資料(専)14-3




    
「低レベル放射性廃棄物(現行の政令濃度上限値を超えるもの)」処分の

検討状況について










               
平成10年2月5日





   
「低レベル放射性廃棄物(現行の政令濃度上限値を超えるもの)」の処分
に関する安全確保について


1. 対象廃棄物の特徴と処分方策の検討の進め方
 (1) 廃棄物の特徴
 商用原子力発電炉や試験研究炉等の運転・解体に伴い、使用済制御棒や炉内構造物等の放射性廃棄物が発生するが、これらのうちの一部は、含まれる放射性核種の濃度が原子炉等規制法施行令第13条の9に規定する濃度(以下「現行の政令濃度上限値」という。)を超えると推定されている。
 この廃棄物に含まれる放射性核種の濃度を、商用原子力発電炉や日本原子力研究所動力試験炉(JPDR)での運転状況等を考慮した放射化計算等により推定し、廃棄物が発生する時点における値で整理すると、政令で規定されているβγ核種の濃度については、平均値で現行の政令濃度上限値のおよそ1桁、最大濃度でおよそ2桁上回ると推定される。なお、α核種濃度は、最大でも現行政令濃度上限値を下回ると推定される。
このような廃棄物の大半は、ステンレス鋼等の金属が燃料近傍で中性子照射されて生じた放射化物であって、その累積発生量は、2030年時点で約2万m3と推定される。
(添付-1)

 主要な放射性核種は、放射化によるものとしては14C、60Co、63Ni、94Nb等であり、その他に汚染により生じる90Sr、137Cs等がある。これらは、六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターで埋設処分を現在実施中あるいは計画中の低レベル放射性廃棄物の主要な核種の種類と特に異なるものではない。
(添付-2)

 (2) 検討の進め方
 前項で述べた通り、「低レベル放射性廃棄物(現行の政令濃度上限値を超えるもの)」は、現行の政令濃度上限値に比べ、βγ核種の濃度は高いが、α核種の濃度は現行政令濃度上限値を下回り、処分を実施中あるいは計画中の低レベル放射性廃棄物と核種の種類が特に異なるものではないことから、放射性核種の濃度の減少を考慮した現行の低レベル放射性廃棄物処分で適用されている安全確保の考え方(添付-3、4)を参照しながら、処分の見通しについて検討を行った。
 即ち、廃棄物中の放射性核種の濃度が時間とともに減少することを踏まえ、現在実施されている低レベル放射性廃棄物処分と同様に、管理期間(300~400年)を設けて段階管理を行うことによる安全確保の見通しについて検討を行った。

2. 検討結果
 処分に係る安全確保の見通しを得るためには、処分場の管理期間中の安全確保と管理終了後の安全確保について検討する必要がある。管理期間中の安全確保は放射性物質の処分施設からの漏出及び生活環境への移行の監視、当該区域での特定行為の制約又は禁止等の管理によると考えられるが、どのような管理が必要であるかは処分概念によって異なる。その処分概念は、低レベル放射性廃棄物の浅地中処分における経験等を踏まえれば、管理期間終了後の安全確保策に依存すると考えられるため、まず管理期間終了後の安全確保について検討した。
 特別な管理を必要としない管理期間終了後に想定される一般公衆の被ばくは、
  ①
埋設された廃棄体に含まれる放射性物質が地下水によって生活環境まで移行する事象
  ②
埋設された廃棄体が人間の様々な活動等により人間と直接接触するような事象
に起因して生じる。そこで、①の事象である地下水移行シナリオ、及び②の事象である人間侵入シナリオに関わる安全確保策を検討した後、これに適合する処分施設概念、及び処分施設概念に応じた管理の方法について検討した。

