資料(専)31-2

ウラン廃棄物処理処分の検討状況について

 

平成12年6月26日

 ウラン廃棄物分科会では、ウランの製錬、転換、濃縮、再転換、成型加工の各施設から発生する放射性廃棄物(以下、「ウラン廃棄物」という)及びRI・研究所等廃棄物のうちウラン廃棄物に相当するものを対象に、具体的な処理処分方策の検討を行ってきた。  本資料は、ウラン廃棄物の特徴を踏まえた安全かつ合理的と考えられる処理処分方策の基本的考え方について、これまでに当分科会で行ってきた検討をまとめたものである。

1.ウラン廃棄物の発生の現状と将来の見通し
(1)発生形態
 ウラン廃棄物の主な発生形態は、気体廃棄物の処理によって発生する使用済排気フィルタ、液体廃棄物の処理等から生ずるスラッジ(水分を含んだ粉粒状の物質)、可燃性雑固体廃棄物(作業着、手袋、木材等、これらの一部については焼却処理が行われ焼却灰となっている)、難燃性雑固体廃棄物(ゴム靴、ビニールホース等)、不燃性雑固体廃棄物(金属、コンクリート、ガラス等)、使用済遠心分離機(ウラン濃縮施設で使用される機器の一つで、一定期間の操業を経たものは、新しいものと取り替えることがある)等である。

(2)発生の現状
 ウラン廃棄物は、ウラン燃料加工施設(再転換、成型加工)及びウラン濃縮施設の操業や核燃料サイクル開発機構(以下、「サイクル機構」という)等の研究開発活動に伴って発生し、一部については焼却処理が行われているが、固型化等の処理は行われておらず、焼却処理の結果発生する焼却灰も含めて、未処理のまま貯蔵施設に保管されている。これらの廃棄物の1999年3月末(平成10年度末)時点までの累積発生量は、未処理の廃棄物として200Lドラム缶で約10万本(累積貯蔵量実績等の調査による)となっている。

(3)将来の見通し
 将来的には、上記の施設の解体や、ウラン濃縮施設の遠心分離機の取り替えが行われることも考えられ、それらに伴うウラン廃棄物の発生が予想される。
今後の発生量として、2030年度末時点の主要発生施設(ウラン燃料加工施設、ウラン濃縮施設及びサイクル機構)からの累積発生量を試算した。この試算においては、ウラン燃料加工施設、サイクル機構の関連施設の解体及びウラン濃縮施設の遠心分離機の取り替えも想定し、これら解体・取り替えに伴い発生するウラン廃棄物の量も別途試算した。この結果、これらの累積発生量(可燃物については焼却処理を前提)は、200Lドラム缶換算で約56万本になると推定される。このうち、約6割は、解体及び遠心分離機の取り替えにより発生する見込みとなっている。
 RI使用・研究所等の施設からの2030年度末の発生量は、アンケート調査等に基づいて検討され、200Lドラム缶換算で約4万本と推定される。
 以上の結果、2030年度末時点の総累積発生量は、200Lドラム缶換算で約60万本と推定される。

(参考資料1…ウラン廃棄物の発生量と濃度分布)

2.ウラン廃棄物の特徴
(1)ウラン廃棄物の特徴
 ウラン廃棄物は、ウラン核種を含む物質が付着したもの等、含まれる核種が実質的にウランに限定されており、原子炉等において生ずるような放射化による放射性核種が含まれないという特徴を有する。具体的な形態としては、金属、プラスチック等の表面にウラン核種が付着した廃棄物と焼却灰、スラッジ等のウラン核種が均質に含まれる廃棄物に分類される。ウランは、他の放射性核種と比較して、質量当たりの放射能が小さく、同じ濃度でも、より質量が大きくなるため、ウラン廃棄物は比較的除染が容易とされる。これらのうち、ウラン核種が表面に付着したものは高い除染効果が期待でき、平滑で単純な形状のものは、ほぼ完全にウラン核種を除去することも可能と考えられる。
 ウラン廃棄物に含まれるウラン核種の濃度については、除染前の値で1010Bq/tオーダーのものから、10Bq/t以下のものまで幅広く分布している。

