資料12−2


アジア地域における原子力国際協力について − 論点整理のとりまとめ −
国際協力WG


(背 景)
 ○ 地域の経済発展と相互依存関係
 近隣アジア諸国・地域においては、最近、経済混乱に直面している国があり、この状態は当面継続するという見方もされているが、中長期的には依然として高い経済成長のポテンシャルを有するものと考えられている。この経済成長が持続的、安定的に実現するためには、@電力、交通などの産業基盤の充実、Aエネルギー不足・環境の悪化が経済成長の制約とならないこと、B教育と人材育成をはかり将来の自立的な発展の道筋を作ること、C地域的な安定性が維持されていくこと、などの条件が満たされることが必要である。
 アジア地域の経済・社会発展は、冷戦後のグローバル化した相互依存関係の中で進んでおり、この相互依存関係は、市場メカニズムによるところが大きいが、同時に教育や研究・技術基盤、産業基盤、制度面の整備とのバランスをとっていくことが重要と思われる。従って、前述の条件とあわせて、この相互依存関係を調整するための国際協力の枠組みも必要となり、原子力もその重要な一分野と考えられている。

 ○ 地域のエネルギー需要と原子力エネルギー、並びに各国・地域の多様性
 経済発展、人口増加に伴うエネルギー需要の増大については、2010年までの世界エネルギー需要増加分の約50%はアジア地域が占めることになるとの見通し1)がある。この需要の伸びのかなりの部分は、アジア地域外の石油資源に依存して充足されると予想されることから、多様なエネルギー供給源の確保というエネルギー安全保障の観点及び二酸化炭素の排出削減という地球環境保全の観点から原子力利用に対するニーズが高まるものと思われる。これらの観点から、各国・地域は21世紀に向けて原子力発電を有力な電源開発の候補と位置づけており、既に韓国、台湾では電力供給の30〜40%程度を原子力に依存し、中国、インド等で導入が進められている他、東南アジア諸国でも今後の導入が検討されている。日本を除くアジア地域の原子力発電規模は、2010年には50GWを超え日本に並ぶ規模となると予想されており2)、この場合、日本を含めたアジア地域は北米、欧州地域と並び原子力エネルギー利用についての3極の一翼を担うことになる。また、この期間の新規原子力発電所建設の約1/3は、日本を除くアジア地域での立地と予想されている2)
 但し、現状の原子力開発利用に対する取組は、ラジオ・アイソトープ及び放射線の産業利用や研究炉、加速器の利用を中心とした国から、すでに発電所を運転している国・地域など、アジア地域の中でも多様であり、この取組及び開発利用レベルなど各国・地域の状況の違いを考慮した協力が重要となっている。

 ○ 原子力開発利用の基盤整備と今後の地域協力
 我が国はこれまで、近隣アジア諸国・地域に対して基礎科学・技術の向上、原子力に携わる人材の養成、原子力の研究・技術基盤の整備、原子力安全規制体制の整備、原子力安全文化の醸成など、長期的展望に立った制度・技術の両面からの継続的な協力、及び技術向上等に係る自助努力を支援する協力の施策を進めてきており、これらは対象国・地域の原子力開発利用の健全な基盤を確立する上で重要な役割を担っていると考えられる。各国・地域とも、21世紀中葉を視野に入れ、研究・技術基盤と人材育成には大きな関心と先進国からの協力への期待を有している。
 原子力開発利用長期計画に記述されているように、近隣アジア地域及び開発途上国との国際協力の進展に伴い、従来からの人材交流・情報交流を中心とした協力に加えて、今後は原子力資機材等の我が国からの供給が活発になっていくものと予測される。一方、万一、原子力施設における深刻な事故が発生すれば、当該国・地域に限らず世界の原子力開発利用に大きな影響を与えうることから、我が国としても、核不拡散のみならず安全確保にも配慮した上で、我が国の原子力産業の現状、相手国の要請、他の供給国との連携・協力等を踏まえ、総合的な取組の必要性について検討することが重要となっている。
 なお、我が国の限られた国際協力の資金と人材を最大限に有効活用する観点からは、上記のような各国・地域の状況に配慮しつつ、合理的・効率的な協力が求められている。
<出典>
1)IEA, WORLD ENERGY OUTLOOK, 1996.
2)OECD/NEA&IAEA, URANIUM, 1995.

