1.研究開発の現状
1)目的
再処理工程で分離される高レベル放射性廃液(主として不溶解残渣)を新たな資源として利用するために、その中に含まれる白金族元素等(Ru、Rh、Pd、Tc)の有用元素を回収するプロセスを開発する。
2)処理対象(元素、核種、物質等)
不溶解残渣、Ru、Rh、Pd、Tc
3)処理プロセス・システムの概要
乾式元素分離法(鉛抽出法・灰吹法・オゾン酸化処理法)と湿式元素分離法(溶媒抽出法・沈殿法)を組み合わせたプロセスにより、白金族元素を単離回収する。さらに非放射化のためにレーザー同位体分離を行う。
4)特徴(メリット、デメリット)
高レベル廃液に含まれる白金族元素のかなりの部分は不溶解残渣として溶解工程後の清澄工程においてパルスフィルタ等によって回収される。この不溶解残渣は白金族元素を主成分とするので、これを対象にすることで分離回収プロセスを単純なものとすることが期待できる。処理プロセスの第一段階の鉛抽出法はセル内での操作にも対応が容易な単純な分離法である。しかしながら単離精製までを考慮すると湿式のプロセスによる必要があり、このため二次廃棄物の発生が懸念されることも考えられる。
5)目標及び設定根拠
高レベル廃棄物からの白金族元素回収に関わる研究はこれまで多く行なわれてきている。しかしながらそれらは白金族元素の硝酸酸性溶液あるいは模擬高レベル廃液を対象にしてPd等を溶媒抽出法によって回収しようとするものがほとんどである。高レベル廃液を対象としたものは少なく、不溶解残渣を対象とした研究開発はさらに限られている。実際に高レベル廃液を対象にした試験を行い、白金族3元素の回収率について検討されたのは、約15年前にPNLにて実施されたものが唯一のものである。
PNLでは当初は、高レベル廃棄物の資源的価値に着目し、白金族元素を回収するための研究開発と経済性の評価を実施した。本研究開発を開始するにあたって実施した海外調査ではPNLについて重点的に実施することとし、研究者からの聴き取り調査も行った。PNLで検討された方法は、高レベル廃液を含むガラスの溶融時に鉛を添加し、白金族元素を鉛相に回収しようとする方法である。調査時点では、当初目的とは異なり、むしろガラス固化時のメルター保護が主目的であることが述べられた。また、文献においてベンチスケール試験を実施することが予告されていたが実際には行われなかった。
以上のことから不溶解残渣より白金族元素を合理的なコストで単離回収できるプロセスを構築することを目標とした。
6)これまでの成果
乾式元素分離法と湿式元素分離法を組み合わせ白金族元素を単離回収するプロセスを構築した。具体的には、鉛抽出法については鉛相への白金族元素回収とTRU元素の除染係数をホット試験により確認した。灰吹法により実不溶解残渣よりマクロ量(?i1g)の白金族合金粒を回収した。オゾン酸化処理法により含Ruスラッジよりオゾンガスを用いてRuをほぼ100%回収できることを確認した。また、溶媒抽出法としてDHS溶媒に着目し、硝酸溶液中のPdを選択回収できることを確認した。
非放射化のためのレーザー同位体分離法については、天然のパラジウムを用いた試験により原理実証を達成した。
2.現状の分析
1)オメガ計画における位置付けとそれに対する進捗状況
当初計画によれば、回収技術の研究開発については、平成8年度までを第T期としてモックアップ試験までを終了させ、平成9年から12年までの第U期においてパイロット規模試験を実施することとしている。これまで、模擬試料及び実不溶解残渣を用いて、鉛抽出法による粗分離回収試験を実施した。また、模擬試料を用いて、粗分離回収後の精製工程について、溶媒抽出法、ルテニウム酸化揮発法等に関する試験を実施した。さらに、灰吹法により実不溶解残渣から放射性貴金属合金粒を回収した。しかしながら、モックアップ試験の段階には至っていないのが現状である。
利用技術研究については、第T期(〜平成8年)においてシステム基礎試験を、また、第U期においては実試料によるシステム試験を実施することが予定されていた。これまで、FP貴金属の利用方法として放射線誘起化学反応触媒に着目し、模擬試料及び外部線源用いた基礎的試験を実施した。また、熱電材料への利用について検討した。しかしながら、いずれについてもシステムとしての試験を実施する段階には達していないのが現状である。
2)技術的達成度
(1)有用金属回収技術開発のための基礎的検討
白金族元素合金の硝酸溶解特性
白金族元素合金の硝酸溶解挙動についてはこれまで定量的な研究が少ないことから、mgオーダーの金属粉末試料を用いて単一金属の溶解速度、TcをReで模擬した5元合金(Ru-Rh-Pd-Mo-Tc)の溶解速度等について検討を行った。
