資料(専)11-5


放射能濃度の高い低レベル放射性廃棄物分科会(仮称)
の名称について(案)




平成9年7月25日





1.第10回原子力バックエンド対策専門部会での審議について

 標記専門部会においては、分科会の名称について各委員より以下のような意見が述べられた。

 1)表現が分かり難い:
  「放射能濃度が高い」ことと「低レベル」であることが入り組んだ表現であり、わかりにくい。

 2)対象物をはっきりさせるべき:
  「放射能濃度の高い炉内構造物等」
  「炉内構造物等低レベル放射性廃棄物」

 3)放射能濃度が高いことを強調すべき:
  「低レベル放射性廃棄物」は分かり難い。濃度が高いことを強調すべき

 4)諸外国の例も参考とすべき:
   諸外国においては、「中レベル廃棄物」等の名称も用いられている。

 また、部会長からは、「他の廃棄物との整合性」、「これまでの原子力委員会等での取り扱い」についても配慮した上で、今後分科会において検討し、専門部会に報告することが指示された。
 本資料は、これに基づき、放射能濃度の高い低レベル放射性廃棄物分科会(仮称)において分科会名称について検討した結果をまとめたものである。


2.平成6年の「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(原子力長計)における廃棄物の分類と名称

 平成6年の原子力長計においては、放射性廃棄物は、再処理施設において使用済燃料からプルトニウム及びウランを分離した後の廃液及びそれを固化した高レベル放射性廃棄物と、その他の各低レベル放射性廃棄物とに分類されている。この分類は各放射性廃棄物の発生源に基づくものであり、発生源と廃棄物の特徴を考慮してそれぞれの名称が付けられている(図1,表1参照)。
 これらのうち、低レベル放射性廃棄物は放射能濃度等によって処分方策が異なることから、低レベル放射性廃棄物に属する各廃棄物は、それぞれ更に表2のように分類されている。

このように、原子力長計における放射性廃棄物の分類としては、
 ○ 発生源による分類を基本とする。
 ○ 低レベル放射性廃棄物については各廃棄物を放射能濃度の高低により分類する。

との考え方で行われている。

3.過去の原子力委員会等での名称

 当該廃棄物については、これまで次のような名称が用いられた。

  ○ 原子力委員会 放射性廃棄物対策専門部会報告(昭和60年)
    ベータ・ガンマ核種濃度がかなり高い低レベル放射性廃棄物

  ○ 総合エネルギー調査会 原子力部会報告書(平成9年)
    コンクリートピット埋設施設の濃度上限値を超える放射性廃棄物
    (高βγ低レベル放射性廃棄物)

4.諸外国での事例

1)IAEAで検討された事例

 IAEAのレポートで定義された主な事例としては、Safety Series No.54(1981)、IAEA-TEC DOC-447(1988)が挙げられる。これらに定義されたものを表3に示す。低レベルと中レベルの区分としては、主に遮蔽の必要性等によるものである。

2)諸外国で用いられている事例  諸外国においては、放射性廃棄物について「低レベル/中レベル/高レベル」、「カテゴリーA/カテゴリーB」等、表4及び表5にまとめたような種々の分類がなされている。分類の基準としては、

  ○ 放射能濃度
  ○ 発熱性を考慮することの必要性の有無
  ○ 遮蔽の必要の有無

等が用いられている。
 本分科会の検討対象である、炉内構造物等の放射能濃度の高い低レベル放射性廃棄物は、イギリスやフィンランドでは「中レベル」、ベルギーやフランスでは「カテゴリーA」に分類されているが、国際的には必ずしも統一的かつ具体的な基準による使い分けはなされていない。また、放射性廃棄物の個別の性状を表した名称が用いられた例は見あたらない。

5.まとめ

 本分科会の名称の付け方については、原子力バックエンド対策専門部会における各委員の御意見や諸外国での事例から、表6のように整理することができる。
 今回検討の対象としている廃棄物は、原子力長計で分類されている廃棄物のうち、発電所廃棄物、研究所等廃棄物、RI廃棄物にまたがるものであり、更にこれらの廃棄物のうち、放射能濃度が高く、現在の浅地中処分の対象とされていない廃棄物である。
 従って、本分科会の名称としては、当該廃棄物が原子力長計において低レベル放射性廃棄物に分類されており、かつ放射能濃度が高いことを明確にする表現とすることが適当である。
 なお、諸外国で一部用いられている「中レベル放射性廃棄物」の名称については、統一的な定義があるわけではなく、廃棄物取り扱い時の遮蔽の必要性等の我が国と異なる観点からの区分もなされており、我が国における名称としてはなじまないと考えられる。

