低レベル放射性廃棄物処分の
基本的考え方について
平成10年10月16日
原子力委員会
原子力バックエンド対策専門部会
はじめに
1. 放射性廃棄物処分の基本的考え方 第2章 処分事業の責任分担のあり方、諸制度の整備などについて
1. 責任分担のあり方と実施体制 |
原子炉施設(実用発電用原子炉施設、試験研究用原子炉施設など)の運転に伴って発生する低レベル放射性廃棄物には、洗濯水や冷却水などの処理に伴って発生する廃液をセメントなどで均一に固型化した廃棄物や、定期検査時の補修などで発生する金属、保温材、フィルタ、プラスチックなどの固体状廃棄物がある。これらの廃棄物の大部分は、その放射性核種濃度が「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律施行令」第13条の9に規定された濃度1)(参考資料 2)(以下「現行の政令濃度上限値」という。また、放射性核種の濃度が現行の政令濃度上限値以下の低レベル放射性廃棄物を、以下「現行の低レベル放射性廃棄物」という。)を下回り、このうち実用発電用原子炉の運転に伴って発生した放射性廃棄物で、均一に固型化されたものについては、平成4年度より、日本原燃(株)六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターにおいて人工構築物(コンクリートピット2))を設けた浅地中の処分が開始されており、その他の固体状廃棄物についても、同埋設センターに処分することが計画されている。また、原子炉施設の解体に伴って発生する廃棄物については、日本原子力研究所動力試験炉(JPDR)の解体実地試験が昭和61年から平成8年にわたって行われ、これに伴って発生したコンクリート廃棄物のうち極低レベル放射性廃棄物については、「人工構築物を設けない浅地中処分(素掘り処分)」により埋設実地試験が実施されている。
1. 放射性廃棄物処分の基本的考え方
本報告書において、対象廃棄物の処分について検討するに当たって、前提となる放射性廃棄物処分の基本的考え方を以下のように整理した。
放射性廃棄物の処分にあたっては、廃棄物に含まれる放射性核種が生活環境に対して及ぼす影響を未然に防止しなければならない。このため、処分方法に適した安定な形態に処理した後、その放射性核種の濃度が時間の経過に伴って減少して安全上問題がなくなるまでの間、生活環境から安全に隔離することが処分の基本となる。この処分の安全性は、廃棄物に含まれる放射性核種が放出する放射線の種類(アルファ(α)線、ベータ(β)線、ガンマ(γ)線など)、放射性核種の半減期の長短、放射性核種が地中を移行する速さを左右する因子である土壌や岩石への核種の吸着性の大小などに影響される。したがって、廃棄物の生活環境からの隔離方法及び期間は、廃棄物の性状、特にそれに含まれる放射性核種の種類及び濃度を考慮して設定する必要がある。(参考資料 4) 長半減期のα核種の濃度が低くβγ核種の濃度も低い低レベル放射性廃棄物(例えば、六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターで処分を現在実施中あるいは計画中の低レベル放射性廃棄物)については、地下数m程度の浅地中のコンクリートピットなどに処分し、時間の経過に伴う放射性核種濃度の減少に応じた段階的管理が行われる。再処理により使用済燃料から分離され、α核種及びβγ核種の濃度がいずれも高い高レベル放射性廃棄物については、物理的に生活環境から十分離れた安定な地層1)に長期にわたって安全に隔離する地層処分が検討されている。また、再処理施設などから発生するTRU核種(超ウラン核種)を含む廃棄物については、全α核種の濃度が約1ギガベクレル毎トン(GBq/t)の値を区分目安値として設定し2)、この区分目安値を踏まえた処分方法の検討が行われている。
2. 対象廃棄物の特徴
