資料(専)26-3

 

核種分離・消滅処理技術の効果及び意義

平成11年11月5日
主な論点整理された内容
資源としての有効利用 使用済燃料からウラン(U)とプルトニウム(Pu)を取り出した後の高レベル放射性廃液は、核種分離・消滅処理により資源として有効利用できる可能性がある。

1.稀少であり天然資源として有効利用
・資源としての利用方法としては、以下のような事例がある。

①一般に、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)等の白金族元素は窒素酸化物(NOX)発生を低減させるための自動車の排ガス触媒、石油化学や医薬品などの化学工業用触媒等に幅広く利用されている。
②一般に、テクネチウム(Tc)は防蝕試薬・材料や触媒、セレン(Se)は光電子材料、薬剤、テルル(Te)は特定波長の電磁波検出器材料等としての利用が考えられる。
③核燃料サイクル開発機構において、回収した白金族元素を水分解による水素発生反応に放射線触媒として用いること、熱電材料として利用することが検討された例がある。
・なお、分離技術としては、各元素の特徴を生かすために少なくとも元素分離が必要であり、①高レベル廃液から白金族元素とSe,Teを電解により直接採取する方法、②不溶解残渣から鉛を用いた抽出法により白金族元素を分離する方法、③同位体分離により安定元素を取り出す方法等が検討されている。ただし、いずれの方法も試験研究段階であり、具体的な利用や経済性を検討するためには今後の研究開発が必要である

2.熱源や放射線源として有効利用
・日本原子力研究所で開発中の固化体は熱的に安定であり、そのまま熱源として利用することも可能と考えられる。今後、固化体特性の把握、長期貯蔵と熱源利用との経済性比較及び社会的受容性に関する評価等の調査・検討が行われる予定である。

・セシウム(Cs)137についてガンマ線源としての利用が想定されている。現在広く利用されているコバルト(Co)60に比べ、使用できる期間が長いという利点を持つ一方、ガンマ線のエネルギーが小さいのが欠点である。今後さらに同位体分離法と高密度固化法の開発が必要である。

3.燃料として利用
・消滅処理はネプツニウム、アメリシウム、キュリウム等の超ウラン元素を核分裂により短半減期または安定元素へ変換することであり、この過程で発生する熱を発電に利用することは、燃料として利用していると考えることができる。

高レベル放射性廃棄物等のうち処分の観点から重要と考えられるマイナーアクチニド(MA)及び長半減期核分裂生成物(LLFP)の減少量とそれに要する時間 1.MAについて
・前提条件や設定根拠が異なっており、それぞれの消滅処理システムによるMAの減少量とそれに要する時間を比較はできないが、加速器駆動未臨界炉システムの導入または発電システムの高速炉への置換を数十年間で達成した場合、消滅処理を行わない場合とMA存在量を比較すると、時間の経過とともに相対的にMA存在量は減少し、消滅処理システム導入開始から約70年後には1/4~1/5になると予想される。
・消滅処理を行わない場合、MAは全て高レベル放射性廃棄物となるが、消滅処理を行った場合、MA存在量の大部分(98%以上)はシステム内に存在しており、高レベル放射性廃棄物となるのは少量(2%以下)と考えられる。
・MA消滅処理システムを導入した場合でも、100%の効率でMAを分離し核分裂させるものではなく、最終的に地層処分が必要である。

2.LLFPについて
・FPは、MAのように消滅処理システム導入のシナリオに基づいた検討が実施されていないが、高速炉にLLFPを一定量装荷した場合の消滅効率について、工学的実現性、半減期、地層処分における重要度等を踏まえてテクネチウム(Tc)-99とヨウ素(I)-129(ガラス固化体には含まれない)を取り上げて検討されているところであり、

①100万kW軽水炉では、年間23.4KgのTc-99が生成されるが、Tc-99が100%分離・回収されることを仮定した場合、高速炉1基で軽水炉約1.5基分のTc-99が消滅できる可能性がある。
②100万kW軽水炉では、年間約5kgのI-129が生成されるが、I-129が100%分離・回収されることを仮定した場合、高速炉1基で軽水炉の約3.6基分のI-129が消滅できる可能性がある。
廃棄物処分に対する効果 「地層処分研究開発第2次取りまとめ第2ドラフト」において、我が国の幅広い地質環境やデータの不確実性を考慮した地層処分システム全体の安全評価結果は以下の通りである。
①地下水移行シナリオによる被ばく線量は、計算条件により最大値が変動するが、線量が最も高い結果であっても、諸外国で提案されている線量基準を十分下回る。
②将来の人間が処分場に侵入することは、資源利用の可能性がない地点を選定すること等から発生の可能性が極めて小さいとされているが、念のために偶発的なボーリングによるリスクの評価を行った結果、制度的管理により人間侵入が防止されることをみ込まない場合でも、諸外国で提案されているリスクの安全基準を十分下回る。
・上記の地下水移行シナリオと人間侵入シナリオについて、核種分離・消滅処理の効果を検討した結果は以下の通りである。
①安全性に対しては、現行の地層処分でも諸外国で提案されている安全基準を十分下回っているが、LLFPとMAに対して核種分離・消滅処理技術を適用すれば、線量またはリスクをさらに低減できる可能性がある。
②処分場の設計合理化の観点からは、発熱性の核種(セシウム137やストロンチウム90)を高い分離効率で除去することができれば、処分場の設計上、熱的な制約をゆるめることができる可能性がある。また、モリブデンや貴金属合金を分離除去してガラス固化体の発生量を低減できれば、処分坑道の総延長が短くなり、処分場の設計を合理化できる可能性がある。
二次廃棄物の発生 1.湿式分離法について
・湿式分離プロセスでは、①放射線分解や加水分解による廃溶媒、②試薬として添加した塩、などの二次廃棄物が発生する。
・廃溶媒の発生量は、溶媒の使用量とリサイクル使用の回数によって決まり、原研の抽出プロセスの例では、廃棄体(セメント固化体)の量はピュレックス法再処理での発生量に比べ20分の1以下と試算された。また、実験室規模での試験によれば、廃棄物のα核種濃度は一応の区分目安値(アルファ核種濃度約1ギガベクレル/トン)以下であると試算された。ただし、工学規模でこれが実現できるかどうかは今後の課題である。

