資料第5−6−2号

食品照射国際諮問グループ第13回年次総会の概要


1.食品照射国際諮問グループの沿革

 食品照射国際諮問グループ(ICGFI)は、国連食糧農業機関(FAO)、国際原子力機関(IAEA)及び世界保健機関(WHO)の3国連機関の共同プロジェクトとして、1984年より活動を行っている。
 本プロジェクトは食品照射の実用化を国際的に推進することを目的としており、国際間で流通する照射食品の規格基準作成、消費者の受け入れ促進、国際間貿易での照射食品の流通促進等の活動を行っている。
 ICGFI加盟国(表1)は、現在、45カ国であり、先進国の多くが加盟しているが、わが国は政府としては加盟しておらず、(社)日本原子力産業会議(以下、原産会議)がオブザーバーとして参加している。


2.第13回年次総会の概要

 食品照射国際諮問グループの第13回年次総会が、1996年11月5〜7日の3日間、ポルトガルのリスボンで開催された。本年次総会には25カ国の代表とFAO/WHO合同食品規格委員会、非政府機関のヨーロッパ共同体食品飲料委員会、アメリカ計測材料協会、国際照射産業組合、原産会議の代表53名が参加した。
 本年次総会ではポルトガル代表の歓迎挨拶の後、ICGFIの1996年の活動,1997年以降の活動方針及び予算案、ICGFIプロジェクトの活動期間延長等が事務局より報告または提案され、了承された。
 また、非政府機関代表の挨拶が行われ、原産会議代表からも日本における食品照射を巡る最近の動きについての報告が行われた。

 本年次総会の概要は以下のとおりである。
 1.照射食品の流通の状況
 照射された香辛料はヨーロッパ、米国など世界各国で流通しており、ドイツ等のように食品照射実用化に消極的な国にも流通している。香辛料以外の照射食品も流通しはじめており、照射済みの表示を義務づける必要があるとの意見が多く出された。

 2.臭化メチル代替法としての食品照射
 オゾン層破壊原因物質の臭化メチルによる薫蒸の代替法として放射線処理法を導入する活動方針が事務局より提案された。米国では臭化メチルに代わる検疫手段として放射線処理法を重視しており、農務省は規格基準を作成した。
(モントリオール議定書締約国会議では臭化メチルの使用を2010年に全面禁止することが決議されており、米国では2000年に全面的に禁止することになっている。)
 なお、本年次総会では臭化メチルばかりでなく多くの化学薬剤にも多くの問題があ り、薬剤処理の代替法として食品照射を位置づけるべきであるとの意見も多く出された。

 3.食中毒防止対策としての食品照射
 国際的に病原大腸菌O-157やサルモネラ菌等による食中毒が急増しており、食中毒対策として食品照射を重視する必要があることが本年次総会で討論された。米国では病原大腸菌O-157対策として牛肉等の赤身肉の照射を近く許可する予定との報告があった。

 4.高線量照射食品の健全性評価
 WHO事務局は1997年9月に70kGyまでの高線量照射食品の健全性評価のための専門家会議を召集し、毒性学的安全性及び微生物学的安全性について検討し安全宣言を行う予定であると報告した。毒性学的データはほぼそろっており、微生物学的データもそろっており、一部の放射線分解生成物についても近くドイツにおける細胞毒性試験(変異原性試験の一種)の結論が出る予定であり、そのデータも入れて討論する予定とのことである。なお、制動放射X線の上限エネルギーを5MeVから7.5MeVに上げる件については別機関で検討するとのことである。

 5.照射食品の国際流通推進のためのワークショップ
 1995年に開催された照射食品の国際流通推進のためのワークショップには23カ国が参加し、GATT条約による国際間貿易での照射食品の流通促進について討論されたとの報告があった。途上国からは農産物の輸出の検疫処理に放射線処理を使用したいとの要望が多く出された。



3.各国における食品照射実用化の現状(総会参加者からの報告)

〈欧州〉
 食品照射を大規模に実用化しているフランス、ベルギー、オランダについては処理量を公表していないため正確な量は不明だが、数万トンの香辛料がヨーロッパ共同体の中で流通しており、冷凍魚介類、鶏肉のサルモネラ菌殺菌処理も実用化されている。なお、かってフランスで行われていた骨抜き冷凍鶏肉の電子線殺菌処理施設は現在のところ操業が停止しているが、これは加速器の問題でなく火災などのトラブルが原因とのことである。
 東ヨーロッパ諸国ではハンガリー以外は実用化は活発でないが、正確な情報は得られていない。

〈北米〉
 米国では香辛料の大量処理を行っており、公表されている量は年間約30,000トンである。また、ハワイ産などの照射された熱帯果実の市場試験を頻繁に行っており、消費者の反応も良好とのことである。カナダでも食品照射の実用化が進展しており、香辛料などが約5,000トン照射されている。

〈アジア〉
 アジアでは中国における食品照射実用化が急速に進展しており、ニンニクの発芽防止のための照射が年間41,000トンに達し、一部は輸出されている可能性がある。また、香辛料や乾燥野菜も約3,000トン照射されており、焼酎の熟成促進、ハムの保存期間延長などの目的で約5,000トン以上照射されている。中国ではコバルトー60の照射施設が約50以上あり(計800万キュリー以上)、多くの施設が食品照射に使用されている。さらに、上海照射センターでは輸入穀類の試験照射を開始するとのことである。韓国では17品目が許可されているが、実用化されているのは10品目であり、主に香辛料等が1,300〜4,000トン照射されている。タイでは照射された発酵ソーセージや香辛料がバンコック市内で流通しており、照射量は約200トンである。インドネシアやインドでも香辛料の実用照射が行われており、照射量は1,000〜1,500トンに達していると思われる。

〈アフリカ〉
 南アフリカでは香辛料など17品目が許可されており、約10,000トンが照射されている。

〈中東〉
 イスラエルでは香辛料や軍用食が実用照射されており、1,200トン照射されている。


【表1 ICGFI加盟国リスト】
アルゼンチン、オーストラリア、バングラデシュ、ベルギー、ブラジル、ブルガリア
カナダ、チェコ、チリ、中国、クロアチア、コスタリカ、韓国、キューバ、
コートジボアール、エクアドル、エジプト、フランス、ドイツ、ガーナ、ギリシャ、
ハンガリー、インド、 インドネシア、イラク、イスラエル、イタリア、マレイシア
メキシコ、オランダ、ニュージーランド、パキスタン、ペルー、フィリピン、
ポーランド、ポルトガル、シリア、南アフリカ、タイ、トルコ、ウクライナ、
イギリス、米国、ベトナム、ユーゴ