原子炉施設の運転と解体に伴い、使用済み制御棒や炉内構造物などの放射性廃棄物が発生するが、これらのうち一部は、含まれる放射性核種の濃度が現行の政令濃度上限値を超える。このような廃棄物の大半は、ステンレス鋼などの金属が燃料近傍で中性子照射されて生じた放射化金属1)であり、この他、コンクリート、使用済みのイオン交換樹脂などが含まれる。このような廃棄物は、全国の原子炉施設でこれまでに約8千トン発生し、原子炉施設内に保管されている。また、2030年時点での累積発生量を、一定の仮定のもとに試算すると2)約2万トンと推定される。このうち約1万5千トンが運転に伴う廃棄物であり、約5千トンが解体に伴う廃棄物である。「核燃料物質等の埋設に関する措置等に係る技術的細目を定める告示」第4条に定められている放射性廃棄物を処分容器に固型化する方法3)を参考に、この対象廃棄物を固型化した場合、その体積は約2万m3(200㍑ドラム缶に換算すると約10万本相当)となる。
3. 対象廃棄物処分の基本的考え方
対象廃棄物の処分方策を検討するに当たって、安全を確保すること、及び、将来世代に負担を残さないという観点も踏まえ処分場跡地については一般的であると考えられる利用が制約されないようにすること、を基本的な考え方とする。
対象廃棄物の処分方策を検討するため、まず、現行の低レベル放射性廃棄物について実施されている処分と同様の浅地中のコンクリートピットへの処分を行った場合の一般公衆の被ばく線量について、現行の政令濃度上限値を設定した際に用いられた評価シナリオを適用して試算を行った。すなわち、廃棄物を地表面から深さ3mより下に設けられたコンクリートピットに処分し、300年の管理期間を置き、放射性核種の濃度の低減を図り、管理期間経過後について、以下の被ばく形態の検討を行った。
① 処分場跡地において住居を建設する人の被ばく
② 処分場跡地において建設された住居に居住する人の被ばく
③ 放射性核種が地下水とともに河川に移行しその水を介した被ばく
その結果、処分を開始する時点で放射線被ばくに大きく寄与すると考えられる短半減期の60Coなどは、本試算において仮定した300年の管理期間中に、現行の低レベル放射性廃棄物と同様その濃度が減少し、管理期間経過後に想定される上記①~③の被ばく線量への寄与は十分小さくなる。一方、これらに比べて半減期が長い63Niなどの核種が管理期間経過後の被ばくに主に寄与し、上記①から③の被ばく線量は、原子力安全委員会において示されている「被ばく管理の観点からは管理することを必要としない低い線量」である10μSv/y(以下「目安線量」という。)を超過し、最大で数mSv/yのオーダーとなる1)。
なお、廃棄物対策に当たっては、環境負荷の低減の観点から、処分される廃棄物の量を低減することも重要である。近年、実用発電用原子炉施設において、原子炉冷却水の浄化システムや原子炉内の出力分布を制御する方法を改善することなどにより、対象廃棄物として発生する使用済みのイオン交換樹脂やバーナブルポイズンの量は低減されてきている。このような実績も踏まえ、今後も、対象廃棄物の発生量の低減を図ることが重要である。
以下、具体的な処分施設概念、必要な管理方法、適切な処分深度などについて検討した結果を示す。
海外においては、対象廃棄物相当の廃棄物が実際に処分されている事例は多くないが、このような廃棄物を含む放射性廃棄物の処分施設についても検討が進められており、操業されているものもある。(参考資料 12) それらは、アメリカのように地下約10m程度に素掘り処分を実施した例、スイスのように山腹からトンネルを掘り処分するもの、ドイツ、イギリスのように地下約数百m~1000m程度のトンネルにTRU核種を含む放射性廃棄物などとともに処分するものなど、様々な形態をとっている。スウェーデンのSFRとフィンランドのVLJは、いずれも主に原子力発電所から発生する低レベル放射性廃棄物処分を主たる目的とした処分施設であり、60~100m程度の深度である。スウェーデンではサイロ型(円形立坑)とトンネル型、フィンランドではサイロ型が採用されている(いずれも現在操業中)。
5. 管理期間中の管理のあり方
