RI・研究所等廃棄物
処理処分の基本的考え方について

  

平成10年5月28日
原子力委員会
原子力バックエンド対策専門部会

 


 

目 次

はじめに

第1章 RI廃棄物の処理処分に関する基本的考え方について

1. RI廃棄物の現状と今後の見通し
 1.1 RIの利用とRI廃棄物の発生
 1.2 RI廃棄物の廃棄体数量等の推定
1.2.1 廃棄体数量の推定
1.2.2 RI廃棄物中の放射性核種と放射能濃度
 (1)放射性核種の種類
 (2)放射能濃度による区分
2. RI廃棄物の処理処分に関する基本的考え方
 2.1 RI廃棄物の処理に関する基本的考え方
2.1.1 処理方法
2.1.2 廃棄体の確認について
 2.2 RI廃棄物の処分に関する基本的考え方
 (1)放射能濃度に対応した処分
 (2)放射能以外の廃棄体の性状に対応した処分
 2.3 RI廃棄物処分場の管理に関する基本的考え方
 (1)放射能の減衰に応じた管理
 (2)放射能以外の廃棄体の性状に対応した管理
 (3)管理記録の保存
 2.4 今後の廃棄物処理技術の向上への対応
 2.5 まとめ

第2章 研究所等廃棄物の処理処分に関する基本的考え方について

1. 研究所等廃棄物の現状と今後の見通し
 1.1 研究所等廃棄物の発生
 1.2 研究所等廃棄物の廃棄体数量等の推定
1.2.1 廃棄体数量の推定
1.2.2 研究所等廃棄物中の放射性核種と放射能濃度
 (1)放射性核種の種類
 (2)放射能濃度による区分
2. 研究所等廃棄物の処理処分に関する基本的考え方
 2.1 研究所等廃棄物の処理に関する基本的考え方
2.1.1 処理方法
2.1.2 廃棄体の確認について
 2.2 研究所等廃棄物の処分に関する基本的考え方
 (1)現行の政令濃度上限値以下の低レベル放射性廃棄物
 (2)極低レベル放射性廃棄物
 (3)現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物、TRU核種を含む放射性廃棄物及びウラン廃棄物相当の放射性廃棄物
 (4)クリランスレベル以下の廃棄物
 2.3 研究所等廃棄物処分場の管理に関する基本的考え方
 (1)放射能の減衰に応じた管理
 (2)放射能以外の廃棄体の性状に対応した管理
 (3)管理記録の保存
 2.4 今後の廃棄物処理技術の向上への対応
 2.5 まとめ

第3章 安全確保のための諸制度の整備

1. RI廃棄物について
2. 研究所等廃棄物について
3. 安全な管理・確認システムの確立
4. 有害な物質への対応
5. 現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物、TRU核種を含む放射性廃棄物及びウラン廃棄物への対応
6. 新たなRI及び核燃料物質等の利用への対応
7. クリアランスレベルの適用について
8. 短半減期の放射性核種のみを含む廃棄物の取扱いについて

第4章 処分事業の実施体制の確立及び実施スケジュール

1.関係機関における責任及び役割分担の考え方
2.処分事業主体の在り方
3.処理処分費用の確保
4.処分事業の実施スケジュール
5.研究開発
6.他の廃棄物処分事業との連携・協力

さいごに -国民の理解を得つつ処分事業の着実な実施を図るために

参考資料


はじめに

 放射性同位元素(Radioisotope:以下、「RI」)は原子力分野のみならず様々な分野で利用されており、国民の日常生活を支えるものの一つとなっている。例えば、医療分野では検査や治療に、研究等の分野ではトレーサーとして、RIが用いられている。また、放射線を照射することによる滅菌処理や非破壊検査等にもRIが利用されており、加速器によるRIの製造等も実施されている。RIの利用は、放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(以下、「放射線障害防止法」)、医療法、薬事法、臨床検査技師、衛生検査技師等に関する法律(以下、「臨床検査技師法」)の規制の下に行われており、現在RIを利用(加速器の利用を含む。)している事業所数は5,000を超えている。このような事業所からは、RIが付着した試験管、注射器、ペーパータオルや使用済みの密封線源等が廃棄物(RI廃棄物)として発生している。
 また、日本原子力研究所等の研究機関、大学、民間企業等の約180事業所では、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下、「原子炉等規制法」)の規制の下、試験研究炉や核燃料物質等の使用施設等を設置して、原子力の安全研究や核燃料物質等を用いた研究等が行われており、実験で使用した手袋やペーパータオル、廃液等が廃棄物(研究所等廃棄物1))として発生している。
 RIや核燃料物質等の利用は、日常生活の向上や科学技術の発展に大いに寄与してきた。RIや核燃料物質等の利用に伴い発生した廃棄物の処分について、後世代に負担を残さないことが、これを発生させた現世代の責務であるが、現状では、発生した廃棄物については最終的な処分がなされることなく保管されている。また、廃棄物の処理処分の見通しが明確でないために、RI等の利用に支障が生じている事業所も見られる。低レベル放射性廃棄物のうち原子炉施設から発生するものについては最終処分に係る制度が順次整備され、このうち原子力発電所から発生する廃棄物については、既に埋設処分事業が開始されているところであるが、RIや核燃料物質等の利用に伴い発生する廃棄物については、未だ処分方策が確立していない。このため、これらの廃棄物に含まれる放射性核種の種類や濃度及びその他の性状を踏まえ、早急にRI廃棄物及び研究所等廃棄物(以下、「RI・研究所等廃棄物」)の安全かつ合理的な処理処分方策を確立して、制度整備を行い、最終処分に向け具体的に取り組むことが重要である。
 このような状況を踏まえて、原子力バックエンド対策専門部会では、RI・研究所等廃棄物の処理処分に関する基本的考え方を策定することとし、RI・研究所等廃棄物の処理処分に関する技術的及び制度的事項について検討した。技術的事項としては、廃棄物発生量を推定すると共に、処理及び処分に関する基本的考え方等について検討した。また、制度的事項として、安全確保のための諸制度の整備並びに処分事業の実施体制等について検討した。
 なお、RI廃棄物及び研究所等廃棄物は、原子力発電所や核燃料サイクルに係る事業所に比べ小規模事業所からの発生が多いこと、RI及び核燃料物質等を用いた多くの使用形態があることから放射性核種の種類、放射能濃度及び廃棄物の性状が一様でないこと等の共通事項があり、また、同一の研究施設等において、核燃料物質等とあわせてRIが使用される場合もあること等から、本報告書において両者に関して併せて検討したものである。


1)後述するように一つの研究施設において、核燃料物質等とあわせてRIが使用される場合があり、原子炉等規制法、放射線障害防止法の双方の規制を受ける廃棄物も発生している。本報告書においては、このような廃棄物については、研究所等廃棄物とした。

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第1章 RI廃棄物の処理処分に関する基本的考え方について

1.RI廃棄物の現状と今後の見通し

1.1 RIの利用とRI廃棄物の発生

 我が国では、RIは海外からの輸入と国内の原子炉や加速器による製造によって供給されている。これらのRIの供給は、病院等に設置された加速器で製造されるような極めて半減期の短いもの2)等を除き、そのほとんどが(社)日本アイソトープ協会を通して一元的に行われている(参考資料1)。
 RIは、主に放射性医薬品や研究用等のトレーサーとして様々な利用が行われている。医療分野では血液検査、肝機能検査、がんの検査等に利用されており、最近では、RIを利用したPET(ポジトロン断層診断装置)を用いる診断法も行われている。また、トレーサー利用としては、遺伝子情報解析等が挙げられる。密封線源としては、注射器等の医療器具の滅菌、微量物質の検出に用いるガスクロマトグラフ用の検出器、工業製品の厚さ計等に利用されている。さらに、溶接部の検査等の非破壊検査用としても用いられている。
 このようにRIの利用は、日常生活の向上や科学技術の発展に寄与してきたが、RIの利用の進展と共に、RI廃棄物も増加している。RI廃棄物には、医療機関から発生するものとして放射性医薬品用プラスチック試験管や注射器、ペーパータオル、ガラス容器等、研究機関から発生するものとして試験管等のプラスチックやガラス製の器具、ペーパータオル、金属容器、排気フィルタ等が挙げられる。RI廃棄物に特有の廃棄物としては、動物実験後の動物死体も発生している。また、加速器の利用においては、放射化した金属やコンクリート等の加速器本体と建屋の一部が廃棄物となる(参考資料2)。さらに、放射能が減衰して線源として利用できなくなった密封線源も各事業所及び(社)日本アイソトープ協会において保管されている。海外から輸入された密封線源については、海外の製造会社に返却されているものもあるが、その他の密封線源は我が国において最終的な処分が必要となる。

