資料(専)26-4

 

今後の研究開発の進め方について

平成11年11月5日

1.「核種分離・消滅処理技術」の効果及び意義

(1)これまでの技術開発の目的
 昭和63年に策定された原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会の「群分離・消滅処理技術開発長期計画」(通称「オメガ計画」)では、本技術の研究開発について、「高レベル放射性廃棄物の処分の効率化、含まれる有用元素の資源化及び積極的な安全性の向上という新たな可能性を目指す」ものとしている。

(2)本技術の効果及び意義
これまでの研究開発から、本技術について、
○長寿命核種の除去による長期的な放射能インベントリの低減
○稀少な有用元素の回収・有効利用、
○発熱性核種の除去による高レベル放射性廃棄物の貯蔵・処分の経済性向上、
  等の観点から、有効性が確認された。
また、この研究開発を進めることによって、
○先端的なテーマに取り組むことによる科学技術力のより一層の向上、
○魅力的な研究テーマを提示することによる人材の確保、
  等の効果も期待することができる。

2.放射性廃棄物の処分との関係

 既に処分概念が確立された放射性廃棄物については、当該概念に基づく処分によって十分安全性を確保できる見通しであることから、「核種分離・消滅処理技術」は処分の安全性を確保するための前提となるものではない。また、本技術はこれまでプロセスやシステムの設計に必要な基礎データを取得するための基礎研究を中心に行われてきたため、現時点では本技術を前提とした処分方策を構築する段階ではない。

3.核種分離・消滅処理技術の研究開発の進め方

(1)「核種分離・消滅処理技術」の研究開発の現状及び成果
 オメガ計画の第1期においては、
・「核種分離技術」としては、再処理の高度化や高レベル放射性廃棄物の分離に関する湿式法及び乾式法の開発
・「消滅処理技術」としては、発電用高速炉利用型1)及び「消滅処理」専用の加速器駆動未臨界炉を用いる階層型2)の研究
・「消滅処理」用燃料として、酸化物、窒化物及び金属燃料についての製造及び処理技術の開発
を、日本原子力研究所(原研)、核燃料サイクル開発機構(サイクル機構)及び電力中央研究所(電中研)(以下、3機関という)がそれぞれ実施してきた。
 「核種分離技術」については、実験室規模ではあるがプロセスが成立することを実証し、「消滅処理技術」については、システム概念の構築及び要素技術の開発を行いシステムが成立することついての評価データを得ることができた。
 これにより、「核種分離・消滅処理技術」の研究開発の現状としては、オメガ計画第1期の所期の目的を概ね達成したものと見ることができる。


1)発電用高速炉利用型:高速増殖炉を中心とする一つの核燃料サイクルの中での発電とMA等の消滅を同時に行うことを目指す。
2)階層型:商用発電を行う核燃料サイクルと、そこから発生するMAの「消滅処理」を行う専用の核燃料サイクルの二つのサイクルの実現を目指す。