対象廃棄物に含まれる放射性核種濃度の減少を考慮した数百年間の廃棄物処分場の管理については、①廃棄物を処分する地下空洞(以下「処分空洞」という。)の埋め戻しが終わるまでは、廃棄物からの直接γ線などを防ぐ被ばく管理を行うとともに、放射性核種が処分施設から外に漏出しないことを監視する必要がある。また、処分空洞の埋め戻し後は②放射性核種が処分施設から生活環境へ移行することが抑制されていることを所要の期間監視する1)とともに、③一般公衆が廃棄物に接触することを防止するため、当該区域での特定行為の制約又は禁止などを行う必要がある。また、この管理期間は、④管理期間経過後の安全が確保されることを確認するための、地下水流動状況など処分場に関するデータを蓄積する期間でもある。なお、実際の管理期間の長さについては、廃棄物の種類と濃度などを考慮して適切に設定される必要がある。
このような管理の具体的な方法について、トンネル型とサイロ型の処分施設の例を想定して検討した。
(1) 処分施設の建設、廃棄物の定置、処分施設の閉鎖などの手順
対象廃棄物を処分空洞(トンネル型あるいはサイロ型)に処分するに当たっては、まず、地表から処分空洞の深度に至るための坑道(アクセス坑道)と、この深度で処分空洞の建設や廃棄物の搬入に利用される坑道(作業坑道)を掘削することになる。アクセス坑道や作業坑道は、処分施設の建設から処分施設全体の閉鎖に至るまでの期間継続して使用されると考えられる。これに対して処分空洞は廃棄物の量に応じて複数本(個)建設されることが考えられるため、処分空洞の建設、空洞への廃棄物の定置、廃棄物の埋め戻しは、複数の処分空洞で並行して実施され、アクセス坑道などが埋め戻されるのは、全ての処分空洞への廃棄物の定置、及び処分空洞の埋め戻しなどが終わった後になる。
(2) 管理の内容
以上のような処分施設の建設、廃棄物の定置、処分施設の埋め戻し作業などの手順を前提とし、βγ核種の濃度が初期には高いことを踏まえれば、以下のような管理を行うことが必要であると考えられる。
なお、処分施設の建設においては、天然バリア1)の一部である周辺岩盤への影響も考慮した施工管理を行うことが必要である。
6. 管理期間経過後の安全確保
特別な管理を必要とする管理期間が終了した後に想定される一般公衆の被ばくは、
6.1.1. 一般的であると考えられる地下利用に対して十分余裕を持った深度への処分
人間の活動については、現行の政令濃度上限値を定めた際に想定している地下数m程度の浅地中処分施設に対象廃棄物を処分した場合を想定すると、一般的であると考えられる土地利用として住居の建設工事などが行われると、目安線量を超える被ばくが生じる可能性がある。したがって、このような被ばくを防ぐためには、一般的であると考えられる地下利用に対して、十分な余裕を持った深度に処分することが必要である。また、これにより、一般的であると考えられる土地利用が制約されないようにすることも重要である。
一般的であると考えられる地下利用の形態に、地上の構築物を支持する基礎の設置と地下室の建設がある。このうち大部分は住居などであり地下数mの範囲の利用である。この他に、必ずしも一般的であるとは考えられないが、大都市部を中心に、高層建築物の基礎や深い地下室によって、これより深い深度までの利用が行われている。将来、このような地下利用を制約しなくても人間が廃棄物と接触せず地下利用に伴う被ばくが起きないよう、処分施設はこのような地下利用をも避ける深度に設置されるべきである。高層建築物などの基礎の設置深度は、これを支えることができる支持層1)が存在する深さによって決まる。一方、地下室については現在例えば東京都における建築物の地下階の99.9%までが地下4階までであり2)、最も深いものでも地下30m(国会図書館-地下8階)となっている。これらの地下利用の実態を踏まえ、処分施設を設置する際は、高層建築物の基礎が設置される支持層の上面又は地下室の深さに、これらを設置する地盤の強度などを損なわないために必要な離隔距離を確保することが必要であると考えられる。
また、地下鉄、上下水道、共同溝などの施設のために利用されている深度は、地表付近から順次利用が進んでいるが、大都市においても大部分は50m程度以浅である。このように、地下利用は深度に伴って急激に減少し、50m以深の利用は極めて少ない。
6.1.2. 処分施設に達する地下利用の回避
