資料(専)27-3

「超ウラン核種を含む放射性廃棄物処理処分の基本的考え方について」の概要(案)

 

平成11年11月30日

はじめに
 再処理施設やウラン-プルトニウム混合酸化物燃料の成型加工施設(以下「MOX燃料加工施設」という。)から、その運転・解体に伴い放射性廃棄物が発生する。
 これらの放射性廃棄物中の放射性核種は使用済燃料に含まれていたものであり、ウラン等の核分裂により生成した核種、ウラン等が中性子を吸収して生成した超ウラン核種及び金属材料等が放射線によって放射化された核種が存在する。その放射性核種濃度は、放射性物質が付着した紙タオル等のような低いものから、使用済燃料を切断して硝酸に溶解した後の被覆管の断片等(以下「ハル・エンドピース」という。)といった比較的高いものまで幅広い範囲に及んでいる。
 我が国では、このような放射性廃棄物は核燃料サイクル開発機構(以下「JNC」という。)の東海再処理工場及びMOX燃料加工施設の運転に伴い発生しており、現在建設中である日本原燃(株)の再処理施設からも、運転開始に伴い同様の廃棄物が発生することとなる。将来的には、これらの施設の解体によっても廃棄物が発生する。また、海外での再処理委託に伴い発生した廃棄物も将来我が国に返還される予定である。さらに、「RI・研究所等廃棄物」には、α核種濃度約1GBq/t(以下、「一応の区分目安値」という。)を超える放射性廃棄物が存在しており、これらについては、超ウラン核種を含む放射性廃棄物の処分方策に準じて基準等の整備を順次実施する必要があるとされている。  原子力バックエンド対策専門部会は、これらの廃棄物を対象として、既存の処分方策を参考にしつつ、その特徴を踏まえた安全かつ合理的と考えられる処分の基本的考え方について検討を行った。

第1章 超ウラン核種を含む放射性廃棄物廃棄物処分に関する安全確保の考え方
1.超ウラン核種を含む放射性廃棄物の発生の現状と将来の見通し
(1)JNCにおける発生の現状と見通し
 JNCでの平成10年3月現在での発生量は、現在処理されているものが200㍑ドラム缶で約3万2千本(6千4百m)、未処理のものが約1万3千m。さらに、将来も施設の解体により固体廃棄物が発生する。

(2)海外からの返還について
 約七千百tU相当の使用済燃料の海外再処理施設操業に伴う廃棄物の返還時期、返還量は事業者間で調整中。

(3)民間施設における発生の見通し
 六ヶ所再処理施設の運転開始に伴い発生予定である。

(4)廃棄物発生量の試算について
 JNCから既に発生した廃棄物と一部の施設の解体を含めた将来の試算量、海外再処理及び六ヶ所再処理施設の運転に伴う廃棄物発生量の合計は、平成10年3月時点で合計5万6千mと試算(以下「対象廃棄物という」)。このうち約80%は再処理施設の運転に伴い発生する。

2.対象廃棄物の特徴
(1)対象廃棄物の発生形態と処理について
 施設の運転に伴い発生する使用済フィルター、廃液等のほかに、施設の保守・解体に伴い発生する紙タオル、ゴム手袋、金属やコンクリート等廃棄物が発生する。
これらの廃棄物は減容・安定化の観点から処理されるが、JNCにおいてプロセス濃縮廃液のアスファルト固化を実施しており、今後発生する廃棄物の処理としては、プロセス濃縮廃液については乾燥・造粒(ペレット化)後にセメント固化、ハル・エンドピースについては圧縮後にキャニスターに収納、可燃・難燃・不燃廃棄物については焼却又は溶融後にセメント固化を想定した。

(2)対象廃棄物中の核種構成について
 ウラン等の核分裂により生成した核種、ウラン等が中性子を吸収して生成した超ウラン核種及び金属材料等が放射線によって放射化された核種が存在する。

