資料12-3
論点整理のとりまとめ
平成10年1月26日
核不拡散ワーキンググループ
Ⅰ.論点整理のとりまとめの方針
本ワーキンググループにおいては、論点整理の検討に当たり、以下のようなとりまとめの方針をとった。
原子力利用に関する政策の企画立案等を任務とする原子力委員会の役割に鑑み、以下の方針により核不拡散ワーキンググループにおける審議検討を行う。
1.
核不拡散を巡る最近の国内外の諸情勢について的確に把握する。
2.
この諸情勢を踏まえた上で、我が国の原子力平和利用を円滑に進めていく観点から、核不拡散に係る原子力政策に関する基本的考え方を明らかにする。
3.
その基本的考え方を踏まえた、今後の主要な原子力政策についてとりまとめ提言を行う。
Ⅱ.論点整理のとりまとめ
1.核不拡散を巡る国内外の諸情勢
(1)冷戦終焉後の国際的な核拡散の懸念の高まり
東西冷戦の終焉により、米国、ロシア両国間の協調体制の進展の中で、米露が戦略核弾頭を削減する(戦略兵器削減条約(STARTⅠ)の批准、発効)等核軍縮の動きが進展するなど、国際社会が大きな変革期。
核軍縮の進展に伴って核兵器解体から生じる核物質の拡散の防止、核兵器に関連する技術や人材の拡散の防止の重要性の高まり。
旧ソ連、東欧ブロックの崩壊後、これらの地域における核物質の管理に弛みが生じ、同地域において核物質密輸事件が多数発生。
核兵器解体に伴う大量の軍事目的にとって不要となったプルトニウムの発生や、平和利用目的のプルトニウムの保有量の増大に伴ってプルトニウム利用及び管理についての国際的な関心の高まり。
また、イラクの核開発計画の発覚や北朝鮮における核開発疑惑の発生にみられる国際的な核不拡散体制への脅威とともに、冷戦構造下では表面化しなかった民族・部族対立や宗教的対立に根ざす地域的な紛争が顕著化するなど地域における核不拡散の面からの配慮の重要性が増大。
国レベルの核不拡散の面からの配慮に加えて、テロリスト等国レベルではないグループによる核拡散に対する配慮の重要性が増大。
我が国が地理的にも歴史的にも密接な関係を有する近隣アジア地域では、今後中長期的には継続的な経済発展が予想される中で、原子力利用に関しても、中国、韓国、台湾等における原子力発電の増加等今後拡大が見込まれており、核物質の取扱量・移動量の増大、原子力関連の技術や設備の輸出入の機会の増大により、核不拡散の面からの配慮の必要性が増大。
(2)核不拡散体制の維持強化に向けた取組み
上記の状況を踏まえ、世界的な核不拡散体制の維持・強化のための取組みが実施され、また、核不拡散体制の不安定化が原子力の平和利用面にも悪影響を及ぼす可能性があることを考慮して、我が国としても円滑な原子力平和利用を進めるための取組みを実施。
①
NPT体制の維持・強化
国際的な核不拡散体制の中核的な柱として、核兵器の拡散防止、原子力平和利用の推進及び軍縮の促進を目的とする核不拡散条約(NPT)が存在し、現在までの締約国数は186(1997年5月22日現在。北朝鮮を含む。)に至る。近年、フランス、中国が核兵器国としてNPTを批准したことに加え、核兵器を放棄した南アフリカ共和国のほか、アルゼンチン並びにウクライナ、カザフスタン及びベラルーシの旧ソ連諸国もNPTを批准。さらに、現在ブラジルも批准に向けた国内手続きを進めているところであり、核不拡散体制におけるNPTの役割はますます増大。
なお、ロシア、ウクライナ、カザフスタン等の旧ソ連諸国を対象として、核兵器等の廃棄を円滑に推進するため、米国は1991年にナン=ルーガー法が成立して以来、協力的脅威削減計画に基づく支援を実施。また、米以外のG7諸国(英、仏、独、伊、加、日)も関連資機材の供与、研究技術協力等による支援を実施。我が国は、1993年以降総額1億ドル規模の、核兵器等の廃棄の支援を順次実施。
今後は、現時点で未加入のインド、パキスタン、イスラエル等の国の加入を引き続き求めていくことが大きな課題。
