超ウラン核種を含む放射性廃棄物

処理処分の基本的考え方について

(案)

 

 

 

平成11年11月30日
原子力委員会
原子力バックエンド対策専門部会

 


目次

はじめに

第1章 超ウラン核種を含む放射性廃棄物処分に関する安全確保の考え方
1.超ウラン核種を含む放射性廃棄物の発生の現状と将来の見通し
(1)JNCにおける発生の現状と見通し
(2)海外からの返還について
(3)民間施設における発生の見通し
(4)廃棄物発生量試算について

2.対象廃棄物の特徴
(1)対象廃棄物の発生形態と処理について
(2)対象廃棄物中の核種構成について
(3)原子炉施設から発生する低レベル放射性廃棄物との核種構成の比較について
(4)対象廃棄物の核種濃度分布について

3.対象廃棄物の処分方策の検討に当たっての考え方
(1)放射性廃棄物処分の基本的考え方
(2)我が国でこれまでに検討されてきた処分方法
(3)対象廃棄物の処分方法の考え方

4.既存の低レベル放射性廃棄物の処分方法での処分の可能性について
(1)浅地中のコンクリートピットへの処分の可能性について
 ①浅地中のコンクリートピットへの処分について
 ②対象廃棄物への適用について
(2)一般的であると考えられる地下利用に対して十分余裕を持った深度(例えば50~
  100m)への処分の可能性について
 ①処分の基本的考え方について
 ②対象廃棄物への適用について

5.既存の低レベル放射性廃棄物の処分概念で処分ができないと考えられる対象廃棄物の
  処分の基本的考え方
(1)基本的考え方について
(2)高レベル放射性廃棄物の地層処分との相違点について
(3)海外との比較について

6.地層処分の検討対象とした廃棄物について
(1)地層処分の検討対象とした廃棄物の範囲
(2)地層処分の検討対象とした廃棄物の放射性核種の種類及び濃度
(3)地層処分の検討対象とした廃棄物の特徴

7.地層処分の処分施設概念
(1)処分施設概念の検討に当たっての考え方
(2)廃棄体のグルーピングについて
(3)人工バリアの基本構成について
(4)処分施設について

8.地層処分の安全性について
(1)安全性の検討について
(2)地下水移行シナリオにおいて考慮すべき現象について
(3)地下水移行シナリオによる被ばく線量の試算結果について

9.まとめ

10.技術開発課題について

第2章 α核種濃度が一応の区分目安値を超えるRI・研究所等廃棄物について
1.研究所等廃棄物として発生するもの
2.RI廃棄物として発生するもの
3.処分の基本的考え方について

第3章 処分事業の責任分担の在り方、諸制度の整備などについて
1.責任分担の在り方と実施体制
2.処分費用の確保
3.安全確保に係わる関係法令等の整備
4.実施スケジュール
5.技術開発課題への取組みについて
6.積極的な情報公開、情報提供

終わりに

 

参考資料

 


 はじめに

 原子炉施設の運転の結果生じる使用済燃料は、再処理施設において処理され、プルトニウム等の核燃料物質が抽出される。抽出された核燃料物質は、ウラン-プルトニウム混合酸化物燃料(以下「MOX燃料」という。)の成型加工施設(以下「MOX燃料加工施設」という。)において原子炉施設で再度燃料として使用できるように加工される。これらの施設から、その運転・解体に伴い放射性廃棄物が発生する。
 これらの放射性廃棄物中の放射性核種は使用済燃料に含まれていたものであり、具体的には、燃料であるウラン等の核分裂により生成した核種、ウラン等が中性子を吸収して生成した超ウラン核種及び燃料を被覆している金属材料等が中性子等の放射線によって放射化された核種が存在する。廃棄物中の放射性核種濃度は、放射性物質が付着した紙タオル等のような低いものから、使用済燃料を切断して硝酸に溶解した後の被覆管の断片等(以下「ハル・エンドピース」という。)といった比較的高いものまで、幅広い範囲に及んでいる。この廃棄物の放射性核種濃度は、原子炉施設から発生する低レベル放射性廃棄物に関する「現行の政令濃度上限値」1)と比較すると、これを下回る濃度から数桁程度上回る濃度まで幅広く分布している。
 現在、我が国では、このような放射性廃棄物は核燃料サイクル開発機構(以下「JNC」という。)の東海再処理工場及びMOX燃料加工施設の運転に伴い発生しており、それぞれの貯蔵施設内に保管されている。現在建設中である日本原燃(株)の再処理施設からも、運転開始に伴い同様の廃棄物が発生することとなる。将来的には、これらの施設の解体によっても廃棄物が発生する。また、海外での再処理委託に伴い発生した廃棄物も、将来我が国に返還される予定である。さらに、「RI・研究所等廃棄物」2)には、α核種濃度約1GBq/t(以下、「一応の区分目安値3)」という。)を超える放射性廃棄物が存在しており、これらについては、超ウラン核種を含む放射性廃棄物の処分方策に準じて基準等の整備を順次実施する必要があるとされている。
 これらの廃棄物については、これまで処分方策が確立されておらず、その処分制度は整備されていない。このため、上述のような廃棄物の発生状況に鑑み、廃棄物の安全かつ合理的な処分方策を確立するとともに諸制度の整備を図るための具体的な取組みを着実に進める必要がある。
 このような状況を踏まえ、原子力バックエンド対策専門部会は、「再処理施設及びMOX燃料加工施設の運転・解体に伴い発生する超ウラン核種を含む放射性廃棄物」及び「RI・研究所等廃棄物のうち一応の区分目安値を超える放射性廃棄物」を対象として、既存の処分方策を参考にしつつ、その特徴を踏まえた安全かつ合理的と考えられる処分の基本的考え方について検討を行った。  第1章では、再処理施設及びMOX燃料加工施設から発生する超ウラン核種を含む放射性廃棄物について検討を行った。この結果を踏まえて、第2章では、RI・研究所等廃棄物のうち一応の区分目安値を超える放射性廃棄物について検討した。第3章では、処分事業の責任分担及び諸制度等について検討を行った。
 なお、本報告書を読まれる方の便に供するため、巻末に参考資料及び関連する用語の解説を添付した。

1) 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律施行令第13条の9に規定された濃度
2) これらの廃棄物の処分方策は、「RI・研究所等廃棄物処理処分の基本的考え方」原子力委員会(平成10年5月28日)に示されている。
3) α核種濃度約(現行の政令濃度上限値と同じ値)。超ウラン核種を含む放射性廃棄物のうち、浅地中処分の可能性がある放射性核種濃度上限値の一応の目安値として「TRU核種を含む放射性廃棄物の処理処分について」原子力委員会(平成3年7月30日)に示されている。