 以上の点を踏まえれば、本分科会の名称としては、次のような案を挙げることができる。

・ 放射能濃度の高い低レベル放射性廃棄物分科会 (当初事務局案)
・ 放射能濃度の比較的高い低レベル放射性廃棄物分科会
・ 低レベル放射性廃棄物のうち放射能濃度の高い廃棄物分科会
・ 低レベル放射性廃棄物のうち放射能濃度の比較的高い廃棄物分科会
・ 低レベル放射性廃棄物のうちβγ核種濃度の高い廃棄物分科会
・ 低レベル放射性廃棄物(βγ核種濃度の高いもの)分科会
・ 高βγ低レベル放射性廃棄物分科会

 このうち、
  ○ 表現のわかりにくさを極力少なくする、

  ○ 当該廃棄物が、アルファ核種濃度は低く、ベータ・ガンマ核種濃度が高いものであることを明確に示す、

ものとしては、次の二案が適当ではないかと考えられる。

・ 低レベル放射性廃棄物(βγ核種濃度の高いもの)分科会

・ 低レベル放射性廃棄物のうちβγ核種濃度の高い廃棄物分科会





表1 原子力長計上の放射性廃棄物の分類

高レベル放射性廃棄物│再処理施設において使用済燃料から分離されるもの
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 │TRU核種を含む│再処理施設及びMOX燃料加工施設から発生するもの
低│放射性廃棄物  │            
レ├────────┼────────────────────────
ベ│発電所廃棄物  │原子力発電所等から発生するもの
ル├────────┼────────────────────────
放│ウラン廃棄物  │ウラン燃料加工施設及びウラン濃縮施設等から発生す
射│        │るもの
性├────────┼────────────────────────
廃│研究所等廃棄物 │核燃料物質使用施設、試験研究炉を設置した施設等か
棄│        │ら発生するもの
物├────────┼────────────────────────
 │RI廃棄物   │放射性同位元素等の使用施設等より発生するもの




表2 低レベル放射性廃棄物の分類

低レベル放射性廃棄物の区分│ 放射能濃度における分類
─────────────┼─────────────────────
             │・全アルファ核種の放射能濃度が区分目安値
             │ (約1ギガベクレル/トン)より低いものと
TRU核種を含む放射性廃棄│ 高いものに区分
物            │ - アルファ核種の放射能濃度が区分目安値
             │  よりも低く、かつベータ・ガンマ核種の放
             │  射能濃度も比較的低いもの
             │ - 放射能濃度の極めて低い廃棄物
─────────────┼─────────────────────
発電所廃棄物       │・放射能レベルの比較的高いもの
研究所等廃棄物      │・放射能レベルの比較的低いもの
RI廃棄物        │・放射能レベルが極めて低い廃棄物
─────────────┼─────────────────────
ウラン廃棄物       │・ウラン濃度が比較的低い廃棄物
             │・ウラン濃度が比較的高い廃棄物


表3 IAEAでの事例

廃棄物の種類    │Safety Series No.54(1981)│IAEA-TEC DOC-447(1988)
──────────┼─────────────┼─────────────
低レベル放射性廃棄物│放射性核種の含有量が低く、│放射性核種含有量が少ないた
          │ハンドリング、輸送時には遮│めに、普通の取扱いと輸送に
          │蔽の必要がない。     │は遮蔽を必要としない廃棄物
──────────┼─────────────┼─────────────
中レベル放射性廃棄物│放射性核種の含有量は多いが│高レベル放射性廃棄物よりは
          │ハンドリング、輸送時に遮蔽│放射能及び発熱が低いが、ハ
          │が必要であるが熱の影響を考│ンドリングや輸送においては
          │慮しなくて良い。     │遮蔽が必要な放射性廃棄物。
          │             │この用語は、一般に高レベル
          │             │でも低レベルでも定義できな
          │             │い全ての廃棄物を呼ぶ際に用
          │             │いられる。


