際機関等の活用
IAEA等の既存の国際機関及び世界原子力発電事業者協会(WANO)等の非政府機関等とできる限り連携をとりつつ、これらを活用した情報交換、技術協力等を積極的に行う。
iii)安全確保とソフト(運転管理、ノウハウ等)移転の充実
引き合いに応えて我が国から原子力関連資機材等の輸出を行うにあたっては、「安全のワンセット供給」の考え方に従って、相手国の安全水準の向上に資するため、輸出機器等の品質確保や当該機器等の保守・補修及び関連研修サービスを適切に行っていくことも供給者の義務であるとの認識の下にこれに積極的に対応していく。また、我が国以外の原子力供給国からの資機材の輸出が進んでいる現状等を踏まえ、安全確保等に関し欧米諸国の原子力産業との連携をも模索しつつ、我が国の原子力産業の健全な発展にも寄与する方向で国際展開がなされることが望ましい。なお、我が国からの資機材等の輸出にあたっては、核不拡散や安全の確保等の観点からの所定の審査等手続きを経た案件に対する輸銀融資、貿易保険による輸出信用制度が既に整備されており、これによる対応が可能。
iv)個別プロジェクトへの柔軟な対応
原子力発電所建設への協力については、電力会社及びメーカ各社の自発的な取り組みを原則とするが、安全確保、核不拡散、人材の活用、ノウハウの蓄積という観点からは、政府との連携や産業界全体での取り組み等の協力のための国内体制への考慮も重要である。
v) 対話の促進と二国間協力
緊急時対策、放射性廃棄物管理、パブリック・アクセプタンス等の共通の課題について、対話の促進及び共通課題の解決のための二国間協力の促進を図る。また、相手国にとっても我が国にとっても有益となり得る新しい分野の技術協力についての検討を行うことも有益である。
A将来のオプションとして原子力発電の導入を検討している東南アジア諸国との協力
最近のアジア諸国の経済事情の悪化等により、特に東南アジア地域においては、原子力開発利用について先行き不透明な情勢となっているが、今後、具体的な導入計画が進展すれば、それに伴い技術全般の向上、規制体制等の基盤整備、人材育成等が必要となる可能性を有しており、かかる視点から次のような方策による協力の充実が重要である。
i) 対話の促進
相手国の発電所建設計画、技術的レベル、我が国との協力へのニーズ等を把握するため、政府間における対話の一層の充実を図り、相手国の自助努力の支援に資する。
ii)安全性確保等のための支援
原子力発電所の建設計画が明らかになった場合は、政府を中心とした安全規制基盤の整備に向けた支援が重要であり、規制担当者等を対象とした研修事業、関連法規や各種基準の整備のための人材派遣等の充実を図るとともに、
必要に応じてパブリック・アクセプタンス等について我が国の経験を踏まえた協力についても検討する。
iii)研究基盤、技術基盤の整備のための支援
将来の発電所の導入に備えた技術レベルの向上及び安全確保に資するため、原子力の科学技術や研究開発の側面を重視し、既存の研究交流等により各関係国の技術開発段階に応じた協力活動を行う。
Bなお、北朝鮮については、現在、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)による軽水炉プロジェクトが進められている。しかし、最近の北朝鮮における諸情勢を鑑みれば、今後我が国としては、軽水炉供給取極に基づく同プロジェクトに対し、KEDOの設立の目的を踏まえ他のKEDO理事会メンバーと緊密に連携を取りつつ対処する必要がある。また、北朝鮮に対しては、米朝間の合意された枠組みを踏まえIAEA及びKEDOを通じてIAEA保障措置協定の完全な履行を呼びかけていく。
(2)研究炉、放射線、ラジオアイソトープ(RI)利用に関する協力
近隣アジア地域においては、これまで我が国によりラジオアイソトープ生産を含む研究炉及び放射線利用の分野において幅広い協力活動が実施されており、相手国の安全基盤の確立、研究、技術レベルの向上に貢献してきている。
今後、安全水準の向上、安全文化の醸成、技術レベルの向上、産業利用の拡大に資するためこれらの協力を必要に応じ引き続き実施していくことが重要であるが、これまでの成果を踏まえ、より一層効果的、効率的な協力を実現するため、我が国のイニシアティブにより以下のような施策を展開することが考えられる。なお、放射線利用に関しては、既に商業利用段階にあるものも多く、政府の果たすべき役割の範囲に留意する必要がある。
i)研究炉ネットワーク等の施設の共同利用方策