(2)ウラン核種の特徴
 ウラン核種は、天然起源の放射性核種であること(土壌等にも有意に存在する)、半減期が長いこと、質量当たりの放射能は小さく比較的容易に除染できると考えられること等の特徴を有している。また、ウランの性状によっては資源価値を持つこと、精製されたウランについては娘核種の生成及び累積によって数十万年間にわたって放射性核種の合計濃度が増大すること、存在する量によっては化学毒性が問題となる可能性があること、ウラン濃縮度及び一箇所に集中して存在する量等の条件によっては臨界の可能性があること等の特徴を有している。
 これらの特徴には、これまでに処分方策の検討が行われてきた放射性廃棄物に含まれる核種とは異なるものがあり、特に、天然にも存在すること、半減期が長いこと、放射性娘核種の生成及び累積についてはウラン核種の顕著な特徴である。これらの特徴は、ウラン廃棄物の処分方策を検討する上でも重要であると考えられる。
 天然起源の放射性核種であることに関しては、土壌中に含まれる238Uの平均的な濃度は40Bq/kg(UNSCEAR1993、放射平衡を前提とすると全ウラン濃度は約80Bq/kg=8×104Bq/t)とされており、ウラン等の自然放射性核種による線量は、日本(約320μSv/年)を含む13カ国の平均で約450μSv/年(ウランの寄与は約1/3)になるとされている。また、土壌中に含まれるウラン等の自然放射性核種の濃度には地域差があり、それによる被ばくへの寄与は、UNSCEAR1993の報告によると国別の平均値の範囲で約150μSv/年~980μSv/年と試算される(換算係数0.7Sv/Gy)。また、国内の県別の大地放射線+宇宙線の地域差は最大380μSv/年程度とされている。

(参考資料2…ウラン核種の天然賦存性について)

 ウラン及び娘核種の合計放射能の経時変化をみると、初期には緩やかに増加しており、数十万年後にピークあるいは平衡に達する。このような放射能の増大が生じるのは、ウラン核種が放射線を放出して別の核種(娘核種)になっても、その別の核種も放射性であるからである。ウラン核種の主要な崩壊系列には、238Uでは13の、235Uでは10の放射性娘核種がある。天然に存在する状態では、娘核種とともに存在している状態があり得るが、原子燃料として利用される場合には、ウラン元素が抽出された段階で、娘核種は分離されてしまう。娘核種のうち、短期間で存在比が平衡に達するもの(238Uでは3核種、235Uでは1核種)は、当初からウラン廃棄物中に含まれているが、これ以外の娘核種(238Uでは10核種、235Uでは9核種)は、長期間かけて生成及び累積していく。
(参考資料3…ウラン廃棄物のα、βγ核種濃度の経時変化)
(参考資料4…ウラン核種の崩壊系列)

3.海外における浅地中処分の状況
 ウラン廃棄物は、海外においては、独立した放射性廃棄物のカテゴリとして扱われておらず、低レベル放射性廃棄物の一種として、処分方策・安全規制等も低レベル放射性廃棄物の一環として扱われている例が多い。
ウラン核種を含む放射性廃棄物の浅地中処分場の例としては、低レベル放射性廃棄物の浅地中処分場又は一般及び産業廃棄物処分場が挙げられる。前者の処分濃度の上限値は、10Bq/tオーダーであり、後者の処分濃度の上限値は10Bq/tオーダーとなっている。前者の処分は、米国(素堀り処分相当)、英国(かつては素堀り処分相当であったが、現在はコンクリートピット処分相当)、仏国(コンクリートピット処分相当)で行われており、後者は、米国、英国、スウェーデン(いずれも素堀り処分相当)で行われている。

(参考資料5…ウラン核種を含む放射性廃棄物の海外での浅地中処分状況)

