資料(専)27-6

「わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性

-地層処分研究開発第2次取りまとめ-」報告書について

平成11年11月30日
核燃料サイクル開発機構

1.位置づけと目的
 核燃料サイクル開発機構(以下,「サイクル機構」という)は,平成9年4月に公表された原子力委員会原子力バックエンド対策専門部会報告書「高レベル放射性廃棄物の地層処分研究開発等の今後の進め方について」(以下,「専門部会報告書」という)に従い,関連する研究機関等の協力を得て,「わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性-地層処分研究開発第2次取りまとめ-」報告書(以下,「第2次取りまとめ」という)の作成を進めてきた。
 第2次取りまとめは,平成4年に公表した第1次取りまとめの成果を受けて「わが国における地層処分の技術的信頼性」を示し,「処分事業を進めるうえでの処分予定地の選定,安全基準の策定の技術的拠り所」を与えるとともに,国による評価を経て2000年以降の研究開発を具体化するうえで重要なものと位置づけられている。
 わが国における地層処分研究開発は,昭和59年の原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会報告書において示されているように,岩石の種類を特定することなく幅広い地質環境を対象とすることとされている。また地層処分に関する安全規制上の基準については現在準備段階にある。これらのことから,第2次取りまとめは,専門部会報告書に示された技術的課題について科学的知見を積み重ねることによって,わが国の地層処分概念を一般的に検討し,その成立性を概括的に論じたものであり,地層処分計画を研究開発の段階から実施段階に進めることについての技術的な判断材料となることを意図している。

 

2.取りまとめの経緯
 取りまとめにあたっては,研究開発の成果を積極的に公開し,技術的内容について個々に評価を受けるとともに,取りまとめの過程においても種々の機会を利用して国内外から広く意見を求めてきた。平成9年9月には,関係研究機関等の協力を一層進めるため,日本原子力研究所,地質調査所,防災科学技術研究所,電力中央研究所,原子力環境整備センター,電気事業連合会,高レベル事業推進準備会,核燃料サイクル開発機構の各機関および大学の専門家による「地層処分研究開発協議会」が発足した。この協議会のもとに設けられた検討部会とタスクフォースにおいて,ほぼ毎月1回の頻度で詳細な技術的検討が進められ,その成果は適宜第2次取りまとめに反映されてきた。
 第2次取りまとめの過程で,平成10年9月および平成11年4月の2度にわたり,研究開発の進捗をドラフトとして中間的に整理し,原子力委員会原子力バックエンド対策専門部会に報告するとともに公表した。さらに,これにあわせて地層処分研究開発報告会の開催,ホームページへの掲載を行い,関係する幅広い分野の専門家等の方々からご意見をいただきながら,取りまとめを進めてきた。また,専門部会報告書の指針に従い,ドラフトの段階で経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)による国際レビューを受けるとともに,海外の各研究機関と国際共同研究の枠組みに基づきワークショップ等を通じて海外の専門家とも技術的な内容について意見交換を行った。

 

3.第2次取りまとめの構成
 第2次取りまとめの報告書は,「わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性?地層処分研究開発第2次取りまとめ?」と題するもので,総論レポートと専門部会報告書に示された主要な研究開発分野に対応する3つの分冊,分冊1「わが国の地質環境」,分冊2「地層処分の工学技術」および分冊3「地層処分システムの安全評価」から構成されている。
 総論レポートは,専門部会報告書に示された第2次取りまとめに盛り込まれるべき技術的内容に対して総合的に応え,わが国の地層処分の技術的信頼性について論じるとともに,地層処分の事業や安全規制の策定を進める上で必要となる技術情報を提供するものである。
 3つの分冊は総論レポートの記述内容を支える各分野の研究開発成果の詳細をまとめたものである。また,地層処分に関する基本的な事項,諸外国や日本の計画の進展などについての,これまでの議論や情報を整理し,別冊「地層処分の背景」を用意した。

 