液体金属抽出法に関する検討
抽出の第一段階として鉛抽出法(液体金属抽出法)が適していると考えられたので、抽出媒金属の種類、スラグの組成等について系統的な検討を行った。その結果、Sn、Zn、Cd等がPbよりも優れた抽出媒となりうることが明らかとなった。このうちSnについてはさらに詳細に実験検討を行い、Sn中への各元素の溶解度や、Na2O-B2O3系スラグを用いた場合スラグの組成が多少変化しても抽出特性に大きな影響がないこと等を明らかにした。
(2) 粗分離回収技術開発
不溶解残渣回収法
再処理溶解工程で発生する不溶解残渣の性状、挙動等の実態を明らかにし、それらに基づき既存再処理施設との整合性を有する効率的で安全な不溶解残渣回収技術を検討した。各種の液中微粒子回収法(精密沈殿法、凝集沈殿法、遠心分離法、浮上分離法、磁気分離法)について調査及び模擬不溶解残渣を用いた実験検討を実施した結果、凝集沈殿法と磁気分離法の有効性を明らかにした。磁気分離によってサブミクロンの粒径を有する不溶解残渣を回収できる可能性があるが、サブミクロン粒度の残渣の重量比は10%以下であるのでコストとのかねあいを考慮する必要がある。
鉛抽出法
不溶解残渣より白金族元素等を単離し高純度に精製するには、最終的には湿式工程によらざるを得ないものと考えられる。既存の再処理プロセスとの整合性を考慮すると硝酸酸性での精製工程とする必要があるため、不溶解残渣を硝酸に可溶なものとするための前処理が必要となる。また、不溶解残渣は白金族元素を主成分とする金属間化合物(ε合金)と白金族元素以外のFP元素及びTRU元素、さらには構造材に起因する元素等が混合したものであるため、ε合金とこれらの元素との分離が必要である。
分離回収プロセスの第一段階として、残渣中に含まれる他のFP成分等の除去を行うとともに、白金族金属間化合物を硝酸に易溶なものとするために、鉛抽出法を適用する。前述のように、抽出媒金属としてはPbよりも優れたものがあるが、硝酸溶解特性等についてなお多くの検討事項があるため、鉛抽出法を採用することとした。鉛抽出法は不溶解残渣を鉛及びスラグ(ガラス)とともに混合溶融し、鉛相に白金族元素等を、ガラス相にその他のFP元素等を抽出する液体金属抽出の一種である。スラグとしてホウ砂を用いればガラス固化処理との整合性もよい。
鉛抽出法は不溶解残渣を硝酸に可溶なものとするのに優れた方法であり、鉛抽出によって不溶解残渣(ε合金)の成分のうちRhの一部及びPdが硝酸に溶解することを明らかにした。この硝酸溶解においてRuの大部分は溶解しないでスラッジとして回収されるので、Ruの除染が達せられる。なお、Rhの溶解量は鉛抽出時のPd添加により増加させることができる。
ルテニウムは鉛抽出処理によって一部が揮発するとの報告があるが、事業団での鉛抽出試験(抽出温度:800℃、スラグ:Na2B4O7)においては、ルテニウムの揮発損失はないことを確認している。
実不溶解残渣(〜1g/バッチ)を用いた鉛抽出試験を行い、@Ru、Rh及びPdは鉛相に回収される、ARh及びPdは鉛相中で均一に分布すること、BTcはRuと同様の挙動をすることなどを明らかにした。
キューペレーション(灰吹法)
上述のように不溶解残渣から白金族元素等を分離回収する技術として鉛抽出法は多くの利点を有しているが、鉛の使用量が不溶解残渣量に比較すると多量となる(不溶解残渣の10?050倍量)ことからなお改善の余地がある。すなわち鉛相の溶液化にあたって必要な硝酸及び水の量は硝酸鉛の溶解度によって決まるので多量の硝酸が必要となり、以降のロジウムとパラジウムの相互分離工程では白金族元素濃度が相当に薄まった溶解液を対象として分離回収処理を行わなければならないということになる。これは工程技術としては不利であり設備及び操業コストに悪影響を与えるであろうし、廃棄物の発生量も多くなると考えられる。
キューペレーションは鉛相に固溶した金及び銀を分離するのに用いられる方法であり、古くから試金法と称して分析手段として利用されてきている。この方法は通常リン酸カルシウムを主成分とする比較的多孔質のるつぼ(キューペル)を用い、この上に金、銀を含む鉛を置いて酸化性雰囲気で溶融すると鉛のみが酸化鉛としてキューペルに吸収され、ビードと称する貴金属塊を得るものである。
しかしながら白金族元素(Ru、Rh、Pd)の分離回収にキューペレーションを適用した例は報告されていないことから、コールド試験及びホット試験を行い、その有効性を明らかとした。ただしビードについては硝酸溶解特性が白金族元素を抽出した鉛相と異なり、Rhの硝酸溶解量がやや低下するので、一回の操作で回収できるRh量が減少することを考慮する必要がある。(スラッジとなったRhは再度鉛抽出工程へ送ることになる)