(2)基本的考え方
 産業活動に伴う有害廃棄物の発生を極力抑制することは、循環型社会の実現、地球環境保全等の観点から社会的な要求となっており、原子力についても有効な対策を講じることが求められている。「核種分離・消滅処理技術」は、放射性廃棄物に含まれる長期的な放射能インベントリを低減するなど、この要求にかなった有用な技術となる可能性がある。したがって、今後も引き続き実用化に向けた研究開発を着実に進めることが適当である。
 その際考慮すべきことは、以下のとおりである。
  ①「核種分離・消滅処理」と核燃料サイクル
 「核種分離・消滅処理技術」は、将来の核燃料サイクルシステムと不可分である。今後、核燃料サイクルの検討に当たって、サイクルのどの部分にどのような「核種分離・消滅処理」の機能を持たせることが核燃料サイクルとして最適かといった視点に立った検討が必要である。このため、核燃料サイクル全体を視野に入れて、経済性、エネルギー資源の確保、廃棄物に含まれる放射能インベントリの低減などについて信頼性の高い評価ができるよう検討を進める必要がある。
  ②実用化に向けて
 現時点では、「核種分離・消滅処理技術」は放射性廃棄物処分の前提となる技術ではなく、将来、より高度化された核燃料サイクルを構築するための技術と言え、その実用化を考えた場合、経済性は最も重視される項目の一つである。
 しかし、これまでの研究開発は、プロセスやシステムの設計に必要な基礎データを取得するための基礎研究が中心であり、本技術の経済性を高い信頼性をもって評価できる段階にはない。今後、将来の核燃料サイクルにおいて具体的な位置づけが行われるよう、経済性を判断しうるシステムの全体構成について研究開発を行うべきである。
 なお、社会の変化に伴い、経済性の持つ意味も変化するものであり、大量生産・大量消費型の社会から循環型の社会へ変わりつつある今日、経済性の評価に当たってはその点にも留意すべきと考える。
  ③システム設計研究と要素技術開発
 「核種分離・消滅処理」のシステムを設計するための調査研究は、幅広いオプション3)を対象に行うべきである。このためには、必要となる基礎データの充実を図ることが重要である。なお、新たに核燃料サイクルが設計される際には、その設計の場に対し調査研究の成果が反映されるよう積極的に情報提供を行う必要がある。
 一方、要素技術の研究開発は時間を要するものであり、システム設計のための調査研究と並行して着実に進めるべきである。

3)例えば、各プロセスについて次のようなオプションが考えられる。
 ○分離プロセス:湿式法、乾式法(塩化物法、フッ化物法など)
 ○燃料形態:酸化物、窒化物、金属など
 ○「消滅処理」プロセス:高速増殖炉、専焼高速炉、加速器駆動未臨界炉など

  ④実施体制
 コンセプト、炉型、システム等に違いはあっても、本技術に係る研究開発は共通課題が多く、また、3機関には研究開発成果の蓄積があることから、3機関は協力を一層進め、共通課題の解決にあたるべきである。その際、国内機関とも協力して、既存の研究施設を活用するなど効率的に研究開発を進めることが重要である。また、核燃料サイクルの諸技術と共通するものが多いため、核燃料サイクルの技術開発の成果を共有しつつ研究開発を進めることが重要である。大学においては、より基礎的な分野あるいは斬新な発想に基づく新しいシステム等の研究開発が期待され、3機関は大学の自主性、独創性を生かしつつ、協力を進めることが望ましい。
 また、欧米諸国において、本技術に係る様々な研究開発について国際協力を進める動きがあることから、これらの枠組みに積極的に参加するとともに、海外の研究施設を利用する等して、効率的に研究開発を進めるべきである。
 さらに、既存のOECD/NEAにおける枠組み等を利用した情報交換にも努めることが望まれる。
  ⑤評価
 本技術の研究開発については、今後も定期的にチェック・エンド・レビューを行い、システム概念の絞り込みを図りつつ進められるべきである。