 (1)地下水移行シナリオに関わる安全確保策
 今回審議対象の廃棄物はβγ核種の濃度が現行の政令濃度上限値より高いので、施設からの放射性物質の漏出を抑制する機能と、放射性物質の生活圏への移行を抑制する機能を、現行の低レベル放射性廃棄物を処分する処分施設より向上させる必要がある。このため、処分場周辺の土壌等による移行抑制を基本にし、処分施設周辺に設置された人工の難透水性材料等を適切に組み合わせた安全確保策が考えられる。
 具体的な方策としては、次のものが考えられる。
 今回の審議対象廃棄物に対する上記対策による線量の試算結果によれば、天然の土壌等の機能によって十分小さい地下水流速が確保される場合には、天然の土壌等のみによって、また、天然の土壌等の機能の向上が十分見込めない場合においても人工の難透水性材料等の機能の向上によって、または、これらの組み合わせによって、一般公衆の安全が確保できる見通しが得られると考えられる
(添付-5、6)

 (2) 人間侵入シナリオに係わる安全確保策
  ① 処分深度の基本的考え方
 今回審議対象の廃棄物はβγ核種濃度が高いため、60Co等の主要なβγ核種の濃度が十分減少した後もγ線を放出する94Nb等の影響により、現行政令濃度上限値を定めた浅地中処分施設に埋設した場合を想定すると、住居等を建設するために埋設廃棄体に到達するような掘削が行われた場合、現在の低レベル放射性廃棄物と同様な程度の期間で管理を終了することが困難であると考えられる。従って、この廃棄物は、土地利用の大部分を占める一般の土地所有者による利用が行われる深度に対して、十分な余裕を持った深度に処分することによって、人間と廃棄物の接触の可能性が小さくなるようにする必要がある。

  ② 処分深度の検討
 一般の土地所有者による地下利用の形態としては、地上の構築物を支持する基礎、地下室の建設の設置がある。このうち、高層建築物等の基礎については、これを支えることができる支持層が存在する深さによってその設置深度が定められる。地下室については現在例えば東京都における一般住宅を除いた地下室を持つ建築物の99%以上が地下3階までであり、最も深いものでも地下30m(国会図書館-地下8階)となっている。これらの地下利用の実態より、高層建築物の基礎が設置される支持層の上面又は地下室の深さに、これらの健全性を妨げないために必要な離隔距離(10m程度)を確保すれば、一般の土地所有者の利用を妨げることがないものと考えられる。また、地下鉄、上下水道などの公共、公益事業のために利用されている深度は、地表付近から順次利用が進んでいるが、大都市においても大部分は50m程度以浅である。このように、地下利用は深度に伴って急激に減少し、50m以深の利用は極めて少ない。従って、具体的な処分深度は立地場所の地質条件等により異なると考えられるが、現在の大都市における地下利用の状況を踏まえれば、支持層の上面よりも深く、これに基礎の健全性を妨げないための離隔距離を確保し、例えば50~100m程度の地下の深度に処分すれば、公共の地下利用を含め、人間と廃棄物の接触の可能性が小さくなると考えられる。
(添付-7)

 なお、大深度の地下利用についても現在検討が行われているが、将来、処分場跡地にこのような深度の地下利用を計画する場合があったとしても、通常、「立地条件調査」、「支障物件調査」、「地盤調査」等の様々な調査が事前に行われることから、処分施設の存在を含む地下の状況が十分認知されるものと考えられる(添付-8)。記録が散逸していた等の理由で処分場の存在が初期段階で認知されず、調査が進行し、処分場に到達するボーリング調査等が行われる可能性もあるが、ボーリングコア等を通じて人と廃棄物の接触が発生したとしても、過度の被ばくをもたらすことはないと考えられる。加えて、処分場に関する記録が適切に保存され、地下利用を企画する者がこれにアクセスできるようになっていれば、大規模な人間侵入に至る前に地下利用の計画が変更される、ないしは処分場の認知につながる適切な調査計画が立てられると考えられる。現在実施されている低レベル放射性廃棄物の処分については、事業者及び国(国の指定機関を含む。)において記録が保存され、事業者が300~400年後に管理を終了し廃棄物埋設事業を廃止する際に、事業者から国に記録が引き渡されることになっており、その後も、廃棄物埋設施設の所在地、放射性廃棄物の性状及び数量、含まれる放射性核種の濃度等に関する記録は、期限を切らずに保存されることになっている。これらの記録が適切に保存され利用されることは人間侵入を防ぐ上で有効であり、今後その保存と公開のあり方について検討を行うことが重要である。また、社会的に安心を得るという観点からも記録の保存は重要であると考えられる。

