資料(専)27-4

長寿命核種の分離変換技術に関する

研究開発の現状と今後の進め方

(案)

 

 

 

平成 年 月 日
原子力委員会
原子力バックエンド対策専門部会

 


目次

はじめに

第1章 分離変換技術とは
 1.原子力発電と高レベル放射性廃棄物
 2.分離変換技術の目的
 (1)放射性廃棄物処理処分の負担軽減
 (2)資源の有効利用
 3.分離変換技術とは
 (1)分離技術
 (2)変換技術
 4.「分離変換技術」という用語

第2章 わが国における長寿命核種の分離変換技術に係る研究開発の現状
 1.対象元素
 2.プロセスの概要と特徴
 (1)分離プロセス
 (2)核変換サイクル
 3.目標及び設定根拠
 4.これまでの成果と現状の分析
 (1)分離プロセス
 (2)核変換サイクル
 (3)まとめ
 5.技術的課題
 (1)分離プロセス
 (2)核変換サイクル
 6.その他の分離変換技術に係る研究開発の現状
 (1)電子線加速器を用いた核変換プロセス
 (2)超高温分離処理
 (3)不溶解残渣からの有用金属回収技術

第3章 分離変換技術の効果及び意義
 1.放射性廃棄物に含まれる放射能インベントリ
 2.地層処分に対する効果
 (1)長期的な安全性への効果
 (2)地層処分場の設計への効果
 3.その他の論点
 (1)資源としての有効利用
 (2)マイナーアクチニド及び長寿命核分裂生成物の減少量とそれに要する時間
 (3)二次廃棄物の発生
 (4)短期的な放射線被ばく線量の増加
 (5)経済性

第4章 各国における分離変換技術に係る研究開発の現状
 1.フランス
 2.米国
 3.国際機関
 (1)欧州連合(EU)
 (2)経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)

第5章 今後の研究開発の進め方
 (1)分離変換技術と核燃料サイクル
 (2)システム設計研究と要素技術開発
 (3)当面の進め方
 (4)実施体制
 (5)研究開発のスケジュールと評価

おわりに

 

参考資料

 


はじめに

 放射性廃棄物の処理処分対策は、原子力の開発利用を進める上で最も重要な課題の一つである。原子力委員会においても、放射性廃棄物を適切に区分し、それぞれの区分に応じた放射性廃棄物の処分方策を鋭意検討してきた。高レベル放射性廃棄物については、地層処分の技術的信頼性が示されるとともに、事業に係る制度の検討や事業資金の合理的見積りが行われるなど、事業の具体化に向けた取組みが着実に進められている。
 一方、高レベル放射性廃棄物等に含まれる放射性核種の特徴に着目し、有用な元素あるいは核種を分離して有効利用する、あるいは、長寿命核種に放射線を照射して短寿命あるいは安定核種に変換する技術について、早くから検討されてきた。
わが国の「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(以下「原子力長計」)における長寿命核種等の分離変換技術に関する記述は、昭和47年(1972年)の原子力長計まで遡る。この中では、放射性廃棄物の有効利用という観点から、研究開発の必要性を指摘している。
 昭和51年(1976年)の原子力委員会放射性廃棄物対策技術専門部会の中間報告では、分離変換技術と放射性廃棄物の処理処分との関係を具体的に指摘している。すなわち、廃棄物に含まれる放射性核種を適当なグループに分離できれば、厳重な管理を必要とする放射性核種量が限定でき、各グループの寿命に応じた処理処分が可能になることから、廃棄物管理の自由度が増す利点が生じるとしている。また、長半減期核種を核反応により短半減期核種へ変換できれば、長期管理の負担を軽減することができるとしている。
 昭和62年(1987年)の原子力長計において、本技術は、高レベル放射性廃棄物の資源化とその処分の効率化の観点から極めて重要な研究課題であり、そのための研究開発を、日本原子力研究所(原研)、動力炉・核燃料開発事業団(動燃)等が協力して計画的に推進することとしている。
 この原子力長計を踏まえ、原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会は、昭和63年(1988年)、「群分離・消滅処理技術研究開発長期計画」1)を取りまとめた。これが、わが国における分離変換技術に関する最初の体系的な研究開発計画といえる。本計画は、昭和63年から平成12年頃までの研究開発内容を示しており、それぞれの研究開発項目について、最初の4〜9年を第T期、その後の4〜9年を第U期とし、第T期には種々の概念の評価と要素技術の研究開発、第U期では要素技術の工学的試験や概念の実証を行うこととしている。
 平成6年(1994年)の原子力長計では、本技術について各研究機関で基礎的研究を進め、1990年代後半を目途に各技術を評価し、それ以降の進め方について検討することとしている。
 一方、原子力委員会の高レベル放射性廃棄物処分懇談会は、平成10年(1998年)、「高レベル放射性廃棄物処分に向けての基本的考え方」を公表したが、その中で本技術に関し、処分技術が社会に受け入れられるために、「地層処分をより安全かつ効率的に行うために進められる廃棄物の減量化や有効利用に関する研究について定期的に評価を行うとともに、こうした技術に飛躍的進歩があった場合に柔軟に対応できるような仕組みが大切である」としている。
 このような状況の下、原子力委員会原子力バックエンド対策専門部会では、平成6年の原子力長計に示された評価スケジュールを踏まえ、長寿命核種等の分離変換技術に関する調査審議を行ってきた。本報告書では、わが国における分離変換技術に関する研究開発の現状について整理するとともに、本技術の効果及び意義を分析し、それらを踏まえた今後の研究開発の進め方等について報告する。


1)通称「オメガ計画」。OMEGA : Options Making Extra Gains from Actinides and Fission Products

第1章 分離変換技術とは

1.原子力発電と高レベル放射性廃棄物
 原子力発電では、ウラン(U)やプルトニウム(Pu)を燃料として、核分裂の連鎖反応を持続的に起こし、発生する熱エネルギーを電気に変換している。
原子炉内では、主に次のような核反応が起こっている。
核分裂を起こしやすいウラン235(U-235)やプルトニウム239(Pu-239)などの核種(核分裂性物質)が中性子を吸収して核分裂を起こし、別の核種(核分裂生成物(FP))が生成する反応(核分裂反応)。
ウランやプルトニウムが継続的に中性子を捕獲(中性子捕獲反応)した後、アルファ(α)崩壊やベータ(β)崩壊を起こして、ネプツニウム(Np)、プルトニウム(Pu)、アメリシウム(Am)、キュリウム(Cm)のようなウランより重い別の元素(超ウラン元素)の核種に変わる反応。
 現在、我が国では、原子力発電の結果発生する使用済燃料を再処理し、そこに含まれるウランやプルトニウムを分離・回収して有効に利用することとしている。その他の核分裂生成物や超ウラン元素は、高レベル放射性廃棄物として、化学的に安定なガラス固化体の形態に固化し、30〜50年間程度冷却のため貯蔵(中間貯蔵)した後、数百メートルより深い地層中に処分(地層処分)することを基本的な方針としている。
 高レベル放射性廃棄物には、上述のようなさまざまな放射性核種が含まれる。その処理処分の際には、次の二つの特徴を考慮する必要がある。
@初期の数百年間は、高い放射能と発熱量を有すること(セシウム137(Cs-137)等の短寿命核種に起因)
A非常に長い期間にわたり、低い放射能が継続すること(ネプツニウム237(Np-237)等の長寿命核種に起因)
 後者の特徴のため、放射性核種濃度の減少に応じて段階的に管理を軽減し、数百年後に管理を終了する「管理型処分」によって処分の安全性を確保することはできない。このため、高レベル放射性廃棄物は、人間の生活環境から離れた深い安定な地層中に安全に埋設する地層処分によって、生活環境に有意な影響が生じないようにすることとしている。

2.分離変換技術の目的
 本技術は、高レベル放射性廃棄物に含まれる放射性核種を、その半減期や利用目的に応じて分離するとともに、長寿命核種を短寿命核種あるいは非放射性核種に変換する技術である。
 本技術の目的は、大きく2つに大別される。一つは、放射性廃棄物処理処分の負担軽減、もう一つは、資源の有効利用である。

