資料(専) 15-5

 
 
 
 
 
 
 
 
現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物処分
に関する検討状況について
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


1. はじめに
 
2. 対象廃棄物処分に関する安全確保の考え方
 
 2.1. 放射性廃棄物処分の基本的考え方
 
 2.2. 対象廃棄物の特徴
 
 2.3. 対象廃棄物処分の基本的考え方
 
 2.4. 処分施設概念
 
 2.5. 管理期間中の管理のあり方
 
 2.6. 管理期間経過後の安全確保
  2.6.1. 管理期間経過後の人間の活動に対する安全確保
   2.6.1.1. 一般的な地下利用に対して十分余裕を持った深度への処分
   2.6.1.2. 処分施設に達する地下利用の回避
   2.6.1.3. その他の地下利用に対する対策
   2.6.1.4. 人間が廃棄物と接触する場合の被ばく線量の試算例
  2.6.2. 管理期間経過後の放射性核種の地下水移行に対する安全確保
 
3. 処分事業の責任分担の在り方、諸制度の整備等について
 
 3.1. 責任分担の在り方と実施体制
 
 3.2. 処分費用の確保
 
 3.3. 関係法令の整備
 
 3.4. 実施スケジュール
 
4. RI廃棄物について
 
5. まとめ
 
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現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物処分の考え方


1. はじめに
 原子炉施設(実用発電用原子炉、試験研究用原子炉等)の運転に伴って発生する低レベル放射性廃棄物には、廃液をセメント等で均一に固型化した廃棄物や、定期検査時の補修等で発生する金属、保温材、フィルタ、プラスチック等の固体状廃棄物がある。これらの廃棄物の大部分は、その放射性核種濃度が「核原料物質・核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律施行令」第13条の9に規定された濃度(以下「現行の政令濃度上限値」という)を下回り、このうち実用発電用原子炉の均一に固型化された廃棄物については、平成4年度より、日本原燃(株)六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターにおいて人工構築物(コンクリートピット)による浅地中の処分が開始されており、その他の固体状廃棄物についても、同埋設センターに処分することが計画されている。また、日本原子力研究所動力試験炉(JPDR)の解体に伴って発生したコンクリート廃棄物のうち極低レベル放射性廃棄物については、「人工構築物を設けない浅地中処分」により埋設実地試験が実施されている。
 一方、原子炉施設の運転に伴って、使用済制御棒等、その放射性核種濃度が現行の政令濃度上限値を上回る廃棄物が発生しており、また、今後実施される原子炉施設の解体に伴い炉内構造物等の一部から同様の廃棄物が発生することとなる。これらの廃棄物については、これまでその処分方策は確立されておらず、制度は整備されていない。したがって、原子炉施設からの廃棄物のうち、現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物(以下「対象廃棄物」という)の安全かつ合理的な処分を実施するため、その処分方策を確立して、諸制度の整備を図り、最終処分に向け具体的に取り組むことが必要である。

2. 対象廃棄物処分に関する安全確保の考え方
 2.1. 放射性廃棄物処分の基本的考え方
 放射性廃棄物の処分は、廃棄物に含まれる放射性核種が生活環境に対して及ぼす影響を未然に防止することを目標として行われるべきものである。このため、処分方法に適した形態に処理した後、その放射性核種の濃度が時間の経過に伴って減少して安全上問題がなくなるまでの間、生活環境から安全に隔離することが処分の基本となる。この処分の安全性は、廃棄物に含まれる放射性核種が放出する放射線の種類(α線、β線、γ線)、放射性核種の半減期の長短、放射性核種が地中を移行する速さを左右する因子である土壌や岩石への核種の吸着性の大小などに影響される。したがって、廃棄物の生活環境からの隔離方法及び期間は、廃棄物の性状、特にそれに含まれる放射性核種の種類及び濃度を考慮して設定する必要がある(参考-1)。長半減期のα核種の濃度が低くβγ核種の濃度も低い低レベル放射性廃棄物(例えば、六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターで処分を現在実施中あるいは計画中の低レベル放射性廃棄物)については、例えば、地下数m程度の浅地中のコンクリートピットに処分し、時間の経過に伴う放射性核種濃度の減少に応じた段階的管理が行われる。α核種及びβγ核種の濃度がいずれも高い、再処理施設において使用済燃料から分離される高レベル放射性廃棄物については、物理的に生活環境から十分離れた安定な地層1)に長期にわたって安全に隔離する地層処分が検討されている。また、再処理施設等から発生するTRU核種(超ウラン核種)を含む廃棄物については、全α核種濃度が約1GBq/tの値を区分目安値として設定し2)、この区分目安値を踏まえた処分方法の検討が行われている。
(参考-2、3)