第1章 超ウラン核種を含む放射性廃棄物処分に関する安全確保の考え方
1.超ウラン核種を含む放射性廃棄物の発生の現状と将来の見通し
(1)JNCにおける発生の現状と見通し
 我が国では、JNCの東海再処理工場において、使用済燃料のせん断・溶解に伴って発生するハル・エンドピース等の廃棄物や、再処理の様々な工程から発生するプロセス濃縮廃液等の液体状廃棄物、あるいは、施設の保守作業等により放射性物質が付着した機器類、紙タオル、ゴム手袋等の固体状廃棄物が発生している。また、MOX燃料加工施設の運転に伴ってグローブボックスの構成部品、紙タオル、ゴム手袋等の様々な固体状廃棄物が発生している。現在、これらの廃棄物の一部は、焼却あるいは溶融等の処理が行われているが、未処理のまま貯蔵施設に保管されているものも多い。これらの平成10年3月までの発生量は、処理されているものが200㍑ドラム缶で約3万2千本(6千4百m)、未処理のものが約1万3千mとなっている。今後もこれらの施設の運転に伴って放射性廃棄物が発生するとともに、将来施設が解体されれば、金属、コンクリート等の放射性廃棄物が発生することとなる。
(参考資料―1,2)

(2)海外からの返還について
 我が国の電気事業者は、使用済燃料約7千百tUの再処理を、英国核燃料会社(BNFL)及び仏国核燃料会社(COGEMA)に委託している。再処理委託契約上、再処理の結果発生する放射性廃棄物は、輸送、貯蔵に適した形態で我が国に返還されることとなっている。現在、廃棄物の返還時期及び返還量について、事業者間で調整が行われているところである。

(3)民間施設における発生の見通し
 今後、我が国で発生する使用済燃料は日本原燃(株)が現在建設を進めている再処理施設において再処理することが計画されており、将来的には民間のMOX燃料加工施設の建設も検討されている。これらの施設からも超ウラン核種を含む放射性廃棄物が発生することとなる。

(4)廃棄物発生量試算について
 超ウラン核種を含む放射性廃棄物の発生量として、「わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性-地層処分研究開発第2次取りまとめ-」(以下「第2次取りまとめ」という。)において用いられている高レベル放射性廃棄物のガラス固化体の規模を準用し、これが発生する再処理施設の操業、MOX燃料加工施設の操業を行った場合を想定した。また試算には、海外からの返還廃棄物を含めるとともに、JNCの東海再処理工場及びMOX燃料加工施設の主要な施設の解体を想定し、解体に伴い発生する放射性廃棄物も含めることとした。この結果、これらの廃棄物を減容・固形化し廃棄体4)とした場合の累積廃棄体量は、約5万6千mになると推定される(以下「対象廃棄物」という)。なお、このうち約80%は、再処理施設の運転に伴い発生するものと予想される。
(参考資料―3)

4) 減容・安定化処理等の後、容器へ固形化された廃棄物。処理方法としては圧縮、焼却、溶融等、容器としては200㍑ドラム缶等、固型化方法としては、アスファルトやセメント系材料等による充填固化等が想定されている。

2.対象廃棄物の特徴
(1)対象廃棄物の発生形態と処理について
 対象廃棄物としては、施設の運転に伴い発生する使用済フィルター、使用済の硝酸を中和・濃縮した廃液等のほかに、施設の保守・解体に伴い発生する紙タオル、ゴム手袋、金属やコンクリート等、物理・化学的性状が様々な可燃・難燃・不燃性廃棄物が発生する。
これらの廃棄物は減容・安定化の観点から処理されるが、具体的には、これまでJNCにおいてはプロセス濃縮廃液のアスファルト固化5)といった処理が行われてきた。今後、国内の再処理施設及びMOX燃料加工施設から発生する廃棄物の処理としては、国内外の固型化方法を参考に、プロセス濃縮廃液については乾燥・造粒(ペレット化)後にセメント固化、ハル・エンドピースについては圧縮後にキャニスターに収納、可燃・難燃・不燃廃棄物については焼却又は溶融後にセメント固化が想定されている。
(参考資料-4)
(2)対象廃棄物中の核種構成について
 再処理施設の運転・解体に伴い発生する対象廃棄物は使用済燃料を発生起源とするものであることから、これに含まれる放射性核種は、燃料の核分裂により生成するストロンチウム90(90Sr)、テクネチウム99(99Tc)、ヨウ素129(129I)、セシウム137(137Cs)等の核分裂生成物、及び燃料が中性子を吸収することにより生成するプルトニウム239(239Pu)、プルトニウム241(241Pu)、アメリシウム241(241Am)等の超ウラン核種が主なものである。その他、使用済燃料集合体の構成材料(ステンレス、ジルカロイ等)の放射化により生成する炭素14(14C)、コバルト60(60Co)、ニッケル63(63Ni)等の放射化生成物も含まれている6)。また、MOX燃料加工施設の運転・解体に伴い発生する対象廃棄物に含まれる放射性核種は主としてウランとプルトニウムの同位体(235U,238U,239Pu,241Pu等)である。
(参考資料-5)

5) アスファルトを濃縮廃液と混合し、廃液中の固形分を微粒子にして分散・固化させる方法。分散・固化の段階で水分は蒸発する。
6) これらの核種のうち14C,60Co,63Ni,90Sr,99Tc,,137Cs,が核種であり、239Pu,241Amはα核種である。


(3)原子炉施設から発生する低レベル放射性廃棄物との核種構成の比較について
 上記の核種は、原子炉施設から発生する低レベル放射性廃棄物にも含まれるが、主な核種はβγ核種である14C,60Co等の放射化生成物となっている。これに対し、対象廃棄物は、核分裂生成物あるいは超ウラン核種が主な核種となっており、外部被ばくよりも内部被ばくによる影響が大きくなるα核種が比較的多く含まれているという特徴がある。
(参考資料―6)

(4)対象廃棄物の核種濃度分布について
 再処理施設の運転・解体に伴い発生する放射性廃棄物の核種濃度は、ハル・エンドピースのように放射性物質の付着が多くかつ放射化の程度も大きいため、廃棄物に含まれる放射性核種の濃度が比較的高くなるものから、放射性物質の付着が少ないため廃棄物に含まれる放射性核種の濃度が比較的低くなるものまで幅広く存在する。また、MOX燃料加工施設の運転・解体に伴い発生する放射性廃棄物についても、放射性物質の付着の程度により、廃棄物に含まれる放射性核種の濃度は幅広い範囲に及ぶこととなる。これらの放射性核種の濃度を現行の政令濃度上限値と比較すると、これを下回る濃度から数桁上回る濃度まで幅広い範囲に分布している。
(参考資料―5、7)

