終章 まとめ

 原子力の平和利用は、その開発の当初から、科学的・技術的情報の普及、人材の養成、資機材の供給、安全確保方策の構築、核拡散防止手段の実施等その重要な側面をあまねく国際的合意と協力を基盤として発展してきている。原子力開発利用において大きく国際協力の恩恵を受けている我が国は、積極的に国際協力に貢献する責務がある。
 原子力開発利用に対する各国の考え方や状況は、それぞれに異なっているので、国際協力においては、各国の実状との整合性に留意しつつ、継続的に活動を進めることが重要である。その際、安全確保と核拡散防止への取組が確実になされること、技術力、人材等の基盤が整備されること、透明性が確保され国民の理解が得られること、といった基本的要件が満たされることが必要である。 近隣アジア地域は、今後の世界において、原子力開発利用拡大の必要性と可能性の最も大きい地域と見込まれている。この地域で最も先進的に原子力開発利用を推進してきた我が国が、この地域の国際協力に果たすべき役割とそれへの期待は極めて大きいことを認識しなければならない。
 先年来我が国が率先して開催している「アジア地域原子力協力国際会議」や「アジア原子力安全会議」を相互の考え方を疎通させる対話の場として引き続き活用していくことは重要である。即ち、国際協力の共通の目標と問題解決に向けて、総合的、有機的な連携と調整を行うための共同活動としてアジア原子力協力に関するネットワークをこれらの場を通じて構築することが効果的と考えられる。当然、このネットワークにおける活動は、既に進められているIAEAやOECD/NEAを通じた協力活動、或いは個別の二国間協力活動と十分に整合的でなくてはならない。
 原子力の研究開発及び利用には、長期的かつ継続的な取組が不可欠であり、協力の実施にあたっては効率を重視しなくてはならない。そのためには、各国のニーズに合わせて我が国の官民が経験に基づき、それぞれの役割を効果的に分担して協力を進める必要がある。基本的には、基礎的な研究開発、安全確保や核拡散防止のための基盤整備は国が、事業の展開やそのための技術・経験の移転等は民間がそれぞれ役割を果たすべきである。これらを考慮し、政策対話やネットワークの強化に努めつつ、以下の諸点を実施することが重要と考えられる。

・各国のニーズに適合したコンサルティングを行う機能を充実すること。
・協力プロジェクトを適切に実施、評価すること。
・国際協力のための人材の養成、確保を図ること。
・研修機関の育成、研修の連携強化を図ること。
 また、近隣アジア諸国の原子力開発利用への取組みと状況にはかなりの差異があり、多様であるので、それぞれの国・地域に応じた協力を行わなければならない。
 すでに原子力発電所を導入し、今後も拡張を計画している国・地域や将来の原子力発電導入を検討中の国・地域とは安全性の向上、研究・技術基盤の整備について対話を促進しつつ、二国間の協力の充実とともに既存の国際機関等の活動を活用して協力を進める。この際、安全確保とそのソフトの移転、即ち「安全のワンセット供給」が特に重要と考えられる。
 研究炉、加速器、ラジオアイソトープ(RI)等による放射線利用が中心の近隣諸国との協力においては我が国のイニシアティブにより、研究炉ネットワークや電子加速器ネットワークを構築するとともに、研究交流、専門家派遣を充実し、それぞれにニーズに応じつつ、技術レベルの向上と安全確保を進め原子力開発利用の拡大に資することが重点となる。