1.2 RI廃棄物の廃棄体3)数量等の推定

1.2.1 廃棄体数量の推定

 現在、我が国において発生するRI廃棄物のほとんどは、(社)日本アイソトープ協会において集荷されている(参考資料1)。全国のRI使用施設等から(社)日本アイソトープ協会が集めているRI廃棄物量は、平成元年度から平成8年度までの8年間の平均では、200リットル容器換算で年間約1万7千本(以下、特に付記しない場合には200リットル容器換算した本数)となっている。これらのRI廃棄物は(社)日本アイソトープ協会で焼却や圧縮処理により減容された状態又は未処理の状態で保管されている他、一部は日本原子力研究所で処理・保管されている。平成9年3月末時点で(社)日本アイソトープ協会で保管されているRI廃棄物量は、約7万2千本、日本原子力研究所での保管量は約3万3千本であり、合計で約10万5千本である。


2)例えば、心臓や肺の検査に使用される11Cの半減期は20.4分、脳酸素消費率の測定等に用いられる15Oの半減期は2.03分であり、通常検査に使用される放射能濃度(約10~10Bq/ml程度)では、1日以内で放射能は減衰して実質的に無くなる。
3)原子力安全委員会報告書では、廃棄体とは「ドラム缶にセメント固化等十分安定化処理されるか又は容器に封入された低レベル放射性固体廃棄物」(原子力安全委員会「低レベル放射性固体廃棄物の陸地処分の安全規制に関する基本的考え方」昭和60年10月11日)としており、廃棄物をセメント等でドラム缶等の容器に安定に固型化し最終的に埋設可能な形態のものを指す。本報告書では、「廃棄物量」とは「廃棄体」になる前までの廃棄物の量を指しており、「廃棄体数量」とは固型化等を行い埋設可能な段階になったものの数量を指す。

 RI廃棄物の処理処分方策の検討に当たり、RI廃棄物の発生量が現状のまま推移し、大部分の廃棄物を焼却、圧縮処理等の後にセメントで固型化することを想定した場合の、今後4)50年間での廃棄体数量を推定した。その結果、現在の保管量と将来の発生量を合わせて廃棄体数量は約21万本となった。また、将来導入されると考えられる減容性の高い溶融固化処理技術を用いた場合には、約5万3千本程度になると推定した。なお、本報告書では、主に、現在既に実用化されているセメントで固型化した場合(廃棄体数量が約21万本の場合)の処分方策について検討を行った。

1.2.2 RI廃棄物中の放射性核種と放射能濃度

(1)放射性核種の種類5)

 (社)日本アイソトープ協会がこれまでに集荷したRI廃棄物中に含まれる放射性核種は247核種に及んでいる。この中で半減期が1年未満の放射性核種は202核種、1年~10年のものは15核種、10年~30年のものは8核種、30年~100年のものが5核種、100年以上のものは17核種となっている。  RI廃棄物中に含まれる主な放射性核種は、医療機関や大学等から発生するものとしては、ベータ(β)線やガンマ(γ)線を放出する三重水素(H)、炭素14(14C)、リン32(32P)、鉄59(59Fe)、ストロンチウム90(90Sr)、テクニチウム99m(99mTc)、ヨウ素123(123I)、ヨウ素125(125I)、タリウム201(201Tl)等である。加速器の利用で発生する廃棄物中の主な放射性核種は、コバルト60(60Co)、亜鉛65(65Zn)等であり、半減期が数十日から数年程度のものが多い。また、廃棄物となる密封線源の主な放射性核種は60Co、ニッケル63(63Ni)、セシウム137(137Cs)、イリジウム192(192Ir)等であり、ラジウム226(226Ra)、アメリシウム241(241Am)のようなアルファ(α)線を放出する核種の線源もわずかではあるが存在している(参考資料3)。  この中で、半減期等を勘案し、埋設処分において放射線被ばくへの影響が大きいと考えられる放射性核種は、H、14C、60Co、90Sr、137Cs等である。


4)平成9年3月末を起点とした。
5)本報告書における放射性核種の種類は、廃棄物の発生時点で整理した。

(2)放射能濃度による区分

 原子炉等規制法施行令第13条の9で示されている放射能濃度上限値6)(参考資料4)を参考に7)RI廃棄物の廃棄体数量を区分すると、大部分の廃棄物が現行の政令濃度上限値以下のものに区分できる。更に、その9割以上は、極めて放射能レベルの低い放射性廃棄物(以下、「極低レベル放射性廃棄物」8))以下に相当するものである(政令濃度上限値以下のもので極低レベル放射性廃棄物より放射能濃度が高いものを以下、「政令濃度上限値以下の低レベル放射性廃棄物」)。なお、放射性物質としてその特殊性を考慮する必要性のない基準(クリアランスレベル9))以下に相当すると考えられる廃棄物も、国際原子力機関(IAEA)の提案値9)(参考資料5)を参考とすると、RI廃棄物量の半分程度を占めている。
 RIの利用形態の1つである密封線源等の場合、例えば10gの線源1つで1012ベクレル(Bq)を超えるような放射能量の多い線源も一部存在している。このような密封線源等が放射性廃棄物として処分される場合には、現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物に相当するものとなる。このうち、60Co(半減期約5年)、192Ir(半減期約74日)のような半減期が数年以下の密封線源等は、処分の前に一定期間保管することによって十分放射能を減衰させれば、「現行の政令濃度上限値以下の低レベル放射性廃棄物」として取り扱うことが可能である。したがって、現在使用されている密封線源等のうち、処分の時点で政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物になると考えられるものは、H(半減期約12年)と137Cs(半減期約30年)を用いた密封線源等であり、今後50年間における廃棄体数量は、処分容器に複数個の密封線源等を入れるとして約2千本程度と推定した。
 また、α核種である241Am等の密封線源の中には、その放射能濃度が約1ギガベクレル毎トン(GBq/t)を超えるTRU核種を含む放射性廃棄物10)に相当するものもある。このような廃棄物の今後50年間での廃棄体数量を約1千5百本と推定した。


6)原子炉等規制法施行令第13条の9においては、原子炉施設から発生する放射性廃棄物を容器に固型化したものを浅地中のコンクリートピット処分場に埋設処分する場合の廃棄体に含まれる放射能濃度の上限値を定めている(政令濃度上限値)。この放射能濃度は、放射性物質毎に異なるが、例えば60Coでは1.11×1013Bq/tである。
7)RI廃棄物の処分に係る放射能濃度上限値については、後述するように法令整備を行う必要があるが、ここでは、放射能濃度に応じた廃棄体数量を推定するため、RI廃棄物に含まれる放射性核種のうち、政令濃度上限値が示されていない放射性核種についても放射線被ばく上重要と考えられるものについては、政令濃度上限値の導出と同様の手法(参考資料4-2,4-3)で政令濃度上限値相当の放射能濃度を算出した。
8)原子炉等規制法施行令第13条の9においては、原子炉施設から発生する放射性廃棄物のうち、放射能濃度が極めて低いコンクリート等を固型化せずに浅地中の素掘り処分場に埋設処分する場合の廃棄体に含まれる放射能濃度の上限値を定めている。この放射能濃度は、放射性物質毎に異なるが、例えば60Coでは8.1×10Bq/tである。
9)放射性物質の取り扱い等に伴って発生する廃棄物の中には放射性物質の濃度が極めて低く、被ばく管理の観点から放射性物質としてその特殊性を考慮する必要のないものもある。このようなものを区分する基準は、クリアランスレベルと呼ばれている。無条件クリアランスレベルについては、IAEAが1996年に核種毎の具体的な放射性物質の濃度を提案している。
10)TRU核種を含む放射性廃棄物のうち、浅地中処分の可能性があるものについては、その放射能濃度の上限に関する一応の目安値を設定しておくことが望ましい、という観点から、原子炉施設から発生する放射性廃棄物の全α核種に対する現行の政令濃度上限値(1.11GBq/t)を基に設定された。

