資料(専)26-3参考

 

資源としての有効利用について

 高レベル放射性廃液には、超ウラン元素であるネプツニウム(Np)、アメリシウム(Am)、キュリウム(Cm)等、核分裂生成物であるストロンチウム(Sr)、セシウム(Cs)、テクネチウム(Tc)、白金族元素(ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)等)等の元素が含まれている。これらを高レベル放射性廃液から分離して有効利用する方法としては以下の項目が考えられる。

(1)稀少であり天然資源として有効利用
 使用済燃料中に生成した核分裂生成物の中には、天然にはほとんど存在しないテクネチウム(Tc)、セレン(Se)、テルル(Te)、白金族元素であるルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)等が含まれている。これらの元素は資源として稀少であり、天然資源として有用であると考えられる。白金族元素は少なくとも数百年後には資源が枯渇する可能性が指摘されており、パラジウム(Pd)とロジウム(Rh)については確認埋蔵量と世界の年間使用量との比から約百年で枯渇するとの試算がある1)

○使用済燃料に含まれる有用元素量について
 軽水炉の使用済燃料(30000MWD/t、5年冷却)1トン当たりの有用元素存在量の概略数値を記す2)

  テクネチウム(Tc)   ........ 700g
  ルテニウム(Ru)    ....... 2000g
  ロジウム(Rh)     ....... 500g
  パラジウム(Pd)    ....... 1000g
  セレン(Se),テルル(Te) .... 500g

○資源としての利用方法について
 ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)等の白金族元素は、一般産業では自動車の排ガス触媒として窒素酸化物(NOX)発生を低減させるために利用されているほか、石油化学や医薬品などの化学工業用触媒等に幅広く利用されている2)。テクネチウム(Tc)は、防蝕試薬・材料や触媒3)、セレン(Se)は光電子材料、薬剤、テルル(Te)は特定波長の電磁波検出器材料等としての利用が考えられる。
 なお、核燃料サイクル開発機構において、回収した白金族元素を放射線触媒として優れているルテニウム(Ru)を水分解による水素発生反応に用いることや熱電材料として利用することが検討された例がある。

○分離技術の現状について
 高レベル放射性廃棄物の不溶解残渣から回収した白金族元素合金等(放射性物質を含む)を触媒等として利用する場合、各元素の特徴を生かすために少なくとも元素分離を行う必要があると考えられる。具体的には、高レベル廃液からは、白金族元素とセレン(Se),テルル(Te)を電解により直接採取する方法が考えられる。不溶解残渣からは、その主成分である白金族元素を、鉛を用いた抽出法により50%程度の効率で分離できる4)ものと考えられる。また、半減期の長い同位体を含むパラジウム(Pd)は、将来的には同位体分離により安定元素を取り出すことも考えられており、サイクル機構においてレーザーを用いた方法により、パラジウム(Pd)が22%から73%に同位体分離された実績がある5)。ただし、現在はいずれの方法も試験研究段階であり、具体的な利用方法や経済性を検討するためには今後の研究開発が必要である。
   *:長半減期核種(Pd-107、6.6×106年)を模擬したPd-105での実験結果

○クリアランスレベルについて
 高レベル放射性廃液から精製・分離された元素は、「高レベル放射性廃棄物」であり、現状では制度的な側面においても一般分野で利用することはできない。したがって、高レベル放射性廃液から回収した稀少元素等の一般利用を行うためには、分離技術や有効利用方法の開発動向を踏まえつつ、国において規制除外のための制度的事項が検討される必要がある。
 なお、主な原子炉施設から発生する金属やコンクリートについては、「放射性物質として扱う必要がないもの」を制度化するための基準が示されている(「主な原子炉施設におけるクリアランスレベルについて」原子力安全委員会 平成11年3月17日)。