(3)原子炉施設から発生する低レベル放射性廃棄物との核種構成の比較について
 内部被ばくの影響が大きいα核種の占める割合が大きい。

(4)対象廃棄物の核種濃度分布について
 現行の政令濃度上限値を下回る濃度のものから、これを数桁上回るものまで幅広い範囲に分布と予想される。

3.対象廃棄物の処分方策の検討に当たっての考え方
(1)放射性廃棄物処分の基本的考え方
 廃棄物に含まれる放射性核種が生活環境に対して影響を及ぼすことを防止することが必要であり、このためには、処分方法に適した形態に処理した後、放射性物質(放射線)の影響が安全上支障のないレベルになるように処分することが基本である。

(2)我が国でこれまでに検討されてきた処分方法
 低レベル放射性廃棄物のトレンチ処分、コンクリートピット処分、地下利用に余裕を持った深度への処分及び高レベル放射性廃棄物の地層処分がある。

(3)対象廃棄物の処分方法の考え方
 放射性核種の濃度等により適切に区分し、これに応じた合理的処理処分を検討することが必要である。
 廃棄物対策全体としては、共通の性状であれば共通の処分概念に集約することが、安全確保の実効性を高め、処分費用などの点で一層合理的と考えられる。
上記観点から、これまで示されてきている処分方法の適用性を検討する。

4.既存の低レベル放射性廃棄物の処分方法での処分の可能性について
(1)浅地中のコンクリートピットへの処分の可能性について
 ①浅地中のコンクリートピットへの処分について
 既に日本原燃(株)六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターで実施中であり、安全確保策としては、地下数mへ放射性核種閉じ込め機能を持った処分施設(コンクリートピット)を設置し、放射性核種の濃度の減少を考慮して300~400年間処分場を管理するなどの対策を講じることとなっている。
 ②対象廃棄物への適用について
 対象廃棄物は超ウラン核種と核分裂生成物を含むことを考慮する必要があるが、政令濃度上限値を下回るものについて、被ばく線量が目安線量(10μSv/y)を超えない物量を試算した結果、2万3千m(対象廃棄物の約4割)であった。

(2)一般的であると考えられる地下利用に対して十分余裕を持った深度(例えば50m~100m)への処分の可能性について
 ①処分の基本的考え方について
 一般的であると考えられる地下利用に対して十分余裕を持った深度(例えば50m~100m)へコンクリートピットと同等以上の放射性核種閉じ込め機能を持った処分施設を設置し、放射性核種の濃度の減少を考慮して数百年間処分場を管理するなどの対策を講じるというものである。
 ②対象廃棄物への適用について
 現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物と比較して、対象廃棄物はα核種濃度が高いもののβγ核種濃度は低いことから、当該処分概念の適用可能性があると考えられる。
 一例としてα核種の濃度が一応の区分目安値を大きく超えない廃棄物に対して、地下水移行シナリオと一般的ではないと考えられるボーリングコア観察シナリオによる被ばく線量を試算した結果、地下水移行シナリオは目安線量を下回り、外部被ばくと内部被ばくを考慮したボーリングコア観察が起こっても数十μSv以下となった。
これに加えて、長期的な被ばくへの影響についても両廃棄物を比較した結果、類似性が見られることから、当該処分概念の適用可能性がある。

5.既存の低レベル放射性廃棄物の処分概念で処分ができないと考えられる対象廃棄物の処分の基本的考え方
(1)基本的考え方について
 放射性核種濃度が十分減衰するまでに長期間を要する廃棄物については、人間の生活環境から長期間隔離しておくことが必要である。
この条件を満足する既存の処分概念として人間の生活環境から十分離れた安定な地層中に、適切な人工バリアを構築することにより処分の長期的な安全性を確保する地層処分が考えられる。

(2)高レベル放射性廃棄物の地層処分との相違点について
 高レベル放射性廃棄物と比較して、核種濃度が低い、発熱が小さい、廃棄物の性状が多様等の特徴を十分考慮することが必要である。

(3)海外との比較について
 諸外国の中で再処理を行っている国においては、浅地中処分と地層処分の2つの処分概念が選定されているところが多く、我が国においては、各々の処分方法に応じた適切な核種濃度区分を検討する必要があると考えられる。

6.地層処分の検討対象とした廃棄物について
(1)地層処分の検討対象とした廃棄物の範囲
 α核種濃度が一応の区分目安値(約1GBq/t)を超えると考えられる全ての廃棄物に加え、β核種であるヨウ素129(129I)の濃度が高い廃棄物(「廃銀吸着材」)の合計約1万8千mを対象とした。