表4 諸外国における廃棄物区分の事例(1)
国   名 │      廃   棄   物   区   分
──────┼───────────────────────────────
イギリス  │低レベル:βγ核種濃度12GBq/t以下、αは4GBq/t以下      
      │中レベル:低レベルの濃度を超え、処分に際して発熱性を考慮しなく
      │     てよい廃棄物
      │高レベル:処分に際して発熱の考慮が必要
──────┼───────────────────────────────
ベルギー  │カテゴリーA:半減期30年以下のβγ核種が主要なもの
      │     原子力発電所、再処理施設、研究施設の運転・解体時に発生
      │カテゴリーB:半減期30年以上のβγ核種及びα核種を含むもの
      │      再処理及び解体に伴う廃棄物であり、地層処分対象
──────┼───────────────────────────────
フランス  │カテゴリーA:半減期30年以下のβγ核種が主要なもの
      │     (α≦0.37GBq/t)
      │カテゴリーB:半減期30年以上の放射性核種を多量に含む放射性廃棄物
      │    (TRU廃棄物等)
──────┼───────────────────────────────
スペイン  │レベル1:全α核種濃度<0.185GBq/t
      │     半減期5年以上のβγ核種濃度<74GBq/t
      │     3Hを除く半減期5年未満のβγ核種濃度<18.5GBq/t
      │     3H<7.4GBq/t
      │レベル2:全α核種濃度<3.7GBq/t
      │     Co-60 <370GBq/t
      │     Sr-90 <370GBq/t
      │     Cs-137<370GBq/t
──────┼───────────────────────────────
フィンランド│低レベル:特別な遮蔽を必要とせず、発電所で処理できる放射能レベ
      │     ルの低い廃棄物。放射能量は、1GBq/tを超えない。
      │中レベル:低レベル,高レベルに属さない廃棄物
      │高レベル:輸送及び処理に特別な遮蔽を必要とする、放射能レベルの
      │     高い廃棄物。放射能は少なくとも、1017Bq/t以上。
──────┼───────────────────────────────
ドイツ   │s1:≦4GBq/m3  s2:>4〜40GBq/m3  s3:>40〜400GBq/m3
      │s4:>400〜4000GBq/m3   s5:>4000〜40000GBq/m3
      │低レベル:s1、s2、s3(αは0.4GBq/m3に制限)
      │中レベル:s4、s5    (αは0.4GBq/m3に制限)
──────┼───────────────────────────────
スウェーデン│処分場施設を SFR1、SFR2、SFR3、SFL2、SFL3、SFL4、SFL5 に分けて
      │処分を行う。
      │ SFR:主に原子力発電所で発生する低中レベルの放射性廃棄物
      │ SFL:長寿命放射性核種の放射性廃棄物
──────┼───────────────────────────────
米国    │短寿命核種によって決められる分類においては、
      │137Csの例  クラスA:1Ci/m3未満、クラスB:1〜44Ci/m3
      │      クラスC:44〜4600Ci/m3


表5 諸外国における廃棄物区分の事例(2)

      │     放射能濃度の高い     |     TRU核種を含む     
      │     低レベル放射性廃棄物   |     放射性廃棄物       
 国 名  ├−−−−−−−−−−−−−−−−−−|−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      │炉内構造物 イオン交換樹脂  線源 |  ハル・エンドピース  濃縮廃液 
──────┼──────────────────|────────────────  
イギリス  │中レベル  中レベル   中レベル    中レベル     中レベル  
      │                                    
      │                                    
ベルギー  │カテゴリーA   カテゴリーA   カテゴリーA    カテゴリーB     カテゴリーB
      │                                    
      │                                    
フランス  │カテゴリーA   カテゴリーA   カテゴリーA    カテゴリーB     カテゴリーB
      │                                     
      │                                     
スペイン  │レベル2    レベル2    レベル2         
      │        
      │        
フィンランド│中レベル   中レベル    中レベル      中レベル     中レベル
      │                                     
      │                       
ドイツ   │s5    s5     s5       発熱性として    s5
      │                      別途分類
      │                                   
スウェーデン│未定    SFR             
      │                                   
      │                                   
スイス   │低中レベル  低中レベル   低中レベル     長半減期      長半減期
      │                      中レベル      中レベル
      │                              
米国    │クラスC    クラスC     クラスC       商用TRU       商用TRU
      │


表6 分科会名称についての考察

   名称の付け方   │        考     察       │評価
────────────┼──────────────────────┼──
廃棄物となるものの名称 │・今後発生する多種多様な廃棄物について対応 │ ×
 例)炉内構造物廃棄物 │ させることは困難。            │  
 など         │・当該廃棄物は、炉内構造物のみならず、運転中│  
            │ に発生する制御棒等も多く発生しており、必ず│  
            │ しも代表的な名称とはいえない。      │  
────────────┼──────────────────────┼──
処分概念の名称     │・処分概念については、今後検討するものである│ ×
 例)浅地中処分廃棄物 │ ため、処分概念を前面に出した名称は付けられ│  
   など       │ ない。                  │  
────────────┼──────────────────────┼──
分類番号等による名称  │・米国等で用いられているが、単純な記号化では│ △
 例)クラスA、B、C  │ 廃棄物の内容がわからないため、一般の理解が│  
   第1種、第2種など│ 得にくくなる。              │  
            │・政令等での区分は、本方式の方がわかりやすい。│  
────────────┼──────────────────────┼──
レベル別名称      │・現行の放射性廃棄物の名称を引継ぎつつ、今後│ ○
 例)低レベル放射性  │ 発生する廃棄物にも対応することが可能   │  
   廃棄物など    │                      │