 2.2. 対象廃棄物の特徴
 原子炉施設の運転と解体に伴い、使用済制御棒や炉内構造物等の放射性廃棄物が発生するが、これらのうち一部は、含まれる放射性核種の濃度が現行の政令濃度上限値を超える。このような廃棄物の大半は、ステンレス鋼等の金属が燃料近傍で中性子照射されて生じた放射化金属3)であり、その累積発生量は、2030年時点で約2万m(200㍑容器に換算すると約10万本)と推定される(参考-4)。この廃棄物の主要な放射性核種は、放射化によるものとしてはH、14C、60Co、63Ni、94Nb等であり、その他に汚染による90Sr、137Cs等がある。
 これらの廃棄物に含まれる放射性核種の濃度を、廃棄物が発生した時点で整理すると、政令で規定されている種類のβγ核種濃度については、その平均値がそれぞれ現行の政令濃度上限値をおよそ1~2桁、最大値がおよそ2~3桁上回り、α核種濃度は、最大でも現行の政令濃度上限値を下回ると推定される。
(参考-5)

1)高レベル放射性廃棄物処分では、従来より地質学上の堆積岩を指す「地層」と、地質学上は「地層」とみなされない「岩体」を含めて「地層」という用語を用いている。
2)「区分目安値」は、浅地中処分される可能性がある放射性核種濃度の上限に関する一応の目安値として、平成3年原子力委員会報告書「TRU核種を含む放射性廃棄物の処理処分について」に示されているものであり、原子炉施設から発生する放射性廃棄物の全α核種の現行の政令濃度上限値を目安に設定されている。
3)金属材料に中性子が照射されることによって、その原子の一部が放射線を放出する性質を持つ原子に変わったもの。


 2.3. 対象廃棄物処分の基本的考え方
 対象廃棄物の安全な処分方策を検討するため、まず、放射性核種の濃度が現行の政令濃度上限値以下の低レベル放射性廃棄物(以下「現行の低レベル放射性廃棄物」という)について実施されている処分と同様の浅地中のコンクリートピットへの処分を行った場合の一般公衆の被ばく線量について、現行の政令濃度上限値を設定した際に用いられた評価シナリオを適用して試算を行った。即ち、廃棄物を地表面から深さ3mより下に設けられたコンクリートピットに処分し、300年の管理期間を置き、放射性核種の濃度の低減を図り、管理期間経過後について、
  ① 処分場跡地において住居を建設する人の被ばく
  ② 処分場跡地において建設された住居に居住する人の被ばく
  ③ 放射性核種が地下水とともに河川に移行しその水を介して受ける被ばく
を試算した。
(参考-6)

 その結果、処分を開始する時点で放射線被ばくに大きな寄与をすると考えられる短半減期の60Co等は、300年の管理期間中に、現行の低レベル放射性廃棄物と同様、その濃度が十分減少する。一方、これらに比べて半減期が長い核種の場合には、管理期間経過後に想定される上記①から③の被ばく線量は、原子力安全委員会において示されている「被ばく管理の観点からは管理することを必要としない低い線量」である10μSv/y(以下「目安線量」という)を超過するが、最大で数mSv/yのオーダーである1)
(参考-7)

 したがって、対象廃棄物を安全に処分するためには、現行の低レベル放射性廃棄物処分と同様に放射性核種の濃度の減少を考慮して数百年2)の間管理を行うことに加え、管理期間経過後も処分場跡地の利用に伴う過度の被ばくが起こるような人間と廃棄物の接触が起きないようにあらかじめ措置するとともに、放射性核種の地下水による移行が十分抑制されていることが必要である。
 このため、具体的には、管理期間中は、一般公衆の被ばく線量を法令に定める線量限度を超えないことはもとより合理的に達成できる限り低く抑え、管理期間経過後は、上記①から③のような一般的と考えられる事象に対して「目安線量」である  10μSv/yを超えないようにすることを基本3)として、処分場の管理期間中及び管理期間経過後を想定してそれぞれについて以下のような対策を講ずることが必要であると考えられる。
 なお、実際の管理期間の長さについては、放射性核種濃度の減少等を考慮して適切に設定される必要がある。