(2)地層処分の検討対象とした廃棄物の放射性核種の種類及び濃度
 α核種濃度が一応の区分目安値を若干超えるものから、ハル・エンドピースといった数千GBq/tと高いものまで幅広い範囲に及んでいる。
再処理施設から発生する廃棄物には、超ウラン核種及び放射化や核分裂に伴い生成した核種が含まれている。MOX燃料加工施設から発生する廃棄物には、ウランとプルトニウムの同位体が多く、放射化や核分裂に伴い生成した核種はほとんど含まれていない。

(3)地層処分の検討対象とした廃棄物の特徴
 廃棄物の発生源として再処理施設及びMOX燃料加工施設、発生形態は金属やコンクリート、布や紙など多様、処理方法はセメント固化やアスファルト固化などを想定した。

7.地層処分の処分施設概念
(1)処分施設概念の検討に当たっての考え方
 処分施設設計を示すに当たっては、①廃棄体の特性に応じたグルーピングと②比較的大きな空洞へまとめて処分することを基本として検討した。

(2)廃棄体のグルーピングについて
 4つのグループ(廃銀吸着材のセメント固化体、ハル・エンドピースの圧縮収納体、硝酸塩を多量に含むプロセス濃縮廃液のアスファルト固化体等、及びそれ以外の廃棄体)に分類した。

(3)人工バリアの基本構成について
 廃棄体、充填材、緩衝材といった人工バリアの機能を踏まえて各グループの人工バリア構成を検討した。結果は以下の通りである。
グループ1,2:半減期が長く、地下水とともに移行しやすい核種を含むため、廃棄体定置後の空隙をセメント系充填材で充填するとともに、核種閉じ込め性能を更に高めるため周囲にベントナイト系緩衝材を設ける。
グループ3,4:半減期が長く、地下水とともに移行しやすい核種を多く含まないため、緩衝材は設けない人工バリア構成。

(4)処分施設について
 人工バリア構成を踏まえて、坑道の力学的安定性、発熱の影響も考慮しつつ処分施設概念の一例を提示した。
 これに加えて、海外の処分施設の設計例や国内の地下施設の施工実績を踏まえると、処分施設概念は現在の技術で構築することは可能と考えられる。

8.地層処分の安全性について
(1)安全性の検討について
 高レベル放射性廃棄物地層処分の知見を引用しつつ、対象廃棄物の核種濃度分布、性状、施設設計を考慮して検討を行った。

(2)地下水移行シナリオにおいて考慮すべき現象について
 対象廃棄物の特性を考慮して、地下水移行シナリオにおいて考慮すべき現象を網羅的に整理した。

(3)地下水移行シナリオによる被ばく線量の試算結果につて
 核種移行への影響が大きいと考えられる現象を考慮して被ばく線量を試算した。

9.まとめ
 対象廃棄物のうち放射性核種の濃度が比較的低いものについて、「浅地中のコンクリートピットへの処分」あるいは「一般的であると考えられる地下利用に対して十分余裕を持った深度(例えば50~100m)への処分」の適用可能性について検討した結果、対象廃棄物の中にはこれらの処分概念により処分できるものが比較的多く存在するとの見通しが得られた。
 α核種が高い等地層処分の必要があると考えられる対象廃棄物については、処分施設の検討例及び当該廃棄物の特徴を考慮した被ばく線量試算結果から、当該廃棄物に対する地層処分の安全を確保することは可能であると考えられる。

10.技術開発課題について
 対象廃棄物処分に特有な現象について、処分施設設計の合理化や詳細化と安全評価の信頼性向上を目指していくことが必要である。
具体的な現象としては、セメントの成分や硝酸塩が地下水に溶け出すこと、溶け出した成分が緩衝材や岩石と反応すること等が挙げられる。
 廃銀吸着材は、地下水に溶けやすく移動しやすいヨウ素が多く含まれていることから地層処分の検討対象とされており、廃棄体によるヨウ素閉じ込め性能を向上するための基礎研究を通して、処分の合理化と安全性の向上を目指すことが重要。
 対象廃棄物の特徴を考慮した廃棄物に関するデータベースの整備・充実及び製作された廃棄体の検認手法の整備を図っていくことが必要である。