(1)放射性廃棄物処理処分の負担軽減
 前述の通り、高レベル放射性廃棄物の処理処分に当たっては、@初期の数百年間の高い放射能と発熱量、A非常に長期間継続する低い放射能という二つの特徴を考慮する必要がある。
@初期の高い放射能と発熱量
 この原因となる核種は短寿命核種であり、主としてストロンチウム90(Sr-90)とセシウム137(Cs-137)である。
 短寿命核種を高レベル放射性廃棄物から分離することができれば、残った廃棄物は中間貯蔵の期間を短くできる、あるいは、大きな空洞に集中的に埋設できる可能性があり、処理処分に要する負担1)の軽減が期待できる。
A長期間継続する放射能
 この原因となる核種は長寿命核種あるいは長寿命核種の親核種であり、ネプツニウム(Np)、プルトニウム(Pu)、アメリシウム(Am)、キュリウム(Cm)といった超ウラン(TRU)元素、及び、テクネチウム99(Tc-99)、ジルコニウム93(Zr-93)、セシウム135(Cs-135)、パラジウム107(Pd-107)、セレン79(Se-79)といった長寿命核分裂生成物(LLFP)である。
長寿命核種を高レベル放射性廃棄物から分離できれば、残った廃棄物は短い期間(数百年程度)で放射能が十分低いレベルまで減衰するため、安全確保のために廃棄物を生活環境から隔離することが要求される期間2)を短くできる可能性がある。
 このほかの考慮すべき長寿命核分裂生成物としてヨウ素129(I-129)がある。これは、高レベル放射性廃棄物にはほとんど含まれないが、再処理施設から発生する使用済みのヨウ素フィルター(廃銀吸着材)に多く含まれている3)。ヨウ素129についても、本技術により短寿命核種あるいは放射能を持たない核種に変換できれば、廃銀吸着材を地層処分する場合にも、安全確保のための隔離が要求される期間を短くできる可能性がある。


1)我が国では、高レベル放射性廃棄物を地層処分する際には、緩衝材として用いられるベントナイトが変質しないように、その温度を100℃以下に保つ必要がある。そのため、高レベル放射性廃棄物は、処分に先立ち冷却のため中間貯蔵するとともに、処分の際には一定の間隔をあけて埋設しなければならない。
 なお、分離された短寿命核種は、分離前の高レベル放射性廃棄物と同様、高い放射能と発熱量に対する考慮が必要であるが、その体積は大幅に低減できる可能性がある。また、分離した上記核種を熱源あるいは放射線源として利用することも考えられる。
2)長寿命核種は、高レベル放射性廃棄物中に千年以上の長期にわたり残存する。地層処分は、廃棄物を長期間人間の生活環境から離れた安定な地層中に隔離するとともに、長期にわたり安定な地層と人工構造物で構成される多重バリアにより、長寿命核種による影響を防止して、長期的な安全性を確保している。
3)「超ウラン核種を含む放射性廃棄物」の処理処分の基本的考え方によると、廃銀吸着材などの長寿命核種を多く含んだ廃棄物は、高レベル放射性廃棄物に準じた地層処分により安全確保が可能と考えられるとしている。

(2)資源の有効利用
 高レベル放射性廃棄物に含まれる核種には、有用だが、天然にはあまり存在しない稀少な元素もある。ウランの核分裂では、質量数90〜100及び135〜145付近の核分裂生成物が多く生成する。この生成しやすい核分裂生成物のうち、一般産業で広く利用されているものとして、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)といった白金族元素がある。また、テクネチウム(Tc)、セレン(Se)、テルル(Te)についても利用が考えられる。

3.分離変換技術とは
 分離変換技術は、上記の目的を達成するための次の技術で構成される。

(1)分離技術
 高レベル放射性廃棄物に含まれる核種を、それぞれの核種の物理的あるいは化学的特徴を利用して、処理方法や利用目的に応じていくつかのグループ、元素あるいは核種1)に分離する技術である。
 高レベル放射性廃棄物に適用される分離技術は、基本的には、使用済燃料からウランやプルトニウムを取り出す再処理技術と同様の手法が用いられている。再処理技術は、水溶液や有機溶媒を溶媒として用いる湿式法と、溶融塩や液体金属を溶媒として用いる乾式法に大別できる。具体的な分離プロセスの選定に当たっては、対象核種の高い分離効率、プロセスの簡素化、二次廃棄物の発生量の低減などの観点から検討されている。また、次に述べる変換技術で用いられる技術との適合性も考慮されている。


1)グループ:複数の元素を含む元素群(例:TRU元素、発熱性元素)  元素:複数の核種(同位体)を含む単一の元素(例:Np, Am, Cs, Sr)  核種:特定の元素の中の特定の同位体(例:Np-237, Am-241, Cs-137, Sr-90)

(2)変換技術
 分離した後、中性子やガンマ(γ)線などの放射線を物質に照射すると別の核種に変わる反応を利用して、特に長寿命の放射性核種を短寿命核種又は安定な核種に変換する技術である。それぞれの核種によって反応を起こしやすい放射線の種類が異なるため、対象となる放射性核種に適した方法を用いる必要がある。
 主な核種毎に適した方法は、次の通りである。
 超ウラン元素は、ウランと同様、中性子を照射すると核分裂反応あるいは中性子捕獲反応を起こす物質である。中性子捕獲反応の場合、さらに別の超ウラン核種が生成してしまうが、核分裂反応の場合は、多くは短寿命核種あるいは非放射性核種に変換する。したがって、超ウラン元素を短寿命あるいは非放射性核種に変換するためには、中性子捕獲反応ではなく核分裂反応を利用する方が効果的と考えられる。特に、高いエネルギーを持つ高速中性子の方が効率よく核分裂を起こすため、例えば高速炉などで発生する高速中性子による核変換技術が考えられる。
 一方、長寿命核分裂生成物は、核分裂反応を起こさないため、短寿命あるいは非放射性核種に変換するためには、中性子捕獲反応を利用することが考えられる。特に、高速中性子よりも、エネルギーが非常に低い熱中性子の方が効率よく中性子捕獲反応を起こすため、例えば軽水炉で発生する熱中性子の照射や、高速炉で発生する高速中性子を減速材を用いて減速した後の熱中性子を利用した核変換技術が考えられる。
 また、長寿命核分裂生成物については、エネルギーの高いγ線を吸収させて他の核種に変換する光核反応の利用も考えられる。なお、γ線の発生には、電子加速器の利用も検討されている。

4.「分離変換技術」という用語
 昭和63年に策定された「群分離・消滅処理技術研究開発長期計画」では、本技術を「群分離・消滅処理技術」と称していた。また、平成6年に策定された原子力長計では、「核種分離・消滅処理技術」と称していた1)
 従来の名称に賛否両論があることを踏まえ、本技術の名称を検討した。その結果、「長寿命核種の分離変換技術」、略称として「分離変換技術」という名称を用いることとした。この理由は、以下のとおりである。
一般の人にも分かりやすく、イメージをつかみやすい言葉とするため、「何をどうする」という情報が示されている「核種分離」及び「核変換」を用いる。
用語自体は「分離変換」と簡易にし、前に「長寿命核種の」という言葉を付けて分かりやすくする。
「処理」という言葉は、廃棄物の処理というイメージを与えやすいが、本技術はそれ以外にもいろいろな効果や可能性を持っているため、「技術」を用いる。
英語の"partitioning and transmutation"の訳としても適当である。


1)「核種分離」については、現在の技術で可能なのは元素をグループ毎に分離することまでなので「群分離」が適当とする意見や、将来的には核種毎に分離することまで目指していることからこれまでどおり「核種分離」が適当とする意見があった。
 「消滅処理」については、将来技術として期待を込めた魅力的な名前であり、学会で使用されるなど学術用語としても定着している、放射能の一部を消滅しているという意味では正しいとの意見があった。しかし、一方で、全ての廃棄物を消滅できるとの誤解を与える可能性があること、究極的過ぎること等の指摘があった。

第2章 わが国における長寿命核種の分離変換技術に係る研究開発の現状
 現在我が国における長寿命核種の分離変換技術の研究開発は、昭和63年の「群分離・消滅処理技術研究開発長期計画」に基づき、日本原子力研究所(以下、原研)、核燃料サイクル開発機構(以下、サイクル機構)及び(財)電力中央研究所(以下、電中研)の3機関が中心となって進められている。上記長期計画によると、それぞれの研究開発項目について、最初の4〜9年を第T期、その後の4〜9年を第U期とし、第T期には種々の概念の評価と要素技術の研究開発、第U期では要素技術の工学的試験や概念の実証を行うこととしている。そこで、分離変換技術研究開発のこれまでの成果を整理し、現在の技術的到達度及び解決すべき課題について検討した。

1.対象元素
 対象元素は、次のような観点から選定されている。
寿命が長い(半減期が長い)もの、特に、
  • アルファ(α)線を放出するため放射能毒性が高く、もしも体内に取り込まれると比較的影響が大きいもの
  • 地層処分した際に、地下水を介して地層中を移行しやすいもの
比較的寿命が短く高レベル放射性廃棄物の発熱量の大部分を占める発熱性のもの
稀少で有用なもの
その結果、具体的には、以下のような元素あるいは核種を対象としている。


1)これまでの分離変換技術の研究開発では、再処理工程で発生する高レベル放射性廃液を分離技術の対象としてきた。この廃液にはプルトニウムがほとんど含まれていないため、分離対象となる超ウラン元素はマイナーアクチニドである。このように、プルトニウム以外の超ウラン元素を指す場合、本報告所ではマイナーアクチニドという用語を用いている。
2)燃料にプルトニウムが含まれる場合は、変換技術の対象とみることができる。