NPTは1995年のNPT再検討・延長会議において無期限延長に合意。
その際に、「条約の再検討プロセスの強化」と「核不拡散と核軍縮のための原則と目標」を合意。前者においては、NPTの完全な実施や普遍性の促進等に向けた再検討プロセスを強化することを確認。後者においては、包括的核実験禁止条約(CTBT)交渉の完了とカットオフ条約交渉の即時開始と早期締結、究極的核廃絶を目標とする核兵器国の核軍縮努力等核軍縮の道筋を提示し、NPT非締約国による国際原子力機関(IAEA)との包括的保障措置協定の締結、IAEAの未申告施設の探知能力の強化に向けた保障措置の強化と効率化、核不拡散と両立した原子力の平和利用の推進の重要性を確認。
2000年のNPT再検討会議に向けて、核不拡散体制の維持・強化に向けた一層の努力が課題。
②
米露の核軍縮等の努力
戦略核兵器の削減を目的とするSTARTⅠ(1991年7月米露署名、1994年12月発効)により、2001年中に、米、ロシアは、配備された戦略核弾頭の総数を各々6000発以下に削減することに向けた取組みを実施中。
配備された戦略核弾頭総数を各々3000から3500発まで削減することを目標とするSTARTⅡに米、ロシアが署名。米国は既に批准し、ロシアの批准を待つ状況(同条約の下での削減期限は当初2003年とされたが、ロシアの財政難を考慮し、2007年に延期されることとなった。)。
1997年3月にヘルシンキで行われた米露の首脳会談で、STARTⅡの下での戦略核の運搬手段の廃棄期限を2007年に延長すること、更なる削減を図るSTARTⅢの内容について共通の理解に到達。
冷戦の終焉とそれに伴う核軍縮に対する核兵器国の努力がなされる中で、米国は核兵器等の拡散を防ぐ拡散防止(nonproliferation)だけでなく、地域紛争の発生を十分に念頭に置き大量破壊兵器の拡散を前提として軍事的な対応も含む拡散対抗(counterproliferation)という概念を表明。
また、米国は、プルトニウムや高濃縮ウランの増大に対し、その蓄積の抑制、 管理等の重要性を盛り込んだ核不拡散政策を1993年に発表して、積極的な取組みを進めているほか、核不拡散の観点から研究炉で使用された高濃縮ウランを関係国から引き受けて管理を行い、全体的な削減を図る等の取組みを実施。
③
核兵器解体により生じた核分裂性物質の管理、処分の支援
1996年の原子力安全モスクワサミットの合意を受けて、核兵器の解体によって取り出された兵器級のプルトニウム等を軍事再転用されないよう安全に管理し、また、恒久的に処分するための可能な技術的オプションと国際協力のあり方を検討するための国際専門家会合(米、加、英、仏、日、独、露、ベルギー、スイス、IAEAと欧州連合(EU)が参加)が1996年10月に開催。
その中では、核燃料として原子炉で用いる、あるいは固形化して廃棄物として処分するといった方策が有効とされ、また、安全管理、処分のための国際協力が重要であることを確認。
現在、ロシアのプルトニウムを原子炉で燃焼するためにウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(MOX燃料)を製造するためのパイロット・プラントの建設プロジェクトについて仏・独・露間での検討等が進展中。
旧ソ諸国の核兵器廃棄支援の一環として、ロシアの解体核兵器から生じる核物質が処分されるまでの間、安全に貯蔵するための施設の建設が米、ロシア間で進展中。我が国も貯蔵容器の供与を予定。
我が国は、カザフスタン、ベラルーシ、ウクライナの核物質の管理について我が国の原子力平和利用の経験、技術を生かした協力を実施中。
核兵器解体により生じた核物質が軍事再転用されないことが重要であり、米国は、軍事目的にとって不要となった核物質をIAEAの保障措置下に置くことを決定。また、現在、米、ロシア、IAEA間で、この物質をIAEAの検認下に置くことについて検討が進展中。
