参考(専)25-1

日本原子力研究所における
核種分離・消滅処理技術の研究開発

 

 

 

 

平成11年 9月 17日


1.研究開発の現状
1) 目的
 階層核燃料サイクル概念[1-3](添付図1)に基づき、高レベル廃液から長寿命核種を分離し、中性子核反応を用いて長寿命核種を消滅処理し、長期的毒性を低減して、高レベル廃棄物の地層処分の負担を軽減することを目的とする。このため消滅処理対象核種として、MA(Np, Am, Cm)及びTc-99並びに再処理で分離されたI-129を半減期、放射性毒性、地層処分の負担軽減、工学的実現性等を考慮して選定した。
 階層核燃料サイクルは、群分離・消滅処理(P-T)サイクルと商用発電炉燃料サイクルを分離し、それぞれを目的に応じて最適化できるシステム概念である。P-Tサイクルにおける消滅処理システムとしては、硬い中性子スペクトルを有する加速器駆動炉(ADS)及び専焼高速炉(ABR)を採用し、上記対象核種の効率よい消滅処理を目指す。
 群分離では、上記の長寿命であるMA及びTcに加えて、Sr-Cs及び白金族元素(Ru, Rh, Pd)をも分離対象元素とし、高レベル廃棄物の減容化及び資源として貴重な元素の有効利用を図る。

 2)処理対象
 群分離の処理対象は、商用発電炉燃料サイクルより発生する濃縮高レベル廃液とした。消滅処理の対象は、群分離プロセスで分離されるMA(Np, Am, Cm)、Tc-99及び再処理で分離されるI-129とした。

 3)処理プロセス・システムの概要
 群分離では、高レベル廃液中の元素をTRU群(MA及び再処理回収漏れPu)、Tc-白金族元素群、Sr-Cs群及びその他の元素群の4群に分離する湿式プロセス(4群群分離プロセス)を開発した[4]。4群群分離プロセスの全体フローを、使用済燃料1tonより発生する高レベル廃液を処理する際の取扱い液量(L:リットル)とともに添付図2に示す。4群群分離プロセスでは、TRU群の分離に原研が独自に開発したDIDPA(ジイソデシルリン酸)による抽出プロセスを適用した[5]。抽出プロセスのフローを、同様に取扱い液量とともに添付図3に示す[6]
 消滅処理では、MAの核分裂反応による消滅を目指した硬い中性子スペクトルを有する専用システムとして、加速器駆動炉(ADS)[7,8]及び専焼高速炉(ABR)[9]を候補とした。ADSのシステム概念を添付図4に示す。Tc-99及びI-129については、これらのシステムの反射体領域に減速材と共に装荷して中性子捕獲反応により安定核種に変換する[10]。  燃料はMAを主とする窒化物燃料とする。窒化物は熱伝導度、融点が高く、アクチノイドの相互溶解度が良い[11,12]。また、高温化学処理の採用により、MAの集中的取り扱いが可能となる[13]。窒化物ではN-14からのC-14の生成を抑えるために高濃縮N-15を使う必要があるが、高温化学処理適用によりN-15の回収再利用が容易となる。
 冷却材としては、核破砕ターゲットとして利用できること及び冷却材ボイド反応度係数が良好であることから鉛-ビスマス又は鉛を第1候補とし、ナトリウムをバックアップとした。
 消滅処理システムのフロー概念を添付図5に示す。

 4)特徴
  a) 階層核燃料サイクルの特徴
 階層核燃料サイクル概念においては群分離・消滅処理サイクルと商用発電炉燃料サイクルは相互独立に進化可能な概念である。群分離・消滅処理サイクルでは処分概念の単純化及び処分技術の最適化を追求でき、商用発電炉燃料サイクルでは経済性・安全性の向上及びPu利用技術の合理化を追求できる。群分離・消滅処理サイクルでは物流量が商用発電炉燃料サイクルの1/50程度と少なく[14]、さらに、高温化学処理の採用によりコンパクトな燃料サイクルにできる。

