資料6-4-1


核不拡散と保障措置に関する検討結果

−我が国の取り組みに対する提言−

(要旨)







平成8年4月

核不拡散と保障措置に関する勉強会



1.背景

○昨年5月、核兵器の不拡散に関する条約(NPT)の再検討・延長会議がニューヨークの国連本部において開催され、同条約の無期限延長が決定されるとともに、今後の「再検討プロセスの強化」と「核不拡散と核軍縮のための原則と目標」が決定された。これら一連の決定において、核不拡散、核軍縮及び原子力平和利用に係る国際秩序、いわゆるNPT体制の今後の方向と重点事項が明らかにされている。


○他方、核不拡散を技術的に検認する制度として定着している国際原子力機関(IAEA)の国際保障措置制度に関し、1991年、イラクが秘密裏に行っていた核開発計画が発覚したことを契機に、従来の保障措置制度、すなわち各国の申告に基づく核物質を対象とするIAEAの保障措置活動の限界が明らかになり、未申告活動、未申告施設の探知能力を向上する新しいIAEAの国際保障措置制度の構築が必要となっている。


○最近の核不拡散を巡るこれら国際情勢の急激な変化を踏まえ、原子力平和利用のみを目指す我が国として、これに適切に対応していくことが重要な課題となっている。NPT体制に係る諸課題は、政治、外交、軍事、科学技術等多方面に亘るものであり、各界各層の立場、役割からそれぞれ考察されるべき性格のものであるが、原子力平和利用を行う立場から、これら課題をどのように理解し、どのように取り組むことが我が国の国益を確保し、我が国の国際的役割を果たすことになるのかについて、学識経験者等の検討した結果をとりまとめた。



2.最近の核不拡散を巡る国際動向と我が国の立場

○冷戦構造下の核兵器開発競争、核軍備管理の時代から、冷戦終結後は核軍縮と核不拡散の時代へと変化し、最近は米ロを中心に核軍縮を目指す重要な協議が進展しつつあるが、同時に地域紛争の危険の高まり等を背景として、核拡散に対する懸念が高まっている。


○最近の核軍縮、核不拡散を巡る主要な動きは、以下の通り。

〈戦略兵器削減条約(START)〉
冷戦下の二大国であった米国と旧ソ連の戦略核弾頭及びその運搬手段を削減することを目的とする本条約については、1994年12月START Tが発効し、今後START Uの早期発効が期待される。


〈全面核実験禁止条約(CTBT)〉
核実験を全面禁止することで核兵器の新規開発を困難にすることを目的とする本条約は、核不拡散のみならず、核軍縮の面でも大きな意義を有するものであり、本年中の合意を目指し交渉が行われており、早期完了が期待される。


〈核兵器その他核爆発装置用核分裂性物質の生産禁止条約(カットオフ条約)〉
核兵器国やNPT非加盟国の核兵器生産能力を凍結することを目的とし、1993年クリントン米大統領が提案した本条約は、未だ本格的交渉に入っていないが、その本格開始及び早期締結が期待される。


〈非核兵器地帯条約〉
一定地域内の国々が核兵器の実験、製造等を行わず、地域外の核保有国もこの地域での核兵器の実験、配備等を禁止することを目的とする本条約は、中南米、南太平洋、アフリカ、東南アジアでそれぞれ調印され、朝鮮半島においても非核兵器地帯の実現を目指す動きがある。


〈旧ソ連邦諸国の核兵器解体核の管理〉
旧ソ連時代の戦略核兵器は、ロシア以外にベラルーシ、カザフスタン、ウクライナに配備されていたが、旧ソ連全体の政情不安定等により、これらの国の核物質管理の実態について国際的に懸念が高まっており、これら核物質が適切に管理されるよう、米国、日本等が積極的に協力している。


〈国際保障措置制度の強化策〉
NPT加盟の非核兵器国における未申告活動、未申告施設に関し、IAEAの検知能力を向上させることが国際的要請となっており、IAEAは、1993年から「93+2計画」として具体的内容の検討を進め、昨年IAEA理事会でその結果を各国に提示し、一部は合意されたものの、現在も各国と協議が進められている。


〈我が国に対する海外の懸念〉
我が国が核兵器を保有する可能性について、海外の一部の政治家、学者、ジャーナリスト等が折に触れ、発言、コメントしている。これら発言等は、我が国においては現実感に乏しい根拠のないものと感じることも多いが、そのような懸念が海外に存在することも事実であり、我が国として適切に対応する必要がある。