④
プルトニウムの透明性向上等のための指針
プルトニウム利用に関係する9カ国(米、露、英、仏、中、日、独、ベルギー、スイス)に、オブザーバとしてIAEAと欧州連合(EU)が参加して国際的な検討を実施。
その結果、民生利用のプルトニウム及び軍事目的にとって不要となったプルトニウムを対象として、各国が核燃料サイクル政策、プルトニウム利用計画を明らかにするとともに、プルトニウム保有量を共通の様式によって公表することを定め、各国がプルトニウムの利用を図る上での安全確保、核不拡散等の基本的な原則を示すプルトニウム利用の透明性向上等のための指針が合意され、1997年12月に各国により採択。
⑤
CTBTとカットオフ条約
地下核実験を含むあらゆる核兵器の実験的爆発及び他の核爆発を禁止する包括的核実験禁止条約(CTBT)は、1996年9月に国連総会において採択され、署名開放。現在まで、149ヶ国が署名済(1998年1月16日現在)。
核軍縮の進展を図る上で、国際監視制度を含む検証制度を盛り込んだ本条約は重要で、この検証制度が効果的に機能するよう、国際監視制度等を適時適切に整備し、円滑な運用を図ることが課題であり、我が国も各種監視施設の整備等に向けた取組みを開始。
また、同条約の規定上、その批准が発効要件となっている国(44ヶ国)のうち、インド、パキスタン、北朝鮮は、未だ署名を行っていない。これら諸国への働きかけを含め、条約を早期に発効させるための不断の努力が重要であり、我が国はこれらの国が早期に署名・締結するための働きかけを引き続き行っていく方針。
核兵器用の核分裂性物質の生産を禁止するカットオフ条約についても、1995年のNPT再検討・延長会議において、交渉の即時開始と早期終結の必要性を確認。
現在、ジュネーブ軍縮会議において、交渉開始のための努力が継続中であり、早期の交渉開始が期待。この条約においては、有効な検証手段を有する内容とすることも課題の一つ。
⑥
非核兵器地帯条約
一定の地域内における核兵器の配備等を禁止し、そのための管理制度(IAEAの保障措置の適用、協議の手続き等)を定める、関係地域の諸国の間で自由な意志により合意された取極に基づく国際的に認知された非核兵器地帯条約は世界及び地域の平和及び安全保障を増進することが、1995年のNPT再検討・延長会議において採択された「核不拡散と核軍縮のための原則と目標」において確認。
これまで4つの非核兵器地帯条約(「トラテロルコ条約(1968年発効)」、 「ラロトンガ条約(1986年発効)」、「ペリンダバ条約(未発効)」、「東南アジア非核兵器地帯条約(1997年発効)」)が有り、このうち、「トラテロルコ条約」、「ラロトンガ条約」、「ペリンダバ条約」の付属議定書には、核兵器国も署名済。
⑦
IAEA保障措置の強化・効率化
イラクの核開発計画の発覚を契機にして、未申告核物質、未申告原子力活動を探知するためのIAEAの保障措置制度の強化が課題となり、IAEA保障措置の強化・効率化のための諸方策に関し、IAEAにおいて各国参加の下で精力的に検討を実施。
1995年6月に、IAEA理事会は現行の保障措置協定の範囲内で実施することが可能な方策(第1部)を採択。
IAEAに新たな権限を付与することが必要な諸方策(第2部)は、NPTに基づきIAEAと締結するいわゆるフルスコープ保障措置協定に新たに追加される議定書に基づいて実施されることになるものであり、その議定書のモデルを1997年5月のIAEA特別理事会において採択。これまで、ウルグアイ、オーストラリアを含む7カ国がIAEAとの間で追加議定書を締結し、EUも交渉を開始。(1997年12月現在)
核不拡散体制の強化のために、以上の方策を多くの国が出来るだけ早期に実施すること、また、フルスコープ保障措置協定の締結国だけでなく、核兵器国及びNPTの非締約国も本方策を実施することが重要。