  b) 群分離プロセスの特徴
 開発した4群群分離プロセスは、現状の再処理プロセス(PUREXプロセス)から発生する濃縮高レベル廃液を処理することができ、再処理プロセス自体を変更する必要がない。また、濃縮高レベル廃液を対象とすることで、取扱い液量の低減、プロセス規模の縮小を図っている。
 TRU分離のためのDIDPA抽出法では、アクチノイドの極めて高い回収率での分離が可能である[2]。しかし、高レベル廃液の硝酸濃度を0.5M程度に下げるための前処理工程が必要である。この際沈殿が生成し、TRU、特にPuが共沈するため(沈殿率 Pu 30-90%, Am 0.03-0.06%)[15]、沈殿からのTRU回収が必要となる。しかし、濃縮高レベル廃液にはもとより沈殿が存在し[16]、濃縮高レベル廃液を対象とする上では沈殿処理は避け得ないことであると考えられる。Am, Cmとランタノイドとの相互分離に適用したDTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)による選択的逆抽出法では、1回の分離操作で純度約75wt%のAm、Cm製品を得ることができる[6]。Tc-白金族元素の分離のための脱硝沈殿法[17]には、ガス以外の二次廃棄物の発生が全くなく、また、Tcと白金族元素とを容易に分離できるという利点がある。Sr-Cs群の無機イオン交換体による吸着分離法においても二次廃棄物発生はほとんどない。Sr, Csを吸着した無機イオン交換体は、そのまま高温で処理することで、耐熱性や難溶性の優れた固化体に変換できる[18]

  c) 炉型の特徴
 高速中性子によるMAの核分裂を利用するため高い消滅率が得られる。現行軽水炉の1/4熱出力規模の消滅処理専用システム1基で年間当たり軽水炉10基分からのMAを消滅できる[7-9]。ADSは未臨界体系のため設計の自由度が高く、多様な組成のMA燃料への適応性が良い。

  d) 燃料の特徴
 窒化物燃料は金属なみの熱伝導度と酸化物なみの高融点を有することから、酸化物燃料や金属燃料よりも高い出力密度(燃焼速度)を実現できる。しかも、高出力密度下でも燃料温度が融点よりも十分に低く、スウェリングやFPガス放出の低い、いわゆる「コールド・フューエル」概念が採用できる。その結果、安全性を犠牲にすることなく被覆管肉厚を抑制でき、重金属密度が高いこととあわせて、MA消滅に適した硬いスペクトルを持った炉心を構成するのに役立つ。アクチノイド窒化物はいずれもほぼ同じ大きさの岩塩型結晶構造を有し、相互溶解度が良いため、商用発電炉燃料サイクルの高燃焼度化やPu利用等によるアクチノイド組成の大きな変化を許容することができる。さらに、金属と似た電気特性を有することなどから、金属燃料と類似の溶融塩電解精製法を中心とした高温化学処理法が適用できる[12,19,20]

 5) システムの技術的限界
 群分離・消滅処理サイクル全体としては、添付図5に示したように炉心に装荷したMAのうち80%は消滅せずに燃料処理される。このため、MA燃料処理におけるプロセス漏れ率(現在は0.1%を仮定)を現在の技術水準以上に低く抑えなければならない。
 ABRによるシステムは実効遅発中性子割合が小さいため、冷却材ボイド反応度、ドップラー応度等に関する制約が多い。