(2)熱源や放射線源として有効利用
 ストロンチウム(Sr)90とセシウム(Cs)137は、ともに半減期が30年程度であり、高い発熱率と放射能を有している。例えば、使用済み燃料800t/y規模の再処理-分離施設を想定した場合、回収されるSr-Cs固化体の発熱量は10MW程度になる。したがって、将来的には、分離施設で回収したストロンチウム(Sr)とセシウム(Cs)を熱源や照射線源として有効利用を行うことが考えられる。

○使用済燃料に含まれる有用元素量について
 軽水炉の使用済燃料(30000MWD/t、5年冷却)1トン当たりの熱源・放射線源として利用できる元素存在量の概略数値を記す2)

  セシウム(Cs)    .......2500g
  ストロンチウム(Sr) ........800g

○熱源としての利用について
 日本原子力研究所では、高レベル放射性廃棄物の発熱と放射能を低減し取り扱いを容易にするために、ストロンチウム(Sr)とセシウム(Cs)を無機イオン交換体(チタン酸とゼオライト)吸着法で分離回収するプロセスを開発した。この無機イオン交換体は、直接焼成することにより鉱物に類似した安定な固化体となる6)。焼成後の固化体は熱的に安定であり、そのまま熱源として利用することも可能と考えられる。今後、日本原子力研究所において、固化体特性の把握、長期貯蔵と熱源利用との経済性比較、及び社会的受容性に関する評価等の調査・検討が行われる予定である。

○線源としての利用について
 セシウム(Cs)137はガンマ線源としての利用も想定されている7)。セシウム(Cs)の放射性核種はセシウム(Cs)134及びセシウム(Cs)137があり、熱源・放射線源としての利用を考慮すると元素分離で十分とも考えられるが、セシウム(Cs)137は現在広く利用されているコバルト60に比べ、使用できる期間が長いという利点を持つ一方、ガンマ線のエネルギーが小さいという欠点がある。したがって、セシウム(Cs)137を高密度(小型)の線源とするためには今後さらに、セシウム(Cs)の同位体分離法と高密度固化法の開発が必要となる。

(3)燃料として利用
 超ウラン元素であるネプツニウム(Np)、アメリシウム(Am)、キュリウム(Cm)は、ウラン(U)やプルトニウム(Pu)と同様に、中性子と反応することにより核分裂を起こす性質を有する。消滅処理は、これらの超ウラン元素を核分裂により短半減期または安定元素へ変換することであり、この過程で発生する熱を発電に利用することは、燃料として利用していると考えることができる。

参考文献
1) IAEA, "Feasibility of Separation and Utilization of Ruthenium, Rhodium and Palladium from High Level Wastes", IAEA Technical Report Series No.308 (1989).
2)近藤康雄他、"群分離法の開発:使用済燃料中に含まれる有用元素の回収及び利用法(文献調査)"、JAERI-M 91-147 (1991).3) 久保田益充他、"群分離法の開発:資源としての高レベル廃液"、JAERI-M 85-030 (1991).
4)和田, 川瀬, 岸本, 有用金属回収・利用技術研究の現状,動燃技報(1992年9月)
5)H.Yamaguchi, The Workshop on the Partitioning and Transmutation of Minor Actinides, October 16-18,1989, Karlsruhe
6) M. Kubota, et al., "Immobilization of Strontium and Cesium using Hydrous Titanium Oxide and Zeolite", Radioact. Waste Manag. Nucl. Fuel Cycle, 7, 303 (1986).
7) IAEA, "Feasibility of Separation and Utilization of Cesium and Strontium from High Level Liquid Waste", IAEA Technical Report Series No.356 (1993).