4.国際機関における関連検討状況
 ICRP等の国際機関では、ウラン廃棄物のように、長期間減衰が期待できない放射性廃棄物の処分に対する放射線防護の考え方等について検討されている。ICRPが出版した最新の勧告(Publ.81:Radiation Protection Recommendations as Applied to the Disposal of Long-Lived Solid Radioactive Waste, 2000 長寿命放射性固体廃棄物に対して適用されるものとしての放射線防護勧告、仮訳)では、次のような考え方が示されている。
 地下水移行のような自然のプロセスに伴う被ばくと、処分場跡地における居住等の人間侵入による被ばくは区別して考えるべきである。なお、人間侵入は、偶然の侵入のみが考慮されるべきであり、埋設場へ故意に侵入したことに伴う放射線学的結果は、侵入者の責任である。自然のプロセスから生じると評価された線量又はリスクは、年あたり0.3mSvという線量拘束値あるいはそれと等価のリスク値の年間約10-5と比較されるべきである。
 人間侵入に関しては、必要に応じて、その可能性を低減させる、あるいは、その影響を制限するための合理的努力が、処分場の開発段階において行われるべきである。人間侵入がサイト周辺に居住する人々に対して、介入がほとんど常に正当化されるような線量を生じるような状況では、上記のような合理的努力が必要であろう。それ以下であれば介入が正当化されそうもないという一般的参照レベルとして、約10mSvの現存年間線量が使用できるであろう。逆に、約100mSvを超える現存年間線量は、それ以上であれば介入がほとんど常に考慮されるべきであるという一般的参照値として使用できるであろう。
 なお、ここで示された約10mSvあるいは約100mSvという年間線量の参照値は、ここまでの線量が許容されるという意味ではなく、処分システムの設計・開発段階において考慮すべき人間侵入の可能性低減化の努力について判断するための指標として示されている。
 また、Publ.81の背景情報を与える勧告(Publ.82:Protection of the Public in Situations of Prolonged Radiation Exposure,長期放射線被ばく状況における公衆の防護:近日出版予定)があり、関連する放射線防護の考え方が記述されている。

(参考資料6…放射性廃棄物の処分に係る線量基準の検討状況について)

5.ウラン廃棄物処理処分方策の検討にあたっての考え方
(1)基本的考え方
 放射性廃棄物対策としては、一般の廃棄物と同様に、発生量の抑制が大前提であり、廃棄物の発生量低減や有効利用に努めることが重要である。
 放射性廃棄物の処分は、廃棄物に含まれる放射性核種が生活環境に対して影響を及ぼすことを防止することが必要であり、このためには、処分方法に適した形態に処理した後、放射性物質(放射線)の影響が安全上支障のないレベルになるように処分することが基本となる。したがって、処分の方法は、廃棄物の性状、特にこれに含まれる放射性物質の種類及び濃度を考慮して設定する必要がある。
 これまでの低レベル放射性廃棄物においては、上述の基本的考え方を踏まえ、含有する放射性核種の濃度等により適切に区分し、その区分に応じた合理的な処理処分方策が検討されてきた。すなわち、濃度等の性質によって、素堀り処分、コンクリートピット処分、一般的と考えられる地下利用に対して十分余裕を持った深度(例えば、地下50~100m)への処分、(例えば、地下数百m以深の)地層処分等の適切な処分概念を適用するという考え方である。
 他の廃棄物と異なるウラン廃棄物の特徴として、廃棄物中に含まれるウランが資源となる可能性があることが挙げられる。ウラン廃棄物の処理処分を検討するにあたっては、この特徴を踏まえ、合理的に回収可能なウランは除染処理等によって回収し、廃棄物の濃度を低減させるなどの方策を検討する必要があると考えられる。

(2)ウラン廃棄物の処理
 ウラン核種は単位質量当たりの放射能が小さく、金属等の表面に付着している場合には、除染が比較的容易と考えられ、高い除染効果が期待できる。焼却灰やスラッジのように、ウラン核種が物理的・化学的に媒体に取り込まれている場合には除染が困難であるが、これらについては除染係数100程度までの除染が可能であるとの試験結果が得られている例もある。
 一般的に、除染処理に期待する効果は、低減された放射能濃度に応じた処分方法の選択肢の拡大、クリアランスレベルまで除染することによる放射性廃棄物量の低減化である。また、ウラン廃棄物中に含まれるウラン核種は、資源としての性格も有しており、特に濃縮ウランにおいては資源的価値が高い。したがって、ウランの資源性の観点から、合理的に可能な範囲でウラン廃棄物からウランを除染回収することを検討する必要がある。
 このように、ウラン廃棄物の除染は、回収されたウランを資源として再利用できる可能性があることから、環境負荷低減につながると考えられる。
 ウラン廃棄物に対する除染技術の適用性については、必ずしも全ての形態の廃棄物について確認されておらず、さらに高度な除染の可能性のある技術が適用されることも期待される。