2.RI廃棄物の処理処分に関する基本的考え方

 放射性廃棄物の安全な処分は、廃棄物中に含まれる放射性物質やその他の有害な物質による生活環境への影響を未然に防止することである。即ち、これらの物質が廃棄物から溶出し生活環境に移行することを十分抑制すると共に、所要の監視等により安全であることを確認することが安全な処分の基本である。このためには、まず第一に、放射能濃度やその他の廃棄物の性状に応じた適切な処理処分が行われるよう廃棄物の分別管理を行う必要がある。第二に、環境負荷の低減の観点から処分すべき廃棄体数量を減らすと共に、廃棄体からの放射性物質やその他の有害な物質の溶出を十分抑制し、処理後の廃棄体の安定性を確保するため、焼却処理、固型化処理等の減容化、無害化、安定化処理を行う必要がある。第三に、埋設処分を行い、廃棄体と処分施設(人工バリア)や周辺土壌等(天然バリア)により、これらの物質の生活環境への移行を抑制することが必要である。さらに、所要の期間、処分施設や環境に対する監視等を行うことにより、処分が安全に行われていることを確認することが必要である。
 これらの点を踏まえ、RI廃棄物の処理処分及び処分場の管理に関する基本的考え方について検討した。

2.1 RI廃棄物の処理に関する基本的考え方

2.1.1 処理方法

 現在、(社)日本アイソトープ協会に集荷されたRI廃棄物の約6割は、同協会及び日本原子力研究所の施設において焼却処理や圧縮処理を行い保管されているが、固型化処理はなされていない。また、その他のRI廃棄物は未処理の状態で保管されている。このため、廃棄物の無害化、安定化等を図るため、適切な処理を行う必要がある。
 放射性廃棄物の処理技術は、日本原子力研究所や原子力発電所等において、焼却、セメント固化等により既に実用化されており、十分な実績を有していることから、今後、RI廃棄物の処理についても、これらの既存の処理技術が応用できると考えられるが、RI廃棄物の特性を踏まえて、以下の点に留意することが必要である。

RI廃棄物は、発生事業所において、可燃性廃棄物、不燃性廃棄物等に分別された後、(社)日本アイソトープ協会により集荷が行われている。「放射線利用統計」((社)日本アイソトープ協会、1997年)によると、焼却が可能な紙、布、プラスチック類等が発生量の約7割を占めている。また、不燃性廃棄物として集荷された廃棄物中にも有機性の焼却可能な廃棄物が混入している場合がある。したがって、このような廃棄物については、廃棄体数量の低減及び埋設処分に際しての汚水の発生防止のため、焼却処理や加熱処理を施すことが適当である。さらに、このような処理を行った後に、固型化材料を用いた固型化を実施し、廃棄体の安定化、放射性物質等の溶出の低減を図ることも重要である。
 また、日本原子力研究所や原子力発電所では、減容性の高い溶融固化処理が導入されつつある。RI廃棄物についても、減容性のみならず廃棄体の安定性、放射性物質等の耐溶出性の観点等から溶融固化処理の導入を検討すべきであると考えられる。
埋設処分に際して放射線の影響のほかに有害な物質についても考慮しておく必要がある。
 重金属を有意に含む一部のRI廃棄物については、発生源での分別を実施し、他の廃棄物中に混在しないようにすると共に、分別した重金属やそれを含む廃棄物については、適切な無害化処理を行う必要がある。具体的に発生しているものとしては、例えば、放射線の遮蔽用として使用されている鉛が挙げられる。このようなものについては、仮にRIが付着したとしても除染を行い、再利用を図ることも重要である。
 廃棄体の健全性を損なう恐れのあるような有機溶剤等も発生の段階又は処理の過程において分別すると共に、焼却等による適切な無害化を行う必要がある。
 また、医療機関等から発生するRI廃棄物には、感染性廃棄物に相当する廃棄物も含まれているため、焼却や加熱処理等により感染性をなくすことが必要である。
RI廃棄物には、医療機関から発生するRI廃棄物のように、半減期が数分から数十日と半減期の短い放射性核種のみを含む廃棄物も発生している。このようなRI廃棄物については、処理を行う際の被ばくの低減を図ると共に合理的な処分を行うために、他のRI廃棄物と分別管理して一定期間保管し、放射能の減衰を待って、処理を行うことが適当である(参考資料6)。RI廃棄物を、半減期1年未満のみの放射性核種を含むものとその他のものに区分した場合、廃棄体数量は、ほぼ半々程度と推定した。

 以上のように、RI廃棄物については、廃棄物中に含まれる放射性核種の種類、重金属等の含有の有無等を勘案して、発生事業所において適切に分別を行うと共に、廃棄物を安全かつ合理的に処理することが重要である(参考資料7)。

2.1.2 廃棄体の確認について

 RI廃棄物の埋設処分に際しては、廃棄体に含まれる放射性核種の種類、放射能濃度等が埋設の基準に適合していることを確認することが必要となる。特にRI廃棄物中には、β線のみを放出する放射性核種のみを含むものや放射能濃度が極めて低いものがあり、廃棄体容器外部からの放射線測定によって放射能濃度を算出することが難しい廃棄体が存在することが考えられる。
 原子炉施設から発生する廃棄物については、外部からの測定が容易な60Co等の実測値から難測定核種である63Ni等の放射能濃度を算出する方法(スケーリングファクター法)等が用いられている。これは原子炉施設の場合、廃棄物の発生形態が一様であり、放射性核種の種類とその組成が廃棄物毎にほぼ同じであることから採用されているものである。しかし、RI廃棄物は、発生形態が多様であり廃棄物中の放射性核種の組成が一様でないことから、必ずしも同様な方法を用いて放射能濃度を算出することができない場合が多い。したがって、廃棄体に含まれる放射性核種及び放射能濃度の確認方法の確立が必要である。
 RI廃棄物の廃棄体中の放射能濃度等の確認は、1)排出者が廃棄物毎に作成する廃棄物明細書に記載されている放射性核種とその放射能量、2)販売事業者における放射性核種の販売量データ、3)RI廃棄物の処理過程におけるサンプリング測定法による測定結果、4)外部測定法による測定結果等を適切に組み合わせて行うことが考えられ、今後、具体的方法について検討が必要である。
 また、処理をした後に、廃棄体に含まれる重金属等の溶出性が十分低いことも確認しておく必要がある。

2.2 RI廃棄物の処分に関する基本的考え方

 RI廃棄物を安全かつ合理的に処分するためには、廃棄体(コンクリート等で廃棄物自体が安定なために固型化処理されていない廃棄物を含む)の放射能濃度等を考慮し、それぞれの廃棄体に適した処分方法を採用することが必要である。したがって、RI廃棄物の処分方法について、廃棄体中の放射能濃度及び放射能以外の廃棄体の性状の観点からそれぞれ検討を行った。

(1)放射能濃度に対応した処分

 放射性廃棄物は、これに含まれる放射性核種の種類と放射能濃度を勘案して廃棄物を区分し、各々に適した処分施設において、安全かつ合理的な処分を行うことが必要である。
 現行の政令濃度上限値以下の低レベル放射性廃棄物(参考資料4)で、極低レベル放射性廃棄物より放射能濃度が高いRI廃棄物(廃棄体数量はRI廃棄物全体の5%程度)は、埋設処分に係る被ばく評価で重要となる放射性核種がH、14C、60Co、90Sr、137Cs等であることから、現行の発電所廃棄物と同様に浅地中の「コンクリートピット処分」が適当であると考えられる。
 RI廃棄物の大部分は、放射能濃度で区分すると、極低レベル放射性廃棄物以下のものである(参考資料4)。このような放射性廃棄物に関しては、原子炉等規制法において、原子炉施設から発生したコンクリート等を対象として、「人工構造物を設けない浅地中処分(素掘り処分)」が可能とされており、この廃棄物に相当するRI廃棄物についても同様に、放射能濃度の観点からは「素掘り処分」が可能と考えられる。
 さらに、密封線源等の放射性廃棄物の一部には、βγ核種やα核種の放射能濃度が高く、現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物やTRU核種を含む放射性廃棄物に相当するものがある。これらの廃棄物については、今後検討されるそれぞれの放射性廃棄物の処分方策に準じて埋設処分を行うことが必要である。
 なお、RI廃棄物のうち、クリアランスレベル以下に相当すると考えられる廃棄物については、クリアランスレベルに関する原子力安全委員会での検討状況を踏まえつつ、適切に分別管理を行っておくことが重要である。

