V.電子加速器による消滅処理

1.研究開発の現状

1) 目的
 サイクル機構では「核種分離・消滅処理研究開発」の一環として、電子加速器を利用して光核反応((γ, n )反応)により長寿命核分裂生成物(FP)を消滅処理する可能性を模索している。そのため、必要となる大電流加速器の実現可能性の検討に最も重要なビーム安定化等に関する要素技術の開発(1)、必要とするエネルギーを低減できる可能性を有する光核反応の断面積における微細構造の解明、消滅処理システム概念の構築を目標として、オメガ計画第T期の研究開発を行ってきた。これらの研究開発により電子加速器を用いた消滅処理の可能性が見出され実現すれば、以下の効果が期待される。
 @高レベル放射性廃棄物に含まれるFPのうち、半減期が長いもの、放射能が高いもの、発熱量が多いものを消滅処理し、地層処分の効率化に寄与する。(処分場や固化体のスペック緩和、処分場面積の削減、処分場閉鎖後の管理期間の短縮)
 A長半減期FPの潜在的毒性を低減する。

2) 処理対象(元素、核種、物質等)
 サイクル機構では、中性子反応断面積が大きいマイナアクチニド(MA)については、高速炉での消滅が最も合理的で実現性が高いと考え、そのための研究開発を実施している。一方、FPについては、原子炉での消滅が困難であることから、加速器を利用して光核反応により消滅処理する可能性を検討している。
 表1に主な消滅処理研究対象核種を示す。光核反応による消滅処理はSr-90, Cs-137以外にも、Sn-126, Se-79, C-14等のFP核種等に適用可能である。

3) 処理プロセス・システムの概要
 電子加速器による消滅処理の原理は、電子線を利用して発生させたガンマ線による(γ, n )反応(2)により、短寿命核種または安定核種に変換するものである。図3.1にCs-137を消滅する場合の例を示す。
 具体的には、電子蓄積リングと光キャビティー(3)を組み合わせて逆コンプトン散乱(4)により発生させたガンマ線を用いて消滅するシステムを検討している。ターゲットとしては、同位体分離を行った金属または液体が考えられる。

4) 特徴(メリット、デメリット)
 @ メリット
  • 原子炉(中性子)では消滅しにくい長半減期FPを消滅できる。
  • (γ, n )反応を用いるので副次的な放射能の発生が少ない。
  • 電子加速器は、加速器技術としての基盤が整備されている(5)
 A デメリット
  • 消滅処理に必要なエネルギーを大幅に低減する必要がある。
  • 商業サイクルとは独立しているが、核種分離と同位体分離が必要となる。
  • 従来にない大電流の加速器が必要となる。

5)目標および設定根拠
 @電子加速器の開発
 電子加速器を用いた光核反応による消滅処理に必要な大強度のガンマ線を発生させるためには、大電流電子加速器が必要である。具体的には、工学的規模の試験には100MeV―1A級の加速器が必要になると考えられていた。そこで、オメガ計画第T期の開発目標として10MeV―20mA級の加速器の要素技術開発を目標に設定した(6)
 A断面積の測定
 電子加速器による消滅処理に必要なエネルギーは光核反応の断面積に大きく依存しており必要なエネルギーを大幅に低減できる可能性があることから、この断面積の微細構造を解明することを目標とした。また、主要な消滅処理対象核種について、原子炉での消滅処理が困難であり電子加速器による方法でなければ消滅できないことを確認するため、中性子反応断面積の測定も行うこととした。
 B消滅処理システムの概念検討
 電子加速器による消滅処理の最も重要な課題である必要とするエネルギーの低減を検討するため、消滅処理システムの概念検討を行うことを目標とした。

