《原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画抜粋(原子力委員会 平成6年6月14日)》


 放射性同位元素等の使用施設等から発生する放射性廃棄物(RI廃棄物)の処分については、日本原子力研究所と廃棄事業者としてRI使用者等からRI廃棄物を譲渡され自ら保管廃棄している(社)日本アイソトープ協会等の主要な責任主体が協力して、実施スケジュール、実施体制、資金確保等について、早急に検討を始めることとします。国は、海洋投棄に替えて地中埋設を実施に移すための基本方針を策定し、「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」等関係法令の改正など、制度面での整備を行うなど、処分が適切かつ確実に実施されるよう措置することとします。処分については、比較的半減期の短いベータ・ガンマ核種が主要核種である廃棄物のうち、放射能レベルの比較的低いものは浅地中処分又は簡易な方法による浅地中処分を行うものとします。さらに、半減期が極めて短い核種のみを含むものについては、段階管理を伴わない簡易な方法による浅地中処分を行うこととします。今後、これらの具体的な方法を検討した上で、基準の整備等を図っていくこととします。アルファ核種のような長半減期核種が主要であるものについては、TRU核種を含む廃棄物及びウラン廃棄物を参考に処分を検討することとします。
研究所等廃棄物の処分については、直接の廃棄物発生者である日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団等の主要な機関が協力して、実施スケジュール、実施体制、資金の確保等について、早急に検討を進めることとします。




用語集


RI:
 放射性同位元素(Radioisotope)のこと。元素のうち原子番号が同じで原子核の質量数の異なるものを同位元素という。同位元素の中で放射性を有するものを放射性同位元素という。

RI廃棄物:
 放射性同位元素で汚染された放射性廃棄物。放射性同位元素を使用した施設、医療機関や医療検査機関等から発生する。主な発生形態は、注射器のようなプラスチック類やペーパータオル、手袋、試験管のようなものである。法律上は、「放射線障害防止法」、「医療法」、「薬事法」、「臨床検査技師法」により規制を受ける施設より発生した廃棄物を指す。

α核種:
 α線を放出する放射性核種。α核種から放出されるα線は、空気中を数cm程度しか飛ばないため、外部被ばくよりも、体内に摂取した場合の内部被ばくの影響が大きい。α核種のほとんどが、ウラン及びそれ以上の重さを持つ核種、またはそれらが順次壊れることによってできた核種であり、半減期が長いものが多い。α核種は、高レベル放射性廃棄物、TRU廃棄物、ウラン廃棄物に多く含まれ、半減期が長いことから、長期にわたる影響を考慮する必要がある。

ウラン廃棄物:
 原子力発電所で使用するウラン燃料の加工施設、濃縮施設等から発生する放射性廃棄物であり、ウランによって汚染された廃棄物(核燃料を再処理することにより取り出された回収ウランやウラン濃縮により発生する劣化ウランは含まれない。)。

核燃料サイクル:
 天然に存在するウラン資源等がウラン濃縮、加工等を経て核燃料として原子炉で利用されるまで、及び、核燃料として利用された使用済燃料からプルトニウム等を取り出し再び核燃料として利用する核燃料の一連の流れ。更には、各種放射性廃棄物が処理処分されるまでの全ての過程を統合した、ウラン資源等を有効に利用するための体系。

核燃料使用施設:
 精練、加工、濃縮、再処理の各事業及び原子炉の運転以外での目的で核燃料を使用する施設。

ガスクロマトグラフ:
 気体中の微量物質の分析に用いられる装置であり、一部の装置の検出器に密封されたRI(63Ni)を使用しているものがある。

加速器:
 電子、陽子等を電場により加速して運動エネルギーを与える装置。直線加速器、サイクロトロン等がある。核融合の研究、放射光の利用、種々の物性値の測定、放射性医薬品の製造、癌治療のための重粒子線治療等に用いられている。放射性廃棄物としては、加速された粒子線が当たるターゲット周辺、コリメーター(放射線を平行にし集束させるもので、鉛等)等が放射化したもの、大型の加速器においては発生する2次中性子により放射化したコンクリート等がある。

感染性廃棄物:
 医療機関・医療検査機関においては、治療・検査の目的のため患者に注射等を行うことがある。このため、血液の付着した脱脂綿、注射針等の廃棄物は、病原菌による2次汚染の恐れがあり、これらを感染性廃棄物としている。

研究所等廃棄物:
 原子炉等規制法による規制の下、試験研究炉等を設置した事業所並びに核燃料使用施設等を設置した事業所から発生する放射性廃棄物。試験研究炉の運転に伴い発生する放射性廃棄物は、原子力発電所から発生する液体や固体廃棄物と同様なものである。その他は、核燃料物質を用いた研究活動に伴って発生する雑固体廃棄物が主なものである。
 また、試験研究炉の運転、核燃料物質等の使用等を行っている研究所等においては、あせてRIが使用されることも多く、原子炉等規制法及び放射線障害防止法の双方の規制を受ける廃棄物も発生している。

