資料(専)26-3参考 |
資源としての有効利用について |
高レベル放射性廃液には、超ウラン元素であるネプツニウム(Np)、アメリシウム(Am)、キュリウム(Cm)等、核分裂生成物であるストロンチウム(Sr)、セシウム(Cs)、テクネチウム(Tc)、白金族元素(ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)等)等の元素が含まれている。これらを高レベル放射性廃液から分離して有効利用する方法としては以下の項目が考えられる。
(1)稀少であり天然資源として有効利用
使用済燃料中に生成した核分裂生成物の中には、天然にはほとんど存在しないテクネチウム(Tc)、セレン(Se)、テルル(Te)、白金族元素であるルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)等が含まれている。これらの元素は資源として稀少であり、天然資源として有用であると考えられる。白金族元素は少なくとも数百年後には資源が枯渇する可能性が指摘されており、パラジウム(Pd)とロジウム(Rh)については確認埋蔵量と世界の年間使用量との比から約百年で枯渇するとの試算がある1)。
○使用済燃料に含まれる有用元素量について
軽水炉の使用済燃料(30000MWD/t、5年冷却)1トン当たりの有用元素存在量の概略数値を記す2)。
テクネチウム(Tc) ........ 700g
ルテニウム(Ru) ....... 2000g
ロジウム(Rh) ....... 500g
パラジウム(Pd) ....... 1000g
セレン(Se),テルル(Te) .... 500g
○資源としての利用方法について
ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)等の白金族元素は、一般産業では自動車の排ガス触媒として窒素酸化物(NOX)発生を低減させるために利用されているほか、石油化学や医薬品などの化学工業用触媒等に幅広く利用されている2)。テクネチウム(Tc)は、防蝕試薬・材料や触媒3)、セレン(Se)は光電子材料、薬剤、テルル(Te)は特定波長の電磁波検出器材料等としての利用が考えられる。
なお、核燃料サイクル開発機構において、回収した白金族元素を放射線触媒として優れているルテニウム(Ru)を水分解による水素発生反応に用いることや熱電材料として利用することが検討された例がある。
○分離技術の現状について
高レベル放射性廃棄物の不溶解残渣から回収した白金族元素合金等(放射性物質を含む)を触媒等として利用する場合、各元素の特徴を生かすために少なくとも元素分離を行う必要があると考えられる。具体的には、高レベル廃液からは、白金族元素とセレン(Se),テルル(Te)を電解により直接採取する方法が考えられる。不溶解残渣からは、その主成分である白金族元素を、鉛を用いた抽出法により50%程度の効率で分離できる4)ものと考えられる。また、半減期の長い同位体を含むパラジウム(Pd)は、将来的には同位体分離により安定元素を取り出すことも考えられており、サイクル機構においてレーザーを用いた方法により、パラジウム(Pd)*が22%から73%に同位体分離された実績がある5)。ただし、現在はいずれの方法も試験研究段階であり、具体的な利用方法や経済性を検討するためには今後の研究開発が必要である。
*:長半減期核種(Pd-107、6.6×106年)を模擬したPd-105での実験結果
○クリアランスレベルについて
高レベル放射性廃液から精製・分離された元素は、「高レベル放射性廃棄物」であり、現状では制度的な側面においても一般分野で利用することはできない。したがって、高レベル放射性廃液から回収した稀少元素等の一般利用を行うためには、分離技術や有効利用方法の開発動向を踏まえつつ、国において規制除外のための制度的事項が検討される必要がある。
なお、主な原子炉施設から発生する金属やコンクリートについては、「放射性物質として扱う必要がないもの」を制度化するための基準が示されている(「主な原子炉施設におけるクリアランスレベルについて」原子力安全委員会 平成11年3月17日)。
(2)熱源や放射線源として有効利用
ストロンチウム(Sr)90とセシウム(Cs)137は、ともに半減期が30年程度であり、高い発熱率と放射能を有している。例えば、使用済み燃料800t/y規模の再処理−分離施設を想定した場合、回収されるSr-Cs固化体の発熱量は10MW程度になる。したがって、将来的には、分離施設で回収したストロンチウム(Sr)とセシウム(Cs)を熱源や照射線源として有効利用を行うことが考えられる。
○使用済燃料に含まれる有用元素量について
軽水炉の使用済燃料(30000MWD/t、5年冷却)1トン当たりの熱源・放射線源として利用できる元素存在量の概略数値を記す2)。
セシウム(Cs) .......2500g
ストロンチウム(Sr) ........800g
○熱源としての利用について
日本原子力研究所では、高レベル放射性廃棄物の発熱と放射能を低減し取り扱いを容易にするために、ストロンチウム(Sr)とセシウム(Cs)を無機イオン交換体(チタン酸とゼオライト)吸着法で分離回収するプロセスを開発した。この無機イオン交換体は、直接焼成することにより鉱物に類似した安定な固化体となる6)。焼成後の固化体は熱的に安定であり、そのまま熱源として利用することも可能と考えられる。今後、日本原子力研究所において、固化体特性の把握、長期貯蔵と熱源利用との経済性比較、及び社会的受容性に関する評価等の調査・検討が行われる予定である。
○線源としての利用について
セシウム(Cs)137はガンマ線源としての利用も想定されている7)。セシウム(Cs)の放射性核種はセシウム(Cs)134及びセシウム(Cs)137があり、熱源・放射線源としての利用を考慮すると元素分離で十分とも考えられるが、セシウム(Cs)137は現在広く利用されているコバルト60に比べ、使用できる期間が長いという利点を持つ一方、ガンマ線のエネルギーが小さいという欠点がある。したがって、セシウム(Cs)137を高密度(小型)の線源とするためには今後さらに、セシウム(Cs)の同位体分離法と高密度固化法の開発が必要となる。
(3)燃料として利用
超ウラン元素であるネプツニウム(Np)、アメリシウム(Am)、キュリウム(Cm)は、ウラン(U)やプルトニウム(Pu)と同様に、中性子と反応することにより核分裂を起こす性質を有する。消滅処理は、これらの超ウラン元素を核分裂により短半減期または安定元素へ変換することであり、この過程で発生する熱を発電に利用することは、燃料として利用していると考えることができる。
参考文献
1) IAEA, "Feasibility of Separation and Utilization of Ruthenium, Rhodium and Palladium from High Level Wastes", IAEA Technical Report Series No.308 (1989).