⑧
原子力資機材・技術の輸出管理
原子力資機材・技術の拡散防止のために、原子力供給国が核物質等の非核兵器国への輸出に関し1977年に作成した核物質等の輸出管理のためのガイドライン(ロンドンガイドライン)は、1992年のイラクの核開発計画の発覚を契機に、原子力専用品を規制対象とするパート1に加えて、原子力汎用品を対象とするパート2を新設し規制対象を拡大したほか、原子力専用品の輸出に際して原則として受領国のフルスコープ保障措置の受入れ等を条件とする管理体制の維持・強化が進展。また国際的に、本制度の一層の透明性の向上が重要。
⑨
核物質の密輸対策
核物質の密輸は核不拡散体制に対する脅威として国際的に認識され、P8(G7+ロシア)やIAEAにおいて継続的に議論。
核物質密輸事件を登録するIAEAのデータベースが作成されたほか、各国間の情報交換や核物質管理の強化等を内容とする核物質密輸防止プログラムの合意等の関係国間の取組みが進展中。
核物質密輸防止の取組みについては参加国が拡大され、関係国間の連携の強化、IAEAとの協力等について議論が進展中。今後ともより効果的な核不拡散体制の構築に向けて、密輸防止のための関係国間及びIAEAとの間の協力の充実強化が重要。
⑩
朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)
北朝鮮がIAEAの特別査察を拒否したほか、IAEAからの脱退を行ったことによる北朝鮮における核開発疑惑の発生は、NPT体制にとって極めて重要な問題を惹起。
米朝間で、北朝鮮の黒鉛減速炉から軽水炉への転換を推進する国際的なコンソーシアムの組織、関連施設の凍結、IAEAの保障措置協定の履行等を内容とする「米朝間の合意された枠組み」を作成(1994年10月)。
この合意を受けて、米、韓、日により1995年3月に朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)が設立され、軽水炉建設への着工等軽水炉プロジェクトが進展し、1997年9月にはEUがKEDOに加盟する等関係国間で取組みが進展。
今後、北朝鮮の原子力施設については早期にIAEA保障措置の完全な実施が期待されるが、それまでの間、北朝鮮の関連施設の凍結の維持が重要。
(3)核不拡散の観点から見た我が国の原子力利用
我が国は、原子力基本法を制定し、民主・自主・公開の原則に則り平和利用の堅持を大前提に原子力の開発利用を推進。
我が国は、核兵器のない世界の実現を目指し、核軍縮・核不拡散の問題に積極的に取り組み中。
我が国においては核燃料サイクルの確立を政策の基本とし、今後、国内再処理事業、軽水炉でのプルトニウム利用(プルサーマル)等により本格的にプルトニウム利用を進めていくに当たり、我が国のプルトニウム利用に関して疑念が生じることのないよう、透明性の一層の向上が重要。
米国は、核不拡散政策の一部として、プルトニウムの民生利用は奨励していないが、西欧と日本についてはプルトニウム利用に関する従来からのコミットメントを維持するとしている点を十分に認識した上で、プルトニウム利用の透明性の向上、国内外の理解の促進への努力は重要。
我が国の原子力平和利用の考えや決意は、海外で十分に理解されていない面もあり、一部の海外の論調等において、我が国に対し核兵器開発の懸念がある旨言及するケースあり。
一方、国内においては、我が国の国民感情から、そのような懸念は現実感に乏しいが、このような内外の意識のギャップの原因を分析し、適切な対応策の検討が課題。
2.核不拡散に係る我が国の原子力政策の基本的考え方