1)自然放射線による被ばくは、空気中のラドンからのもの約1.3mSv/yを含めて、約2.4mSv/yである(1998年国連科学委員会報告より)。国内における地域差は約0.4mSv/yの範囲である。
2)昭和63年原子力安全委員会「放射性廃棄物埋設施設の安全審査の基本的考え方」(解説)において、原子炉施設から発生する廃棄物中に含まれる放射性核種のうち、量が多く、処分施設の放射線防護上重要な60Co、137Cs等は、300~400年経過すれば一千分の一から一万分の一以下に減衰しこれらの放射性核種の量は極めて少なくなることや、外国における例も参考として、「有意な期間」内に終了し得る管理期間の長さとしては、300~400年を目安として用いることとされている。
3)昭和62年放射線審議会「放射性固体廃棄物の浅地中処分における規制除外線量について」において、「特定の事象に対する個人線量の算定結果が10μSv/yを超える場合であっても、当該事象の発生頻度が小さく、その事象から受ける個人のリスクが十分低いときは、このようなケースについても規制除外する際の判断基準を満たしているものと考えるのが適当である」とされている。


  <管理期間中>
  <管理期間経過後>
 管理期間経過後の安全を確保するため、様々な人間の活動により人間が廃棄物に接触して生じる被ばくと、地下水による放射性核種の移行によって生じる被ばくに対し、あらかじめ次の対策を講じておく必要がある。
 ① 人間の活動によって発生する被ばくについて
  • 人間の活動によって発生する被ばくについては、まず住居の建設や居住のような一般的であると考えられる事象に対しては、それが起こっても人間が廃棄物に接触することのないような処分深度を確保する。さらに、その他の事象についてもできるだけ起こることのない深度に処分することによって、人間が廃棄物に接触する可能性を十分小さくするとともに、万一人間が廃棄物に接触した場合でも安全が確保できるよう過度の被ばくが起きないようにする。
 ② 地下水による放射性核種の移行による被ばくについて
  • 地下水による放射性核種の移行については、地下水流速が十分小さい地中に処分施設を設置し廃棄物を処分することや、地質条件等によっては人工材料のバリアの核種閉じ込め機能をより高くすることにより、放射性核種の処分施設からの漏出や地中での移行を抑制する。
    このような対策は、後述するように、
    実現できるものと考えられる。
     以下、具体的な処分施設概念、必要な管理方法、適切な処分深度等について検討する。

 2.4. 処分施設概念
 地下数十m程度の深度で考えられる処分施設としては、海外及び我が国の地下施設を参照すると、トンネル型あるいはサイロ型(円形立坑)のような地下空洞が考えられる。
(参考-8)

トンネル型やサイロ型の地下空洞施設の技術的な成立性については、既に類似の処分施設が海外で施工されていることや、我が国においても地下水力発電所や大規模なトンネルが既に存在しており、設計及び施工技術上の問題はないと考えられる。
なお、海外における放射性廃棄物の処分施設として、現在操業中のもののうちスウェーデンのSFRやフィンランドのVLJは、60~100m程度の深度であり、スウェーデンではサイロ型とトンネル型、フィンランドではサイロ型が採用されている。
(参考-9)

 2.5. 管理期間中の管理のあり方
数百年間の廃棄物処分場の管理期間中の安全確保については、①廃棄物を処分する地下空洞(以下「処分空洞」という)の埋め戻しが終わるまでは、廃棄物からの直接γ線等を防ぐ被ばく管理を行うとともに、放射性核種が処分施設から外に漏出しないことを監視する必要がある。また、処分空洞の埋め戻し後は②放射性核種が処分施設から生活環境へ移行することが抑制されていることを所要の期間監視するとともに、③一般公衆が廃棄物に接触することを防止するため、当該区域での特定行為の制約又は禁止等の管理を行う必要がある。このような管理の具体的な方法について、トンネル型とサイロ型の処分施設の例を想定して検討した。         
(参考-10)

  <処分施設の建設、廃棄物の定置、処分施設の閉鎖等の手順>
対象廃棄物を処分空洞(トンネル型あるいはサイロ型)に処分するに当たっては、まず、地表から処分空洞の深度に至るための接近坑道と、この深度で処分空洞の建設や廃棄物の搬入に利用される作業坑道を掘削することになる。接近坑道や作業坑道は、処分が行われている期間継続して使用されると考えられる。これに対して処分空洞は廃棄物の量に応じて複数本(個)建設されることが考えられるため、処分空洞の建設、空洞への廃棄物の定置、埋め戻しは、複数の処分空洞で並行して実施され、接近坑道等が埋め戻されるのは、全ての処分空洞への廃棄物の定置、及び処分空洞の埋め戻し等が終わった後になる。

  <管理の内容>
以上のような処分施設の建設、廃棄物の定置、処分施設の埋め戻し作業等の手順を前提とし、初期のβγ核種濃度が高いことを踏まえれば、以下のような管理を行うことが必要であると考えられる。
(参考-11)