(3)相互分離・高純度精製技術開発
ルテニウム分離精製
不溶解残渣の組成は燃焼度、冷却期間などの条件により変化するが、燃焼度48000MWD/t、4年冷却の場合、1011Bq/g程度の比放射能を有している。これはほとんどRuに起因するものである。すなわち105〜106の分離係数でRuを分離できればグローブボックスでの取扱いが可能となり、その後の分離操作は簡略化ができる。
ルテニウム回収法として従来電解回収法等が検討されているが、鉛抽出後の硝酸溶解によってRuの大部分がスラッジとして回収され、固相からのRu精製法とする必要があることから、オゾンガスを酸化剤として用いる酸化揮発法を検討した。図6-1に示すようなフローによりRuが99%以上回収されることを明らかにした。また、硝酸溶解液についてはオゾンガスの吹き込みにより、グローブボックスでの取扱いを可能とする上記分離係数が得られることも明らかとした。
溶媒抽出法等
鉛抽出を行った後、白金族元素を抽出した鉛相を硝酸に溶解した溶解液を対象にして、分離工程の最終段階であるPdとRhの相互分離を行うことになる。相互分離法としては、イオン交換法(キレート樹脂によるPdの吸着分離)、化学沈殿法及び溶媒抽出法について予備的実験検討を行った。その結果、イオン交換法及び化学沈殿法では高い分離係数が得られないことが明らかとなったので、溶媒抽出法についてさらに詳細な検討を実施することとした。
白金族の相互分離と精製は従来、白金族元素間の微妙な化学的性質の違いを利用した煩雑で非効率的な化学的沈殿分離法によって行なわれていたが、近年、塩酸酸性での溶媒抽出法が開発され商業的な規模で実用段階に至っている。また、高レベル放射性廃液を対象に溶媒抽出法によって白金族元素を分離する方法についてこれまでに多くの報告がなされている。白金族元素の抽出溶媒としてはサルファイド系溶媒、アミン系溶媒、オキシム系溶媒、リン酸系溶媒等が検討されているが、それぞれ一長一短である。ここでは、これらの結果をも参考にして、サルファイド系溶媒及びアミン系溶媒について白金族元素等の硝酸溶液を用いた抽出試験等を実施し、硝酸酸性での分離性能の評価を行った。
その結果、サルファイド系の溶媒であるDHS(di-hexyle surphide)によって0.1?.6Nの濃度の硝酸溶液からPdが非常に効率良く分離されることを明らかにした。また、チオ尿素を用いることによって逆抽出も容易であり、800tプラントでの1年間の処理によって想定されるγ線量を照射した溶媒でも抽出性能にはほとんど変化はないことも明らかにした。
(4)非放射性化技術開発(同位体分離技術開発)
非放射性化技術としては、放射性同位体を分離・除去することと高い同位体選択性が要求されることから考えてレーザー同位体分離法、プラズマ法、電磁分離法が対象となる。ここでは、ウランに対して研究開発が実施されており、技術的バックグラウンドの蓄積があるうえ、他の元素への応用可能性の評価にもつながることからレーザー同位体分離法を採用した。また、レーザー同位体分離法の適用可能性を明らかにすることは、回収した有用核種の利用範囲を広げる観点からも重要なことである。
同位体分離による非放射性化の対象となる核種としては、Ru-106、Rh-102、Pd-107などであるが、最も半減期の長いPd-107を当面の対象とした。さらに一般的なレーザー法のような同位体シフトでなく、偏光した光を吸収するときの角運動量選択則に基づく同位体選択性により分離する方法の原理実証を行うことで、同位体シフトが小さくて分離が困難な他の元素に対して分離の可能性を開くものとして価値がある。
レーザーによる同位体分離の技術開発では、細分化された多くの研究項目がある。少なくとも以下に示す項目に対して情報やデータの収集及び評価・検討が必要となる。
| @ | パラジウムの原子蒸気の発生方法の検討と蒸発特性(蒸発速度、蒸着特性、加熱温度、電子衝撃イオン化の程度など) |
| A | パラジウム原子の分光学的パラメーター(エネルギー順位、吸収断面積、同位体シフト、励起状態の寿命、励起・電離のしきい値、励起、電離波長の最適化など) |
| B | 同位体分離の効率等の理論的検討(分離係数、光の利用効率など) |
| C | 同位体分離用レーザーの技術的要件(発振波長域、連続波長可変性、狭帯域化、高出力化、波長変換技術、エネルギー効率、経済性) |
| D | レーザー光の利用効率の向上(長距離伝搬特性、光学系の最適設計など) |