前項で検討した対象廃棄物を処分する深度の地下空間について、都市部においては地下鉄、上下水道、共同溝などへの利用の可能性が現在検討されており、また都市部以外においては、既に山岳トンネル、地下発電所、地下石油備蓄施設などの利用例がある。このような深度の地下利用を計画する場合には、通常、「立地条件調査」、「支障物件調査」、「地盤調査」などの様々な調査が事前に行われる。(参考資料 18) 限定された区域での大規模な空洞である地下発電所などのドーム状構造物と、経路が長大であり複雑多様な地質構造に対処するトンネルなどの線状構造物とでは調査項目が異なるが、前述したとおり、処分に関する記録が管理期間経過後も期限を切らずに国において保存されることや、処分施設が適切な地質条件の地中を選んで設置されること、想定される処分施設の規模などを考慮すれば、これらの調査によって処分施設の存在が十分認知されるものと考えられる。即ち、実際の処分場跡地の地下利用の可能性については、その立地場所によっても異なり、また、このような深度に達する地下利用が計画されるか否かについては処分を行う時点で明確に見とおすことは難しい面もあるが、仮にそのような地下利用が計画されたとしても、処分施設の存在は十分認知されるものと考えられる。
加えて、処分に関する記録が適切に保存、公開され、地下利用を企画する者がこれに容易にアクセスできるようになっていれば、大規模な開発行為とそれに伴う被ばくに至る前に地下利用の計画が変更される、あるいは処分施設の認知につながる適切な調査計画が立てられる確実性がいっそう高まると考えられる。また、対象廃棄物処分の安全性に関して社会的に安心を得るという観点からも記録の保存と公開は重要であると考えられるので、管理期間経過後における処分に関する記録の効果的な保存と公開のあり方について検討を行うことが必要である。
6.1.3. その他の地下利用に対する対策
この他に、地下の天然資源を採取することを目的とした地下利用も考えられるため、予め将来利用が可能と考えられる地下の天然資源が存在しない場所を処分場に選定することによって、このような地下利用による人間と廃棄物の接触を避けるべきである。
6.1.4. 人間と廃棄物の接触を想定した場合の被ばく線量の試算例
以上より、具体的な処分深度は立地場所の地質条件などにより異なると考えられるが、地下の天然資源の存在状況を考慮するとともに、支持層の上面よりも深く、基礎となる地盤の強度などを損なわないための離隔距離を確保した、例えば地表から50~100m程度の深さに処分することにより、一般的であると考えられる地下利用によっては、被ばくは生じず、将来の人間の活動によって人間が廃棄物に接触して被ばくする可能性は十分小さいと考えられる。
一方、処分施設を含む地下の利用が計画された際に、処分の記録が入手されなかったなどの理由で処分施設の存在が初期段階で認知されず、調査が進行し、処分施設に到達するボーリング調査などが行われ、ボーリングコアなどを通じて人間が廃棄物に接触するような場合を仮定して被ばく線量を試算した。その結果は、管理期間経過時点(試算においては300年を仮定)における地質調査によるボーリングコアを観察することに伴う被ばくは、一定の仮定を置いて試算すると数十μSvのオーダーであり、このような行為によって安全上問題となるような被ばくが起きることはないと考えられる。
6.2. 管理期間経過後の放射性核種の地下水移行に対する安全確保
放射性核種の処分施設から生活環境への移行は人工バリアと天然バリアの組み合わせによって防止又は抑制されるが、時間の経過によって人工バリアの機能が低下したとしても安全が確保されるようにしなければならない。対象廃棄物はβγ核種の濃度が現行の政令濃度上限値より高いので、現行の低レベル放射性廃棄物と同様の処分を行った場合には、14Cなどを含む地下水が河川などに流入した場合に、その河川水などの利用によって、一般公衆に対し目安線量を超える被ばくが生じる可能性がある。したがって、このような被ばくを十分抑制するためには、現行の低レベル放射性廃棄物と比べ、放射性核種の生活環境への移行をより一層抑制する対策をとる必要があるので、処分施設を、より放射性核種の移行抑制機能の高い地中に設置することを基本として考えることが適切である。放射性核種の移行抑制としては、処分施設周辺の土壌などによる移行抑制を基本にし、処分施設周辺に難透水性材料を設置するなどの対策が考えられる。