 

長半減期核分裂生成物(LLFP:long-lived fission products)及びマイナーアクチニド(MA:minor actinides )の減少量とそれに要する時間について

 核種分離・消滅処理は、高レベル放射性廃棄物に含まれる放射性物質を、その半減期や利用目的によって分離するとともに、長半減期核種を短半減期または安定な核種に変換する技術である。
 ウラン(U)やプルトニウム(Pu)の核反応により生成したネプツニウム(Np)、アメリシウム(Am)、キュリウム(Cm)などのMAは、ウランやプルトニウム同様、中性子によって核分裂を起こす物質であること、α線を放出する放射性物質であり仮に体内へ取り込んだ場合影響が大きい核種であること等から、消滅処理の検討対象となっている。
 ウラン(U)やプルトニウム(Pu)の核分裂に伴い生成した核分裂生成物(FP)のうち、ストロンチウム(Sr)90やセシウム(Cs)137に代表される比較的半減期が短いFPは、高い放射能と発熱性を有しており、高レベル放射性廃棄物を取り扱う際の遮蔽やガラス固化体の仕様を規定している。ただし、半減期は数十年であり時間の経過とともにに放射能や発熱量が減少することが期待できる。一方、FPには、放射能は小さいものの半減期が長いセレン(Se)79(半減期6万5千年)やセシウム(Cs)135(半減期230万年)等の長半減期核分裂生成物(LLFP)も含まれている。LLFPのうち、処分を行った場合に地下水とともに移動しやすい性質を有する核種は、処分の長期的安全性の観点から、消滅処理の検討対象と成りうると考えられる。

1.MAについて
 MAの消滅処理を行う場合は、原子炉を用いて核分裂反応を起こさせることにより他の元素に変換することが有効であると考えられる。MAには半減期が長いものが存在するため、原子力発電システム全体としてMAがどのように減少、あるいは増加が抑制されるかを、評価する前提を明確にすると共にそれに要する時間も含めて検討する必要がある。
 本検討は、MAの核種分離・消滅処理システムが、将来的には商業用又は消滅処理専用の核燃料サイクルとして成立することを想定して、原子力発電システム全体でのMAの減少量とそれに要する時間について検討した。

(1)前提条件について
  1)消滅処理システム及びシステム導入の想定
 消滅処理システムとしては、例えば、軽水炉による発電サイクルにある時点で加速器駆動未臨界炉(ADS)による消滅処理専用サイクルを導入すること(階層核燃料システム)や、商業用発電サイクルの軽水炉の寿命に伴い高速増殖炉を導入することにより、最終的に高速炉核燃料サイクルを構築することが検討されている。本検討は、この2つの代表的なMA消滅シナリオについて各々の前提条件に基づき検討を行っている。発電電力量の将来予想は、消滅処理専用サイクルと高速炉核燃料サイクルの両者とも西暦2000年で40ギガワット(GW)程度、西暦2100年の時点では140-150GW程度と想定している(図1、図3)1)2)
 なお、試算の前提となっている発電電力量の将来予想、燃料の燃焼期間、核種分離・消滅処理システムの導入の時期等については、各機関において想定が異なっており、今後の原子力利用の動向や研究開発の状況などを踏まえながら適宜見直していく必要がある。
  *:1ギガワット(GW)=1000万キロワット(kW)

  2)消滅処理システム外へのMA漏れ率の設定
 MAの消滅処理システムが導入された場合、MAは燃料加工施設、原子炉、再処理・群分離施設といった消滅処理システム内でリサイクルされ、核分裂により消費される。ただし、その一部は、少量であると考えられるものの燃料加工や再処理(群分離)の段階で廃棄物として排出されることとなる。現時点では、前提となったどの消滅処理システムにおいても、プラントスケールでのMA回収を含めた使用済燃料の再処理や燃料加工の実績がないため、各機関が核種分離の試験データや文献値に基づいて1)2)それぞれ0.1%~1%のMA漏れ率を設定してMA減少量の試算を行っている。なお、消滅処理無しの場合は、全てのMAが高レベル放射性廃棄物として地層処分されることとなる。

(2)MA消滅量及び消滅時間
  1)加速器駆動未臨界炉(ADS)による消滅処理
 ADSは、消滅処理専用のシステムとして構築されるものであり、発電を行うがその電力の一部は加速器駆動のために消費される。今回の試算においては、ADS1基で軽水炉10基分のMA(約250kg/年)を燃焼することを目標としている。MAの減少量の試算例は、図1に示すように、約20年間をかけてADSが11基(軽水炉約100基と仮定)導入された場合、その時点においてMA存在量が約60tで一定量に保たれる結果となった。また、ADSを段階的に導入した場合のMA存在量は、消滅処理なしの場合と比較すると時間とともに相対的に減少し、ADS導入開始から70年後において約1/4と予想される。