(2)放射能以外の廃棄体の性状に対応した処分

 RI廃棄物の廃棄体の大部分は、焼却灰や金属等をセメント等の固型化材料で固型化されたものと考えられる。また、一部には有害な物質を含む廃棄物を無害化処理を行って廃棄体としたものも含まれると考えられる。これらのRI廃棄物については、放射性物質の観点以外にも、廃棄体からの有機性の汚水の発生や重金属の溶出等を考慮した対策が必要である。したがって、処理に関する基本的考え方において述べたように、事前に分別管理と無害化処理を行って有害な物質を処分場に持ち込まないようにすると共に、処分場についても所要の浸出水の発生抑制や水質の管理等の対策を講じることが必要である。
 処分についての具体的な対策としては、処分場への雨水等の流入を防いで浸出水の発生を極力避けると共に、浸出水が発生しても、浸出水の管理と適切な処理を行うことにより環境への影響が生じないようにする必要がある。したがって、極低レベル放射性廃棄物については、前述したように放射性物質の観点からは「素掘り処分」により安全かつ合理的な処分が可能であるが、このうち、廃棄物自体が安定で汚水を発生しないコンクリート等以外の廃棄物については「素掘り処分」ではなく、廃棄物の処理及び清掃に関する法律における「管理型処分場」の構造基準(透水性の低い粘土や二重の遮水シート等の設置、浸出水処理施設の設置、水質の監視等の基準)を踏まえた処分施設を設置することが必要であると考えられる。

 また、加速器の解体等で発生するようなコンクリート等の廃棄物については、廃棄物自体が安定なものであることから、放射能濃度に応じて「素掘り処分」又は浅地中の「コンクリートピット処分」を行うことで、安全かつ合理的な処分が実施できる。

 以上のことをまとめると、RI廃棄物の処分方策は、現在の処理技術を前提とした場合、表1のように整理される(参考資料8)。ただし、ここに挙げた廃棄体数量は現時点における推定数量をそれぞれの廃棄物区分に割り振ったものであり、今後の廃棄物の発生量の変動や減容性の高い処理技術の導入等により変わり得る。

表1 RI廃棄物の区分と処分形態
廃棄物の区分想定される処分形態廃棄体数量(推定値)
α核種の放射能濃度が約1GBq/tを超える放射性廃棄物1) 今後検討される処分方策に準じる約   1.5千本
現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物 今後検討される処分方策に準じる約    2千本
現行の政令濃度上限値以下の低レベル放射性廃棄物 コンクリートピット処分約 1万  本
極低レベル放射性廃棄物安定なコンクリート等素掘り処分約 2万4千本
その他「管理型処分」2)と同様な処分約 5万8千本
クリアランスレベル以下のもの再利用又は産業廃棄物と同様の処分約11万8千本3)
合    計
約21万3千本
(セメントで固型化したRI廃棄物の廃棄体が50年間で約21万本発生すると推定した場合)
1)TRU核種を含む放射性廃棄物のうち区分目安値(α核種の放射能濃度:約1GBq/t)を超える廃棄物に相当する放射性廃棄物である。
2)廃棄物の処理及び清掃に関する法律で示されている「管理型処分」。
3)IAEAで提案されているクリアランスレベルの値を参考にした。

2.3 RI廃棄物処分場の管理に関する基本的考え方

 RI廃棄物処分場の管理についても、放射性物質としての管理とその他の廃棄体の性状に対応した管理を行うことが必要である。

(1)放射能の減衰に応じた管理

 放射性廃棄物の処分に当たっては、放射性物質の人工バリアからの漏出及び放射性物質の生活環境への移行を監視すると共に、処分場を掘り返す等の特定行為を禁止する等の処分場の管理を行うことが必要である。廃棄物中の放射能は時間の経過と共に減衰するため、放射性廃棄物処分場の管理は、放射能の減衰に応じて段階的に行うことが重要である。
 放射性廃棄物処分場の段階的な管理の在り方としては、原子力安全委員会(「放射性廃棄物埋設施設の安全審査の基本的考え方」昭和63年3月(平成5年1月一部改定))において(参考資料9)、現行の政令濃度上限値以下の低レベル放射性廃棄物及び極低レベル放射性廃棄物について、以下のように示されている。この考え方は、既に原子炉施設から発生する放射性廃棄物の埋設処分に適用されており、RI廃棄物についても同様な管理を行うことが適当である。

現行の政令濃度上限値以下の低レベル放射性廃棄物処分場の管理

人工バリアにより放射性物質が人工バリア外へ漏出することを防止するとともに、人工バリアから放射性物質が漏出していないことを監視する(第一段階)。
人工バリアと天然バリアにより放射性物質の生活環境への移行を抑制するとともに、放射性物質の人工バリアからの漏出及び生活環境への移行を監視する(第二段階)。
主として天然バリアにより放射性物質の生活環境への移行を抑制するとともに、特定の行為の禁止又は制約をするための措置を講じる(第三段階)。

極低レベル放射性廃棄物処分場の管理

天然バリアにより放射性物質の生活環境への移行を抑制するとともに、放射性物質の廃棄物埋設地から生活環境への移行を監視する(埋設段階)。
天然バリアにより放射性物質の生活環境への移行を抑制するとともに、特定の行為の禁止又は制約をするための措置を講じる(保全段階)。

 なお、現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物及びTRU核種を含む放射性廃棄物に相当するRI廃棄物については、今後検討される当該廃棄物の管理の考え方に準ずることとする。

(2)放射能以外の廃棄体の性状に対応した管理

 RI廃棄物の処分場においては、焼却灰等を固型化した廃棄体や有害な物質を含む廃棄物を無害化処理した廃棄体が埋設される。したがって、当該廃棄物については、放射性物質としての管理以外にも、処分場において発生する浸出水による有害な物質の環境への移行について監視等を行うことが重要である。具体的には、廃棄物の処理及び清掃に関する法律における「管理型処分場」の管理基準(浸出水の発生の監視と水質検査並びに水処理施設の設置により所要の観測、測定を行うこと等の基準)を踏まえる管理とすることが必要と考えられる。また、処分場の廃止についても、同様に「管理型処分場」に係る基準と同様な基準を満たすことが必要であると考えられる。

(3)管理記録の保存

 処分場の建設、運営に係る管理記録等については、原子炉等規制法において既存の低レベル放射性廃棄物処分場に対して保存すべき記録が規定されているが、安全に処分が実施されていることを確認するため、RI廃棄物についても同様に管理記録等の保存を行うことが必要である。

2.4 今後の廃棄物処理技術の向上への対応

 溶融固化処理技術は、廃棄物の減容性を高めると共に、放射性物質やその他の重金属等の溶出を抑制する能力を高めることができる。即ち、溶融固化処理技術を導入することにより、RI廃棄物の廃棄体数量を大きく減少させるのみならず、廃棄体の安定性を高め、廃棄体からの重金属等の溶出抑制を向上させることができるため、現行では極低レベル放射性廃棄物のうち「管理型処分」と同様な処分が必要な廃棄物について、将来、「素掘り処分」が可能になることも考えられる。
 このため、溶融固化処理の導入について検討を行うと共に、溶融固化体からの重金属等の溶出が長期にわたり十分抑制されることについて研究開発を行うことが重要である。

2.5 まとめ

 RI廃棄物の大部分は、現行の政令濃度上限値以下の廃棄物であり、また、その大部分は、極低レベル放射性廃棄物以下に相当する。このような廃棄物の処理処分については、既に実績を有しており、現在の技術で対応が可能である。
 具体的には、以下のような対策により、RI廃棄物の安全かつ合理的な埋設処分を行うことができる。

廃棄物の放射能濃度やその他の性状に応じた適切な処理処分が行われるよう分別管理を行う。
廃棄体数量の低減化を図ると共に、廃棄体から放射性物質とその他の有害な物質の溶出を抑制し、廃棄体の安定性を確保するため、焼却、固型化等の適切な処理(廃棄物自体が安定なコンクリート等を除く)を行う。
廃棄体を放射能濃度等に応じて区分し、各区分に応じた適切な処分施設を設置して、処分施設(人工バリア)や周辺土壌等(天然バリア)により放射性物質及びその他の有害な物質の生活環境への移行を抑制する。
処分施設や環境に対する所要の監視等の適切な管理を行う。