 この他に、地下資源を採取することを目的とした地下利用も考えられるが、予めこれらの地下資源が存在しない場所を処分場に選定することによって、このような地下利用による人間と廃棄物の接触を避けることができる。

 以上より、具体的な処分深度は立地場所の地質条件等により異なると考えられるが、地下資源の存在状況を考慮するとともに、支持層の上面よりも深く、基礎の健全性を妨げないための離隔距離を確保した、例えば50m~100m程度に埋設処分することにより、一般の土地所有者による利 用はもとより、公共の地下利用を想定しても人間と廃棄物が接触する可能性は非常に小さくなると考えられ、安全が確保できる見通しが得られると考えられる。
なお、このような処分深度を想定した処分概念に対し、どのような安全評価を行い、政令濃度上限値等についてどのような基準を適用すべきか等について、今後検討が必要である。

 (3) 処分施設概念
 前項の検討から想定される処分深度における施設形態としては、海外及び我が国の地下施設を参照すると、トンネル型あるいはサイロ型(円形立坑)のような地下空洞が考えられる。
(添付-9)

 トンネル型やサイロ型の地下空洞施設の技術的な成立性については、既に類似の施設が海外で施工されていることや、我が国においても地下水力発電所や大規模なトンネルが既に存在しており、設計及び施工上、問題はないと考えられる。
 なお、海外における放射性廃棄物の処分場として現在操業中で発電所廃棄物の処分を主なものとするスウェーデンのSFRやフィンランドのVJLは、60~100m程度の深度であり、スウェーデンではサイロ型とトンネル型、フィンランドではサイロ型が採用されている。
(添付-13)

 (4) 処分場の管理について
[処分場の操業形態]
 当該廃棄物を地下空洞(トンネル型あるいはサイロ型)に処分するに当たっては、接近坑道を掘削して地中に入り、作業坑道を掘削して建設の拠点となる空間を確保した上で、廃棄物を処分するトンネルやサイロ(以下、「処分空洞」)を掘削することになる。接近坑道や作業坑道は、処分を行うためのインフラ設備であり、処分量に応じて一定期間、継続使用されると考えられる。このため、処分空洞の建設、操業、埋め戻しは平行して実施され、接近坑道等が埋め戻されるのは、全ての処分空洞への廃棄体の定置・充填、埋め戻し等が終わった後になる。
(添付-10、12)

[管理の目的と項目]
 以上のような建設、廃棄体の定置・充填、埋め戻し作業等が行われる操業形態を前提とし、初期のβγ核種濃度が高いことを踏まえれば、以下のような管理を行うことにより、安全確保がなされるものと考えられる。
 なお、処分施設の建設においては、天然バリアの一部である周辺岩盤への影響も考慮した施工管理を行うことが必要である。
(a) 廃棄物の搬入に伴う管理
 初期のβγ核種の濃度が高い状態の廃棄体を扱うことになることから、廃棄体から直接γ線等による被ばくを低減するための管理を行うことが必要である。
(b) 廃棄物を定置中の処分空洞を対象とした管理
この段階では天然バリアの機能によらず、コンクリート等の人工構築物(人工バリア)により安全を確保することとなるので、人工バリアの健全性を確認する必要がある。
(c) 埋め戻しが完了した後の処分空洞を対象とした管理
人工バリアと天然バリアにより安全を確保する段階において、その機能が評価された ものと同等以上であることを確認する必要がある。
(d) 地下施設を埋め戻した後の管理
主に天然バリアにより安全を確保することとなるが、地下水監視孔等を用いた地下水の流動状況の観測と放射性物質の移行の監視は埋め戻し後も一定期間継続し、天然バリア機能の確認を行う。その後は、廃棄物への人間の直接の接近を禁止することを主体とした管理により安全が確保される。
(添付-11)

