資料(専)16-5 |
低レベル放射性廃棄物処分の
基本的考え方について
(案)
平成10年 月 日
原子力委員会
原子力バックエンド対策専門部会
目 次
はじめに
1. 放射性廃棄物処分の基本的考え方 第2章 処分事業の責任分担の在り方、諸制度の整備などについて
1. 責任分担の在り方と実施体制
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原子炉施設(実用発電用原子炉、試験研究用原子炉など)の運転に伴って発生する低レベル放射性廃棄物には、洗濯水や冷却水などの処理に伴って発生する廃液をセメントなどで均一に固型化した廃棄物や、定期検査時の補修などで発生する金属、保温材、フィルタ、プラスチックなどの固体状廃棄物がある。これらの廃棄物の大部分は、その放射性核種濃度が「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律施行令」第13条の9に規定された濃度1)(参考資料 2)(以下「現行の政令濃度上限値」という。また、放射性核種の濃度が現行の政令濃度上限値以下の低レベル放射性廃棄物を、以下「現行の低レベル放射性廃棄物」という。)を下回り、このうち実用発電用原子炉の運転に伴って発生した放射性廃棄物で、均一に固型化されたものについては、平成4年度より、日本原燃(株)六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターにおいて人工構築物(コンクリートピット2))を設けた浅地中の処分が開始されており、その他の固体状廃棄物についても、同埋設センターに処分することが計画されている。また、原子炉施設の解体に伴って発生する廃棄物については、日本原子力研究所動力試験炉(JPDR)の解体実地試験が昭和61年から平成8年にわたって行われ、これに伴って発生したコンクリート廃棄物のうち極低レベル放射性廃棄物については、「人工構築物を設けない浅地中処分(素掘り処分)」により埋設実地試験が実施されている。
1)原子炉施設から発生し処分容器に固型化された放射性廃棄物を、コンクリートピットなどの人工構築物を用いた処分施設を設置して浅地中処分する場合などの濃度上限値。
2)コンクリート製の箱。この中に廃棄物を収納し、隙間をモルタル等で充てんした後、全体に覆土を施す。(参考 3)
1. 放射性廃棄物処分の基本的考え方
本報告書において、対象廃棄物の処分について検討するに当たって、前提となる放射性廃棄物処分の基本的考え方を以下のように整理した。
放射性廃棄物の処分にあたっては、廃棄物に含まれる放射性核種が生活環境に対して及ぼす影響を未然に防止しなければならない。このため、処分方法に適した安定な形態に処理した後、その放射性核種の濃度が時間の経過に伴って減少して安全上問題がなくなるまでの間、生活環境から安全に隔離することが処分の基本となる。この処分の安全性は、廃棄物に含まれる放射性核種が放出する放射線の種類(アルファ(α)線、ベータ(β)線、ガンマ(γ)線など)、放射性核種の半減期の長短、放射性核種が地中を移行する速さを左右する因子である土壌や岩石への核種の吸着性の大小などに影響される。したがって、廃棄物の生活環境からの隔離方法及び期間は、廃棄物の性状、特にそれに含まれる放射性核種の種類及び濃度を考慮して設定する必要がある。(参考資料 4) 長半減期のα核種の濃度が低くβγ核種の濃度も低い低レベル放射性廃棄物(例えば、六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターで処分を現在実施中あるいは計画中の低レベル放射性廃棄物)については、地下数m程度の浅地中のコンクリートピットなどに処分し、時間の経過に伴う放射性核種濃度の減少に応じた段階的管理が行われる。再処理により使用済燃料から分離され、α核種及びβγ核種の濃度がいずれも高い高レベル放射性廃棄物については、物理的に生活環境から十分離れた安定な地層1)に長期にわたって安全に隔離する地層処分が検討されている。また、再処理施設などから発生するTRU核種(超ウラン核種)を含む廃棄物については、全α核種の濃度が約1ギガベクレル毎トン(GBq/t)の値を区分目安値として設定し2)、この区分目安値を踏まえた処分方法の検討が行われている。