○これら一連の国際動向に関する我が国の立場は以下の通り。

〈NPT体制全般〉
非核兵器国に対し核兵器の取得等を禁止し、核兵器国に対し、核軍縮の努力を義務付けるいわゆるNPT体制に関し、我が国は被ばく体験を有し、核兵器の究極的廃絶を求める立場及びエネルギー確保の立場から、核不拡散、核軍縮、原子力の平和利用に重要な役割を有するNPT体制の維持、強化は重要な課題であり、1995年12月現在182ヶ国が加盟し、極めて普遍性の高い国際的枠組みとなっている本体制について、その実効が上がるよう積極的に支持、貢献していく必要がある。


〈原子力開発利用の立場〉
我が国は、原子力基本法の精神にのっとり、我が国の原子力開発利用を厳に平和目的に限って推進していくとともに、NPTが
に留意しつつ、我が国としては、世界の核不拡散体制の維持、強化に貢献していくこと及びより普遍性の高いものとすることが重要である。



3.提言

【全般】

〈我が国の平和利用政策の積極的表明〉
我が国は、広島、長崎での被ばく体験を有し、核廃絶が国民的悲願となっており、同時に資源エネルギーに恵まれない我が国は、非核兵器国の中で本格的な核燃料サイクルの構築を目指していることから、核不拡散体制を支える国際機関や国際的な枠組みを積極的に支援するとともに、原子力の開発利用は厳しく平和目的に限っているという日本の基本的立場を国内はもとより、海外に対してもあらゆる機会をとらえて標榜していく必要がある。


〈核不拡散国際研究センター機能〉
我が国の核不拡散政策は必ずしも系統的に検討されておらず、より包括的な総合戦略を立てたうえで国際的に対応していく必要があると考えられることから、核不拡散を巡る諸課題に関し総合的に検討し、核不拡散政策の展開に反映させるため、これらの問題を総合的に検討する場として国際研究センター機能を我が国に設けることが重要である。その際は、外国からの招へい研究者も含めた様々な分野の研究者が必ずしも政府の活動にとどまらず、自主的活動もできる性格を有する機能とすることが重要な視点である


〈原子力委員会への期待〉
我が国の核不拡散、保障措置に係る施策は相互に関連し、国としての政策形成、基本施策の作成等を通じ包括的な総合戦略をたてる必要があり、このためには、我が国の原子力利用政策を決定する原子力委員会が、その立場、役割の範囲において不拡散政策に関し、政策立案、調整機能が期待される。具体的には、原子力委員会の下に本件問題を調査審議する専門部会若しくは懇談会を設けることが期待される。


〈透明性向上・広報〉
社会的アクセプタンス、国際的信頼を得る上で我が国の原子力開発利用の計画、実態等についてより一層透明性を向上することが重要である。また、原子力分野内でも意識の低い核不拡散、保障措置に関し、国内の認識と海外の懸念にすれ違いが生じないよう原子力関係者はもとより一般の方々にも理解してもらうべく広報活動を充実させていくことが必要である。


【軍縮、核不拡散に係る国際動向と我が国の対応】

〈CTBTへの貢献〉
核兵器廃絶という我が国の政策に合致したCTBTは、その実現、実施において精力的、具体的貢献をしていくことが重要である。この条約違反を監視する検証システム、特に核実験から発生する放射性核種の探知に関しては、我が国の技術を生かし、条約に基づいた放射性核種観測ステーションや分析所等の整備を行っていくことが重要である。


〈カットオフ条約と保障措置技術〉
カットオフ条約は、今後国際的に本格的交渉が開始されるものと期待されるが、条約の遵守を検認する措置として保障措置技術の適用が考えられることに留意する必要がある。即ち、保障措置が従来NPTでは非核兵器国が受け入れ義務を負ってきたものであるが、カットオフ条約の検証を考慮すれば、核兵器国等がその対象になるため、我が国としてその点も十分留意し、保障措置技術及び経験を蓄積していくことが重要である。


〈核兵器の解体から生じる核物質の管理〉
核軍縮の過程において、核兵器の解体の結果生じる兵器級プルトニウムや高濃縮ウランについては、発生国が自らの問題として適切に対処して行くべきではあるが、これら物質に関し、適切な管理及び再び核兵器に利用されないよう措置されることが重要であり、米国は既にこれら核物質をIAEAの保障措置の下に置く旨宣言している。また、旧ソ連邦諸国の核兵器の解体から生じる核物質については、その管理上の懸念があり、現在、米国や我が国がそれらを適切に管理するための協力、支援を行っているところであるが、我が国としても引き続き諸外国や国際機関と協調し、長期的な解決方策へ取り組んでいくことが重要である。