また、密封線源等の一部には、βγ核種やα核種の放射能濃度が高く、現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物やTRU核種を含む放射性廃棄物に相当するものがある。これらの廃棄物については、今後検討されるそれぞれの放射性廃棄物の処分方策に準じて埋設処分を行うことが必要である。

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第2章 研究所等廃棄物の処理処分に関する基本的考え方について

1.研究所等廃棄物の現状と今後の見通し

1.1 研究所等廃棄物の発生

 日本原子力研究所等の研究機関、大学、民間企業等においては原子力の利用に関する研究開発のため、試験研究炉や核燃料物質等の使用施設等を設置して、原子力の安全研究等の様々な研究開発が実施されている。また、一部の民間企業においては核燃料物質を金属触媒に使用する等、研究以外の目的でも核燃料物質等が使用されている。これらの研究等に伴い発生する廃棄物のほとんどは、廃棄物を発生させている事業所で保管されている。
 主な研究所等廃棄物は、施設の運転や実験に伴って発生する廃液、ペーパータオル、排気フィルタ、試験管等や施設の解体により発生するコンクリートや金属等である(参考資料2)。

1.2 研究所等廃棄物の廃棄体数量等の推定

1.2.1 廃棄体数量の推定

 研究所等廃棄物の発生量については、試験研究炉の運転や核燃料物質等の使用施設等から発生する廃棄物のほか、現在稼働中の施設の将来の廃止措置により発生する廃棄物も考慮して、今後50年間について廃棄体数量を推定した。その結果、現在の保管量と将来の発生量を合わせて、廃棄体数量は約101万本となった。

1.2.2 研究所等廃棄物中の放射性核種と放射能濃度

(1)放射性核種の種類

 研究所等廃棄物としては、実験等により放射性物質が付着したペーパータオル、器具等と試験研究炉により放射化された金属、コンクリート等が発生している。
 試験研究炉から発生する廃棄物に含まれる放射性核種は、原子力発電所の運転及び解体に伴って発生する廃棄物中に含まれる放射性核種と同様のH、14C、60Co、90Sr、137Cs等である。
 核燃料物質等の使用施設等から発生する廃棄物には、ウラン、トリウムのみを含む廃棄物のほか、一部の研究施設からは使用済燃料の破壊検査等に伴い241Amや237NpのようなTRU核種を含む放射性廃棄物も発生している。

(2)放射能濃度による区分

 原子炉等規制法施行令第13条の9で示されている放射能濃度上限値(参考資料4)を参考に研究所等廃棄物の廃棄体数量を区分すると、大部分の研究所等廃棄物は、現行の政令濃度上限値以下のものである。さらに、その約9割は、極低レベル放射性廃棄物以下に相当するものであるが、その中でクリアランスレベル以下に相当すると考えられる廃棄物は、IAEAの提案値(参考資料5)を参考とすると、研究所等廃棄物の全体の約6割を占めている。
 また、現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物、ウラン廃棄物に相当するものもごくわずか含まれているほか、α核種濃度が約1GBq/tを超えるものも数%存在する。

2.研究所等廃棄物の処理処分に関する基本的考え方

 研究所等廃棄物についても処分を安全に行うための基本となる考え方は、RI廃棄物と同様である。即ち、まず、廃棄物の性状等に応じた分別管理を行い、減容化、無害化及び安定化処理を行うことが必要である。処分に際しては、廃棄体中に含まれる放射性物質及びその他の有害な物質の環境中への移行を抑制するように処分場において十分閉じ込めると共に、処分場の所要の管理を行うことが必要である。これらの点を踏まえ、研究所等廃棄物の処理処分及び処分場の管理に関する基本的考え方について検討した。

2.1 研究所等廃棄物の処理に関する基本的考え方

2.1.1 処理方法

 主要な廃棄物発生事業者である日本原子力研究所では、廃棄物は種類に応じて分別され、廃液については濃縮処理後セメント又はアスファルト固化、可燃性廃棄物については焼却、不燃性廃棄物については必要に応じ圧縮等の処理が行われた後、保管されている。なお、同研究所においては、廃棄物の減容と安定化を図るため、金属廃棄物の高圧縮処理及び溶融固化処理並びに金属以外の雑固体廃棄物の溶融固化処理を行う高減容処理施設の建設・整備が進められている。
 一方、大学のような小規模の使用施設や原子炉施設を有する事業所においては、一部の事業所で圧縮処理等が行われているものの、大部分の廃棄物は未処理のまま保管されている。このような未処理の廃棄物については、廃棄物の減容化と安定化等を図るため、処理を行う必要がある。また、これらの事業所は、小規模事業所が多いことから、各事業所において処理施設を設置するよりも経済性や廃棄体の規格化等を考慮して集中的に廃棄物を処理する施設を整備することも必要であると考えられる。これらの放射性廃棄物の処理技術としては、原子力発電所や日本原子力研究所等で用いられている既存技術で対応可能であると考えられる(参考資料7)。
 また、廃棄体の健全性を損なうおそれのある物質等は、RI廃棄物と同様に、分別管理を行うと共に、適切な無害化処理を行う必要がある。

2.1.2 廃棄体の確認について

 研究所等廃棄物は、RI廃棄物と同様に、その発生源が一様でなく、廃棄物に含まれる放射性核種、放射能濃度等の確認方法が重要となる。
 研究所等廃棄物のうち試験研究炉の運転及び解体に伴って発生する廃棄物については、放射性核種の組成が発電所廃棄物と同様と考えられるので、発電所廃棄物に用いられているスケーリングファクター法等の適用が可能であると考えられるが、核燃料物質等の使用施設等から発生する廃棄物については、施設の運転履歴、放射性核種の使用履歴、廃棄体試料の分析や外部放射線の測定等を適切に組み合わせ、廃棄体に含まれる放射性核種及び放射能濃度を評価する必要がある。

2.2 研究所等廃棄物の処分に関する基本的考え方

 放射性廃棄物の処分は、廃棄物の種類、放射能濃度等に応じて、適切に区分して実施する必要があり、現行の発電所廃棄物の処分方策等を参考にすると、以下のようになる。

(1)現行の政令濃度上限値以下の低レベル放射性廃棄物

 研究所等廃棄物のうち、現行の政令濃度上限値以下の低レベル放射性廃棄物(参考資料4)は、試験研究炉の運転等により発生している。これらの廃棄物に含まれる放射性核種は発電所廃棄物と同様、主にH、14C、60Co、90Sr、137Cs等である。このため、当該廃棄物の処分は、原子炉等規制法で既に規定されている浅地中の「コンクリートピット処分」が適当である(参考資料8)。

(2)極低レベル放射性廃棄物

 極低レベル放射性廃棄物(参考資料4)は、主に試験研究炉や核燃料物質等の使用施設等の解体で発生するコンクリート等であって、原子力発電所の解体等により発生する極低レベル放射性廃棄物と類似したものである。
 日本原子力研究所の試験研究炉である動力試験炉(JPDR)の解体から発生した廃棄物のうち極低レベル放射性廃棄物であるコンクリート等は既に原子炉等規制法の下で「素掘り処分」により埋設実地試験がなされている。この結果を踏まえ、他の試験研究炉及び核燃料物質等の使用施設等から発生する極低レベル放射性廃棄物の約8割を占めるコンクリート等廃棄物についても、廃棄体中の放射能濃度等が埋設に係る技術基準に適合して安全であることを確認した上で「素掘り処分」により処分することが適当である(参考資料8)。
 その他の極低レベル放射性廃棄物は、焼却灰や金属等を固型化したものである。このような廃棄物については、放射能の観点以外にも、廃棄体からの有機性の汚水の発生や重金属の溶出等を考慮した対策が必要である。即ち、RI廃棄物と同様に、分別管理、無害化処理等を行った後、「管理型処分場」の構造基準を踏まえた処分施設での処分が必要であると考えられる。

(3)現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物、TRU核種を含む放射性廃棄物及びウラン廃棄物相当の放射性廃棄物

 現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物、TRU核種を含む放射性廃棄物及びウラン廃棄物に相当する廃棄物については、今後検討されるそれぞれの放射性廃棄物の処分方策に準じて埋設処分を行うことが必要である。

(4)クリアランスレベル以下の廃棄物

 原子炉施設等の解体等に伴い発生する廃棄物についてはクリアランスレベル以下に相当すると考えられる廃棄物が多く含まれる。このような廃棄物については、クリアランスレベルの検討状況を踏まえつつ、適切な分別管理を行っておくことが必要である。