3.対象廃棄物の処分方策の検討に当たっての考え方
(1)放射性廃棄物処分の基本的考え方
 放射性廃棄物の処分に当たっては、廃棄物に含まれる放射性核種が生活環境に対して影響を及ぼすことを防止することが必要であり、このためには、処分方法に適した形態に処理した後、放射性物質(放射線)の影響が安全上支障のないレベルになるように処分することが基本となる。したがって、処分の方法は、廃棄物の性状、特にこれに含まれる放射性核種の種類及び濃度を考慮して設定する必要がある。

(2)我が国でこれまでに検討されてきた処分方法
 放射性廃棄物の処分については、これまで原子炉施設から発生する低レベル放射性廃棄物と高レベル放射性廃棄物を中心に、上記(1)の基本的考え方に沿って検討が進められ、方針が示されてきた。
 現在までに示されている処分方法は、原子炉施設の運転に伴い発生し放射性核種濃度が現行の政令濃度上限値7)以下の低レベル放射性廃棄物(以下「現行の低レベル放射性廃棄物」という。)について、「コンクリートピット等の人工構造物を設けない簡易な方法による浅地中処分(素掘り処分)」8)及び「浅地中のコンクリートピットへの処分」9)がある。また、βγ核種濃度が現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物(以下、「現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物」という。)についての処分方法として、「一般的であると考えられる地下利用に対して十分余裕を持った深度(例えば50~100m)への処分」(以下、「地下利用に余裕を持った深度への処分」)がある。
(参考資料―8、9)
 高レベル放射性廃棄物の処分方法は、ガラス固化体を地下数百mより深い地層中あるいは岩体中に隔離する地層処分を基本方針としている。現在、地層処分に関しては、JNCを中心として地下深部の岩石や地下水についての調査・研究、地下深部で処分を行うための技術開発及び処分の安全性を評価するための研究が進められている。なお、通商産業大臣の諮問機関である総合エネルギー調査会原子力部会において処分費用の合理的積算、資金確保制度の整備、実施主体の在り方など処分事業の具体化に向けた検討が行われている10)
7) 原子炉施設から発生し処分容器に固形化された放射性廃棄物を、コンクリートピット等の人工構築物を用いた処分施設を設置して浅地中処分する場合等の濃度上限値。全α核種濃度とβγ核種5核種について、濃度上限値が定められている。
8) 日本原子力研究所の動力試験炉(JPDR)の解体に伴って発生した廃棄物のうち、放射性核種濃度が極めて低いコンクリートについて、埋設実地試験を実施中。
9) 日本原燃(株)六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターにおいて実施中。
10) 「総合エネルギー調査会原子力部会中間報告書-高レベル放射性廃棄物処分事業の制度化のあり方-」(平成11年3月23日)が取りまとめられている。

(3)対象廃棄物の処分方法の考え方
 対象廃棄物は、前述のように性状が多様であるのみならず、超ウラン核種を比較的多く含みその放射性核種の濃度は幅広い範囲に分布している。したがって、対象廃棄物については、放射性廃棄物処分の基本的考え方を踏まえ、放射性核種の濃度等により適切に区分し、その区分に応じた合理的な処理・処分を検討する必要がある。
 他方、我が国においては、放射性廃棄物について(2)で示した処分方法が既に提示されている。廃棄物対策全体としては、共通の性状を有するものについては共通の処分概念に集約することにより、廃棄物処理処分の計画から実施に至る実務や規制の煩雑さを避けることができ、安全確保の実効性を高めることができると考えられる。また、異なる施設から発生する廃棄物についても、処分概念を共有することが可能になれば、処分費用などの点で一層合理的な対応ができるようになると考えられる。
 このような観点から、対象廃棄物についてもこれまで示されてきている処分方法の適用可能性を検討することとした。

4.既存の低レベル放射性廃棄物の処分方法での処分の可能性について
(1)浅地中のコンクリートピットへの処分の可能性について
 ①浅地中のコンクリートピットへの処分について
 現行の低レベル放射性廃棄物の処分は、国による安全規制の下、既に日本原燃(株)六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターで実施されている。安全確保策としては、地下数mへ放射性核種閉じ込め機能を持った処分施設(コンクリートピット)を設置し、放射性核種の濃度の減少を考慮して300~400年間処分場を管理するなどの対策を講じることとなっている。(参考資料-8)

 ②対象廃棄物への適用について
 現行の低レベル放射性廃棄物を浅地中のコンクリートピットへ処分するに当たっては、処分を実施するために評価すべき代表的なβγ核種5核種(14C、60Co、63Ni、90Sr、137Cs)の濃度及び全α核種の濃度について政令濃度上限値が定められている。対象廃棄物のうちこれらの濃度を下回るものについては、浅地中のコンクリートピットへ処分することができるものが含まれると考えられる。
ただし、現行の政令濃度上限値は、原子炉施設から発生する低レベル放射性廃棄物を対象に定められたものであることから、主として核分裂生成物と超ウラン核種を含む対象廃棄物については、政令濃度上限値が定められていない核種についても、被ばくの影響について検討する必要がある。そこで、対象廃棄物に含まれる放射性核種について、現行の政令濃度上限値が導出された方法と同様の方法により政令濃度上限値相当の濃度を算出し考慮すべき核種を選定した。その結果、前述の5核種以外に、対象廃棄物において考慮すべきβγ核種として2核種(99Tc、129I)を選定した。
(参考資料―10)

 その上で、α核種の一応の区分目安値、βγ核種の政令濃度上限値及びこれ相当の濃度を目安として対象廃棄物を区分し、これらの濃度を下回るものを対象11)に被ばく線量の試算を行った。具体的には、浅地中のコンクリートピットへの処分における現行の政令濃度上限値を設定する際に試算した、放射性核種の地下水移行に伴う被ばく、処分場跡地利用による被ばく等について試算を行った。
 試算結果は、(対象廃棄物の約4割)の廃棄体が10μSv/y(以下「目安線量」という。)12)を下回ることとなった。したがって、浅地中のコンクリートピットへの処分は原子炉施設から発生する低レベル放射性廃棄物を対象に検討が行われたものであるが、対象廃棄物の中にも浅地中のコンクリートピットへの処分が可能なものが比較的多く存在すると考えられる。
(参考資料-11)

11) 対象廃棄物の発生量に関する今回の試算では、素掘り処分の対象となりうる廃棄物量は少ないと考えられるため、このような廃棄物も浅地中のコンクリートピットへの処分の対象として検討した。なお、対象廃棄物に関するクリアランスレベルは現在検討されていないため、今回の試算においては考慮していないことに留意する必要がある。
12) 浅地中のコンクリートピットへの処分における被ばく線量は、原子力安全委員会において、管理期間経過後の一般公衆が受ける被ばく線量が「被ばく管理の観点からは管理することを必要としない低い線量」である10μSv/yを超えないことを目安としている。