 (基本的スタンス)

 近隣アジア地域における原子力開発利用の協力について、以下の事項に留意してとりまとめるものとした。

 ○原子力委員会の役割に鑑み、
を視野に入れてとりまとめるものとした。
 ○これまで関係機関・委員会等で広範囲に議論されてきた経緯を踏まえ、かつ審議を効率的、集中的に行い、当面及び中長期的に主要な事項を中心にまとめるものとした。
 ○検討の対象は主として、原子力開発利用を行い、アジア地域原子力協力国際会議参加国である、近隣アジア諸国8ヶ国*とした。
 *中国、韓国、タイ、マレーシア、ベトナム、インドネシア、フィリピン、オーストラリア

(論点整理)

1.目的と意義
 我が国の限られた国際協力の資金と人材を最大限に有効活用する観点からは、合理的、効率的な協力方策、施策の検討が必要となっており、そのためには、長期的な展望の下、国民の理解を得る観点からも協力の目的と意義を明確にする必要がある。

 (1)先進国としての役割

 (2)国際依存度の高い国としての国際公共財の蓄積  (3)安全確保  (4)エネルギー安全保障及び環境

2.配慮すべき基本的事項及びその考え方
 現行の原子力開発利用長期計画に挙げられている方針(@基盤整備に係る協力、A安全確保と核不拡散への配慮)等に基づき、協力にあたっての基本的な考え方を整理することが重要。

 (1)基盤整備への重点

 (2)安全確保への重点  (3)核不拡散への配慮  (4)信頼感の醸成への配慮/透明性の向上

3.協力の進め方
 近隣アジア地域の原子力開発利用協力の検討にあたっては、上述の基本的な考え方に加え、現行の原子力開発利用長期計画にも述べられている「国情に応じた長期的継続的な協力」といったような近隣アジア地域の特性に関する様々な視点による考慮が必要である。効果的、効率的な協力を実施するためには、これらを総合的に考慮することが重要。

 (1)国情に応じた協力

 (2)国際的制度と二国間協力  (3)対話の促進及びネットワーク育成  (4)効率的・効果的協力  (5)協力、支援のための我が国の体制

4.重点分野及び具体的施策
 近隣アジア諸国の原子力開発計画の状況等を踏まえ、これまでの原子力国際協力専門部会等関係委員会や本ワーキング・グループの議論をもとに、重点的に取り組む協力の分野、及びその施策について提案する。
 なお、以下に示唆する具体的施策については、今後、国際協力専門部会及び関係省庁において、実現可能性、実施方策等につき更に議論される必要がある。

T.分野別の当面の施策

 (1)原子力発電の開発状況等に応じた協力
 近隣アジア諸国において、原子力発電の開発状況等は各々に異なるため、これらに応じた国・地域別の対応を行う必要がある。また、原子力発電に関する協力については総合エネルギー調査会原子力部会中間報告書等も踏まえるとともに、民間レベルの協力内容を十分把握し、その中で安全規制の充実、安全文化の醸成、パブリックアクセプタンス等政府の果たすべき役割の範囲を明確にし、既存の国際機関の活動も十分考慮した上で、今後さらに充実が期待されている分野を明らかにしていく必要がある。以下、国又は地域別の協力方策について述べる。

@中国は、既に自主開発及び仏からの技術導入による3基の原子力発電所を運転しており、我が国からの原子力関連機器の輸出実績もある。日中間には原子力関連資機材の移転を含む原子力の平和的利用における協力を促進する枠組みとして原子力協定が整備されている。今後、更に仏、加、露から原子力発電所の導入が計画され、原子力発電の規模が拡大していく見通しであるが、同時に人材養成、国内原子力法制等の基盤の整備が課題となっており、我が国の支援に対するニーズも強いことから、以下のような方策を進めることが求められている。

