原子力国際協力のあり方及び方策について
−新たな展開に向けて−
(案)

平成10年6月12日
原子力委員会
原子力国際委員会


−目 次−

序章 はじめに

第T章 近隣アジア地域との協力のあり方及び方策

 1.最近の動向
 2.目的と意義
 3. 協力を進める上で配慮すべき基本的事項
 4.今後の施策

第U章 旧ソ連、中・東欧諸国との協力のあり方及び方策

 1. 協力が開始された背景と協力の現状
 2. 目的と意義
 3. 協力を進める上で配慮すべき基本的事項
 4. 今後の施策

第V章 核不拡散に関する我が国の対応のあり方及び方策

 1. 最近の動向
 2. 我が国の核不拡散に係る原子力政策の基本的考え方
 3. 今後の施策

終章 まとめ


序章 はじめに

原子力国際協力専門部会は、平成7年12月19日の原子力委員会決定を受け、原子力開発利用を巡る国際協力の一層の推進を図るために設置され、

・ 近隣アジア地域及び開発途上国との協力、
・ 旧ソ連、中・東欧地域との協力、
・ 世界的な核不拡散に関する動きへの我が国の対応

についてあり方及び方策並びにその他国際協力に関する重要事項について審議することとされた。

現行の「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画(平成6年6月24日、原子力委員会決定)」(以下、「現行長期計画」という。)には、原子力分野における国際協力の推進が明記されているが、現行長期計画の策定以降、原子力をめぐる国際情勢に種々の大きな変化があったことを踏まえ、また、近隣アジア地域や旧ソ連、中・東欧地域への協力の重要性の増大に鑑み、原子力開発利用を巡る国際協力の一層の推進を図るために必要な事項について審議することとなった。また、併せて核不拡散を巡る国際情勢の変化への対応についても審議されることとなった。

現行長期計画策定以降における国際情勢の大きな変化として、次の事項が上げられる。

(1) 原子力の開発利用に関する社会情勢は従来以上に厳しくなり、また、先進国の原子力開発利用計画が停滞を示している一方、中国をはじめとするアジアの一部の国・地域においては、新規の原子力発電所の導入計画が積極的に進められていること。

(2)経済活動を中心とする諸活動のグローバリゼーションが急速に進み、国際協力の態様もそれに伴い大きく変化していること。

(3)(1)(2)に伴い、原子力についても欧米企業をはじめ国際的に企業的活動が特に重視されてくるようになったこと。また、この流れはアジア地域にも大きく影響を及ぼし、特に原子力発電については原子力に係る研究開発と全く様相を異にし、国による協力関係よりも民間による協力が中核を占めるようになったこと。

(4)「原子力の安全に関する条約」が発効するとともに、「使用済燃料の安全管理及び放射性廃棄物の安全管理に関する条約」が採択され、原子力安全確保のための国際的取組みが大きく進展したこと。

(5)「核兵器の不拡散に関する条約」(核不拡散条約:NPT)の無期限延長が合意されるとともに、米露の核軍縮のための努力が進展していること。

(6)最近、経済困難に直面している近隣アジア諸国があり、この状態が当面継続するという見方もされていること。

 さらに、昨年12月に京都で開催された「気候変動枠組み条約第3回締約国会議(COP3)」において、先進国の温暖化ガス削減目標を盛り込んだ議定書が採択され、開発途上国の温暖化ガス削減努力の必要性とともに先進国の果たすべき役割が強調された。

 1953年に行われた国連における米国の「平和のための原子力」演説以来、原子力利用に関する知識は「国際公共財」として認識され、21世紀に向けた原子力の研究開発利用にとって国際協力は重要かつ不可欠なものとなっている。本分野で過去に国際協力の大きな恩恵に浴した我が国としては、現在、原子力先進国として、また原子力の平和利用を大規模に進めている国として、国際協力を通じて多大な貢献を成す責務を有していると考えられる。また、原子力利用に取り組む国々との間で、諸問題に対する共通認識を持つことも必要である。

 人類社会は将来のエネルギー安全保障、環境問題に対処する一つの重要な手段として原子力利用を進めつつある。特に、近隣アジア地域においては、昨今の経済危機はあるものの、「アジア地域原子力協力国際会議(原子力委員会主催)」の参加国を中心に、中長期的には原子力利用の推進は現実的かつ重要なオプションであるとも指摘されている。また、原子力を利用する以上、万全の安全確保対策を図ることは不可欠であり、ハードウェアの安全性のみならず、安全確保に必要なソフトウェアに対する協力が必要である。我が国の周辺地域での原子力利用の安全が確保されることは、ひいては我が国にとっても大きな利益となることを認識しつつ国際協力を進めていくことが重要である。

 近隣アジア地域においては、エネルギー利用に至るまでに時間的余裕のある国も多く、現段階では各国が自主的に原子力分野での技術向上を図るための自助努力を行うことが当該諸国の経済発展の観点からも重要である。このため、研究基盤や技術基盤の整備に対して協力を行っていくことが重要と思われる。一方、原子力発電は研究開発活動とは異なり、その国の経済・政治情勢、国際的な企業的活動を中核とする最近の著しい情勢変化に応じて絶えず状況が変化するという側面がある。したがって、アジア地域に対する国際協力を行う際も、このような原子力発電と原子力の研究開発の性格の違いを踏まえた適切かつ柔軟な対応が必要であり、特に絶えず変遷する状況の下で行われる原子力発電の分野の協力については、安全規制分野等において国に一定の役割はあるものの、基本的には民間主体の判断に基づいて実施されることが望ましい。

 旧ソ連、中・東欧については、特にロシアを中心として、原子力に関する先進的な研究開発に取り組んで来ており、我が国にはないユニークな技術開発の経験もある。これらの国との協力を通じ、これらユニークな技術開発経験を積極的に活用していくことを検討することも重要と思われる。また、安全や核不拡散、核軍縮の推進の観点からの協力も必要である。

 我が国としては、厳に平和目的に限り原子力開発を推進してきており、今後とも核不拡散体制の維持・強化に積極的に取り組んでいくとともに、これまでの原子力平和利用の経験、技術的蓄積を積極的に公開し、近隣アジア地域との円滑な協力を推進していくべきである。

 以上述べてきた基本線に沿って、本専門部会は、可能な限り幅広い分野の専門家の参加を得て(表−1)、13回にわたる審議を行った。特に近隣アジア地域との協力及び核不拡散への対応については、専門部会の外からも専門家の参画を得てワーキンググループを設置し(表−2)、論点の整理を行うことによって、専門部会での審議及び報告書のとりまとめを支援した。


我が国を除くと、オーストラリア、中国、インドネシア、韓国、マレーシア、フィリピン、タイ、ヴェトナムの8ヶ国。本報告書の第T章では、主としてこれら8ヶ国を検討の対象とした。
原子力発電所を有する国を対象とし、本報告書の第U章では、旧ソ連邦としては、分離独立したNIS(新独立国家)であるアルメニア共和国、カザフスタン共和国、ロシア連邦、ウクライナ、及びバルト3国のうちリトアニア共和国、中・東欧諸国としては、ハンガリー共和国、ルーマニア、ブルガリア共和国、チェコ共和国、スロバキア共和国、スロベニア共和国を主として検討の対象とした。