(2)一般的であると考えられる地下利用に対して十分余裕を持った深度(例えば50~100m)への処分の可能性について
 ①処分の基本的考え方について
 本専門部会は、現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物について、既に処分の基本的考え方13)を示している。これは、廃棄物を安全かつ合理的に処分するためには、一般的であると考えられる地下利用に対して十分余裕を持った深度(例えば50m~100m)へコンクリートピットと同等以上の放射性核種閉じ込め機能を持った処分施設を設置し、放射性核種の濃度の減少を考慮して数百年間処分場を管理するなどの対策を講じるというものである。

 ②対象廃棄物への適用について
 対象廃棄物には、現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物と比べて、α核種濃度は高いもののβγ核種濃度は低いものが存在する。これらのうち、α核種濃度が一応の区分目安値を大きく超えないもの14)については、地下利用に余裕を持った深度への処分を適用できる可能性があると考えられる。
 そこで、α核種濃度が一応の区分目安値を大きく超えないものについて、被ばく線量の試算を行ってみた。具体的には、本専門部会が現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物について処分の可能性を検討する際に試算した、(a)管理期間経過後の放射性核種の地下水移行に伴う被ばく、(b)一般的であるとは考えられない(頻度が小さい)事象である地下利用に伴う調査として行われるボーリングコアを観察することに伴う被ばくについて試算を行った。この際には、現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物と比べてα核種濃度が高いという特徴を念頭において検討した。
 この結果、(a)管理期間経過後の放射性核種の地下水移行に伴う被ばく線量は、天然バリアがα核種を吸着しやすいことにより目安線量を十分に下回ることとなった15)。また、(b)一般的であるとは考えられない(頻度が小さい)事象として地下利用に伴う調査として行われるボーリングコアを観察することに伴う被ばく線量は16)、一定の仮定17)をおいて試算したところ、数十μSvのオーダーとなった。このため、このような行為により安全上問題となるような被ばくが起こる可能性はないと考えられる。
 さらに、対象廃棄物のうちα核種濃度が一応の区分目安値を大きく超えないものについて、α核種が内部被ばくへの寄与が大きく半減期が長いことを考慮して、現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物との比較を試みた18)。その結果、被ばくに寄与する核種の種類は両廃棄物で異なるものの、管理期間経過後の減衰の傾向は両廃棄物で同様となった。
 これらのことから、対象廃棄物のうちα核種濃度が一応の区分目安値を大きく超えないものについては、現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物と被ばくへの影響が同程度になると考えられることから、地下利用に余裕を持った深度への処分を適用できる可能性があると考えられる。
(参考資料-12)

13)「現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物処分の基本的考え方について平成10年10月」。
14) 全α核種濃度が一応の区分目安値を下回る廃棄体のうち、浅地中のコンクリートピットへの処分における被ばく線量の試算結果が目安線量を超えるものと、全α核種濃度が一応の区分目安値を超える廃棄体のうち、一例として平均濃度が数GBq/t(最大濃度で数十GBq/t)の範囲までのものについて試算を行った。
15)「廃銀吸着材」を除く。
16) α核種の特徴を考慮して、ボーリングコアを観察することに伴い外部被ばくに加えて内部被ばくも生じることを想定。
17) 文献を参考に、ボーリングコアの寸法、観察時間、空気中の粉塵濃度など試算に必要な値を仮定。
18) 具体的には、α核種及びβγ核種による影響を同時に評価する1つのモデルとして「もしも浅地中コンクリートピット処分を行ったら跡地利用に伴う被ばく線量はどうなるか」という試算を行うことで両者の比較を行った。


5.既存の低レベル放射性廃棄物の処分概念で処分ができないと考えられる対象廃棄物の処分の基本的考え方
(1)基本的考え方について
 対象廃棄物のうち、α核種濃度が一応の区分目安値を大きく超えないものについては、以上検討してきたように、地下利用に余裕を持った深度への処分を適用することが可能であると考えられる。一方、α核種の濃度が数千GBq/tであるハル・エンドピースのように、その放射性核種濃度が十分減衰するまでに長期間を要する廃棄物については、人間の生活環境から長期間隔離しておくことが必要であると考えられる。この条件を満足する既存の処分概念としては、「人間の生活環境から十分離れた安定な地層中に、適切な人工バリアを構築することにより処分の長期的な安全性を確保する地層処分」が考えられる。このため、既存の低レベル放射性廃棄物の処分方法が適用できないと考えられる対象廃棄物については、その廃棄物の性状を十分踏まえた地層処分について検討することとした。

(2)高レベル放射性廃棄物の地層処分との相違点について
 対象廃棄物の地層処分の検討に当たっては、高レベル放射性廃棄物の地層処分についての検討結果を踏まえつつ進めるが、対象廃棄物は高レベル放射性廃棄物と比べ放射性核種濃度が低いという特徴のほかに、発熱が小さい、物理的・化学的特性などの性状や放射性核種濃度が多様であるという特徴がある。したがって、対象廃棄物の地層処分を検討していくに当たっては、これらの特徴を十分考慮することが必要である。

(3)海外との比較について
 諸外国の中で再処理を行っている国においては、例えばα核種濃度として約4GBq/tを区分値として浅地中処分と地層処分の2つの処分概念が選定されているところが多く、我が国の地下利用に余裕を持った深度への処分に対応する処分方法を適用している国はない。
我が国においては、浅地中のコンクリートピットへの処分、地下利用に余裕を持った深度への処分、及び地層処分のいずれかの処分方法を選定することとなり、対象廃棄物については、α核種濃度及びβγ核種濃度について各々の処分方法に応じた適切な核種濃度区分を検討する必要があると考えられる。
(参考資料-13)

6.地層処分の検討対象とした廃棄物について
(1)地層処分の検討対象とした廃棄物の範囲
 地層処分の検討を行う廃棄物の範囲は、対象廃棄物(約5万6千のうち、①α核種濃度が一応の区分目安値(約1GBq/t)を超えると考えられる全ての廃棄物19)に加え、②β核種である129Iの濃度が高い廃棄物(以下「廃銀吸着材」20)という。)の合計約1万8千mとした。(参考資料―14)
 ①に相当するものとしては、再処理施設から発生する対象廃棄物のうち、ハル・エンドピース、放射性核種濃度が高い工程から発生するプロセス濃縮廃液、それらの工程部分を解体することにより発生する廃棄物など、また、MOX燃料加工施設から発生する対象廃棄物のうち、施設の運転に伴い発生する全てのものと解体に伴い発生するものの一部である。
 ②の廃銀吸着材は、α核種はほとんど含まないが、半減期が長いβ核種である129Iの濃度が高い。129Iは、天然バリアへの吸着性が小さいため地中を移行しやすいと考えられることから、廃銀吸着材も地層処分の検討の対象とすることとした。
19) α核種濃度が一応の区分目安値を超える廃棄物の一部については、地下利用に余裕を持った深度への処分の適用可能性があると考えられるが、現時点ではこの処分方法に対するα核種濃度上限値が決定していないことから、α核種濃度が一応の区分目安値を超える廃棄体を全て地層処分の検討対象とした。
20) 使用済の銀吸着材。銀吸着材は、再処理工程において使用済燃料のせん断、溶解に伴いガスとして発生する放射性ヨウ素を吸着除去するためフィルターとして使われている。