  2)高速炉による消滅処理
 高速炉サイクルは、基本的に発電システムとして構築されるものであり、炉の安全性の観点などから、燃料へのMAの添加量は数%に制限される3)。MAの減少量の試算例は、図2、図4に示すように、約40年間をかけて発電用軽水炉をFBRで置き換えた場合、その時点において、MA存在量が60~70トン程度で一定量に保たれる結果となった1)2)。また、FBRを段階的に導入した場合のMA存在量は、消滅処理なしの場合と比較すると時間とともに相対的に減少し、FBR導入開始から70年後で約1/5となった(図2)1)2)。なお、本試算はMAの燃焼効率とMA漏れ率の設定が同様であれば、燃料の形態(金属燃料、酸化物燃料)や再処理法(湿式法、乾式法)によらず、MA減少量も同様の試算結果になると予想される。ただし、現実には、燃料の形態や再処理法の違いなどにより、原子炉への燃料装荷、再処理、燃料加工という一連のサイクルに要する期間などが異なり、MA存在量が一定量となる時間が変化する可能性がある。

(3)まとめ
 上記の2つ(ADS、高速炉)の検討例は、各機関によって前提条件や設定根拠が異なっていることもあり、それぞれの消滅処理システムによるMAの減少量とそれに要する時間を相互に比較できるものではないが、消滅処理専用システムの導入または発電システムの高速炉への置換を数十年間で達成した場合、これ以降はMA存在量を一定量に保つことができることが分かった。核種分離・消滅処理を行った場合と、核種分離・消滅処理を行わない場合についてMA存在量を比較すると、時間の経過とともに相対的にMA存在量は減少し、約70年後には1/4~1/5と予想された。また、MA存在量の大部分(98%以上)は、消滅処理システム内に存在しており、高レベル放射性廃棄物となるのは少量(2%以下)と考えられる。今後は、MA排出量を低減するための技術開発を進める必要がある。一方で、MA消滅処理システムを導入した場合でも、100%の効率でMAを分離し核分裂させるものではなく、最終的に地層処分の必要性を変えるものではないことも示された。

2.LLFPについて
 FPの消滅処理の検討は、MAのように消滅処理システム導入のシナリオに基づいた検討が実施されていないことから、高速炉にLLFPを一定量装荷した場合の消滅効率について、テクネシウム(Tc)-99とヨウ素(I)-129を取り上げて検討を行った。この他にも、Cs-135、Se-79、ジルコニウム(Zr)-93などの核種は比較的半減期が長く、被ばくへの影響の観点からは核変換を行う一定の意義はあると考えられる。しかし、これらのLLFPは原子炉を用いた場合、TcやIと比較しても核反応を起こす確率がさらに小さい。したがって、対象核種の選定は工学的実現性、半減期、地層処分における重要度等を踏まえて行われるものであり、現状上記核種は、Tc,Iに準ずる優先度であるとされている

 (1)テクネチウム(Tc)-99の消滅4)
 Tc-99は、高速炉のブランケット領域及び遮蔽体領域に減速材付き特殊集合体として装荷して消滅させる方法が考えられる。減速材付き特殊集合体は、Tc-99金属の周囲を水素化ジルコニウム(又は水素化イットリウム)で囲んだピンだけで構成されている。(MOX等の燃料は含まれていない。)Tc消滅処理用集合体をブランケット領域及び遮蔽体領域に装荷するのは、炉心特性に大きな影響を与えず、核分裂を起こさず漏れてくる中性子を有効に利用するためである。  Tc-99の装荷量が約350kgの場合、消滅率が約9.7%/年、消滅量が年間約34kgとなることが最近の検討で認められた。100万キロワット(kW)軽水炉では、年間23.4kgのTc-99が生成されるため、Tc-99が100%分離・回収されることを仮定した場合、高速炉1基で軽水炉約1.5基分のTc-99が消滅できる可能性がある。

