資料(専)20-7

TRU廃棄物の処理処分研究の現状

 

 

 

平成10年12月2日

 

日本原子力研究所


1.はじめに

 「原子力開発利用長期計画」では、多種多様な放射性廃棄物の特性を踏まえ、合理的な処分を行うために必要な研究開発を着実に進めるとの基本的考え方が示されている。
 我が国におけるTRU廃棄物処理処分方策は、再処理事業等の本格化する時期を考慮し、1990年代後半までにその見通しが得られるよう検討を進めていくこととされている(平成3年7月、原子力委員会)。
 原研では、この検討に寄与するため、安全評価手法の開発を進めるとともに人工バリア及び天然バリアにおけるTRU核種の移行挙動試験によるデータ取得、セラミック固化体等の新技術の開発を行い、TRU廃棄物の合理的な処分方策の確立に寄与することとしている。
 ここでは原研で進めているTRU廃棄物処分に係る試験研究の現状の一部について紹介する。

2.研究の現状

2.1 安全評価手法の開発

(1) TRU廃棄物に係る安全評価モデルの開発

研究概要
 TRU廃棄物は、高レベル廃棄物、埋設濃度上限値を上回る低レベル廃棄物(高βγ廃棄物)、研究所廃棄物等の他の深部埋設処分対象放射性廃棄物と共通する部分が多いので、これらの廃棄物と関連させて、安全評価手法の開発を進めている。すなわち、ソースタームモデルに関しては、高βγ廃棄物、研究所廃棄物等と共通する部分(セメント・アスファルト固化体、溶融固化体など)が多く、天然バリアモデルに関しては、高レベル廃棄物(深地層処分)、高βγ廃棄物(若干深い地層への処分)と共通する部分が多い。さらにTRU廃棄物には、長寿命核種が多く含まれるので、処分の安全確保のためには、長期評価に伴う不確かさを考慮する必要があり、高レベル廃棄物同様種々の不確かさを考慮した確率論的安全評価手法を開発・整備する必要がある。この不確かさに関しては、高レベル廃棄物で開発された不確かさ解析手法が適用できると考えている。

研究成果
 深地層処分に関しては、地層処分の総合安全評価コードGSRWのソースタームモデルの拡張を行い、ガラス固化体以外の廃棄体(セメント・アスファルト固化体、溶融固化体など)も評価対象に含めることが可能となった。若干深い地層への処分に関しては、埋設濃度上限値を上回る低レベル廃棄物の処分を対象とした総合安全評価コードGSA-GCLを開発しており、このコードがそのままTRU廃棄物に適用できると考えている。
 確率論的安全評価手法に関しては、パラメータの不確かさの影響を考慮した解析手法の開発を完了し、概念モデルの不確かさの影響を考慮した解析手法の開発・整備を進めているところである。
 さらに、処分施設の沿岸立地を想定して、海水の影響を考慮した地下水流及び核種移行解析コードの開発を進めており、現在2次元版コードが完成し、現在その解析機能を検証しているところである。

2.2 実験的研究

(1)核種収着試験

研究概要
 ベントナイト緩衝材へのTRUの収着について、ベントナイトの主成分であるモンモリロナイトへの収着を中心にして、それに及ぼす共存イオン・共存鉱物等の影響の観点から検討する。
 その結果をふまえて、ベントナイト緩衝材中のTRU閉じ込めの向上をはかる。

研究成果
 ウラン鉱床近傍における観察例などから、難溶性リン酸塩であるアパタイト(水酸リン酸カルシウム)をTRU閉じ込めのための材料として検討した。 Np、Pu、及びAmのアパタイトへの収着率は非常に高く、収着したTRUは地下水に含まれるアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンを含む溶液中には溶出しなかった。TRUはアパタイトの表面で難溶性のリン酸塩として存在していることが考えられるが、収着メカニズムについてはさらなる検討が必要である。
 ベントナイトにアパタイトを少量添加した試料へのNpの収着実験を行った。アパタイトの添加によって、Npの収着率が大きく向上した。また、Npはベントナイト中のアパタイトにのみ分配されることがわかった。アパタイト添加の有効性を示唆するものと考える。