2.プロセスの概要と特徴
 分離変換技術を用いた処理システムは、
従来の核燃料サイクルから発生する高レベル放射性廃液から分離対象元素を分離するための「分離プロセス」
分離した元素を中性子などの放射線を利用して変換するための一連のプロセスから構成される「核変換サイクル」
から構成される。また、「核変換サイクル」は、さらに、

から構成される。

(1)分離プロセス
 原研及びサイクル機構は、硝酸や有機溶媒を溶媒とする湿式法を用いている。湿式法は、常温で連続操作が可能であり、制御、スケールアップ性に優れ、元素を高い効率で分離できる。また、両者は、それぞれの抽出剤に従来のPUREX法1)再処理に用いるTBP2)を混合して溶媒としており、これまで培ってきた工学技術や知見を利用することができ、早期に実用化の見通しを得やすいという特徴がある。しかし、従来の湿式法では工程で添加する試薬や溶媒のリサイクル方法に由来する二次廃棄物の発生が不可避であり、放射線や硝酸による溶媒・試薬の劣化も考慮しなければならない。
 電中研は、溶融塩や液体金属を溶媒とする乾式法を用いている。これは、500℃程度の高温で溶融した塩化物を用いるという点で従来のPUREX法再処理と大きく異なる。しかし、乾式法は、溶媒・還元剤は耐放射線性等の耐久性に優れリサイクルが可能、不溶解残渣などの固体を含むものにも適用できる、装置をコンパクトにすることができる、といった特徴がある。一方、高耐食性材料の開発、溶融塩などの移送技術等の課題がある。


1)PUREX法:東海再処理工場や六ヶ所再処理工場で採用されている湿式再処理法。使用済燃料を硝酸に溶解し、有機溶媒と抽出剤(TBP)を用いて、その中に含まれる元素をウラン、プルトニウム、その他(核分裂生成物及びマイナーアクチニド)の3つのグループに分離する。
2)TBP:リン酸トリブチル。溶液中の金属を抽出するために使われる有機抽出剤の一種。PUREX法では、硝酸溶液中からのウランやプルトニウムの抽出に使われる。

(2)核変換サイクル
a)核変換サイクルの基本的考え方
 サイクル機構及び電中研は、高速増殖炉(FBR)による核変換技術を検討している。そのコンセプトは、将来的には従来の軽水炉サイクルから高速増殖炉サイクルへ移行し、高速増殖炉を中心とする一つの核燃料サイクルの中で発電とマイナーアクチニド等の核変換を同時に行うことを目指す「発電用高速炉利用型」である。
 一方、原研のコンセプトは、加速器駆動未臨界炉(ADS)あるいは専焼高速炉(ABR)といったマイナーアクチニド変換専用システムを核変換サイクルの中心に据え、商用発電サイクルと核変換サイクルの2つのサイクルがそれぞれに最適化を図り、独立に発展可能な「階層型」である。階層型は、商用発電サイクルの形態に依らず、そこからのマイナーアクチニド発生量に見合った規模の核変換サイクルを用意することができるという特徴がある。
b)各プロセスの概要
@燃料製造プロセス
 燃料の代表的な形式としては、現在の軽水炉で用いられている酸化物燃料のほか、窒化物燃料、金属燃料などがある。一般に、燃料にとって重要な熱特性である融点は酸化物>窒化物>金属の順に高く、熱伝導度は金属>窒化物>酸化物の順に高い。
 原研は、マイナーアクチニドの窒化物燃料を選定している。窒化物燃料は、燃料中にいろいろなマイナーアクチニド元素を共存させることができ、マイナーアクチニド燃焼専用システムに適した燃料である。窒素については、長寿命の放射性核種である炭素14(C-14)の生成を避けるため、天然にはあまり存在しない同位体である窒素15(N-15)を濃縮して使うことから、この同位体の燃料処理工程における回収が必要になる。
 サイクル機構は、マイナーアクチニドを従来の混合酸化物(MOX)燃料に混合させたものを燃料形態としている。従来燃料の延長にあり、これまでのFBR研究の知見を生かすことができる。マイナーアクチニドの燃料への混合率は、燃料の健全性を維持し炉心への影響を避けるとの観点から、5%程度に制限される。
 電中研は、マイナーアクチニドを添加したウラン−プルトニウム−ジルコニウム(U-Pu-Zr)系合金の金属燃料を考えている。乾式再処理に適しており、燃料製造プロセスも簡素化が可能である。
A核変換プロセス
 マイナーアクチニドを短寿命あるいは非放射性核種に変換するためには、中性子捕獲反応ではなく核分裂反応を利用する方が効果的で、特に高いエネルギーを持つ(硬いスペクトルの)高速中性子の方が効率よく核分裂を起こす。一方、原研及びサイクル機構で検討されているテクネチウム99及びヨウ素129といった長寿命核分裂生成物は、核分裂反応を起こさないため、短寿命あるいは非放射性核種に変換するためには、中性子捕獲反応を利用することが考えられる。特に、エネルギーが非常に低い熱中性子の方が効率よく中性子捕獲反応を起こすことができる。
 原研は、マイナーアクチニド変換専用システムとしてADSとABRの概念を開発している。FBRを用いた核変換システムに比べてマイナーアクチニド添加量を多くでき、燃料の主成分をマイナーアクチニドとすることができる。特に、ADSは、従来の原子炉と違い臨界に達していない系を用いるため設計の自由度が高く、多様な組成のマイナーアクチニド燃料の燃焼に適した炉型である。実用化には、大強度の陽子加速器が必要である。
 サイクル機構は、従来より研究を進めているMOX燃料FBRをベースとしてマイナーアクチニドを数%添加したFBR炉心を開発している。テクネチウム及びヨウ素については、炉心外側のブランケット領域に減速材付きのペレットを装荷することにより、熱中性子による中性子捕獲反応の実現を目指している。
 電中研は、金属燃料FBRを開発している。本方式は、プルトニウム増殖性、受動的安全性などの高いポテンシャルを持っている。
B燃料処理プロセス
 核変換後の燃料の処理は、基本的には分離プロセスと同様である。燃料処理プロセスとして、原研及び電中研では乾式法を、サイクル機構では湿式法を考えている。特に、原研では、窒化物燃料に天然にはあまり存在せず高価な窒素15を濃縮して使用する必要があるが、乾式法によって使用済燃料から窒素15を回収再利用できる可能性がある。

3.目標及び設定根拠
 濃縮高レベル放射性廃液に含まれているマイナーアクチニドのうち、核変換サイクル内で処理するマイナーアクチニドの割合について、原研は99.5%、サイクル機構は99.9%、電中研は99%を目標とした。これらの目標値の違いは、各分離法のプロセス性能やプラント設計思想の違いを前提としつつ、
工学的実現可能性を考慮した値(原研) ※なお、設定した目標値であれば、高レベル放射性廃棄物の毒性指数1)が、燃料製造に用いた天然ウラン全量の毒性指数を下回るのに要する時間を、再処理後数百年とすることができる
実験事実に基づいて工学レベルでの達成を見通せる最も高い値(サイクル機構)
工学的に達成可能と考えられる最低限の目標値(電中研)
 という目標値設定思想の違いを反映したものとなっている。


1)毒性指数:放射性廃棄物に含まれる放射能が、法令で定められている年摂取限度の何倍に当たるかを示す指標。放射性物質に起因する潜在的な毒性を示す。

4.これまでの成果と現状の分析
(1)分離プロセス
 分離プロセスの研究開発段階は、例えば、原型プラント建設を一つのターゲットとすると、大きく以下の3つの段階に分けることができる。
@プロセス構築・成立性実証段階
 基礎試験により分離対象元素の挙動に関する基礎データを取得し、これに基づき、分離プロセスを構築する。また、実験室規模の装置によって、実廃液等を一連のプロセスにしたがって処理する基礎試験を行い、所定の分離性能が得られることを実証する。さらに、使用する化学物質などの物質移動に関するデータを取得する。
A化学工学的試験段階
 工学規模の装置によって、模擬廃液、実廃液を一連のプロセスに従って処理する工学試験を行い、分離性能を得るために管理すべき操作パラメータや具体的な操作方法を設定する。併せて、安全性の見通しを得る。
B原型プラント建設段階
 これらの3つの試験段階は、主工程である分離工程だけでなく、溶媒等のリサイクルや発生する二次廃棄物の処理に係る工程も含めた、研究開発段階である。
 ここでは、@〜Bの3段階を設定し、この同一の指標により各機関の研究開発の現状を整理することとした。
 ア)日本原子力研究所
 濃縮高レベル放射性廃液に含まれる元素を、マイナーアクチニド、テクネチウム・白金族、ストロンチウム・セシウム、その他の4群に分離する「4群群分離プロセス」を開発している。模擬高レベル廃液等を用いた基礎試験に基づき、プロセスを構築するとともに、模擬廃液や実廃液を用いて実プラントのおよそ1/1000規模のプロセス基礎試験を実施し、各元素群を分離できることを確認した。模擬廃液を用いた試験では、マイナーアクチニドの回収率として99.95%以上の実測値が得られた。このように、現在、本分離法については、@プロセス構築・成立性実証段階にあると考えられる。
 イ)核燃料サイクル開発機構
 ネプツニウムを分離するため従来の再処理を高度化した改良PUREX法、濃縮高レベル放射性廃液に含まれるマイナーアクチニド元素を分離する改良TRUEX1)法、使用済燃料溶解液からテクネチウム・白金族元素等を電解により分離する電解採取法を開発している。
 改良PUREX法については、実照射済燃料を用いた抽出試験を実施し、フローシートを実証するなど、@プロセス構築・成立性実証段階にあると考えられる。
改良TRUEX法については、単純系の溶液、実高レベル放射性廃液及び実高レベル濃縮廃液を用いた基礎試験を行い、主要核種の分離特性を確認した。また、実廃液を用いて小型装置による抽出試験を行い、基本的な抽出条件でα核種について99.9%以上の回収率を実証した。これに基づき、分離プロセスを構築しており、@プロセス構築・成立性実証段階にあると考えられる。
 電解採取法については、模擬廃液を用いた基礎試験を行い、各元素を分離できることを確認しており、@プロセス構築・成立性実証段階にあると考えられる。
 ウ)電力中央研究所
 塩化物溶融塩及び液体金属を溶媒とした還元抽出法を開発している。本法については、溶融塩や液体金属中での元素の挙動に関する基礎データを取得し、これに基づき、プロセスを構築している。また、数十mg規模の超ウラン元素及び100g規模の溶融塩を用いた基礎試験を行い、超ウラン元素を99%以上回収できることを確認するなど、@プロセス構築・成立性実証段階にあると考えられる。