具体的には、以下の方策が考えられる。
7. その他の安全対策
本報告書においては、対象廃棄物の特徴を踏まえ、処分の安全確保を図る上で特に重要と考えられる事項として、管理期間中の管理のあり方と、管理期間経過後の、人間活動と放射性核種の地下水移行に対する安全確保について検討を行った。
現行の低レベル放射性廃棄物処分の安全審査の考え方を示した「放射性廃棄物埋設施設の安全審査の基本的考え方」(昭和63年原子力安全委員会)には、処分場の基本的立地条件として、その敷地及び周辺において大きな事故の誘因となる事象が起こらず、万一事故が発生した場合において影響を拡大する事象が少ない場所を選ぶために、地震、津波、地すべり、陥没、台風、高潮、洪水、異常寒波、豪雪などの自然現象などや、社会環境を考慮することを求めている。また、地震や、それ以外の自然現象、火災・爆発、電源喪失に対して設計上の考慮などの安全対策を講じることを求めている。
対象廃棄物の処分についても、現行の低レベル放射性廃棄物の処分とは処分深度などが異なることを踏まえつつ、このような事項に対する安全対策を行うことが必要であると考えられる。
8. まとめ
原子炉施設から発生する対象廃棄物は、既に埋設処分が実施または計画されている低レベル放射性廃棄物と比較すると、含まれる放射性核種の種類は同様であるが、放射性核種の濃度については、βγ核種の濃度が平均で現行の政令濃度上限値を1~2桁、最大で2~3桁上回り、α核種の濃度は最大でも現行の政令濃度上限値を下回ると推定される。
このような廃棄物を安全かつ合理的に処分するとともに、数百年の管理期間が経過した後の処分場跡地について一般的な土地利用が制約されないようにするためには、以下の対策を講じることが必要である。
1. 責任分担のあり方と実施体制
対象廃棄物は、前述したような処分方法を採用することで、数百年間で管理が終了する処分を行うことが可能であると考えられる。したがって、対象廃棄物の処分に係る実施体制と責任分担については、現行の低レベル放射性廃棄物処分と同様の考え方をとることが適当である。
すなわち、対象廃棄物はその発生者の責任において安全かつ合理的な処分が実施されることが原則であり、対象廃棄物の発生者たる電気事業者や試験研究用原子炉などの設置者(以下「原子炉設置者」という。)は、その責任を踏まえ、処分計画の作成、処分費用の確保などに適切に取り組む必要がある。専門の事業者(以下「処分事業主体」という。)が廃棄物を集中的に処分する場合については、処分事業主体は、処分を安全に実施し長期にわたる処分場の管理を行うに十分な技術的、経済的能力が要求されることは当然であり、また、処分の安全確保に関する法律上の責任を負うことになるが、現在行われているように、廃棄物の発生者である原子炉設置者は、廃棄物の埋設処分と数百年にわたる処分場の管理が安全に行われるよう、処分事業主体に適切な支援を与えることなどにより、安全な処分に万全を期すことが必要である。
このような考え方を踏まえ、原子炉設置者は、対象廃棄物の安全かつ合理的な処分が実施できるよう、実施体制の確立を図る必要がある。なお、試験研究用原子炉などから発生する対象廃棄物を含む研究所等廃棄物の処分の実施体制などについては、RI・研究所等廃棄物事業推進準備会1)を中心に検討が行われることとなっているが、同準備会は、関係機関とも十分連携し、確実に処分が実施できる体制を構築することが必要である。
また、国は、対象廃棄物の処分に係る安全基準・指針の整備などを図り、これに基づく厳正な規制を行うと共に、原子炉設置者や処分事業主体において、対象廃棄物の管理や処分が適切に行われるよう、関連法令に基づくこれらの事業者への指導監督などの必要な措置を講じることとする。
2. 処分費用の確保
前述のとおり、対象廃棄物は、その発生者たる原子炉設置者の責任の下で安全かつ合理的に処分されることが原則であり、原子炉設置者はこれに必要となる適正な費用を確保しなければならない。