(2)TRU元素に関する安全評価用データの取得

研究概要
(1)地下水中においてはアクチニド元素は加水分解生成物または炭酸錯体として存在するであろうことが予測されているが、TRU廃棄物処分が対象とするような深部地下雰囲気におけるこれらの性質は定量的にはまだ信頼できる値が得られていない。このため、実験雰囲気を調整した条件(不活性ガスグローブボックスなど)下において、これらのデータを取得した。
(2)緩衝材中および岩体内での主たる物質移動機構は拡散である。しかし、アクチニド元素を始め多くの元素について、これらの物質内における拡散係数は揃っていないため、実験を行った。

研究成果
(1)プルトニウム(Pu)及びネプツニウム(Np)の溶解度や炭酸錯体生成定数の値 を得た。
(2)割れ目のない健全な岩石の中を物質が移動するという現象は、日常生活上の時間スケールでは想像しにくいが、しかし放射性廃棄物の地層処分のように何千年という長い時間を考える場合には、たとえ岩が健全であってもその中におけるゆっくりとした物質移動を無視することはできない。そのときの移動メカニズムは、地下水によって流されるのではなく、拡散である。
 この拡散現象は、実験条件を整えることによって、実験室内で比較的簡単に観察することができる。左側の図は実験容器を示した絵である。容器の一方にプルトニウムを含む溶液を、他方に含まないブランク溶液を入れ、間を5mmほどの薄い岩(この場合花崗岩)で挟んでおくと、何日かして右側の容器にプルトニウムが現われる。右側の絵は、時間とともにブランク溶液中のプルトニウム濃度が上昇したことを示している。これは花崗岩中をプルトニウムイオンが拡散により透過したためである。
 プルトニウムイオン濃度の上昇の様子は実験条件によって異なる。右側のグラフに示した2本の線の差は、プルトニウムが地表のように酸素を多く含む水溶液中にある場合と深い地下のように酸素がほとんどない水溶液中にある場合の差である。酸素がない条件下ではプルトニウムは移行しにくいことを示している。このカーブを詳細に分析することによって、プルトニウムイオンの移動に関するいろいろな情報が得られる。
 これまでに数種類以上の元素について拡散係数を得た。

(3)長寿命核種の化学形に関する研究

研究概要
 地下水中有機物の大部分を占める腐植物質を対象に、TRU核種との錯体の分子サイズを分析し、TRU核種の地中移行に及ぼす腐植物質の影響を検討する。

研究成果
 泥岩層の地下水から分離濃縮した腐植物質(フミン酸とフルボ酸)を用いてTRU核種との錯体形成実験を行い、錯体の分子サイズ分布を限外濾過法により調べた。
 図に示すように、溶液に腐植物質が存在しない場合にはPuとAmはポリマーを形成して器壁に沈着するが、地下水腐植物質を添加したところ(10mg/L)、PuとAmは腐植物質との錯体を形成することにより溶存した。したがって、PuとAmの移行挙動に、地下水中の腐植物質が影響を及ぼすことがわかった。また、フミン酸、フルボ酸との錯形成において、Pu錯体とAm錯体の分子サイズ分布が異なることから、腐植物質の特性を考慮した検討が必要なことが示唆された。
 一方、Npの場合、腐植物質の有無に関わらず約100%が分子サイズ5,000Daltons以下に存在した。Np,Pu,Am間にみられた腐植物質錯体の分子サイズの違いは、地中におけるTRU核種の移行挙動の違いに反映される可能性が考えられる。

(4)天然原子炉跡の調査研究

研究概要
 原子炉と同じように核分裂連鎖反応を起こした痕跡を残すガボン共和国、オクロウラン鉱床の調査を行い、地層の有する放射性核種の閉じこめ能を評価する。

研究成果
 アフリカの赤道上に位置するガボン共和国のあるオクロ、ウラン鉱床は、約20億年前、原子炉と同じように核分裂連鎖反応を起こした痕跡を残す。現在では活動していないが、原子炉ゾーンではPu,Npや核分裂生成核種が生成した。本研究ではPu,Npや核分裂生成核種の娘核種の分布を調べ、地層の有する放射性核種の閉じこめ能を評価している。その結果、原子炉として活動していた間に生成したPu,Npや核分裂生成核種などの多くは現在でも鉱床付近にとどまっていることがわかった。この原因としては深地層では酸素濃度が低い条件であるため、Npなどの元素の地下水への溶解量が非常に低いことが考えられた。この状態は、放射性廃棄物を固化体に閉じこめ深地層中の処分施設内に埋設した状態に似ていることから、Npなどの放射性核種は安定に地層に閉じこめられると考えられる。