(3)具体的な方策
 我が国で研究開発が進められている発電用高速炉利用型と階層型とは、それぞれに特徴があり、核燃料サイクルのオプションに多様性を与えるものであること、また、共存も可能であることから、当面は双方の技術開発を進めることが適当である。その目標は、発電用高速炉利用型と階層型の共存シナリオも含めて、実現性のある核燃料サイクルへの「消滅処理」システムの導入シナリオを検討し確立することにある。
 今後は、これまでのオメガ計画に基づく研究開発成果に基づき、プロセスとしての成立性を実証するための基礎試験や、成立性が実証された要素技術に関する安全性等に関するデータを取得するための工学試験を実施する。これとともに、基礎試験データの一層の充実を図り、システム設計や「核種分離・消滅処理技術」の導入シナリオの検討を進める。このシナリオに基づいて研究開発を進めながら、定期的にチェック・エンド・レビューを行ってシナリオの見直しを行いつつ研究開発に取り組んでいくことが重要である。
  ①分離プロセス
 分離プロセスについては、共通課題として、実廃液を用いたプロセス実証試験の実施がある。また、原研及びサイクル機構で開発している湿式分離法の共通課題としては、マイナーアクチニドと希土類元素の分離法の開発、二次廃棄物発生量の低減に向けた技術開発がある。電中研で開発している乾式分離法については、塩化物溶融塩を取り扱うため、材料開発や移送技術の検討などが課題となっている。当面は、これらの課題を中心として研究開発を進めるべきである。
  ②消滅処理サイクル
 「消滅処理」サイクルについては、共通課題として、照射試験に基づく燃料の挙動評価等の実験データ取得や燃料製造技術の開発がある。また、原研で開発している加速器駆動未臨界炉(ADS)については、従来の原子炉と駆動方法が異なり、実験室レベルでも稼働したことがないため、大電流陽子加速器の開発、システム制御方法開発、炉心設計、構造・材料設計などが課題である。また、ヨウ素129、テクネシウム99、セシウム135といった長寿命核分裂生成物については、基礎となる核データ等の蓄積とともに、効率的な「消滅処理技術」の開発に向け、創造的な基礎研究が必要である。
 「消滅処理」サイクルのうち、発電用高速炉利用型については高速増殖炉が実用化されることが大前提である。このため、サイクル機構、電中研などで進められている高速増殖炉サイクルに係る研究開発4)において、本技術の導入についての研究が積極的に組み込まれることが望まれる。また、階層型についても、核燃料サイクルのオプションの一つとして研究を進めることが適当である。ADSについては、大電流陽子加速器の開発が最大の課題であり、当面は原研の中性子科学研究で開発を進めている陽子加速器計画の進捗に対応して要素技術開発を行い、実験炉規模のシステム開発を目標として研究を進めることが望ましい。

4)核燃料サイクル開発機構及び電気事業者は、高速増殖炉及びこれに関連する核燃料サイクルについて、これまでの研究開発により得られた知見を踏まえ、更に幅広い技術選択肢の評価を行い革新的技術を取り入れ、競争力のある実用化候補概念の構築とその研究開発計画等の検討・策定を行う「実用化戦略調査研究」を実施している。

  ③有用元素の回収・有効利用技術
 本技術を実用化するためには、白金属元素などの有用元素の回収に係るコストの低減など経済性の向上が必要であり、回収技術及び同位体分離等の精製技術について基礎的な研究開発を進めるべきである。また、新たなニーズの開拓にも努めることが重要である。

4.「核種分離・消滅処理技術」の魅力

 本技術は、物質を原子のレベルで変換するという日常の化学反応とは異なる世界に属し、その可能性は単に「消滅処理」にのみとどまるものではない。また、本技術の開発に際しては、既存の技術だけでは解決が困難な課題が含まれており、この困難を解決することが新たな技術へのブレークスルーに通じるものと期待できる。このため、多くの若い技術者がこの世界を目指すよう、その魅力を大いにアピールすべきである。このような先端技術の研究は、原子力研究の活性化に大きく寄与するものと期待される。原子力の優れた技術者、研究者を生み出すために、本研究は大いに推進されるべきである。
 なお、本技術はより広い視野に立った研究開発を必要とするものでもあるため、既存のシステムにとらわれない斬新なアイデアを吸い上げるような環境づくりが重要である。
 国際的には、我が国のオメガ計画に触発されて、フランスを中心とするヨーロッパ、米国において同様の計画5)が多数立ち上がってきた。国際貢献の一環として、今後も我が国は、研究開発の評価を適宜行いつつ、この分野において重要な役割を果たしていくことが望まれる。


5)例えば、以下のような計画がある。
○SPIN計画:仏における「核種分離・消滅処理技術」研究開発の全体計画。
○CAPRA計画:欧州における高速炉を用いたプルトニウム等の燃焼に関する研究計画。
○SUPERFACT計画:欧州におけるマイナーアクチニド含有酸化物燃料の研究開発計画。
○EFTTRA計画:欧州における消滅処理用ターゲットの研究開発計画。
○Demo計画:欧州委員会のフレームワーク計画の枠組みの中で、加速器工藤未臨界炉の原型炉の実現を目指す研究開発計画。
○また、米において、加速器工藤未臨界炉による放射性廃棄物の「消滅処理」(ATW)に関する今後の研究開発計画を策定中。