近隣アジア地域内の研究炉等の研究施設を国際共同研究の拠点として、地域内諸国の研究者に相互に開放し、研究者、技術者、管理者等のそれぞれの目的に応じた多様な活動のニーズに対応する共同利用施設とするための方策について検討を行う。研究炉の国際共同利用は欧州にも見られ、OECDの科学技術政策委員会でも議論されているが、近隣アジア地域においては、技術レベル及び興味分野が異なる研究者、技術者等に応じて、各国の研究炉の特徴を生かした総合的な利用計画を立てることが必要となる。
ii)電子加速器ネットワーク
コバルト60に比し、取扱いが簡便な低エネルギー電子加速器を用いた研究開発のためのネットワークを構築し、域内各国の研究者の人材育成を行うとともに、将来的には、域内各国の自由な参加による研究計画の策定、実施、論文作成、評価を行う場を創設することを検討する。
iii)研究交流、専門家派遣等の充実
上記の計画を実施するにあたっては、既存の研究者交流制度、専門家派遣制度等を活用し、その充実を図っていくとともに、研究炉、加速器等の利用の企画、調整を行うための方策について検討する必要がある。また、既存の技術交流や各国からの要請に基づく研究開発施設整備及び研究開発計画策定のためのコンサルティング活動について、その実施方策を検討する。
(3)共通的、基盤的分野の協力
@人材育成に関する協力
近隣アジア諸国では、ラジオアイソトープ・放射線利用から発電に至るまで、原子力の開発利用が急速に進んでいるが、これに従事する人材は一部の国を除き十分とは言えない。特に、近年これら諸国においては、原子力発電所の導入の機運が高まっており、運転員、中堅技術者、規制担当者、防災担当者、核物質管理者等多数の人材の養成・訓練が急務となっている。また、安全文化を醸成し、自己責任原則が根付くためにも、原子力関係者の教育、育成が重要である。このため、既存の研修活動及び人材のネットワークを一層充実していくことが求められており、以下のような施策を考えていく。
i)研修活動等の有機的連携の強化と質の向上
様々な機関で実施されている各種研修活動、研究協力活動の有機的連携を図る。それとともに、例えば専門家から成る委員会による外部評価等により、人的交流の成果を評価するとともに、留学、研修等を終えた者についての定期的なフォローアップ等により研修等終了後の人的つながりの維持・強化を図り、ヒューマン・ネットワークの構築に資する。
また、より効率的、効果的な研修者の能力向上を目指して、高い研究能力も併せ持つ総合的な研修実施体制について検討するとともに、研修後のOJTや研究の機会を提供するよう努める。また、厳格な成績の評価、権威のある修了証の授与等による研修の質的向上及び成果の視認性向上を図る。
ii)現地研修等
現地の事情に応じた研修機能の充実及びより多くの機会の提供のため、アジア諸国における現地での研修活動、インターネットを利用した研修活動等を実施する。なお、現地での研修にあたっては、我が国の専門家を派遣し、現地の指導員を指導しながら効率的な実施を図るとともに、必要に応じ既存の施設の整備に協力していく。
iii)安全に係る研修の充実
原子力発電の計画を有する国に対しては、運転管理、安全規制に係る法制度、安全解析技術及び検査技術、原子力防災に資するモニタリング技術等のための研修活動を充実するとともに、研修設備、解析用計算機等の訓練設備の有効利用等を図る。
iv)協力のための人材確保
上記活動を実施するため、我が国の研修技術の向上、不足がちである我が国の人材の確保、専門家の養成等のための、研修技術の訓練やエキスパート協力制度等の整備を検討する。
A放射性廃棄物管理技術等に関する協力
アジアにおける原子力利用の進展に伴い、原子力発電に伴い生じる放射性廃棄物のみならず、放射線利用に伴うラジオ・アイソトープ廃棄物等放射性廃棄物の問題も顕在化してきており、各国において放射性廃棄物管理等に対する検討が必要となっている。一方、国際的には国内措置及び国際協力の拡充を通じた使用済燃料及び放射性廃棄物管理の高い安全性の達成、維持等を目的とする「使用済燃料の安全管理及び放射性廃棄物の安全管理に関する条約」が、97年9月に採択され、各国によるこの条約の早期締結が期待されている。放射性廃棄物管理等の問題は、広義の環境問題であるとも位置付けられ、技術的側面のみならず、社会的、倫理的側面も重要である。とくに、国際的な環境問題への関心の高まりに伴い、放射能による環境汚染防止の観点から近隣アジア地域における我が国の役割を十分に認識し、具体的に実践していく必要がある。このため、以下のような方策により、技術的情報の提供、人材育成等の支援を行い、地域内各国の放射性廃棄物管理等に関する理解、関連計画の検討、実施に資するとともに、アジア地域内における関連情報の共有、人的ネットワークの形成等を図ることが望まれる。
i)人的交流等の充実