1)TRUEX法:ウランとプルトニウムを分離した後の酸性溶液から、主として抽出剤にCMPO(有機抽出剤の一種)を用いて、超ウラン(TRU)元素を抽出(Extraction)する方法。

(2)核変換サイクル
a)燃料製造プロセス
 燃料製造プロセスの研究開発段階は、例えば、原型プラント建設を一つのターゲットとすると、大きく以下の3つの段階に分けることができる。
@燃料仕様・製造方法検討段階
 元素単体あるいは化合物を用いて物性データを測定し、燃料設計に必要なデータを整備するとともに、燃料ピンを試作し、この照射試験や物性測定を実施して、燃料仕様を設定する。また、燃料ピンの製造方法を開発する。
A燃料集合体製造・試験段階
 プロトタイプ燃料集合体を試作し、照射試験や物性測定を実施して、燃料集合体仕様を設定する。また、燃料集合体の製造方法を開発する。
B原型プラントの建設段階
 ここでは、@〜Bの3段階を設定し、この同一の指標により各機関の研究開発の現状を整理することとした。
 ア)日本原子力研究所
 マイナーアクチニド窒化物燃料を開発している。現在までに、マイナーアクチニド窒化物燃料の設計に必要なアクチニド窒化物の熱物性や、テクネチウム合金の熱物性などの基礎データを取得し、炭素熱還元法によって超ウラン元素の窒化物を調製できること、ゾルゲル法によってウランの窒化物の微小球を製造できることを確認した。また、試作したウランとプルトニウムの混合窒化物燃料の約5.5%燃焼度までの燃焼試験を行って燃料の健全性が保たれることを確認するなど、@燃料仕様・製造方法検討段階にあると考えられる。
 イ)核燃料サイクル開発機構
 従来よりFBR用に開発していたMOX燃料にネプツニウムあるいはアメリシウムを添加した燃料を開発している。
 ネプツニウム添加MOX燃料については、国際共同研究を通して振動充填法の開発を行うなど、@燃料仕様・製造方法検討段階にあると考えられる。
 アメリシウム添加MOX燃料については、「常陽」で照射試験を行うとともに、アメリシウム添加MOX燃料のペレット製造設備、ピン加工検査設備等の遠隔燃料製造設備を設置、性能試験を実施するなど、@燃料仕様・製造方法検討段階にあると考えられる。
 ウ)電力中央研究所
 国際共同研究の下、マイナーアクチニドを含有させたU-Pu-Zr系合金の金属燃料を開発している。本金属燃料については、燃料ピンを試作して物性値などの基礎データを取得し、マイナーアクチニド濃度5%程度であれば燃料物性に影響を与えず、製造に当たりマイナーアクチニドを均質に添加できる見通しが得られるなど、@燃料仕様・製造方法検討段階にあると考えられる。
b)核変換プロセス
 核変換プロセスの研究開発段階は、例えば、原型プラント建設を一つのターゲットとすると、大きく以下のような3つの段階に分けることができる。
@設計・要素技術開発段階
 炉心設計に必要な核データを測定し、解析コードを作成、システム概念を設計するとともに、システム概念の実現に必要な要素技術を開発する。
A実験炉による消滅実証試験段階
 実験炉によって、システムとしての性能を実証する。
B原型プラントの建設段階
 ここでは、@〜Bの3段階を設定し、この同一の指標により各機関の研究開発の現状を整理することとした。
 ア)日本原子力研究所
 ADS及びABRの概念の開発を進めている。マイナーアクチニド核種の核データを、国際協力により取得、データベースを整備するとともに、臨界実験や照射済燃料分析を実施し、核データ等を検証した。さらに、高エネルギー陽子ビームによる核破砕反応の実験を実施し、中性子の挙動に関するデータを取得するとともに、作成した計算コードの検証を行った。これらに基づき、所定のマイナーアクチニド変換性能を有する核変換プロセスを構築している。ABRについては被覆粒子燃料をヘリウムガスで冷却する概念等を考案し、ガス流動に関する解析コードの開発及び検証を行った。ADSについては窒化物燃料の未臨界体系に陽子ビームを垂直に入射し、冷却剤やターゲットに鉛−ビスマスを用いるシステム等を考案し、ADS設計に必要な解析コードの開発及び検証を行った。ADSに必要な陽子加速器については、その主要部を試作し、性能試験において世界でもトップレベルの性能を確認している。したがって、@設計・要素技術開発段階にあると考えられる。
 イ)核燃料サイクル開発機構
 MOX燃料FBRの開発を進めている。MOX燃料FBRは、すでに原型炉「もんじゅ」があり、原型プラント建設が達成されているものの、マイナーアクチニドが燃料に含まれることによって要素技術に開発項目が生じると考えられる。マイナーアクチニド核種の核データについては、原子炉、加速器等を用いて取得・評価を行った。また、マイナーアクチニドや希土類元素の許容量や具体的な燃料装荷方法などの設計研究を進めた。したがって、@設計・要素技術開発段階にあると考えられる。
 ウ)電力中央研究所
 金属燃料FBRの概念の開発を進めている。マイナーアクチニド核種の核データについては、マイナーアクチニド変換解析コードを開発し、解析を行うなど、@設計・要素技術開発段階にあると考えられる。
c)燃料処理プロセス
 燃料処理プロセスは、基本的には分離プロセスと同様に、大きく以下のような3つの段階に分けることができる。
 @プロセス構築・成立性実証段階
 A化学工学的試験段階
 B原型プラント建設段階