 6)目標及び設定根拠
 目標は、消滅処理サイクル内のMAの処理率を99.5%とし、現行軽水炉の1/4熱出力規模の消滅処理専用システム1基で年間当たり軽水炉10基分(250kg)以上のMAを消滅処理することである。
 目標設定は工学的実現可能性を考慮したものであり、この値が達成されると使用済み燃料の毒性指数が燃料製造に用いたのと同量の天然ウランの毒性と同等になるのに要する時間を再処理後数百年とすることができる(添付図6)
 上記の「MAの処理率99.5%」を達成するには消滅処理サイクルから体系外への漏れを0.5%(250kgラ0.5%=1.25kg)以下にする必要がある。添付図5に示したように消滅処理サイクルにおいてはMA燃料処理量は1.25t/年、群分離処理量は0.25t/年である。そこでMA燃料処理における回収率は99.9%(漏れ率:0.1%、漏れ量:1250kgラ0.1%=1.25kg)を目標とする。群分離における回収率は99.95%を目標値とし、実験室レベルでは目標達成の見通しを得ている。しかし、工業規模で実証されたわけではないので、添付図5では回収率99.9%即ち漏れ率0.1%(漏れ量:250kgラ0.1%=0.25kg)としている。
 添付図7に軽水炉導入シナリオと消滅処理システムの導入効果を示す。2050年以降は軽水炉(1.4GWe/基)が約100基で飽和する仮定すると、消滅処理炉を11基導入すればMAの蓄積を抑制することができる。

 7)これまでの成果
 商用発電炉燃料サイクルと群分離・消滅処理サイクルを分離した新しい燃料サイクル概念(階層核燃料サイクル概念、添付図1)を得た[1-3]。以下、各項目毎に成果の概要をまとめる。

  a) 群分離プロセスの開発
 模擬高レベル廃液等による基礎試験の結果に基づき4群群分離プロセスを構築した。そして、燃料サイクル安全工学研究施設(NUCEF)内に設置した、実プラントのおよそ1000分の1の規模の群分離試験装置[21]により、模擬廃液や実廃液を用いた4群群分離プロセス主工程総合試験を実施した[22]。その結果、前処理工程に関しては、すべての試験において、硝酸濃度は安全、確実に調整され、DIDPA抽出工程への供給液を調整することができた。また生じた沈殿はろ過の容易なものであった。DIDPA抽出工程におけるAm, Pu, Npについての試験結果を添付表1に示す[22]。NUCEFでの抽出工程の試験条件は、設置スペース及び装置上の制約から、抽出段数が必要とされるものより少ない等、最適化されたものではない。このため、得られた回収率に関する値は目標を満足するものではないが、これまでの様々な試験結果から最適化された抽出条件では目標が達成できると十分判断できる。特にNpに関しては、模擬高レベル廃液にNpを添加した溶液による同規模の連続抽出試験で抽出率99.95%以上の実測値を得ている[5]。Tc及び白金族元素分離のための脱硝沈殿工程の試験では、各元素の沈殿率としてTc 96.2%、Ru 91.8%、Rh 90.0%、Pd 87.5%が得られた[22]
 また、4群群分離プロセスにおける固化体発生量について評価し、群分離後の固化体総量は、群分離せずに高レベル廃液の全量をガラス固化体とした場合に比べて、約3分の1の体積とすることができることを示した(添付表2)[6,23]。4群群分離プロセスから発生する二次廃棄物の性状及び発生量の評価結果を添付表3に示す[23,24]