なお、処分施設の建設においては、天然バリアの一部である周辺岩盤への影響も考慮した施工管理を行うことが必要である。

(a) 廃棄物の搬入に伴う管理
初期のβγ核種の濃度が高い状態の廃棄物を扱うことになることから、廃棄物からの直接γ線等による被ばくを低減するための管理を行うことが必要である。
(主な管理内容の例)
  • 被ばく管理のための敷地内及び接近坑道への立ち入り制限(なお、これは管理期間中継続される)。
(b) 廃棄物の定置作業中の処分空洞を対象とした管理
この段階においては廃棄物が天然バリアに完全には囲まれていないため、天然バリアの機能によらず、コンクリートの人工構築物等(人工バリア)により安全を確保する、即ち放射性核種を人工バリアより外へ漏出させないこととなるので、この人工バリアの健全性を確認する必要がある。
(主な管理内容の例)
  • 人工バリアの巡視及び点検(廃棄物の定置作業開始後は遠隔にて実施)
  • 処分空洞からの放射性核種の漏出の監視のための湧水の採取・測定
(c) 埋め戻された処分空洞を対象とした管理
人工バリアと天然バリアにより安全を確保する、即ち放射性核種の移行を抑制する段階であり、そのバリアの機能が安全設計上要求されていたものと同等以上であることを確認する必要がある。
(主な管理内容の例)
  • 処分空洞と作業坑道の境界に設置されるコンクリート壁1)の巡視及び点検
  • 処分空洞からの放射性核種の移行の監視のための湧水の採取・測定
  • 処分空洞周辺に設けた地下水監視孔等を用いた地下水の流動状況の観測と放射性核種の移行の監視
(d) 接近坑道を含む処分施設全体を埋め戻した後の管理
主に天然バリアにより安全を確保することとなるが、地下水監視孔等を用いた地下水の流動状況の観測と放射性核種の移行の監視は埋め戻し後も所要の期間継続し、天然バリア機能の確認を行う。その後は、廃棄物への人間の直接の接近を防止することを主体とした管理を行う必要がある。
(主な管理内容の例)
  • 所要の期間の地下水監視孔等を用いた地下水の流動状況の観測と放射性核種の移行の監視
  • 処分施設の掘削等を防止するための地上における特定行為の制約・禁止
(e) 処分に関する記録の保存
現行の低レベル放射性廃棄物の処分においては、処分に関する記録は、管理期間中、事業者及び国(国の指定機関を含む)において保存される。なお、事業者が管理を終了し廃棄物埋設事業を廃止する際には、事業者から国に記録が引き渡され、その後も、処分場の所在地、処分された廃棄物の性状及び数量、含まれる放射性核種の濃度等の処分に関する記録が、国において期限を切らずに保存される。

以上のように数百年間の管理を行い、被ばく管理の観点からは処分場を管理することを必要としないことが国によって確認された後、管理が終了されることとなる。


1) 処分空洞を埋め戻す際、埋め戻し材の崩落と、湧水が作業坑道に流入することを防ぐために、その境界にコンクリート等の壁が設置される。

 2.6. 管理期間経過後の安全確保
特別な管理を必要とする管理期間が終了した後に想定される一般公衆の被ばくは、
  ① 様々な人間の活動によって処分された廃棄物に人間が直接接触する事象
  ② 処分された廃棄物に含まれる放射性核種が地下水によって生活環境まで移行する事象
に起因して生じる。このような事象に対する安全を確保するためには、2.3で述べたように、①の人間の活動によって発生する被ばくについては、人間が廃棄物に直接接触することによる過度の被ばくが起きないようにあらかじめ措置することが必要であり、②の放射性核種の地下水による生活環境への移行によって発生する被ばくについては、放射性核種の処分施設からの漏出と地中の移行が抑制されていることが必要である。