(2)地層処分の検討対象とした廃棄物の放射性核種の種類及び濃度
 対象廃棄物のうち、地層処分の検討対象としたものは、α核種濃度が一応の区分目安値を若干超えるものから数千GBq/tに及ぶものまで幅広い範囲に及んでいる。このうち、α核種濃度が高いものは、ハル・エンドピースと、MOX燃料加工施設から発生する廃棄物が代表的なものである。一方、βγ核種の濃度が最も高いのも、放射化生成物が多く含まれるハル・エンドピースである。
 施設ごとにみると、再処理施設から発生する廃棄物には、超ウラン核種等のα核種と放射化や核分裂に伴い生成したβγ核種がほぼ全て含まれている。これらのうち、放射性核種濃度が対象廃棄物の中で最も高くかつ地下水とともに移行しやすい14Cが多く含まれているハル・エンドピース、地下水とともに移行しやすい129Iが多く含まれている21)廃銀吸着材などが、処分方策の検討の上で重要であると考えられる。
 一方、MOX燃料加工施設から発生する廃棄物には、ウランとプルトニウムの同位体(235U,238U,239Pu,241Pu等)が多く、放射化や核分裂に伴い生成したβγ核種はほとんど含まれていない。
(参考資料―5、7)

21) 再処理施設から発生する放射性廃棄物に含まれるヨウ素129のうち、約97%が「廃銀吸着材」に含まれる。

(3)地層処分の検討対象とした廃棄物の特徴
 廃棄物の発生形態は、金属をはじめ、再処理施設に特有な硝酸を中和・濃縮した硝酸塩等様々である。また、その処理方法も、前述のようにアスファルト固化、焼却又は溶融後にセメント固化、圧縮後にキャニスターに収納(ハル・エンドピース)など複数の方法が実施あるいは想定されている。

7.地層処分の処分施設概念
(1)処分施設概念の検討に当たっての考え方
 地層処分施設概念の検討に当たっては、高レベル放射性廃棄物であるガラス固化体と異なり、廃棄体に含まれる放射性核種の種類・濃度あるいは廃棄体の物理的・化学的性状が多様であることを考慮する必要がある。
 具体的な処分施設概念は、このような廃棄体の特徴を考慮しつつ、①廃棄体の特性に応じて適切に分類し(以下「グルーピング」という。)、各々のグループの特性を考慮して人工バリアを構成すること、②廃棄体を比較的大きな地下空洞内にまとめて処分すること、を基本として検討した。
(参考資料-15)

(2)廃棄体のグルーピングについて
 グルーピングの検討に当たっては、各々のグループの特性に応じた具体的な人工バリア構成や処分施設設計が可能となるとともに、設計の合理化や追加的な対策を講じることが容易になるよう配慮することが重要である。
 廃棄体は、①半減期が長く、かつ天然バリア22)への吸着が小さいため地下水とともに移行しやすい核種である129I及14Cびを多く含むもの、②放射性核種の地下水への溶解度や人工バリア等への吸着性に影響を及ぼす可能性が考えられる硝酸塩等の化学物質を多く含むもの、③まとめて処分する際には発熱の影響を考慮する必要があるもの、の3つの観点からグルーピングを検討した。
 この結果、廃棄体のグループとしては、①に該当する廃銀吸着材のセメント固化体(グループ1)、①と③に該当するハル・エンドピースの圧縮収納体(グループ2)、②に該当する硝酸塩を多量に含むプロセス濃縮廃液のアスファルト固化体等(グループ3)、及びそれ以外の廃棄体(グループ4)、という4つにグルーピングした。
(参考資料―16)

22) 人工構造物又は埋設された廃棄物の周囲に存在し、埋設された廃棄物から漏出してきた放射性物質の生活環境への移行の抑制などが期待できる土壌や地層など。

(3)人工バリアの基本構成について
 人工バリアは、処分場の閉鎖後、放射性核種が地下水とともに人間の生活環境へ移行することを抑制するために設けられるものである。
 現在の技術により構築可能な人工バリアに期待される機能は、以下のものがある。
廃棄体:廃棄物自体の特性(放射化した金属の腐食に伴う核種放出)による核種の移行抑制、セメント系固化材の吸着性と化学環境維持による核種の移行抑制機能
充填材23)空隙を充填することによる力学的安定性、セメント系充填材の吸着性、化学環境維持による核種の移行抑制機能
緩衝材24)ベントナイト系材料の膨潤性、応力緩衝性、吸着性及び止水性による核種の移行抑制機能
 このような人工バリアの機能を踏まえて各グループの人工バリア構成を検討した。
グループ1,2は、半減期が長く、地下水とともに移行しやすい核種を含むため人工バリアを強化することによって核種の閉じ込め性能を高める必要がある。具体的には、海外の施設設計例も参考として、廃棄体定置後の空隙をセメント系充填材で充填するとともに、核種閉じ込め性能を更に高めるため周囲にベントナイト系緩衝材を設けることとした。
 一方、グループ3,4は、半減期が長く地下水とともに移行しやすい核種(例えば129Iや14C)の量が少ないため、廃棄体定置後の空隙をセメント系材料で充填するものの、その周囲に緩衝材は設けない人工バリア構成とした。
(参考資料―16)

 なお、放射性核種の地下水への溶解度や人工バリア等への吸着性に影響を及ぼす可能性が考えられる硝酸塩等の化学物質を含むグループ3は、他のグループへ影響を及ぼさないよう、地下水の流れからみて最下流側に配置するという処分施設のレイアウトによる対策を講じることとした。
23) 人工バリアの構成要素の1つで、廃棄体を定置した後、処分施設との隙間を充填するために用いられる。候補材料は、セメントを用いた材料が挙げられる。
24) 人工バリアの構成要素の1つで、天然バリアとの境界となる最も外側に設置される。候補材料はベントナイトと砂の混合土である。