 以上のことをまとめると、研究所等廃棄物の処分方策は、現状の処理技術を前提とした場合、表2のように整理される(参考資料8)。ただし、ここに挙げた廃棄体数量はRI廃棄物と同様、現時点における推定量をそれぞれの廃棄物区分に割り振ったものであり、今後の廃棄物の発生量の変動や処理方法により変わり得る。

表2 研究所等廃棄物の区分と処分形態
廃棄物の区分想定される処分形態廃棄体数量(推定値)
α核種の放射能濃度が約1GBq/tを超える放射性廃棄物1) 今後検討される処分方策に準じる約  3万  本2)
現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物 今後検討される処分方策に準じる約    3千本
現行の政令濃度上限値以下の低レベル放射性廃棄物 コンクリートピット処分約 13万4千本3)
極低レベル放射性廃棄物安定なコンクリート等素掘り処分約 20万6千本
その他「管理型処分」4)と同様な処分約  5万1千本
クリアランスレベル以下のもの 再利用又は産業廃棄物と同様の処分約 59万  本5)
合    計
約101万4千本
1)TRU核種を含む放射性廃棄物のうち区分目安値(α核種の放射能濃度:約1GBq/t)を超える廃棄物に相当する放射性廃棄物である。
2)日本原子力研究所においては、α核種の放射能濃度が約1GBq/tを超える放射性廃棄物と照射済み試験片が混在して保管されているが、今後分別がなされる予定であり、数量について変更があり得る。
3)ウラン、トリウムのみを含む廃棄物約3千本も含まれている。
4)廃棄物の処理及び清掃に関する法律で示されている「管理型処分」。
5)IAEAで提案されているクリアランスレベルの値を参考にした。
(注)動力炉・核燃料開発事業団から発生する放射性廃棄物のうち、核燃料サイクル関連施設から発生するTRU核種を含む放射性廃棄物やウラン廃棄物並びに発電所廃棄物として発生段階で区分されているものについては、ここでの廃棄体数量には含めていない。

2.3 研究所等廃棄物処分場の管理に関する基本的考え方

(1)放射能の減衰に応じた管理

 研究所等廃棄物処分場においても、放射性物質の人工バリアからの漏出及び放射性物質の生活環境への移行を監視すると共に、処分場を掘り返す等の特定行為を禁止する等の処分場の管理を行うことが必要である。廃棄物中の放射能は時間の経過と共に減衰するため、放射性廃棄物処分場の管理の在り方は、放射能の減衰に応じて段階的(参考資料9)に行うことが重要である。具体的な管理内容は、RI廃棄物処分場と同様、以下のとおりである。

現行の政令濃度上限値以下の低レベル放射性廃棄物処分場の管理

人工バリアにより放射性物質が人工バリア外へ漏出することを防止するとともに、人工バリアから放射性物質が漏出していないことを監視する(第一段階)。
人工バリアと天然バリアにより放射性物質の生活環境への移行を抑制するとともに、放射性物質の人工バリアからの漏出及び生活環境への移行を監視する(第二段階)。
主として天然バリアにより放射性物質の生活環境への移行を抑制するとともに、特定の行為の禁止又は制約をするための措置を講じる(第三段階)。

極低レベル放射性廃棄物処分場の管理

天然バリアにより放射性物質の生活環境への移行を抑制するとともに、放射性物質の廃棄物埋設地から生活環境への移行を監視する(埋設段階)。
天然バリアにより放射性物質の生活環境への移行を抑制するとともに、特定の行為の禁止又は制約をするための措置を講じる(保全段階)。

 また、現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物、TRU核種を含む放射性廃棄物及びウラン廃棄物に相当する廃棄物については、今後検討される当該廃棄物の管理の考え方に準ずることとする。

(2)放射能以外の廃棄体の性状に対応した管理

 研究所等廃棄物についても、焼却灰等を固型化した廃棄体や有害な物質を含む廃棄物を無害化処理した廃棄体を「管理型処分場」と同様な処分場に埋設するに当たっては、RI廃棄物と同様に廃棄物の処理及び清掃に関する法律における「管理型処分場」の管理基準(浸出水の発生の監視と水質検査並びに水処理施設の設置により所要の観測、測定を行うこと等の基準)を踏まえた管理を行うことが必要と考えられる。また、処分場の廃止についても、同様に「管理型処分場」に係る基準と同様な基準を満たすことが必要であると考えられる。

(3)管理記録の保存

 原子炉等規制法においては、放射性廃棄物処分場について保存すべき記録が規定されているが、研究所等廃棄物の処分が安全に実施されていることを確認できるよう、これらの規定に基づき処分場の建設、運営に係る管理記録等が適切に保存されることが必要である。

2.4 今後の廃棄物処理技術の向上への対応

 研究所等廃棄物の多くを発生している日本原子力研究所においては、研究開発の一環として、溶融固化処理技術の導入を図っているところである。溶融固化処理技術は、RI廃棄物について述べたように、廃棄物の減容性を高めると共に、放射性物質やその他の重金属等の溶出抑制の向上を図ることができる。これにより、極低レベル放射性廃棄物のうち、「管理型処分」と同様な処分が必要な廃棄物について、将来、「素掘り処分」が可能になることも考えられる。したがって、他の事業所から発生する研究所等廃棄物に対しても溶融固化処理技術の導入について検討を行うと共に、溶融固化体からの重金属等の溶出が長期にわたり十分抑制されることについて研究開発を行うことが重要である。

2.5 まとめ

 研究所等廃棄物についても、RI廃棄物と同様に、以下のような対策により安全かつ合理的な埋設処分を行うことができる。

廃棄物の放射能濃度やその他の性状に応じた適切な処理処分が行われるよう分別管理を行う。
廃棄体からの放射性物質等の溶出を抑制し、廃棄体の安定化、廃棄体数量の低減化を図るために、固型化等の適切な処理を行う。
廃棄体を放射能濃度等に応じて区分を行い、各区分に応じた適切な処分施設を設置して、処分施設(人工バリア)や周辺土壌等(天然バリア)により放射性物質等の生活環境への移行を抑制する。
処分施設や環境に対する所要の監視等の適切な管理を行う。

また、βγ核種やα核種の放射能濃度が高く、現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物、TRU核種を含む放射性廃棄物及びウラン廃棄物に相当する廃棄物については、今後検討されるそれぞれの放射性廃棄物の処分方策に準じて埋設処分を行うことが必要である。

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第3章 安全確保のための諸制度の整備

1.RI廃棄物について

 RI廃棄物は、放射線障害防止法、医療法、薬事法及び臨床検査技師法(参考資料1)により規制されているが、これらの法律には、現在保管廃棄までの規定しかなく(参考資料10)、処分に係る法令の整備を行うことが必要である。具体的には、原子炉等規制法に基づく廃棄物処分に係る規制を踏まえつつ、処分に係る事業許可、放射能濃度上限値設定、埋設施設及び廃棄体に係る技術基準等について法令整備を行う必要があると考えられる。

2.研究所等廃棄物について

 研究所等廃棄物は、原子炉施設から発生する放射性廃棄物と核燃料物質等の使用施設等から発生する放射性廃棄物に大別される。
 原子炉施設から発生する研究所等廃棄物については、原子炉等規制法の下で処分に関する諸規定が昭和61年の法改正等、逐次整備されており(参考資料11)、先例として、日本原子力研究所のJPDR解体時のコンクリート等廃棄物は、現行制度の下で既に埋設実地試験がなされている。
 他方、核燃料物質等の使用施設等から発生する廃棄物については、埋設処分に関する放射能濃度上限値等の法令の整備がなされていないが、これらはTRU核種を含む放射性廃棄物やウラン廃棄物に相当するものであり、今後検討されるこれらの放射性廃棄物処分方策を踏まえ、最終処分に係る関係法令の整備を行っていくことが必要である。
 また、試験研究炉の運転、核燃料物質等の使用等を行っている研究所等においては、併せてRIが使用されることも多く、原子炉等規制法及び放射線障害防止法の双方の規制を受ける廃棄物も発生している(参考資料12)。このような廃棄物は、主に日本原子力研究所等から発生しており、同研究所において、双方の規制を受ける廃棄物は、現在6割以上あり、我が国における研究所等廃棄物全体の発生量に占める割合も大きい。双方の規制を受ける廃棄物は、「研究の過程においてRIと核燃料物質等を併せて使用する等、廃棄物の発生時において既に双方の規制を受ける廃棄物」と「廃棄物の発生時には各々の規制のみを受けていたにも拘わらず、処理の段階において混合され、結果として双方の規制を受ける廃棄物」の2種類が考えられる。後者については、廃棄体の確認等処分に係る手続きがいたずらに煩雑化しないよう、原則として、排出者において適切な分別管理を実施することが必要と考えられる。また、双方の規制を受ける廃棄物の処分が円滑に行われるよう、それぞれの基準や手続き等の整合性に配慮し、関連法令の整備を図ることが重要である。