 (2)ヨウ素(I)-129の消滅4)
 「廃銀吸着材*」に含まれるヨウ素は、高速炉のブランケット領域及び遮蔽体領域に減速材付き特殊集合体として装荷して消滅させる方法が考えられる。I-129の消滅用の減速材付き特殊集合体は、NaIを含むピンと水素化ジルコニウム(又は水素化イットリウム)を含むピンを交互に配列した構造が検討されている。
 I-129の装荷量が344kgの場合、消滅率が約5.2%、消滅量が年間約18kg/年となることが認められた。100万Kwe軽水炉(PWR)より年間約5kgのI-129が生成されるので、。I-129が100%分離・回収されることを仮定した場合、軽水炉の約3.6基分のI-129が消滅できる可能性がある。
  *:「超ウラン核種を含む放射性廃棄物」に区分される放射性廃棄物

参考文献
1)M.Shiotsuki, et al. ,"System Study on the Advanced Fuel Recycle system at PNC", Proc. Int. Conf. on Evaluation of Emerging Nuclear Fuel Cycle Systems (GLOBAL'95),Vol. I, Sep. 11-14 , Versailles, France (1995.)
2)塩月正雄、山名元、「アクチニドリサイクルによる環境負荷低減効果に関する考察」放射性廃棄物研究、Vol.2No.1&2, p47-62、1996年2月
3)T. Wakabayashi , K.Takahashi and T. Yanagisawa, "Feasibility Studies on Plutonium and Minor Actinide Burning in Fast Reactors", Nuclear Technology Vol.118, p14-25, Apr.1997.
4)N. Higano and T.Wakabayashi ,"Feasibility Study on the Transmutation of Long Lived Fission Products in a Fast Reactor", Proc. Int. Conf. on Future Nuclear Systems (GLOBAL'97),Vol. 2, p1322-1326, Oct. 5-10 , Pacifico Yokohama, Yokohama, Japan (1997).


 


二次廃棄物の発生について

 核種分離においては、分離プラントの操業に伴い二次的な廃棄物が発生することは避けられない。そのため、発生廃棄物の種類、量ならびに濃度等を評価することが必要である。

(1)湿式分離法について
 原研やサイクル機構のようなリン化合物抽出剤による溶媒抽出法を主体とする湿式分離プロセスでは、①放射線分解や加水分解による廃溶媒(分解処理でリン酸塩となる)と②試薬として添加した塩、の2種類の二次廃棄物が発生する。ただし、これらと同種の廃棄物は軽水炉燃料のピュレックス(Purex)法再処理においても発生するので、その量と性状の比較が重要である。二次廃棄物の処理法としては、ピュレックス法再処理プラントにおける処理法がそのまま適用できると考えられる。廃溶媒の発生量は、溶媒の使用量とリサイクル使用の回数によって決まり、原研の抽出プロセスを例に取ると、廃棄体(セメント固化体)の量としては、使用済燃料1ton当たり約40L1)であり、これはピュレックス法再処理での発生量に比べ20分の1以下と見積もられる。
 二次廃棄物については、廃棄物の放射性核種濃度も重要であり、浅地中処分が可能であるか、あるいは浅地中処分以外の処分を行う必要があるのか検討する必要がある。原研では、実験室規模での超ウラン元素の挙動試験をもとに廃溶媒及びナトリウム廃棄物中のアルファ核種濃度を推定し、いずれも廃棄物のアルファ核種濃度は一応の区分目安値(アルファ核種濃度約1ギガベクレル/トン)以下であると評価されている2)。ただし、工学規模でこれが実現できるかどうかは今後の課題である。ベータガンマ核種については、最高でも5×105程度(ストロンチウムに対して)の除染係数で低レベル廃棄物に区分される濃度以下とすることができるので、これは十分達成可能であると考えられる。
  *:溶媒として水と有機溶媒を用いる再処理方法で、現在我が国で再処理の方法として採用されている。

