平成11年4月21日
科学技術庁原子力局
廃棄物政策課
「放射性廃棄物シンポジウム」について
1.開催の目的
放射性廃棄物処分については、原子力委員会高レベル放射性廃棄物処分懇談会及び当専門部会において、その基本的な考え方に関する報告書が一昨年来取りまとめられているところである。これら報告書においては、廃棄物処分についての社会的な理解を得るために、透明性の確保・情報公開といった点を踏まえながら、今後も国民各層から意見を聴取し意見を交換する場を設けることが重要であるとの提言がなされ、また、わかりやすい情報提供を国においても行う必要があるとしている。
以上の点を踏まえ、次の目的のもとで標記シンポジウムを開催した。
(1) | 放射性廃棄物の処分に関して情報公開・議論喚起の場を設け、国民の理解を深める。
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(2) | 事業の具体化に向けてより透明性の高い行政を指向し、国民の各層より意見を聴取する。 |
- 2.開催実績(別紙1参照)
- ○第1回(静岡):平成10年12月4日(金)静岡市民文化会館(静岡市)
一般傍聴者111名、うち意見発言者4名
○第2回(京都):平成11年1月27日(水)京都リサーチパーク(京都市)
一般傍聴者115名、うち意見発言者4名
○第3回(福島):平成11年3月24日(水)福島ビューホテル(福島市)
福島県原子力センター(大熊町)
未来科学技術情報館(新宿区)
一般傍聴者117名、うち意見発言者2名
○総計
一般傍聴者343名、うち意見発言者10名
- 3.主な議論(別紙2参照)
- ○第1回(静岡)
- 主に、立地地域と消費地域との意識の違い、マスコミ報道のあり方、地方における情報不足等についての議論が行われた。
- ○第2回(京都)
- 廃棄物処分に関する広報・情報公開、廃棄物発生者の責任、費用負担等についての議論が行われた。
また、処分方策については、地上で管理すべきとの意見が出された。
概して、廃棄物の処分方策のみならず、核燃料サイクル全般、原子力発電の是非論やエネルギー政策全般についての議論へ発散する傾向にあった。
- ○第3回(福島)
- 主に、立地地域と消費地域との関係や原子力に関する教育のあり方について議論が行われた。
また、処分方策については、海洋底処分や核種分離・消滅処理への期待も述べられた。
4.今後の方針
(1) | 当該シンポジウムは、放射性廃棄物処分に関する情報公開・議論喚起の場として、また国民各層との意見交換を通して行政の透明性を維持する場として、有用であったと考えられる。
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(2) | 上記を踏まえ、平成11年度は未開催の地方ブロックを中心に年間5回程度の開催を予定。BR> |
(3) | より活発で建設的なシンポジウムとなるように、開催形態・傍聴者の参加方法等に工夫を加えてゆく方針。 |
(別紙1)
「放射性廃棄物シンポジウム」の開催状況について
<第1回(静岡)>
(1)日時・会場
平成10年12月4日(金) 13:30~16:35
静岡市民文化会館「大会議室」(静岡市駿府町)
(2)出席者
①パネリスト(4名)
落合艶子 「アトムレディース」主宰
寺田朝子 「女性談話室しずおか」代表
早川潤子 市民サークル「Connection(コネクション)」代表
原田誠治 静岡新聞社取締役編集局長
②原子力委員会専門委員(4名)
石橋忠雄 弁護士
大桃洋一郎 (財)環境科学技術研究所専務理事
徳山 明 常葉学園富士短期大学学長
鳥井弘之 日本経済新聞社論説委員
③コーディネーター
土屋佳子 フリーアナウンサー
(3)傍聴者
一般傍聴者:111名 関係者:17名 報道関係:7社
<第2回(京都)>
(1)日時・会場
平成11年1月27日(水) 13:30~17:10
京都リサーチパーク「バズホール」(京都市下京区)
(2)出席者
①パネリスト(6名、*印は公募によるパネリスト)
我妻伸彦 立命館大学経済学部教授
佐伯昌和 *農業・京都反原発めだかの学校