  b) 消滅処理システムの開発
 ABR及びADSの炉概念検討、消滅処理サイクルの検討を実施して、MA消滅性能に対しては前述の目標値を達成できるシステム概念を得た。(添付表4、5) ABRに関しては、MAに濃縮ウランを加えた窒化物燃料を鉛で冷却するL-ABRと、同様の窒化物燃料を被覆粒子としてヘリウムガスで冷却するP-ABRの2つのシステム概念を考案した[9]。P-ABRの集合体は高出力密度を達成するために粒子層内にヘリウムを直接流して冷却する設計(添付図8)である。この集合体の流動実験を実施し、圧力損失及び軸方向流量配分のデータを取得して流量配分解析コードの開発及び検証を行った[25]
 ADSに関しては、当初、核破砕反応のみで消滅するシステムを検討したが、数100mAの非常に大きなビーム電流が必要であり、エネルギー収支が負になることがわかった。そこで核破砕ターゲットをMA未臨界炉心で取り囲むハイブリッド型でビーム電流数10mA程度で加速器電力を自給できるシステムを検討対象とした。MA窒化物燃料の未臨界体系に陽子ビームを垂直に入射するシステムについて検討を進め、ターゲットに固体タングステンを用いるナトリウム冷却型のシステムとターゲットと冷却材の双方に鉛-ビスマス(Pb-Bi)を用いるシステム(添付図9)を考案した[7,8]
 ABR及びADSの設計に資するために、種々の基礎・基盤研究を実施した。アクチノイド核データの分野ではJENDL-3.2において54核種の核データ評価を行い、さらに、35核種を追加した「JENDLアクチニドファイル」の整備を進めた[26]。アクチノイド核データの測定を米国ORNLとの研究サービス協定及びISTCプロジェクトのもとに実施し、MA核種の即発中性子収率、遅発中性子割合、核分裂断面積等の測定データを取得した[27]。アクチノイド核データに対する積分実験をFCAで実施し断面積の修正[28]を行ったほか、英国PFRで照射したアクチノイド試料を分析し、核データ及び燃焼計算の検証を行った。
 高エネルギー核データの分野では、122核種の中性子及び陽子入射反応について「JENDL高エネルギーファイル」の整備を進めた[29]。高エネルギー陽子ビームによる核破砕反応の実験を高エネルギー物理学研究所及び原研高崎研において実施し、鉛体系における核破砕反応及び中性子輸送に関するデータ、炭素や鉛の中性子生成2重微分断面積、炭素や金からの放出中性子スペクトル等を取得した[30-32]
 ADSの設計に必要なコードシステムの開発では、高エネルギー核反応・核子中間子輸送コードNMTC/JAERI、核内カスケード・中性子輸送結合コードATRAS等を作成し、前記の核破砕実験の解析などによる検証を行った[33,34]

  c) 燃料及び燃料サイクル技術の開発
 MAを主成分とする燃料として合金燃料と窒化物燃料との2つを主要な候補として選定した。当初、MA合金を高密度燃料として選定し、状態図測定、関連物性データの調査を進めた。その結果、MAを主成分とする合金では、低融点のNpリッチ相と高融点だがAm蒸気圧の著しく高いAmリッチ相への分離が生じ、燃料の成立性とリサイクルシステム設計上との2つの点で困難が生じることが分かった[35,36]。このため、MA窒化物をADS及びABRの燃料の第1候補とし、MA合金をバックアップとして位置づけた。研究開発は、①燃料物性データベース、②燃料製造技術、③燃料処理技術の3分野からなる。窒化物燃料/高温化学処理概念を中心に置き、関連基礎データベースの拡充、要素技術の開発を行ってきた。
 ①燃料物性データベースでは、MA合金系の状態図測定を実施した。また、混合窒化物の熱物性データを取得した[37]。②燃料製造技術では、炭素熱還元法によるNpN(数g規模)、PuN(数10g規模)、AmN(10mg規模)、CmN(10mg規模)の調製を行った[38]。窒化物の照射挙動に関しては、(U,Pu)N燃料を試作し、約5.5%燃焼度までの燃料健全性を確認した[39]。さらに、ゾルゲル法によるUN微小球製造に成功した[40]。 ③燃料処理技術に関しては、UN、NpN、PuNの溶融塩電解試験(1g規模)を行い、窒化物では世界で初めて溶融塩電解法によるTRU金属の回収に成功した[41,42]。また、ウラン及びランタノイドのCd中窒化実験により、窒化物の生成条件を調べた[43]。さらに、各種窒化物の溶融塩中への溶解時の窒素放出挙動を調べ、MA窒化物の代替物質としてのDyNの溶解試験では、N2としてほぼ100%に達する放出率を確認し、窒化物燃料/高温化学処理によるN-15の高効率の回収可能性を示した[44]。(添付図10、11)
 MA燃料の研究開発に加え、Tc合金系の熱物性研究を実施している。Tcとその核変換生成物Ruとの合金を調製し、熱拡散率等の物性データを取得した[45]