特に、実用発電用原子炉施設の解体に伴う廃棄物処分の費用は、施設を廃止した後に発生するが、これは発電に伴う費用であり、あらかじめその運転中に確保しておくべき性質のものである。しかしながら、対象廃棄物の処分概念が定まっていなかったことなどから、これまで合理的積算が行われていない。したがって、今後、前述した処分方法を踏まえ、合理的積算を行った上で対象廃棄物の処分費用の確保を図っていく必要がある。
また、試験研究用原子炉などから発生する対象廃棄物に関しては、今後、RI・研究所等廃棄物事業推進準備会を中心に、処分費用の確保の具体的方法について検討を行う必要がある。
3. 安全確保に係わる関係法令の整備
対象廃棄物の処分については、現行の低レベル放射性廃棄物処分と同様に放射性核種の濃度の減少を考慮して数百年間の管理を行うことに加え、管理期間経過後も、処分場跡地の利用に伴い、人間と廃棄物が接触し安全上問題となるような被ばくが起きないようにしておくとともに、放射性核種の地下水による移行が十分抑制されていることにより、安全が確保されると考えられる。
現行の低レベル放射性廃棄物については、既に原子力安全委員会において安全規制の基本的考え方、放射性核種濃度の上限値、安全審査の考え方などが取りまとめられ、これらを踏まえて、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」、同法施行令などに、廃棄物埋設事業の許可、保安規定の認可、埋設廃棄体の確認など一連の手続きが整備されるとともに、政令濃度上限値、技術基準などが定められ、安全規制が行われているところである。今後、対象廃棄物についても、その処分概念を踏まえて、上記と同様に安全規制に関する基本的考え方、政令濃度上限値などについて検討し、これらを踏まえ関係法令の整備を行う必要がある。
対象廃棄物は、原子炉施設の運転、及び解体によって発生する。このうち、運転中には定期検査時などに使用済み制御棒などが廃棄物として発生し、現在は原子炉施設内に保管されている。また、原子炉施設の解体に関しては、昭和61年~平成8年に行われたJPDRの解体に伴って発生した対象廃棄物が日本原子力研究所内に保管されている。さらに、平成10年3月末でその営業運転を終了した日本原子力発電(株)東海発電所については、早ければ平成13年にも廃止措置に係る手続きが開始される計画であり、今後、原子炉施設の廃止措置に伴う解体が具体化していくことになる。
放射性廃棄物を安全かつ合理的に処分することは、これを発生した者の責務であり、発生した廃棄物の安全かつ合理的な処分が先延ばしされることなく実施される必要がある。したがって、以上のような状況を踏まえ、原子炉設置者においては実施体制など対象廃棄物の処分の具体化に係る検討を行うとともに、国においては対象廃棄物の処分に係る制度整備を図り、早期に処分に着手できるよう取り組むことが重要である。具体的には、今後の廃止措置に関するスケジュールも踏まえ、2000年頃を目途に、原子炉設置者は、実施体制を含めて対象廃棄物の処分計画の明確化を図るよう取り組むとともに、国は、安全確保に係わる関係法令の整備を行うことが重要である。また、このような取り組みは、原子力利用に対する国民の信頼を得る上からも重要である。
5. 積極的な情報公開、情報提供
放射性廃棄物処分事業の実施に当たっては、安全が確保されるとともに、処分事業に対する国民の理解が得られ、国民はもちろん立地地域に受け入れられなければならない。このためには、諸制度の整備や実施体制の確立などの一連の取り組みとともに、対象廃棄物の処分に関する的確かつ分かりやすい情報を積極的に提供していくことが不可欠である。特に対象廃棄物は、原子炉施設の運転や解体に伴って発生する廃棄物の一部であるため、原子炉施設の運転や解体に伴い、全体としてどのような廃棄物が発生し、それぞれどのように処分されるか、という点についても、併せて情報提供を行うことも重要であると考えられる。今後、このような点を踏まえ、原子炉設置者及び処分事業主体が中心となり、積極的な情報提供を行うとともに、国においても当該事業の必要性や安全確保の考え方などについて、国民の理解が得られるように取り組みを進めていくことが重要である。