末田一秀 *日本消費者連盟関西グループ
山崎晴雄 東京都立大学大学院理学研究科教授
山下 修 京都新聞社論説委員
渡辺三郎 原発反対福井県民会議常任幹事
②原子力委員会専門委員(5名)
大桃洋一郎 (財)環境科学技術研究所専務理事
田中靖政 学習院大学法学部教授
鳥井弘之 日本経済新聞社論説委員
東邦夫京都大学大学院工学研究科教授
松田美夜子 生活環境評論家
③コーディネーター
土屋佳子 フリーアナウンサー
(3)傍聴者
一般傍聴者:115名 関係者:27名 報道関係:8社
<第3回(福島)>
(1)日時・会場
平成11年3月24日(水) 13:00~16:30
福島ビューホテル「安達太良」(福島市太田町)
【中継による参加】福島県原子力センター(双葉郡大熊町)
【中継】未来科学技術情報館(東京都新宿区)
(2)出席者
①パネリスト(5名、*印は公募によるパネリスト)
芦野英子 *著述業
佐藤和良 会社員
菅野幸雄 *高校講師
橘政 道 福島民報社編集局長
花田 茂 中学校教諭
②原子力委員会専門委員(5名)
石橋忠雄 弁護士
大桃洋一郎 (財)環境科学技術研究所専務理事
神田啓治 京都大学大学院エネルギー科学研究科教授
徳山明常葉学園富士短期大学学長
松田美夜子 生活環境評論家
③福島県原子力広報連絡会議会議員(46名)ー中継による参加
④コーディネーター
土屋佳子 フリーアナウンサー
(3)傍聴者
一般傍聴者:117名 関係者:26名 報道関係:15社
(別紙2)
「放射性廃棄物シンポジウム」でいただいた主な意見
以下は、「平成10年度放射性廃棄物シンポジウム」にていただいた意見の主なものを事務局にてとりまとめたものです。
*[注](静):静岡、(京):京都、(福):福島
○技術的な事項
- 市民レベルで理解できる程度の安全性の検証が必要。(静)
- 研究開発について、現在分かっている知見を提示するだけでなく、今後の課題をあわせて明示することが必要。(京)
- 核種分離・消滅処理技術は、現時点で少しでも廃棄物を減らすこと、研究を希望する若者に夢を持たせることが重要との点から進めるべき。(福)
- 研究者は、放射線影響に関する研究成果をもっと積極的に一般に公表し、アピールすべき。(福)
○処分方策について
- 処分方策について結論だけを提示するのではなく、技術的可能性・選択肢を提示した上で議論することが必要。(静・京)
- 地上保管を原則とすべき。目が届くところにあるということが安心につながる。(京)
- 高レベル放射性廃棄物は当面地表で保管し、その間を国民的合意を得るための期間にあててはどうか。(福)
- 処分方法を一つの方法に限定すると行き詰まることもある。地層処分以外のほかの方法(海洋底処分等)も考えておく必要がある。(福)
○処分事業について
- 処分費用は電気事業者が経営努力で捻出すべき。(京)
- 発生者責任の観点から電気事業者が最後まで責任を持つことが必要。(京)
- 責任の所在は原発政策を進めてきた国と電力会社にあり、みんなで負担するというのは責任の所在が曖昧になる。(京)
- 原子力は安いと言ってきて後から処分費用の上乗せを言い出すのは詐欺。(京)
- 処分費用は発生者費用負担の原則から電気事業者が負担すべき。将来被害が出たときも汚染者負担の原則から電気事業者に責任がある。税金の投入は国民の理解が得られず無理ではないか。(福)
- 実施主体を早急に設立して、誰が処分を行うのかが分からないと言う不安を解消すべき。(福)
- 処分場をどこにでもつくれるのであれば、立地選定がかえって困難になる。公募がない場合にどうやって申し入れる相手先を選ぶのかが不明瞭。(福)
○地層処分への不安
- 火山・地震の多い日本に地層処分できるような地点はあるのか。(静)
- 地層処分の安全性(特に地下水の振る舞いについて)は十分に予測できるとは思えない。(京)
- 地層処分することでかえって現世代の責任が曖昧になる。(京)
- 地層処分によって、本当に人間環境から廃棄物を長期にわたり隔離できるのか。また、地層は本当に安定なのか。(福)