  2.6.1. 管理期間経過後の人間の活動に対する安全確保
   2.6.1.1. 一般的な地下利用に対して十分余裕を持った深度への処分
 人間の活動については、現行の政令濃度上限値を定めた際に想定している地下数m程度の浅地中処分施設に対象廃棄物を処分した場合を想定すると、一般的な土地利用であると考えられる住居の建設工事等が行われると目安線量を超える被ばくが生じる可能性がある。したがって、このような被ばくを防ぐためには、一般的な地下利用に対して、十分な余裕を持った深度に処分することが必要である。
 一般的な地下利用の形態に、地上の構築物を支持する基礎の設置と地下室の建設がある。このうち大部分は住居等であり地下数mの範囲の利用である。この他に、必ずしも一般的であるとは考えられないが、大都市部を中心に、高層建築物の基礎や深い地下室によってこれより深い深度までの利用が行われている。将来このような土地利用に伴う被ばくが起きないようにあらかじめ措置すると共に一般の土地所有者による土地利用に制限を加えなくてすむよう、処分施設はこのような地下利用をも避ける深度に設置されるべきである。高層建築物等の基礎の設置深度は、これを支えることができる支持層1)が存在する深さによって決まる。一方、地下室については現在例えば東京都における一般住宅を除いた地下室を持つ建築物の99%以上が地下3階までであり、最も深いものでも地下30m(国会図書館-地下8階)となっている2)。これらの地下利用の実態を踏まえ、高層建築物の基礎が設置される支持層の上面又は地下室の深さに、これらの健全性を妨げないために必要な離隔距離を確保することが必要であると考えられる。
また、地下鉄、上下水道、共同溝などの施設のために利用されている深度は、地表付近から順次利用が進んでいるが、大都市においても大部分は50m程度以浅である。このように、地下利用は深度に伴って急激に減少し、50m以深の利用は極めて少ない。
(参考-12)

 したがって、具体的な処分深度は立地場所の地質条件等により異なると考えられるが、現在の大都市における地下利用の状況を踏まえても、支持層の上面よりも深く、これに基礎の健全性を妨げないための離隔距離を確保し、例えば地表から50~100m程度の深度の地下に処分すれば、住居建設等の一般的な地下利用はもとより高層建築物等の建設によっても人間が廃棄物に接触することは避けられ、また、地下鉄、共同溝等による利用を含めても、人間が廃棄物に接触する可能性は十分小さくなると考えられる。

1)建築物を支持することができる一定の支持力のある地盤。ここでは高層建築物の荷重を支えることができる支持層を想定。
2)「臨時大深度地下利用調査会 中間取りまとめ」平成9年より

   2.6.1.2. 処分施設に達する地下利用の回避
 前項で検討した対象廃棄物を処分する深度の地下空間について、都市部においては地下鉄、上下水道、共同溝等への利用の可能性が現在検討されており、また都市部以外においては、既に山岳トンネル、地下発電所、地下石油備蓄施設などの利用例がある。このような深度の地下利用を計画する場合には、通常、「立地条件調査」、「支障物件調査」、「地盤調査」等の様々な調査が事前に行われる(参考-13)。限定された区域での大規模な空洞である地下発電所等のドーム状構造物と、経過地域が長大であり複雑多様な地質構造に対処するトンネル等の線状構造物とでは調査項目が異なるが、前述したとおり、処分に関する記録が管理期間経過後も期限を切らずに国において保存されることや、処分施設が適切な地質条件の地中を選んで設置されること、想定される処分施設の規模等を考慮すれば、これらの調査によって処分施設の存在が十分認知されるものと考えられる。
加えて、処分に関する記録が適切に保存、公開され、地下利用を企画する者がこれに容易にアクセスできるようになっていれば、大規模な開発行為とそれに伴う被ばくに至る前に地下利用の計画が変更される、ないしは処分施設の認知につながる適切な調査計画が立てられる確実性がいっそう高まると考えられる。また、対象廃棄物処分の安全性に関して社会的に安心を得るという観点からも記録の保存は重要であると考えられるので、管理期間経過後における処分に関する記録の効果的な保存と公開のあり方について検討を行うことが必要である。

   2.6.1.3. その他の地下利用に対する対策
 この他に、地下の天然資源を採取することを目的とした地下利用も考えられるため、予め将来利用が可能と考えられる地下の天然資源が存在しない場所を処分場に選定することによって、このような地下利用による人間と廃棄物の接触を避けるべきである。