(4)処分施設について
 対象廃棄物は、ハル・エンドピース(グループ2)で発熱を考慮する必要があるものの、全体としては発熱をそれほど考慮する必要がないため、廃棄体を比較的大きな地下空洞内にまとめて処分することが可能と考えられる。しかし、掘削可能な処分空洞の大きさは、岩盤の強度、深度等により制約を受ける。
(参考資料―17)
 そこで、地下深部でもある程度の大きさの処分空洞が技術的に掘削可能であり、合理的に集中処分が可能であることを示すために、結晶質岩系岩盤と堆積岩系岩盤について、処分深度に応じた掘削可能な空洞形状及び空洞径の評価を行った。
 処分施設設計の一例を示すに当たっては、国内での施工実績が豊富な坑道型の施設と、比較的大きな径の坑道を近接して複数設置する処分施設を想定して、坑道の力学的安定性への影響、ハル・エンドピース(グループ2)の発熱による人工バリアの化学的安定性への影響に対する評価も行った上で、具体的な処分坑道の大きさと坑道間の距離を設定した。
 この例によると、対象廃棄物約1万8千mを地層処分した場合に必要な処分場の大きさは、結晶質岩系岩盤で約200m×約300m程度となり、堆積岩系岩盤は、結晶質岩に比べ岩盤が柔らかいことを考慮して結晶質岩系岩盤より小さな空洞径を設定したため、約300m×約300m程度となった。
 この検討結果に加え、海外の処分施設の設計例や国内の地下施設の施工実績を踏まえると、対象廃棄物を地層処分することを想定した場合、現在の技術に基づき処分施設概念を構築することができると考えられる。
(参考資料―18、19、20)

8.地層処分の安全性について
(1)安全性の検討について
 地層処分した場合の安全性は、基本的に高レベル放射性廃棄物の地層処分と同様に検討することができると考えられる。ただし、対象廃棄物のうち地層処分の検討対象としたものは、ガラス固化体と異なり多種多様な性状を有すること、処理方法もセメント固化、アスファルト固化等複数想定されていることから、特に地下水への核種の溶解度や人工バリア及び天然バリアへの核種の吸着性への影響を考慮して検討する必要がある。
 このため、地層処分の安全性は、対象廃棄物の地層処分に特有な現象の影響を考慮した地下水移行シナリオ25)による被ばく線量の試算に基づき検討した。
被ばく線量の試算に当たっては、基本的にJNCにより取りまとめが行われている「高レベル放射性廃棄物地層処分研究開発の技術報告書」と第2次取りまとめの知見を引用することとしたため、例えば天然バリアの分配係数等の共通する部分は、第2次取りまとめと同一のデータ、類似のモデルを適用した。
(参考資料―21)

25) 放射性核種が地下水と共に地中を移動して河川に流入し、この河川水を通して内部被ばくするシナリオ

(2)地下水移行シナリオにおいて考慮すべき現象について
 地下水移行シナリオにおいては、地下水によって廃棄体が徐々に劣化26)し、ついには廃棄体に閉じ込められていた核種が地下水に溶出し始め、充填材、緩衝材、さらに岩盤を経て人間の生活環境に到達する、という一連の過程で起こりうる様々な現象を考慮する必要がある。

26) ここでは、地下水移行シナリオによる被ばく評価期間が長期に及ぶため、その前提条件としては、処分場の埋め戻し直後から、例えばドラム缶等の容器に密閉されているといった物理的な閉じ込め性能を見込まない想定で評価を行っている。

 対象廃棄物のうち、地層処分の検討対象としたものは、処理に当たってはセメント系材料が多く用いられており、処分場に廃棄体を定置した後の充填材としてもセメント系材料を用いることとしている。また、廃棄物には、腐食によりガスを発生する金属類や、人工バリア及び天然バリアへの核種の吸着性に影響を与える可能性のある硝酸塩も含まれている。
 地層処分した場合の地下水移行シナリオの検討に当たっては、廃棄物の物理・化学的性状と処分施設概念を考慮して、人工バリア及び天然バリアにおける様々な現象を抽出し各現象間の関連性を調べた。核種の移行への影響が大きいと考えられる現象については、詳細な調査及び解析を行った結果を踏まえて整理した。
(参考資料―22)
 このうち、人工バリアの核種移行抑制に関する特性に影響を与える現象としては、以下のものが考えられる。
 さらに、人工バリアだけでなく天然バリアの核種移行抑制に関する特性にも影響を及ぼす可能性がある現象としては、以下のものが考えられる。
 これらのうち、人工バリアにおける核種の移行抑制に関する特性に影響を与えると考えられるものについては、その影響を定量的に検討して考慮することとした。人工バリアだけでなく天然バリアにも影響を及ぼす可能性がある現象は、現時点では精度の高い検討が行えないことから、現状の知見の範囲で各バリアの吸着性のデータを幅広く考慮することとした。

(3)地下水移行シナリオによる被ばく線量の試算結果について
 地下水移行シナリオによる被ばく線量に関しては、第2次取りまとめを参考27)に、我が国の地下深部における岩盤や地下水の特性を踏まえ、地下水が処分施設へ浸入することにより引き起こされる現象が人工バリアや天然バリアに及ぼす影響を考慮した試算を行った。その試算結果は、10のマイナス2乗μSv/yのオーダー~10μSv/y程度の幅となった。
(参考資料-23)

27) 第2次取りまとめにおける亀裂性媒体の計算モデルは亀裂特性の統計的な分布を考慮した「亀裂ネットワークモデル」を基本としたのに対し、本検討においては、亀裂特性の一様な分布を想定した「一次元モデル」を用いている。

 なお、全ての試算結果について、4つのグループのうち被ばく線量へ与える影響が最も大きいのは廃棄体グループ1(廃銀吸着材)であり、核種としては129Iによるものとなっている。グループ2~4による被ばく線量はグループ1よりも少なくとも1桁以上小さくなっている。

9.まとめ
 対象廃棄物の処分は、浅地中のコンクリートピットへの処分、地下利用に余裕を持った深度への処分及び対象廃棄物の特徴を考慮した地層処分に区分して行うことが可能と考えられる。
 対象廃棄物のうち放射性核種の濃度が比較的低いものについて、浅地中のコンクリートピットへの処分あるいは地下利用に余裕を持った深度への処分の適用可能性について検討した結果、対象廃棄物の中にはこれらの処分概念により処分できるものが比較的多く存在するとの見通しが得られた。
 一方、対象廃棄物には、α核種の濃度が高い等によりこれらの処分概念を適用できないと考えられるものも存在することから、これについては地層処分を行う必要があると考えられる。
 地層処分の可能性の検討に当たっては、対象廃棄物の物理・化学的性状及び含まれる核種の種類・濃度が多様であるため、その特性に応じて4つの廃棄体グループに分類し、それぞれの人工バリア構成を示した。また、地下深部において人工バリアを設置した比較的大きな処分坑道に対象廃棄物をまとめて処分する処分施設の一例を示した。海外の処分施設の設計例や国内の地下施設の施工実績も踏まえると、対象廃棄物を地層処分することを想定した場合、現在の技術により具体的な処分施設概念を構築することができると考えられる。
 対象廃棄物の地層処分の安全性については、基本的には高レベル放射性廃棄物の地層処分の安全性と同様に検討することができると考えられる。ただし、対象廃棄物の場合、性状及び想定される処分施設が高レベル放射性廃棄物の場合と異なるため、我が国の地下深部における岩盤や地下水の特性を踏まえ、対象廃棄物に特有な現象の影響を考慮した地下水移行シナリオによる被ばく線量の試算を行った。試算結果は、10のマイナス2乗μSv/yのオーダー~10μSv/y程度となり、諸外国の地層処分に関する基準線量28)(100~300μSv/y)を下回る。このことから、超ウラン核種を含む放射性廃棄物に対する地層処分の安全を確保することは可能であると考えられる。