前述1.の核不拡散を巡る最近の国内外の諸情勢を踏まえ、我が国としては、今後とも原子力基本法に則り原子力平和利用を円滑に進めていくために、これまで原子力の平和利用に徹してきた国としてふさわしい原子力政策を今後とも展開していくことが必要である。このため、原子力委員会としてもその機能の一層の充実を図り、核不拡散に係る原子力平和利用政策の企画や事務の総合調整を的確に行っていくことが必要である。なお、その際、外交政策等との調和を図ることが重要である。
我が国が原子力の平和利用を堅持することが重要なことは言うまでもないが、核不拡散は国際的に関心の高い事項であることを踏まえ、国際社会に向けて我が国の原子力政策上の考えを明確に示し、あるいは、積極的な国際対応を行いつつ、我が国に対し核不拡散上の懸念が生じないよう、原子力利用における国際的な信頼の確保に向けて最大限の努力をすることが必要である。
また、NPTを中心とする核不拡散体制が今後とも核不拡散のための枢要な枠組みとして機能することが重要であり、この体制の信頼性の一層の向上に向けて、我が国が原子力の平和利用で培った知見等をもとに努力をしていくことが必要である。
さらに、唯一の被爆国である我が国にとっては、核兵器のない世界を目指すことが重要であり、このために原子力平和利用の面からも貢献できる分野において積極的に努力することも重要である。
(1)原子力の平和利用政策
我が国は今後とも原子力基本法に則り、厳に平和の目的に限り原子力の開発利用を推進すべきである。その際、より広い視野から、安全保障、国際政治等の動向を踏まえて、核不拡散を考慮した原子力平和利用政策を推進することが必要である。また、国際的な核不拡散体制の強化も念頭に置いて、原子力平和利用の経験や技術を生かした国際協力、貢献を推進するとともに、我が国の原子力平和利用について国際的な信頼を得ていくよう努力すべきである。
原子力の平和利用の確保のためには、国際的な核不拡散体制上の義務を厳格に果たすことが不可欠であり、IAEAの保障措置や核物質防護を効果的かつ効率的に実施することが必要である。特に、強化・効率化された新しいIAEA保障措置の導入等を考慮して、我が国の持つ人的、技術的資源を有効活用する適切な保障措置の実施体制の構築が必要である。
また、我が国においては、核燃料サイクル政策の下で、今後、プルトニウム利用の本格化が予定されている。こうした中で、我が国は、核燃料サイクル計画を国際的な信頼を得つつ実施していくため、国際的な核不拡散体制から要求される義務に加えて、自発的な努力が必要である。具体的には余剰のプルトニウムを持たないとの原則を堅持し、合理的かつ整合性のある計画に基づいてプルトニウムの利用を推進するとともに、核不拡散に関連した技術の研究開発にも積極的に取り組んでいくことが必要である。
(2)原子力政策の透明性の向上及び国内外の理解の促進
核不拡散の観点から国内外の信頼の確保に向けて、原子力の平和利用にいかなる疑念も生じることのないように原子力利用の透明性を向上するため一層の努力が重要であり、原子力平和利用の政策や取組みについて積極的に対外発信するとともに、政策対話等を通じて関係国や国際社会等の理解の促進に努力することが必要である。
特に、プルトニウムや高濃縮ウランの利用に当たり、一部に核拡散の懸念が存在すると指摘されることも事実であり、核物質管理の重要性を十分に認識しつつ、その利用の透明性の向上に向けて自発的な取組みを行うとともに、国際的な取組みについても積極的に参加することが重要である。
国民への広報等により、我が国の核不拡散努力について幅広いレベルで理解の促進に引き続き努力することが必要である。
(3)核不拡散体制の維持・強化に資する原子力政策
近年、核拡散の懸念が増大する中で、核不拡散と原子力平和利用を両立させる枠組みであるNPTを中心とする核不拡散体制の維持・強化に向けて努力することが必要である。このNPTには既にほとんどの国が参加し、核不拡散のための枢要な枠組みとして機能していると考えられるが、今後とも、この条約の普遍性・実効性をさらに高めるための努力を継続することが重要である。
