資料(専)21-2
核種分離・消滅処理技術に関する審議について

平成11年2月9日

1.核種分離・消滅処理技術について
 核種分離・消滅処理技術は、高レベル放射性廃棄物に含まれる放射性核種を、半減期や利用目的に応じて分離する分離技術と、分離された超ウラン元素(Transuranium:TRU)等の長寿命核種を加速器や原子炉により短寿命核種又は非放射性核種へ変換する消滅処理技術からなる。(図1参照)

2.現在までの経緯
 1983年の原子力開発利用長期計画(原子力長計)において、群分離に関する研究等を推進することとされた。
 1987年の原子力長計において、核種分離・消滅処理技術は、高レベル放射性廃棄物の資源化とその処分の効率化の観点から極めて重要な課題であり、そのための研究開発を、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団(現 核燃料サイクル開発機構)等が協力して計画的に推進することとされた。
 1987年の原子力長計を踏まえ、原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会は、群分離・消滅処理に関する研究開発を推進するためには、長期的視野に立った研究開発計画に基づき、官民の力を結集して計画的かつ効率的に研究開発を推進することが必要であるとし、 1988年に約10年間を見通した群分離・消滅処理技術研究開発長期計画(通称オメガ計画)を策定した。
 1994年6月の原子力長計においては、
(第3章 7.バックエンド対策(1)放射性廃棄物の処理処分)
「高レベル放射性廃棄物の資源化と処分に伴う環境への負荷の低減の観点から将来の技術として注目されている核種分離・消滅処理技術に係る研究開発については、当面、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団(現 核燃料サイクル開発機構)等が協力して基礎的な研究開発を計画的に推進することとし、1990年代後半を目途に各技術を評価し、それ以降の進め方について検討していく。」
(第3章 8.原子力科学技術の多様な展開と基礎的な研究の強化(2)原子力エネルギーの生産と原子力利用分野の拡大に関する研究開発)
「核種分離・消滅処理については、湿式・乾式の核種分離に関する研究や原子炉、大強度陽子加速器等を用いて長寿命核種を短寿命化・非放射化する消滅処理法の研究を進める。また、このために必要となるTRUの核データ等の整備、充実を図る。」
 とされており、現在、日本原子力研究所、核燃料サイクル開発機構及び電力中央研究所等で基礎的な研究開発が行われている。
 1998年5月の高レベル放射性廃棄物処分懇談会報告書において、「廃棄物の資源化と処分に伴う環境への負荷の低減の観点から、長期的に核種分離・消滅処理の基礎的な研究も幾つかの国で行われているが、核種の一部の低減はできるものの、地層処分の必要性を変えるものではないと考えられている」とされている。
 注)オメガ計画(Options Making Extra Gains from Actinides and fission products:OMEGA)

3.オメガ計画の概要
 オメガ計画においては、高レベル放射性廃棄物処分の効率化、含まれる有用元素の資源化及び積極的な安全性の向上を目的として、以下の項目について研究開発計画が定められている。(図1参照)
(1)群分離技術
(2)消滅処理技術

4.我が国における研究の現状
 我が国では、日本原子力研究所、核燃料サイクル開発機構及び電力中央研究所を中心に研究開発が進められている。各機関での研究開発の検討状況を以下に示す。
(1)日本原子力研究所(図2参照)
 核種分離・消滅処理を行うシステムとして、商用発電炉の核燃料サイクルに、核種分離・消滅処理サイクルを追加する概念を提案して研究を行っている。
 核種分離技術として、高レベル廃液から元素を半減期や利用目的に応じて、4つの元素グループ(群)に分ける分離方法を研究中であり、実際の高レベル廃液を用いた試験を開始している。

元素グループ分離の目的
超ウラン元素群(ネプツニウム、アメリシウム、キュリウム等)消滅処理プロセスへ
テクネチウム・白金族元素群有効利用
ストロンチウム・セシウム群有効利用又は固化
その他地層処分