1)高レベル放射性廃棄物処分では、従来より地質学上の堆積岩を指す「地層」と、地質学上は「地層」とみなされない「岩体」を含めて「地層」という用語を用いている。
2)「区分目安値」は、浅地中処分される可能性がある放射性核種濃度の上限に関する一応の目安値として、平成3年原子力委員会報告書「TRU核種を含む放射性廃棄物の処理処分について」に示されているものであり、原子炉施設から発生する放射性廃棄物の全α核種の現行の政令濃度上限値を目安に設定されている。
2. 対象廃棄物の特徴
原子炉施設の運転と解体に伴い、使用済み制御棒や炉内構造物などの放射性廃棄物が発生するが、これらのうち一部は、含まれる放射性核種の濃度が現行の政令濃度上限値を超える。このような廃棄物の大半は、ステンレス鋼などの金属が燃料近傍で中性子照射されて生じた放射化金属1)であり、この他、コンクリート、使用済みのイオン交換樹脂などが含まれる。その累積発生量は、一定の仮定のもとに試算すると2)2030年時点で約2万トンと推定される。このうち約1万5千トンが運転に伴う廃棄物であり、約5千トンが解体に伴う廃棄物である。「核燃料物質等の埋設に関する措置等に係る技術的細目を定める告示」第4条に定められている放射性廃棄物を処分容器に固型化する方法3)を参考に、この対象廃棄物を固型化した場合、その体積は約2万m3(200㍑ドラム缶に換算すると約10万本相当)となる。
1)金属材料に中性子が照射されることによって、金属材料を構成する原子の一部が放射線を放出する性質を持つ原子に変わったもの。
2)電気事業者などの試算による。実用発電用原子炉のうち、軽水炉については運転期間を40年、燃料取り出し期間を1年、ガス炉については運転期間を30年、燃料取り出し期間を5年とし、軽水炉、ガス炉とも5年の安全貯蔵期間を経た後、解体撤去することとした。
3)使用済みのイオン交換樹脂などの放射性廃棄物については、セメントなどの固型化材料と放射性廃棄物を均一に混合して固型化すること、これ以外の固体状の放射性廃棄物(金属など)については、固型化材料であるセメントなどを処分容器内の放射性廃棄物と一体になるように充填して固型化すること、などが定められている。
3. 対象廃棄物処分の基本的考え方
対象廃棄物の処分方策を検討するに当たって、安全を確保すること、及び、将来世代に負担を残さないという観点も踏まえ処分場跡地については一般的であると考えられる利用が制約されないようにすること、を基本的な考え方とする。
対象廃棄物の処分方策を検討するため、まず、現行の低レベル放射性廃棄物について実施されている処分と同様の浅地中のコンクリートピットへの処分を行った場合の一般公衆の被ばく線量について、現行の政令濃度上限値を設定した際に用いられた評価シナリオを適用して試算を行った。すなわち、廃棄物を地表面から深さ3mより下に設けられたコンクリートピットに処分し、300年の管理期間を置き、放射性核種の濃度の低減を図り、管理期間経過後について、以下の被ばく形態の検討を行った。
その結果、処分を開始する時点で放射線被ばくに大きく寄与すると考えられる短半減期の60Coなどは、本試算において仮定した300年の管理期間中に、現行の低レベル放射性廃棄物と同様その濃度が減少し、管理期間経過後に想定される上記①~③の被ばく線量への寄与は十分小さくなる。一方、これらに比べて半減期が長い63Niなどの核種が管理期間経過後の被ばくに主に寄与し、上記①から③の被ばく線量は、原子力安全委員会において示されている「被ばく管理の観点からは管理することを必要としない低い線量」である10μSv/y(以下「目安線量」という。)を超過するが、最大で数mSv/yのオーダーである1)。
1)自然放射線による被ばくは、空気中のラドンからのもの約1.3mSv/yを含めて、約2.4mSv/y(世界平均)である(1993年国連科学委員会報告より)。国内における地域差は約0.4mSv/yの範囲である(1988年放射線医学総合研究所調べ)。
2)具体的な管理期間の長さについては、処分される放射性廃棄物の種類と濃度によって安全上支障のない濃度以下に減少するまでの期間が異なるため、これを考慮して処分場毎に適切に設定される必要がある。
