資料(専)23−3

核種分離・消滅処理に関する主な論点

平成11年6月2日

1.核種分離・消滅処理について
(1)原子力発電に伴う放射性物質の生成
 原子力発電は、ウランやプルトニウムを燃料として、核分裂の連鎖反応を持続的に起こさせ、発生する熱エネルギーを電気に変換して利用するものである。
 原子炉内で生じている主な核反応は、ウラン235やプルトニウム239が中性子によって核分裂を起こし、別の核種(核分裂生成物)が生成する反応と、ウランの中でも核分裂を起こしにくいウラン238等が中性子を取り込んで、プルトニウムやその他の超ウラン元素に変換する反応である(図1)。例えば、3%濃縮ウラン燃料1トンには、ウラン235が30kg、ウラン238が970kg含まれているが、これを燃焼した後(30000MWD/t)はウラン235が約10kg、ウラン238が約950kg、プルトニウム239が約10kg、核分裂によって生成した核種が約28kg(うちウラン235の核分裂により20kg、ウラン238から生じたプルトニウム239の核分裂により8kg)、ウラン238が超ウラン元素に変換されたものが約2kg含まれている(図2)。
 現在、我が国では、使用済燃料中のウランやプルトニウムは再処理することにより分離・回収し再利用するとともに、その他の核分裂生成物や超ウラン元素は高レベル放射性廃棄物として化学的に安定な形態に処理(ガラス固化)し深地層に処分することとしている。

(2)核種分離・消滅処理に期待される効果
 高レベル放射性廃棄物は、原子力発電所の運転などから発生する低レベル放射性廃棄物に比べ、放射能が強く発熱量が大きいが半減期の短い核分裂生成物と、放射能はそれほど強くないが半減期が長い核分裂生成物や超ウラン元素を多く含んでいる。後者の存在により、放射性核種濃度の減少に応じ段階的に管理を軽減し、数百年後に管理を終了する「管理型の処分」によっては安全を確保することは出来ない。このため、高レベル放射性廃棄物は、人間の生活環境から離れた深い安定な地層中に安全に埋設処分(地層処分)を行うことによって、生活環境に有意な影響が生じないようにすることとしている。
 核種分離・消滅処理は、高レベル放射性廃棄物に含まれる放射性物質を、その半減期や利用目的などによって分離するとともに、長半減期核種を短半減期核種または安定な核種に変換する技術である。どのような核種をどの程度分離・変換できるかにもよるが、核種分離・消滅処理技術を利用できれば、
  @安全上考慮しなければならない期間が短くなる可能性がある
  A処分施設設計を合理化できる可能性がある
  B処分場面積が少なくてすむ可能性がある
 というようなことが期待される。
(3)核種分離技術について
 前述の通り、高レベル放射性廃棄物には、放射能が強く発熱量が大きいが半減期が短い核分裂生成物と、放射能はそれほど強くないが半減期が長い核分裂生成物や超ウラン元素が含まれている。また、自然界では稀少なパラジウムやロジウムといった白金族元素などの物質も含まれている。核種分離技術は、それぞれの物質の特徴に応じて分離を行い、処分の合理化や資源の有効利用を図ることを目指して研究開発が行われてきた。
 その分離技術は、基本的には、使用済燃料からウランやプルトニウムを取り出す再処理技術であり、いくつかの異なる方法が検討されているが、現在我が国で再処理の方法として採用されている湿式再処理(溶媒として水と有機溶媒を用いる再処理方法)を高度化する方法と、乾式再処理(溶媒として溶融塩化物と液体金属を用いる再処理方法)に大別される。具体的な分離プロセスは、消滅処理システムとしての炉型や燃料形態を念頭におきつつ、対象核種の高い分離効率、プロセスの簡素化、二次廃棄物の発生量の低減、繰り返し使用に耐える耐久性などの観点から検討がなされており、ウランやプルトニウムとその他の超ウラン元素等を分けて回収する方法の他に、あらかじめウランやプルトニウムと一緒にその他の超ウラン元素を回収する方法も検討されている。