以上のように操業状態に応じた管理を終了した後は、処分場跡地の利用を開放することとなる。

3. まとめ
 (1) 「低レベル放射性廃棄物(現行の政令濃度上限値を超えるもの)」は、原子炉施設の運転・解体により発生し、主なものは燃料近傍にあり中性子照射による放射化等の程度が大きい使用済制御棒や炉内構造物等の放射化金属である。これらの廃棄物のβγ核種濃度は現行の政令濃度上限値を平均でおよそ1桁、最大で2桁上回るが、α核種濃度は政令濃度上限値を下回ると推定されており、主要な核種の種類は六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターで処分中あるいは処分を計画中の低レベル放射性廃棄物と特に異なるものではない。これらのことから、現行の低レベル放射性廃棄物処分で行われている安全確保の考え方(即ち、廃棄物中に含まれる放射性核種の濃度が時間とともに減少することを踏まえ、管理期間を設けて段階管理を行う)を参照しながら、処分の安全確保の見通しについて検討を行った。
 (2) 廃棄物の処分概念は、管理期間終了後の安全確保策に依存するため、まず、「埋設された廃棄物に含まれる放射性物質が地下水と共に生活圏へ移行することによる被ばく」と、「埋設された廃棄物に人間活動により人間が接近することによる被ばく」について、廃棄物のβγ核種の濃度が現行政令濃度上限値より高いことを踏まえて検討した。
 (2)-① 地下水移行による被ばくについては、現行の低レベル放射性廃棄物を処分する浅地中処分施設よりも放射性物質の生活圏への移行を抑制する機能を向上させる必要がある。このために、人工の難透水性材料等の強化や、埋設施設が設置される周辺の天然の土壌等に地下水流速の小さな地中を選ぶことにより、安全が確保される見通しがあると考えられる。
 (2)-② 埋設された廃棄物に人間活動により人間が接近することによる被ばくについては、今回の審議対象廃棄物が、現行政令濃度上限値を定めた浅地中処分施設に埋設した場合を想定すると、住居等を建設するために埋設廃棄体に到達するような掘削が行われた場合、管理を現在の低レベル放射性廃棄物と同様な程度の期間で終了することが困難であると考えられることから、一般の土地所有者による利用が行われる深度に十分な余裕を持った深度に処分することによって人間と廃棄物の接触の可能性が小さくなるようにする必要がある。現在の大都市における地下利用の状況を踏まえれば、支持層の上面よりも深く、基礎の健全性を妨げないための離隔距離を確保した、例えば50~100m程度の地下の深度に処分することによって、公共の地下利用を含めて、人間と廃棄物の接触の可能性が小さくなると考えられる。なお、将来この様な処分場を設置した地下を利用する計画が立てられた場合であっても、事前に様々な調査が行われることから、処分場の存在を含む地下の状況が十分に認知されると考えられる。また、地下資源が存在しない場所を処分場に選定することも重要である。加えて、処分場に関する記録が適切に保存され、地下利用を企画するものがこれにアクセスできるようになっていれば、大規模な人間侵入を防止する上で有効であり、300~400年後の管理期間終了時点以後も国に期限を切らずに保存されることになっている処分に関する記録の効果的な保存と公開のあり方について、今後検討していくことが重要である。
なお、この処分概念に対し、どのような安全評価を行い、政令濃度上限値等についてどのような基準を適用すべきか等について、今後検討が必要である。
 (3) 以上の深さに埋設する処分概念としては、トンネル型あるいはサイロ型のような地下空洞が考えられる。
 (4) 処分場の管理については、(a)廃棄物の搬入に伴う管理(廃棄体からの直接γ線による被ばくの低減)、(b)廃棄物を定置中の処分空洞を対象とした管理(巡視等による人工バリアの健全性確認)、(c)埋め戻しが完了した後の処分空洞を対象とした管理(処分空洞からの湧水等の監視によりバリアが計画段階で想定した機能を有していることを確認)、(d)地下施設を埋め戻した後の管理(廃棄物への人間の直接の管理を禁止するための立入り制限等)、といった段階的な管理を操業の進行に合わせて実施することにより、処分の安全を確保していくことが可能であると考えられる。