   2.6.1.4. 人間が廃棄物に接触する場合の被ばく線量の試算例
 以上より、具体的な処分深度は立地場所の地質条件等により異なると考えられるが、地下資源の存在状況を考慮するとともに、支持層の上面よりも深く、基礎の健全性を妨げないための離隔距離を確保した、例えば地表から50~100m程度の深さに処分することにより、将来の人間の活動によって人間が廃棄物に接触して被ばくする可能性は十分小さいと考えられる。
 処分施設を含む地下の利用が計画された際に、処分の記録が入手されなかった等の理由で処分施設の存在が初期段階で認知されず、調査が進行し、処分施設に到達するボーリング調査等が行われ、ボーリングコア等を通じて人間が廃棄物に接触が発生するような場合を想定しても、300年の管理期間経過時点のボーリングコアの観察に伴う被ばくは、一定の仮定を置いて試算すると数十μSvのオーダーであり、過度の被ばくが起きることはないと考えられる。     
(参考-15)
  2.6.2. 管理期間経過後の放射性核種の地下水移行に対する安全確保
 対象廃棄物はβγ核種の濃度が現行の政令濃度上限値より高いので、現行の低レベル放射性廃棄物と同様の処分を行った場合には、14C等を含む地下水が流入した河川水の利用によって、一般公衆に対し目安線量を超える被ばくが生じる可能性がある。したがって、このような被ばくを十分抑制するためには、現行の低レベル放射性廃棄物と比べ、放射性核種の生活環境への移行をより一層抑制する対策をとる必要がある。この対策としては、現行の低レベル放射性廃棄物処分施設のコンクリートピットと同等以上の核種閉じ込め機能を持った処分施設を、放射性核種の移行抑制機能の高い地中に設置することを基本として考えることが合理的である。特に、放射性核種の移行抑制としては、処分施設周辺の土壌等による移行抑制を基本にし、処分施設周辺に設置された難透水性材料等を適切に組み合わせた安全確保策が考えられる。
具体的には、以下の方策が考えられる。
 対象廃棄物に対する上記対策による被ばく線量の試算結果によれば、天然の土壌等の機能によって十分小さい地下水流速が確保される場合には、天然の土壌等のみによって、また、天然の土壌等の機能だけでは不十分な場合においても難透水性材料等による核種閉じ込め機能の向上によって、または、これらの組み合わせによって、放射性核種の処分施設からの漏出と生活環境への移行が抑制され、一般公衆の安全が確保できると考えられる。
(参考-14、15)

 なお、このような処分深度を想定した処分概念に対し、どのような安全評価を行い、政令の濃度上限値等についてどのような基準を適用すべきか等について、今後検討が必要である。

1)地下水の流れを起こす水圧差。一定の距離当たりの水圧差で表される。

3. 処分事業の責任分担の在り方、諸制度の整備等について
 3.1. 責任分担の在り方と実施体制
 対象廃棄物は、前述したような処分概念を採用することで、数百年間で管理が終了する処分を行うことが可能であると考えられる。したがって、対象廃棄物の処分に係る実施体制と責任分担については、現行の低レベル放射性廃棄物処分と同様の考え方をとることが適当である。
 即ち、対象廃棄物はその発生者の責任において安全かつ合理的な処分が実施されることが原則であり、対象廃棄物の発生者たる電気事業者や試験研究用原子炉等の設置者(以下「原子炉設置者」という)には、その責任を踏まえ、処分計画の作成、処分費用の確保等の適切な取り組みが求められる。経済的、技術的に十分な能力のある専門の事業者(以下「廃棄事業者」という)が、廃棄物を集中的に処分する場合については、廃棄事業者が処分の安全確保に関する法律上の責任を負うことになるが、発生者は適切に廃棄事業者に支援を与えること等により安全な処分に万全を期すことが必要である。
 また、国は、対象廃棄物の処分に係る安全基準・指針の整備等を図り、これに基づく厳正な規制を行うと共に、原子炉設置者や廃棄事業者において、対象廃棄物の管理や処分が適切に行われるよう、関連法令に基づくこれらの事業者への指導監督等の必要な措置を講ずることとする。
 なお、試験研究用原子炉等から発生する対象廃棄物を含む研究所等廃棄物の処分の実施体制等については、RI・研究所等廃棄物事業推進準備会1)を中心に検討が行われることとなっており、同準備会は、関係機関とも十分連携し、確実に処分が実施できる体制を整備することが重要である。

1) RI・研究所等廃棄物の処分の実施スケジュール、実施体制、資金の確保等について検討を進めるために、平成9年10月に日本原子力研究所、動力炉・核燃料事業団及び(社)日本アイソトープ協会により設置された。

 3.2. 処分費用の確保
 前述のとおり、対象廃棄物は、その発生者たる原子炉設置者の責任の下で安全かつ合理的に処分されることが原則であり、原子炉設置者はこれに必要な適正な費用を確保しなければならない。
 特に、実用発電用原子炉施設の解体に伴う廃棄物処分の費用は、施設を廃止した後に発生するが、これは発電に伴う費用であり、あらかじめその運転中に確保しておくべき性質のものであるが、対象廃棄物の処分概念が定まっていなかったこと等により、合理的積算ができていない。したがって、今後、合理的積算を行った上で対象廃棄物の処分費用の確保を図っていく必要がある。
 また、試験研究用原子炉等から発生する対象廃棄物に関しては、今後、RI・研究所等廃棄物事業推進準備会を中心に、処分費用の確保の具体的方法について検討を行う必要がある。