(4)消滅処理技術について
 消滅処理技術は、中性子やγ線などの放射線を放射性物質に当て、特に長半減期の放射性核種を短半減期核種または安定な核種に変換する技術である。これらの核変換を効率よく行うには、対象となる放射性核種の特徴に適した方法を用いる必要がある。
 原子力発電に伴って原子炉内で生成するネプツニウム、アメリシウム、キュリウムなどの超ウラン元素は、ウランやプルトニウムと同様に、中性子によって核分裂を起こしうる物質である。このため、超ウラン元素を他の元素に変換するには、原子炉を用いて核分裂反応を起こさせる(図1)ことが最も効果的であると考えられる。原子炉としては、軽水炉、高速炉及び加速器駆動未臨界高速炉(図3)が考えられるが、超ウラン元素については高いエネルギーを持つ高速中性子の方が効率よく核分裂反応を起こすという特徴がある。なお、原子炉を用いた消滅処理は、超ウラン元素を発電のための燃料として利用していると捉えることができる。
 核分裂生成物にもヨウ素129(ガラス固化体には含まれない)やテクネチウム99のように長半減期核種がある。これらの核種は、中性子を捕獲させ別の核種に変換する中性子捕獲反応(図4)を利用することが考えられる。核分裂生成物の中性子捕獲反応も原子炉を利用することが考えられるが、この反応は高速中性子ではなく、十分減速された熱中性子によって起こりやすいという特徴がある。このため、高速炉を用いてこのような物質を消滅させるには、消滅の対象とする物質に中性子が到達するまでに十分減速するような工夫が必要となる。また、γ(ガンマ)線を核分裂生成物に吸収させて他の物質に変換する光核反応(図4)も考えられる。これにより、たとえばセシウム137を安定な核種であるバリウム136に変換する事ができる。この反応を起こすため、加速器の利用が検討されている。

2.核種分離・消滅処理技術に関する主な論点
 核種分離・消滅処理技術の内容や期待される上記のような効果を踏まえれば、本技術の実用化や研究開発の進め方を検討するに当たって、以下の事項について十分検討する必要がある。

(1)技術的実現可能性
 現在までの研究によって得られた知見を踏まえ、工業技術としての実現可能性、実用化に至る過程での現在の技術的到達度、必要な技術開発課題、開発に必要な期間、開発費用等について検討する必要がある。

(2)資源としての有効利用
 高レベル放射性廃棄物に含まれるウラン、プルトニウム、ネプツニウム、アメリシウム、キュリウム等のアクチニドの分離消滅処理は、見方を変えれば未利用の資源を回収し、高速炉などの燃料として再利用することを目指していると考えられる。したがって、発電システムとしてアクチニドがどの程度回収可能であり、どのような原子炉で燃焼可能であるのか検討する必要がある。また、高レベル廃液中のストロンチウム、セシウム、テクネチウム等の核分裂生成物や不溶解残渣から分離回収した白金族元素の有効利用の形態と実現可能性について検討する必要がある。

(3)高レベル放射性廃棄物等のうち処分の観点から重要と考えられる長半減期核分裂生成物(LLFP:long-livedfissionproducts)及びマイナーアクチニド(MA:minoractinides)の減少量とそれに要する時間
 核種分離・消滅処理が導入された場合、原子力発電システム全体として、LLFPやMAがどのように減少するのか、あるいは増加が抑制されるのかを評価する前提を明確にすると共に、それに要する時間も含めて検討する必要がある。
 また、検討に当たっては、「高レベル放射性廃棄物」だけでなく、再処理施設で分離されるLLFPのヨウ素129(「超ウラン核種を含む放射性廃棄物」に区分される廃棄物「廃銀吸着材」に多く含まれる)も検討対象とする必要がある。

(4)廃棄物処分に対する効果
 放射性廃棄物の処分にあたっては、廃棄物に含まれる放射性物質によって人間の生活環境に有意な影響が生じないようにすることが必要である。このような基本的な考え方に基づき、今後、高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する安全確保のための指針、基準等が策定されることになるが、このような客観的な安全確保の枠組みの中で、核種分離・消滅処理技術が具体的にどのような効果を生むかについて考える必要がある。
 また、原子力施設から発生し処分される放射性物質の量や濃度が減少しても、安全評価の結果としての被ばく線量の低減に有意な効果が現れない場合、処分される放射性物質の量や濃度の減少の意義をどのように捉えるべきかについても考える必要がある。
(例)
  • 被ばく線量を有意に低減することが出来るか
  • 必要な基準をクリアするための要求事項(地質環境の安定性、地下水移行速度、人工バリアの性能等)を緩和できるか
  • 処分場の設計の合理化が可能か
  • 処分場面積を減らすことが出来るか
  • LLFPには天然バリアへの吸着が小さいものがあるが、その消滅処理に関する検討は十分か
  • MAは天然バリアへの吸着が大きいことが知られており、それを中心に消滅処理する意義は何か

