資料(専)24−2

海外における超ウラン核種を含む放射性廃棄物の
地層処分概念について

平成11年7月21日
共同作業チーム

1.はじめに
 再処理施設及びMOX燃料加工施設の運転・解体に伴い発生する「超ウラン核種を含む放射性廃棄物」の処分方策については、国際的に共通な考え方とも合致していることがその処分概念の技術的な成立性の裏付けの一つとなることはもとより、国民の理解を得る上でも重要な要件の一つと考えられる。
 このため、海外において我が国より先行して検討がなされている超ウラン核種を含む放射性廃棄物処分の基本的考え方(処分方法の選択)、処分概念について調査を行い、その結果を同処分概念検討の一助としてきた。そこで、海外における超ウラン核種を含む放射性廃棄物のうち、「地層処分」が考えられているものについての処分概念の概要を以下に述べる。

 

2.処分の基本的考え方(処分方法の選択)
 海外における超ウラン核種を含む放射性廃棄物処分の基本的考え方(処分方法の選択)についてのまとめを表1(p.11)に示す。なお、ここではIAEAの安全指針における定義に従い、地層処分とは「人工バリア及び地下数百m程度の安定な地層の天然バリアにより、廃棄物を隔離すること」とし、また浅地中処分とは「人工バリアが有り、または無しで地表の上または地下において数m程度の最終的な覆いをかけて処分すること。又は、地下数十m程度の空洞に処分すること」とした。
 米国(軍事施設から発生する廃棄物のみ)、英国、フランスにおいては、超ウラン核種を含む放射性廃棄物を浅地中処分した場合の公衆に対する被ばく評価の結果から、廃棄物に含まれる被ばく評価上重要な放射性核種の濃度が設定され、これらの濃度以下のものについては地表近傍おける浅地中処分が行われており、またこれらの濃度を超えるため浅地中処分ができないものについては地層処分が考えられている。
 一方、スイスにおいては放射性核種濃度によらず全ての放射性廃棄物について地層処分が考えられており、全ての放射性廃棄物処分の長期的安全性は、多重のパッシブなバリアにより確保されなければならないとされている。
 また、ドイツにおいても全ての放射性廃棄物について地層処分が考えられているが、この背景は、人口密度が高いこと、種々の気候条件を考慮したこと及び適切な地層が存在していることであるとされている。
 なお、ベルギーにおいては短寿命の低レベル廃棄物は浅地中処分または地層処分が考えられ、長寿命の低・中レベル廃棄物は地層処分が考えられている。

3.地層処分施設概念の概要
 超ウラン核種を含む放射性廃棄物のうち、地層処分を考えるものについての処分施設概念の検討にあたり、海外における同廃棄物のうち、地層処分の対象とされる廃棄物についての処分施設概念についても参考とした。
 以下では、海外における同処分施設概念について、a.処分の対象とされる廃棄物、b.処分場(候補地)、地層、地形、c.処分深度、d.処分空洞の形態、e.人工バリア及び付属構造物の各項目について述べる(表2(p.12)、添付(p.13〜19)参照)。

(1)米国(p.13参照)
 米国においては、商業用発電所から発生する使用済燃料については、再処理は行わず直接処分を行うこととされているが、軍事施設からは超ウラン核種を含む放射性廃棄物が発生している。
この軍事施設から発生する同廃棄物のうち、それに含まれる放射性核種濃度が比較的高いため、浅地中処分できないもの(TRU廃棄物)については、ニューメキシコ州南東部のカールスバッド近郊にある廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)にて地層処分することとしており、本年3月に廃棄物の搬入が開始された。
a.対象廃棄物:軍事施設から発生するTRU廃棄物。
b.処分場、地層及び地形
c.処分深度:地下約650m(岩塩層のほぼ中間点に位置する)
d.処分空洞の形態:CH-TRU廃棄物(Contact-HandledTRUWaste、≦2mSv/h)の処分は坑道型(10mW×4mH)、RH-TRU廃棄物(Remote-HandledTRUWaste、≧2mSv/h)の処分は処分孔型(0.8mφ)である。
e.人工バリア/付属構造物:CH-TRU廃棄物には緩衝材として、酸化マグネシウム(MgO)が使用されている。なお、岩塩はじわじわと処分空洞を埋める性質(クリープ)があるので、充填材は用いられない。
(参考)緩衝材にMgOが用いられている理由
 微生物による有機物の分解で発生する炭酸ガスを炭酸マグネシウムとして固定し、間隙圧力の上昇を抑制する。また、WIPPの処分坑道は岩塩層中に設置されており、地下水が侵入する可能性は極めて低いが、万一処分坑道に地下水が侵入した場合には、MgOは地下水のpHを弱アルカリ側に保持し、TRU核種の溶解度を低く維持する。