 ここでは、@〜Bの3段階を設定し、この同一の指標により各機関の研究開発の現状を整理することとした。

 ア)日本原子力研究所
 燃料処理プロセスとして、乾式再処理と同様の高温化学処理を開発している。ウラン、ネプツニウム及びプルトニウムの窒化物の溶融塩電解試験(1g規模)を行い、超ウラン元素金属を回収できることを確認した。また、窒素15の燃料処理プロセスにおける回収とそのリサイクルのため、窒化物が溶融塩中に溶解したときの窒素(N2)の放出挙動を調べ、N2としてほぼ100%放出されることを確認した。したがって、@プロセス構築・成立性実証段階にあると考えられる。
 イ)核燃料サイクル開発機構
 分離プロセスと同じ方法を考えており、@プロセス構築・成立性実証段階にあると考えられる。
 ウ)電力中央研究所
 溶融塩電解法、及び、分離プロセスと同様の還元抽出法を考えている。再処理の主工程にあたる電解精製技術については、国際共同研究を通してプロセスの成立性を確認しており、工学規模の試験段階にあるものの、酸化物の還元技術や塩廃棄物処理技術についてはプロセスの成立性の確認が必要であることから、@プロセス構築・成立性実証段階にあると考えられる。
(3)まとめ
 このように、3機関の研究開発は、その成果に基づき所定の性能を有する分離変換技術のプロセスを構築するなど、第T期の研究開発の所期の目的を達成したものと考えられる。
 第U期の研究開発については、進捗は遅れる傾向にある。この背景としては、高速増殖炉の全体計画の見直しのほか、マイナーアクチニド等の取扱施設の整備の遅れなどが考えられる。
 今後の研究開発に当たっては、国内外との協力を進め、試験施設の利用や大規模試験を効率的に進めることが重要である。
5.技術的課題
(1)分離プロセス
 3機関の共通課題としては、実廃液を用いたプロセス実証試験の実施がある。
原研及びサイクル機構で開発している湿式分離法の共通課題としては、マイナーアクチニドと希土類元素の分離法の開発、二次廃棄物発生量の低減に向けた技術開発がある。
一方、電中研で開発している乾式分離法については、塩化物溶融塩を取り扱うため、材料開発や移送技術の検討などが課題である。
 ア)日本原子力研究所
 実用化に向け、プラント成立性確認のために、群分離後の各元素群の精製及び処理に関する技術、抽出溶媒・試薬の再使用技術開発が課題である。当面は、実プラントの1/1000規模での濃縮高レベル放射性廃液を用いた基礎試験によるプロセス成立性実証の最終確認を進める。また、より効率的で廃液処理の容易なマイナーアクチニドと希土類元素の分離法の開発が重点課題である。
 イ)核燃料サイクル開発機構
 より効率のよいマイナーアクチニドと希土類元素分離法の開発、遠心抽出器への適合等が課題である。当面は、プロセス設計のためのシミュレーション技術の開発、マイナーアクチニドと希土類元素分離に向けた現在の分離法の最適化及び新抽出剤の開発、実廃液を用いた遠心抽出器による抽出試験、有機二次廃棄物の分解・無機化技術の開発が課題である。  電解採取法については、電解採取条件の最適化、メカニズムの解明、実廃液を用いた試験の実施、工学装置の検討等が課題である。
 ウ)電力中央研究所
 実際に超ウラン元素や実廃液を用いて、分離プロセス全体を通したプロセス実証試験を進める必要がある。これについては、平成14年度までにEU超ウラン元素研究所との共同研究などで実施する予定となっている。今後必要となる工学規模の試験に当たっては、他機関との協力体制が不可欠である。当面は、塩化物や活性金属に対する高耐食性材料の開発、溶融塩などの高温の液体の移送技術の検討、二次廃棄物発生量の評価などが課題である。
(2)核変換サイクル
 3機関の共通課題としては、燃料の照射試験に基づく挙動評価やデータ取得、燃料製造技術の開発がある。
 ア)日本原子力研究所
 燃料製造プロセスについては、マイナーアクチニド窒化物燃料の照射データの蓄積、発熱対策、窒素15の経済的濃縮法の開発等が課題である。当面は、マイナーアクチニド窒化物燃料の試作及び照射試験を進める。
 ADSによる核変換プロセスについては、従来の原子炉と構造や制御方法が異なるため、システムの安全性の実証、大電流陽子加速器の開発が課題である。当面は、炉心設計やシステム制御方法の開発、ビーム窓の開発、構造・材料の設計、核データやモデルの整備・検証が重点課題である。
 燃料処理プロセスについては、電解精製試験、回収したマイナーアクチニドの再窒化試験を進める。
 イ)核燃料サイクル開発機構
 マイナーアクチニド及び核分裂生成物核種の核データ及び物性データの充実・精度向上、マイナーアクチニド燃料の照射挙動評価、マイナーアクチニド燃料製造施設による製造技術開発等が当面の課題である。
 ウ)電力中央研究所
 当面は、照射試験等に基づく燃料挙動解析のためのデータ整備、射出成型法による燃料製造技術の開発が課題である。

6.その他の分離変換技術に係る研究開発の現状
 サイクル機構では、前述のMOX燃料FBRサイクルによる核変換の他に、いくつかの分離変換技術を開発してきた。ここでは、それらの技術について、概要、特徴及び課題等について整理した。

(1)電子線加速器を用いた核変換プロセス
a)プロセスの特徴と概要
 ストロンチウム90及びセシウム137等の比較的短寿命の発熱性核種、セシウム135、テクネチウム99、ヨウ素129等の長寿命核種、放射化生成物である炭素14を対象としている。
 電子加速器からの電子線を利用してγ線を発生させ、その照射で起こる(γ,n)反応*1により、それぞれの核種を短寿命核種あるいは非放射性核種に変換する。(γ,n)反応では、中性子では変換しにくい核分裂生成物の核変換が期待できる一方、(γ,n)反応が起こりにくいことから、大電流の加速器や同位体分離が必要といった課題がある。


*1(γ,n)反応:核種にγ線を照射すると、中性子を1個放出して別の核種に変換する反応。

b)これまでの成果と現状の分析
 核変換に必要なエネルギーは、核反応の起こり安さを示す核反応断面積に大きく依存する。この詳細な測定に必要な測定器を開発し、酸素18及び炭素13の(γ,n)反応の断面積を測定することができた。しかし、処理対象核種の断面積は測定されていない。
加速器については、主要部分の試作評価に基づき、大電流電子加速器を設計、製作し、基本性能を確認している。現在までに、6MeV-0.2MAを達成した。
 本システムについては、核変換プロセスとしては、@設計・要素技術開発段階にあると考えられる。
c)今後の見通し及び課題
 現在のシステムでは、対象核種の核変換に多くのエネルギーが必要であり、本法による核変換に意義を見出すことは難しい。しかし、(γ,n)反応の断面積が詳細に測定され、仮に断面積が大きくなるエネルギー領域が存在した場合には、必要とするエネルギーを低減することが可能になり、本法による核変換が有効となることもありうる。
 したがって、当面は、処理対象核種の(γ,n)反応断面積の詳細な測定が必要であり、その結果を踏まえて、本法の今後の展開を検討することが適当と考えられる。
(2)超高温分離処理
a)プロセスの特徴と概要
 セシウム137等の比較的短寿命の発熱性核種、ルテニウム、ロジウム、パラジウムといった白金族元素を対象としている。
 高レベル放射性廃液を加熱し、成分を酸化物にするとともに、セシウムを気化させて分離する。残留物に窒化チタンを添加し、白金族元素を還元する。この全体を溶融すると、還元された白金族元素は合金の塊となって下層に、他の元素の酸化物は上層に分離する。
 この方法では、添加物は窒化チタン(核分裂生成物の40%相当量が必要)のみで、溶媒を使用しないことから、新規な二次廃棄物を発生させず、装置も比較的小規模で済む。また、残った高レベル放射性廃棄物は、ガラスのようなマトリックスを含んでおらず、最小の体積にすることができる。
 一方、溶融・分離は1600℃という高温が必要であり、そのための装置としてはコールドクルーシブルの利用が考えられるが、利用実績が少ない。
b)これまでの成果と現状の分析
 模擬高レベル放射性廃液を用いてセシウムの気化試験を行い、廃液の仮焼体を1000℃で加熱することにより、1時間で目標である90%以上のセシウムが気化することを確認したが、その捕集率は確認されていない。また、kg規模で、白金族元素の還元・分離試験を行い、目標である90%以上の白金族元素を分離・回収できることを確認した。
 このように、主なプロセスについては、模擬廃液を用いて分離対象元素の挙動を確認し、所定の分離性能が得られることを確認しており、分離プロセスとしては、@プロセス構築・成立性実証段階にあると考えられる。
c)今後の見通し及び課題
 技術的課題としては、セシウムの捕集、工学的に可能な溶融炉の開発、分離したセシウム及び白金族元素を有効利用するための精製方法の検討等がある。
 本法については、高レベル放射性廃棄物の処理処分における経済性向上の観点からは、分離したセシウム及び白金族元素を有効に利用する方法の検討が必要と考えられる。また、ガラス固化体に代わる新しい高減ヨウ固化体の開発としての意義もあると考えられるが、そのためには、廃棄体の地層処分時の安全性についてより詳細に評価する必要がある。その結果を踏まえた上で本法の今後の展開を検討することが適当と考えられる。
(3)不溶解残渣からの有用金属回収技術
a)プロセスの特徴と概要
ルテニウム、ロジウム、パラジウムといった白金族元素、テクネチウム99を対象としている。
 乾式分離法(鉛抽出法・灰吹法・オゾン酸化処理法)と湿式分離法(溶媒抽出法・沈殿法)を組み合わせて、不溶解残渣から白金族元素を単離回収する。さらに、放射性同位体を分離するため、レーザー同位体分離を行う。
 鉛抽出法は単純な方法で、セル内での操作も容易である。しかし、単離精製には湿式法が必要であり、ここでの二次廃棄物の発生を考慮する必要がある。
b)これまでの成果と現状の分析
 抽出媒金属及び不溶解残渣回収法の比較検討を行い、方式を選定した。実不溶解残渣を用いた鉛抽出基礎試験を行い、白金族元素を鉛相へ抽出回収できること、その際テクネチウムがルテニウムと同様の挙動を示すことを明らかにした。また、鉛相中に固溶した白金族元素を分離回収する方法として灰吹法のコールド及びホット試験を行い、鉛相から白金族元素を貴金属塊として分離回収し、その有効性を明らかにした。また、貴金属塊の硝酸溶解液からの各元素の分離のうち、ルテニウムについては、オゾン酸化処理法により99%が回収できることを確認したが、パラジウム及びロジウムの分離については溶媒抽出法で用いる抽出溶媒の分離性能評価を行っている。このように、分離プロセスとしては、@プロセス構築・成立性実証段階にあると考えられる。
 一方、レーザー同位体分離法については、天然のパラジウムを対象として同位体分離試験を行い、パラジウム105を22%から73%に濃縮できることを確認した。本法についても、@プロセス構築・成立性実証段階にあると考えられる。
c)今後の見通し及び課題
 技術的課題としては、スケールアップ、同位体分離技術のさらなる技術開発と、実用化に向けた有効利用技術の開発がある。
 本法は、有用金属の回収による再処理の経済性向上を狙ったものであり、不溶解残渣の回収が比較的容易であることから、再処理や高レベル放射性廃棄物処理処分にはあまり影響を及ぼさないと考えられる。すなわち、本技術の研究開発の意義は、回収された有用金属の利用により得られる利益と、回収に要するコストの比較によって決まると言えるため、この点を詳細に評価する必要がある。