(参考資料7…ウラン廃棄物に対する除染処理技術)

(3)ウラン廃棄物の処分方策の検討
a.従来の低レベル放射性廃棄物処分方策による線量評価試算例
 ウラン廃棄物の処分方策の検討に当たっては、まず、検討の論点を明らかにする観点から、仮に、人工構築物を設置しない浅地中処分概念(素堀り処分)を適用したとして、既に原子力安全委員会で行われている現行の政令濃度上限値の評価に準じて線量評価を行ってみた。具体的には、自然過程でおこる地下水移行シナリオと人間が関わる跡地建設シナリオ及び跡地居住シナリオで評価を行った。
 評価の結果、最も高い線量を与えるシナリオは跡地居住シナリオであり、ピーク時の線量を比較すると、跡地居住シナリオは地下水移行シナリオの約1万倍になる。また、線量の経時変化としては、処分後約1000年間は線量はほとんど変化せず、その後徐々に増加し、約20万年後にピークに達し、この時の線量は、跡地居住シナリオで処分当初の約100倍となる。
 仮に、このピーク線量を規制除外線量の10μSv/年以下に抑えるとすれば、処分当初の約1000年間は、その約1/100の0.1μSv/年に抑制する必要があり、この場合の処分可能な廃棄物の範囲は、線量の試算結果からウラン濃度で約10Bq/t以下となる。

(参考資料8…ウラン廃棄物浅地中処分の線量試算例)

b.ウラン廃棄物の特徴を考慮した処分方策の考え方
 上記の線量評価試算の結果を踏まえると、従来の低レベル放射性廃棄物の処分方策では考慮されてこなかった、以下のような視点が必要と考えられる。

 ①ウラン廃棄物は、半減期が長く(例えば238Uの半減期は約45億年)、娘核種の生成及び累積があることから、廃棄物に含まれる放射性核種濃度の減衰が期待できない。したがって、従来の低レベル放射性廃棄物で適用されていた段階管理の考え方を適用することは適切ではなく、これに代わる考え方が必要になる。
 ②上記と同様に、半減期が長く、娘核種の生成及び累積があることから、処分後の線量評価においてピークが現れる時期が数十万年後になる。したがって、従来の低レベル放射性廃棄物の線量評価に用いられている評価シナリオがそのまま適用できるかどうかの検討を行うことが必要になる。また、時間の経過とともにモデルやパラメータに関する不確実性が大きくなることも考慮する必要がある。
 ③ウラン核種は天然にも普遍的に存在する核種であり、地殻からの平均的な自然放射線量約450μSv/年の約1/3は、238U系列からの寄与である。従来の段階管理の考え方は、放射能が時間とともに減衰することが前提であるため、段階管理を終了する要件として、規制除外線量(10μSv/年)を採用している。しかし、この数値は、地殻からの平均的な自然放射線量やその地域差と比較しても小さいことは明らかであり、天然にも存在し、かつ、減衰が期待できない核種を主に含む放射性廃棄物の処分に対して、同様の考え方(規制除外線量)を適用することが合理的かどうかの検討を行うことが必要である。
 これらの視点を踏まえた検討の際には、海外における処分の状況や、国際機関における関連検討状況も参考になると考えられる。

c.まとめ
 上述のように、ウラン廃棄物の処理処分方策については、段階管理の考え方や線量評価シナリオ等、これまでに検討されてきた考え方を適用することは必ずしも合理的ではなく、ウラン廃棄物の特徴を考慮した新しい考え方が必要になると考えられる。この観点から、今後検討する必要がある論点を以下に示す。

6.今後の進め方
 今後、分科会においては、ウラン廃棄物の特徴を考慮した新しい考え方を適用した安全かつ合理的な浅地中処分の可能性について、具体的に検討を進める。
 また、ウラン廃棄物の特徴を考慮した新しい考え方を適用しても、浅地中処分できないと考えられるものについては、処分できる可能性のある処分方策の検討を行い、濃度の高いウラン廃棄物も含めた、ウラン廃棄物全体の処分方策を明らかにしていく予定である。
 さらに、ウラン廃棄物特有の課題として、保障措置上の手続、臨界防止上の管理、化学毒性の取扱等があることが認識されており、今後、これらの視点についても考慮して検討を進めることとする。