(2)英国(p.14参照)
 英国においては、浅地中処分場に処分できない超ウラン核種を含む放射性廃棄物(長寿命の低・中レベル廃棄物)の処分場としては地層処分場が考えられている。
 この地層処分場候補地の調査の一環として、セラフィールドに岩石特性調査施設(RCF)建設の計画があったが、地元自治体から拒否され、更に環境庁がこれに対する異議申し立てを却下したため、この地におけるRCF建設計画は撤回されている。
 英国では、1999年3月に上院科学技術特別委員会から放射性廃棄物処分の政策全体をみる新しい政府組織「核廃棄物委員会(NWMC)」と新たな放射性廃棄物処分会社を設立すべきとの勧告が出された。
a.対象廃棄物:再処理施設から発生する長寿命の低・中レベル廃棄物
b.候補地、地層及び地形
c.処分深度:平均海面下650m(処分空洞の寸法、安定性と廃棄体温度から最大深度が設定される)。
d.処分空洞の形態:坑道型(14.4mW×16.5mH,16.0mW×16.0mH他)。
e.人工バリア/付属構造物:廃棄物固化材はセメント系材料、またドラム缶等の廃棄体を収納したコンテナ内にもセメント系材料を注入することが考えられている。充填材としては、ポーラスコンクリート(透過性の高いコンクリート)が考えられている。また、構造躯体には、コンクリートが考えられている。

(3)フランス(p.15参照)
 フランスでは、浅地中処分できない超ウラン核種を含む放射性廃棄物(長寿命の低レベル廃棄物と中レベル廃棄物(カテゴリB))については、地層処分が考えられている。
地層処分のための地下研究所建設地としては、1998年12月にムーズ県とオートマルヌ県の県境(東部地域)の粘土層が決定された。また、花崗岩層における地下研究施設建設候補地も調査中である。
a.対象廃棄物:再処理施設、MOX燃料加工施設から発生する長寿命の低・中レベル廃棄物。
b.候補地、地層及び地形:
c.処分深度:地下400〜600m(処分場は、地層による隔離機能が,侵食、地震、通常の人間侵入により著しく影響を受けない場所を選択しなければならないこととされており、このために必要な最低深度は150〜200mのオーダと推定されている)。
d.処分空洞の形態:坑道型(4mφ)
e.人工バリア/付属構造物:廃棄物固化材としてはセメント系材料、又はアスファルトがある。また、充填材としてはセメント系材料が、構造躯体にはコンクリートが考えられている。

(4)スイス(p.16,17参照)
 スイスにおいては、全ての放射性廃棄物について地層処分が考えられているが、短寿命の低・中レベル廃棄物用とTRU廃棄物用として3ヶ所の処分場が考えられている。
 《短寿命の低・中レベル処分場》
 スイスにおいては、短寿命の低・中レベル廃棄物(国外からの再処理返還廃棄物も含む)用の地層処分場としては、ベーレンベルグ処分場が計画されているが、調査用立坑の建設は、連邦議会の承認を得たものの、州政府が拒否しているため中断されている。しかしながら、同建設計画は継続検討されている。
a.対象廃棄物:機器廃品 他(再処理返還廃棄物)
b.候補地、地層及び地形
c.処分深度:山岳地表下600〜1000m。
d.処分空洞の形態:坑道型(11mW×16mH)。
e.人工バリア/付属構造物:廃棄物固化材及び充填材にはセメント系材料が考えられている。廃棄体を収納したコンテナ内にもセメント系材料を注入することが考えられている。

《TRU廃棄物処分場》
 スイスにおいては、国外からの再処理返還廃棄物のうち、長寿命の中レベル廃棄物であるTRU廃棄物の処分についても地層処分が考えられている。処分場の候補地としては、アールガオ州北部の結晶質岩層とスイス高原北部チュルヒャー・ワインラントの堆積岩(オパリナス・クレイ)層が考えられている。
a.対象廃棄物:TRU廃棄物(再処理返還廃棄物)。
b.候補地、地層及び地形
c.処分深度:結晶質岩層では800〜1200m、堆積岩層では600〜800mが考えられている。
d.処分空洞の形態:結晶質岩層ではサイロ型、堆積岩層では坑道型が考えられている(寸法については検討中)。
e.人工バリア/付属構造物:廃棄物固化材はセメント系材料又はアスファルトが用いられる。充填材はセメント系材料が考えられている。構造躯体にはコンクリートが考えられている。また、緩衝材には、結晶質岩層の場合にはベントナイトが考えられている。