3.安全な管理・確認システムの確立

 RI・研究所等廃棄物の処分に係る安全が確保されるためには、処分される廃棄体に含まれる放射性核種、放射能濃度等が埋設の基準に適合していることを確認することが必要である。
 RI・研究所等廃棄物は、その発生源、廃棄物中の放射性核種、放射能濃度、廃棄体の性状、保管形態等が多種多様であるため、合理的、効率的な廃棄体の確認方法の確立が必要である。即ち、RIの販売時におけるデータ、原子炉施設の運転者、RI及び核燃料物質等の使用者等による記録、処理時におけるサンプリング測定等を組み合わせた廃棄体確認方法の確立が必要である。
 このため、廃棄物の排出者等は、廃棄物をその発生源や放射性核種、廃棄物の性状等により適切に分類し、それぞれの分類毎の処理方法、放射能濃度の確認方法等を確立する必要があり、国は、これらに対応した安全かつ合理的な基準等を整備することが必要である。
 なお、RI及び核燃料物質等については、その使用から廃棄(保管廃棄)の段階まで放射線障害防止法、医療法、薬事法、臨床検査技師法及び原子炉等規制法において規制され、管理と記録の保持が義務づけられている。さらに、原子炉等規制法では、原子炉施設から発生する廃棄物について、埋設処分に当たっては、国による廃棄体の確認等が義務づけられている。RI・研究所等廃棄物に係る法令整備においては、現行の規制を踏まえつつ、埋設処分に際しての廃棄体の確認を適切に行うこと等により、廃棄物の発生から処分に至るまで放射性廃棄物の一貫した管理・確認が行われるよう措置することが必要である。

4.有害な物質への対応

 RI・研究所等廃棄物には、感染性廃棄物や重金属等を含む廃棄物も一部含まれている。このため、発生段階における分別管理、溶融、焼却等の無害化処理、処分に際しての廃棄体の確認、また処分場の建設、操業及び管理等、各段階において有害な物質への対応が図られる必要がある。このため、有害な物質への対応が図られるよう関連法令等も参考に、放射線障害防止法における基準等を整備すると共に、有害な物質の溶出抑制を一層高める固型化技術開発とその溶出率の評価等の研究開発を進めることが重要である。

5.現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物、TRU核種を含む放射性廃棄物及びウラン廃棄物への対応

 RI・研究所等廃棄物の中には、現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物やTRU核種を含む放射性廃棄物及びウラン廃棄物に相当する廃棄物も一部含まれている。これらの放射性廃棄物については、今後検討される各々の放射性廃棄物の処分方策に準じて基準等の整備を順次実施する必要がある。

6.新たなRI及び核燃料物質等の利用への対応

 本報告書で示した処理処分方策は、RI等の利用の現状を踏まえたものである。今後、加速器や原子炉における新たな放射性核種の生成やその使用等、現状とは異なるRIや核燃料物質等の利用が行われる可能性もある。このような新たなRIの利用等から生ずる放射性廃棄物についても、分別管理、無害化処理、放射能濃度等を考慮した処分方法及び処分場の適切な管理等のRI・研究所等廃棄物の処理処分に関する基本的考え方は変わることはないものと考えられる。しかしながら、規制対象となる放射性核種の種類や埋設に当たっての放射能濃度上限値等の基準については、RIや核燃料物質等の利用状況に応じて適宜見直すことが必要である。

7.クリアランスレベルの適用について

 廃棄物の放射能濃度に応じた安全かつ合理的な処分・再利用を実施するためには、RI・研究所等廃棄物について、クリアランスレベル(参考資料5)を導入することが望まれる。また、RI・研究所等廃棄物は多種多様であることから、クリアランスレベルの導入に当たっては、クリアランスレベル以下であることの合理的な確認方法等について検討することも必要であると考えられる。
 このようなクリアランスレベルの導入により、RI・研究所等廃棄物の半分以上がクリアランスレベル以下の廃棄物になると想定されることから、放射性物質として取り扱うべき廃棄物量を大幅に減少させることができ、また資源の有効利用を通じ環境負荷の低減に資するものと考えられる。我が国においては、現在、原子力安全委員会放射性廃棄物安全基準専門部会において、原子炉施設から発生する廃棄物のクリアランスレベルの設定について検討が行われており、RI・研究所等廃棄物についても引き続き検討が実施される予定である。

8.短半減期の放射性核種のみを含む廃棄物の取扱いについて

 RI廃棄物には、第1章2.1.1で述べたように、短半減期の放射性核種のみを含む廃棄物も発生している。このような廃棄物の放射能は、短期間のうちに、十分減衰して実質的になくなるものであり(参考資料6)、一定期間保管管理した後は、放射性廃棄物として取扱うことは合理的ではなく、汚染の可能性が全くない廃棄物として処分できるものと考えられる。したがって、短半減期の放射性核種のみを含む廃棄物については、その取扱いの考え方、放射能が十分減衰したことの合理的な確認方法等について検討することが必要であると考えられる。

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第4章 処分事業の実施体制の確立及び実施スケジュール

 RI・研究所等廃棄物の処分については、「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(原子力委員会、平成6年6月)において、「RI廃棄物の処分については、日本原子力研究所と廃棄事業者としてRI使用者等からRI廃棄物を譲渡され自ら保管廃棄している(社)日本アイソトープ協会等の主要な責任主体が協力して、実施スケジュール、実施体制、資金確保等について、早急に検討を始めることとします。」とされている。また、「研究所等廃棄物は、直接の廃棄物発生者である日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団等の主要な機関が協力して、実施スケジュール、実施体制、資金の確保等について、早急に検討を進めることとします。」とされている。これらを受け、処分事業の具体化に向けた取り組みとして、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団及び(社)日本アイソトープ協会により、「RI・研究所等廃棄物事業推進準備会」(以下、「準備会」)が平成9年10月に設置されたところである。準備会においては、処分事業主体の設立、実施スケジュール、資金確保策等について検討が行われる予定である。今後、処分事業が着実・円滑に実施されるよう、準備会、関係機関及び国は、以下の諸点に留意し、十分な連携を図り、実施体制の確立等を図ることが必要である。

1.関係機関における責任及び役割分担の考え方

 RI・研究所等廃棄物は、廃棄物の排出者の責任において処理処分が実施されることが基本であり、具体的には、RIや核燃料物質等の使用者等が、RI・研究所等廃棄物の排出者として、最終的な処分費用を負担することにより、その責任を果たしていくこととなる。
 他方、RIの製造者、RIの販売業者(輸入業者を含む)、処分事業者等の、RI等の製造、流通、処理処分の各段階における事業者の役割分担についても検討を行う必要があると考えられる。例えば、処理処分に際し対応が必要となる有害な物質とRI等が廃棄物中に混在しないように分別可能な製品とすること、放射性医薬品の容器を不燃性のガラス等から可燃性のものに替えること等により、廃棄物の発生量を減らし、その処理処分が適切に行われることとなる。このため、RI・研究所等廃棄物の排出者のみならず、RIの製造者等の関係する者が協力し、適切な対応をとることが重要である。
 また、国は、RI・研究所等廃棄物の埋設処分に係る関連法令の整備を図り、これに基づく厳正な規制を行うと共に、廃棄物排出者や処分事業主体において、当該廃棄物の管理や処理処分が適切に行われるよう、関連法令に基づくこれらの事業者への指導監督等の必要な措置を講ずることとする。

