資料第5−5−3号


輸血によるGVHD予防のための血液に対する放射線照射の状況



1.GVHDについて

(1)輸血後GVHD(Graft-Versus-Host Disease:移植片対宿主病)は、輸血用血液中に含まれる供血者のリンパ球が排除されず、むしろ患者の組織適合抗原(HLA)を認識し、急速に増殖して、患者の体組織を攻撃、傷害することによって起きる病態である。以前は、免疫不全の患者にのみ発症すると考えられていたが、原病に免疫不全のない患者でもHLAの一方向適合を主要な条件として発症することが明らかになっている。輸血後GVHDに対して有効とされる治療法は未だ確立されていないので、発症予防が唯一の対策方法である。

(2)日本人の場合、諸外国と違って民族的に均質性が高いため、HLA抗原の多様性が小さく、このため不適合を示す確率が1/350〜600とかなり高いものになっており、平成4年の日本赤十字社(以下、日赤)による調査では、それまで5年間で171件の発症例があったとされている(1人を除き全員死亡)。また、最近4年間でも年間約10例が報告されている。

(3)現在、我が国全体で年間約800万バック(この内、GVHDと関連の低い新鮮凍結血漿は約300万バック)の輸血血液が使用されており、GVHDの予防方策が求められてきたところである。

2.GVHD予防技術の現状について

(1)
 現在、GVHDの予防技術としては放射線照射が最も有効なものとして用いられており、以下の現状にある。
 1)
 日赤では、平成5年より、全国74ヶ所の血液センターにおいて、我が国で開発され たX線2門照射装置により15〜50Gyの照射が行っている(これにより抗原をもつリンパ球はほぼ完全に不活化される)。また、そのうち4ヶ所では137Cs線源による照射も行われている。
 2)
 照射装置のない病院は、日赤と血液照射協力の契約を行い、個別にその照射協力を受けて照射血液を使用している。
しかし、現在、照射血液の製造は薬事法上の製造承認が必要で、日赤では医療機関からの依頼によらず事前照射を行うことはできない。なお、大学病院等の中には独自に 137Cs、60Co、リニアック等による照射を行っているところも少なくない。
 3)
 このうち、X線照射については現在の装置では作業効率が悪く、装置当たりの照射血液数量の増加は困難である。また、137Cs線源は仏、独及びカナダからの輸入によるが、このうち仏しか使用済線源の回収を行っておらず、輸入は年間数台に限られるという問題点がある。また、60Co線源はエネルギーが高く血液パック表面での線量が上昇するため照射作業に手間がかかる等の問題点がある。これらの事情から、現在は輸血血液全体の2〜3割しか照射が行われていない状況にある(日赤に限ると平成8年10〜12月は供給血液の約8%)。

(2)
 GVHDの予防技術として、放射線照射以外には以下の方法があるが、それぞれ問題点があり、実用化は進んでいない。
 1)
 フィルター濾過法
 白血球除去フィルターにより血液中のリンパ球を取り除くもので、これにより1/10〜10までリンパ球の除去が可能であるが、完全な除去は行えず、フィルター使用例での発症もある。
 2)
UV照射法
紫外線照射によりリンパ球を不活化するものであるが、透過率が悪く赤血球には使えず、照射も均一に行われないこと、その遺伝子に対する影響が正確に分かっていないといった問題点がある。

3.GVHD予防への学会及び行政の取り組みについて

(1)
 GVHD予防のため、平成8年12月、日本輸血学会(会長:湯浅晋治順天堂大教授)は放射線照射の方法について定めた平成4年1月策定のガイドラインの改訂案を策定し、適用症例の拡大等を行った。また、今後の課題として、1)各機関における放射線照射体制の整備と日赤による照射血液の製造承認要請 2)輸血用血液に対する放射線照射の安全性の再評価を提示した。

(2)
 かかる状況に鑑み、平成8年12月、厚生省の諮問機関である中央薬事審議会副作用調査会(座長:高橋隆一国立東京第2病院院長)は、輸血用血液への放射線照射を徹底するよう、日赤や厚生省に指摘した。
 厚生省は既に平成8年4月、各医療機関に対し緊急安全性情報を出して注意喚起を促していたが、同調査会の指摘を踏まえ、1)輸血適応確認の厳密な実施 2)放射線照射によるGVHDの防止 3)自己輸血の実施考慮 等を盛り込んだ緊急安全性情報を各医療機関に連絡したところ。また、平成9年1月、厚生省は、血日本輸血学会が改訂したガイドラインについて、各都道府県、関係省庁、医療関係団体に対してその周知を図った。