(5)二次廃棄物の発生
 特に核種分離を行う過程で、放射性物質の濃度は低いものの、分離プロセスに特有の二次的な放射性廃棄物が発生する。このような二次的に発生する放射性廃棄物も含めた廃棄物全体の環境負荷についても検討を行う必要がある。その際、二次廃棄物の発生量と共に、適切な廃棄物の区分と物理的・化学的な特性が処分方策に与える影響の有無についても検討する必要がある。

(6)短期的な放射線被ばく線量の増加
 MA等の分離・消滅処理に伴う、作業従事者が受ける放射線被ばく線量の増加について検討しておく必要がある。また、放射線防護の観点から必要となる施設、費用についても検討する必要がある。

(7)経済性
 核種分離・消滅処理を導入するか否かについては、その時点での費用対効果を検討した上で判断されることになる。したがって、この技術の導入にあたって、経済性は重要な判断要素であるので、実用化を目指した研究開発の各段階でそれぞれの技術を評価する際には、経済性評価を併せて行うことが重要である。また、研究開発の初期の段階から、経済的に成立するシステムを指向することも重要である。

(8)原子力利用の形態と核種分離・消滅処理技術の関係
 核種分離・消滅処理は単独で存在するものではなく、原子力利用の形態と密接な関係がある。例えば、高速増殖炉(FBR)による消滅処理を行おうとすれば、将来的にはFBRが発電システムの一部に導入されることが前提条件となる。即ち、この場合、核種分離・消滅処理技術はFBRや再処理などの一連の核燃料サイクル技術と切り離して考えることはできない。また、加速器駆動未臨界炉システムは既存の核燃料サイクルを変更する必要のないシステムとして構想されているが、本システムも加速器と消滅処理専用の原子炉を組み合わせた原子力発電システムの一形態と捉えることができる。この場合、本システムは加速器駆動のための電力が必要であることから、発電コストは割高になる可能性があると考えられる。したがって、廃棄物処分まで含めた原子力システム全体として、加速器駆動未臨界炉システムを導入することが合理的か否かについて検討される必要がある。
 現実の電力供給の一手段としての原子力システムは、その時の経済・社会環境の中で、長期的なエネルギーの安定確保や廃棄物処分というような視点も含め、ウラン燃料軽水炉、プルサーマル、プルトニウムリサイクル高速炉、MAリサイクル高速炉等のうち、どのようなものが最も合理的であるか、という検討を経て選択されるものである。核種分離・消滅処理技術もこのような原子力システムの一要素であるということを念頭に置き、その技術開発は、原子力利用形態の見通しを踏まえつつ、適宜見直しを行いながら進めていく必要があると考えられる。
(9)社会的受容性に対する影響
 実用化の時期や具体的な効果が必ずしも明確になっていない状況の下で、核種分離・消滅処理技術の研究開発を推進することは、放射性廃棄物処分政策や原子力政策について国民の理解を得ていく上でどのような影響があるのか、ということについても検討する必要がある。

(10)核不拡散に対する影響
 ネプツニウムやアメリシウムは、現時点では、ウランやプルトニウムのように国際原子力機関(IAEA)の保障措置の対象となる核物質として定義されているものではないが、核分裂性という性質を有した物質であって、核爆発装置の原料となる可能性を持つとして、何らかの措置が必要であるかどうかの議論がIAEA理事会において行われている。その結論はまだ出されていないが、MAを本格的にリサイクルする場合には、核不拡散の観点から上記のような動向に留意して検討を行うことが必要である。一方、乾式再処理等によりPuをMAと一緒に回収する分離技術の採用により、核拡散抵抗性が高まるとの議論もある。

(11)情報提供、広報のあり方
 核種分離・消滅処理技術の現状や廃棄物処分との関係について、正しい情報をいかに提供・説明していくかについても検討する必要がある。また、「核種分離・消滅処理」という呼称についても、本技術の内容を踏まえ、正確な情報提供という観点から検討する必要があると考えられる。

(12)研究開発の進め方
 核種分離・消滅処理技術は、廃棄物処分まで含めた核燃料リサイクル技術の一部であり、したがって、この技術を採用するか否か、どこまで採用するかは、その時点その時点でどのような原子力システムを構築するのかという中で判断されていくという性格を有している。他方、核種分離・消滅処理技術の進展度合いが、採用するリサイクル技術そのものに影響を与える場合もある。また、現在までの研究開発の状況を踏まえれば、実用化までには多くの課題を解決する必要があり、長期の研究開発期間を要すると考えられる。また、加速器開発は他分野の先進的な基礎研究と密接に関連しており、多様な利用目的のために開発されている。このような特徴を持つ核種分離・消滅処理技術が実用に供するための効率性の高い研究開発の進め方を検討する必要がある。