核不拡散体制の維持・強化と原子力の平和利用の両立が図られるよう最大限の配慮が必要であり、その意味で効果的・効率的な保障措置の役割が重要である。1970年にNPTが発効して以来、IAEAを中心とする保障措置制度がさらに充実し、豊富な経験とノウハウの蓄積によって国際社会はこの保障措置制度に対する一定の信頼感を共有している。我が国はもちろん、多くの国において保障措置の実施の下で、核不拡散を確保しつつ原子力の平和利用が円滑に進められ、そのような枠組みを通じて多くの利益の享受が可能となっており、その意味でこの保障措置を国際公共財として位置づけ、継続的に改善・強化に努力していくことが重要である。この点、保障措置の強化・効率化方策の全体が、1997年5月のIAEA特別理事会におけるモデル議定書の採択によりまとまったことは核不拡散体制の強化という点で極めて重要な前進と言える。
保障措置の実施等に多くの実績と経験を有するIAEAが、今後とも核不拡散に関して重要な役割を果たすことを強く期待しつつ、我が国はNPT体制の重要な一員として、人材面、技術面等からの貢献を推進することが必要である。特に、IAEAがその人材等の有限なリソースを活用しつつ核不拡散上の新たな要請に対応していくための様々な努力を続けることが重要であり、我が国としても適切な協力を行っていくことが必要である。
核拡散の懸念に対して、核密輸の防止や核物質の的確な管理が確保されるとともに、核兵器に関連する技術や人材の拡散防止が重要である。IAEAにおける、あるいは、関係国間での国際的な検討作業に今後とも積極的に参加するとともに、我が国においては、こうした検討の結果作成された核不拡散に関する国際的なガイドラインに基づく原子力資機材の輸出管理や平和利用のプルトニウムの管理、核物質防護条約や国際的なガイドラインに基づく核物質防護措置を的確に実施するとともに、国際科学技術センター(ISTC)における活動に対する支援を行うことが必要である。
地域においても適切に核不拡散が確保されることは重要である。それぞれの地域の特殊性を考慮しつつ、また、その地域の関係国の合意のもとで核不拡散確保のための努力が行われることが重要であるが、我が国としては、今後も中長期的には継続的な経済発展が予想される近隣アジア地域にも十分に目を向けて、同地域の関係国のニーズも考慮し、原子力平和利用の面から適切な協力・貢献を実施することとし、具体的には、保障措置の実施や核物質の管理の技術水準の向上等のため、当事国の自主的な努力を基本に我が国が培った平和利用技術を活用して協力することが必要である。
これと併せて、核拡散の懸念のある地域に対しては、IAEAの保障措置の適用、核物質防護措置の実施等による核物質、関係資機材等の厳格な管理を求めていくことが重要である。
(4)核不拡散に係る新たな視点からの取組み
冷戦終焉後の核拡散の懸念に対応し、また、現在進められている核軍縮の進展に向けて、新たに重要となった取組みに関し、我が国も国際社会の一員として、原子力平和利用で培った経験を生かして可能な努力をすることが必要である。
核兵器の廃棄促進に向けて、また、核軍縮に伴う核弾頭の解体により生じる核物質の管理や処分についても、国際的な支援が重要であることに鑑み、既存の支援プログラムの円滑な実施を図るほか、我が国において貢献できる分野において、原子力平和利用において培った知見、技術を活かして貢献することが重要である。
また、CTBTやカットオフ条約は核不拡散の観点からも重要な取組みである。前者は国際的には、条約の発効に向けた努力と並行して国際監視制度等の実施に向けた取組みが行われているところ、我が国も原子力平和利用において培った知見、技術を活かして貢献することが重要である。カットオフ条約の交渉は未だ開始されていないが、有効な検証手段を有する実効性のある条約にするために、我が国としても検討作業に積極的に参加していくことが重要である。