 3.3. 関係法令の整備
 対象廃棄物の処分は、現行の低レベル放射性廃棄物処分と同様に放射性核種の濃度の減少を考慮して数百年間の管理を行うことに加え、管理期間経過後も処分場跡地の利用に伴う過度の被ばくが起こるような人間と廃棄物の接触を防止するとともに、放射性核種の地下水による移行を抑制することにより、安全が確保されると考えられる。
今後、このような処分概念に関して、安全規制に関する基本的考え方、政令の濃度上限値等について検討し、これらを踏まえ関係法令の整備を行う必要がある。

 3.4. 実施スケジュール
 対象廃棄物は、原子炉施設の運転、及び解体によって発生する。このうち、運転中には定期検査等において使用済制御棒等が廃棄物として発生し、現在は原子炉施設内に保管されている。また、原子炉施設の解体に関しては、昭和61年~平成8年に行われたJPDRの解体に伴って発生した対象廃棄物が日本原子力研究所内に保管されている。さらに、平成10年3月末でその運転を終了した日本原子力発電(株)東海発電所については、早ければ平成13年にも廃止措置に係る手続きが開始される計画であり、今後、原子炉施設の廃止措置に伴って解体が順次行われるものと考えられる。
 放射性廃棄物を合理的かつ安全に処分することは、これを発生した者の責務であり、発生した廃棄物の安全かつ合理的な処分が先延ばしされることなく実施される必要がある。したがって早急に対象廃棄物の処分に係る制度整備を図り、処分に着手することが重要である。また、このような取り組みは、原子力利用に対する国民の信頼を得る上からも重要である。

4. RI廃棄物について
 放射性同位元素(以下「RI」という)の利用形態の一つである密封線源のうち、  3H、137Csを用いた線源の一部も、現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物に相当すると考えられる。その発生量は、200㍑容器換算で2030年時点で約1600本程度と推定される。この廃棄物についても、以上検討してきたような対象廃棄物と同様な処分を行うことが適当である。  なお、このようなRI廃棄物の処分費用の確保等についても、RI・研究所等廃棄物事業推進準備会を中心に、検討を行う必要がある。