| E | プラント設計条件(処理量、除染係数、コストの評価など) |
(5)利用技術の検討
回収した白金族元素の利用方法のひとつとして、白金族金属を半導体(TiO2、SrTiO3等)微粒子上に担持させた酸化還元反応触媒について検討を行った。同種の触媒は水分解水素生成反応のための光触媒としてさかんに検討が行われているものである。ここでは担持する貴金属を不溶解残渣より回収した放射性白金族金属とすることにより、入射エネルギーなしでの触媒効果を期待するものである。実験検討しとてTiO2微粒子に天然のPd,Ru及びRhを担持させた触媒を水に懸濁させた系にガンマ線を照射し、水分解水素生成反応が生起することを実証するとともにその反応効率等について基礎的評価を行った。
また、回収した白金族金属の熱電材料としての利用可能性について基礎的検討を実施した。Ru-Si系合金及びRu-Si-U系合金を溶製し、これらの熱電特性評価を行った。
(6)工業化に関する検討
核分裂生成白金族元素の特性
工業化プロセスの検討にあたって、核分裂生成白金族元素の特性について理解しておくことは必要不可欠である。核分裂生成白金族元素の生成量、放射能、崩壊系列等については多くの文献に記載されているので、ここに再録する必要はないであろう。これらのデータをもとに、Ru、Rh及びPdの各元素の単離精製を検討する際、不純物として含有される他の2元素の濃度がどの程度まで許容されるかという検討を行った。
3.今後の見通し及び課題
平成10年度をもって研究を中止したが、今後の見通し及び課題については以下のように考えられる。
1)実用化の見通し及びそのために解決すべき課題
本研究開発は不溶解残渣中の有用金属を単離回収するプロセスを構築するための基礎的データ取得を主たる目的としたものである。したがって、経済性を含めた将来の見通しについて評価することはやや困難である。しかしながら分離回収については技術的には現段階では大きな問題点はないと考えられるので、今後10年程度の期間でパイロットプラントの段階に達することは可能であろうと思われる。分離回収プロセスについて今後5年間での中心課題は、ε合金以外の不純物を多量に含むような実残渣をもちいて工程全体での物質収支を求めることである。同位体分離及び利用技術については、実用レベルに達するには今後さらなる研究開発を必要とする。
2)当面重点を置くべき研究開発課題
特に利用技術について放射線触媒及び熱電材料以外についても幅広く検討を行い、利用方途を拡げることが重要である。
3)経済性についての見通し
使用済燃料中より有用金属の回収を行うことを検討するということは、とりもなおさずそれらの有用金属が資源となり得るかを検討することである。言い換えれば回収された有用金属の価値が回収に要するコストを補償し得るかどうかを判断基準として検討する必要があるということである。しかしながら本研究開発は実験室レベルの段階にあり、プラントをイメージした効率、処理量、経済性等の評価検討に必要なデータは得られていないのが現状である。
したがって工業化に係る検討を行うのに拠り所となるデータには乏しいのが現状である。
4.研究開発の進め方
1)関連する研究分野との協力
なし
2)国内研究機関との協力
京都大学、大阪大学及び名古屋大学との委託研究及び共同研究を実施した。また、有効利用技術の研究開発に関して東京工業大学より客員研究員を招聘した。
3)国際協力
なし
5.研究対象としていなかったが、核種分離・消滅処理の趣旨に照らして重要と考えられる技術
(2) M.Myochin et al. "Recovery and Utilization of Valuable Metals from Spent Fuel(III)," Proc. 1993 Int. Conf. on Nucl. Waste Management and Environmental Remediation, Sep. 5-11,1993,Prague.
(3) R. Kawabata et al. "Solubility of Molybdenum in Liquid Tin," Metallurgical and Material Transactions, 26B,654(1995).
(4) M.Myochin et al. "Recovery of Valuable Metals from High Level Radioactive Waste," 4th OECD/NEA OMEGA Information Exchange Meeting, Sept. 10-13, 1996,Mito,Japan.