28) 地層処分に対する基準線量は、線源(原子力発電所、再処理施設、処分場等)の重畳や放射性物質の量を考慮して、公衆の線量限度である1mSv/y(国際放射線防護委員会(ICRP)Publication60(1990))の一部を割り当てることにより設定されている。

10.技術開発課題について
 以上の検討により、対象廃棄物を安全かつ合理的に処分するには、廃棄物の性状に応じて適切に区分し、浅地中のコンクリートピットへの処分、地下利用に余裕を持った深度への処分又は地層処分を行うことが可能であるとの見通しが得られた。
 処分に当たっては、現在の技術に基づいた施設設計により具体的な対策を講じることとしたが、対象廃棄物の処分に特有な現象のいくつかは、現状の知見の範囲内で被ばく線量の試算結果が厳しくなると考えられるモデルやデータを用いた。これらを用いた検討の結果、処分の安全を確保することは可能であると考えられるが、今後は処分施設設計の合理化及び詳細化、並びに安全性の評価の信頼性向上を目指して、試験データの取得、特有な現象のより正確な把握と評価モデルの構築などを行うことが重要である。特有な現象としては、例えば、充填材等に使用されるセメントについて、数百年を超える長期間を経過すると地下水と接触しているセメント自体が変質する現象、その成分が溶け出すことによりアルカリ性となった地下水が周辺に広がり、緩衝材や岩石と反応する現象が挙げられる。また、廃棄物に含まれる硝酸塩が地下水に溶け出すことや、金属等の腐食によるガスの発生が挙げられる。
 対象廃棄物の中で、廃銀吸着材はα核種をほとんど含まないものの129Iの濃度が高いことから地層処分の対象とされている。これは、129Iは半減期が長く、セメント系材料、ベントナイト緩衝材、岩石などへの吸着性が小さく地中を移行しやすいと考えられるためである。被ばく線量の試算においても、廃銀吸着材は地下水移行シナリオによる被ばくに最も大きな影響を与えるとの結果が得られている。現在、廃銀吸着材について廃棄体によるヨウ素の閉じ込め性能を向上するための基礎研究が実施されており、これらの研究開発を通じて処分の合理化や安全性の一層の向上を目指すことが重要である。
 また、廃棄物に含まれる放射性核種の種類と濃度に関するデータは、安全かつ合理的な処分を行う上で不可欠であり、対象廃棄物には主に核分裂生成物及び超ウラン核種が含まれていることを考慮して、データベースの整備、充実を図るとともに、製作された廃棄体に対する信頼性の高い検認手法の整備を図っていく必要がある。

 

第2章 α核種濃度が一応の区分目安値を超えるRI・研究所等廃棄物について
 「RI・研究所等廃棄物処理処分の基本的考え方について」(平成10年5月、原子力バックエンド対策専門部会)で述べたように、RI・研究所等廃棄物にもα核種濃度が一応の区分目安値を超える放射性廃棄物が存在する。これについては、α核種濃度が一応の区分目安値を超える対象廃棄物に準じて埋設処分を行う必要がある。このため、RI・研究所等廃棄物であってα核種濃度が一応の区分目安値を超えるもの(以下「一応の区分目安値を超える対象廃棄物に相当する廃棄物」という。)について、第1章で示した処分方法が適用できるかどうかについて検討する必要がある。

1.研究所等廃棄物として発生するもの
 研究所等廃棄物には、日本原子力研究所、JNC及び民間の試験・研究機関等から発生する紙、布等の可燃性廃棄物、塩化ビニール等の難燃性廃棄物、コンクリートやガラス製の不燃性廃棄物、機器類や放射化された原子炉炉内構造物29)等の金属廃棄物のうち、α核種濃度が一応の区分目安値よりも高いものがある。これらの廃棄物に含まれる放射性核種は、超ウラン核種や核分裂生成物であり、特に、原子炉炉内構造物等には材料金属中の不純物が中性子を吸収して生成したα核種(244Cm、半減期約18年)やβγ核種が含まれている。
29) JNCが福井県敦賀市において運転している新型転換炉の原型炉「ふげん」の解体に伴い発生すると考えられる。

2.RI廃棄物として発生するもの
 RI廃棄物には、現在使用されている線源等のうち、容器に封入されたα核種(241Am等)を用いた線源や医療用の使用済ラジウム226(226Ra)針、α核種を試薬等として利用した結果発生した紙や実験機具等の固体廃棄物がある。試薬等として用いられるα核種には、対象廃棄物にも含まれている核種に加えて、一応の区分目安値より濃度は低いものの、ポロニウム210(210Po、半減期約140日)、ビスマス210(210Bi、半減期約5日)などRI廃棄物特有のものも存在している。

3.処分の基本的考え方について
 一応の区分目安値を超える対象廃棄物に相当する廃棄物の放射性核種濃度は、基本的に対象廃棄物の濃度分布に類似していると考えられる。また、2035年時点での廃棄物の累積発生量は、200㍑ドラム缶換算で約6500本(約1300m)と推定されている30)
(参考資料-24)

30) 線源を200㍑ドラム缶に収め、セメントを充填して固型化することを想定した。

 これらの廃棄物は、廃棄物に含まれる核種の種類及び濃度が、基本的に対象廃棄物と同様であり、しかも地下水とともに移行しやすいと考えられる129Iや14Cは多く含んでいない。廃棄物の性状については、上述のように紙、布、ビニール、コンクリート及び金属など対象廃棄物と同様であり、硝酸塩などの化学物質や発熱を考慮する必要があるものは多量には含まれない。これらの特徴を考慮すると、前章において検討してきた「超ウラン核種を含む放射性廃棄物」と同様に、廃棄物の放射性核種濃度と性状に応じて適切に区分し、処分を行うことが可能であると考えられる。
 ただし、一応の区分目安値を超える対象廃棄物に相当する廃棄物の処分を具体化するに当たっては、材料金属中の不純物が中性子を吸収して生成した比較的半減期の短いα核種が存在すること、容器に封入されたα核種(241Am等)は濃度が高いものの極めて発生量が小さいこと、廃棄物に含まれる核種の種類が一部特有のものである等の特徴に十分留意する必要がある。

 