2)近藤康雄他、"群分離法の開発:使用済燃料中に含まれる有用元素の回収及び利用法(文献調査)"、JAERI-M 91-147 (1991).3) 久保田益充他、"群分離法の開発:資源としての高レベル廃液"、JAERI-M 85-030 (1991).
4)和田, 川瀬, 岸本, 有用金属回収・利用技術研究の現状,動燃技報(1992年9月)
5)H.Yamaguchi, The Workshop on the Partitioning and Transmutation of Minor Actinides, October 16-18,1989, Karlsruhe
6) M. Kubota, et al., "Immobilization of Strontium and Cesium using Hydrous Titanium Oxide and Zeolite", Radioact. Waste Manag. Nucl. Fuel Cycle, 7, 303 (1986).
7) IAEA, "Feasibility of Separation and Utilization of Cesium and Strontium from High Level Liquid Waste", IAEA Technical Report Series No.356 (1993).
長半減期核分裂生成物(LLFP:long-lived fission products)及びマイナーアクチニド(MA:minor actinides )の減少量とそれに要する時間について |
核種分離・消滅処理は、高レベル放射性廃棄物に含まれる放射性物質を、その半減期や利用目的によって分離するとともに、長半減期核種を短半減期または安定な核種に変換する技術である。
ウラン(U)やプルトニウム(Pu)の核反応により生成したネプツニウム(Np)、アメリシウム(Am)、キュリウム(Cm)などのMAは、ウランやプルトニウム同様、中性子によって核分裂を起こす物質であること、α線を放出する放射性物質であり仮に体内へ取り込んだ場合影響が大きい核種であること等から、消滅処理の検討対象となっている。
ウラン(U)やプルトニウム(Pu)の核分裂に伴い生成した核分裂生成物(FP)のうち、ストロンチウム(Sr)90やセシウム(Cs)137に代表される比較的半減期が短いFPは、高い放射能と発熱性を有しており、高レベル放射性廃棄物を取り扱う際の遮蔽やガラス固化体の仕様を規定している。ただし、半減期は数十年であり時間の経過とともにに放射能や発熱量が減少することが期待できる。一方、FPには、放射能は小さいものの半減期が長いセレン(Se)79(半減期6万5千年)やセシウム(Cs)135(半減期230万年)等の長半減期核分裂生成物(LLFP)も含まれている。LLFPのうち、処分を行った場合に地下水とともに移動しやすい性質を有する核種は、処分の長期的安全性の観点から、消滅処理の検討対象と成りうると考えられる。
1.MAについて
MAの消滅処理を行う場合は、原子炉を用いて核分裂反応を起こさせることにより他の元素に変換することが有効であると考えられる。MAには半減期が長いものが存在するため、原子力発電システム全体としてMAがどのように減少、あるいは増加が抑制されるかを、評価する前提を明確にすると共にそれに要する時間も含めて検討する必要がある。
本検討は、MAの核種分離・消滅処理システムが、将来的には商業用又は消滅処理専用の核燃料サイクルとして成立することを想定して、原子力発電システム全体でのMAの減少量とそれに要する時間について検討した。
2.LLFPについて
FPの消滅処理の検討は、MAのように消滅処理システム導入のシナリオに基づいた検討が実施されていないことから、高速炉にLLFPを一定量装荷した場合の消滅効率について、テクネシウム(Tc)−99とヨウ素(I)−129を取り上げて検討を行った。この他にも、Cs−135、Se−79、ジルコニウム(Zr)−93などの核種は比較的半減期が長く、被ばくへの影響の観点からは核変換を行う一定の意義はあると考えられる。しかし、これらのLLFPは原子炉を用いた場合、TcやIと比較しても核反応を起こす確率がさらに小さい。したがって、対象核種の選定は工学的実現性、半減期、地層処分における重要度等を踏まえて行われるものであり、現状上記核種は、Tc,Iに準ずる優先度であるとされている
参考文献
1)M.Shiotsuki, et al. ,"System Study on the Advanced Fuel Recycle system at PNC", Proc. Int. Conf. on Evaluation of Emerging Nuclear Fuel Cycle Systems (GLOBAL'95),Vol. I, Sep. 11-14 , Versailles, France (1995.)