2.処分事業主体の在り方

 RI・研究所等廃棄物は、原子力発電所から発生する廃棄物と異なり、放射性物質の使用目的、事業規模、資金背景等の異なる大小様々な全国の諸機関・団体から発生しており、責任及び役割分担の考え方も一様ではない。このような関係機関の意見を集約し、処分の進め方について共通の認識を形成しておくことは、処分事業主体の事業基盤を固め、処分事業を円滑に進める上で重要である。このため、廃棄物排出者等の関係機関が積極的に今後の処理処分に係る検討に参加することが重要であり、準備会においては、このような関係機関の参加を得て、RI・研究所等廃棄物の合理的かつ総合的な処理処分の方法や関係機関の役割分担の具体化について検討を行う体制を整えることが重要である。
 現在、(社)日本アイソトープ協会においては、RI使用開始前の事業所の登録、RI廃棄物集荷容器の貸与、RI廃棄物の種別・核種等による分別と、これらを記入した記録票の提出、廃棄物集荷時期の周知等、廃棄物処理に係る一連の手続きを整備し、RI廃棄物を集荷している(参考資料1)。しかし、研究所等廃棄物については、RI廃棄物のような一元的な廃棄物の集荷・処理システムは整備されていない。したがって、RI・研究所等廃棄物の処理処分が適切に行われるためには、当該廃棄物が様々な事業所から発生する多様な廃棄物であることを踏まえ、(社)日本アイソト-プ協会における現在の手続きも参考に、処理処分に係る合理的な全体のシステムを構築していくことが重要である。その中で特に、当該廃棄物の処分に当たっては、分別管理や廃棄体の確認が重要なプロセスであり、また今後、集中処理施設等の検討が必要であることも踏まえ、準備会においては、(社)日本アイソトープ協会や日本原子力研究所等の現在の事業や既存の施設との連携を考慮し、最終処分事業以外に処分事業主体がどのような役割を担うべきかについて十分検討を行うことが必要である。
 また、処分事業主体は、処分を安全に行うために技術的能力と経理的基盤を十分に備えることが不可欠である。さらに、事業が長期にわたるため、長期安定性が必要であるが、他方で事態の変化に対応できる機動性、柔軟性のある組織が要求される。

3.処理処分費用の確保

 処理処分費用については、現在、(社)日本アイソトープ協会が、RI廃棄物について、廃棄物の性状毎に集荷料金を設定し、集荷時に廃棄物の排出者から徴収し積み立てているが、これにより十分な対応が可能であるか否かについて検討を行う必要がある。
 研究所等廃棄物については、処分費用は確保されていない。処理については、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団等においては実施されているが、その他の小規模事業所においてはほとんど実施されておらず、このような事業所においては処分費用と共に、処理費用の確保も必要である。
 このため、排出者による費用負担が適切に行われ、処理処分費用の確保が図られるよう、技術的事項の検討結果を踏まえて、事業規模の策定とそれにかかる運営費用、処分場の立地・建設費用等の処分費用を試算すると共に、RI・研究所等廃棄物の処分事業実施のための資金確保方策について検討を行うことが必要であり、準備会を中心にこれらの検討を進めることが適当である。また、廃棄物の排出者であるRIや核燃料物質等の使用者等は、これらの検討結果を基に、将来生じる処理処分費用について、早い段階から適切な措置を講じておくことが重要である。

4.処分事業の実施スケジュール

 処分事業を円滑に進めるためには、全体のスケジュールを明らかにしておくことが不可欠である。処分事業主体の設立に至る準備段階から処分地の選定、処分場の建設、処分場の操業、処分場の閉鎖段階までの事業計画と関係機関の役割が、徹底した情報公開の下、常に国民の前に提示され、国民の理解を得ながら事業が遂行されることが必要である。
 今後の実施スケジュールを策定する上で最も重要な点は、現世代が発生させた廃棄物についての負担を後世代に残さないよう、早急に処分の実施体制の確立に向けた取り組みを具体化することである。
 他方、関係法令の整備、処分事業主体や処分費用の確保に係る検討等に要する時間を考慮すれば、今後処分事業主体の設立までには数年の期間が必要であると考えられる。
 このため、2000年頃の処分事業主体設立を目途とし、準備会を中心に、これに向けた具体的な作業内容及びスケジュールを策定する必要がある(参考資料13)。
 処分事業実施の時期については、処分事業主体の設立後、処分候補地の検討及び地元への申し入れ、処分候補地の調査及び処分地の選定、事業申請及び国による安全審査、処分場の建設等の各段階に要する期間と、今後の処理技術開発状況、貯蔵施設容量等を勘案し、できるだけ早期に事業が開始されるよう努めていくべきである。

5.研究開発

 RI・研究所等廃棄物の適切な処理処分を行うためには、これまで述べたように、多様な発生形態に対応する廃棄体中の放射能濃度等の確認方法を確立することが必要である。また、放射性廃棄物の溶融固化処理技術等のより高度な技術の導入を積極的に進めることが重要であり、このための安全評価に係る基礎的なデータの蓄積等も必要である。さらに、放射性廃棄物のみならず、産業廃棄物等の他の分野の研究開発動向についても十分把握することが必要である。
 このため、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団、(社)日本アイソトープ協会等は、協力して必要な研究開発を進めることとし、その成果については準備会及び今後設立される処分事業主体における検討並びに国による安全基準の策定等に反映させることとする。
 また、処理処分をより安全かつ合理的なものとするため、処分事業開始後も必要な研究開発を実施することが重要であり、このため、処分事業主体、日本原子力研究所等は連携・協力を図り、その役割分担について検討することとする。
 このような研究開発の成果を踏まえ、処分事業の実施に当たっては、溶融固化処理等のより高度な技術の有効性、導入時期等について、十分検討し、長期的展望に立った事業展開に努めることが重要である。

6.他の廃棄物処分事業との連携・協力

 RI・研究所等廃棄物の中には、現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物やTRU核種を含む放射性廃棄物及びウラン廃棄物に相当する廃棄物も一部含まれている。これらの放射性廃棄物について、各々の廃棄物の処分スキームに取り入れられるよう、処分方策の検討段階から、準備会及び処分事業主体並びに他の廃棄物処分に係る関係機関は連携・協力を図り、処分の対象廃棄物の範疇から外れるものがないようにすることが重要である。

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さいごに -国民の理解を得つつ処分事業の着実な実施を図るために-

 処分事業が遅滞なく着実に実施されるためには、技術的・制度的に安全の確保が図られることはもちろん、当該事業に対する国民の不安をなくし、理解が得られることが不可欠である。
 事業の実施に当たっては、当該事業の必要性と共に、どのような廃棄物が、どのような処分事業主体によって、どのように処分されるのか、特に、安全確保はどのように図られるのか、といった事業の全体像が、計画の初期段階から国民に周知される必要があり、このための積極的な情報の提供が行われなければならない。その際、正確・詳細な情報と共に、専門的な知識を持たなくても理解できる分かり易い情報が提供されることが重要である。このため、処分事業主体が設立されるまでは、準備会が、処分事業主体設立後は、事業主体が中心となり、積極的な情報提供を行うことはもちろん、国においても当該事業の必要性や安全確保の考え方等について広報を行っていくことが重要である。
 また、処分事業が、処分場の管理期間が終了するまで、どのような制度の下で、どのような手続きで実施されていくのか、明らかになっていることが重要であり、このために必要な関係法令が整備される必要がある。
 このように、一連の制度が整備され、処分事業主体を中心に積極的な情報提供が行われることにより、初めて、廃棄物処分に係る透明性が確保され、国民が当該事業を理解する環境が整えられることになる。
 また、処分事業は、国民の理解を得ることはもちろん、立地地域に受け入れられるものでなければならない。このためには、まず第一に、安全確保策を含め事業の実施に当たって、国民とりわけ地域住民の意見が反映されることが重要である。
 処分事業の実施が地域住民の健康や周辺の自然環境に対する影響を与えないよう必要な安全対策を講ずることはもちろん、事業の実施に当たっては、当該事業が地域と共生し、地域の発展に寄与できるように取り組むことが重要である。また、処分場の管理期間が数十年から数百年にわたることを踏まえ、長期的展望に立った取り組みが必要である。

 本専門部会においては、以上のように、RI・研究所等廃棄物の処理処分について技術面、制度面から検討を行ってきた。今後、以上に述べた諸点を踏まえ、準備会等の関係機関においては処分事業の具体化に向けた諸準備に早急に取り組むことが必要である。また、国は、関係機関における取り組み状況を適宜把握すると共に、その結果をも踏まえつつ諸制度の整備を図り、RI・研究所等廃棄物の安全かつ合理的な処理処分が的確に実施されるよう、適切に対応することが重要である。

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