  1. 安全文化醸成等に向けた人材育成、基盤整備のための支援
     発電所の運転員、品質管理担当者、規制担当者等を対象とした研修事業、関連法規や各種基準の整備のための人材派遣等の充実を図り、安全基盤の整備、安全文化の醸成等に資する。
  2. 既存国際機関等の活用
     安全性確保及び向上等に関し、国際原子力機関(IAEA)等の国際機関や世界原子力発電事業者協会(WANO)等の非政府機関などの国際的な協力の枠組とできる限り連携をとりつつ、これらを活用した情報交換、技術協力等を積極的に行う。
  3. 安全確保とソフト(運転管理ノウハウ等)移転の充実
     引き合いに応えて我が国から原子力関連資機材等の輸出を行うにあたっては、資機材の輸出に併せて運転管理技術、定期検査制度等の安全関連システム等のソフトウェアの移転も行っていく「安全のワンセット供給」が、相手国の安全水準の向上に資するためにも重要であり、輸出機器等の品質確保や当該機器等の保守補修及び関連研修サービスを適切に行っていくことも供給者の責務であるとの認識の下にこれに積極的に対応していく。
     また、我が国以外の原子力供給国からの資機材の輸出が進んでいる現状等を踏まえ、安全確保等に関し欧米諸国の原子力産業との連携をも模索しつつ、我が国の原子力産業の健全な発展にも寄与する方向で国際展開がなされることが望ましい。
  4. 個別プロジェクトへの柔軟な対応
     原子力発電所建設への協力については、電力会社及びメーカーの各社の自発的な取組みを原則とするが、安全確保、核不拡散、人材の活用、ノウハウの蓄積という観点からは、政府との連携や産業界全体での取り組み等の国内の協力への考慮も重要。
A韓国では既に12基の原子力発電所が運転され、原子力発電のシェアは36%に達している。また、97年11月にはアジア原子力安全ソウル会議を主催するなど、地域内協力に積極的に取り組む姿勢があり、今後以下のような方策により地域協力を発展させるための連携をさらに強化していくことが望まれる。
  1. 安全性向上及び安全文化醸成のための協力
     今後、益々重要になってくると思われる既存施設の老朽化、放射性廃棄物管理等安全に係る技術的課題について、我が国の経験やノウハウを提供する機会を設けると同時に、これらの課題に対する国際協力の可能性を検討する。
  2. 対話の促進と二国間協力
     緊急時対策、放射性廃棄物管理、PA等の共通の課題について、対話の促進及び共通課題の解決のための二国間協力の促進を図る。
  3. 既存国際機関の活用
     研究開発から運転段階に至るまでの幅広い分野において、IAEAやOECD/NEA等既存の国際機関を活用した情報交換、技術協力等を更に積極的に行う。また、韓国と同様に大型発電所の運転経験を有し原子力発電のシェアが大きい台湾に関しては、可能な範囲内で安全性の向上に資する協力が促進されることが望ましい。
B将来のエネルギー・オプションとして原子力発電の導入を検討している東南アジア諸国では、今後、国によっては具体的計画が進展するのに伴い、技術全般の向上、規制体制等の基盤整備、人材育成等が必要となる可能性を有しており、次のような方策による協力の充実が望まれる。
  1. 対話の促進
     相手国の発電所建設計画、技術レベル、我が国との協力のニーズ等を把握するため、政府間における対話の一層の充実を図り、相手国の自助努力の支援に資する。
  2. 安全性確保等のための支援
     原子力発電所の建設計画が明らかになった場合は、政府を中心とした安全規制インフラの整備に向けた支援が重要であり、規制担当者等を対象とした研修事業、関連法規や各種基準の整備のための人材派遣等の充実を図るとともに、必要に応じてPA等について我が国の経験を踏まえた協力についても検討する。
  3. 研究基盤、技術基盤の整備のための支援
     将来の発電所の導入に備えた技術レベルの向上及び安全確保に資するため、原子力の科学技術や研究開発の側面を重視し、既存の研究交流等により相手国の技術レベルに応じた協力活動を行う。
Cなお、北朝鮮については、現在、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)による軽水炉プロジェクトが進められており、我が国も資金面、人材面等で同プロジェクトに積極的に参画している。我が国は今後とも同プロジェクトに対して、軽水炉供給取極に基づき、安全確保等に留意しつつ、他のKEDO加盟国との連携を十分にとりながら、KEDOを通じ積極的に取り組んでいく。