第3章 分離変換技術の効果及び意義

1.放射性廃棄物に含まれる放射能インベントリ  産業活動に伴う有害廃棄物の発生を極力抑制することは社会的な要求となっている。分離変換技術によって高レベル放射性廃棄物に含まれる長寿命核種を除去し、長期的な放射能インベントリを低減することは、この社会的要求に適うものである。例えば、使用済燃料に含まれるマイナーアクチニドの99%を分離除去することができれば、使用済燃料の毒性指数が、それを製造するために用いた天然ウランの毒性指数と同等になるまでに要する時間を、再処理後数百年とすることができる。

2.地層処分に対する効果
 我が国では、高レベル放射性廃棄物のガラス固化体を地層処分することとしている。そこで、本技術の地層処分に対する効果について、長期的な安全性及び地層処分場の設計の二つの観点から、概略的な検討を行った。

(1)長期的な安全性への効果
a)地層処分の長期的安全性
 地層処分の長期的安全性の評価は、シナリオを作成し、これに対応したモデルとデータを用いてシステムの安全性能を解析し、その結果を基準と比較することによって行われる。 シナリオについては、大きく地下水移行シナリオと接近シナリオに分け、検討が行われている。地下水移行シナリオについては、基本的にモデルとデータを用いた解析を行っている。接近シナリオについては、基本的に適切なサイトを選定することによってその影響を避けることが可能であることを示しているが、このうち人間侵入シナリオについては、念のため侵入者に対する影響を解析している。
@地下水移行シナリオ
 地下水移行シナリオに基づき、被ばく線量を試算した結果、被ばく線量が最も高い場合でも、諸外国で提案されている安全基準に比べて2桁程度低くなった。
A人間侵入シナリオ
人間侵入シナリオに基づき、リスクを試算した結果、諸外国で提案されているリスクの安 全基準を下回るものとなった。
b)分離変換技術の効果
 地下水移行シナリオ及び人間侵入シナリオに基づき試算された線量あるいはリスクが、 分離変換技術の導入によってどのように変化するかを調べた。
@地下水移行シナリオに対する効果
 セシウム135を99%、さらにトリウム229の親核種であるネプツニウム及びアメリシウムを99%以上分離除去することによって、最大線量を約2桁低減することができる。
A人間侵入シナリオに対する効果
 アクチニド元素を99〜99.99%、分離除去することにより、リスクを2桁程度低減することができる。
c)まとめ
 現行の高レベル放射性廃棄物の地層処分システムは、諸外国で提案されている安全基準を十分に下回るなど、現在の技術で安全性は確保できると考えられる。一方、分離変換技術は、被ばく線量やリスクをさらに下げるために有効な手段となりうる。この際、最大被ばく線量を低減するという観点からは、アクチニド元素よりも長寿命核分裂生成物であるセシウム135の分離除去が有効である。

(2)地層処分場の設計への効果 a)高レベル放射性廃棄物からの発熱の考慮
 高レベル放射性廃棄物からの発熱量によって、その貯蔵期間あるいは定置に必要な面積が決まる。高レベル放射性廃棄物からの発熱は、セシウム及びストロンチウムによるものが約2/3を占めることから、これらの元素を分離除去できれば、貯蔵期間の短縮あるいは定置面積の減少が可能になると考えられる。 b)分離変換技術の効果
 高レベル放射性廃棄物の発熱量が、竪置き方式では約380W/本、横置き方式では約200W/本になると、熱以外の制約で定置に必要な面積が決まることから、この発熱量以下にすることが目標になる。セシウム及びストロンチウムの分離除去の割合によって、貯蔵期間と発熱量は概ね以下のようになると考えられる。
 ○分離除去しない場合:貯蔵期間50年で350W/本
 ○40%を分離除去した場合:貯蔵期間30年で350W/本
 ○90%を分離除去した場合:貯蔵期間3年で350W/本
 ○99%を分離除去した場合:貯蔵期間3年で250W/本
c)高レベル放射性廃棄物発生量
 ガラス固化体への廃棄物含有率は、約25%以下に制限されている。これは、ガラス固化体特性に及ぼす以下の各元素の影響を防ぐためである。

 しかし、モリブデンを80%、パラジウム及びルテニウムを95%、セシウム及びストロンチウムを90%、それぞれ分離除去することによって、これらの影響を防ぎつつ、約45%まで廃棄物含有率を高められる可能性が示されている。この場合、地層処分するガラス固化体の本数を約半分とすることができる。 d)まとめ
 発熱性核種の分離除去によって、高レベル放射性廃棄物の貯蔵期間を短縮できる可能性がある。また、高レベル放射性廃棄物を適当な間隔を空けて処分する方式ではなく、大きな空洞に一括して処分する方式をとるなど、処分場設計を合理化できる可能性がある。

3.その他の論点

(1)資源としての有効利用
 高レベル放射性廃棄物に含まれる放射性物質の中には、資源として有効利用できるものがある。
a)有用で天然には稀少な元素
@用途
 ルテニウム、ロジウム、パラジウム等の白金族元素は、窒素酸化物の発生を低減させるための自動車の排ガス触媒、石油化学や医薬品などの化学工業用触媒等として、幅広く利用されている。また、テクネチウムは防蝕試薬や触媒、セレンは光電子材料や薬剤、テルルは特定波長の電磁波検出器材料等としての利用が考えられる。
A精製技術
 上記のような用途で用いる場合には、各元素の特長を生かすために少なくとも元素分離が必要であり、比放射能をさらに低減するため、同位体分離が必要となる場合も考えられる。
b)熱源や放射線源となる核種
 高レベル放射性廃棄物が高い発熱量を有することから、熱的に安定な固化体を熱源として利用することも可能と考えられる。また、セシウム137をγ線源として利用することが考えられている。
c)核分裂エネルギーの利用
 超ウラン元素の核変換は、核分裂反応の利用を考えているが、その過程で発生するエネルギーを発電に利用することが可能である。

(2)マイナーアクチニド及び長寿命核分裂生成物の減少量とそれに要する時間 a)マイナーアクチニド及び長寿命核分裂生成物の廃棄物への残留
 高レベル放射性廃棄物からマイナーアクチニド及び長寿命核分裂生成物を100%分離すること、あるいは、分離したものを100%の効率で核変換することは、原理的1)、工学的2)に不可能である。したがって、分離変換技術を導入したとしても、それでは処理できないマイナーアクチニドあるいは長寿命核分裂生成物が廃棄物に残留するため、最終的にはそれらを処分するための地層処分が必要となる。廃棄物に残留するマイナーアクチニドあるいは長寿命核分裂生成物を少なくするためには、高レベル放射性廃棄物からのそれらの分離効率及び核変換効率を向上させることが必要である。


1)抽出分離法では、元素によって2つの相(硝酸相と有機溶媒相、溶融塩相と液体金属相など)に溶解する濃度に差があることを利用し、分離対象元素がより多く溶解している方の相を回収することにより、他の元素と分離する(例えば、硝酸相中に溶解しているウランは、TBPと結合すると有機溶媒相に溶解しやすくなるため、その有機溶媒相を回収すれば、硝酸相中に溶解している他の元素と分離することができる)。しかし、もう一方の相にも少量ではあるが分離対象元素が溶解しているため、これらが廃液に混入するなどして、廃棄物として排出される。また、マイナーアクチニドの核変換の確率が非常に小さいため、現在の設計では1サイクルでの核変換効率は、炉心に装荷したマイナーアクチニドの10〜20%程度である。
2)分離、燃料製造、燃料処理等の工程操作の段階で、放射性物質の一部は、少量ではあるが機器に付着するなどして、廃棄物として排出される。

