旧ソ連、中・東欧諸国との協力のあり方及び方策について(骨子案)
1.旧ソ連、中・東欧諸国との原子力分野での協力の現状
(1)協力が開始された背景
- 1986年4月のチェルノブイリ原子力発電所の事故以来、旧ソ連 、中・東欧諸国の原子力施設の安全性に対する国際的懸念が顕在化。
- 1991年4月、我が国は、原子力活動における高い水準の安全性の確保に関する協力推進を念頭に置き、ソ連(当時)との間で原子力の平和的利用の分野における協力に関する協定を締結。
- 1991年12月のソ連邦崩壊後のミュンヘン・サミット(1992年7月)において、旧ソ連、中・東欧諸国の原子力発電所の安全性確保の必要性が大きく取り上げられ、以来、西側諸国は様々な二国間協力、多国間協力を実施。
- 1996年4月の原子力安全モスクワ・サミット以降、核軍縮に伴う余剰プルトニウムの管理に関する国際的な技術的検討を実施。
- (2)旧ソ連、中・東欧諸国における原子力事情
- ①旧ソ連型原子炉
- 旧ソ連では、RBMK(圧力管型黒鉛炉)とVVER(加圧水型軽水炉)の2種類の原子炉が独自に開発され、旧ソ連、中・東欧諸国において運転中。RBMK及び第1世代のVVERについては、安全性に特に懸念があり、運転継続のための各種安全対策を実施中。
- ②その他の動力炉
- 旧ソ連における高速増殖炉の研究開発、利用は世界最先端レベルだが(カザフスタンのBN-350、シベリアのBN-600が運転 中)、経済的苦境の中、次期高速増殖炉BN-800の開発建設も停滞。
- ロシアでは地方都市の発電、熱供給用に各種の小型原子炉を運転中。
- ロシアは北極海に面したシベリア地方の経済活動を維持するため、原子力砕氷船を運航。
- ③その他
- 核兵器削減に伴う余剰プルトニウムの安全かつ効果的な管理が重要な課題。
- 1993年10月まで行われたロシアによる放射性廃棄物の海洋投棄は、周辺国で問題となった(ロシアは、放射性廃棄物の海洋投棄を禁止するロンドン条約の附属書の改正を未だ受諾していない。)。
- (3)国際協力の現状と我が国の取組み
- 我が国は、旧ソ連、中・東欧諸国に対し、原子力安全、不拡散の分野についての技術支援等を中心に国際協力を実施。
- ①二国間協力による安全支援
- 国間協力として、運転管理等のソフト面の協力及び技術的協力等のハード面の協力を行っている。前者については、招聘・派遣事業、後者としてロシアへの運転中の異常検知システムの適用、運転訓練シミュレータの設置、リトアニアへの運転管理等に関するシステムの適用、スロバキアへの廃炉に関する安全性調査、ウクライナ(チェルノブイリ原子力発電所)への被災者支援及び環境保全の技術協力事業を実施。
- ②多国間協力による安全支援
- 多国間協力としては、国際原子力機関(IAEA)、経済協力開発機構の原子力機関(OECD/NEA)への特別拠出、欧州復興開発銀行(EBRD)の原子力安全基金(NSA)への拠出、ミッション等への専門家の派遣などを通じた協力、チェルノブイリ原子力発電所閉鎖のためのG7の種々の協力等を実施。
- ③核兵器廃棄協力等
- 核兵器廃棄協力
ロシアで廃棄された核兵器からとり出された核分裂性物質の貯蔵施設に関する協力、放射性廃棄物貯蔵・処理施設の建設協力等、及びベラルーシ、ウクライナ、カザフスタンに対する核物質管理制度の確立に関する協力等。
- 国際科学技術センター(ISTC)を通じた協力
核兵器を含む大量破壊兵器関連の科学者・技術者の流出防止等のために設立された国際科学技術センター(ISTC)における原子力平和利用関連プロジェクトに対する支援。
- 低レベル放射性廃棄物の処理施設の建設
ロシアの極東における放射性廃棄物の海洋投棄が二度と行われないようにするための低レベル液体放射性廃棄物処理施設建設に係る協力。
- ④その他
- 国際熱核融合実験炉(ITER)計画の工学設計活動を、日、米、EU、露の4極により実施。
- 基礎研究等において、専門家の交流、情報交換を適宜実施。
- 2.旧ソ連、中・東欧諸国との協力の意義及び基本的考え方
- (1)協力の意義
- ①原子力安全の確保
- 原子力安全に関する責任は当該原子力施設を所轄する国が負うという国際的に認められている原則を定着させることが重要。
一方で、原子力事故は国境を越えた被害を及ぼす可能性があるため原子力安全の確保は国際社会共通の課題であり、また、諸外国の安全確保の状況は我が国の原子力開発利用にも影響を与え得ることから、安全性に懸念があり、今なお稼動を続けている旧ソ連、中・東欧諸国の原子力発電所等の安全確保のためにの協力を行っていくことも重要。また、ロシア極東地域における原子力の安全に関する問題は、我が国を含めた地理的に近接する周辺アジア地域にとっても重要と認識。
- ②エネルギー供給
- 旧ソ連、中・東欧諸国における社会主義体制から民主化・市場経済化へ向けた改革の成否は、国際社会全体の平和と安定に大きな影響を与え得るものである、これらの諸国において改革が円滑に進められていくにあたっては経済・社会が安定することが重要であり、そのためには安定したエネルギー供給が不可欠。
- ③核兵器廃棄