(2)乾式分離法について
 電中研の乾式プロセスでは、放射線による劣化生成物がない溶融塩(塩化リチウム-塩化カリウム)と液体金属(カドミウム、ビスマス、鉛)を溶媒として使用し、還元剤としてリチウム等を添加する。現在、溶媒成分についてのみ廃棄物発生量を評価している。
 核種分離・消滅処理を組み込んだ金属核燃料サイクルでは、軽水炉の高レベル放射性廃液を受け入れてMAの分離回収を行うプロセス(分離プロセス)と、その後の金属燃料サイクルにおいて使用済の金属燃料を再処理するプロセス(再処理プロセス)が必要である。これらのうち、核種分離・消滅処理に伴う二次廃棄物は、分離プロセスから発生するものが該当すると考えられる。
 分離プロセスでは、溶媒として使用する液体金属や還元剤、塩素ガスは系内でリサイクルできる見通しを得ている。放射線分解や加水分解に伴う溶媒の劣化は考慮する必要がないため、基本的にプロセスから排出される溶媒や還元剤、塩素ガスのみが廃棄物となると考えられる。廃棄物となる溶融塩としては、還元剤として用いるリチウムの一部が核分裂生成物と共にガラス固化体となる。なお、廃棄物に移行したリチウムを考慮しても、MAが分離回収されたガラス固化体の発生量はピュレックス法再処理から発生するガラス固化体の13%減との試算結果がある3) 4)
 一方、再処理プロセスにおける乾式プロセスはバッチ処理であり、一例として処理量50kg(ウラン金属として)程度の電解槽の溶媒量は溶融塩が150~200kg、液体金属(カドミウム)が60kgとなる。溶媒金属(カドミウム、ビスマス、鉛)や還元剤はリサイクルできる見通しを得ているが、溶融塩の寿命は、金属燃料に充填されているナトリウムが溶融塩へ蓄積されることによる塩の融点の上昇、あるいは核分裂生成物が溶融塩に蓄積することによる発熱量の増加によって決まり、使用済溶融塩が廃棄物となる。その発生量は、どの程度前処理でナトリウムを分離できるかに依存するが、使用済燃料1トンあたり50kg程度になると考えられる5)
 いずれのプロセスにおいても、機器の交換によって発生するプロセス廃棄物や、設備の保守に伴い発生する廃棄物発生量は、今後、機器の寿命等の評価を行い、これに基づいて検討する必要がある。
 なお、二次廃棄物の発生量を低減するためには、再処理プロセス内における溶融塩や液体金属のリサイクル技術の開発、及び工学規模での実証が今後の課題である。また、廃棄物の放射性核種濃度を明らかにするとともに、その濃度と性状に応じた処分を検討する必要がある。
  *:50kg/バッチ×1バッチ/日×200日/年で年間10トンの処理量
参考文献
1) 森田泰治、久保田益充; "湿式群分離と廃棄物", 放射性廃棄物研究, 2, 75 (1996).
2) 森田泰治、久保田益充; "群分離工程と発生廃棄物", 日本原子力学会 バックエンド部会 第14回夏期セミナー 報告, 平成10年7月22-24日 (1998).
3)木下賢介、井上正、「乾式分離プロセスのマスバランスの検討」電力中央研究所 研究報告T97015(平成10年4月)
4)[Kensuke KINOSHITA, Masaki KURATA and Tadashi INOUE, "Estimation of Material Balance in Pyrometallurgical Partitioning Process of Transuranic Elements from HLLW",J. Nucl. Sci.Technol., to be submitted.
5)Tadashi INOUE, Takeshi YOKOO and Tomohiro NISHIMURA, "Assessment of Advanced Technologies for The Future Nuclear Fuel Cycle", Proc. of Global '99, Aug. 29-Sep. 3, 1999, Jackson Hole, WY, USA.