なお、現行の低レベル放射性廃棄物を浅地中のコンクリートピットに埋設処分する場合については、昭和63年原子力安全委員会「放射性廃棄物埋設施設の安全審査の基本的考え方」(解説)において、原子炉施設から発生する廃棄物中に含まれる放射性核種のうち、量が多く、処分施設の放射線防護上重要な60Co、137Csなどは、300~400年経過すれば一千分の一から一万分の一以下に減少しこれらの放射性核種の量は極めて少なくなることや、外国における例も参考として、「有意な期間」内に終了し得る管理期間の長さとしては、300~400年を目安として用いることとされている。
3)昭和62年放射線審議会「放射性固体廃棄物の浅地中処分における規制除外線量について」において、「特定の事象に対する個人線量の算定結果が10μSv/yを超える場合であっても、当該事象の発生頻度が小さく、その事象から受ける個人のリスクが十分低いときは、このようなケースについても規制除外する際の判断基準を満たしているものと考えるのが適当である」とされている。
地下数十m程度の深度で考えられる処分施設としては、海外及び我が国の地下施設を参照すると、トンネル型あるいはサイロ型(円形立坑)のような地下空洞の内部にコンクリート構造物を設置し、廃棄物を収納し埋め戻す施設が考えられる。なお、対象廃棄物の放射性核種濃度を勘案すると、処分施設に、廃棄物の発熱に対する特別な対策は必要ないものと考えられる。
対象廃棄物に含まれる放射性核種濃度の減少を考慮した数百年間の廃棄物処分場の管理については、①廃棄物を処分する地下空洞(以下「処分空洞」という。)の埋め戻しが終わるまでは、廃棄物からの直接γ線などを防ぐ被ばく管理を行うとともに、放射性核種が処分施設から外に漏出しないことを監視する必要がある。また、処分空洞の埋め戻し後は②放射性核種が処分施設から生活環境へ移行することが抑制されていることを所要の期間監視するとともに、③一般公衆が廃棄物に接触することを防止するため、当該区域での特定行為の制約又は禁止などを行う必要がある。また、この管理期間は、④管理期間経過後の安全が確保されることを確認するための、地下水流動状況など処分場に関するデータを蓄積する期間でもある。なお、実際の管理期間の長さについては、廃棄物の種類と濃度などを考慮して適切に設定される必要がある。
このような管理の具体的な方法について、トンネル型とサイロ型の処分施設の例を想定して検討した。
1)人工構築物または埋設された廃棄物の周囲に存在し、埋設された廃棄物から漏出してきた放射性物質の生活環境への移行の抑制などが期待できる土壌など。
2)埋設された廃棄物から生活環境への放射性物質の漏出の防止及び低減を期待して設けられるコンクリートピットなどの人工構築物、廃棄物の固型化材料、及び処分容器。
1)処分空洞を埋め戻す際、埋め戻し材の崩落と、湧水が作業坑道に流入することを防ぐために、その境界にコンクリートなどの壁が設置される。
特別な管理を必要とする管理期間が終了した後に想定される一般公衆の被ばくは、
1)建築物を支持することができる一定の支持力のある地盤。ここでは高層建築物の荷重を支えることができる支持層を想定。
2)「臨時大深度地下利用調査会答申」平成10年より
前項で検討した対象廃棄物を処分する深度の地下空間について、都市部においては地下鉄、上下水道、共同溝などへの利用の可能性が現在検討されており、また都市部以外においては、既に山岳トンネル、地下発電所、地下石油備蓄施設などの利用例がある。このような深度の地下利用を計画する場合には、通常、「立地条件調査」、「支障物件調査」、「地盤調査」などの様々な調査が事前に行われる。(参考資料 16) 限定された区域での大規模な空洞である地下発電所などのドーム状構造物と、経路が長大であり複雑多様な地質構造に対処するトンネルなどの線状構造物とでは調査項目が異なるが、前述したとおり、処分に関する記録が管理期間経過後も期限を切らずに国において保存されることや、処分施設が適切な地質条件の地中を選んで設置されること、想定される処分施設の規模などを考慮すれば、これらの調査によって処分施設の存在が十分認知されるものと考えられる。