 (2)共通的、基盤的分野の協力

@研究炉、放射線、ラジオ・アイソトープ(RI)利用に関する協力
 近隣アジア地域においては、これまで我が国によりラジオ・アイソトープ生産を含む研究炉及び放射線利用の分野において幅広い協力活動が実施されており、相手国の安全基盤の確立、研究、技術レベルの向上に貢献してきている。
 研究炉利用については、原子力発電を行っている国とその他の国との間では異なる状況にあり、前者が研究インフラとしての利用を主としているのに対し、後者にあっては主として人材育成のための教育訓練施設及び医療用ラジオ・アイソトープ等の製造施設として用いられている。
 また、放射線及びラジオ・アイソトープの利用については、各国が医療利用、農業利用、工業利用等幅広い分野で開発、利用を行っており、我が国は、これまでRCA(原子力科学技術に関する研究開発及び訓練のための地域協力協定)や二国間による研究従事者の養成を中心とした協力を実施してきた。また、国際協力事業団等を通じた機器の無償供与や資金援助も行われている。
 今後、安全水準の向上、安全文化の醸成、技術レベルの向上、産業利用の拡大に資するためこれらの協力を必要に応じ引き続き実施していくことが重要であるが、これまでの成果を踏まえ、より一層効果的、効率的な協力を実現するため、我が国のイニシアティヴにより以下のような施策を展開することが考えられる。なお、放射線利用に関しては、既に商業利用段階にあるものも多く、政府の果たすべき役割の範囲に留意する必要がある。

  1. 研究炉ネットワーク
     近隣アジア地域内の研究炉を国際共同研究の拠点として、地域内諸国の研究者に相互に開放し、研究者、技術者、管理者等のそれぞれの目的に応じた多様な活動のニーズに対応する共同利用施設とするための方策について検討を行う。このような国際的な研究炉の共同利用は欧州にも見られ、OECDの科学技術政策委員会でも議論されているが、特に近隣アジア地域においては、技術レベル及び興味分野が異なる研究者、技術者、管理者等に応じ、各国の研究炉の特徴を生かした総合的な利用計画をたてることが必要となる。
  2. 電子線加速器の利用ネットワーク
     コバルト60に比し、取扱いが簡便な低エネルギー電子線加速器を用いた研究開発のためのネットワークを構築し、域内各国の研究者の人材育成を行うとともに、将来的には、域内各国の自由な参加による研究計画の策定、実施、論文作成、評価を行う場を創設することも検討する。
  3. 研究交流、専門家派遣等の充実
     上記を実施するにあたっては、既存の研究者交流制度、専門家派遣制度等を活用し、その充実を図っていくとともに、研究炉、加速器等の利用の企画、調整を行うための方策について検討する必要がある。また、既存の技術交流や各国からの要請に基づく研究開発施設整備及び研究開発計画策定のためのコンサルティング活動の実施方策について検討する。