既存のセミナーや人材交流制度の活用と充実を図るため、研修機関の体制の見直し、放射性廃棄物の取扱いに関する技術者の能力評価等について検討するとともに、研究機関等による既存の研修や研究交流による受入制度に係る情報提供の充実を図る。
ii)地域内の協力方策の検討
IAEAによる地域協力活動、国際放射線防護委員会(ICRP)等の国際的活動への各国の参加及び関心を促し、これらを補完する技術的検討を行うための産官学の協力方策を検討する。
B核物質管理等に関する協力
地域内の原子力開発利用にとって、国際的な核不拡散体制が安定的、効果的に機能することはもちろん、地域内において円滑に核不拡散メカニズムが機能するように、NPT体制への積極的な貢献をしていくことが今後の原子力平和利用の発展のために重要である。このため、当事国の自主的な努力を基本に我が国が培った平和利用技術を活用し、地域内各国の核物質管理の水準向上を目指して、保障措置技術、核物質防護技術等に関する協力を実施することが必要であると考えられる。
具体的には、核物質の管理に携わる技術者等を対象とした研修事業の実施、情報交換及び各国の核物質管理の透明性向上に資するためのセミナーの開催等が当面考えられ、今後必要に応じて充実を図っていくことが望まれる。
Cパブリック・アクセプタンス(PA)、透明性向上及び信頼感醸成のための協力
原子力PAに関する国際的な環境は、年々厳しくなっている。それは途上国における原子力開発利用の推進にとっても近年大きな問題となっており、我が国における原子力開発をめぐる事象も地域内各国のPAに大きな影響を与えるようになっている。さらに、チェルノブイリ原発事故以降、他国、他地域で起きた事象による、各国の国内世論に及ぼす影響が大きくなってきている。したがって、周辺国からは我が国のPAに関する経験や情報のみならず、我が国の原子力施設におけるトラブルに関する情報をも地域内の各国に提供することが求められている。
このような状況を踏まえ、我が国の原子力政策、原子力関連活動の状況等について積極的に情報を発信するとともに、近隣アジア諸国と双方向の情報交流を進めることは、地域の原子力活動の透明性向上、信頼感の醸成に有効であり、このため、次のような施策により、我が国からの積極的な情報発信、各国との情報交換等を行う必要がある。
) 知識の普及及び国民との対話の充実
原子力発電や放射線利用に関する正しい知識を普及するための情報提供、ノウハウの移転により、各国の国民の啓蒙に資する。またそのために国民との対話にあたる人々が国際的な連携を深め、効果的なコミュニケーションのあり方を検討する。
)PAネットワークの強化
既存のPAネットワーク(AsiaNNet)の充実を通じて地域内の情報伝達の迅速化を図り、日本で起きた事象に関する正確な情報を速やかに提供するとともに、各国の問題意識に的確に応えられるシステムの確立を目指す。
) インターネットの活用
インターネットを活用し、上記PAに関する情報、広報素材、我が国の原子力開発利用の状況等を各国語ないしは英語で閲覧できるホームページを運営し、積極的な情報発信を図る。
(4)中長期を見通した総合的な施策の検討
近隣アジア各国がエネルギー資源の安定的確保や地球環境保全等の観点から、安全、核不拡散等を確保しつつ様々な分野で原子力開発利用を今後進めていくにあたっては、中長期的観点から自立的な研究開発体制を含む総合的な技術・社会基盤を整備・確立していくことが重要である。そのためには、地域内の研究開発基盤等の形成と国情等に応じた研究開発等を実施するための、総合的な協力方策の検討が必要であると考えられる。
したがって、これまでに述べてきた@研究炉、放射線及びラジオアイソトープの利用、A人材育成、B放射性廃棄物管理技術等、C核物質管理等、Dパブリック・アクセプタンス及び透明性向上等原子力開発利用における基盤整備に係る各種施策を、地域の将来的なニーズを踏まえて、総合的に、また一貫性をもって進めていく必要がある。
そのためには、地域のニーズに即した総合的な協力活動を推進するため、「アジア地域原子力協力国際会議」を、これまでの実績を基に、地域内各国の意見、IAEA、アジア原子力安全会議等既存の枠組の活用、連携等を十分考慮しつつ、その活動の充実、発展について検討していくものとする。
1"APEC Energy Demand and Supply Outlook", Asia Pacific Energy Research Centre, 1998.
2"URANIUM Resources, Production and Demand 1995", OECD/NEA&IAEA, 1996.
3「近隣アジア地域における原子力発電の安全確保を目指した国際協調の下での多面的対策」平成7年6月、総合エネルギー調査会原子力部会中間報告書