加えて、処分に関する記録が適切に保存、公開され、地下利用を企画する者がこれに容易にアクセスできるようになっていれば、大規模な開発行為とそれに伴う被ばくに至る前に地下利用の計画が変更される、あるいは処分施設の認知につながる適切な調査計画が立てられる確実性がいっそう高まると考えられる。また、対象廃棄物処分の安全性に関して社会的に安心を得るという観点からも記録の保存と公開は重要であると考えられるので、管理期間経過後における処分に関する記録の効果的な保存と公開のあり方について検討を行うことが必要である。
この他に、地下の天然資源を採取することを目的とした地下利用も考えられるため、予め将来利用が可能と考えられる地下の天然資源が存在しない場所を処分場に選定することによって、このような地下利用による人間と廃棄物の接触を避けるべきである。
以上より、具体的な処分深度は立地場所の地質条件などにより異なると考えられるが、地下の天然資源の存在状況を考慮するとともに、支持層の上面よりも深く、基礎となる地盤の強度などを損なわないための離隔距離を確保した、例えば地表から50~100m程度の深さに処分することにより、将来の人間の活動によって人間が廃棄物に接触して被ばくする可能性は十分小さいと考えられる。
処分施設を含む地下の利用が計画された際に、処分の記録が入手されなかったなどの理由で処分施設の存在が初期段階で認知されず、調査が進行し、処分施設に到達するボーリング調査などが行われ、ボーリングコアなどを通じて人間が廃棄物に接触するような場合も想定される。管理期間経過時点(試算においては300年を仮定)における地質調査によるボーリングコアを観察することに伴う被ばくは、一定の仮定を置いて試算すると数十μSvのオーダーであり、このような行為によって安全上問題となるような被ばくが起きることはないと考えられる。
対象廃棄物はβγ核種の濃度が現行の政令濃度上限値より高いので、現行の低レベル放射性廃棄物と同様の処分を行った場合には、14Cなどを含む地下水が流入した河川水の利用によって、一般公衆に対し目安線量を超える被ばくが生じる可能性がある。したがって、このような被ばくを十分抑制するためには、現行の低レベル放射性廃棄物と比べ、放射性核種の生活環境への移行をより一層抑制する対策をとる必要があるので、処分施設を、より放射性核種の移行抑制機能の高い地中に設置することを基本として考えることが適切である。放射性核種の移行抑制としては、処分施設周辺の土壌などによる移行抑制を基本にし、処分施設周辺に難透水性材料を設置するなどの対策が考えられる。
具体的には、以下の方策が考えられる。
1)地下水の流れを起こす水圧差。一定の距離当たりの水圧差で表される。この値が大きいほど地下水を流す力が大きいことを示す。
原子炉施設から発生する対象廃棄物は、既に埋設処分が実施または計画されている低レベル放射性廃棄物と比較すると、含まれる放射性核種の種類は同様であるが、放射性核種の濃度については、βγ核種の濃度が平均で現行の政令濃度上限値を1~2桁、最大で2~3桁上回り、α核種の濃度は最大でも現行の政令濃度上限値を下回ると推定される。
このような廃棄物を安全かつ合理的に処分するとともに、数百年の管理期間が経過した後の処分場跡地について一般的な土地利用が制約されないようにするためには、以下の対策を講じることが必要である。
1)凝灰岩などが風化して生成した粘土鉱物の一種であるベントナイトを土と混合したもの。ベントナイトは、水に浸すと膨張する性質があり、水を通しにくい。
対象廃棄物は、前述したような処分方法を採用することで、数百年間で管理が終了する処分を行うことが可能であると考えられる。したがって、対象廃棄物の処分に係る実施体制と責任分担については、現行の低レベル放射性廃棄物処分と同様の考え方をとることが適当である。
すなわち、対象廃棄物はその発生者の責任において安全かつ合理的な処分が実施されることが原則であり、対象廃棄物の発生者たる電気事業者や試験研究用原子炉などの設置者(以下「原子炉設置者」という。)は、その責任を踏まえ、処分計画の作成、処分費用の確保などに適切に取り組む必要がある。経済的、技術的に十分な能力のある専門の事業者(以下「処分事業主体」という。)が、廃棄物を集中的に処分する場合については、処分事業主体が処分の安全確保に関する法律上の責任を負うことになるが、現在行われているように、廃棄物の発生者である原子炉設置者は、廃棄物の埋設処分と数百年にわたる処分場の管理が安全に行われるよう、処分事業主体に適切な支援を与えることなどにより、安全な処分に万全を期すことが必要である。