【保障措置分野における我が国の国際的取り組み】

〈東アジアにおける我が国の取り組み〉
東アジア地域においては、今後も飛躍的な経済発展が予想されており、それに伴い原子力利用も増大するものと思われる。我が国は、アジアの一員として、これらの国々と歴史的にも地理的にも密接な関係を持っており、これらの国々から、原子力平和利用先進国としての我が国への期待は大きなものがある。核不拡散や保障措置の分野に関しても、地球的見地と同時に地理的見地からも、特にこれらの地域の保障措置体制の構築に資するため、これら地域への協力の充実、強化を図り、他の先進国とも協力しつつ、相互に核不拡散への意識向上を図る努力が重要である。


〈IAEAの施策に対する我が国の取り組み〉
IAEAは、核不拡散を技術的に検認する保障措置の分野において、これまで重要な役割を果たしてきたが、今後ともより一層幅広い分野でその役割を果たすことが国際的に期待されている。我が国としては、従来から、資金面、人材面、技術面で様々な貢献をしてきているところであるが、今後ともその効率的、効果的な支援、協力に配慮しつつ、特に人材及び技術面でより一層具体的貢献を行っていくことが重要である。これら支援、協力は、我が国の核不拡散、保障措置の分野での積極性の意思表示として、我が国に対する国際的評価を高めることになる。


〈IAEA保障措置の強化・効率化方策(「93+2計画」)に対する我が国の取り組み〉
イラクにおける核開発問題、北朝鮮における核開発疑惑等を契機とし、未申告活動、未申告施設に対する検知能力の向上が緊急の課題となり、このためにIAEA国際保障措置の強化総Iな要請となっているところ、我が国としては、IAEAの厳しい財政状況の中、この目的達成のためには限られた資源を最大限に活用して、効果的、効率的に保障措置を実施することが重要であり、この観点から、「93+2計画」の全体的方向性は支持する。
 特に、IAEAの保障措置活動を効果的かつ効率化する観点から、国内保障措置制度との連携強化、新しい技術の開発利用等の分野で積極的に貢献することが重要と考えられ、これらの施策を具体的に実施していくために、我が国の保障措置体制等の整備が不可欠である。
現行保障措置協定の権限を超える第2部の諸方策については、IAEA事務局のこれまでの努力を評価するものの、核物質を取り扱わない原子力関連活動に関する情報提供及びアクセスも対象としており、従来の保障措置と質的に異なる内容が含まれていることから、我が国の原子力開発利用活動への影響の程度等も十分勘案し、慎重な対応が望まれる。ただし、未申告活動等の検知能力を向上させるためには、申告された核物質のみに着目する従来の保障措置の限界も国際的に認識されていることから、我が国としては基本的方向や考え方は支持しつつ、今後、その具体的内容等に関し、費用対効果、実務上の障害等を勘案しつつ、より適切な施策になるようIAEA事務局と引き続き協議する必要がある。


〈我が国の保障措置のあり方〉
我が国の国内保障措置制度は、1977年IAEAとフルスコープ保障措置協定を締結した際に整備されているが、その後我が国原子力開発利用が着実に発展し、その規模、多様性等が増大しているのに比較し、体制的、技術的に成長を遂げているとは必ずしもいえず、IAEA、ユーラトムの査察活動に比べ相対的に力不足である感は否めない。さらに、最近の核不拡散を巡る国際情勢の変化や、「93+2計画」に代表されるIAEA保障措置の今後の方向を考慮すれば、我が国もNPT批准20周年を迎えたこの時期、これら情勢変化に柔軟に対応するため、国内保障措置制度を再構築すべき時期にきていると考えられる。

その際、基本的考え方は、以下の通り。
○保障措置が核不拡散問題の重要な構成要素であることを考慮すれば、核不拡散を巡る国際動向や我が国の政策を踏まえたうえで保障措置戦略を考える必要があり、そのための機能を強化すること。

○IAEAとの協力は今後益々増大すると見込まれるが、我が国として、特に政策面、技術面からIAEAとの交渉能力を高めること。

○国の業務を政策中心にシフトさせることを考慮すれば、保障措置業務の充実、増加に対応するためには、ルーチン的業務に関し、国の業務を代行する制度の導入が不可欠である。

本分野の今後の重要施策は、以下の通り。



〈その他重要事項〉
○プルトニウム利用・管理の透明性向上のための国際的枠組みが、現在関係国間で協議されており、本枠組みは、我が国が進めているプルトニウム利用に関し、透明性の向上に大きく寄与するという観点から意義深いものであり、引き続き我が国が積極的に貢献していくことが重要である。

○核燃料リサイクル利用技術に関し、単に利用技術の確立を目指すだけではなく、長期的観点から核不拡散性の高い技術開発にも取り組むことが重要である。

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