 旧ソ連、中・東欧との国ベースの協力は、チェルノブイリ原子力発電所の事故をきっかけとして、旧ソ連型の原子力施設の安全性に対する国際的懸念が生じたことから、安全性向上支援という形態で開始され、さらに、原子力安全モスクワ・サミット以来、核軍縮に伴い解体された核兵器から生じる余剰プルトニウムの管理に関する協力について国際的検討が進められている。これらは、原子力安全確保、核不拡散等の観点から、国際社会共通の課題である。これらについては、原子力活動を実施し、施設を所轄する国が安全確保について一義的な責任を有することが原則である旨を確認した上で協力を実施することが重要である。
 旧ソ連、中・東欧諸国との具体的な協力については、原子力安全に関しては、既存の二国間及び多国間による安全支援の枠組みを中心として実施する他、チェルノブイリ原子力発電所4号炉の石棺プロジェクトへの協力を継続する。また、核不拡散に関しては、旧ソ連各国との核兵器廃棄協力協定の下、国内保障措置制度の確立支援等を実施するほか、解体核兵器から生じるプルトニウムの管理のための国際的検討に積極的に参加していく。一方、ロシア及びカザフスタンは高速炉の運転経験等を相当に有しており、これらは我が国の関連技術向上に資する可能性もあるので核不拡散等に係る国際的環境に配慮しつつ、具体的協力の可能性を検討する。また、国際科学技術センター(ISTC)やウクライナ科学技術センター(STCU)もこれら諸国との協力を実施するために有効な枠組みである。

 原子力の平和利用は、我が国の原子力利用に関する政策においても根幹と言うべきものである。我が国の原子力研究・開発・利用は、平和目的に徹しており、核兵器を保有することはないことを、国民に対してはもちろんのこと、国際社会に対しても繰り返し説明することで理解を得るよう努めることが必要である。
 我が国は、平和利用を堅持すること、余剰のプルトニウムは持たないことを政策として確立するとともに、世界の核不拡散体制の強化のためにも率先して取り組んできたが、こうした努力は今後とも継続することが必要である。
 また、最近では冷戦構造の終焉から米露において核軍縮に向けた努力も行われているが、こうした努力は国際的な核不拡散の強化という観点からも不可欠なものとの理解に立って、今後とも核兵器国が一層の核軍縮に向けて取り組むことを期待するとともに、我が国としても、原子力の平和利用で培った技術、経験を下に協力や貢献をしていくことが重要である。
 こうした点を考慮して、今後、核不拡散に対応した原子力利用政策において原子力委員会の審議機能の充実を図るとともに、以下の諸点の実施が重要と考えられる。

・IAEA保障措置の強化・効率化に向けた追加議定書の早期締結に向けた交渉に積極的に取り組み、併せて円滑な実施のために取り組むこと。
・プルトニウム利用政策の透明性の向上と国内外の理解の促進に向けた広報活動を行うこと。
・核不拡散関連技術の研究開発を計画的に実施すること。
・核軍縮・核不拡散に係る条約に関し、その確実な実施を図る観点から、CTBTの国際監視制度等の検証機能の確立に向けて取り組むこと。
・2000年のNPTの再検討会議に向けて準備作業に参加する等積極的に取り組むこと。

 我が国が原子力分野で国際協力を進めていくにあたっては、IAEA、OECD/NEA、CTBTO準備委員会等に財政的貢献を継続することも重要であるが、一方、日本人職員の派遣等人的な貢献をより充実、拡大していく必要がある。そのためには、国際機関等で活躍できる人材の養成及び政府関係機関のみならず大学、民間からの人材の発掘に務めるとともに、国際機関等での勤務がその後のキャリア形成に不利となることがないよう派遣元組織等の十分な配慮がなされることが必要である。
 国際協力は、あらゆる分野で人的な繋がりを基本としており、本報告書で述べてきた施策を円滑に実施するにあたっても、相手国との関係をはじめとしてあらゆる面で人的な繋がりが重要となってくる。しかしながら、我が国において原子力の国際協力のための人材は、国際機関における日本人職員の数に示されるように未だ十分と言える状況にはない。一方、原子力開発利用について協力を行うに当たっては、安全上の観点、核不拡散上の観点等から、支援の相手国はもちろん、関係国との調整や連携を取りつつ進めていくことが必要である。本章の冒頭で述べたように、原子力の開発利用にとって国際協力は不可欠であり、従って、今後、我が国の原子力開発利用の発展を図るためには、国際協力に係る人材の育成に真剣に取り組んでいく必要がある。