短期的な放射線被ばく線量の増加について

 群分離・消滅処理導入は、①既存の核燃料サイクルに新たに工程や施設を追加すること、②マイナーアクチニド(MA)や長半減期核分裂生成物(LLFP)を繰り返し処理すること、により短期的な被ばく線量が増加することとなる。被ばくを受ける対象は、当該施設の運転等に従事する作業者と施設周辺に居住する一般公衆である。ただし、両者に対する被ばく線量は、既存の原子力施設と同様に法令等で定められた安全上支障のないと考えられる線量基準を満たすことのみならず、合理的に達成可能な限り低くなるよう措置が講じられることとなる。

(1)既存の核燃料サイクルに新たに工程や施設を追加することによる追加的な被ばく 作業者が受ける被ばくは、高レベル放射性廃液やマイナーアクチニド(MA)含有燃料を取り扱う作業が原因となる。しかし、群分離施設及び消滅処理炉の設計において、十分な遮蔽性能や密封性能により安全を確保しなければならないため、現行の再処理施設や原子炉施設と同様の被ばく線量となると考えられる。
 MA燃料サイクル施設において、MA含有燃料は重遮蔽セル内で遠隔操作により取り扱われ、そのセルの必要遮蔽厚さは主にAm, Cmからの中性子によって定まる。例えば、普通コンクリートで200cm弱の遮蔽を設けることにより、従来の再処理プラントの管理区域内作業(週48時間以下)線量率基準以下に抑えることが可能である。
 一方、周辺公衆が受ける被ばくは、施設の運転に伴い排気筒や海洋放出口から放出される気体又は液体状の放射性核種が主な原因となる。しかし、群分離施設及び消滅処理炉施設の設計において、十分な遮蔽・密封性能、あるいは排気や排水のフィルタ等を設けることにより安全が確保されるとともに、施設や周辺環境の線量モニタリングにおいて安全が確認されるものと考えられる。既存の核燃料サイクル開発機構東海再処理施設や六ヶ所再処理施設の安全審査における一般公衆の被ばく線量評価によると、法令に定められた線量基準を十分下回る結果となっており、MA燃料サイクル施設においても同様の評価が行われるものと考えられる。この際、考慮される核種を以下に示す。

● 主排気筒からの放射性物質の放出に関しての考慮核種1)
クリプトン(Kr)-85などの希ガス, トリチウム(H-3),炭素( C)-14,ヨウ素(I)-129, ヨウ素(I)-131 以上、気体状
プルトニウム(Pu), ストロンチウム(Sr)-90,(イットリウム(Y)-90), ルテニウム(Ru)-106, ロジウム(Rh)-106, セシウム(Cs)-137 (バリウム(Ba)-137m) 以上、微固体状
● 海洋放出口からの放射性物質の放出に関しての考慮核種2)
トリチウム(H-3),ヨウ素(I)-129,ヨウ素(I)-131,プルトニウム(Pu),アメリシウム(Am),キュリウム(Cm),コバルト(Co)-60, ストロンチウム(Sr)-90,(イットリウム(Y)-90), ルテニウム(Ru)-106, ロジウム(Rh)-106, セシウム(Cs)-137 (バリウム(Ba)-137m), セリウム(Ce)-144, プラセオジム(Pr)-144, プラセオジム(Pr)-144m , ユウロピウム(Eu)-154, プルトニウム(Pu)-241

(2)マイナーアクチニド(MA)や長半減期核分裂生成物(LLFP)を繰り返し処理することによる追加的な被ばく
 ガラス固化体として高レベル放射性廃棄物を処分する場合と比較すると、核種分離・消滅処理を行う場合は、高レベル放射性廃液から取り出したMAやLLFPを繰り返し処理する。したがって、群分離施設や消滅処理炉サイクルにおける燃料取扱量(サイクルの回数)に応じて被ばく線量が増加することになるが、消滅処理サイクル1回あたりの燃料としての物量は商用炉サイクルの1~2%程度であり、被ばく線量の増加は小さいと予想される。
 ただし、処分後の長期的な被ばくの低減を目的として、気体状ヨウ素のようなLLFPの処理を行う場合には、フィルタにより分離回収後、ターゲット用に加工され、消滅処理炉に装荷されるという過程における施設外への放出を十分低く押さえる必要がある。具体的には、フィルタを複数設けることにより、施設外へ放出される気体状ヨウ素を低減することが可能である。