このような考え方を踏まえ、原子炉設置者は、対象廃棄物の安全かつ合理的な処分が実施できるよう、実施体制の確立を図る必要がある。なお、試験研究用原子炉などから発生する対象廃棄物を含む研究所等廃棄物の処分の実施体制などについては、RI・研究所等廃棄物事業推進準備会1)を中心に検討が行われることとなっているが、同準備会は、関係機関とも十分連携し、確実に処分が実施できる体制とすることが必要である。
また、国は、対象廃棄物の処分に係る安全基準・指針の整備などを図り、これに基づく厳正な規制を行うと共に、原子炉設置者や処分事業主体において、対象廃棄物の管理や処分が適切に行われるよう、関連法令に基づくこれらの事業者への指導監督などの必要な措置を講じることとする。
1)RI・研究所等廃棄物の処分の実施スケジュール、実施体制、資金の確保などについて検討を進めるために、平成9年10月に日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団及び(社)日本アイソトープ協会により設置された。
前述のとおり、対象廃棄物は、その発生者たる原子炉設置者の責任の下で安全かつ合理的に処分されることが原則であり、原子炉設置者はこれに必要となる適正な費用を確保しなければならない。
特に、実用発電用原子炉施設の解体に伴う廃棄物処分の費用は、施設を廃止した後に発生するが、これは発電に伴う費用であり、あらかじめその運転中に確保しておくべき性質のものである。しかしながら、対象廃棄物の処分概念が定まっていなかったことなどから、これまで合理的積算が行われていない。したがって、今後、前述した処分方法を踏まえ、合理的積算を行った上で対象廃棄物の処分費用の確保を図っていく必要がある。
また、試験研究用原子炉などから発生する対象廃棄物に関しては、今後、RI・研究所等廃棄物事業推進準備会を中心に、処分費用の確保の具体的方法について検討を行う必要がある。
対象廃棄物の処分については、現行の低レベル放射性廃棄物処分と同様に放射性核種の濃度の減少を考慮して数百年間の管理を行うことに加え、管理期間経過後も処分場跡地の利用に伴い、人間と廃棄物が接触し安全上問題となるような被ばくが起きないようにしておくとともに、放射性核種の地下水による移行が十分抑制されていることにより、安全が確保されると考えられる。
今後、このような処分概念に関して、安全規制に関する基本的考え方、政令濃度上限値などについて検討し、これらを踏まえ関係法令の整備を行う必要がある。
対象廃棄物は、原子炉施設の運転、及び解体によって発生する。このうち、運転中には定期検査時などに使用済み制御棒などが廃棄物として発生し、現在は原子炉施設内に保管されている。また、原子炉施設の解体に関しては、昭和61年~平成8年に行われたJPDRの解体に伴って発生した対象廃棄物が日本原子力研究所内に保管されている。さらに、平成10年3月末でその営業運転を終了した日本原子力発電(株)東海発電所については、早ければ平成13年にも廃止措置に係る手続きが開始される計画であり、今後、原子炉施設の廃止措置に伴う解体が具体化していくことになる。
放射性廃棄物を安全かつ合理的に処分することは、これを発生した者の責務であり、発生した廃棄物の安全かつ合理的な処分が先延ばしされることなく実施される必要がある。したがって、以上のような状況を踏まえ、原子炉設置者においては実施体制など対象廃棄物の処分の具体化に係る検討を行うとともに、国においては対象廃棄物の処分に係る制度整備を図り、早期に処分に着手できるよう取り組むことが重要である。具体的には、今後の廃止措置に関するスケジュールも踏まえ、2000年頃を目途に、原子炉設置者は、実施体制を含めて対象廃棄物の処分計画の明確化を図るよう取り組むとともに、国は、安全確保に係わる関係法令の整備を行うことが重要である。また、このような取り組みは、原子力利用に対する国民の信頼を得る上からも重要である。