  d) 大強度陽子加速器の開発
 ADS用大強度陽子加速器の概念図を添付図12に示す。加速器の開発では、良質のビーム発生に重要なインジェクター部(高輝度イオン源、RFQ、DTL)の試作を行い、性能試験においてピーク電流70mA、デューティ10%の世界一級の大電流ビームを達成した[46]。DTLホットモデルの高負荷試験では、デューティ20%の負荷試験に成功した[46]。また、経済性・安定性に優れた超伝導リニアックの開発では超伝導空洞の試作・性能試験によりヘリウム温度2Kで世界最高の加速電界44MV/mを達成した[47]。加速器の概念設計では、電磁場・構造強度設計、ビーム軌道計算を行うための計算コードの整備、設計手法の確立、シミュレーション計算を実施し、加速器システムの最適化を進めた[48]

2.現状の分析
 1) オメガ計画における位置付けとそれに対する進捗状況
群分離技術の研究開発では、オメガ計画に則り、4群群分離プロセスの開発を進め、目標とする元素回収率がほぼ達成できることを確認した。群分離プロセスの実用化を図るための要素技術試験では、高レベル廃液の脱硝、沈殿物のろ過などについて一定の成果を得ているが現在も継続中である。分離元素・核種の有効利用技術の研究開発では、有効利用に関する調査研究、TRUやTcの精製に関する予備的な検討を行った。有効利用・加工システムに関する研究については、将来の課題として検討を継続する。
 専焼高速炉(ABR)及び加速器駆動炉(ADS)の設計・開発はオメガ計画に沿って進めてきた。ADSの初期は核破砕による直接消滅も検討したが、その後は主としてエネルギーバランスの観点からMAを核分裂で燃焼できる未臨界炉とのハイブリッドシステムの検討を進めた。ABRは遅発中性子割合やドップラー係数が小さい等の問題があり、設計の自由度が大きく、多様な組成のMA燃料への適用性が良いADSを専焼システムの第1候補とした。
 燃料の開発では、(U、Pu、Np)N混合窒化物の熱物性(熱伝導率、蒸発挙動)データの取得、NpとAmの相互溶解度、化学的安定性等を調べて、窒化物燃料を第1候補とした。
核データ、物性データ等のデータベースの取得・評価・整備並びに計算コードの開発を実施し、ABR及びADSの炉心及びプラント概念の構築を進めた。
 以下の項目についてはオメガ計画に記載されているが実施できていない。
 2) 技術的到達度
 群分離・消滅処理サイクルの実現に向けて、現段階の技術的到達度を項目毎に以下にまとめる。また、開発のロードマップを添付図13に、研究開発の全体計画及び達成状況を添付表6に示す。

  a) 群分離プロセスの開発
 群分離研究では、4群群分離プロセスに関して、実プラントのおよそ1000分の1の規模での試験による、主工程のプロセス成立性実証の段階にある。分離後の各群の精製及び処理の工程等に関しては予備的な検討を行った段階であるので、今後、これを更に具体的に進め、群分離のシステムとしての成立性を実証していく必要がある。

  b) 消滅処理システムの開発
 消滅処理研究では、核分裂反応による効率的なMA消滅処理が可能な硬い中性子スペクトルを達成するABR及びADSの炉心概念を得た。一基のADSまたはABRにより軽水炉10基以上からのMAを消滅処理することができることを示した。今後はこれら炉心概念の最適化を進めながら必要なシステム技術の開発、実証を進めていく段階である。