3.核不拡散に係る我が国の今後の主要な原子力政策
上記2.の基本的考え方に沿って、今後我が国としてとるべき核不拡散に係る 原子力政策の具体的内容を以下に示す。
(1)我が国の原子力平和利用と核不拡散対応
核不拡散を巡る諸情勢を踏まえ原子力平和利用政策の企画、立案を適切かつ円滑に進めることが必要である。このため、原子力委員会における専門的な立場からの核不拡散に係る原子力政策に関する審議機能の充実に向けて取り組むことが重要である。
我が国の原子力平和利用の政策や取組みについて、国際的に理解の促進を図ることが必要であり、国際シンポジウム等を開催して国際的な発信や交流を進めるとともに、関係国等との政策対話の一層の推進を図る。
海外も含め産、学、官等が幅広い立場から核不拡散への対応にも配慮した我が国の原子力平和利用のあり方の議論、調査、研究を行い、これにより広い視野に立った意見交換を行うことは、我が国の原子力平和利用に対する理解の増進や国際協力に役立つものと考えられる。この点に関し、既存の組織、セミナー等を十分に活用するとともに、適当な場を設置することを含め、こうした活動の支援のための必要な努力を行うことを国としても検討する。
我が国の原子力平和利用に対する信頼の一層の向上のため、保障措置、核物質防護、輸出管理等を適切に実施する。これらの施策の実施に当たっては、様々な国際取極、原子力協力協定、国際的ガイドライン等に沿って行うことが必要である。
特に、保障措置については、国内保障措置の充実とともに、IAEA保障措置の強化・効率化に向けて以下の方策を実施する。
①現行の日・IAEA保障措置協定の枠内で実施可能なものは、順次実施してきているが、今後とも、IAEAの保障措置活動を効果的かつ効率的なものとする観点から、国内保障措置制度との連携強化を図るとともに、遠隔監視技術、環境サンプリング等新しい技術や手法の導入、実施に向けて積極的に取組む。
②1997年5月のIAEA特別理事会において採択されたモデル議定書を踏まえ、我が国においても追加議定書を出来るだけ早期に締結するため最大限努力する。その際、原子力の平和利用の円滑な進展が図られるよう引き続き十分な配慮がなされることが重要である。
こうした動きに適切に対応するために、また、今後、プルトニウム利用が本格化することを考慮すれば、新たな保障措置実施体制の整備を図ることが必要であり、上記追加議定書の締結のための国内法整備を進めるとともに、一層効果的・効率的な査察活動の実施のために、専門的な知見、技術を有する組織の充実あるいは活用を図っていくことが有益であり、そのための具体的方策について検討を進め、保障措置業務の増加等にも対応できる制度を整備する。また、大型再処理施設に対する保障措置の効果的・効率的な実施を図るために必要な保障措置手法についてはIAEAとの協議を進めるとともに必要な技術開発を積極的に進める。
保障措置の効率化方策についてはその具体化に向けて、調査や新しい技術の研究開発を進めるほか、現在進めている軽水炉のリモートモニタリングの試験を引き続き積極的に進めその有効性を確認のうえ早急に定常利用に移行させていく等、IAEAとも連携しつつ可能なものから順次実施する。この際、保障措置の効率化方策の適切な導入及び円滑な実施に向け、外部の有識者を入れる等により効果的な検討、評価が進められるようにすることが重要である。
核物質防護については、国際的なガイドライン等に沿って引き続き適切に実施する。この際、原子力開発利用の諸活動の透明性の向上にも十分に配慮しつつ、的確な核物質防護措置が講じられることが重要である。
我が国のプルトニウムの平和利用について余剰のプルトニウムを保有しない原則を堅持するとともに、透明性の一層の向上を図るため、その保有量の公開を引き続き進める。
原子力平和利用や保障措置等の核物質管理に関して広報活動を活発にし、国民の理解の促進を図る。