6)これまでの成果
 @電子加速器の開発
 大電流・高効率の電子加速器を実現するため、進行波還流型加速管、大電力・高効率クライストロン等の主要要素の試作評価を行った(7),(8)。その成果に基づき、大電流電子加速器を設計、製作し、入射部試験により基本的な性能を確認した(図3.2参照)。また、平成11年1月から開始した性能確認試験により現在までに電子エネルギー:6MeV、平均電流:0.2mAを達成した。これにより加速器の大電流化にある程度の技術的見通しを得た。
 A断面積の測定
  • 光核反応断面積の微細構造を精度良く測定するため、高分解能・高エネルギー光子スペクトロメータを新たに開発し(図3.3参照)、これを用いてO-18及びC-13の光核反応断面積を測定した(9),(10),(11)。特に、C-13については、0.1%のエネルギー分解能で微細ピークを観測することに成功し、これまで240keVの幅が報告されていた微細構造ピークが15keVの幅で測定された(図3.4参照)。
  • 主要な消滅処理対象核種について、精度の良い熱中性子吸収断面積が得られた(表3.2参照)(12)〜(20)
 B消滅処理システムの概念検討
 消滅処理に必要なエネルギーを低減するために、将来の技術進展を見越した1つの提案として、電子蓄積リングとレーザー光を閉じこめるための光キャビティーを組み合わせた消滅処理システムの概念検討を行った(図3.5、3.6参照)(21)。このシステムでは、電子対生成に損失するエネルギー等もできるだけ回収することを前提としている(22)。これにより、制動エックス線を利用する場合に比べて、必要なエネルギーを低減できる可能性が示された。

2.現状の分析
1)オメガ計画における位置付けとそれに対する進捗状況
 中性子反応断面積が小さく原子炉では容易に消滅できないFP(Cs-137, Sr-90等)について、光核反応を用いて消滅する可能性を模索するために、電子加速器の大電流化技術の開発、光核反応断面積の測定及び測定技術の開発等を行っている。

2)技術的達成度
 @大電流電子加速器の実現性の見通しが得られた。
 A光核反応断面積の微細構造について、予備的な試験として、安定核種(O-18及びC-13)を用いた測定を行い、従来の報告より鋭い微細ピークが観測された。また、この測定を通じて、光核反応断面積を0.1%の高いエネルギー分解能で測定する技術を開発した。しかしながら、放射性核種Sr-90及びCs-137の微細構造に関するデータを取得するには至っていない。
 B電子蓄積リングと光キャビティーを組み合わせた消滅処理システムの概念を示した。しかし、依然として、Sr-90及びCs-137の消滅には非常に多くのエネルギーが必要である。

3.今後の見通し及び課題
1)実用化の見通し及びそのために解決すべき課題
 サイクル機構としては、平成11年度に加速器の性能確認試験を行って本研究を終了する。

2)当面重点を置くべき研究開発課題
 今後、他の研究機関が本研究を継続する場合は、以下の課題が考えられる。
 @断面積の測定
 長寿命FP核種について光核反応断面積の微細構造測定等を行うことにより、Sr-90, Cs-137に限らない広範な消滅処理対象核種の調査・選定が必要と考えられる。
 A消滅処理システム概念の検討
 単色ガンマ線発生技術、エネルギー回収技術等の進展を考慮した、消滅処理システム概念の検討が必要と考えられる。

3)経済性についての見通し
 現状の技術では、Cs-137及びSr-90の消滅を経済的に成立させるシステムの構築は難しい。

4.研究開発の進め方
1)関連する研究分野との協力
 核物理(核データの測定、消滅理論研究)、加速器工学の分野において協力を行ってきた。

2)国内機関との協力
 @加速器開発について、高エネルギー加速器研究機構との共同研究を行った。
 A光核反応断面積の測定について、電子技術総合研究所との共同研究を行った。

3)国際協力
 電子加速器を用いたガンマ線発生技術の開発等について、米国ブルックヘブン国立研究所との共同研究を行った。

5.研究対象としていなかったが、核種分離・消滅処理の趣旨に照らして重要と考えられる技術
 先進的核燃料サイクルにおける環境負荷低減の観点から重要なSn-126, Se-79, C-14等の消滅処理方法を検討する。これについては、FBRでの消滅と関連させて検討する必要がある。


参考文献

(1) 遠山伸一 他, "大電流電子線形加速器の開発", 動燃技報No.88, p.19, 1993.