その際、求められている情報が何であるかに十分留意し、受け手にとって必要で分かりやすい情報が伝わるよう、誠実な対応に心がける必要がある。また、情報提供が的確に行われるよう、情報伝達の手段や体制などについても改善を図っていくことが重要である。廃棄物の処分が開始された後についても、処分に関する記録が保存されることはもちろん、これらの記録や処分の実施状況が、適切な方法を用いかつ国民に分かりやすい形で公開されることは、処分事業についての社会的な安心と信頼を得る上からも重要である。したがって、今後、処分に関する記録の効果的な保存と処分の実施状況を含む情報の公開・提供のあり方について検討を行うことが必要である。
本報告書においては、原子炉施設から発生する放射性廃棄物のうち、現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物について検討を行った。原子力利用の一つに放射性同位元素(以下「RI」という。)の利用があるが、「RI・研究所等廃棄物処理処分の基本的考え方について」(原子力バックエンド対策専門部会平成10年5月)で述べたように、RIの利用形態の一つである線源などが放射性廃棄物として処分される場合に、発電所廃棄物について定められた現行の政令濃度上限値を超える放射性廃棄物に相当する廃棄物が発生すると考えられる。このうち、60Co(半減期約5年)、イリジウム192(192Ir)(半減期約74日)のような半減期が数年以下の密封線源などは、処分の前に一定期間保管することによって放射性核種濃度を十分減少させれば、現行の低レベル放射性廃棄物として取り扱うことが可能であると考えられる。したがって、現在使用されている線源などのうち、処分の時点で現行の政令濃度上限値を超える放射性廃棄物になると考えられるのは、医療器具の滅菌などに使われる137Csを用いた線源の一部や、研究用に使われる3Hのターゲットの一部であると考えられる。これらの廃棄物の放射性核種濃度は、対象廃棄物と同程度であると考えられ、2030年時点での累積発生量は、200㍑ドラム缶換算で約1600本程度と推定される1)。137Csを用いた線源、3Hのターゲットは、それぞれ単一の放射性核種のみを含み、その核種はいずれも対象廃棄物に含まれる核種であるため、この廃棄物についても、前章まで検討してきたような対象廃棄物と同様な処分を行うことが適当である。
このようなRI廃棄物については、放射線障害防止法によって規制されているが、前章まで検討した原子炉施設から発生する放射性廃棄物について規制している原子炉等規制法と整合性を図りつつ、関連する法令整備を行う必要があると考えられる。
なお、このようなRI廃棄物の処分費用の確保や実施体制などについても、RI・研究所等廃棄物事業推進準備会を中心に、検討を行う必要があり、前述したとおり確実に処分が実施されるよう、関係機関との十分な連携が必要である。
原子炉施設の運転及び解体に伴って発生する放射性廃棄物のうち、処分方策が確立していなかった現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物の処分方策について、検討を行い、基本的考え方を取りまとめた。
原子炉設置者、及びRI・研究所等廃棄物事業推進準備会などは、処分が着実に行われるよう、実施体制の整備や処分費用の確保など、処分事業の具体化に向けた諸準備に早急に着手することが重要である。また、当専門部会としては、本報告書で示した処分方法により、対象廃棄物を安全かつ合理的に処分できると考えているが、この処分方法に対して適用される安全規制についての基本的考え方、また処分できる放射性廃棄物の濃度上限値などについて、今後原子力安全委員会において検討が行われることを期待する。この結果を踏まえつつ、国は、遅滞なく必要な制度の整備を図ることが重要である。また、前述したように、対象廃棄物の処分に関する的確かつ分かりやすい情報を国民に提供していくことが不可欠である。
このように、処分実施体制や諸制度が整備され、また処分事業に関わる情報が的確に提供されることにより、処分事業全体についての透明性が確保されることが、国民の理解を得て処分を実施するうえで不可欠であると考える。