  c) 燃料及び燃料サイクル技術の開発
 燃料製造技術では、すでに原研で(U,Pu)N燃料ピンの試作・照射試験を行った実績があり、MA取扱のための遮蔽設備さえあれば、試験燃料ピン製作に対応可能なだけの技術水準を有している。ただし、AmN上のAm蒸気圧が他の窒化物より高いため、焼結法の改良を課題として残している。また、窒化物燃料は(U,Pu)Nについての海外での経験を含め、10%燃焼度までのデータベースしか存在しないため、15%程度までの高燃焼度試験を必要としている。
 燃料処理技術の中心となる溶融塩電解プロセスについては、グローブボックス施設内にNp10g/バッチ規模の試験設備を整えた。専焼システム(ABR,ADS)の場合、実プラントでも10kgMA/日程度の燃料処理量で良いことから、希土類窒化物模擬物質を用いた工学規模試験との組み合わせにより、実規模プラント設計のための基礎を形成することは十分可能である。付随的な廃塩処理プロセスも合わせ、工学装置の基本構成としては金属燃料/高速炉技術開発とほとんど同一で良く、研究開発成果を共有出来る。回収MA金属の再窒化については、原研NUCEFに13年度設置予定のAm,Cm高温化学研究設備を用いて基礎試験を実施する。

  d) 大強度陽子加速器の開発
 大強度陽子加速器の開発では、入射系主要コンポーネント及び超伝導空胴の試作、試験を行ない、大電流化及び超伝導加速技術の見通しを得た。現在、世界最強の中性子散乱研究用の核破砕中性子源開発の一環として、出力1MW (後に7MWに増力の予定) のパルスビームを発生する加速器の開発を行っている。ADSの実用化には、数10MW規模のビーム出力に向けて、さらなる大電流化、ビームロス低減化とともにCW(デューティ 100%)化、信頼性向上を図る必要がある。

3.今後の見通し及び課題
 1) 実用化の見通し及びそのために解決すべき課題
 群分離研究では、主工程のプロセス成立性実証の段階にあると考えるが、プロセスの更なる効率化を図ると共に、より経済的なプロセスに改善していくことが重要である。実用化に向けては、プラントとしての成立性確認を目指し、群分離後の各群の精製及び処理に関する技術開発、抽出溶媒・試薬の再使用技術開発試験等を進める必要がある。
 消滅処理研究では、ADSを軸とした消滅処理サイクルの実用化に向けて、安全性の実証(ビーム窓等の材料開発を含む)、信頼性の高い大電流加速器の開発、MA窒化物燃料の照射データ蓄積、MAからの放射線及び発熱を考慮した窒化物燃料製造・取り扱い技術の開発、N-15の経済的濃縮法の開発、経済性の評価等を進める必要がある。Tc-99については、現在の群分離プロセスでは回収できていない不溶解残渣のTc (Tc全量の5~15%)を回収する方法を検討する必要がある。I-129については、再処理プラントからの99.9%以上の回収が原理的に可能であるが、回収プロセスの実証と安定な形態のターゲットへ転換する技術の開発が必要である。

 2) 当面重点を置くべき研究開発課題
 群分離研究では、NUCEFにおける試験を濃縮高レベル廃液を用いて実施し、4群群分離プロセス主工程成立性実証の最終確認を行う。また、プロセス合理化、簡素化の観点からの研究を推進し、この点では、より効率的で廃液処理の容易なAm, Cm-希土類元素相互分離法の開発に重点を置く。さらに、群分離後の各群の精製及び処理に関する技術開発を進める。
 消滅処理研究では、未臨界炉を加速器で駆動するシステムに固有な技術開発として、炉心核特性の予測精度向上及びMA-LLFP消滅特性の最適化、加速器駆動未臨界炉心のシステム制御、ビーム窓の開発及び構造・材料設計、ターゲット及びPb-Biでの核破砕生成物の評価、核データの測定及び積分実験によるデータ及びコードシステムの精度検証に関する研究・開発を進めていく。また、Tc-99及びI-129の消滅率は現在のADS及びABRの設計では4%/y程度であり効果的に消滅できていない。これを高めるための専用システムの概念を検討する。
燃料研究では、MA窒化物燃料サンプルの試作及び照射、電解精製試験、回収MAの再窒化試験、データベースの拡充を進める。