b)核変換効率と核変換に要する時間
 同じスペクトルを持つ中性子により核変換する場合、対象元素の核変換効率と核変換サイクルからの漏れ率の設定が同様であれば、対象元素の減少量とそれに要する時間は、燃料形態、炉型や処理方法によらず、同じ試算結果になると考えられる。ただし、現実には、燃料形態や処理方法の違いにより、原子炉への燃料装荷、燃料処理、燃料加工という一連のサイクルに要する期間等が異なるため、減少に要する時間に差が出る可能性がある。
 窒化物燃料を用いたADS(軽水炉の1/4の熱出力規模)では、1基で軽水炉10基分(年間約250kg生成)以上のマイナーアクチニドを核変換可能と考えられる。また、酸化物あるいは金属燃料を用いた高速炉では1基で軽水炉5〜6基分のマイナーアクチニドを核変換可能と考えられる。
 ADSの方が核変換効率が高くなる理由としては、高速増殖炉が発電を主目的としておりウランやプルトニウムを主体とする炉心構成であるのに対し、ADSがマイナーアクチニドの変換を主目的としておりウランやプルトニウムをほとんど含まない炉心構成であるため、ウランやプルトニウムの中性子捕獲反応による新たなマイナーアクチニドの生成がほとんどないことが挙げられる。また、高速増殖炉(特にMOX燃料)の方が高速中性子のエネルギーがやや低く(柔らかいスペクトルに)なり、核変換効率が低くなることも挙げられる。 また、長寿命核分裂生成物に関しては、100万kW級軽水炉1〜2基分のヨウ素129及びテクネチウム99をADS1基で、また、100万kW級軽水炉3.6基分のヨウ素129(1基で年間約5kg生成)及び1.5基分のテクネチウム99をそれぞれ高速炉1基で核変換可能と考えられる。
(3)二次廃棄物の発生
a)湿式分離法
 湿式分離法では、PUREX再処理と同様、放射線分解や加水分解による廃溶媒、試薬として添加した塩などの二次廃棄物が発生する。しかし、再処理プロセスに比べて、そこから発生する高レベル放射性廃液だけを対象とする分離変換技術では、処理対象とする液体の取扱量が極めて少ないため、発生する二次廃棄物も少なくなると考えられる。例えば、原研の抽出プロセスの例では、廃溶媒に起因する廃棄体の発生量は、PUREX再処理の20分の1以下と試算している。
b)乾式分離法
 乾式分離法では、溶媒として放射線による劣化生成物のない溶融塩、液体金属、還元剤として金属リチウムを使用しているが、それらの多くは系内でリサイクルできる見通しである。しかし、本法については工業規模の経験がほとんどないため、具体的な二次廃棄物発生量や、設備の保守、機器の交換によって発生する放射性廃棄物の発生量については、今後検討が必要である。

(4)短期的な放射線被ばく線量の増加
 分離変換技術を核燃料サイクルに導入した場合、新たな工程や施設が追加されること及び工程で扱うマイナーアクチニドや長寿命核分裂生成物が増加することから、計算上は、短期的には、施設の運転等に従事する作業者と周辺に居住する一般公衆の被ばく線量が増加する可能性はある。しかし、これらの被ばく線量については、既存の原子力施設と同様に法令で定められた線量基準を満たすことはもちろん、合理的に達成可能な限り低くなるよう措置が講じられるため、実際には有意な増加はないと考えられる。 (5)経済性
 これまでの研究開発は、プロセスやシステムの設計に必要な基礎データを取得するための基礎的な研究が中心であり、現時点では、分離変換技術導入のためのコストを高い信頼性を持って示すことができる段階ではない。ちなみに、3機関が一定の仮定の下で行った大まかな試算によると、本技術の導入によるコスト上昇率は、軽水炉の発電コストの数%程度と推定される。

第4章 各国における分離変換技術に係る研究開発の現状

 日本のオメガ計画はこれまで国際的な分離変換技術の研究開発において先導的な役割を果たしてきており、諸外国や国際機関における研究開発計画1)に対して大きな影響を与えている。現在、フランスでは法律に基づいて高速炉や加速器駆動炉を用いた分離変換技術の研究開発が行われいる。米国では金属燃料サイクルと加速器駆動炉に関する基礎的研究が行われており、現在連邦議会においてエネルギー省が作成した加速器駆動核変換技術(ATW)開発指針について検討が行われている。ロシアでは乾式再処理や高速炉による分離変換技術の研究開発が行われている。その他、韓国、中国などのアジア諸国、ベルギー、オランダ、スウェーデン、チェコなどのヨーロッパ諸国でもそれぞれ研究を行っている。また、OECD/NEAにおいては、我が国の提案で1989年から長寿命核種の分離変換技術に関する情報交換、システム研究、データベース整備などが進められている。
 このように、本技術の研究開発あるいは国際協力に関する動きが、近年活発になりつつあることから、法律に基づき研究開発が積極的に進められているフランス、新たな研究開発計画を策定した米国を中心に、研究開発の現状を整理した。


1)例えば、以下のような計画がある。
○SPIN計画:フランスにおける長寿命核種の分離変換技術研究開発の全体計画。
○CAPRA計画:欧州における高速炉を用いたプルトニウム等の燃焼に関する研究計画。
○SUPERFACT計画:欧州におけるマイナーアクチニド含有酸化物燃料の研究開発計画。
○EFTTRA計画:欧州における核変換用ターゲットの研究開発計画。
○Demo計画:加速器駆動未臨界炉の原型炉の実現のための研究開発計画。現在、イタリア、スペイン、フランスの科学技術担当大臣の下で計画が進められているが、今後、欧州委員会のフレームワーク計画の枠組みの中での実施を目指している。
○米において、加速器駆動未臨界炉による放射性廃棄物の「核変換」(ATW)に関する今後の研究開発指針に関する報告書が策定され、1999年10月、議会に報告された。

1.フランス

 フランスでは、1991年に策定された放射性廃棄物管理研究法に基づき、高レベル・長寿命放射性廃棄物の処理処分に関し、地層処分、分離変換技術及び長期貯蔵の3分野の研究開発を実施している。政府は議会に対し、3分野の研究開発の状況について、毎年報告書を提出するとともに、2006年までに研究を総括評価した報告書を提出することとなっている。これを踏まえ、議会ではその後の管理方策を決定する。
 本技術は、原子力発電や核燃料サイクルのオプションの幅を広げるものと位置づけられている。廃棄物法を受けて、原子力庁(CEA)とフランス核燃料会社(COGEMA)は、SPIN計画と呼ばれる中長期研究計画を提案した。本技術の対象となっているのは、マイナーアクチニド及び長寿命核分裂生成物(ヨウ素129,テクネチウム99,セシウム135)であり、日本と同様、プルトニウムについては、廃棄物と考えていないことから、核変換対象としていない。ただし、長期にわたる廃棄物管理シナリオでは、プルトニウムの管理方法も考慮する必要があるとしている。
 分離技術のうち湿式法については、独自の分離フローシートを作成し、実験室規模で実証試験を実施してその有効性を確認しつつある。乾式法については、ロシアあるいは我が国との共同研究により、実証試験を実施する予定である。燃料は、酸化物、金属燃料、不活性母材など様々な形態を検討対象としており、国際共同研究により基礎的なデータを取得している。核変換技術のうち、高速炉を用いた技術の研究開発はCAPRA計画で実施し、加速器駆動未臨界炉システムの研究開発は欧州連合(EU)のフレームワーク計画に提案するなど、国際協力の枠組みを有効に利用している。

2.米国
 エネルギー省(DOE)民生放射性廃棄物管理局(OCRWM)は、1999年初頭から、議会の指示に基づき、研究開発の「ロードマップ(開発計画)」を作成すべく、加速器駆動核変換技術(ATW)に関する総括的な調査研究を進め、1999年10月、議会に報告書を提出した。ATWの研究開発では、米国が有する加速器技術及び金属燃料高速炉技術を有効に利用することとしている。また、日本あるいはフランスと異なり、プルトニウムを廃棄物として変換対象としている。
 報告書の作成に当たっては、運営委員会を中心に各分野毎にワーキンググループで作業を進め、各国から専門家を集めたワークショップで内容の検討を行った。報告書には、今後必要となる研究開発の項目、時期、費用、システム導入の戦略、効果等が示されている。
 今後6年間の研究開発計画として、以下のような方向が示されている。
1〜3年:主要な技術的選択が正しいかどうかを評価するためのシステム研究
4〜5年:システムの予備概念設計を行い、6年計画終了後からの詳細な研究開発実証(RD&D)計画を立案する。
6年:初期のR&Dを終了し、ATWの技術的な実施可能性を評価する。
 ここまでのコストは、2億8,100万ドル(約300億円)と見積もられている。 また、その後も大規模に展開していくとした場合の研究開発計画も示されている。それによると、最初の8年間にすべきこと、及びその後のマイルストーンとして、以下のようなことが示されている。
最初の8年間:キーとなる技術項目(加速器、ターゲット、ブランケットシステム、分離技術、廃棄物形態)に関する選択・決定
15年目:実証試験(加速器エネルギー及びターゲットを実規模で、加速器出力及び核変換器を実規模より小さい規模(30MWth)で実施)
23年目:実証試験(加速器及び核変換器を実規模で、熱出力を実規模(840MWth)の半分の規模で実施)、分離及び燃料加工施設の運転
29年目:実証試験(核変換器を2基、電気出力を実規模で実施)、実規模の処理及び燃料加工施設の運転
この場合のコストは、約110億ドルと見積もられている。