A放射性廃棄物管理技術等に関する協力
 アジアにおける原子力利用の進展に伴い、原子力発電に伴い生じる放射性廃棄物のみならず、放射線利用に伴うラジオ・アイソトープ廃棄物等放射性廃棄物の問題も顕在化してきており、各国において放射性廃棄物管理等に対する検討が必要となっている。一方、国際的には国内措置及び国際協力の拡充を通じた使用済燃料及び放射性廃棄物管理の高い安全性の達成、維持等を目的とする使用済燃料の安全管理及び放射性廃棄物の安全管理に関する条約が、97年9月、採択され、各国による右条約の早期締結が期待されている。放射性廃棄物管理等の問題は、広義の環境問題であるとも位置付けられ、技術的側面のみならず、社会的、倫理的側面も重要であり、国際的な環境問題への関心の高まりに伴い、環境保全の観点から近隣アジア地域における我が国の役割を十分に認識、実践していく必要がある。このため、以下のような方策により、技術的情報の提供、人材育成等の支援を行い、地域内各国の放射性廃棄物管理等に関する理解、関連計画の検討、実施に資するとともに、アジア地域内における関連情報の共有、人的ネットワークの形成等を図ることが望まれる。
  1. 人的交流等の充実
     既存のセミナーや人材交流制度の活用と充実を図るため、研修機関の体制の 見直し、放射性廃棄物の取扱いに関する技術者の能力評価等について検討するとともに、研究機関等による既存の研修や研究交流による受入制度に係る情報提供の充実を図る。
  2. 地域内の協力方策の検討
     IAEAによる地域協力活動、国際放射線防護委員会(ICRP)等の国際的活動への各国の参加及び関心を促し、これらを補完する技術的検討を行うための産官学の協力方策を検討する。
B核物質管理等に関する協力
 地域内の原子力開発利用にとって、国際的な核不拡散体制が安定的、効果的に機能することはもちろん、地域内において円滑に核不拡散メカニズムが機能し、NPT体制へ積極的な貢献をしていくことが今後の原子力平和利用の発展のために重要である。このため、当事国の自主的な努力を基本に我が国が培った平和利用技術を活用し、地域内各国の核物質管理の水準向上を目指して、保障措置技術、核物質防護技術等に関する協力を実施することが必要であると考えられる。
 具体的には、核物質の管理に携わる技術者等を対象とした研修事業の実施、情報交換及び各国の核物質管理の透明性向上に資するためのセミナーの開催等が当面考えられ、今後必要に応じて充実を図っていくことが望まれる。

C人材育成に関する協力
 近隣アジア諸国では、ラジオアイソトープ・放射線利用から発電に至るまで、原子力の開発利用が急速に進んでいるが、これに従事する人材は一部の国を除き十分とは言えない。特に、近年これら諸国においては、原子力発電所の導入の機運が高まっており、運転員、中堅技術者、規制担当者防災担当者、核物質管理者等多数の人材の養成・訓練が急務となっている。また、安全文化を醸成し、自己責任原則を根付かせるためにも、原子力関係者の教育、育成が重要である。このため、既存の研修活動及び人材のネットワークを一層充実していくことが求められており、以下のような施策が考えられる。