 3) 経済性についての見通し
 正確なコスト評価は困難であるが、0次オーダーの経済性試算を実施した。添付表6にその結果を示す。現在の見通しでは、階層核燃料サイクルによる群分離・消滅処理導入による発電コストの上昇はおよそ5%程度となると考えられる。経済性試算で用いた仮定は以下の通りである。但し、地層処分の負担軽減効果は考慮していない。
4.研究開発の進め方
 1) 関連する研究分野との協力
 大強度陽子加速器の開発は中性子科学研究計画の一環として進めている。
 窒化物燃料・燃料サイクル技術の開発では、先進的核燃料サイクル技術の開発と協力している。
 群分離・消滅処理と整合性のある地層処分の開発は地層処分研究と協力して進めている。

 2) 国内機関との協力
 3)国際協力
5.研究開発対象としていなかったが、群分離・消滅処理の趣旨に照らして重要と考えられる技術

引用文献

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[29] T. Fukahori (ed.); "Proceedings of the Third Specialists' Meeting on High Energy Nuclear Data, March 30-31, 1998, JAERI, Tokai, Japan", JAERI-Conf 98-016 (1998).

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[40] 白数、山岸; "内部ゲル化法によるUN微小球の調製", JAERI-Research 97-050 (1997).

[41] Y. Arai, et al.; "Experimental Research on Nitride Fuel Cycle in JAERI", to be presented at Global'99 , Jackson Hole, September, 1999, (1999).

[42] F. Kobayashi, T. Ogawa, et al.; "Anodic Dissolution of Uranium Mononitride in Lithium Chloride-Potassium Chloride Eutectic Melt", J. Am. Ceram. Soc., 78, 2279-2281 (1995).

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[44] F. Kobayashi, et al.; "Dissolution of Metal Nitrides in LiCl-KCl Eutectic Melt", to be presented at Global'99 , Jackson Hole, September, 1999, (1999).

[45] Y. Shirasu, K. Minato; "Characterization of Technetium-Ruthenium Alloys for Transmutation of Technetium Metal", to be presented at Global'99 , Jackson Hole, September, 1999, (1999).

[46] K. Hasegawa, et al.; "Development of a Proton Accelerator for the JAERI Neutron Science Project", 1999 Particle Accelerator Conference, New York City, March 29-April 2, 1999, (1999).

[47] N. Ouchi, et al.; "Development of Superconducting Cavities for High Intensity Proton Accelerator at JAERI", Proc. of 1998 Applied Superconductivity Conf., Palm Desert, CA, September 14-18, 1998, (1998).

[48] K. Hasegawa, et al.; "System Design of a Proton Linac for the Neutron Science Project at Japan Atomic Energy Research Institute", J. Nucl. Sci. Technol., 36(5), pp.451-458 (1999).

[49] 久保田、中村; "高レベル廃液群分離技術の研究開発の成果と将来計画"、JAERI-M 85-066 (1985).


 

 

添付資料一覧

 

添付表 1  NUCEFでの群分離試験 DIDPA抽出工程の結果とその評価
添付表 2  群分離後の固化体の発生量評価とその後の処理
添付表 3  群分離後の二次廃棄物の性状及び発生量
添付表 4  専焼炉設計諸元
添付表 5  加速器駆動窒化物燃料消滅処理システムの性能
添付表 6  研究開発の全体計画及び達成状況
添付表 7  階層核燃料サイクルの経済的見通し

 

添付1  群分離・消滅処理を組み込んだ核燃料サイクル
添付2  4群群分離プロセスのフローシート
添付3  DIDPA抽出プロセスのフロー
添付4  加速器駆動未臨界システム(ADS)の概念
添付5  消滅処理システムのフロー概念
添付6  消滅処理による高レベル廃棄物の毒性の減少
添付7  軽水炉導入シナリオと消滅処理システムの導入効果
添付8  P-ABRの被覆粒子燃料と粒子層燃料集合体
添付9  鉛・ビスマス冷却加速器駆動システムの概念
添付10  高温化学処理によるMA金属及び窒素ガスの回収
添付11  窒化物/高温化学処理法に基づく消滅処理燃料サイクル概念
添付12  群分離・消滅処理サイクル実現へのロードマップ
添付13  ADS用大強度加速器システムの構成と開発の現状