4.主要な成果

4.1わが国の地層処分の技術的信頼性

わが国の地質環境
 地質環境の長期安定性に影響を与える可能性のある天然現象として,地震・断層活動,火山・火成活動,隆起・沈降・侵食,気候・海水準変動に注目し,その活動履歴が残されている地質や地形を対象に,現地調査や年代測定を主体とする事例研究を進めるとともに,地球科学分野の文献情報を整理した。この調査研究によって,第四紀の活動が継続すると考えられる少なくとも将来十万年程度の期間についても地層処分の場としての地質環境の長期安定性を論ずることが可能となった。
 また,人工バリアを設置する環境および天然バリアの機能として重要な岩盤と地下水の特性について,文献データの整備を行うとともに,東濃地域および釜石鉱山での地層科学研究の成果を活用して,実測データに基づく検討を行った。その結果,地温が十分に低く応力がほぼ均等に働いている深部岩盤がわが国にも広く存在していること,地下水は地球化学反応の理論にしたがって深部にいくほど還元され,深度数十m〜数百mで強還元性になること,地下深部では地表に比べて地形の影響を受けにくいため動水勾配が小さく,地下水の動きが遅くなることがわかった。
 以上のように,わが国の地質環境は,火山や断層などの活動地域とその影響範囲を除けば,将来十万年程度の期間にわたって,

 という地層処分システムに期待される機能を有していることを明らかにした。また,このような機能を有する地質環境がわが国に広く存在することを示すことができた。

地層処分の工学技術
 わが国の幅広い地質環境を考慮して整備された岩盤物性値の幅を考慮して合理的な人工バリアおよび処分施設の設計・施工が可能であることを示した。また,オーバーパックの試作や実際の緩衝材を用いた施工試験などを通じて,人工バリアの製作・施工が現状技術あるいは近い将来実現可能と考えられる技術をもとに実施できることを示した。
 人工バリアについては,オーバーパックと緩衝材の材料,厚さなどを検討し,仕様例を提示した。この例では,第1次取りまとめの段階での知見に基づいて示された仕様例に比べ,安全性能を損なうことなくオーバーパック,緩衝材とも,厚さを約30%低減することが可能となった。緩衝材の材料については,必要な性能を維持しつつベントナイトにケイ砂を混合することによって,より経済的なものとすることができた。
 上記の人工バリア仕様を対象として,処分場の性能を損なうことなく坑道掘削量が最小となるように処分施設の合理的な設計を試み,処分坑道の離間距離や廃棄体の配置を決定した。
 以上のように工学技術については,わが国の幅広い地質環境に柔軟に対応させて,現在の技術レベルで所期の仕様を満たしうる処分場(人工バリアを含む)を設計し,その建設・操業・閉鎖を安全かつ合理的に行うことが可能であることを示した。

地層処分システムの安全評価
 安全評価にあたっては,体系的なシナリオ開発を進め,シナリオにしたがって,現象に即したモデルの開発と現実的なデータの整備を行った。これらのモデルやデータベースについては,サイクル機構の地層処分基盤研究施設(ENTRY)での工学規模の試験や地層処分放射化学研究施設(QUALITY)での放射性核種を用いた試験,東濃地域や釜石鉱山における地層科学研究の成果に基づき,その妥当性の確認を行い,信頼性の向上を図った。開発された個々のモデルを統合し,線量を指標として地層処分システムの安全性を評価するための安全評価モデルの基本体系を整えた。構築した安全評価手法を用い,地層処分システムの安全性を総合的に評価した結果,わが国の幅広い地質環境と処分場仕様の多様性や地質環境の変動を想定したシナリオ,モデルおよびデータの不確実性を考慮しても,廃棄物が人間環境に及ぼすと想定される影響は,諸外国で提案されている安全基準に示された防護レベルを下回ることを確認した。

4.2処分予定地選定と安全基準策定の技術的検討
 以上の成果をもとに,処分予定地の選定や安全基準の策定に資する技術的拠り所として,サイト選定,工学的な対策および安全評価を行うにあたって考慮すべき要件と必要な情報について整理を行った。これによって,今後わが国において処分事業を展開していくにあたり,第2次取りまとめで示した研究開発の成果をどのように用いていくことができるかを明らかにした。

 

5.取りまとめの結果
 これまでの研究開発により,

 といった技術基盤が整備された。
 また,研究開発施設としてすでにENTRYやQUALITYが活用されており,さらに超深地層研究所(岐阜県瑞浪市)計画や現在北海道および幌延町に申し入れている深地層研究所(仮称)(北海道幌延町)計画が進むことにより,事業化に向けたスケジュールと整合をとりつつ,次段階の研究開発を展開していくことが可能な状況となる。
 以上のことから,サイクル機構としては,わが国においても地層処分を事業化の段階に進めるための,信頼性のある技術的基盤が整備されたものと総括した。