(3)輸送による追加的な被ばくについて
 核種分離・消滅処理に伴い、MAを含んだ燃料等の輸送が生じるが、輸送容器等についても、施設同様十分な遮蔽性能や密封性能により安全を確保しなければならない。
 階層型核燃料システムでは、MA及びLLFPは一度サイトに搬入されると、そこから商用炉に戻すために公道上を輸送する必要がない。また、金属燃料高速炉システムでも再処理・燃料製造プラントと一体で設置することが可能であり、この場合は敷地外での輸送作業は発生しない。

参考文献
1)再処理施設設置承認申請書 動力炉・核燃料開発事業団(平成6年9月)

 

経済性について

 核種分離・消滅処理システムは、技術開発の現状を踏まえると、システムを構築するために重要な技術の多くが基礎的な研究開発段階であり、信頼性の高いコストの見積もりやシステムを導入するための具体的なスケジュール等を明確に示すことは、現段階では困難であると考えられる。したがって、三機関が検討を行っているそれぞれの核種分離・消滅処理システムを導入することによるコストについても、同一の条件を仮定した場合の経済性評価は行われていない。各機関が独自に条件を仮定して、核種分離・消滅処理システムを導入することに伴う追加的なコスト評価を行っている段階であり、以下に各々のシステム導入による追加コストの試算例を示す。

(1)日本原子力研究所
 原研では、軽水炉の発電コスト及び燃料費の構成比を基準に、加速器駆動未臨界炉(ADS)及びアクチニド専焼炉(ABR)を使った階層型核燃料サイクルを導入した場合に建設、運転、燃料製造それぞれのコストが軽水炉サイクルの何倍になるかを推定することにより、発電コストの相対的な増加分を試算している。その結果、およそ5%のコスト上昇と見積もられている。この際に導入した主な仮定は以下の通りである。

(2)核燃料サイクル開発機構
 サイクル機構では、将来的に高速炉による発電システムが導入されていることを前提として、このシステムに高速炉核種分離・消滅処理システムを導入することによる原子炉や燃料サイクル施設の建設費増加等を反映した場合の発電コストの増加を試算している。その結果、2%程度のコスト上昇と見積もられている。この際に導入した主な仮定は以下の通りである。
(3)電力中央研究所
 電中研では、米国において年間使用済燃料800トン分の高レベル放射性廃液を処理できる規模の分離プラントを建設する場合のコスト評価を実施した。この結果は、費用一式として約570百万ドルと見積もられた3)。この際に導入した主な仮定は以下の通りである。
 これらの試算は非常に粗いものであり、又、試算の前提条件が必ずしも統一されていないため、各機関のコストの上昇率や費用を比較することは現段階では困難である。しかし、軽水炉の発電コストに対するコストの上昇は数%程度と推定される。

参 考
 1994年度の実績では、原子力による総電力供給量は約2700億KWhである。原子力発電の1KWhあたりの発電コストを9円程度、核種分離・消滅処理システム導入による発電コストの上昇を仮に5%とすると、年間の費用は約1200億円と算出される。

参考文献
1)H. Kofuji et al. , "The Economics of the Advanced FBR Fuel Recycle",GLOBAL'97 (1997年10月)
2)紙谷、小島、「先進湿式MOXプラントのコスト評価」、PNC TN8410 97-220(1997年12月)
3)木下賢介、倉田正輝、井上正、「乾式分離プラントの建設コスト評価」、電力中央研究所 研究報告(平成11年予定)