3.国際機関
(1)欧州連合(EU)
 共同研究センター(JRC)の一つである超ウラン元素研究所(ITU)において、分離変換技術に関する研究開発が行われている。本技術は、廃棄物管理研究の一つと位置づけられており、EU各国の研究をサポートすることを目的とし、将来の核燃料サイクルの選択肢の幅を広げるため、多様なオプションについて研究が行われている。
 具体的には、湿式分離法に関し、フランスで開発されているプロセスについて実廃液を用いた実証試験を実施しており、良好な結果が得られている。乾式分離法については、電中研との共同研究を行っており、溶融塩化物及び液体金属を用いた還元抽出技術の実証試験を実施する予定である。燃料については、燃料サンプルを製作する一方、SUPERFACT計画あるいはEFTTRA計画といった国際共同研究計画に参加し、基礎データを取得している。
(2)経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)
 我が国の提案で、1989年からOECD/NEAにおいて、長寿命核種の分離変換技術に関する情報交換と核データのデータベース整備等が進められており、1990年から2年毎に情報交換会議も開催している。また、1999年、"Actinide and Fission Product Partitioning and Transmutation"と題する報告書を取りまとめた。本報告書は、現在各国で進められている分離変換技術の現状について概説するとともに、本技術のリスク評価及び廃棄物管理に与えるインパクトについて分析している。

第5章 今後の研究開発の進め方

 産業活動に伴う有害廃棄物の発生を極力抑制することは、循環型社会の実現、地球環境保全等の観点から社会的な要求となっており、原子力についても有効な対策を講じることが求められている。長寿命核種の分離変換技術は、放射性廃棄物に含まれる長期的な放射能インベントリを低減するなど、この要求にかなった有用な技術となる可能性がある。したがって、今後も引き続き研究開発を着実に進めることが適当である。
その際考慮すべきことは、以下のとおりである。

(1)分離変換技術と核燃料サイクル
 分離変換技術は、核燃料サイクルと不可分である。核燃料サイクルの検討に当たっては、サイクルのどの部分にどのような分離変換技術の機能を持たせることが核燃料サイクルとして最適かといった視点に立った検討が望まれる。分離変換技術の研究開発の目的は、核燃料サイクルの検討の場に対し、核燃料サイクルへの分離変換技術システムの導入シナリオを示すとともに、そのためのシステムを設計し、必要な要素技術を確立することである。このため、核燃料サイクル全体を視野に入れて、経済性、エネルギー資源の確保、廃棄物に含まれる放射能インベントリの低減などについて信頼性の高い評価を行うとともに、それらの考慮すべきファクターのトレードオフについて検討を進める必要がある。
 なお、これまでの研究開発は、プロセスやシステムの設計に必要な基礎データを取得するための基礎研究が中心であり、本技術の経済性を高い信頼性をもって評価できる段階にはない。今後、将来の核燃料サイクルにおいて具体的な位置づけが行われるよう、システムの全体構成について研究開発を行うべきである。その際、技術の実現可能性や経済性をはじめ、研究開発の実施体制及び要員、資金、施設などの観点からのフィージビリティスタディの実施が重要である。社会の変化に伴い、経済性の持つ意味も変化するものであり、大量生産・大量消費型の社会から循環型の社会へ変わりつつある今日、経済性の評価に当たってはその点にも留意すべきと考える。

(2)システム設計研究と要素技術開発
 本技術の研究開発は、核燃料サイクルへの導入を念頭に置いたシステム設計研究と、そのシステムの実現に必要な要素技術開発からなる。要素技術の開発には時間を要するものであり、システム設計のための調査研究と相互に成果を反映しつつ、連携して着実に進めるべきである。
 また、分離変換技術の研究開発は、核燃料サイクルのオプションを広げるとの観点から、幅広いシステムや技術を対象に進めるべきである。その際、必要となる基礎データの充実を図るとともに、核燃料サイクルの検討の場に対し研究開発の成果が反映されるよう積極的に情報提供を行う必要がある。さらに、既存のシステムや技術1)にとらわれず、より選択肢を広げるために、新しいアイデアを吸い上げるような環境づくりも重要である。


1)例えば、我が国で研究開発が進められている既存のシステムや技術としてつぎのようなものがある。
 ○核変換サイクルの基本的考え方:発電用高速炉利用型、階層型
 ○分離プロセス:湿式法(4群群分離法、改良PUREX・改良TRUEX法)、乾式法(塩化物法)
 ○燃料形態:酸化物燃料、窒化物燃料、金属燃料
 ○核変換プロセス:高速増殖炉、専焼高速炉、加速器駆動未臨界炉

(3)当面の進め方
 我が国で研究開発が進められている発電用高速炉利用型と階層型とは、それぞれに特徴があり、核燃料サイクルのオプションに多様性を与えるものであることから、当面は双方の技術開発を進めることが適当である。その目標は、発電用高速炉利用型と階層型の共存シナリオも含めて、実現性のある核燃料サイクルへの分離変換技術システムの導入シナリオを検討し、必要な技術を確立することにある。
 今後は、システム設計や分離変換技術の導入シナリオの検討を進める。そのシナリオに従って、これまでの研究開発成果に基づき、一連のプロセスが成立することを実証するための基礎試験を進めるとともに、成立性が実証されたシステムについて安全性等に関するデータを取得するための工学試験を実施する。その際、定期的にチェック・アンド・レビューを行い、シナリオの見直しを行いつつ研究開発を進めていくことが重要である。
(4)実施体制
 コンセプト、炉型、システム等に違いはあっても、本技術に係る研究開発は共通課題が多く、また、3機関には研究開発成果の蓄積があることから、3機関は協力を一層進め、共通課題の解決にあたるべきである。その際、国内機関とも協力して、既存の研究施設を活用するなど効率的に研究開発を進めることが重要である。また、核燃料サイクルの諸技術と共通するものが多いため、核燃料サイクルの技術開発の成果を共有しつつ研究開発を進めることが重要である。大学においては、より基礎的な分野あるいは斬新な発想に基づく新しいシステム等の研究開発が期待され、3機関は大学の自主性、独創性を生かしつつ、協力を進めることが望ましい。
 また、欧米諸国において、本技術に係る様々な研究開発について国際協力を進める動きがあることから、これらの枠組みに積極的に参加するとともに、海外の研究施設を利用する等して、効率的に研究開発を進めるべきである。さらに、既存のOECD/NEAにおける枠組み等を利用した情報交換にも努めることが望まれる。

(5)研究開発のスケジュールと評価
 前述のように、本技術は核燃料サイクルと不可分であることから、核燃料サイクルの研究開発1)と整合性のあるタイムスケジュールを念頭に置きつつ、本技術の研究開発に取り組むことが適当である。
 現在、サイクル機構及び電気事業者は、高速増殖炉及びこれに関連する核燃料サイクルについて、調査研究2)を実施している。この調査研究では、2005年頃を目途に、実用化の候補として有用な技術についての研究を集約して評価し、実用化までの研究開発シナリオをレビューする計画である。本技術についても、同時期が導入シナリオを見直す一つの目途と考える。その後も、研究開発の進捗、成果及び進め方について概ね5年を目途にチェック・アンド・レビューを行い、システム概念の絞り込みや導入シナリオの見直しを図りつつ進められるべきである。


1) 高速増殖炉及びこれに関連する核燃料サイクルについては、サイクル機構を中心として2030年頃の実用化を目指して研究開発が進められてきた。
2)核燃料サイクル開発機構及び電気事業者は、高速増殖炉及びこれに関連する核燃料サイクルについて、これまでの研究開発により得られた知見を踏まえ、さらに幅広い技術選択肢の評価を行い革新的技術を取り入れ、競争力のある実用化候補概念の構築とその研究開発計画等の検討・策定を行う「実用化戦略調査研究」を実施している。

おわりに

 本技術は、物質を原子のレベルで変換するという日常の化学反応とは異なる世界に属し、その可能性は単に核変換にのみとどまるものではない。また、本技術の開発に際しては、既存の技術だけでは解決が困難な課題が含まれており、この困難を解決することが新たな技術へのブレークスルーに通じるものと期待できる。このため、多くの若い技術者がこの世界を目指すよう、その魅力を大いにアピールすべきである。このような先端技術の研究は、原子力研究の活性化に大きく寄与するものと期待される。原子力の優れた技術者、研究者を生み出すために、本研究は大いに推進されるべきである。
 なお、本技術はより広い視野に立った研究開発を必要とするものでもあるため、既存のシステムにとらわれない斬新なアイデアを吸い上げるような環境づくりが重要である。
 国際的には、我が国のオメガ計画に触発されて、フランスを中心とするヨーロッパ、米国において同様の計画が多数立ち上がってきた。国際貢献の一環として、今後も我が国は、研究開発の評価を適宜行いつつ、この分野において重要な役割を果たしていくことが望まれる。