コンクリートピット処分:
 浅地中処分形態の1つで、地表を掘削したのち、コンクリート製の箱を設置してその中に放射性廃棄体を定置し、モルタル等で充填するもの。原子炉等規制法においては、原子炉施設から発生する放射性廃棄体を対象として、処分場跡地に居住した場合等の評価シナリオを考慮した放射能濃度上限値が設定されている。

試験研究炉:
 試験研究炉は、研究所や大学等において、発電以外の目的で設置された原子炉。

浸出水:
 廃棄物を埋設した際に、処分場に雨水、地下水が流入して廃棄物と接触することによりしみ出してくる水。有機性の汚水等を含むため、一般・産業廃棄物の管理型処分場においては、ゴムシート等を設置するとともに浸出水の処理施設の設置が必要とされている。
 RI廃棄物については、1)事前の処理において有機物を十分に除去すること、2)廃棄物をセメント等で十分に固型化(将来的には溶融固化の導入についても検討を行う)することにより汚水の発生自体が非常に少ない廃棄体として処分を行うこと、3)処分場に粘土等の遮水機能を有し、雨水・地下水が流入し難い構造とすることにより浸出水の発生自体を少なくする処分場とすることとしている。

スケーリングファクター法:
 原子力発電所の運転により発生する放射性廃棄物には、63Ni等のように外部からの放射線測定が難しい放射性核種が含まれており、このような放射性核種の放射能濃度を評価する手法の1つ。廃棄体の母集団から代表サンプルより分析用試料を採取し、放射化学分析を行い、指標となる外部からの放射線測定が可能な60Co等のKey核種と難測定核種の相関関係を評価して、この結果を用いて個々の廃棄体の非破壊外部測定によるKey核種の測定結果を組み合わせて、難測定核種の放射能濃度を評価する手法。

素堀り処分:
 コンクリートピット等の人工バリアを設けず、素堀りの溝状等の空間に廃棄体を定置して埋設する処分方法。原子炉等規制法においては、原子炉施設から発生するコンクリート等の放射性廃棄物を対象として処分場跡地の掘り返しや跡地に居住した場合等の評価シナリオを考慮し、素堀り処分が可能な放射能濃度上限値が規定されている。

セメント固化:
 廃棄物を固型化する方法として、セメントを固型化材料として用いる方法。

TRU核種(Transuranium)を含む放射性廃棄物:
 再処理施設及びMOX燃料加工施設から発生する低レベル放射性廃棄物で、ウランより原子番号の大きい人工放射性核種(TRU核種)を含む廃棄物。

トレーサー:
 ある対象の挙動または分布を知るために外部から加えて目印とする物質。対象元素と同じ化学的性質を持つものが用いられ、本報告では、放射性同位元素を用いた場合を指す。

密封線源:
 ガンマ線の照射用や放射線測定器の校正用標準物質として、一定量の放射性物質を金属容器等に封入したもの。代表的な密封線源としては、癌の治療に用いる60Coの密封線源が挙げられる。用途により含有される放射能は大きく異なり、密封線源1つで約1012Bqに達するものから、192Irのように107Bq程度のものまである。

半減期:
 放射能の量が半分になるまでの時間は放射性核種によって定まっており、それらを半減期と呼ぶ。半減期は、放射性核種によって数十億年以上といった長いものから、百万分の1秒以下の短いものまで種々ある。

非破壊検査:
 検査する物質の内部を壊すことなく外部から検査する方法。密封線源を用いて航空機のエンジン内部や工業プラントの溶接部分の検査等に使用される。

βγ核種:
 β線及びγ線またはそのいずれかを放出する放射性核種。低レベル放射性廃棄物の放射性物質の大部分はβγ核種であり、比較的短い半減期を持つ核種が多い。

放射性医薬品: 
 医薬品のうち、放射性同位元素を添加したもの。体内に注射を行うことにより癌等の検査を行うものや、採取した血液の検査に使用されるもの等がある。半減期が1日から数十日以内の短半減期の放射性同位元素を使用したものが多い。ポジトロン断層診断(PET)に使用される放射性同位元素のように、半減期が短いために、病院又はその近郊に設置された加速器で生産され、すぐに使用されるものもある。

放射能:
 不安定な原子核が壊れて別の原子核になるときに放射線を出す性質を放射能という。放射性同位元素を電灯にたとえれば、放射線は光線に相当し、放射能は電灯が持っている光線を出す能力あるいは性質にたとえることができる。
 放射能は、単位時間あたりに原子核が壊れる回数で表される(1秒間に1つの原子核が壊れる放射能の強さを1Bqと呼ぶ)。

ポジトロン断層診断(PET):
 陽電子(ポジトロン)を放出する放射性核種11C等を用いた標識試薬を体内に注射して、体内から放出される放射線を測定して人体内の機能を調べる手法。

溶融固化処理:
 金属などの雑固体又は焼却灰に電気等により熱をかけて廃棄物を一旦溶かして固型化する方法。廃棄物の減容比が大きいこと、処理後の固化体の安定性が高いこと等の特徴がある。