第3章 処分事業の責任分担の在り方、諸制度の整備などについて
1.責任分担の在り方と実施体制
 「再処理施設及びMOX燃料加工施設の運転・解体に伴い発生する超ウラン核種を含む放射性廃棄物」及び「RI・研究所等廃棄物のうち一応の区分目安値を超える放射性廃棄物」(以下「当該廃棄物」という。)は、前述したようなα核種濃度等による区分に応じた安全な処分を行うことが可能と考えられる。
 当該廃棄物の発生に関わる者は、再処理事業者、MOX燃料加工事業者、日本原子力研究所、JNC、(社)日本アイソトープ協会、電気事業者など(以下、「発生者等」という。)多岐にわたっている。
 当該廃棄物は、発生者等の責任において安全かつ合理的な処分が実施されることが原則である。発生者等は、自らの責任を踏まえ、処分の実現に向けお互いに協力し適切な対応をとることが重要である。
 処分事業を行う者は、処分の安全な実施及び長期にわたる処分場の管理を行うに十分な技術的、経済的能力が要求されるほか、処分の安全確保に関する法律上の責任を負うことになる。この際、発生者等は密接に協力し、安全かつ円滑な廃棄物の処分の推進に万全を期すことが必要である。このような考え方を踏まえ、廃棄物の安全かつ合理的な処分が実施できるよう、処分の実施体制が確立される必要がある。また、国は、当該廃棄物の処分に係る安全基準・指針の整備などを図り、これに基づく厳正な規制を行うと共に、発生者等及び処分事業を行う者が廃棄物の管理や処分を安全かつ合理的に実施するよう、関連法令に基づきこれらの事業者への指導監督などの必要な措置を講じることとする。なお、当該廃棄物のうち、地層処分が適当と考えられる廃棄物については、より安全かつ合理的な処分の実施に向けての研究開発や処分費用確保の検討を進めつつ、将来的には高レベル放射性廃棄物の地層処分を考慮し、合理的な対応が行われる必要がある。

2.処分費用の確保
 当該廃棄物は、発生者等の責任の下で安全かつ合理的に処分されることが原則であり、発生者等はこれに必要となる適正な費用を確保しなければならない。
 しかしながら、当該廃棄物の処分概念が定まっていなかったことなどから、これまで合理的積算が行われていない。したがって、今後、当該廃棄物の発生者等や処分事業を行う者は前述した処分方法を踏まえ、廃棄物の区分及び物量を明確にするとともに、合理的積算を行った上で当該廃棄物の処分方法に応じた処分費用の確保を図っていく必要がある。さらに、国においては、処分費用の確保に必要となる諸制度の検討を行う必要がある。

3.安全確保に係わる関係法令等の整備
 当該廃棄物の処分については、浅地中のコンクリートピットへの処分、地下利用に余裕を持った深度への処分又は対象廃棄物の特性を考慮した地層処分のいずれかの処分方法に適切に区分して処分することにより安全が確保されると考えられる。
現行の低レベル放射性廃棄物については、既に原子力安全委員会において安全規制の基本的考え方、安全基準、安全審査の考え方などが取りまとめられている。これらを踏まえて、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下、「原子炉等規制法」という。)、同法施行令などに、廃棄物埋設事業の許可、保安規定の認可、埋設廃棄体の確認など一連の手続が整備されるとともに、濃度上限値、技術基準などが定められ、安全規制が行われている。また、現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物については、現在、原子力安全委員会において安全規制の基本的考え方、放射性核種濃度の上限値が検討されている。高レベル放射性廃棄物の地層処分については、原子力安全委員会において処分に係る安全規制の基本的考え方が検討されているところである。  今後、当該廃棄物についても、その発生量、放射性核種濃度、性状及び処分方法を踏まえて、上記と同様に安全規制に関する基本的考え方や安全基準などについて検討し、これらを踏まえ関係法令を整備する必要がある。この際、素掘り処分も含めたそれぞれの処分方法に応じた濃度上限値、当該廃棄物に関するクリアランスレベル、保障措置終了の手続などについても検討する必要がある。なお、RI廃棄物は放射線障害防止法によって規制されているが、原子炉等規制法と整合性を図りつつ、関連する法令整備を行う必要がある。

4.実施スケジュール
 当該廃棄物を安全かつ合理的に処分することは、発生者等の責任であり、発生した廃棄物の安全かつ合理的な処分が着実に実施される必要がある。したがって、適切な時期に処分に着手できるよう、廃棄物の帰属の明確化、費用確保策、当該廃棄物処理処分に係る研究開発、実施体制など処分の具体化に係る検討が行われるとともに、当該廃棄物の処分に係る諸制度が整備されることが重要である。具体的には、今後の放射性廃棄物全体の処分計画、再処理施設の運転開始に関するスケジュールなども踏まえ、実施体制を含めて当該廃棄物の処分計画の明確化及び安全確保に係わる関係法令の整備が行われることが重要である。

5.技術開発課題への取組みについて
 当該廃棄物については、既に処分が実施されている低レベル放射性廃棄物に適用されている技術や高レベル放射性廃棄物の地層処分に係る研究成果等を活用すると共に、処分がより安全かつ合理的に実施されるよう、当該廃棄物の多様な性状を踏まえた処理技術などの研究開発を積極的に進めていくことが重要である。

6.積極的な情報公開、情報提供
 放射性廃棄物処分事業の実施に当たっては、安全が確保されるとともに、処分事業に対する国民の理解が得られ、国民はもちろん立地地域に受け入れられなければならない。このためには、諸制度の整備や実施体制の確立などの一連の取組みとともに、放射性廃棄物全体の処分計画を踏まえた安全かつ合理的な処分に関する的確で分かりやすい情報を積極的に提供していくことが不可欠である。
 この際、当該廃棄物の発生者等が多岐にわたること、その処分方法も当該廃棄物の特性に応じて適切に区分した上で浅地中のコンクリートピットへの処分、地下利用に余裕を持った深度への処分及び対象廃棄物の特徴を考慮した地層処分など複数想定されることを踏まえて、処分事業の各段階において必要とされる情報を分かりやすく提供できるよう体制を整える必要がある。

 

終わりに
 超ウラン核種を含む放射性廃棄物については、廃棄物の物理化学的性状と放射性核種濃度に応じた適切な区分を行うこと、それぞれの区分に応じた処分方策を講じることとする基本的考え方を取りまとめた。
 発生者等は、当該廃棄物の処分の具体化に向けて密接に協力しながら着実に取り組むことが重要である。
 今後はそれぞれの区分に応じた処分方法について、超ウラン核種を含む放射性廃棄物の特徴を考慮した安全規制の基本的考え方、放射性廃棄物の濃度上限値、クリアランスレベル等が原子力安全委員会において検討されることを期待する。国においては、この結果を踏まえて必要な制度の整備を図ることが重要である。
 また、超ウラン核種を含む放射性廃棄物は、その処分方法が複数となることや原子炉施設から発生する低レベル放射性廃棄物と異なる特徴があることを十分踏まえて、国民の理解と信頼を得るように処分に関する的確かつ分かりやすい情報の提供を行うことが必要である。