  1. 研修活動等のフォローアップと質の向上
     様々な機関で実施されている各種研修活動、研究協力活動の有機的連携を図るとともに、例えば専門家から成る委員会による外部評価等により、人的交流の成果を評価するとともに、留学、研修等を終えた者についての定期的なフォロー等により研修等終了後の人的つながりの維持・強化を図る。また、より効率的、効果的な研修者の能力向上のため、高い研究能力も併せ持つ総合的な研修実施体制について検討する。また、厳格な成績の評価、権威のある修了証の授与等による研修の質の向上及び成果の視認性の向上を目指す。
  2. 現地研修等
     現地の事情に応じた研修機能の充実及びより多くの機会の提供のため、アジア諸国における現地での研修活動、インターネットを利用した研修活動等を実施する。なお、現地での研修にあたっては、我が国の専門家を派遣し、現地の指導員を指導しながら効率的な実施を図るとともに、必要に応じ既存の施設の整備に協力していく。
  3. 安全に係る研修の充実
     原子力発電の計画を有する国に対しては、運転管理、安全規制に係る法制度、安全解析技術及び検査技術、原子力防災に資するモニタリング技術等のための研修活動を充実するとともに、研修設備、解析用計算機等の訓練設備の有効利用等を図る。
  4. 人材確保
     上記活動を実施するための我が国の研修技術の向上、人材の確保、専門家の養成等のため、研修技術研修、シルバー・ボランティア制度等の検討を行う。
Dパブリック・アクセプタンス(PA)、透明性向上及び信頼感醸成のための協力
 原子力PAに関する国際的な環境は、年々厳しくなっており、途上国における原子力開発利用の推進にとっても近年大きな問題となっており、我が国における事象も地域内各国のPAに大きな影響を与えるようになっている。さらに、チェルノブイリ原発事故以降、他国、他地域で起きた事象も各国の国内世論に大きな影響を及ぼすようになってきており、周辺国からは我が国のPAに関する経験や情報のみならず、我が国の原子力施設におけるトラブルに関する情報をも地域内の各国に提供することが求められている。
 また、我が国の原子力政策、原子力関連活動の状況等について積極的に情報を発信するとともに、近隣アジア諸国と双方向の情報交流を進めることは、地域の原子力活動の透明性向上、信頼感の醸成に有効であり、このため、次のような施策により、我が国からの積極的な情報発信、各国との情報交換等を行う必要がある。
  1. PAネットワークの強化
     既存のPAネットワーク(AsiaNNet)の充実を通じて地域内の情報伝達の迅速化を図り、日本で起きた事象に関する正確な情報を速やかに提供するとともに、各国の問題意識に的確に応えられるシステムの確立を目指す。
  2. 知識の普及
     原子力発電や放射線利用に関する正しい知識を普及するための情報提供、ノウハウの移転により、各国の国民の啓蒙に資する。
  3. インターネットの活用
     インターネットを活用し、上記PAに関する情報、広報素材、我が国の原子力開発利用の状況等を各国語ないしは英語で閲覧できるホームページを運営し、積極的な情報発信を図る。

U.中長期を見通した総合的な施策の検討

 アジア諸国は様々な国情を有する国から成っている一方、この多様性は、地域内の相互協力をより意味のあるものとする可能性を有しており、官民を合わせた有機的、多面的な協力関係の構築は、近年益々世界的な広がりを持つエネルギー問題の解決等を通して、地域の安定につながるものと考えられる。
 また、原子力の平和利用は核不拡散を確保しつつ進められなければならないことから、地域内の核不拡散の基盤に対する世界的な信頼度と地域の安全保障環境は、自ずと原子力平和利用の範囲を規定することとなるが、地域内の原子力の開発利用を推進するにあたっては、国際情勢をめぐる様々な環境の変化をも視野に入れつつ、その方策を検討することが求められる。
 アジア諸国の原子力発電の開発については、国毎の開発レベル及び計画が大きく異なり、また今後も、各国のエネルギー事情及び経済事情に大きく左右されることが予想される。一方、我が国からの資機材等の移転に当たっては、輸銀融資、貿易保険による輸出信用制度が既に整備されており、今後、各国の個別具体的な計画の進捗や欧米先進国の動向を踏まえ、必要に応じて原子力発電所建設に向けた我が国企業の協力をはじめとして各種協力が進んでいくものと考えられる。
 しかしながら、近隣アジア各国が安全、核不拡散等を確保しつつ様々な分野で原子力開発利用を継続していくにあたっては、中長期的観点から自立的な研究開発体制を含む総合的な技術・社会基盤の整備・確立が重要であり、地域内の研究開発基盤等の形成と国情等に応じた研究開発等を実施するための、協力方策の検討が必要であると考えられる。
 従って、4.(2)において述べてきた@研究炉、放射線及びラジオ・アイソトープの利用、A放射性廃棄物管理技術等、B核物質管理等、C人材育成、DPA及び透明性向上等原子力開発利用の基盤整備のための各種施策をより効果的、効率的かつ長期的に実施するため、以下の事項を考慮しつつ、アジア地域原子力協力国際会議の下の協力活動の充実、発展について検討していくものとする。

(了)