 消滅処理技術として、大出力陽子加速器と未臨界炉を組み合わせたシステム及び超ウラン元素を燃焼するための専用の高速炉について、設計研究やこれらのシステムで用いる核燃料の製造に関する基礎研究を行っている。
(2)核燃料サイクル開発機構(図3参照)
 核種分離・消滅処理を行うシステムとして、発電用高速増殖炉を含む核燃料サイクルを高度化して核種分離・消滅処理を行うための要素技術を研究している。
 核種分離技術として、主としてこれまでの再処理法を改良した方法を研究しており、溶媒や抽出剤の開発、実際の高レベル廃液を用いた試験も行っている。
 消滅処理技術としては、高速炉を用いた消滅処理の概念の研究、燃料製造技術の開発及び高速実験炉「常陽」を用いた試料の照射試験等を行っている。また、電子加速器による核種消滅処理技術の研究も行っている。
(3)電力中央研究所(図4参照)
 金属燃料を用いた高速炉による核燃料サイクルにおいて消滅処理を行うシステムの研究を行っている。
 核種分離技術として、高レベル廃液を高温で処理して核種を分離する新しい処理方法(高温冶金法)を研究中である。
 消滅処理技術として、金属燃料高速炉による超ウラン元素の消滅効率の解析、金属燃料の物性の取得、解析コードの開発等を行っている。

5.諸外国における動向
(1)フランス
 「放射性廃棄物管理研究に関する法律(廃棄物法、1991年12月30日)」の中で、高レベル放射性廃棄物処分に関する3つの相互補完的な研究課題
(a)核種分離・消滅処理
(b)地層処分
(c)長期間の中間貯蔵
の一つとして位置づけられている。
 これを受けて、核種分離・消滅処理の総合的な推進を目指して、フランス原子力庁がSPIN計画(Separation and Incineration program)を策定した。短中期的には、今までの再処理の改良による核種分離、廃棄物の減量を目指し、長期的には、核種分離技術の開発、高速炉や加速器を用いた消滅処理の研究を掲げている。
(2)アメリカ
 アルゴンヌ国立研究所、ロスアラモス国立研究所等で、金属燃料の再処理による核種分離、加速器を利用した消滅処理等の基礎的研究が実施されている。
 DOE(エネルギー省)の委託を受けたNAS(全米科学アカデミー)は、1995年に報告書を取りまとめ、核種分離・消滅処理によっても地層処分の必要性はなくならなず、公衆の被ばくリスクは低減しない、また、核拡散のリスクを伴うと評価し、核種分離・消滅処理技術は短期的には成立し得ないとしている。しかし、将来においては再処理によるリサイクルが有利になる可能性があることから基礎的な研究開発の継続を求めている。
(3)イギリス
1970年代から1980年代にかけて核種分離・消滅処理の研究を行ってきたが、芳しい結果が得られなかったことから、1995年に環境省がとりまとめた「放射性廃棄物管理政策に関するレビュー」において、今後は海外の研究動向を見守ることとし、新たな研究を開始することは不要であるとした。
(4)ロシア
ロシアでは、乾式再処理による核種分離技術や高速炉によるTRUの消滅処理を目指して燃料製造の研究が行われており、関連する研究として試料の照射試験等が行われている。 また、ロシア国内の研究機関において消滅処理のための新しい原子炉(溶融塩炉、加速器駆動炉等)を用いた核燃料サイクルの概念研究が行われている。
(5)OECD/NEA(経済協力開発機構・原子力機関)
我が国の提案により1989年から、核種分離・消滅処理技術に関する情報交換とデータベース整備等が進められている。この一環として、1990年から2年毎に、「OECD/NEA群分離・消滅処理国際情報交換会議」を開催している(第1、4回は日本において開催)。今年の春を目途に各国の核種分離・消滅処理技術の研究の現状等についての報告書を取りまとめているところである。

6.今後の審議の進め方
このような状況を踏まえ、原子力委員会原子力バックエンド対策専門部会において、核種分離・消滅処理技術に関する主要論点、研究開発の現状等を整理し、高レベル放射性廃棄物処分方策における効果・意義及び位置づけ、並びに今後の研究開発の進め方について検討を行うこととする。 主な検討項目は以下の通りである。
(1)核種分離・消滅処理に係わる主要論点の整理
(2)核種分離・消滅処理技術の現状
 「群分離・消滅処理技術開発長期計画」の研究開発目標に対する進捗、現在の技術的達成度、実用化の可能性等
(3)高レベル放射性廃棄物処分方策における核種分離・消滅処理技術の効果、意義
(4)今後の高レベル放射性廃棄物処分方策における核種分離・消滅処理技術の基本的な位置づけ
(5)今後の研究開発の進め方

以上