- 軍縮に伴う核兵器の廃棄については、基本的に当事国が責任を持って対処する問題であるが、我が国がこれまで培ってきた原子力平和利用の技術と経験を活かし、核兵器の廃棄等平和に向けた国際的な動向に積極的に協力することは、核軍縮と核不拡散に貢献する上で重要。
なお、核兵器の解体により生じるプルトニウムなどの防衛目的にとって不要となった核物質は、核兵器への再転利用を防止するために、国際的計量管理の下に置かれるべき。
- ④原子力技術の向上
- 旧ソ連、中・東欧諸国は、基礎研究や特定の分野において比較的高い科学技術水準を有することから、研究協力、人材交流等により、我が国の原子力技術の向上にも資することが可能。
- (2)基本的考え方
- ①安全確保への重点
- 自己責任原則
原子力活動を実施する者とこれを所轄する国が一義的な責任を持つことを十分に認識させた上で、原子力施設における事故は国境を超えて影響を及ぼす恐れがあることから、安全確保のための協力を実施する。特に、旧ソ連型炉(RBMK、VVER-440/230)の安全性確保は最も重要な課題。
- 原子力安全文化の醸成
協力の相手国において、安全規制の強化とその確実な執行、施設の安全管理及び安全運転、輸出品を含めた高い安全水準を持つ原子力関連機器の設計・製造など、原子力安全の向上に自ら主体的に取組めるよう安全文化の醸成を促すことが重要。
- ②核不拡散への配慮
- 旧ソ連、中・東欧諸国との原子力分野における協力は、必要に応じて関係国とも調整しつつ核不拡散に配慮して、今後とも原子力基本法 に則りつつ厳に平和の目的に限って行うことが大前提。
- NPT体制とIAEA保障措置
原則としてNPTに加入し、IAEAのフルスコープ保障措置を受入れている国に対して原子力協力を行う。
- ロンドン・ガイドライン
原子力資機材・技術の移転に際しての国際的ガイドラインであるロンドン・ガイドラインを今後とも遵守する。
- 核物質管理
旧ソ連、中・東欧地域における核不拡散に関する基盤の整備のため、核物質管理技術の向上、円滑な保障措置の実施等に貢献することは重要。
- ③相互協力と基盤整備
- 旧ソ連、中・東欧諸国には優れた技術的蓄積を持つ国もある一方、旧ソ連崩壊、独立等に伴い、従前の技術等の基盤を失った国もある。
前者に対しては、これら技術を我が国に導入し、相手国の主体的な技術開発をも促すために、双務的な協力を重視するとともに、後者
については、人材育成、研究基盤・技術基盤の整備への協力を重視する。
- 3.旧ソ連、中・東欧諸国との今後の協力の進め方
- (1)個別分野
- ①旧ソ連型炉に対する原子力安全支援
- 原子力発電所の運転者または規制担当者に対する研修の実施、我が国のノウハウ等の移転を含む技術協力等を通じた二国間協力及びIAEA等を通じた多国間協力により、相手国の原子力施設の安全性及び信頼性の向上を図る。
- ②ウクライナに対する原子力安全支援等
- チェルノブイリ原発事故の影響評価等に関する協力を継続するとともに、EBRDに設置されたチェルノブイリ石棺基金を通じたチェルノブイリ4号炉の石棺プロジェクトに貢献する。
また、国際チェルノブイリ・センター及びウクライナ科学技術センター(STCU)を通じた協力の可能性について検討する。
- ③高速増殖炉及び燃料サイクルに関する協力
- ロシア及びカザフスタンが有する高速増殖炉の運転経験、再処理に関する研究開発実績等は、我が国の研究開発に資する可能性があることから、情報交換、専門家交流等を通じ共同研究等今後の具体的協力の可能性を検討する。
- ④核兵器廃棄協力等
- 核兵器の解体により生じるプルトニウムの管理等に関し、原子力安全モスクワ・サミット等における了解を踏まえ、国際的な検討に積極的に参加するとともに、我が国の行い得る具体的協力についての検討を進める。
また、核兵器開発に従事していた研究者、技術者のポテンシャルを原子力平和利用のための研究開発に向けるため、国際科学技術センター(ISTC)及びウクライナ科学技術センター(STCU)の活動に対し貢献していく。
さらに、国内核物質管理制度確立のための支援について、旧ソ連諸国との二国間協力を継続するとともに、旧ソ連、中・東欧に対するIAEAの活動に積極的に参画していく。
- (2)共通事項
- ①政策対話と評価
- 安全支援等の実施にあたっては、被支援国及び他の支援国との十分な政策対話及び調査によって、当該国のニーズと協力の目標を見極めるとともに、関係国(機関)と十分に調整を行い、効果的かつ効率的な協力を進めていく。
更に、協力を効果的・効率的に実施するためは、協力の実施状況、成果を適切に把握・評価するとともに、終了した協力プロジェクトをフォローアップすることが重要。
- ②人材育成と人的交流
- 安全性向上のための原子力発電所の運転者訓練、規制担当者に対する研修等の人材の養成・訓練を引き続き積極的に行っていく。
また、相互理解の推進、信頼関係の醸成等のため、人的交流及びそれに伴う情報交換、意見交換を活発化する。
- ③研究交流等
- 旧ソ連、中・東欧諸国の高い科学技術水準、知見等を我が国の研究開発に資するための情報交換、人的交流等を積極的に実施する。
また、相手国の技術ポテンシャルを活用し研究開発を行う観点から、国際科学技術センター(ISTC)及びウクライナ科学技術センター(STCU)の枠組みを積極的に利用する。
(了)