適切な核物質管理を実施するうえで必要となる専門的な知識を持った人材の育成という観点にも配慮して、引き続き国内外の幅広い層を対象に、セミナー、研修等を開催する。
保障措置、核物質防護等核不拡散に関する技術の研究開発をIAEA等とも連携を図りつつ積極的に進めることが必要である。これらの技術は我が国における保障措置等の効果的・効率的な実施に役立つものであるとともに、技術移転等によりIAEAを始め国際社会に貢献することが可能であることから、これらを計画的に推進するため、核不拡散関連技術の研究開発計画を作成する。この際、この技術が円滑に実用化されることが重要であり、そのために外部の有識者を活用する等により十分な検討、評価を行っていくことが重要である。
(2)我が国の原子力利用での知見を生かした核不拡散の強化のための国際貢献
①
世界的な核不拡散体制の強化に向けた取組み
NPT体制の強化に向けて、原子力平和利用、核不拡散・核軍縮の促進は重要な課題であり、2000年のNPT再検討会議に向けて積極的に対応する。
1995年のNPT再検討・延長会議の際に合意された「核不拡散と核軍縮のための原則と目標」の早期実現に向けて、原子力の平和利用や保障措置等の面での積極的な取組みを行うほか、核兵器国の核軍縮努力についても核不拡散の観点から我が国の原子力平和利用で得た技術・データの提供等による協力を行う。具体的には、1997年12月に各国により採択されたプルトニウム利用の透明性向上等のための指針に則り、保有量の公表等を引き続き実施する。また、旧ソ連諸国の非核化支援の枠組みの中で、核物質の管理等のための支援を引き続き円滑に実施する。また、解体核から生じる核物質の管理・処分に対する国際的な取組みに今後とも積極的に参加し、我が国として適切な支援のあり方を検討して協力を行う。
世界的な核不拡散体制の構築のため、CTBTの検証のための放射能監視網の整備や、IAEA保障措置強化・効率化のための環境サンプリング分析の国際ネットワークへの参加に向けて取り組む。
IAEA、包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会といった国際機関等の機能が十分に発揮されることは世界的な核不拡散体制の維持強化のため重要である。このため財政的な支援を進めるとともに、日本人職員の派遣を行う等人的協力の一層の充実を図る。なお、国際機関等での勤務が必ずしも国内におけるキャリア形成において必ずしも有利に評価されないことがその妨げになっている場合もあるため、必要な環境整備が行われることが必要である。
カットオフ条約の交渉の早期開始を期待し、条約の実効性を担保する上で必要な検証技術の信頼性の向上等に向け我が国としても検討作業の実施にあたっては積極的に参画する。
②
地域的な核不拡散の視点に立った原子力平和利用の取組み
今後、中長期的には継続的な経済発展が予想される近隣アジア地域においては、当該国がNPTに加入している等の核不拡散への取組みも考慮して、核物質の平和利用の確保に向けて、当面は、関係国との具体策も視野に入れた政策対話の推進、セミナーの開催等による人材の交流、核不拡散関連技術の移転等を推進する。近隣アジア地域において核物質の管理が的確に行われることが重要であり、専門家や技術者を養成するとの視点が必要である。
近隣アジア地域における将来的な取組みについては、各国の原子力利用状況を踏まえつつ核不拡散の観点をも考慮して信頼醸成等を目的とした検討が行われることが重要であり、まず関係国間の対話を実施する。なお、欧州原子力共同体(ユーラトム)が欧州において原子力の平和利用、核不拡散等の共通の目的達成のために設立され、多くの実績を積んでいることも事実であるが、近隣アジア地域における同様な機関の設立については近隣アジア地域の特殊性や相違点にも配慮することも重要である。