2.乾式分離法について
・乾式プロセスでは、溶媒として放射線による劣化生成物がない溶融塩(塩化リチウム-塩化カリウム)、液体金属(カドミウム、ビスマス、鉛)、還元剤(リチウム)を使用しているため、液体金属や還元剤、塩素ガスは系内でリサイクルできる見通しである。
・還元剤として用いるリチウムの一部がFPと共にガラス固化体となると考えられるが、設備の保守、機器の交換によって発生する放射性廃棄物の発生量は今後検討が必要である。

短期的な放射線被ばく線量の増加  被ばくを受ける対象は、核種分離・消滅処理施設の運転等に従事する作業者と施設周辺に居住する一般公衆であるが、両者に対する被ばく線量は既存の原子力施設と同様に法令等で定められた線量基準を満たすことのみならず、合理的に達成可能な限り低くなるよう措置が講じられる。
 核種分離・消滅処理導入は、①既存の核燃料サイクルに新たに工程や施設を追加すること、②MAやLLFPを繰り返し処理すること、により短期的な被ばく線量を増加させる可能性があり、十分な措置が講じられることが必要である。

1.既存の核燃料サイクルに新たに工程や施設を追加することによる追加的な被ばく
・MA燃料サイクル施設において、高レベル放射性廃液やMA含有燃料を取り扱う作業者が受ける被ばくは、例えば2m弱の普通コンクリートの遮蔽を設けることにより、従来の再処理プラントの管理区域内作業(週48時間以下)線量率基準以下に抑えることが可能と試算された。
・周辺公衆が受ける被ばくは、施設の運転に伴い排気筒や海洋放出口から放出される気体又は液体状の放射性核種が主な原因となるが、JNC東海再処理施設等の安全審査における被ばく線量評価は、法令に定められた線量基準を十分下回る結果であり、MA燃料サイクル施設においても同様になると考えられる。

2.MAやLLFPを繰り返し処理することによる追加的な被ばく
・核種分離・消滅処理は、高レベル放射性廃液から取り出したMAやLLFPを繰り返し処理するため、核種分離施設や消滅処理炉における取扱量(サイクルの回数)に応じて被ばく線量が増加すると考えられるが、消滅処理サイクル1回あたりの燃料としての物量は軽水炉サイクルの1~2%程度であり、被ばく線量の増加は小さいと予想される。
・気体状ヨウ素のようなLLFPの処理を行う場合は、施設外への放出を十分低く押さえることが必要であるが、例えばフィルタを複数設けることにより、施設外へ放出される気体状ヨウ素を低減することが可能である。

3.輸送による追加的な被ばく
・MAを含んだ燃料の輸送容器等についても十分な遮蔽・密封性能により安全が確保されると考えられる。
・核種分離・消滅処理システムを再処理・燃料製造プラントと一体で設置すると公道上の輸送は不要となる。

経済性 ・現時点では、核種分離・消滅処理技術導入のためのコストを高い信頼性をもって示すことができる段階ではない。また、3機関が研究開発を進めている個々のシステムについて、同一の条件を仮定した場合の経済性評価は行われていないため、各々のコストの上昇率や費用を比較することは現段階では困難である。
・各機関が一定の仮定の下で行った試算によると、核種分離・消滅処理システム導入による軽水炉の発電コストに対するコストの上昇率は数%程度と推定される。

①日本原子力研究所は、軽水炉の発電コスト及び燃料費の構成比を基準に、階層核燃料サイクルを導入した場合に建設、運転、燃料製造のコストが軽水炉サイクルの何倍になるかを推定し、最終的に発電コストは、およそ5%上昇と試算。
②核燃料サイクル開発機構では、核種分離・消滅処理システムの導入に伴う原子炉や燃料サイクル施設の建設費の増加等を反映した場合の発電コストは、2%程度の増加と試算。
③電力中央研究所では、米国において、年間使用済燃料800t分の高レベル放射性廃液を処理できる分離プラントを建設する場合のコスト評価を実施し、費用一式として約570百万ドルと試算。