5. まとめ
  (1)
原子炉施設の運転に伴い、その放射性核種濃度が現行の政令濃度上限値を上回る廃棄物が発生しており、また、今後実施される原子炉施設の解体に伴い同様の廃棄物が発生することとなる(以下「対象廃棄物」という)。このような廃棄物の大半は、燃料近傍で中性子照射されて生じた使用済制御棒や炉内構造物等の放射化金属であり、その累積発生量は、2030年時点で約2万m3(200㍑容器に換算すると約10万本)と推定される。これらの廃棄物のβγ核種濃度は、平均値がそれぞれ現行の政令濃度上限値をおよそ1~2桁、最大値がおよそ2~3桁上回り、α核種濃度は最大でも現行の政令濃度上限値を下回ると推定される。
  (2)
対象廃棄物について現行の低レベル放射性廃棄物と同様の浅地中のコンクリートピットへの処分を行った場合の一般公衆の被ばく線量を試算した結果、60Co等は300年の管理期間中にその濃度が十分減少する。一方、これらに比べて半減期が長い核種については、管理期間経過後に想定した事象における被ばく線量が目安線量(10μSv/y)を超過するが、最大数mSv/yのオーダーである。
  (3)
したがって、対象廃棄物を安全に処分するためには、現行の低レベル放射性廃棄物処分と同様に数百年の間管理を行うことに加え、管理期間経過後も跡地の利用に伴う人間と廃棄物の接触が起こらないようにあらかじめ措置するとともに、放射性核種の地下水による移行が十分抑制されていることが必要である。この対策は、現行の低レベル放射性廃棄物が処分されているコンクリートピットと同等以上の核種閉じ込め機能を持った処分施設を、放射性核種の移行抑制機能の高い地中で、人間の活動による廃棄物との接触の可能性が十分小さいと考えられる地下数十m程度の深度へ設置することによって実現できるものと考えられる。なお、具体的な処分概念、必要な管理方法、適切な処分深度等については、後述する。
  (4)
地下数十m程度の深度における処分施設としては、トンネル型あるいはサイロ型のような地下空洞施設が考えられる。
  (5)
数百年間の管理期間中については、例えば、以下の管理を行うことが必要である。(a)廃棄物の搬入に伴う管理(廃棄物からの直接γ線等による被ばくの低減)、(b)廃棄物の定置作業中の処分空洞を対象とした管理(巡視等による人工バリアの健全性確認)、(c)埋め戻された処分空洞を対象とした管理(処分空洞からの湧水等の監視、地下水監視孔等を用いた地下水流動状況の観測と放射性核種の移行の監視等によりバリアの機能が安全設計上要求されていたものと同等以上であることを確認)、(d)接近坑道を含む処分施設全体を埋め戻した後の管理(廃棄物への人間の直接の接近を防止するための地上における特定行為の制約・禁止)、(e)処分に関する記録の保存
  (6)-①
管理期間経過後の、人間の活動によって発生する被ばくについては、一般的な地下利用に対して十分な余裕を持った深度に処分する必要がある。現在の大都市における地下利用の状況を踏まえても、高層建築物の支持層の上面よりも深く、これに基礎の健全性を妨げないための離隔距離を確保した、例えば地表から50~100m程度の深度の地下に処分することによって、住居の建設等の一般的な地下利用はもとより、高層建築物等の建設によっても人間が廃棄物に接触することは避けられ、また、地下鉄、共同溝等による利用を含めても、人間が廃棄物に接触する可能性は十分小さくなると考えられる。
  (6)-②
この様な深度の地下空間を地下鉄や地下石油備蓄施設等に利用する計画が立てられる可能性も考えられるが、そのような利用を行うためには、通常様々な調査が事前に行われる。処分に関する記録が管理期間経過後も期限を切らずに国において保存されること、処分施設が適切な地質条件を選んで設置されること、想定される処分施設の規模等を考慮すれば、これらの調査によって処分施設の存在が十分に認知されると考えられる。加えて、処分に関する記録が適切に保存、公開され、地下利用を企画するものがこれに容易にアクセスできるようになっていれば、大規模な開発行為とそれに伴う被ばくが起こらない確実性がいっそう高まると考えられる。また、対象廃棄物処分の安全性に関して社会的に安心を得るという観点からも記録の保存は重要であると考えられるので、管理期間経過後における処分に関する記録の効果的な保存と公開のあり方について、検討を行うことが必要である。
また、将来利用が可能と考えられる地下の天然資源が存在しない場所を処分場に選定することも重要である。
なお、処分施設に到達するボーリング調査等が行われ、ボーリングコア等を通じて人と廃棄物の接触が発生するような場合を想定しても、過度の被ばくが起こることはないと考えられる。
  (6)-③
放射性核種の地下水移行による被ばくについては、現行の低レベル放射性廃棄物と比べ、処分施設からの放射性核種の漏出を抑制する機能を高めるとともに、放射性核種の生活環境への移行を抑制する機能が高い地中を選ぶことが重要である。具体的には、難透水性材料等で処分施設の周囲を取り囲むことや、処分施設が設置される周辺の天然の土壌等における地下水流速の小さな地中を選ぶことにより、安全が確保できると考えられる。
  (7)
対象廃棄物は、その発生者たる電気事業者や試験研究用原子炉等の設置者(以下「原子炉設置者」という)の責任において安全に処分が実施されることが原則である。国は、安全基準・指針の整備等を図り、厳正な規制を行うと共に、関連法令に基づく事業者への指導監督等を行う。
  (8)
対象廃棄物の発生者である原子炉設置者は、処分に必要な費用を確保するほか、廃棄事業者に適切な支援を与えていくことが重要である。特に、実用発電用原子炉施設の解体に伴う廃棄物処分の費用は、施設を廃止した後に発生するが、これは発電に伴う費用であり、あらかじめその運転中に確保しておくべき性質のものである。したがって、今後、合理的積算を行った上で対象廃棄物の処分費用の確保を図っていく必要がある。
  (9)
ここで検討したような処分概念に関して、安全規制に関する基本的考え方、政令の濃度上限値等について検討し、これらを踏まえ関係法令等の整備を行う必要がある。
 (10)
原子炉施設の運転およびJPDRの解体に伴って発生した対象廃棄物は、現在既に原子炉施設に保管されており、また、今後早ければ平成13年にも実用発電用原子炉の廃止措置に係る手続きが開始される計画である。発生した廃棄物の安全かつ合理的な処分が先延ばしされることなく実施される必要があり、対象廃棄物の処分に係る制度整備を図り、処分に着手することが重要である。
 (11)
RIの密封線源の一部も、現行の政令濃度上限値を超えると推定されることから、対象廃棄物と同様の処分を行うことが適当である。また、処分費用の確保等については、RI・研究所等廃棄物事業推進準備会を中心に検討を行う必要がある。