本報告書においては、原子炉施設から発生する放射性廃棄物のうち、現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物について検討を行った。原子力利用の一つに放射性同位元素(以下「RI」という。)の利用があるが、「RI・研究所等廃棄物処理処分の基本的考え方について」(原子力バックエンド対策専門部会平成10年5月)で述べたように、RIの利用形態の一つである線源などが放射性廃棄物として処分される場合に、発電所廃棄物について定められた現行の政令濃度上限値を超える放射性廃棄物に相当する廃棄物が発生すると考えられる。このうち、60Co(半減期約5年)、イリジウム192(192Ir)(半減期約74日)のような半減期が数年以下の密封線源などは、処分の前に一定期間保管することによって放射性核種濃度を十分減少させれば、現行の低レベル放射性廃棄物として取り扱うことが可能であると考えられる。したがって、現在使用されている線源などのうち、処分の時点で現行の政令濃度上限値を超える放射性廃棄物になると考えられるのは、医療器具の滅菌などに使われる137Csを用いた線源の一部や、研究用に使われる3Hのターゲットの一部であると考えられる。これらの廃棄物の放射性核種濃度は、対象廃棄物と同程度であると考えられ、2030年時点で200㍑ドラム缶換算で約1600本程度が発生すると推定される1)。137Csを用いた線源、3Hのターゲットは、それぞれ単一の放射性核種のみを含み、その核種はいずれも対象廃棄物に含まれる核種であるため、この廃棄物についても、前章まで検討してきたような対象廃棄物と同様な処分を行うことが適当である。
このようなRI廃棄物については、放射線障害防止法によって規制されているが、前章まで検討した原子炉施設から発生する放射性廃棄物について規制している原子炉等規制法と整合性を図りつつ、関連する法令整備を行う必要があると考えられる。
なお、このようなRI廃棄物の処分費用の確保などについても、RI・研究所等廃棄物事業推進準備会を中心に、検討を行う必要がある。
1)線源を200㍑ドラム缶に収め、セメントを充填して固型化することを想定した。
原子炉施設の運転及び解体に伴って発生する放射性廃棄物のうち、処分方策が確立していなかった現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物の処分方策について、検討を行い、基本的考え方を取りまとめた。
原子炉設置者、及びRI・研究所等廃棄物事業推進準備会などは、処分が着実に行われるよう、実施体制の整備や処分費用の確保など、処分事業の具体化に向けた諸準備に早急に着手することが重要である。また、当専門部会としては、本報告書で示した処分方法により、対象廃棄物を安全かつ合理的に処分できると考えているが、この処分方法に対して適用される安全規制についての基本的考え方、また処分できる放射性廃棄物の濃度上限値などについて、今後原子力安全委員会において検討が行われることを期待する。この結果を踏まえつつ、国は、遅滞なく必要な制度の整備を図ることが重要である。
放射性廃棄物処分事業の実施に当たっては、安全が確保されるとともに、処分事業に対する国民の理解が得られ、国民はもちろん立地地域に受け入れられなければならない。このため、このような一連の取り組みにあわせて、対象廃棄物の処分に関する的確かつ分かりやすい情報を提供していくことが不可欠である。特に対象廃棄物は、原子炉施設の運転や解体に伴って発生する廃棄物の一部であるため、原子炉施設の運転や解体に伴い、全体としてどのような廃棄物が発生し、それぞれどのように処分されるか、という点についても、併せて情報提供を行うことも重要であると考えられる。今後、このような点を踏まえ、原子炉設置者及び処分事業主体が中心となり、積極的な情報提供を行うとともに、国においても当該事業の必要性や安全確保の考え方などについて、国民の理解が得られるように取り組みを進めていくことが重要である。また、前述したように、廃棄物の処分が開始された後についても、処分に関する記録が保存されることはもちろん、これが適切に公開されることは、処分事業についての社会的な安心と信頼を得る上からも重要であり、今後、処分に関する記録の効果的な保存と公開のあり方について検討を行うことが必要である。
このように、制度が整備され、また処分事業に関わる情報が的確に提供されることにより、処分事業全体についての透明性が確保されることが、国民の理解を得て処分を実施するうえで不可欠であると考える。