 

第2章 α核種濃度が一応の区分目安値を超えるRI・研究所等廃棄物について
1.研究所等廃棄物として発生するもの
 日本原子力研究所、JNC及び民間の試験・研究機関等から発生する紙、塩化ビニール、コンクリート、放射化された金属等のうち、α核種濃度が一応の区分目安値よりも高いものがこれに相当する。  廃棄物に含まれる放射性核種は、超ウラン核種や核分裂生成物のほか、材料金属中の不純物が中性子を吸収して生成したα核種(244Cm、半減期約18年)やβγ核種が挙げられる。

2.RI廃棄物として発生するもの
 RI取扱施設から発生する容器に封入された線源や医療用機具、α核種を試薬等として利用した結果発生した紙や実験機具等の廃棄物のうち、α核種濃度が一応の区分目安値よりも高いものがこれに相当する。
 試薬等として用いられるα核種には、一応の区分目安値より濃度は低いものの、ポロニウム210(210Po、半減期約140日)、ビスマス210(210Bi、半減期約5日)などRI廃棄物特有のものも一部存在している。

3.処分の基本的考え方について
 廃棄物に含まれる核種の種類・濃度に加えて、その性状も対象廃棄物と同様であり、硝酸塩などの化学物質や発熱を考慮する必要があるものは多量には含まれない。これらの特徴を考慮すると、対象廃棄物と同様に、廃棄物の核種濃度と性状に応じて適切に区分し、処分を行うことが可能であると考えられる。

第3章 処分事業の責任分担の在り方、諸制度の整備などについて
1.責任分担のあり方と実施体制
 当該廃棄物は、廃棄物の発生に関わる再処理事業者、MOX燃料加工事業者、日本原子力研究所、JNC、(社)日本アイソトープ協会、電気事業者など(以下、「発生者等」という。)の責任において安全かつ合理的な処分が実施されることが原則である。
 国は、厳正な規制を行うと共に関連法令に基づき指導監督などの必要な措置を講じる。

2.処分費用の確保
 当該廃棄物の発生者等や処分事業を行う者は前述した処分方法を踏まえ、廃棄物の区分及び物量を明確にするとともに、合理的積算を行った上で当該廃棄物の処分方法に応じた処分費用の確保を図っていく必要がある。
 国は、処分費用の確保に必要となる諸制度の検討を行う必要がある。

3.安全確保に係わる関係法令等の整備
 当該廃棄物の発生量、放射性核種濃度、性状及び処分方法を踏まえて、安全規制に関する基本的考え方や安全基準などについて検討し、これらを踏まえ関係法令を整備する必要がある。RI廃棄物は放射線障害防止法によって規制されているが、原子炉等規制法と整合性を図りつつ、関連する法令整備を行う必要がある。

4.実施スケジュール
 今後の放射性廃棄物全体の処分計画、再処理施設の運転開始に関するスケジュールなども踏まえ、実施体制を含めて当該廃棄物の処分計画の明確化及び安全確保に係わる関係法令の整備が行われることが重要である。

5.技術開発課題への取組みについて
 低レベル放射性廃棄物に適用されている技術や高レベル放射性廃棄物の地層処分に係る研究成果等を活用すると共に、処分がより安全かつ合理的に実施されるよう、当該廃棄物の多様な性状を踏まえた処理技術などの研究開発を積極的に進めていくことが重要である。

6.積極的な情報公開、情報提供
 諸制度の整備や実施体制の確立などの一連の取組みとともに、放射性廃棄物全体の処分計画を踏まえた安全かつ合理的な処分に関する的確で分かりやすい情報を積極的に提供していくことが不可欠である。

終わりに
 今後は、それぞれの区分に応じた処分方法について、超ウラン核種を含む放射性廃棄物の特徴を考慮した安全規制の基本的考え方、放射性廃棄物の濃度上限値、クリアランスレベル等が原子力安全委員会において検討されることを期待する。
 国においては、この結果を踏まえて必要な制度の整備を図ることが重要である。