2)塩月正雄、山名元、「アクチニドリサイクルによる環境負荷低減効果に関する考察」放射性廃棄物研究、Vol.2No.1&2, p47-62、1996年2月
3)T. Wakabayashi , K.Takahashi and T. Yanagisawa, "Feasibility Studies on Plutonium and Minor Actinide Burning in Fast Reactors", Nuclear Technology Vol.118, p14-25, Apr.1997.
4)N. Higano and T.Wakabayashi ,"Feasibility Study on the Transmutation of Long Lived Fission Products in a Fast Reactor", Proc. Int. Conf. on Future Nuclear Systems (GLOBAL'97),Vol. 2, p1322-1326, Oct. 5-10 , Pacifico Yokohama, Yokohama, Japan (1997).
二次廃棄物の発生について |
核種分離においては、分離プラントの操業に伴い二次的な廃棄物が発生することは避けられない。そのため、発生廃棄物の種類、量ならびに濃度等を評価することが必要である。
短期的な放射線被ばく線量の増加について |
群分離・消滅処理導入は、@既存の核燃料サイクルに新たに工程や施設を追加すること、Aマイナーアクチニド(MA)や長半減期核分裂生成物(LLFP)を繰り返し処理すること、により短期的な被ばく線量が増加することとなる。被ばくを受ける対象は、当該施設の運転等に従事する作業者と施設周辺に居住する一般公衆である。ただし、両者に対する被ばく線量は、既存の原子力施設と同様に法令等で定められた安全上支障のないと考えられる線量基準を満たすことのみならず、合理的に達成可能な限り低くなるよう措置が講じられることとなる。
● 主排気筒からの放射性物質の放出に関しての考慮核種1)
クリプトン(Kr)-85などの希ガス, トリチウム(H-3),炭素( C)-14,ヨウ素(I)-129, ヨウ素(I)-131 以上、気体状
プルトニウム(Pu), ストロンチウム(Sr)-90,(イットリウム(Y)-90), ルテニウム(Ru)-106, ロジウム(Rh)-106, セシウム(Cs)-137 (バリウム(Ba)-137m) 以上、微固体状
● 海洋放出口からの放射性物質の放出に関しての考慮核種2)
トリチウム(H-3),ヨウ素(I)-129,ヨウ素(I)-131,プルトニウム(Pu),アメリシウム(Am),キュリウム(Cm),コバルト(Co)-60, ストロンチウム(Sr)-90,(イットリウム(Y)-90), ルテニウム(Ru)-106, ロジウム(Rh)-106, セシウム(Cs)-137 (バリウム(Ba)-137m), セリウム(Ce)-144, プラセオジム(Pr)-144, プラセオジム(Pr)-144m , ユウロピウム(Eu)-154, プルトニウム(Pu)-241
参考文献
1)再処理施設設置承認申請書 動力炉・核燃料開発事業団(平成6年9月)
経済性について |
核種分離・消滅処理システムは、技術開発の現状を踏まえると、システムを構築するために重要な技術の多くが基礎的な研究開発段階であり、信頼性の高いコストの見積もりやシステムを導入するための具体的なスケジュール等を明確に示すことは、現段階では困難であると考えられる。したがって、三機関が検討を行っているそれぞれの核種分離・消滅処理システムを導入することによるコストについても、同一の条件を仮定した場合の経済性評価は行われていない。各機関が独自に条件を仮定して、核種分離・消滅処理システムを導入することに伴う追加的なコスト評価を行っている段階であり、以下に各々のシステム導入による追加コストの試算例を示す。
(1)日本原子力研究所
原研では、軽水炉の発電コスト及び燃料費の構成比を基準に、加速器駆動未臨界炉(ADS)及びアクチニド専焼炉(ABR)を使った階層型核燃料サイクルを導入した場合に建設、運転、燃料製造それぞれのコストが軽水炉サイクルの何倍になるかを推定することにより、発電コストの相対的な増加分を試算している。その結果、およそ5%のコスト上昇と見積もられている。この際に導入した主な仮定は以下の通りである。
参 考
1994年度の実績では、原子力による総電力供給量は約2700億KWhである。原子力発電の1KWhあたりの発電コストを9円程度、核種分離・消滅処理システム導入による発電コストの上昇を仮に5%とすると、年間の費用は約1200億円と算出される。
参考文献
1)H. Kofuji et al. , "The Economics of the Advanced FBR Fuel Recycle",GLOBAL'97 (1997年10月)
2)紙谷、小島、「先進湿式MOXプラントのコスト評価」、PNC TN8410 97-220(1997年12月)
3)木下賢介、倉田正輝、井上正、「乾式分離プラントの建設コスト評価」、電力中央研究所 研究報告(平成11年予定)