(2) S. Deitrich et al, "Atlas of photoneutron cross sections obtained with monoenergitic photons", Atom. Data and Nucl. Table, 38, p.199, 1988.

(3) J. Chen et al. ; "Development of a compact high brightness X-ray source," Nucl. Instr. and Meth., A341, p.346, 1994.

(4) A.M. Sandorfi et al、"High Energy gamma ray beams from Compton backscattered Laser light,' IEEE Trans. Nucl. Sci.,voNS=-30, p.3083, 1983.

(5) R.B. Neal et al., "The Stanford Two-mile Accelerator," W.A.Benjamin. Inc., 1968.

(6) Y. Wang et al., "Design of a CW High Beam Power Electron Linac", J. Nucl. Sci. Technol. 30, p.1261, 1993.

(7) S. Toyama et al; "High Power CW Linac in PNC,' Proc. of 1993 Particle Accelerator Conference, p.546, 1993.

(8) K. Hirano et al; "Development of a High Power 1.2MW CW L-band Klystron,'Proc. of 1995 Particle Accelerator Conference, p.1539, 1996.

(9) H. Harada et al., "High Energy Resolution Measurement Method of Photonuclear Reaction Cross Section", J. Nucl. Sci. Technol., 32, p.1189, 1995.

(10) H. Harada et al., "High Resolution Measurement of Fine Structure in the Photoabsorption Cross Section for 18O", Phys. Rev. Lett., 80, p.33, 1998.

(11) H. Harada et al., "Super High Resolution Measurement of Fine Structure in the Total Photonuclear Cross Section of 13C", J. Nucl. Sci. Technol., 35, (1998) 733.

(12) 原田秀郎 他、「放射性廃棄物核種の中性子断面積の研究」、動燃技報 No.97, p.132, 1996. (13) H. Harada et al., "Measurement of Thermal Neutron Cross Section of 137Cs(n,γ)138Cs Reaction", J. Nucl. Sci. Technol., 27, p.577, 1990.

(14) T. Sekine et al., "Measurement of Thermal Neutron Cross Section and Resonance Integral of the 137Cs(n,γ)138Cs Reaction", J. Nucl. Sci. Technol., 30, p.1099, 1993.

(15) H. Harada et al., "Measurement of the Thermal Neutron Cross Section of the 90Sr(n,γ)91Sr Reaction", J. Nucl. Sci. Technol., 31 p.173, 1994.

(16) H. Harada et al., "Measurement of Thermal Neutron Cross Section and Resonance Integral of the Reaction 99Tc(n,γ)100Tc", J. Nucl. Sci. Technol., 32, p.395, 1995.

(17) S. Nakamura et al., "Measurement of Thermal Neutron Capture Cross Section and Resonance Integral of the 129I(n,γ)130I Reaction", J. Nucl. Sci. Technol., 33, p.283, 1996.

(18) T. Katoh et al., "Measurement of Thermal Neutron Cross Section and Resonance Integral of the Reaction 135Cs(n,γ)136Cs", J. Nucl. Sci. Technol., 34, p.431, 1997.

(19) T. Katoh et al., "Measurement of Thermal Neutron Cross Section and Resonance Integral of the Reaction 127I(n,γ)128I", J. Nucl. Sci. Technol., 36, p.223, 1999.

(20) T. Katoh et al., "Measurement of Effective Neutron Cross Section of 134Cs by Triple Neutron Capture Reaction Method", J. Nucl. Sci. Technol. 36, p.635, 1999.

(21) M. Fujita et al., "Application of enhanced Compton scattering in a supercavity", Nucl. Instr. and Meth., A375, p.14, 1996.

(22) T. Ferbel, "Experimental Technique in High Energy Physics", p.53, Addison-Wesley Publishing Co. Inc., 1987.