- 我が国では、米国のように地下水位が低く、雨も少ないような条件の整った地層処分サイトは望めないと思うが、それでも我が国には地層処分できる場所が多くあるといえるのか。(福)
○立地地域と消費地域の意識
- 立地地域と電力消費地の交流が重要。(静・福)
- 国民がわかりやすい方法で、国民的議論を喚起し、その議論を行政にフィードバックするなど、国民の意見を汲み上げる方法で進めてほしい。(福)
- 立地県の知事は知事会などでその他の各県知事にアピールするなどして、立地県の苦労を全国に認識してもらう必要がある。(福)
- 地元の思いは行政が考えているものとズレがある。行政は常に地元の声を聞きながら進めてほしい。(福)
- このようなシンポジウムを東京をはじめとして数多く開催し、発電県の実情をもっと知ってもらいたい。(福)
○情報公開・広報
- 放射性廃棄物の危険性について、他の産業廃棄物と同一に論じられるような指標はできないか。(静)
- 電力消費者が、電力消費によって発生した廃棄物の処分を自らが処分したいと考えられるくらいに認識を高める必要がある。(静)
- 分かりやすい広報資料を充実させてほしい。(静・京)
- 廃棄物の発生と身近な生活を結びつけられるような機会が必要。(静)
- 情報はただ出せばよいというのではなく、求められている情報が何かを把握した上で提供することが必要。(静)
- 安全性だけを前面に出すのではなく、デメリットもあわせて知らせることが必要。(京)
- 国民的な議論が巻き起こるぐらいのPRが必要。(京)
- 原子力の議論を進めるために、他の身近なもの(例えば農薬の使用)と対比させて考えてはどうか。(京)
- 地層処分に関する学問的な裏付けを一般の方にきちんと公表すべき。(福)
- 原発に不安を感じる最大の理由は放射性廃棄物に関するものである。不安を和らげるためにも、知りたい情報を的確にわかりやすく提供してほしい。(福)
○報道
- 現状では、地方における報道機関は中央からの配信記事に頼らざるを得ない。各地域の報道機関に対しても積極的な情報発信が必要。(静)
- 原子力関係者と報道機関との信頼関係を築くことが重要。(静)
- 不安をあおる報道には、技術的な専門家の立場からのコメントを出して技術的な議論をしてほしい。(京)
- 一般の人は、新聞やテレビからの情報入手が多い。その際、マスコミは、一般の人になるべく明るいわかりやすく正確な情報を流すこと、情報の受け手は、それを理解する正しい知識を持つことが重要。(福)
○教育
- 安全確保の基盤として人の心の教育が重要。(静)
- 学校教育の中で、エネルギー・原子力・廃棄物をより一層取り上げることが必要。(静)
- 正しい知識を持つためにも、学校で正しい知識を教えることが重要。(福)
- 原子力をはじめとするエネルギー問題についての教育は、現在いろいろな教科に分かれており、総合的に教育するのが難しい。教育指導要領が改訂され、総合的な学習が可能となることに期待している。(福)
- エネルギー問題などのように、多様性のある考え方を育てるには、まず、教師が多様性を持つことが必要。(福)
- 教師だけで努力することには限界があり、実際に関連業務に携わっている地域の方々の協力も必要。(福)
- 修学旅行での発電所見学では、いい部分だけを見てもらおうとする企業論理も現れた。(福)
- 原子力発電所関連施設以外にも放射線を取り扱う施設は全国にたくさんあるので、そういった施設を実際に見てもらい、理解を深める活動を全国的に展開してはどうか。(福)
○原子力利用全般・エネルギー問題
- 放射性廃棄物を今後も増やしていって良いのかということをまず議論すべき。(京)
- プルサーマル燃料の再処理技術は確立されておらず、再処理の是非についても検討すべき。(京・福)
- 技術を固定して考えずに、エネルギーの構造改革を含めていろんな可能性を探るべき。(京)
- エネルギー全体の需要や環境負荷という観点から、原子力のあり方や廃棄物の取扱いを議論する必要がある。(京)
- エネルギー問題については、国家的課題として国が前面に立つべき。(福)
○シンポジウムの運営
- シンポジウムの企画について、異なる立場の意見も反映すべき。(京)