2.3 新技術開発

(1)TRU廃棄物含有核分裂性物質の高感度検出法の開発

研究概要
 国内再処理施設や核燃料製造施設等で発生するTRU廃棄物の埋設処分において、α放射能濃度に応じて処分深度が異なることが考えられ、廃棄物中の核分裂物質の高感度な検出が不可欠である。そのため、廃棄物固体内部の極微量の核分裂性物質量を高精度で定量し得る非破壊測定技術の開発を実施している。
 採用している測定法はアクティブ中性子法である。アクティブ中性子法は廃棄物中のPu-239, Pu-241, U-235等の核分裂性物質を選択的に測定する方法で、小型中性子発生器から放出された14MeV中性子を廃棄物に照射し、廃棄物に含まれる核分裂性物質の誘発核分裂中性子を検出する方法である。

研究成果
 測定法の開発は、小型中性子発生器から発生した14MeV中性子をグラファイトで減速し、その熱中性子による誘発核分裂中性子を検出する従来法を採用して進めた。しかし、コンクリートで固化された低レベルTRU廃棄体を測定しようとした場合には、中心部の微量核分裂性物質の検出が非常に難しく、検出器数を増やし検出感度を上げたとしても問題解決にならないことが明らかになった。更に、コンクリートドラムの中心部と表面部では、100倍を超こえる検出応答差が発生してしまうため、含有量の決定にはマトリックスの影響と存在位置を考慮した複雑な補正が必要となる。
 このような難問題を解決すべく検出体系の改良、実験データー解析、中性子輸送コードによる理論評価を行った。その結果、中性子発生器の高速中性子を減速せずに打ち込み、コンクリートマトリックス自体の減速能を利用した自己減速中性子による新高感度検出法の開発に成功し、その効果について確認できた。図はコンクリートドラム缶の中心位置にプルトニウムが在る場合の重量に対する検出応答性を示したものである。グラファイト減速熱中性子を利用する従来法では、プルトニウム重量500〜1000mg程度で検出が不可能になってしまうが、マトリックス自己減速中性子を利用する新高感度法では、30mgまでを検認でき、検出限界値は10mg程度に達する。さらに改良を加えれば、検出限界値は1mg以下の検出が十分可能と予測される。また、コンクリートドラム缶の直径方向の位置検出応答性については、従来法では1/120であった位置検出応答差が新高感度法では1/1±0.5の範囲に収まり飛躍的な性能向上が確認された。これらの結果を得るための測定時間は13分(800秒)であったが、5分程度迄短縮することは十分可能である。

(2)新固化処理技術に関する研究

研究概要
 高レベル放射性廃液の群分離によって生ずる高濃度TRU廃棄物用高性能固型化材として有望なイットリア安定化ジルコニア(YSZ)の適用性について、相安定性、化学的耐久性、機械的特性等の固化体物性を調べている。長期健全性評価試験では廃棄物組成の違いが有為なものとなるようにNp+Am、Np+U及びNp+U+Biが主成分となる年代に対応する試料を作製し、固化体の性能評価を行っている。

研究成果
 組成変化に対する安定性に関してはX線回折測定の結果、廃棄物組成の主成分がAmからNp又はNpからBiへ変化しても、固化体中に形成した結晶は蛍石型構造単一相であり、他の結晶は同定されなかった。このことは固化体作製時の相安定性が廃棄物組成が変化しても保持されることを意味している。
 密度測定の結果、相対密度(実測密度と理論密度の比)はどの試料においても90%を越えており組成変化による固化体の緻密度に明らかな変化がないことを確認した。
 上記評価試験の結果、YSZの固化体としての可能性が期待される。