(5)ドイツ(p.18参照)
 ドイツにおいては、全ての放射性廃棄物について地層処分が考えられているが、発熱性廃棄物用と非発熱性廃棄物用として2カ所の処分場が考えられている。
《発熱性廃棄物用の処分場》
 ドイツにおいては、国外からの再処理返還廃棄物のうち発熱を伴うもの(ハル等圧縮体)については、ゴアレーベンにおける地層処分が考えられている。
ゴアレーベンでは、地下840mから1200mまでのサイト特定調査が行われ、更に詳細な調査が2003年まで進められる予定であるが、現状では原子力に反対する政党が政権を担っているため、難航している。
a.対象廃棄物:発熱を伴うもの(再処理返還廃棄物:ハル等圧縮体)
b.候補地、地層及び地形
 候補地:ゴアレーベン、地層:岩塩、地形:低地。
c.処分深度:約830m。
d.処分空洞の形態:坑道型(8mW×6mH)。
e.人工バリア/付属構造物:フランスからの返還廃棄物のうち、ハル・エンドピース等は圧縮処理のみとされている。充填材にはゴアレーベンの破砕岩塩が考えられている。

《非発熱性廃棄物用の処分場》
 ドイツにおいては、無視できる程度の発熱を伴うものについては、ドイツのほぼ中央に位置するザルツギター近郊の旧鉄鉱山であるコンラッド鉱山における地層処分が考えられている。コンラッド処分場については、1982年には建設の許認可申請が行われており、許認可手続きがうまく進めば、2001年にも操業が開始される予定とされているが、許認可手続きは難航している。
a.対象廃棄物:無視できる程度の発熱を伴うもの
      (再処理返還廃棄物:ビチューメン固化体 等)
b.候補地、地層及び地形
 候補地:コンラッド(旧鉄鉱山)、地層:泥岩、地形:低地。
c.処分深度:800〜1300m。
d.処分空洞の形態:坑道型(7mW×6mH)。
e.人工バリア/付属構造物:廃棄物固化材としてはセメント系材料又はアスファルトが用いられ、また充填材としてはセメント系材料(コンラッドの破砕岩を混合)が考えられている。

(6)ベルギー(p.19参照)
 ベルギーにおいては、国外からの再処理返還廃棄物のうち長寿命の低・中レベル廃棄物(カテゴリB)については、地層処分が考えられている。地層処分の候補地は現在までのところ決定されていないが、モル/デッセル地区のブーム粘土層が調査されている。
a.対象廃棄物:再処理返還廃棄物及びMOX加工施設から発生する放射性廃棄物のうち長寿命の低・中レベル廃棄物(カテゴリB)
b.候補地、地層及び地形
 候補地:現状ではなし、地層:ブーム粘土、地形:低地。
c.処分深度:230m。
d.処分空洞の形態:坑道型(3.5mφ)(処分に適切な地層の厚みが80mしかないためサイロ型は適さない)。
e.人工バリア/付属構造物:廃棄物固化材には、セメント系材料又はアスファルトが用いられている。充填材にはセメントが考えられている。また構造躯体には、コンクリート又は鋳鉄が考えられている。

4.地層処分の安全指標
 海外においては、地層処分の安全評価を行うにあたっては、線量やリスクが安全指標とされている(表2(p.12)参照)。
 なお、ここでリスクとは被ばくに伴って発生するかもしれない有害な影響の発生する確率のことをいい、被ばく線量の評価結果にICRP(国際際放射線防護委員会)の1Sv当たりの致死がんの発生確率(名目発生確率係数)を乗じて算出されるものである。
(1)線量を安全指標とする国
 米国、フランス及びドイツでは線量のみが安全指標とされている。これらの国々では、主にICRPの勧告に基づく公衆の線量限度(1mSv/年)の一部を放射性廃棄物の処分に割当てて、その線量上限値が設定されている。
 例えば、フランスが設定している線量上限値の0.25mSv/年は、再処理施設や原子力発電所等の4つの施設から同時に被ばくするとして、ICRP勧告に基づく公衆の線量限度の1/4ずつを配分し、0.25mSv/年を割当てたものとして設定されている。
 線量限度から放射性廃棄物処分の線量上限値の割当てを考える上では、線源の数、放射性物質の量等の想定に依存することとなるが、この線量上限値は0.1mSv/年(スイス)〜0.3mSv/年(ドイツ)の範囲とされている。
 なお、スイスでは一般的事象については線量が安全指標とされ、発生頻度が希な事象についてはリスクが安全指標とされている。

(参考)ICRPの公衆の線量限度

(2)リスクを安全指標とする国
 英国においては、リスクのみが安全指標とされていおり、スイスでは発生頻度の希な事象に対してリスクが指標とされている。これらの国々では、ICRPpubl.46において全ての放射性廃棄物を対象として示されている個人が自分の行動を決定する際に考慮にいれないリスクレベル(10−6/年のオーダ)より、10−6/年のリスクが安全指標として設定されている。
 なお、ベルギーにおいては安全指標についての規定はまだ定められていない。

(参考)リスクと線量の換算

(参考)評価の時間枠
以上